「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」 作:サイキライカ
色々ありましたが少しずつ更新頻度を戻していきたいです
永きに続く流血の歴史により、現代の混沌を体現していたエルサレムの地は、現在の混迷を来す世界の中で最も安定していた。
というのも、曹操の身体を用いて復活した聖書の神がこの地に『方舟』を顕現させ、命の書に名を連ねた者を集め始めたからだ。
そのためエクソシストを始めとする教会戦力は総力を挙げて周辺各国の紛争を鎮圧。
これ以上の混迷は御免だと声高に批判する現地住民や来る終末に恐慌し武力に訴える過激派、そして黙示録を阻もうと聖書に仇為す者を聖書関係者達は悉くを排斥した結果、エルサレム近辺に限っては非常に治安が安定したのだ。
しかしそれは黙示録を前提とした砂上の楼閣。
彼等がやったことは燻り続ける火種を枯れ山に放逐するに等しい所業であり、それすら終末で洗い流されると安く擲った暴挙。
もしも終末が正しく成されなければ、その対価は永劫に等しい借金となって彼等に振り掛かるだろう。
しかしそれは未だ未来の話。
そしてそれは彼女の預かり知らぬ話だ。
白音は圏境で悪魔の氣を隠し、巡礼者を偽って市街に潜り込むことに成功した。
しかしいざ事を起こすという段階に至って足踏みをする羽目となっていた。
というのも、白音の思惑自体が乗り込めばどうにかなる筈という甘いものであり、入念な下調べもなく踏み込んだ聖地には聖書の神の氣が満ちており、悪魔の身である白音の力は半減させられていた。
しかしそれでも感嘆すべき状態なのだ。
下級はおろか最上級悪魔であっても、今の聖地に踏み込めばそれだけでただの人間以下にまで弱体する程に強固な結界が張られている。
しかし白音は悪魔の気配を隠すために氣を全身に纏わせていたため、本来なら消滅必至のところを半減程度で収まっているのだ。
氣を探知し人気のない場所に潜り込んだ白音はまごつく己に怒りを覚える。
(早くしないと舞沢さんが来てしまう。
その前に何としてでも四騎士を討たなきゃ…)
白音自身己が聖書の神を討てるとは最初から考えていない。
故に白音は四騎士に狙いを定めていた。
(勝利の上に勝利を重ねる第一の騎士。
戦争を引き起こす第二の騎士。
疫病と獣を従える第四の騎士)
そのどれもが危険極まる存在だが、何より第一の騎士を白音は最優先の目標としていた。
その理由は、舞沢が降した第三の騎士を加えた四騎士の中で、ただ一騎、その権能がはっきりと解らないことが理由だ。
(『勝利』の上に『勝利』を重ねる。
何を指して勝利というのか解らないからこそ、討つべきは第一の騎士)
しかしその騎士がエルサレムの何処に居るかまでは知ることが叶わず手をこまねいていた。
(せめて居場所さえ判明してくれれば…)
焦る気持ちを抑えていた白音は、自分の隠れている建物へと向かう氣を探知した。
(気付かれた?)
もしそうならば非常に宜しくないと白音は窓から身を乗りだし一息に壁を伝い屋上へと移動した。
そうして氣の正体を確かめた白音は意外な光景に驚いた。
「匙先輩?」
そこには銛のような三叉の槍を担いでエクソシストから逃げている匙元士郎の姿があった。
「穢らわしい悪魔が!!
どうやって忍び込んだかも含め全て吐いて貰う!!」
「死んで溜まるかあ!!」
凄まじい形相のエクソシストの集団から必死に逃げる匙の姿に助けようと思うも、それは自身の首を絞める行為だと踏み留まる。
「……」
しかしあのままでは何れ匙は捕まり殺されてしまうだろう。
リスクとの天秤に揺れる白音は、しかしすぐに追い詰められた匙の姿にフードを目深に被り屋上から飛び出した。
「クソッ!!」
袋小路へと追い込まれた匙は意を決して三叉の銛を構える。
「観念しろ悪魔め!!」
光銃を突きつけるエクソシストの怒号に匙は必死に銛を突き出す。
「会長のためにも死ねないんだ!!」
がむしゃらに突き出された銛だが、しかし精鋭たるエクソシストに通じるわけもなくあっさりと往なされカウンターで膝を腹に打ち込まれた。
「ごげぇっ」
衝撃で反吐を撒き散らしながら蹲る匙の腹をエクソシストは更に踏みつける。
「くたばれ悪魔」
がちがちと歯を震わせる匙に見せつけるようにゆっくりと引き金を絞る指。
しかしそれは背後で響いた殴打音に遮られた。
「何!?」
慌ててそちらを見れば、目深に被ったフードで顔を隠した白音の襲撃を受け壁にめり込んだ仲間の姿があった。
「貴様、悪魔を庇いだてするつもりか!!」
怒声と共に光銃を向けるエクソシストだが、まるで蛇のように滑らかな軌道でするりと懐に潜り込んだ白音の繰り出した五指を畳んだ圧拳を鳩尾に突き込まれ、そのまま膝から崩れ落ちる。
「お前は……」
「話は後」
目を見開く匙の腕を掴み、白音は足首の可動だけで地を蹴りそのまま三角跳びで裏路地を抜ける。
「うわあああああ!?」
「口閉じないと舌噛みますよ」
そう忠告した直後あがっ!と悲鳴が上がり静かになる匙に、手遅れだったかと白音は静かに黙祷しながら安全圏へと離脱した。
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白音が離脱したすぐ後、必死で立ち上がったエクソシストは壮絶な顔で気炎を吐いた。
「主の意向に逆らう愚図共がぁ!!」
敬虔な信徒にして、悪魔と手を組もうとして失落した天使に代わり神の審判の代行を担っていると自負していたエクソシストは、悪魔を庇いだてした白音を何としてでも裁くべしと憎悪をたぎらせ息巻いていた。
すぐさま戦力をかき集めんと、先ずは壁に叩きつけられた仲間を引き剥がそうと痛む身体を圧して立ち上がったが、しかしその姿に息を呑む。
倒れた仲間はその首をへし折られ苦悶を刻んで事切れていた。
「誰が!?」
螺切らん勢いで捻られた形跡から壁に打ち付けられた際のものではない。
他に仲間が居たのかと周囲を見回すも、路地の中に気配はない。
仲間を追って逃げた?
否。
であるなら自分を生かしておくことに益はない。
と、不意に己の腹に棒の先端を突きつけたような軽い衝撃がはしる。
ボッ!!
直後、くぐもった発砲音と共に正面からトラックに跳ねられたような表現のしようもない衝撃が腹部を貫き、エクソシストの体が僅かに吹き飛ぶ。
もんどり打ち地面に叩き付けられ、自分が撃たれたのだと理解したのを最後にエクソシストは意識を闇に落とした。
エクソシストの作った血溜まりに路地裏から出る方向に足跡が生まれ、血の足跡を刻むもそれも数歩で消え去り路地裏に静寂が訪れた。
ちなみに匙君の役割は今のところエディーです。
死んだらソーナがポセイドンにれいぽぉされます。