「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」 作:サイキライカ
翌日、セラフォルーはアザゼルと共に裏京都の中枢へと赴いていた。
「魔王セラフォルー・レヴァイアタン殿、堕天使総督アザゼル殿。
ようこそお出でくださいました」
本来の
しかしそれも、今回で裏京都との協力体制が結べれば今後の展開は良い方向に影響を及ぼすだろうと二人は考えていた。
その影響は日本の妖怪勢力全体に伝播し延いては日本神話とも、更には日本神話とも強い繋がりがある仏教、道教とも正式な交渉の場を結べるだろうと胸算用まで考えていた。
狐の面を着けた侍女に連れられ二人が辿り着くと、そこには八坂は居らず、代わりに日本人形のような黒髪の妖狐が座していた。
「お初にお目ぇにかかりますぅ。
本日は裏京都総大将八坂に代わりぃ、うちこと『葛(かずら)』がお相手しますぅ」
四つ指を着いてまるでお手本のようなお辞儀をする葛と名乗る妖狐。
「よろしくね葛ちゃん☆」
そう気軽に言うセラフォルーに対し、アザゼルは背筋を這うような悪寒を感じていた。
(なんだこいつの目は?)
葛はおよそ日本人の美を寄り集め形にしたような美人だが、しかしその目の奥は深淵でも流し込んだような漆黒が宿っていた。
「如何したんどすぅ?」
「っ!?」
顔を上げ不思議そうに小首を傾げる葛にアザゼルははっと咳払いを払う。
「いや、総大将はどうしたのかと気になってな」
「ああ」
得心したと葛はきゅうと笑う。
「実はぁ、先日『英雄派』等と嘯くぅ
「英雄派?
『禍の団』か!?」
知らぬところで協議を潰されかけていたことに緊張を走らせるセラフォルーとアザゼル。
しかし葛はクスクスとそれを笑い飛ばした。
「そやかもしれへぇんけどぉ、そいつらぁもういてもうたりましたしぃ、なぁんも心配あらへんでぇ」
「倒した?
裏京都単独でか?」
『英雄派』がどのような構成かは分からないが、だとすればなおのこと彼等との協力体制を取りたいと思った。
しかし葛はいんやぁとやんわり否定する。
「丁度旅の仙人はんが要らしてなぁ、そいつらみぃんなお弟子はんとぉお二人で吹っ飛ばしてしまいましたんや」
「仙人?」
「ええ。
李書文いう仙人どすぅ」
その名前に二人は絶句する。
李書文。
近年にして仙人へと至った大陸屈指の拳法家であり、眷属に加えようとした貴族悪魔を幾多血祭りに上げるばかりか、その強さから神滅具使いではないかと危惧した堕天使を残らず返り討ちにし、人類の盾にと恭順を迫った上級天使でも歯牙にさえ掛けられず八つ裂きにされ、かのヴァスコ・ストラーダさえ「あの戦士は次元が違う」と接触を断固拒否した
そんな
「なぁんやえらい恐ろしゅうもんみたいにしてはりますけどぉ、あの方はぁそないに恐がらずぅとも心配しはる必要あれへんでぇ?」
「いや、しかし、」
その危険性をどう伝えればと吃るアザゼルをセラフォルーはまあまあと嗜める。
「アザゼルちゃんアザゼルちゃん。
とにかく今はお仕事を先しましょ☆」
「お仕事ぉ?」
セラフォルーの言葉に葛は再び小首を傾げる。
「なんや? 裏京都のぉ観光の手続きぃとちゃいますんかぁ?」
「違うわよ☆
私達、裏京都と対『禍の団』で協力体制を結ぶために来たのよ☆」
惚けた様子の葛に交渉か素か判断しかね、セラフォルーは単刀直入に用向きを切り出す。
「『禍の団』との協力体制ぇ?」
そう言うと葛はああとポンと手を叩く。
「それやったらもぉ此方は決まっとりやすぅ」
そう葛はにちゃりと嗤う。
「京都はぁ、裏も表ぇもあんさんらに何ひとつぅ手ぇは貸さんよ」
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京都二日目、銀閣寺から金閣寺を回る一誠達は純粋に京都を楽しんでいた。
と、渡月橋に差し掛かった所で松田がそれに気付く。
「おお! 可愛い子…って」
「どれどれ…マジかよ」
「…嘘」
松田の声に元浜と桐生が見たのは橋の反対側から歩いてくる白音の姿であった。
「小猫ちゃん……なのか?」
一誠が戸惑うのも無理はない。
三ヶ月前は140㎝に届かない小柄な少女だったが、現在はその身長を大きく伸ばし一見しただけでも160㎝は優に越えていた。
更にその身に纏うのは生成色の胴衣に黒の股下と拳法家のような身成をしていた。
顔立ちもかなり大人びており、更には特長的だった雪のような白い髪を伸びたのを後ろで纏めていたため、一誠は三ヶ月前に行方不明となった塔城小猫と目の前の白音が同一人物なのだと納得できなかった。
「今まで何処に行ってたんだよ?
部長や皆心配してたんだぞ」
戸惑いながらも再会に喜び近寄る一誠達だが、白音は何の感情も見せず黙り続ける。
そうして一誠が5メートル程の距離まで近付いた時、白音はポツリと溢した。
「不思議ですね」
「え?」
「さっきまであんなに昂っていたのに、いざ目の前に来てみたらなんとも思えませんでした」
まるで一誠を路傍の石ころでも見ているかのような無関心さでそうごちる白音。
「小猫ちゃん?」
言っていることが、何よりどうしてそんな目を向けるのか分からず戸惑う一誠に対し、白音はまあ良いですと呟いた。
「どちらであっても、殺ることは変わりません」
次の瞬間、白音の身が滑るように一誠の懐へと潜り込み。
「先生なら、これで終いにするんでしょうね」
橋板を踏み抜かぬよう手加減した震脚を踏んで、一誠の水月に掌打を打ち込んだ。
本日のメニュー
『食前酒』
裏京都会談~上げて落とす~
『オードブル』
白音の姿見公開のワンパン添え
因みに葛の外見はうしおととらの十和子をイメージしてもらえれば。
勿論藤田氏の