「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」 作:サイキライカ
終わりの話をしよう。
世界は終わった。
少なくとも、リアス・グレモリーにとって世界は終わったのだ。
修学旅行に出たアーシア・アルジェント、ゼノヴィアの死。
更に同地にて神滅具の暴走により不死身の異形と化した兵藤一誠が次元の狭間へと放逐された事実はリアスをこれでもかと打ちのめし絶望の縁へと叩き落とした。
それだけに留まらず、地上に出払っていたために難を逃れたアジュカ・ベルゼブブと幾ばくかの悪魔達を除いた全ての悪魔が忽然と冥界ごと消え去ったのだ。
愛情を注いだ下僕と帰るべき地を一気に失ったリアスの喪失感は凄まじく、一時は記憶喪失にさえなってしまったほど。
しかしリアス・グレモリーの
さして間を置かず、図らずも最後の魔王となったアジュカが殺されたのだ。
下手人は不明。
犯人どころか如何なる手段を用いたかさえ分からぬまま、仰ぐべき魔王を全て失った悪魔達は今度はサーゼスクの妹であるリアスを神輿に持ち上げたのだ。
たかだか18年しか生きていないリアスを主上とするのは無謀だという声も無くは無かったが、それ以上に悪魔達は、何よりリアス自身が視野狭窄に陥っており、辛うじて他の者より状況が見えていたソーナを含む現実を見据えている者たちの説得にも耳を貸すことはなく、リアスは持ち上げられるままに新たな魔王を名乗った。
そうして魔王を名乗ったリアスは、とある妖怪からの転生悪魔により冥界を消し去った真犯人を聞かされた。
その悪魔は言った。
犯人は『禍の団』の協力者である日本神話であると。
最初こそ日本神話にそれ程の事が可能なのかと疑いの感情を抱いたリアスであるが、転生悪魔はこう嘯いた。
日本神話は密かに聖書の神が封印したトライヘキサを手に入れ、その力を天界と冥界の双方へと差し向けたのだと。
そうして転生悪魔はこうも嘯いた。
日本神話は悪魔に奪われた土地を取り返すために機を伺い、そうしてリアスの眷属を殺し赤龍帝を狂わせたのだと。
愛情深いグレモリーであるリアスはその言葉に激怒し、転生悪魔の言うまま日本神話への反攻を決意した。
その転生悪魔の影に本体にはない臀部から伸びる9つの尾が揺らいでいることに気付かないまま。
リアスは周りの反対を押し切り、尚も食い下がるものは『滅びの魔力』を奮って魔王らしく力尽くで黙らせ日本神話への宣戦布告を行った。
それこそが本当の破滅の始まりだった。
リアスは残る悪魔と共に日本各地の神社を攻撃した。
社を焼き、神体を破壊して感情の赴くまま日本神話の象徴を破壊したのだ。
それに対し、日本神話は動かなかった。
否、
何故なら日本神話を攻撃するということは、即ち『日本』を敵に回すということ。
それは虎の尾を踏むどころか、龍の逆鱗を剥ぎ取るのも同じ蛮行。
リアスの行動に対し日本神話が動くより先に日本の貴重な文化財産を破壊された政府がなぜこんな真似をしたのか、今すぐ止めるよう話合いに動いた。
政府に対しリアスは言った。
「貴方達には関係ない。
これは日本神話と我々悪魔との問題だ」
そして今日までの行いを仔細に渡り開示し、自分達がいかに正しく、そしてこの国を守ってきたかを洗いざらい語った。
その答えに政府は、キレた。
「ふざけるな」
「日本が悪魔の領地?」
「種の存続のために人間を悪魔にしていた?」
「逆らった者ははぐれ悪魔になって人間を殺していた?」
「ふざけるな!!」
リアスの主張は足並みが揃わないことで有名な政府を与党野党政治屋売国奴一切を異口同音にブチギレさせて釣りを出すに足るものだった。
そして政府の怒りは国民にまで波及し、合わせて赫怒の怒号を響かせた。
リアスは知らなかった。
人間は、こと『日本人』は超えてはならない一線を超えた相手に対し、悪魔よりなお悪辣極まる悪意の塊となることを。
怒りは国を走り神が動くまでもなく疾走した。
そうなって最初に犠牲者となったのは駒王町であった。
駒王町は炎に包まれた。
犯人ははぐれ悪魔により家族を殺された駒王町に住む者であった。
悪魔の支配する地を炎で禊ぐと、同じように悪魔により親族を奪われた者が結託し町ごと燃やしたのだ。
避難勧告などありはしない。
住人の誰が悪魔になっているか分からないなら全員燃やせと住民ごと焼き払われた。
その凶行に呆然とするリアス達に5大宗家を筆頭とする陰陽師に高野山や比叡山を始めとした仏教僧に加え、個人で拝み屋を営んでいたあらゆる退魔に携わる人間が一斉に襲い掛かった。
一人一人は悪魔の敵ではない。
しかし全国から悪魔を狩らんと数千人が列を成し昼となく夜となく行き着く暇さえ与えぬとどちらかが滅ぶまで終わらない徹底的な殲滅戦を仕掛けたのだ。
そこに加え政府から許可を下ろさせた完全武装の自衛隊が戦闘車両を率いて同じく用意できるだけの銃火器を持ち出した警察官と共に続く。
終わりの見えない人間との戦いに流石に疲弊を始めたリアス達に、更に予想外の敵の援軍が襲い掛かる。
それは一目で八十を超えていると見て取れる老人たちであった。
彼等の装備は猟銃や農具、車両もトラクターや軽トラなどおよそ悪魔との戦いに有効とは思えない武器であったが、彼等の執念と憎悪は他の誰より深いものだった。
老人達を突き動かす根源、それはリアスが発した身勝手な主張への怒りであった。
国のためにと死んでいった兵がいた。
帰りたいと願って叶わず散った兵がいた。
強制的な徴兵に泣きながら戦列に並んだ兵がいた。
死にたくないと叫びながら神風隊として飛んでいった兵がいた。
もう数えるのも億劫な程の同年代の屍を置き去りにして戦地から帰還できた日本兵の生き残りが彼等であった。
彼等は置き去りにした犠牲者たちが胸を張れる程に復興し栄えている今の日本がどれ程尊く、そして『戦わない』という道を選びそれを保ち続けてくれている事を感謝をしていた。
それを、悪魔共は破らせた。
故に赦さない。
もはやこの身はお迎えを待つだけの古びた老木。
なればこそ、今一度我が身を戦争の狂気の火に焚べて、貴様達を道連れに焼き尽くしてくれる。
現役の自衛官や歴戦の退魔師さえ半歩下がるような壮絶な鬼気を放ち
そんな彼等の怨念はリアス達の気勢を削ぎ落とし、7日7晩続いた戦いはリアス達に散逸しての敗走を選ばせた。
しかしそれで終わるわけが無い。
同じく怒りに燃え、しかし戦いの役には立てないと戦地に赴かなかった若い者たちが一斉に牙を向いたのだ。
街中の監視カメラというカメラを使いリアス達に休む暇を与えぬよう追跡を行った。
そのため寝ることはおろか水を口に含む暇さえ失なった悪魔達は一人また一人と狩り取られ捕らえられていった。
姫島朱乃も捕らえられた一人だった。
捕らえられた朱乃は姫島の本家に引き立てられ、宗主の代理に戻る意志はあるかと尋ねられるも母への仕打ちを謝れと批難と罵倒を返した。
裏切り者とはいえその経緯は無視出来ないという宗主の嘆願があったために、一度だけならと慈悲を見せての返答に姫島は宗主の嘆願を排し朱乃を『利用』する事とした。
悪魔に堕ちたとはいえ朱乃の才は切り捨てるには惜しい。
故に、その胎盤だけ有ればいいと無用な四肢を切り落とされ舌を噛まぬよう引き抜かれ厳重な封印が施された地下室に幽閉された。
そうして朱乃は昼も夜も関係なく男の胤を受け入れさせられ続けた。
暴れるための四肢は奪われ、泣き叫ぼうにも舌はなく、死ぬことも許されず男に身体を貪られる日々。
そして一年後、遂に望まぬ子を孕み産み落とす。
これで助かったと僅かに安堵した朱乃だが、しかし現実は非情だった。
「羽があるな。殺せ」
生まれた子に堕天使の翼があったというだけで産まれた子は首の骨を折られて殺された。
望まぬとはいえ自ら産んだ子を目の前で殺され絶望から声にならない悲鳴を上げる朱乃だが、しかし絶望に浸ることさえ姫島は許さなかった。
「胎盤を遊ばせていないで次を孕ませろ。
今度は羽が無いように」
身勝手な言い分を残し「コトリバコにでもしてしまうか」と呟きながら赤ん坊の死体を手に下がる男に怨嗟の声を放つことさえ許されず、再び幾人もの男達が朱乃を犯し始める。
時間の感覚さえなくなるほどに繰り返される凌辱、いや、家畜の種付けとしか言えない扱いに朱乃は徐々に憎しみさえ抱く気力さえ無くしていった。
朱乃はその後、狂い死ぬまでの百年間毎年子を産み続けたが、生きることを許された赤子は3人だけだったという。
逃げ場も無く助けてくれる者も無い中、悪魔は更なる敵に見舞われた。
それは来日したエクソシスト達であった。
リアスの告白には主の死と天界との同盟も含まれており、その話は全世界に広められていた。
それにより教会は大打撃を受けた。
リアスにより神の実在が証明された中での主の死という事実はその基盤を大きく揺らがせ、世界規模での混乱を引き起こしていたのだ。
同時に聖書に異端と切り捨てられ迫害を受けた末に信仰が絶えた神話に復興の兆しを見え始めたのだ。
その流れを放置すれば今度は自分達が悪と断ぜられる。
それを恐れた教会は神は死してなどおらず、リアスは私達を陥れるための嘘を吹聴したのだと日本に戦力を送り込んだのだ。
対悪魔のエキスパートであるエクソシストの参列により元より100人と残っていなかった悪魔は加速的に数を減らしていく。
その中で木場もギャスパーもエクソシストにより殺され、遂にはソーナさえ捕えられ、とうとうリアスは一人の転生悪魔を残し同胞を全て奪い尽くされた。
必死に逃げ続け、プライドを捨てて下水道の片隅にまで落ち延び漸くリアスは腰を下ろすことが許された。
半月以上手入れの暇もなかったために美しかった紅い髪はくすんで痛み、透き通るようだった肌も垢と泥で饐えた異臭を放ち始めていた。
年季の入った浮浪者でもまだマシに見えるほどに落ちぶれたリアスは悲嘆する。
どうしてこうなったの?
私達を平和を望んでいたのに、貴方達人間との共存を願っていたのにどうして?
願いとは裏腹に世界中から敵と見なされている事に暗闇の中で嘆きの問を吐き出すリアス。
くすくす くすくす くすくす
と、嘆くリアスを前にまるで堪らないと言わんばかりに転生悪魔はにちゃりと嗤った。
なぁしてこぉなったかぁてぇ?
そんなん決まっとりますぅ。
ぜぇんぶあんさんが悪いんやぁ。
あんさんが日本の神さんとぉ、事を構えよぉ言わなければぁこぉはなりまへんでしたぁ。
あんさんはぁ、日本の事を舐め過ぎたんですぅ。
自分の神さん馬鹿にしてぇ信じてるぅもんが黙っとるわけありまへん。
その上、あんさんはなんもかんも喋ってもぅたから火に油や。
この国の民ぃはなぁ、3ぃつ触れたらあかんもんがありますぅ。
飯と土地と神さんや。
それに手ぇ出したら、そいつをいてはるまでそれこそ地ぃの果てまで追いかけてくるんですぅ。
なぁして黙ってたぁ?
それは決まってますぅ。
まぁさか洗いざらい言ぅなんてぇ思わへんかったからや。
あんさんがぁ、あまりに阿呆やから開いた口が塞がらへんかったんよぉ。
なぁ、今どないな気分ですぅ?
土地焼かれてぇ、大事ぃな下僕みぃんな殺されてぇ、溝鼠みたぁな無様晒して這うしかなぁ気分はどないです?
なん? ウチが唆したから悪ぃ?
確かになぁ。
あんさんがそないに無様晒しとるんが見たぁて、裏で色々やっとりましたしぃ、そないに言えば確かにうちが悪いですなぁ。
でぇ? 今からうちをいてもうたりますぅ?
まぁ、『悪魔の駒』が使える程度にまで
ここやて遠からず見付かるやろしぃ、もっかい逃げ回ってずぅっと鼠くぅて餓え凌ぎますかぁ?
なんならぁ、思ったよりぃ愉しませてくれた礼に今からうちがいてもうても良いでぇ?
…なんや今の?
もしかしてぇ、今のぉが『滅びの魔力』ですぅ?
ちぃって肌がピリィッてしましたけどぉ、手加減しはったにぃしては手ぇ抜き過ぎとちゃいますぅ?
手加減いぅんは、こうすんや。
あははははは!!
ええ声やなぁ!!
ついでぇに顔も焼けてもぉたから、誰もぉあんさんがリアス・グレモリーやなんて思わへんやろなぁ。
……ぷっ、なんやそれ?
そないにぶるぶる振るぇて土饅頭の真似ですかぁ?
はい? 尻尾?
…ああ、あきまへんなぁ。
あんまり愉しゅうなり過ぎてぇ、少ぉし
本体はぁ本体ですぅ。
うちなぁ、ちいっと力ぁが強過ぎますんでぇ、地上で
本体が何処ですてぇ?
『次元の狭間』ですぅ。
まぁ、うちのことは置いといて、一個だけ謝っときますぅ。
アジュカ・ベルゼブブなぁ、邪魔やったからうちが殺しましたぁ。
信じられへん?
ほんまにほんまですぅ。
それとぉ、最初にぃあんさんに日本の神さんがトライヘキサ持っとる言いましたでしょう?
あれな、嘘なんや。
日本の神さんは、トライヘキサなんか使わへんで冥界消したんや。
嘘やない。
日本の神さんが本気出しただけやったんよ。
でぇ、それ踏まえてどないしはりますぅ?
…ってぇ、今更尻尾巻いて逃げはるんかぁ?
まぁ、それもええですぅ。
さっきのなんもかんも信じられへんっちゅう顔も良かったですしぃ、それ込みでぇあんさんには十分愉しませて貰いましたから、そのまま地べたぁ這いつくばって生きてくぅ言うなら好きにしたらええ。
それがいつまでぇ叶うか眺めるんもぉ、それはそれで愉しめそうですからねぇ。
━━その後、リアス・グレモリーの行方について語られることは無かった。
人知れず野垂れ死んだか、生きるために路地裏で夜鷹のように春を鬻いでいるのか、はたまた誰にも想像もつかない手段で再起を狙っているのか、それは誰にも分からない。
少なくとも、悪魔が主役の茶番劇がこの先起きる事は無いだろう。
あってせいぜい、想いを拗らせた妖怪と拗らせる原因となった前世を持つ少年の
余談だけど、アナザールートを本気で書こうと思った最初の動機はリアスと一誠で愉悦させろと某愉悦が煩かったからだったり。
それと後李書文と狐の設定と白音の邪仙モードを死蔵するのが勿体無いと思ったのもあったりなかったり。
そんな利害がそんなに乖離しなかったからというのが最大の理由かな?
…そんなんだから愉悦に良いように書かされるんだよ俺。
後は李書文が仙人になったのは舞沢が原因なので、因果を辿ると舞沢の復讐が実を結んだと言えなくもないと思う。
因みに先に読んだ愉悦は悟りを開いたような顔をしてたという…ね。