「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」 作:サイキライカ
幼馴染の『遠野晶』は変な奴だ。
目つきは悪いし、いっつも気怠そうな態度で不機嫌そうで、授業態度も悪くて、何を考えてるか分かんない変な奴だ。
だっていうのに、動物にはなんでか好かれてて、誰かが本気で助けを求めればどんな時でも意見ぐらいはくれるし、成績は全科目で学年上位だったりする。
何でも出来るのに何もしない。
だけど必要なら何でもやる。
勉強も、運動も、護身の陰陽術も、誰かとの関わりも、自分に必要ならなんでもやる。
だけど周りからなんて思われても一切構わない。
両親の前では普通の男子高校生に見えるけど、近くで見てきた私にはそれも義務でやってるだけに見える。
「晶はさ、高校卒業したらどうするの?」
通学の途中、隣を歩く晶にそう尋ねると、晶は私を見ないで答えた。
「さあな。
なるようになるだろ」
「自分の将来なのに適当過ぎない?」
あんまりな答えに文句を口にしても晶は変わらない。
「どうにかなったって、精々人間が一人死ぬだけだ。
悪魔じゃあるまいし、神様を怒り狂わせて世界ごと滅ぼされたりなんかしねえよ」
「……」
まるで死が怖くないように皮肉げに嗤う。
またこれだ。
晶は神様が嫌いだ。
正確に言うなら、神様が嫌いなんじゃなくて神様が世界に関わるのが嫌いらしい。
なんでと聞いてみても、意味の分からないことを言われた。
「
全く意味がわからない。
三十年前に悪魔が日本で暴れた時だって、日本の神様は地上での戦いを私達に全部任せてくれたのに、その言い方だとまるで私達が日本の神様に騙されてるみたいに聞こえてしまう。
そう文句を言っても晶は「好きに受け取れよ」と全く相手にしない。
「ただ、そうだなぁ。
もしかしたら卒業したらそのまま香港に行くかも知んねえな」
「はい?」
いきなりとんでもない事を言い出した。
「…なんで?」
「香港の映画会社から俳優をやらないかって、スカウトの話があったんだよ。
去年の夏の選抜戦の動画を見たとかでな」
そう言われてなんの事なのか漸く合点がいった。
去年の夏休みに、帰宅部だった晶は空手部の顧問の先生からレギュラーが怪我をして全国大会の選抜戦に参加出来なくなったからと代わりに参加してくれと頼まれた。
最初は他の部員に出させろと晶は断ったけど、怪我をした先輩の代わりになれる部員がいないからと土下座までする先生の説得に、面倒臭くなって晶は団体戦の控えならと折れて参加した。
だけど、準決勝で事件は起きた。
準決勝でぶつかった相手校の中将が、代理で参加した晶に踵落としをしたのだ。
後で聞いた話だけど、その選手がやっていたのは空手じゃなくてテコンドーだったらしくて、晶の強さに咄嗟に大会では禁じ技だった踵落とし(テコンドーだとネリチャギというらしい)を放ってしまったそうだ。
普通なら反則負けで終わるんだけど、事件はそこから始まった。
「どうせ反則負けなんだ。
本気で遊んでやるから掛かって来いよ。
縛り無しの全力でな」
そう言って晶は、プロテクターを脱ぎ捨てて足を開いて両手を揃えて斜めに向ける奇妙な構えを取ったのだ。
私にはわからなかったけど、その場にいた多くの人には晶が巨大な蟷螂に見えたらしい。
その挑発に相手もプロテクターを捨てて構え、そして周りの制止も聞かず二人はぶつかった。
戦いは数分で晶の勝ちに終わったけど、見ていた私達にはそれがもっと長い戦いをしていたように感じた。
そして、隣で見ていた武道に詳しい人が漏らしたのを聞いた。
「あの選手、螳螂拳だけじゃなくて八極拳まで使いやがった」
その人に聞いてみたら、晶の最後の攻撃は震脚という武術の踏み込みからの猛虎硬爬山という何年も修行した達人でないとまともに放てない八極拳の大技だっていう話だ。
そんな事があって結局は二人共反則負けとなり、空手部の方はなんだかんだで選抜戦を勝ち抜き全国大会まで進んだんだけど、晶のインパクトが強過ぎてあんまり話題にならなかった。
その時の戦いが後日動画投稿サイトに上げられていて、晶に雑誌の取材が来たりと一時期大騒ぎになったのだ。
だっていうのに、晶はそんな中でも変わらなかった。
「ダリィ、ウゼェ、メンドクセェ」
この調子で誰も相手にせず、告白してきた女子も袖の一振りで追い払ってしまった。
というか、晶は何処で武術を習ったのだろうか?
自慢じゃないけど、晶の事は幼稚園の頃から見てるけどマラソンしているのを見たことがあるぐらいで、誰かから武術を教わったりしている姿は一度も見た事はない。
と、そんな事を考えていたら昨日の事を思い出した。
「そう言えば昨日の帰りにさ、公園の池で変な事をしている人が居たんだよ」
「浮浪者の水浴びでも見たのか?」
「違うよ。
黒髪の綺麗な女の人なんだけど、池に八角形の板を浮かべて見入ってたの」
そう言うと晶は立ち止まって私を見た。
「見ていたっていうその板の中心に、2つの勾玉が描いてなかったか?」
「え?
えっと…確かにそれっぽいのが描いてあったような?」
珍しく食い付いてきた晶に面食らいながら思い出して言うと晶は顎に手を当てて呟いた。
「そいつはおそらく後天図だな。
八卦、大陸の占い道具だ」
こういう方面の晶の博識ぶりは本当に凄い。
授業態度は悪いけど授業の陰陽術ではいの一番に式神を動かしてみせたし、神仏修羅全般や怪異や妖怪についてなんかは先生の方が逆に聞きに来たりする。
他にも魔術や呪術、マニアックな易卜まで知ってる。
本当に、どこで調べたんだろうっていうぐらい詳しくて正確なのだ。
「まあ、何にしろ俺には関係…」
そう言いかけて晶は固まった。
「晶、どうしたの?」
視線を追うと、そこには昨日見た女性が私達を見ていた。
「いやそんな筈は、だけどまさか?」
「晶?」
ぶつぶつ呟いている晶の様子があまりにもおかしくて何度も声をかけてみるけど、晶はそれどころじゃない様子で気付かない。
と、そこで女性がゆっくり私達の方に歩き出した。
「やっと、やっと見つけました」
そう、感極まった様子で女性は晶の事を知らない名前で呼んだ。
「ずっと探してました舞沢さん」
舞沢?
一体誰と勘違いをしてるの?
そう口を開く前に晶は警戒した様子で言葉を発した。
「なんで生きてんだ白音?
悪魔は三十年前に絶滅したんじゃねえのかよ?」
え? どういう事?
混乱する私を置いて二人は話を続ける。
「絶滅した筈ですよ。
私も姉もとっくに妖怪に戻りましたし」
「…ああ、羽化天翔を成したのか。
って事は、今は仙貍か?」
「いえ、色々あって火車に堕ちちゃいました。
今はお盆の時だけ地獄で亡者運びのアルバイトをしてます」
「そいつは何よりで。
で、態々前世の因縁持ってきた理由は?」
「まどろっこしいのは省きますと、貴方を捕まえに来ました」
「…へえぇ」
白音さん? の言葉を聞いて晶は獰猛に笑うと私に鞄を押し付けてきた。
「持ってろ」
「ちょっと!?」
訳がわからないまま声を出しても晶は制服を脱ぎ捨てて私に向かって投げながら言う。
「捕まえるって言うが、何の為だ?」
「決まってます」
そう彼女はニッコリ笑った。
「大好きな貴方が、何処にも逝かないようにです」
直後、地面が揺れた。
「ひゃっ!?」
地震かと驚いたけどすぐに違うと理解した。
何故ならさっきまで10メートルは離れていた筈の晶との距離がほぼ無くなっていて、さっきまで白音さんがいた地面が割れていたのだ。
勘違いじゃなければ、今の地震は白音さんの踏み込みの衝撃という事に…
「って、晶!?」
地面から晶に視線を戻すと晶は片足を上げ両手をそれぞれ別の形に握った奇妙な形を、白音さんは両手を上と前に開いて腰を沈めた姿で対峙していた。
晶のシャツが所々不自然に裂けているのって、まさか僅かに目を離した間に戦ったっていうの?
「舞沢さんは酔拳も使えたんですね」
「そう言うお前は虎拳か」
酔拳って、酔えば酔うほど強くなるっていう?
「晶未成年なのに飲んでるの!?
それも朝から!?」
びっくりしてそう言うと二人はバランスを崩して私を睨むように見た。
「そんな訳ねえだろ」
「気の抜ける冗談は止めてくれませんか?」
なんでそんなに息ぴったりなのよ?
「だって、酔拳ってお酒飲まなきゃいけないんじゃないの?」
「そいつはフィクションだ。
本来の酔拳もとい酔八仙拳は、酒に酔った仙人達の動きを基にしたとされる立派な一拳法だ」
「第一、酔った状態で拳を握ったとしても足腰に力が入らないから威力なんて乗りません」
…なによ二人して。
「なんでそんなに仲が良いのよ?」
「それは勿論、私と舞沢さんが愛しあってるからです」
ムカムカして唇を尖らせた私のぼやきに、白音さんは嬉しそうに顔を赤くして身をくねらせる。
気持ち悪い動きの筈なのに美人がやるとなんでも様になるって本当なんだ…。
対して晶は「んなわけねぇだろ」と預けた制服を着込みながら呆れ返ってる。
「ハァ…白けたからヤメだ。
お前だって本気で殺る気じゃねえんだろ?」
「そんなことないですよ?」
いつの間にか晶の後ろに回り込んだ白音さんが猫みたいに晶の首筋に顔を擦り付けながら言う。
「舞沢さんがまた何処かに逝っちゃうぐらいなら、今すぐ八つ裂きにして全部食べちゃいます」
ゾッ!!
そう三日月のような笑顔で嗤った白音さんに私は恐怖で総毛立った。
素人の私でも解るぐらいの殺気を至近距離で浴びてる筈の晶は、だけど変わらない。
「成程。
確かにお前は妖怪だ」
関心と呆れの混ざったような皮肉げな笑みを浮かべる晶。
「人知に外れた友愛と殺意が綯交ぜな傍迷惑極まりねえ愛情は、感性だけが半端に人間に寄った悪魔にゃ持てねえ代物だよ」
「そんなに褒めないでくださいよ」
嫌味の筈なのに白音さん…もう呼び捨てでいいか。
白音はどうしてそんなに嬉しそうなのか全く理解出来ない。
何よりも、
「早く行かないと遅刻しちゃうわよ!!」
「おいおい」
白音を引き剥がすよう、晶の手を掴んで無理矢理その場から走り出す。
「放課後校門で待ってますね」
去り際にそう言う白音を無視して私は走る。
「どうした?」
「煩い!!」
訝しむ晶にそうとしか私は言えなかった。
だって、だって私は、ずっと隣に居たのに晶があんなに楽しそうにしているのを初めて見た事に気付かされて悔しかったなんて、どう言えばいいのか全く分からないのだから。
その時の私はまだ知らなかった。
白音の乱入が、私と晶の関係を言葉にならないものにしてしまうなんて、この時の私は予想も出来なかったのだ。
普通に舞沢視点で書いてもナンだな。
せや、幼馴染出して他者から視点にしてみよ。
…どうしてこうなった?
なんというか、ジャンプ系ラブコメを目指して失敗した感ががががが…
因みに舞沢君は不貞腐れてるだけで日本神話は嫌いになってません。
例えるなら、帰ったら掃除するつもりでいたらお母さんに全部片付けられてた時の感謝はあれど不満は募る的な感じが一番近いかな?
あ、狐と李先生の備忘録入れ忘れた