「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」   作:サイキライカ

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 すみません。
 英雄派弄りまで届きませんでした。(土下座)


Another IF『英雄派』【で】遊ぼう(3)

 『裏京都』を後にし、再び京都市内へと戻った俺は、この後どうするかと頭を巡らせた。

 

「…白音に土産買っとくか」

 

 八つ橋かその辺りの甘い物を適当に幾つか郵送しておけばいいかと結論付け、すぐに帰るかと考えてからやっぱり後二、三日は滞在しようと決め直す。

 

(『茶番劇』の介入があったって事はなんかあんだろうし、そうでなくとも駒王に帰ったら帰ったであのクソウザい連中に絡まれるのは確定なんだから、成り行きの確認がてら少しぐらい羽を伸ばしておくか)

 

 いくら『茶番劇』とはいえ、全部が全部兵藤の阿呆が絡む訳もなかろうし、今回は腰を据えて事態を確かめておいたほうがいいだろう。

 

「とりあえず一旦寝るか」

 

 5日6日眠らずともコンディションが狂うような軟な身体ではないが、休める時に休んでおいた方がいいのは間違いない。

 流しのタクシーを拾いホテルに向かうよう行き先を告げたが、しかし駅の近く更に言うならサーゼクスホテルに近づいた所で渋滞に巻き込まれてしまった。

 

「…ッチ」

 

 よりにもよってな位置に、思わず漏れた舌打ちに運転手が苦笑を溢す。

 

「少し前ならこの辺りで渋滞なんてしなかったんですが、お客さん運がないですね」

「そうなのか?」

「ええ。

 隣に見えるのと、その向こうに見えるホテルのせいで道が詰まっちゃったんですよ」

 

 そう視線で示す先にはサーゼクスが建てたホテルと、同じくセラフォルー・レヴァイアタンの名を冠したホテルがあった。

 

「あれらのお陰であちこちの老舗も商売が滅茶苦茶ですよ。

 知り合いの民宿も閑古鳥が鳴いていると愚痴ってました死ね」

 

 茶化して溢される愚痴は、口調こそ穏やかだがバックミラー越しに見える目には隠しようもない不快感が滲んでいた。

 

「…う〜ん。

 お客さん、この様子だと歩いたほうが早いかもしれませんよ?」

「じゃあ、そうします」

 

 財布から諭吉を抜き、会計皿に置く。

 

「釣りは結構。

 興味深い話を聞かせてもらった礼です」

「いいんですか?」

「ええ」

 

 そう金を押し付け、タクシーを降りて駅の前を進む。

 

「そういや修学旅行シーズンだったか」

 

 駅の前に屯する学生服の集団に気付きそう漏らしてからふと嫌な予感が過ぎる。

 

「あいつらの修学旅行何処だった?」

 

 さして知る必要は無いと完全に聞いていなかったが、定番かつサーゼクスとセラフォルーがホテルを構えている事から京都の可能性は低くない。

 問題は近日中であるかどうか。

 もしも今日にも京都入りなんて話になっていたら…。

 

「キャアアアアア!!??」

 

 早急な確認と対策をと考えていた矢先、絹を裂くような悲鳴が響いた。

 

「うおおおお!! 女子高生のオッパイぃぃぃいい!!」

 

 何事かと視線を向けた先にあったのは、血走った目で女子高生に襲いかかるサラリーマン風の男の姿。

 

「……」

 

 その男の婬気が、何故か知った竜の『氣』であるのに気付いた時点で俺は考えるのをやめた。

 無心のまま懐からルーンストーンをばら撒きながら歩法で男の背後に回り込むと、右手に『氣』を集中させた貫手を突き立てる。

 

「あふん♡」

 

 気持ち悪い悲鳴を上げる男に同情しつつ、『心霊手術』の業を以て外傷一つ残さず悪性の原因を掴み取り抜き出す。

 

「『撮影のご協力ありがとうございました』!!」

 

 そうして仕上げに撒いたルーンストーンを起点に魔術を行使し、周囲一帯に『事実認識の改変』を行う。

 

「ああ、なんだ。

 ドラマかなんかの撮影か」

 

 唐突に始まった猥劇に取り押さえようとしていた者や通報のために携帯を手にしていた人達が興味を無くし、紛らわしいと舌打ちなどを残しながらそれぞれの方向へとその場を離れていく。

 

「あんたも災難だったな。

『さっさと忘れないと取引に遅れるぞ』」

 

 『言霊』で軽い暗示を掛けつつそう背中を押すと被害者のサラリーマンは慌てた様子で走り去る。

 

「君もご苦労さま。

 これ、バイト代ね」

 

 そう諭吉を数枚握らせ追い出してから、最終的な事後処理のために携帯を探りながら右手の中で暴れる()()を見る。

 

(いっそ笑えるぐらい淫気に塗れちゃあいるが間違いなく竜、それも『ウェールズの赤い竜』に因する力だな)

 

 逃れられないと見るや俺に寄生しようとする()()を『氣』で捩伏せながら、こんなモノが徘徊しているそれが何を意味するのか考えるまでも無い現実に溜息を漏らす。

 

「舞沢!?

 何でここに居るの!!??」

 

 聞き覚えのある声が名指しするのに嫌々ながらそちらを見れば、案の定、そこに居たのは駒王に居る筈の天使に鞍替えした狂信者の片割れだった。

 そうなれば、後の流れは言うまでもない。

 

「テメエ!! 小猫ちゃんを置いて何してやがるんだ!!」

 

 耳障りな怒鳴り声に、そういや八坂のスタイルは兵藤が好きそうだったなとどうでもいい事を思う。

 

「聞いてんのか!?」

「煩え」

 

 胸ぐらでも掴もうとしたのか近付いてきた兵藤に右手の()()()をぶち込む。

 

「ぐぼぁっ!?」

 

 無理やりねじ込んだ影響でのたうち回る兵藤に「返しとくぜ」とだけ言い、後ろで喧しい連中は無視する。

 

「ったく、ひと悶着は確定か」

 

 ()()()が先に出来ただけ御の字かと思いながら、仕方無しに予定はキャンセルして再び『裏京都』へと向かうため足を向けたが、突然目の前の空間を裂くように虚空から転がり落ちてきた芳赤を反射的に受け止めてしまった。

 

「……何があった?」

 

 後ろが騒がしいのは無視し、即座にルーンストーンをいくつか追加で撒いて発動中の魔術を『隠匿』と『人避け』に意味を切り替え大事になるのを防ぐ。

 

「おまえ…、…よか…、まだ、…ちか…」

「すぐに治療します!!」

 

 息も絶え絶えになんとか声を絞りだそうとする芳赤に、元聖女が近づいて来て神器を発動するのを俺は遮る。

 

「無駄だ」

「どうして止めるんですか!?」

 

 お優しい元聖女様らしい言い分に、俺は短く事実を告げる。

 

「こいつはもう死んでいる。

 永らえているのは意思で耐えているだけだ」

 

 酒呑童子の逸話のように、妖怪は死んだ程度では簡単にくたばりはしない。

 とはいえ、それは風前の灯が人間より少し大きいだけで、

すぐに消えてしまうのは変わらない。

 

「そんな…」

 

 助からないと言い切ると、何故か元聖女は異様なまでにショックを受け、涙を浮かべ悼む。

 見ず知らずの相手の死に悼みを感じるのは高尚なんだろうが、こいつの様に誰でも彼でもに対し()()()()()なんて、そんな元聖女を俺は頭のおかしい奴としか思えないし、正直気持ち悪い。

 必死に情報を伝えようとする芳赤の言葉を聞き逃さぬよう一語一句しっかり聞き届ける。

 

「お前が、消えた後…霧に、包まれ…八坂さまがっ!!」

 

 『霧』という単語から二つの可能性を思い、すぐに片方『狭霧之神』のどちらかの線は無いと切り捨てる。

 

「犯人は人間だな?」

「そう…だ…!」

 

 やはり『絶霧』の可能性が高いようだ。

 

「頼む!!

 この事を陰陽師に!!

 八坂様を助けてくれ!!」

 

 最早一時の猶予もない死相の浮かんだ顔で俺の胸元を掴みながら血を吐き嘆願する芳赤に、俺は死人に鞭打つ必要は無いと「承知した」と告げてやる。

 

「他に言い残すことはあるか?」

 

 そう問うてやると芳赤は最期に俺にだけ聞こえるような微かな声を絞り出し、一滴の涙を零してそのまま事切れた。

 

「死に水は勘弁してくれ」

 

 代わりにハンカチで唇を拭い、遺体を抱えて歩き出そうとしたが、

 

「待てよ舞沢!!」

 

 クソの雑音に思わず足を止めてしまった。

 

「…なんだよ?」

 

 こっちはチンタラしてらんねえんだよ。

 顔を見るのもしたくないから振り向かずに聴くと、クソは思った通りの台詞を吐いた。

 

「一体何が起きてるっていうんだ!?

 俺たちにも説明しろ!!」

 

 さも当然とばかりにほざくクソに、感ける必要はないと切り捨てる。

 

「悪魔には関係ない話だ。

 放っておけよ」

「そんな事出来るか!!」

 

 ……。

 ああ、分かってるよ。

 芳赤(こいつ)の死を目の当たりにさせることで義憤を駆り立てて自主的に介入させるのが『茶番劇』目論見なんだろ?

 ハイハイ。ご勝手にどうぞ。

 精々適当にピンチになって、都合のいいタイミングで援軍に恵まれて、いい感じのパワーアップイベントでも挟んでクソに良いところを総取りさせて、『裏京都』からの信頼も何もかんも持っていけばいい。

 どうせ逆らったて何も意味なんかないんだ。

 やりたいようにならせてやれば…。

 

 

「ふざけるのも大概にしておけよ」

 

 

 ああ? なんで俺はこんなにブチ切れてんだ?

 後ろでビビってるクソ共に向けて、口は勝手に言葉を吐き出す。

 

「これは『日本』の問題なんだよ。

 しゃしゃり出てくるんじゃねえ」

「だ、だけど」

 

 ザンッ!!

 

 遺体を横たえ、ルーンを刻みクソ共のすぐ足元に風を起こして地面に亀裂を刻む。

 

「十秒やる。

 その線を超えた時点で、今すぐテメエ等は『日本』を敵に回したと見做し鏖殺する」

「なんっ…」

「何を言ってやがる舞沢!?」

 

 それまで成り行きを見ていたアザゼル(黒鳩)が口を挟んだ。

 

「お前はただの雇われだろうが。

 そんな権限が何処に!?」

「うるせぇ()()()()()が!!」

 

 自分がブチ切れているのを他人事の様な視点で眺めながら、俺は漸く合点がいき、愉しいとさえ思いながら思ったまま口から吐き出してやる。

 なんてことは無い。

 ただ単に、()()()()()()()()()

 

 フワワに勝てると分かっているからギルガメシュ王とエンキドゥに加勢しないでいられたか?

 滅びると分かっているからトロイアを見捨てられたか?

 死地に赴くレオニダス王を行くのを見ていただけか?

 助けられないと知っていたからジャネットを見限れたか?

 

 否!! 否!! 否だ!!

 

 どれもこれも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろうが!!

 

 半泣きでビビり散らしながらも、斧を手離さずに立ち止まった王を残して逃げるなんて我慢できず槍を手に取った。

 ヘクトール将軍が死に最後の希望だったペンテシレイアさえ死んだ後も、トロイアが一日でも長く続くようトロイアが滅びても生き残りを一人でも増やそうと戦い続けた。

 モルテピュライでレオニダス王が討ち死にした後も、せめて躯を辱めさせまいと死ぬまで戦い続けた。

 貴族は見捨てどう足掻いても間に合わないと分かっていても、ジャネットを救うことを諦めきれなかった。

 

 そのどれもこれも、そう決めた時に御大層な理由なんざ無かった。

 いつだって、()()()()()()()()()()()()

 だから今回も同じだ。

 建て前なんか何だっていい。

 こいつ(芳赤)が、()()()()()()()()()()()だということさえ関係ない。

 前世で親子だったとしても、無事に産まれたのを確かめたのを最後に一度として顔を合わせたことさえなかったんだ。

 そんな奴、他人と何も違わない。

 俺が今、聖書陣営を拒絶する理由は唯一。

 

()()()()()()()()()()()!!

 横槍挟もうってなら、まとめて全員ブチ殺すぞ!!」

 

 百年後の勝利のために耐えるなんざ()()()()()()()()()!!




次回、『茶番劇』ガバる。

最新話の位置について

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  • 以前の状態に戻したほうがいい

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