「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」   作:サイキライカ

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今回のが自身が原作者に突っ込みたかった事で、今作の発起理由。

短めですが、ここで切らないと切るタイミングが長くなるためなのでご容赦を。


Another IF『英雄派』【で】遊ぼう(5)

「ぶひゃひゃひゃひゃはははははははははは!!」

 

 

 立っていることさえままならず、湧き上がる笑いに支配されごろごろ地面を転がりながらゲラゲラ笑い続ける。

 

「もう無理!!

 こんなくっそ笑える話我慢とか無理!!

 あひゃひゃひははははははははは!!」

 

 戦う前にこんな真似しているのは不味いと自覚しているが、今笑っておかないと大事な時に吹き出しそうだから一切の箍を外しておく。

 

「ひぃ、ひぃ、ぶふっ、くふふ、」

 

 これ以上はマジで腹が捩れて死ぬというギリギリまで笑い、少しばかりマシになった所でなんとか立ち上がると、そこにはほぼ予想通りの光景が広がっていた。

 

「何が可笑しい?」

 

 怒りと困惑がいい感じに混ざった顔でそう問い詰める曹操に、俺は更に畳み掛ける。

 

「答える前によう、一つ確認しておくが、まさか、ヘラクレス以外にもギリシャ系の英雄は居ないよな?」

「…ギリシャならペルセウス「ぶwふwぁwwwwwww!!」

 

 まさか過ぎるビッグネームに、言語にすら出来ず最近流行りのwwwとかなる勢いで大爆笑する。

 

「ひぃーwwひぃーw…よし落ち着いた」

 

 まだまだ笑い足りないが、あんまり待たせるの可哀相かと俺は笑いを引っ込め、曹操に向き直ってやる。

 

「えぇっと、何がおかしいかって質問だったよな?

 そりゃあ挙げれば二三日は掛かるぐらいあるがよ、何より笑かしてくれるのはテメエらのお仲間内にギリシャの英雄様がおらっしゃられるって事だよ」

「俺がなんだってんだ!!??」

 

 茹で蛸みたい真っ赤になった顔を青筋だらけにして怒鳴るヘラクレス(笑)にまた笑い転げたくなるが、一応真面目にと笑うのを堪え嘯いてやる。

 

「むしろ何で分からないのかねぇ?

 ギリシャの英雄様ってのは、死んだら魂は神の手で夜天の星に飾られるか、さもなくば()()()()()()()()()()()()()()

 

 冥府の楽園『エリュシオン』。

 冥府の支配者ハデス様から認められた()()()()()だけが住むことを許されたギリシャ神話の浄土。

 ギリシャ版のヴァルハラとでも言えば分かりやすいか?

 

「居る筈がないんだよ。

 特にヘラクレスは神の座に列している稀有中の稀有。

 仮に人としての半分が別れていたとしても、ならばこそその魂はエリュシオンに居なきゃおかしいんだよ」

 

 そう嘲笑ってやると、ヘラクレスは赫怒に震えながらも反論出来ずぶるぶる震えながら射殺さんとばかりに睨むだけ。

 そんな野郎に俺はとどめを刺してやる。

 

「もしも、もしもお前が本当にヘラクレスの半分、人間として生きて死んだヘラクレスの生まれ変わりってなら、お前はただそこにいるだけで笑えるんだよ。

 だってな、」

 

『私は英雄ではありません。

 狂気と嘯いて感情に任せ我が子と妻を殺し、ただただ殺戮を繰り返しただけの蛮族だったんです』

 

「そう自慢してんだからなぁ!!

 グギャギャギャギャギャギャギャギャ!!」

 

 悪辣を煮詰めた()()()()()()()()()を叩きつけてやれば、ヘラクレス(笑)は赤を通り越して真っ白な顔で俯く。

 

「ジャンヌの魂にしてもそうだ。

 間借りなりにも世界で最大の勢力を持った聖書の天界が、死者の魂はもれなく天界、煉獄、地獄の三界の何処かに在り続け地上に戻ることはないって自らの教義を捻じ曲げてるってのもおかしくはないか?」

「それは…」

 

 ヘラクレスの惨状を自分も受けるのかと後退るジャンヌ()に微塵の容赦も与えず言葉の槍を突き立てる。

 

「だったら考えられる答えは2つに1つ。

 お前が自分をジャンヌ・ダルク(ラ・ピュセル)の生まれ変わりだと信じている頭の痛い女か、さもなくばジャンヌ・ダルクの再来つって持ち上げられた歴史上の誰かって事かだ」

 

 歴史を紐解けばジャンヌ・ダルクと異名された女はかなりの数が挙がる。

 

 ベトナムの微姉妹。

 タイのタオ・スラナリ。

 インドのラクシュミー・バー・イー。

 ロシアのマリア・ボチカリョーワ。

 ウクライナのユーリヤ・ティモシェンコ。

 日本にも鶴姫や川島芳子とジャンヌ・ダルクと異名を与えられている女は居る。

 

「だからこそ、聞かせてもらおうか。

 『お前は誰だ?』

「あ…ぅう…」

 

 論的な否定を叩きつけられた女は呻くばかりで答えを返さない。

 ……さて、そろそろ頃合いか。

 すっかり空気が冷え切った中、しかし俺は気付いていないように装いながら口を開く。

 

「それはそうとさ、そこの妖怪、終わったらどうすんだ?」

 

 素直に返すわきゃあねえわなと思っての問いに、案の定曹操は「無論殺すさ」と、表面波を取り繕った顔で答える。

 

「人間に仇なす化け物を生かしておく理由はないからな」

「…化け物ねぇ」

 

 何らかの術で意識を持って行かれているのだろう、虚ろな目で虚空を見る八坂を一瞥してから尋ねる。

 

「見た目は良いんだし飼っとけば?」

「必要ない」

「あっそ」

 

 即答とは恐れ入る。

 英雄色を好むとはよく言ったもんだが、それで破滅してるから禁欲してんのか、それとも()()()()()()()()()()()()()()()

 どちらでもいいかと思考を切り、態と見せるように懐を探りホルダーに固定しておいた棒状を物を抜いて俺は言う。

 

「だとすんと、そいつは困るな」

「なんだと?」

「『裏京都』の妖は京都の地脈の為に必要なんだよ。

 そんなことも知らないで好き勝手するってなら…死ねよ」

 

 直後、曹操達の足元から灰色の煙が爆ぜる勢いで撒き散らされた。

 

 

〜〜〜〜

 

 

「ガスか!?」

 

 突然の煙幕に触れた目が刺激を感じ、即座に催涙ガスだと気付いた曹操は腕で口を覆い、風を生む神器使いの手でガスか晴らされるまでを耐えた。

 

「アサシンは…」

 

 何処だと見渡そうとした曹操だが、刹那響いた悲鳴に耳を疑う。

 

「レオナルド!!??」

 

 見れば、首をありえない方向に曲げ驚愕の顔で表情が固まったレオナルドが倒れているのが見えた。

 

「しっかりしろ!!」

 

 まだ間に合うかもと希望を抱いた近くの一人が抱き起こし、そして持ち上げたからだから()()()()()()()()()()()()()が転がり落ちた。

 

「逃げ…」

 

 最後まで言う事も赦さず手榴弾は無慈悲にも爆発し、助け起こした仲間諸共肉片にして撒き散らした。

 

「卑怯者がぁ!!」

 

 見た目から一番若いレオナルドを真っ先に殺したばかりか、その遺体に爆弾を仕掛けて助け起こそうとした者を爆殺するという、尊厳さえ奪う所業を受けてジャンヌが怒り狂った様子で叫びながら庭園から飛び出す。

 催涙ガスに紛れて消えた舞沢を探すため他の者達もジャンヌに続いて飛び出して行く中、ゲオルグは感情を抑え曹操に問う。

 

「曹操」

「分かっている」

 

 言わずとも理解していると曹操は言葉を絞り出す。

 

「計画は破綻した。

 グレード・レッド捕獲の切り札だった『魔獣創造』(アナイアレイション・メーカー)を持つレオナルドを失った以上グレード・レッドを捕獲する手段はない」

 

 たった一手で負けに持ち込まれ、怒りに頭を茹だらせながらも曹操は称賛を口にする。

 

「これが悪魔を殺し続けた『アサシン』の実力か」

『んなことねーぞ』

 

 直後、すぐ近くで舞沢の声が響いた。

 

『俺の狙いは『絶霧』の方だったが、まさか他の『神滅具』を引くなんてなぁ』

 

 ゲラゲラと汚い嗤い声を上げる舞沢の声は、植木の影に隠れていた一匹の鼠から発せられていた。

 

「使い魔か…!」

『日本じゃ『式神』っつうんだよ』

 

 ゲオルグの問いに『どうでもいい話だけどな』と言いつつ嗤う鼠に曹操は怒りの声を叩き付ける。

 

「貴様、誇りは無いのか!?」

『ねえよそんなもん』

「っ!?」

 

 まさかの即答にさしもの曹操も二の句に詰まり、先じて舞沢の声が冷たく響く。

 

『俺を調べたんだろう?

 だったら知っている筈だ。

 俺が悪魔を殺すのに、正々堂々なんつう手を一度たりとも使ったことは無いってな』

 

 そう語る声はドライアイスから漏れているかのように冷たい。

 

『卑怯なんてのは正面からゴリ押しで勝てる様な強いやつの戯言だ。

 俺の目的は聖書陣営を殺す事。

 外道、非道、悪道、そんなもんで天使が、悪魔が、堕天使が確実に殺せるなら躊躇う理由はねえ。

 毒を盛る。罠に嵌める。嘘を騙る。男を奪う。女を寝取る。仲間を裏切らせる。協力者を寝返らせる。妻を裏切らせる。夫を見限らせる。息子を辱める。娘を陵辱する。赤子を攫って吊るす。無関係な人間を殺す』

 

 次々と語られる()()()()()な所業に、怖気から背中を粟立たせる曹操へと舞沢は告げる。

 

『悪魔を殺すために俺はそれらを全部やってきた。

 聖書に連なる者を殺すために、俺は()()()()()()()になって殺し続けた。

 曹操の子孫。テメエは悪魔を殺すために()()まで来れるか?』

「……」

 

 鉛のような重い問いに、曹操は無意識に一歩下がる。

 

 当たり前だ。

 

 曹操達の宿願は『英雄』になる事。

 絢爛豪華な功績と幾多もの称賛と賛美の中、勝者となって歴史に名を残す事。

 舞沢のやってきた事は自らがそう口にした様に()()()()()()()に墜ちること。

 成果のために歴史の表舞台から自ら飛び降りる地獄の道。

 『神器』の研究のために集った同胞に犠牲を強いたことは事実だが、しかしそれは『英雄』になるための()()()()()だ。

 傍からはなんの違いも見えない事で自己肯定を行った曹操に、舞沢は言う。

 

『所でだ。

 俺が態々時間を掛けてまで話をしている理由について、なんか思いつく事は無いかなぁ?』

「……真逆!?」

 

 奴は八坂が処分されるのを()()と言った。

 話をする事で注意を八坂から逸し奪い取るつもりなのか。

 そうゲオルグと二人、反射的に八坂が安置されていた祭壇に目を向けるが、しかし、八坂は祭壇から微動だにさえしていなかった。

 

「言ったはずだぞ?

 外道、非道、悪道で殺せるなら手を染めるとな」

 

 ザシュッ!!

 

 肉を貫く湿った音が響き、ゲオルグの胸から銀の光が生えた。

 

「ゲオルグ!!??」

 

 ゴキンッ!! 

 咄嗟に手を伸ばそうとした曹操を嘲笑うかのように背後からゲオルグを刺し貫いた舞沢は『氣』で強化した身体能力任せにゲオルグの首を真後ろに捻じ曲げ、脚で押し飛ばしながら刃を抜き曹操へと押し付ける。

 

「ゲオルグ!!??」

 

 相棒とも言うべき古い仲間の無残な死に、感情を抑えきれず悲嘆の叫びを上げる曹操。

 舞沢はその間に八坂の元へと駆け寄ると、そのまま肩に担いで地を蹴って今度こそ庭園から脱する。

 

「……赦さん」

 

 レオナルドを殺し、ゲオルグを殺した舞沢へ曹操は湧き上がる憎悪のまま吠える。

 

「貴様だけは絶対に殺してやるぞ『アサシン』!!」

 

 漸く壇上へと上がってきた曹操の叫びを耳に、舞沢は小さく返した。

 

「遅すぎんだよバーカ」

 




書いてて思った。
作者ってヴァルハラ以外死者の楽園知らんのかな?

補足ですが、舞沢が最初にレオナルドを殺したのはレオナルドが場違いに居る子供なので、こいつが『絶霧』の所持者だと思い込んだためです。
 理由は『絶霧』で逃げられるのを防ぐため。
 そして自分=『アサシン』と聖書陣営にバレると今後の活動に響くため『英雄派』は皆殺しが確定しています。
 
 次回から更に『アサシン』モードが酷くなる舞沢君になります。
 

 後、どうでもいいかもしれない話ですが、百年戦争時の舞沢君の名前は『ラ・イル』です。

最新話の位置について

  • このままアナザールートの後でいい
  • 以前の状態に戻したほうがいい

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