「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」 作:サイキライカ
さっき殺ったゲオルグとかいう眼鏡が『絶霧』の所持者だったらしく、二条城に重なるように作られていた結界が消え、代わりに陰陽師達による人払いの結界が周囲1キロに渡り展開している光景が広がった。
「なんとか第一段階は完了出来たか」
『絶霧』の排除は最優先事項だった。
能力云々もそうだが、どんな状況に追い込もうと逃げる手段が在り続けるというのは策を練る以前の問題だ。
とはいえ物理的、魔術的な手段での逃走の目は完全に消去しきれていないが、しかし承認欲求の塊みたいな連中があれだけ煽られて逃げを打つとは考えづらい。
見繕っておいたテナント待ちの建物に忍び込み、ルーンストーンを撒いて『隠匿』と意味を与えながら残りの装備を確かめていると横たえておいた八坂が身を起こした。
「何故、助けた?」
どうやらゲオルグは八坂の精神支配も担っていたらしく、意識を取り戻すなりそう尋ねてきた。
「言ったはずだぞ。
お前がどうこうなったら京都が地獄になる。
その為に「そうではない」ん?」
そう言うも、八坂は否定の言葉を口にした。
「『裏京都』に必要なのは『総大将』であろう?
ならば私が拐かされた時点で私を見切り、別の者を『総大将』に据え置くほうが主らには楽な筈だ」
そう理解しきれないと困惑を口にした。
確かにその通りだ。
極端に言えば『総大将』は誰でも構わない。
安倍晴明は『裏京都』の要を『狐』としたからそうであるだけで、術の一部を改変し起点を別の妖怪種に変える事も不可能ではない。
俺は懐から巾着を取り出し八坂に押し付けながら答える。
「芳赤からの遺言だ。
『俺のもう一人の母上を助けてくれ』。
その程度の手間なら誤差範囲だと思ったから叶えてやることにした」
「……ぉお」
渡した巾着の中身を察したようで、八坂は巾着を握りしめ嗚咽を溢す。
それを横目に俺は運び込んでおくよう頼んでいた物だろうトランクがあることを確認し、トラップの類に注意しながら蓋を開き中身が間違いないことを確かめてから組み立ていく。
「…これからどうするのだ?」
パーツを組み立てていると、ふいに八坂が尋ねた。
「奴らを殲滅する。
俺の身分に辿り着いた奴らは生かしておいたら面倒になるからな」
組み立て終えた
「あ奴らの事ではない。
お前の事だ」
「あん?」
作業を体に任せ顔を八坂に向けると、八坂の顔には疑念ではなく何故か
「初めて見えた時から不思議であった。
お前の裡は
そのように成り果てて、お前は何を成そうというのだ?」
あれか。
妖怪の基本能力ともいえる人間の感情の機微の察し易やが俺をそう捉えたのか。
そういえば、昔も同じように聞かれたことがあったな。
「何を…ねぇ?」
知ってどうすると言うのか?
妖怪とはいえ、
「聖書陣営を滅ぼす。
一万でも二万でも、幾度時間が掛かろうが必ず滅ぼす。
それが俺が成そうと思う事だ」
仮に『茶番劇』のご都合主義で
そうやって何千、何万、何億掛かろうと、最後の人間になるまで俺は聖書陣営を滅ぼす事を諦めない。
「無理だ。
人の子にその様な年月を耐える方法など在るはずがない。
たとえ人魚を喰らった
「どうかねぇ?
お前が知らないだけかもしれないぞ」
態々
「ならば何故
「ん?」
「さとり程では無いが妖怪は人の感情に敏感なのだぞ。
面を飾ろうと意味は成さん。
お前は、
………。
「怒りも、愉悦も、使命感さえお前には欠片もありはしない。
教えてくれ。お前は、何を「煩え」っ!?」
組み上げきった『豊和M1500』を突き付けながら俺は竦む八坂に殺意を向ける。
「一々人の腹の中身を探るんじゃねえよ。
俺は聖書陣営を滅ぼす。
それだけでいい。
それさえあれば
「お前は…お主は…」
殺気を叩きつけたのに、何故か八坂は恐怖ではなく哀れみを強くする。
「話は終わりだ。
直に陰陽寮から迎えが来るだろうから大人しくしていろ」
そう言い捨て、先程よりやけに重いと感じるようになったスナイパーライフルを肩に部屋を後にした。
〜〜〜〜
「…何故だ?」
舞沢が去り、一人残された八坂は悲嘆に染まる想いを口から溢す。
「何故に、誰も彼の者を救ってやらんのだ?」
八坂は理解してしまった。
彼には
彼の怒りは本物だ。
聖書陣営への憎しみも本物だ。
しかし、彼の裡、根本にはなにもない。
怒りも、憎しみも、悲しみも、愉しみさえ枯れ果て、只々、空虚な暗闇だけが全てだった。
あれに比べれば、我欲に目を晦ませ自分を拐かした『英雄派』のほうが余程
「高天ヶ原の神々よ。
主らはあの男を見てなんとも思わぬのか?
助けてやろうと手は出さぬのか?」
答えは無い。
当然だ。
彼らの主義や方針もあるが、なにより彼らを邪魔だと遮る
そんなことは知らない八坂だが、嘆き訴えながらもそれが叶わぬことは八坂も分かってはいる。
日本神話は、高天ヶ原の神々は悔しいと臍を噛んでも、怒りで我を失いかけても、目を覆う悲劇を前にしても、
隣で口を出してやることはあれど決して手は貸さず人の身のみで生きよと突き放し、ただ見届けるだけと自らに課し続ける事が彼らが人へ施せる『愛』であるのだから。
舞沢が口にしたのは、身の丈に合わぬ野望でも、実現不可能な妄想でも、狂気に見を窶した執念でさえ無い。
そのどれかならば八坂は憐れとは思わなかった。
そのどれかであってくれたならまだ救いはあった。
しかしそうではない。
「どうして、あのような男が人の子で
乾ききった復讐心。
それは最早復讐心等とは言わない。
『呼吸』だ。
何をしなくとも
八坂は舞沢の事は何も知らない。
しかしああまで成り果ててなお鬼にも悪魔にも成れない舞沢を憐れまずにいられなかった。
「薊。そなたの思い人も、あのような男だったのか?」
芳赤の母、薊が芳赤の父について語るときの隠しきれない憂いを帯びた顔を思い出し、八坂はそうそっと呟いた。
〜〜〜〜
「結界が消えた!?」
元の世界へと放り出された『英雄派』は、それが何を意味するかを悟り怒りの沸点を更に下げた。
「野郎…どこまでも舐め腐りやがって!!」
特に誰よりも馬鹿にされたヘラクレスの激昂は凄まじく、近くに居ただけの構成員達は八つ当たりに自分が殺されるのではと本気で怯えるほど。
「こうなったら街ごと消し飛ばしてやる!!」
「やめないか」
感情のままに『神器』を発動しようとしたヘラクレスを曹操が諫める。
「短絡的に走るな。
作戦を伝える。今すぐ全員集めろ」
自らの『神器』否、『神滅具』『黄昏の聖槍』を手に指示を下す曹操だが、怒りに呑まれているヘラクレスはそれに噛み付いた。
「短絡的だ?
すぐ側に居ながらレオナルドだけじゃなくゲオルグまでみすみす死なせたテメエが何を…」
八つ当たり混じりにそう責めるヘラクレスだが、曹操は最後まで言う暇を与えずその襟首を掴むと力任せにその顔を間近に寄せる。
「ああ、認めよう。
貴重な神滅具使いを死なせたのは俺のミスだ。
だから奴は必ず殺す。
他の誰でもなく、俺達の手で殺す」
心根では自身のみと吐き出したいが、しかし統制を失ったままでは鴨撃ちもいい所だと身を以て痛感させられた曹操は感情に蓋をしてそう嘯いた。
しかし完全に抑え込めず、体格差を無視し無理矢理覗き込まされた瞳の奥に灯るどろりと粘着くような炎を見せつけられ、それを覗き込まされたヘラクレスはひゅうと息を呑む。
「解ったな?
解ったなら返事をしろヘラクレス」
「……ああ」
一瞬でも呑まれた自覚がないままヘラクレスはそう答えると曹操は手を離し通達する。
「編隊を組み直す。
三人一組を作り、アサシンを発見次第集合。
全員で包囲するぞ」
一人なら楽に、二人でも反応させる間を与えず殺しきるだろう。
だが、三人同時ならばいかなアサシンとて一手打たせるだけの隙を晒すはず。
そうやって逃げ場を奪い、最終的に残った全員で総攻撃を仕掛ければどうとでもなる。
「今更だが奴には『神器』は無いがそれを補う武器と下衆の極みを容赦無く使う頭がある。
深追いはせず、上級悪魔と戦うつもりで慎重に行動しろ」
そう支持を締め括る曹操。
「…悪くない手だ」
スコープ越しに編隊を組んで散る『英雄派』を見ながら、引き金に掛けた指を一旦外して舞沢はごちる。
曹操の見立て通り、三人同時に暗殺を決めるのは舞沢とて困難を極める。
「やれば出来るなら、最初からそうしろよ」
虫を見るように無感動にそう吐き、舞沢はスナイパーライフルを構え直し一人目に狙いを定め引き金を絞った。
「ッ!?」
舞沢を探していたチームの一つ、その一人が突然ドサリと重い音を点て倒れた。
「隠れろ!!」
倒れた仲間を介助するのを諦め二人のうち片方、コンラはそう叫びながら建物の影に言葉通り『沈む』。
(何をされた!?)
(殺られた!?
野郎、狙撃銃なんて物まで持ってきているのか!?)
短絡的な考えだが、しかし、短絡故にコンラは正解を引き当てていた。
だとしたらマズイ!!
既にもう一人が襲われた事を伝える為上空に向け『神器』を放ち他の者に知らせてしまっている。
「逃げろ!!」
奴が次に狙うのは『神器』を使い隙を晒したもう一人だとコンラは叫ぶが、しかしコンラは見てしまった。
打ち上げた『神器』の光に照らされ、仲間の真後ろで長いバレルの銃口を頭に向けポイントする舞沢の姿を。
パシュン!!
ゼロ距離から放たれた弾丸は外しようもなく頭蓋を撃ち抜き、撃たれた仲間は当然即死した。
「うわぁああああああ!!??」
同じ人間を眉一つ動かさず殺した舞沢にコンラは恐怖から悲鳴混じりの雄叫びを響かせる。
「ちっ、」
舌打ちを一つ打ち、自然に見えるほど滑らかな動作で排莢と装填を済ませた舞沢は横に跳びながらコンラに向け豊和の銃口を向けるも、しかし全身を影で覆ったその姿に引き金を絞るのを止める。
「俺に銃は効かねえ!!
俺の『禁手化』
恐怖から発現した『神器』の『禁手』を無意識に理解したコンラはそう吠える。
「……」
対して舞沢は無言。
結果、恐怖に竦み動けないコンラはそれを攻めあぐねていると思い更に言う。
「どうした?
ビビってねえで掛かって来いよ!!」
全身を影で覆った為に外の様子は音でだけでしか把握出来ないコンラは舞沢に動きを与えようと挑発するが、しかし舞沢は無音のままに一分、二分と時間だけが過ぎていく。
(くっ、焦るな!?
奴は焦れて『神器』を解除するのを待っているんだ!
待てば援軍が来る、そうしたら俺達の勝ちだ!!)
そう自らを鼓舞し無音の時を耐えるコンラ。
更に一分が経ち、数時間とも感じられた睨み合いに変化が起きた。
『無事かコンラ!!』
「っ、曹操!!」
影に遮られ多少くぐもってはいたが、間違いなくリーダーである曹操の声に希望が宿る。
待ちに待った援軍の声に『神器』を解除しようとしたコンラだが、それを曹操の声が待ったを掛けた。
『動くんじゃない!!
奴はお前の周りに爆弾トラップを仕掛けて逃げている。
下手に動けば吹き飛ばされるぞ!!』
「なんっ…!?」
あんまりな言葉に怒りで絶句したコンラを落ち着かせるよう、曹操の声が掛けられる。
『すぐに解除する。
それまでその『禁手』を解くな』
「…ああ」
ぐつぐつと煮えたぎる怒りを堪え、曹操からの言葉を待つコンラだが、しかし一分と経たず状況は変わった。
『何を棒立ちになっているコンラ?』
「曹操?」
先程とは打って変わった怒りの籠もる声に戸惑うコンラ。
「俺に爆弾が仕掛けられているって曹操が言ったんじゃないか!?」
そう訴えたコンラに、怒りと呆れの交じる声が突き刺さる。
『それは俺の声を真似たアサシンの戯言だ間抜け!!』
「っ!?」
その言葉に堪えていた怒りが爆発する。
「野郎どこまで俺達をおちょくれば気が済むんだ!!」
感情のままに『禁手』を解き、薄闇の中に視界を取り戻すコンラだが、
「テメエ等が全員くたばるまでだよ」
ボンッ!! と小さな爆発音と共にコンラの首から上が弾け、その哀れな死は小さなネズミの目で見届けられて終わるのだった。
主人公は良識的な長命者に内側を見られると味方になりたいと思われやすいタイプと設定しとります。
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