「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」   作:サイキライカ

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アンケートのご協力ありがとうございました。

取り急ぎの投稿なので返信及び後書きは後で追加します。


そう、だったのか。

 『方舟』に一歩踏み込んだ瞬間、世界が変わった。

 土埃を巻き上げる乾いた風は穏やかで優しいそよぎに変わり、痩せた土の匂いは芳しい花の香りに変化した。

 裸でも寒さを感じなさそうな温かい日差しが差し、何処から流れているのか透き通った清流がさらさらと流れ、そこは、聖書に記された楽園(エデンの園)のような場所だった。

 

 いや、ようなじゃないのか。

 

 此処こそが聖四文字が創り出したエデンの園であり、アポカリプシュを終えた後に建国される千年王国の土台なのだろう。

 

「だからこそ、気に入らねえ」

 

 そう吐き捨て俺は適当に歩き出す。

 確かに此処に住めば悩みも苦しみも争いも知る事さえ無く居られるだろう。

 だけど、ここには()()()()()

 花は咲くばかりで枯れる事は無い。

 実は成るばかりで腐る事は無い。

 草木はあっても草木や花粉を糧とする虫はいない。

 実はただ食われるためだけの飼料に過ぎず、花は種を作るためではなく見るものを楽しませ香りを撒き散らすための芳香剤としての役割しか無い。

 天地の『氣』に陰はなく、聖四文字の作る陽の『氣』だけで成り立つ様は酷く歪に感じる。

 しかしそれは聖四文字だからと言う訳じゃない。

 須弥山も、崑崙山も、高天原も、ヴァルハラも、オリンポスも、善悪問わず神の住まう場所ってのは陽の『氣』しかないのが普通だ。

 ならば陰の『氣』とは何か?

 それは『死』や『穢』が集まる場所に在る。

 根の国や冥府、地獄なんが代表例だろうか。

 だからこそ、そこを統べる神は恐ろしい者や忌まわしい者と描かれる事が多い。

 実際会えば割と神としては気さくだったり残念だったりと人間にとっては善良な神が多い。

 閑話休題。

 ともかくこんな世界は()()()()()()

 そんな事を考えていたら目の前に場違いな扉が一つ。

 宛もなくふらついていたが、どうやら目的地についたらしい。

 壁はなく扉しか無いそれに俺は()()()()()()()()()()()を差し込み回す。

 

 カチャリ

 

 刺さった鍵は軽い音を立てて回り、手を離せば自然と扉が開いた。

 開いた扉の向こうには他と変わらぬ草原が広がるが、俺は気にしないで戸を潜る。

 すると、また世界は一変した。

 楽園は潜った扉と共に消え、世界の色は白一色。

 何も無い世界の真ん中に、ポツンと佇む人影だけが世界の全てになった。

 

「…来たか」

 

 ハデスの隠れ兜を被っているのに、曹操と名乗っていた男を器とした聖四文字は正確に俺を見据えて口を開いた。

 最大の売りが効いていないなら邪魔になるなとハデスの隠れ兜を脱ぎ捨て俺は言う。

 

「初めましてと言うべきか?」

 

 無駄と知りながらもいつもの態度を取ってみるが、やはり聖四文字は淡々と言う。

 

「否。

 久しいと言うべきだろう」

 

 そう、聖四文字は俺を『ペトロ』と呼んだ。

 ギチリと、魂のどこかが軋んだ気がした。

 

「それは()()()いた誰かの名前だ。

 俺に名前はない。

 テメエに反逆する、ただのテロリストだ」

 

 湧き上がる怒りのまま感情をぶつけると、聖四文字は何故か不思議そうに口を開いた。

 

「何故怒る?」

「…あ゛?」

 

 テメエ…

 

「私が()()を成さねばお前達が滅びてしまうのに、どうしてそれを成すことにお前達は怒りを積もらせるのだ?」

 

 まるで理解出来無いと言いたげに聖四文字は問を続ける。

 

「最善だぁ?

 んな真似しねえでも、適当にやってりゃあ大体上手く帳尻ってもんは揃うんだよ」

 

 そう吐き捨ててやるが聖四文字は否と言う。

 

「適当では足りないのだ。

 それで行き着く先はお前達の種の終わり。

 それを回避する為には()()でなければならないのだ」

「最善最善、だったらエルサレムでやった事も最善だったと言うつもりか!!??」

 

 積年の怒りを言葉にしてやれば、聖四文字はそうだと言いやがった。

 

「あの地を治めていたソロモンは完璧であった。

 だが、ソロモンの次の王の統治でエルサレムは崩壊していた」

 

 後悔も寂寥も感じられない目で聖四文字は言う。

 

「あのまま次代の王に引き継がれた先のエルサレムはソロモンを失い均衡を崩した78柱の神々による覇権争い。

 それは3000年経とうと終わることはなく、エルサレムは今日よりも先まで神の呪詛が蔓延し人が生きるに能わぬ死の大地となっていた」

「だから天使の横暴を許したってのか!!」

 

 燃え盛るエルサレムで全てを無くし、シバの女王の躯を抱いて慟哭するソロモン王の姿を思い出して怒鳴る俺に、それでも聖四文字は感情もなく告げる。

 

「確かに天使の献策は()()ではなかった。

 しかし、お前達の滅びを退けることは十分に叶う。

 そして天使が自ら捧げた策を無為と斥けては、私の不在の間に天使達が私の命無く動く事も無く、そのままお前達が滅びを迎えていた。

 天使達の献策はお前達の滅びを退けるため()()を成すために必要だった」

「人類が滅びなきゃ誰が死のうと何でもいいってのか?」

「お前達の先に待つ滅びの大きさは()()を尽くして漸く退けられる程大きいのだ」

「テメェ…」

 

 やっぱり会話なんざ無駄だったんだ。

 どんだけ感性が近くても、根本的な部分では神と人間の考え方が決して折り合うことは無いってのは理解していた。

 だが、こいつはそれ以前の話だ。

 突き詰めた話、神にとっちゃあ人間なんざ牧場の牛や豚と同じもんだ。

 神がどれだけ愛情を注ごうがそいつは目下に向ける、自分達に益を与える価値ある動物に向けるものでしかない。

 決して対等ではない。

 だが、聖四文字のそれは家畜に向けるものでさえない。

 ぶっちゃければストラテジーゲームのモブ。

 全滅さえしなければいくらでも替えが効く()()でしかないんだ。

 ヨシュアが鍵を預けてまで願った頼みだが、いくらなんでも限界だ。

 殺されて終わるにしても、せめて腕一本は奪ってやる。

 そう聖四文字を仕留めるための『切り札』に手を伸ばした俺に、聖四文字は言う。

 

「ペトロよ。

 人は何故、誤った道へ自ら進むのだ?」

「そんなもん…」

 

『それが愉しいからだ』

 

 一生悩んでろと吐き捨てようとして、そう、古い記憶が浮き上がってきた。

 

「…ビルガメシュ王」

 

 人類史に名を残す最古の英雄にして人の身で全知全能を得た偉大なる()()()

 彼とただ一度だけ謁見を許された、その時の王とのやり取りを思い出した。

 

〜〜

 

 ビルガメシュ王は、当時の価値観から逸脱し過ぎていた破天荒な人だった。

 国政のために神を崇めているが信仰心は皆無。

 国中の女の処女を散らしたのに一人も孕まさず手元にも残さず全員国の男と結婚させる。

 神から送られた自分への刺客を育成してから戦った挙げ句親友となる。

 他にも色々あったが、とにかく滅茶苦茶だが民からは愛されていた王だった。

 どの程度かと言うなら、不死の探求で出奔し、そして帰ってきてウルクを再建すると宣言したら元ウルクの民が自分の意思でウルクに戻ってくるぐらいだ。

 その頃の俺といえば、ぶっちゃけてしまえば転生の夢から醒めて心が折れたモブでしかなかった。

 自分にある知識なんて現代文明ありき、現代倫理があって初めて意味を持つものだと思い知り、またビルガメシュとエンキドゥの一大決戦を見せ付けられ、杉の森のフワワ討伐に参加し役に立たず、グガランナ襲撃に成す術もなく死にかけ、身の程というものをこれでもかと叩き付けられただのモブの兵隊として神殿で決められた嫁と間に産まれた子供との生活を守ることを目標に生きていた。

 ビルガメシュ王はどういった訳か、そんな野郎を直接名指しして呼び付けたのだ。

 抗命なんて自殺と変わらない時代だから逆らう事など考えられる訳もなく、言われるままビルガメシュ王に拝謁した俺だが、開口一番が正にビルガメシュ王だった。

 

「ふむ。やはり普通だ」

 

 一体何がしたいのか伏しながら困惑する俺にビルガメシュ王は愉しそうに俺に言った。

 

「楽にしろ。

 俺に殺されたくなければな」

「は、はぁ」

 

 いや、なんで?

 言われた通りにしながらハテナマークで頭の中を埋めている俺にビルガメシュ王は言う。

 

「お前は普通だが面白い相をしているな。

 安寧は薄く、過酷に苛まれながら這いずり廻る未来が見える」

「ぇぇ…」

 

 なんだよソレ?

 

「だが、お前は折れはしないだろう。

 這いずり廻りながら僅かな藁を幾つも掴み、それを束ねて綱を作り、それを以て宿願に手を届かせる。

 実に面白い相だ」

 

 ……えぇっと、

 

「どうした?

 はっきり申せ。不敬罪で殺されたいのか?」

「自分は褒められているのですか?」

 

 やると決めたら本気で殺されると理解していたから、もうどうにでもなれとヤケになり俺は思ったまま口にした。

 

「分からぬか?」

「申し訳ありませんがさっぱりです」

「そうか」

 

 と、間をおいてビルガメシュ王は何故か笑い出した。

 

「そうだとも!!

 ()()()()()事は大事なのだ!!」

 

 何がツボに入ったのかとても愉しそうにビルガメシュ王は嘯く。

 

「全知全能など()()()()()だ。

 先の分かる生の何が愉快なものか。

 そんな生など俺はいらん!!」

「俺が居なくなったウルクは千年と続かず滅びるだろう。

 俺の作った墓とて、いずれ俺を崇めぬ盗人に荒らし尽くされ何処にあったかもわからなくなるだろう。

 だからどうした?

 それでも俺は不死より死を選ぶ。

 集めた宝を詰めた俺の墓を建てる。

 何故ならそれが()()()からだ」

「覚えておけ俺の民。

 それがどんなに愚かに見えようが、()()()から人は生きるのだ。

 見えぬ明日、暗い夜の先、その先に待つものがなんなのか知らないことが()()()のだ。

 それすら知らぬ者に教えてやれ。

 人は、()()()()()()()()()()から生きていけるのだと」

 

 そう言って、ビルガメシュ王は俺に退くよう告げた。

 

〜〜

 

「ああ、そうだよなビルガメシュ王」

「?」

 

 さっき迄燃え盛っていた激情が質を変えたのを理解した。

 

あの馬鹿(白音)が教えてくれたんだよ。

 俺はまだ、なんも知っちゃいねえって(愉しめるんだって)なぁ!!」

 

 聖四文字への怒りは変わらない。

 だけど同時に憐れだと()()()知った。

 

「教えてやるよ聖四文字。

 人間はなあ、知りたいから間違えるんだ(愉しめるんだ)

 

 崖が危ないと知っていても、そこから見える光景が知りたくて崖に近づく。

 食べたら死ぬ毒と知っていても、それが新たな味への道だと知りたいから毒を口にする。

 死が恐ろしいと知っていても、自分の限界が知りたいから人は戦い続ける。

 

「お前はどうなんだ聖四文字。

 お前は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「そのような()()は必要ない。

 それは()()を妨げる」

 

 やっぱりか。

 そう答えた聖四文字に、俺は心から言葉を叩きつけた。

 

「憐れだよ聖四文字。

 お前はその()()を知らないから、誰にも認めてもらえないんだからな!!」

 

 そう俺は懐から『切り札』を引き出した。




聖四文字が目的を達成するには未来を見て最適解だけを選ばねばならない。

難易度で言うなら周回禁止でペルソナ3(初期)のフルコンをする程度。
またはトロピコで恐怖系独裁者完走か?

それに種全体を守ろうとするから山程零れ落ちる。

だから全知全能でない者からは余計なこととしか映らない。

必要だとしても可愛そうな話だよね(暗黒スマイル)。

次回は切り札公開。
一話目から仕込み続けた伏線が漸く回収出来る‥

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