「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」 作:サイキライカ
聖四文字はどうやってあれだけの神器の素材を『生前』に集められたのか?
『システム』の存在に回答を与えたが、そもそもその本来の意味とは?
高々1勢力の崩壊が世界全部を狂わせる要因とは?
そして、なんで原作にあの神話が存在しない?
そんな疑問をジョグレス進化させてみました。
懐から引き出したのはオーフィスから貰った蛇の一匹と1冊の本。
「『無限』の欠片、それにそれは…」
本の正体を見通したらしく困惑する聖四文字を無視し、俺は蛇を握り潰して無色の膨大なエネルギーを周囲に配しながら
『いあ いあ んぐああ』
冒涜的で、およそ人間に発することは不可能と言えるだろう聞くだけで吐き気のする発音を、人の身で無理矢理再現しながら俺は唱える。
「人の子の作った空想の神の呪文?」
今この場でそれを用いる事が理解出来ないと戸惑う聖四文字。
ああ、戸惑うだろうよ。
クトゥルフ神話に纏わるアウターゴッドは、その一切がこの宇宙に存在しない。
奴等はお前が、《記憶を消してまで》全て残さず地球から排斥したんだからな。
『んんがい・がい!いあ いあ んがい ん・やあ ん・やあ しょごぐ ふたぐん!』
遍く神話、数多の神仏修羅がこの世界に存在する中、クトゥルフ神話だけがこの世の偽りの神話として在る。
何故か?
それは一人の小説家が産み出した架空の存在であるから?
否。
須弥山の一部の神はヒンドゥーに語られる神の別側面であり、ディーヴァが存在している以上居るはずがない。
だが、現実にはディーヴァとは別にそれ等は須弥山に属する一柱の神として確立している。
それは人がそう信じ
信仰という土台を得ることで、新たな神が生まれてくる事は八百万を知っているなら理解出来るだろう。
それはどんな神にも当て嵌まる。
そして
ゼウスとユピテル、シヴァの別側面とされるマハーカーラと大国主、大日如来と天照大神、迦楼羅天とガルダ、シッダールタとヴィシュヌ、ヨシュアと聖四文字。
人間の信仰心とはそれだけの力があり、信仰心さえあれば神と神だけでなく人さえ神と集合されてしまうのだ。
故にクトゥルフ神話だけが一柱の神も誕生しなかったなんていう話は無理がある。
ならば時間が足りなかった?
これも否。
八百万を見ればわかるだろう。
神が生まれるのに時間は必要ない。
必要なのは実在を信じ捧げられる信仰心。
クトゥルフ神話が語られ始めて百年近く過ぎた。
その間に熱心なファンが多く生まれ、中には作中に語られる儀式を本気で行うような馬鹿まで現れた。
その中で誰一人として、その実在を本気で信じていなかったなんてことがあるだろうか?
何よりアウターゴッドのホームグラウンドは外宇宙そのものであり、本来の信者は外宇宙の生命体なのだ。
その信仰心が在るのだから、そもそも地球に信者は必要ない。
ならば何故地球で語られていながら存在しないか?
答えは逆。
クトゥルフ神話とは、ハワード・フィリップス・ラブクラフトの幻想から生み出されたのではなく、ハワード・フィリップス・ラブクラフトが
それを成したのが聖四文字だ。
聖四文字は地球から邪神を排斥するために、地球の中で隔たっていた各神話を統合再定義し戦力を集めて対抗するよう訴えた。
次いで『システム』を作ることで全ての神が地上からの信仰心に依存しなくても存在出来るようにし、十全の力を振るえるようにした。
そしてアウターゴッドを彼方へと追いやった後、何らかの要因から奴等が帰還を果たした際の対策としてトライヘキサを生み出した。
最後にその僅かな可能性さえ消し去るため、自らを含む対邪神に関わった全ての神仏の記憶からアウターゴッドに関する一切を抹消する事で、地球からアウターゴッドの痕跡を完全に抹消した。
全知全能の神による執拗なまでの排斥はその目論見通りに進み、アウターゴッドはこの宇宙から完全に弾き出され、クトゥルフ神話は神の軌跡を遺す逸話から人間の空想に墜ちて地上から消失した。
だが、成した偉業が
世界の統合により神話感の隔たりは消え、各神話の神は終末を行う余暇さえ無くなり互いに信仰心の奪い合いをする羽目になった。
だが、アウターゴッドの侵入を拒む為に生み出した『システム』により信仰に依らない神の存続を約束された為、神々は地上への干渉の必要が無くなり、神々の力を行使するぶつかり合いで無限に肥大するだろう被害も馬鹿にならないと、自ら戦い奪い合うのではなく人間達に誰を神と仰ぐかを自らに選ばせ、同時に星の覇権を握るに足るよう管理の手を離し自立して行くのを見守る決意をした。
なお、日本神話だけは世界が統合される前から人間の管理を手放していたから例外としておく。
それを怠惰と認識した聖四文字は、アウターゴッドとの戦うため多くの神話から掻き集められた神宝を人間が使えるよう神器としてデチューンし『システム』を介して分配されるようにし地上にばら撒いた。
与えられた人間にとって、それが福音などではなく、過ぎたる力が巻き起こす災厄の種火となるなんて、感情を介した思考が出来ない聖四文字は考えもしなかった。
そして聖四文字が成した偉業は、
聖四文字はアウターゴッドを排斥したが、知識の収集のため人間と精神を交換していた『イスの偉大なる種族』が地上に取り残されていた事を見落としていた。
俺が偶然接触した奴等は、『システム』の影響で偉大と呼ばれる由縁たる時間の秘密を窮めた奥義の全てを使えなくされ、精神交換を用いて眼前の滅びを延命するだけの存在にまで落ちぶれていた。
いや、俺の『忘却補正』という呪いさえ無ければ目論見通りに行っていたのだから、捨ておいて問題ないと見落としていたのではなく見逃したが正確か。
寄生できる生命体が人間だけという脆弱さ故に精神交換を多様せざるを得なかった『イスの偉大なる種族』は存在基盤たる精神を酷く摩耗させ、新しい身体に移るのさえ賭けになるほど弱っていた。
しかし自らの滅びよりも自らの知識の断絶を嘆く『イスの偉大なる種族』に、俺は聖四文字を打倒する手段に繋がるのではと決して忘れないという俺に掛けられた呪いを打ち明けその継承を持ち掛けた。
『イスの偉大なる種族』は俺の呪いを知り、喜んで知識の全てを継承させて消滅した。
まあ、しかしその全てが宝の持ち腐れになってしまったのだがな。
なんせ外宇宙由来の魔術にしろ科学にしろ
それを人間の身で再現しようとしてもスペックが足りない。
星の公転を利用した宇宙そのものを魔法陣に見立てた大規模術式と莫大な供物で底上げしても、『システム』に遮られ邪神の召喚はもとより叶わず、外宇宙の魔術も良くて本来の出力の十分の一に届くか否か。
普通で不発、悪くて発狂死という役に立たない事この上ないものでしかなかった。
科学は素材が無い上に理論が『システム』に遮られ可能な限り近付けた模造品さえガラクタと化す。
だが、今この場、この瞬間に限り、その制約が解かれた。
神の世界とは則ち異界。
『システム』の影響は薄く、物理法則さえ捩子曲がる
だからこそ、俺はこの場でアウターゴッド『ヨグ=ソトース』の召喚に踏み切った。
『いあ いあ い・はあ い・にやあい・にやあ んがあ』
「…!? 止めよペトロ!!
アウターゴッド達を地球に呼び戻してはならぬ!!」
聖四文字の全知全能がこれから起きる事の結末を捉え、危険から抹消した記憶を甦らせたらしく初めて聖四文字は感情の籠もった声を発した。
だが、もう
全知全能なら分かるだろ?
『システム』が無い中でここまで進めた召喚を中断すれば、捧げられた魔力に惹かれ連中は無秩序に飛来して手が付けられなくなる。
加えて『ヨグ=ソトース』はクトゥルフ神話に魅了されたイカれた書き手により、
仮に今ここで俺を殺し儀式を中断させ、その影響で他の邪神共の興味を失ったとしても、テメエと同一視された『ヨグ=ソトース』の到来だけは避けようが無い。
今お前に出来る
それが感情を介入できない奴の
『んんがい わふる ふたぐん よぐ・そとおす!』
再現した地球の環境では生まれようもない異形の発声器官から生じる狂気の音色が空間を犯し、オーフィスの蛇から汲み上げたエネルギーを対価に奇跡が始まる。
空が引き裂かれた様に割れる光景に視覚が、その裂け目から玉虫色の血が溢れて身体を濡らし嗅覚と味覚と触感が、その奥に広がる極彩色としか認識しようもない色の光が溢れる世界から届く人類が聞いてはならない音色が聴覚が、五感全てから逃げる場所を奪い魂を狂気に染める。
しかし狂気の汚染は一定まで進むと不自然に止まった。
『種族固定:人間』の
「
聖四文字はヨシュアの死を確定させた槍を握る右手に紅い篭手を、その背にメカニカルな白いコウモリの羽を生やした。
『赤龍帝の篭手』に『白龍皇の光翼』か。
聖四文字の手にあるっつう事は、今回ではまだ二天龍は宿主を得ていなかったらしい。
『おのれ聖書の神!!
俺達をこうまで愚弄するか!!』
篭手から俺でさえゾッとする程の赫怒を孕んだ殺気を撒き散らすブリテンの赤き竜ごと『ア・ドライグ・ゴッホ』。
『貴様は何処まで貶めれば気が済むと云うのだ!?
赦さん!! 何があろうと貴様だけは赦さんぞ!!』
同じように翼からもサクソンの白い竜こと『グウィバー』も、気が弱い者の心臓ぐらいは止めるだろう程の殺気を放つ。
しかしその二つの憎悪を浴びながらも聖四文字は構う様子さえ見せず神滅具の力を発動する。
『Boost‼ Boost‼ Boost‼ Boost‼ Boost‼ Boost‼』
『Divide‼ Divide‼ Divide‼ Divide‼ Divide‼ Divide‼』
赤龍帝の篭手の『倍化』に必要な時間を白龍皇の光翼の『半減』を用いて短縮し、ヨグ=ソトースを返り討ちにするのに必要な力を信じたくない速度で溜めてのけた。
ちっ、当初の予定通りに邪神を呼び寄せていても、ああやって切り抜ける算段だったって事か。
にしても、二つの神滅具が内包する呪詛は簡単に人を狂わせるだろう事がここからでも見て取れる。
歴代の奴等が神滅具に取り憑かれ身を滅ぼされたのも当然という話だ。
本当に神滅具は
そんな思考を切り上げ、俺もまた儀式を最終段階へと移す。
『よぐ・そとおす!いあ!いあ!よぐ・そとおす!おさだごわあ!』
呪文に呼応してか、裂け目からヴェールを被る顔の見えない人間のようなナニカが現れた。
そのナニカは手にした銀の鍵を中空に挿すように動かすと、ゆっくりと鍵を回した。
カチリ
決して開いてはいけない戸の鍵が外された。
その音を聞いた瞬間、俺は彼方へと呼び掛けた。
「来たれ、あらゆる大地、あらゆる宇宙、あらゆる物質を超越する、『最極の空虚』!!
その身を戸口とし、始まりも終わりもない世界への道を開け、『ヨグ=ソトース』!!」
直後に目を閉じたが、閉じる刹那に薔薇の香りと共に世界に太陽に匹敵する閃光を放つ玉虫色の玉が虚空に溢れかえったのを見てしまった。
コンマ一秒にも満たないだけの直視で魂がごっそりと削られたような喪失感に襲われたが、辛うじて耐える。
「消えよアウターゴッド!!
貴様達に人の子の未来は決して渡さん!!」
聖四文字の咆哮のすぐ後に、瞼を通してさえ眼球を焼くような閃光と鼓膜を破砕しかねない爆音が世界を覆った。
閃光はすぐに収まり、再び目を開けた先からは狂気に満ちた世界は消え去り、疲弊した聖四文字だけが佇んでいた。
「…くっ!?」
余程負荷をかけたのだろう、二天龍を宿した神滅具は塩の塊の様に白く色褪せて砕けて砂となりつつあり、聖槍も亀裂が入っていた。
一世一代の大魔術は敗北に終わった。
「聖四文字!!」
疲弊した姿の聖四文字目掛け、すべてのチャクラを廻しながら大地を蹴り、柄を伸ばしたドゥリンダナを抜き様突き出す。
「ぐぅっ!!」
完全な不意打ちであった筈が、しかし聖四文字は聖槍を振って刺突を弾く。
しかし攻めを止めない。
いや、ここで止めたら勝機はマイナスまで落ち込む。
一度限りの切り札を切ってまで漸く見えたこの勝機、絶対に取りこぼしてなるものか!!
「何故だ!?
何故お前達はそこまでしてしまうのだ!?
滅びが恐ろしくないのか!!??」
槍捌きで応酬を繰り広げながら吐き出された
「だったら、テメエは見た事が有るのか?
お前が散々喚いた滅びの先に、何があるのかを!!」
「滅びの先にだと?
そんなものに意味など」
「それを
「!!??」
叫びに反応してか聖四文字の動きが僅かに惑い、ドゥリンダナの穂先が聖四文字の身を裂く。
「人間は、知らない事が恐ろしい以上に、知らないことを知るのが愉しいんだよ!!
だから、滅びが待っているってなら、
「その果てに何もないとしてもか!?」
徐々に傷を増やしながらも問い続ける聖四文字。
「だったらその先に、新しい何かを作るのが
どれほど愚かしくても前に進み続ける。
滅びの末路があるなら抗い尽くす。
それでも駄目なら手段を選ばず新しい可能性を残す。
全てはそう、
「それが、
叫びと共に力の限りを込めてドゥリンダナを振り抜き聖四文字へと突き立てる。
ドゥリンダナを防ごうとした聖四文字だが、度重なる負荷に聖槍が先に音を上げて砕け、遂に聖四文字を貫いた。
遂に聖四文字撃破。
聖四文字の尽力と二天龍の犠牲によりアウターゴッドの驚異は取り敢えず遠ざかりました。
だけど神を殺すために人類の存続を危ぶませた主人公。
こいつは正に邪悪ですねぇ…
ラスボスは撃破しましたが、このままエピローグに進む…なんて誰が言った?
最新話の位置について
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このままアナザールートの後でいい
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以前の状態に戻したほうがいい