僕の押しは猟犬とか言ってたキレッキレなマンカヘちゃんでした。
今はタキオン氏。ダスカ嬢をポキオン遺伝子から救うためにモルモットにしてダスカ嬢にツンツンされて内心オロオロするタキオン氏ください
5月も終わりが近づいてきた東京競馬場。G1レースが開催される日は結構混雑するのが恒例であるがこの日の混雑具合はほかのG1レースとはやはり一線を画したものになる。やはりダービーといったところか。ウマ娘に携わる者ならその勲章の重みを知らない者はいない。
「それでどうしてお前がこんなところにいるんだ」
「私とてウマ娘だぞ。ダービーくらい見るさ」
「この前負けたのにか?」
そういって私の友人、ヒシアマゾンは私にいぶかしげな眼を向ける。まるで私が悪いみたいじゃないか。そういう扱いは少々傷つく。まあ普段のダービーだったら先日の新潟大賞典に負けた私はおそらく来なかったし事実‘以前‘私はこのダービーは生では見ていない。しかし今日は私にも目的があるのだ。
「まあいいや、誰の応援だ」
「エルコンドルパサー」
「エルコンドルパサー?お前があのエリートを‼お前本当にトラップか?そもそも知り合いだったのか?」
「若干失礼じゃないかアマさん。ちょっと好みが似ててね。用品店で何度か会ってるうちに知り合った。それで少しダービーに向けての調整の手伝いを依頼されてね。せっかく調整付き合ったんだし成果が見たくてね」
そういってごまかす。エルが目的なのは本当だが応援なんてする気はない。私は生憎他人を応援している余裕などないのだから。私が気になるのは【勝ちウマ娘が変わるのか否か】だ。こうやってエルがダービー出走までこぎつけたのは私は知らない。走るウマ娘が一人変わればレース結果など如何様にも変貌する。これは派手な奴や強い奴が入ればなおさらだ。強い奴は言わずもがな。派手な奴はその走りによってペースを乱したり波乱を演出する。どちらも地味でイマイチな私には縁遠い話であるのが悲しいことだが。
「お前が他人の調整の手伝いね。そういうのうっとうしがりそうだけど」
「私も上級生だしな。後輩の頼みくらい聞くさ」
疑念を含んだアマさんの言葉に思ってもいない言葉で答える。アマさんも納得していないであろうから話をそらすように私は口を開いた。
「そういえばサイレンススズカ、移籍したらしいな」
「アタシも一緒のチームでやりたかったんだけどな。おハナさんの指導に背いたとかで⋯⋯おハナさんも頭硬えよな。それくらい水に流せばいいだろうに」
「そう簡単にはいくまいよ。それはリギルにいるアマさんがよくわかっているだろう」
なるほど。スズカはリギルの管理指導とは合わなかったわけだろう。東条トレーナーはあのシンボリルドルフ会長を育てたトレーナーだ。ルドルフ会長を成功のモデルタイプと考えるならばスズカの理想とする走りとは乖離が出てきてしまったのだろう。目の前のアマさんはそのモデルタイプから大きく逸脱しているが。
「方向性の違いというやつか。それで埋もれてしまうくらいだったら外に出た方がいいな。才能をくすぶらせてしまうのはトレーナーもウマ娘も報われない」
「ああ。だけどあたしは今のスズカの方が好きだぜ。楽しいタイマンができそうだしな」
それは同感である。私もアイツに勝たなければいけない。強いスズカに勝たなければならない。あの勝利を私のモノにするために。
「一緒のチームでなくなったのは残念だけどダチなのには変わりないしな」
そういってアマさんはスズカとの対戦が楽しみなのか笑顔を浮かべるとそのまま私を見て言葉を続けた。
「それにアタシはお前とも走りたいんだぜ。早く重賞勝ってG1出てくれよ」
「ああ、お世辞だとしても嬉しいよ」
リギルは関係者席から観戦していることが多いためそっちに向かったアマさんと別れ私はターフに近い一般席の方に来ていた。そろそろ本馬場入場の時間であるため続々とパドックから人が集まってきて混雑している。
「ちょっといいか。横開けてもらって」
「ああ、構わない」
かけられた声に反応すれば少し狭くなるため若干嫌々といった感じではあるが横に詰める。混雑することがあらかじめ予想されるのだから余裕をもって行動してもらいたい。そう思いながらやや非難のまなざしで入ってきた集団を見やる。
「⋯⋯サイレンス、スズカ」
「私がどうかしましたか?」
その姿に思わず私はつぶやいた。あの日忘れもしない、忘れたくても忘れられない幻影を、屈辱を私に刻み付けたウマ娘の姿がそこにあった。よく見れば周りには何人ものウマ娘がおりその中にはあのゴールドシップの姿もある。ということは彼女たちはチームスピカなのだろう。
「いや何でもない」
いざ彼女を前にするとなんて言えばいいのかわからない。あの時の事はまだ起きていないことだから私と彼女の縁は全くない。もはや一方的な因縁である。
「なんかスズカさんの事睨んでない、アイツ」
「なあ、ちょっと感じ悪いし」
「おいお前ら‼悪いな、オフサイドトラップ」
「いえ、別に。というか私の事知っているんですね」
周りの後輩たちが私の陰口を言っていたが愛想がないことは自覚しているし私のスズカに対する視線が悪かったのも事実だ。そんなことよりトレーナーと思われる人が私の事を知っていたことの方が驚きである。
「ああ、いいウマ娘だってな」
「そうですか」
私は相手の顔を見ずに答える。私自身がいいウマ娘なんかじゃないことは理解している。無事是名ウマ娘。いいウマ娘はそもそも怪我なんてしない。
「聞いたことないわよ、オフサイドトラップって」
「俺も―」
「お前ら」
「いいんですよ。私に何の実績もないのは事実だ」
トレーナーは口が悪い二人を咎めようとするが私はそれを制する。ジュニアクラスの子にはよくあることだ。それくらいで角を立てたりはしない。そんなやり取りのうちになにやら考え込んでたスズカが口を開いた。
「オフサイドトラップさん。私、あなたと走ったことありましたか?」
「⋯⋯ないよ」
私が一言つぶやいたところで府中競馬場にまもなく発走を告げるファンファーレが鳴り響いた。
レースは予想通りの展開となった、私の知識と照らし合わせるとと注釈はつくが。私の知識通り大方の予想を裏切って鼻に立ったのはキングヘイローだった。それと競り合う形でセイウンスカイが追従しスペシャルウィークとそれをマークするような形でエルは中段に構えていた。エルの狙いはあからさまにスペシャルウィークだろう。以前はあんなにもライバル視していただろうか?スペシャルウィークの走りがエルに何らかの影響をもたらしているのか?そうだとすればもしかしたらアイツの走りが私のたどった運命と違う可能性を見せてくれるかもしれない。
私の口角が吊り上がりそうになる。まだだ。まだレースは終わってないんだ。
歓声が徐々に大きくなっていく。四角を曲がりキングヘイローが先頭で府中の長い直線に入ってくるもおさえていたセイウンスカイに4のハロン棒付近で捕まる。しかしセイウンスカイはマイペースで走っていたわけではない。明らかに消耗している。
坂に差し掛かり控えていたスペシャルウィークが飛び出してくる。セイウンスカイに並ぶことなく一気に抜き去っていく。いや、いくらセイウンスカイが消耗していたからと言ってこんなに簡単に抜きされるほどスペシャルウィークは強かったか?ダービーはやはりスペシャルウィークが勝ってしまうのだろうか?
スペシャルウィークが予想以上の好走をしているのは私の知識とは違う事象だがスペシャルウィークが勝ってしまっては私の知識どうり、運命は変わらないのではないか。
そんな私の迷いを吹き飛ばすように歓声はさらに大きいものになる。エルがものすごい末脚でスペシャルウィークを差し切ろうとしていた。ああ、大勢は決した。エルの出走によって変わるかと思ったが結果は順当で⋯⋯
「スぺちゃああぁん」
隣からひと際大きな声が響いた。それにこたえるかのようにいっぱいだった筈のスペシャルウィークの足が再び速度を上げエルに迫ろうとしていた。
「嘘だろ」
思わずこぼれた私の声は声援の中に消えていった。完全に同時にゴールを走り抜けたように見えた。スペシャルウィークにこんな力があっただろうか。それは三着との着差を見ればわかった。
エルが参戦を決めた原因もおそらくスペシャルウィーク。
食らいつくはずもないだろうと思ったエルに食らいついたのもスペシャルウィーク。
以前の私の知識を超えていくのはスペシャルウィーク。
「特別な一週間か」
お前はこの世界における、私の計画におけるスペシャル足りえるのだろうか。
オフサイドトラップ氏のイメージ
茶髪のセミロングで目つきは悪くないがやや暗い感じがありブライアンコンプレックスから鼻に絆創膏をしている。勝負服は過度の装飾はなく黄色を軸に青い縦線の入ったサッカーユニの上に赤いパーカーを羽織っているような感じ。