「……」
「言ったよね。アプリはまだ来ない。サカつくはSWCC終わりひと段落ついた。天皇賞前には天皇賞の話を出したい。この結果は何」
「サカつくはワールドツアーがあり何よりウイニングポストが面白く。当然の結果、いやすいませんでした」
「もういいよ、私競馬やめる」
今回トゥインクルシリーズとドリームシリーズの設定が出てきていますがこれはこの小説だけの設定です。
『スペシャルウィーク、秋の天皇賞に出る気はないか?』
脈絡もなく他チームである私から放たれた言葉の意味が分からなかったみたいなのかスペシャルウィークはポカンと口を開けた。そしてだんだんと理解をしてきたのか顔に喜びをにじませて口を開いた。
『スズカさんと走れるんですかー』
『ああ、代わりに菊花賞は出れなくなるだろうけれど』
『あうー』
私がおそらく忘れていたであろう事実を口にすればその場で悶々と考え始める。そんなスペシャルウィークを見てゴールドシップは私の方を睨みつける。すまないね。どうやら私の勝ちみたいだ。
そう思っていた。
『すいません、トラップさん。私の事を考えてくれたんですよねスズカさんと走りたいって言ったから。でも私は菊花賞に出ます。日本一のウマ娘になるために。それにスズカさんと約束しましたから。』
『ジャパンカップで一緒に走ろうって』
スペシャルウィークの答えは想定外だった。黄昏に染まっている広場がだんだんと暗く染まっていくのはまるで自分の心を表しているかののように思えた。
おい、やめてくれ。お前に断られたら、どうやってアイツを救えばいいんだ。そうみっともなくすがるように無様にスペシャルウィークに手を伸ばそうとする。心が押しつぶされてぐちゃりと漏れだすように口から私が見た悪夢の出来事がこぼれ出そうになる。
『っジャパンカップの時には……』
『なんか言いました?トラップさん』
言えなかった。彼女の眩しいまでの笑顔を前に、そんな残酷なことはできなかった。今にも絶望しそうな気持ちを抑え込み何もかたらず二人の前から去った。
目論見が失敗してから早幾日。どこか上の空で過ごしていた私は感謝祭ということなどとうに忘れて部屋でボーっとしていたところをアマさんに強襲されて強引に連れ出されたのがだいたい二時間前。そして今は
「アマさん、これ愛想のない私には向いてないだろう」
「うるせえ、部屋に引きこもっている暇があるならお前も手伝えってんだ」
『ちびっこ探検隊』という札を掲げて感謝祭にきたちびっ子達の相手をしていた。おいそこの少女。尻尾はは引っ張るな。
「知り合いならローレルとかの方が適任だろう。あのマヤノとマーベラスと付き合っているんだから」
サクラローレル。私たちと同期でありながら活躍をしたのは結構遅い晩成型のウマ娘。クラシック時代は私と同じようにブライアンの後塵を拝しており、次の年を私と同様に、私よりも重い怪我で棒に振るうものも翌年に復活。春の天皇賞を制覇。一つ年下のマヤノトップガン、マーベラスサンデーとともにトゥインクルシリーズをひっぱっていた。そして私たちの夢を乗せてフランスまで行ったブライアンとは違うもう一人のスターウマ娘だ。
こう字面にすると近寄りがたいように思えるのだがその実はあの2大ハイテンションウマ娘であるマーベラスとマヤノと仲良く付き合っているんだ。どちらかというと二人の保護者のような落ち着いたウマ娘である。ちなみに今は去年のフランスでの怪我がたたり療養中である。
「うっそれは」
「アマさんはなんかふさぎ込んでいたトラップを連れ出そうとしただけだから深くは考えていないぞ」
「ブライアン、てめえ」
私の言葉にアマさんは言葉を詰まらせるが代わりにブライアンが話してくれた。アマさんはブライアンに食って掛かるがブライアンはいつものどこ吹く風。そんな様子の二人をちびっ子探検隊参加の子供たちがやんややんやとまとわりつく。
「アマさんはなんだかんだトラップの事を心配してんだ。もちろん私もお前の事は気にかけている。ここにはいないがローレルもそうだろう。悩みとかあるなら聞くぞ」
「べ、別に心配なんかしてねーし。アタシは天皇賞で戦うライバルがふさぎ込んでいるのが我慢ならなかっただけだ。そんなしょげた空気でアタシのタイマンの邪魔されたらかなわないからな」
ありがたい限りだ。若干迷惑な時もあるがジュニア組時代の絆は思ったより強いものだったらしい。しかしアタシの悩みは打ち明けていいものだろうか。あの事件を回避したいなら簡単だ。恥も外聞も捨ててすべて話してしまえばいいのだ。たとえ私がなんと言われようがブライアンにアマさんや何人ものウマ娘から言われればスズカが天皇賞を回避するか毎日王冠あたりを回避して結果が変わるだろう。
そう、私の願いが善意だけなら問題などないのだ。しかしそこに私の欲が絡まる。スズカに勝ちたい、自分の心に巣くう汚名を濯ぎたいと。スズカに回避されては困るのだと私の中の私がささやく。
「あ、ありがとう。だけれ……ど」
しばし待て、今アマさんはなんて言った?
天皇賞に出る、そう言わなかったか?
「アマさんは天皇賞に出る予定なのか?」
「ああ。おハナさんにムリ言ってドリームシリーズ枠を使って出させてもらった。今のスズカとタイマンしてみてーしお前も出るしな。回避が多いみたいでアタシも出走できそうだし」
アマさんに確かめるようにそう聞き直すとアマさんは私を見て楽しそうにそう言った。だからさっさと調子を戻しやがれと肩に手をまわしてくるアマさんをしり目に考える。あの天皇賞にアマさんは出ていなかったはずである。ということは少しだけれど歴史が変わっているということだろうか。まだ諦めるのは早いのだろうか。
「アマさん、アマさんは他に誰が出るか知っているか」
「お、やる気になったか。スズカにリョテイ、ジャスティスにブライト。砂のグルメフロンティアにそういえばライアンは確か出るとか言ってたな」
アマさんは私の気持ちが上向いたことに気をよくしたのか話してくれた。ライアン、おそらくメジロライアンが私の知っているメンバーではいなかったはずだ。スペシャルウィークの出走は叶わなかったがまだレース状況は変えられる。あきらめるのはまだ早かったみたいだ。
「おねえちゃん、元気出たの?」
いつの間にか私の周りにはちびっ子探検隊の子供たちが心配そうに私を見ていた。ああ、足を止めた私を心配してくれていたのか。優しい子たちだ。
「ああ、すまないな。もう大丈夫さ。アマさん、ありがとう」
「お、おう。こんなことヒシアマさんにかかれば朝飯前よ」
アマさんにお礼を言えばアマさんは照れくさそうに頬を掻いた。さて、ファンあってのウマ娘。小さなファンを大事にするために探検隊の続きをしようか。
「トラップ」
「もちろんブライアンもありがとう」
「それはいいがお前、本当に大丈夫なんだよな?何かあれば相談に乗るぞ」
「ああ、心配かけて悪かった」
私はブライアンの顔を見ることはなくそう答えた。
「チケ先輩」
「どうしたのトラップ」
感謝祭も終わり寮の部屋で私はチケ先輩に声をかけていた。一人でも多くの実力派ウマ娘に秋の天皇賞に出走してもらうためである。できる限り以前の条件から引き離さないと。そう思ったためだ。
「あっでも元気になったみたいでよかったよトラップ。ここ数日はひどい顔してたし」
「そのことは心配をかけてしまいました。すいません」
チケ先輩は私が声をかけたことに驚くと次の瞬間には涙目になりながら私が元気になったことを自分の事のように喜んでくれた。そんな反応されると私もバツが悪くなる。すいませんと謝り話を続ける。
「チケ先輩は次走の予定はどうなってますか?」
「うーん、と言っても私は今年はもうドリームシリーズまで走らない気だけれど。トゥインクルシリーズに出るのは悪いじゃん」
チケ先輩はそう言って苦笑いをする。ドリームシリーズのウマ娘でもG1レースには出走できる。同レースに勝利してないことと枠があることが条件ではあるが。しかし例外はある。
「今回の秋の天皇賞。おそらく出走枠が余るんですよね」
フルゲートにならない場合に限りドリームシリーズ枠をオーバーしてでもドリームシリーズ参加ウマ娘でも参加できるというものである。2枠、アマさんとライアンさんで埋まってしまうがこれならチケ先輩も出走できるということになる。私の知っている人数は12人立て。フルゲートには程遠い。
「全力のサイレンススズカと走りたくないですか?」
「でもトラップも出るんでしょ。ライバルが増えるのは」
私を心配してくれるチケ先輩。そんなチケ先輩に対して私はにこやかに笑って返した。
「ゲートも空いてるんですから少しくらいわがまま言ったっていいと思うんですよ。だから」
一緒に走りましょう、チケ先輩。
無垢な後輩、それこそスペシャルウィークのような笑顔を偽り私はチケ先輩に初めてお願いをしたのだった。
競馬、行く機会がないのですが行ってたら僕はアイちゃん以外外しているので結果オーライです。