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「はんっ、丁度良いぜ! 鋼鉄聖闘士なんざぁ、俺達の引き立て役だって事を教えてやる!」
「自惚れが過ぎるな君は」
「んだと!?」
「少なくとも、成り立ての君よりかは俺の方が強い。それを此方こそ教授してやろう。これでも俺は鋼鉄聖闘士養成所の教官だしな」
「ほざけ!
青い聖衣石が光を放ち、飛び魚を象るオブジェが顕れて、アルゴの身体へ分解装着されていく。
翔もまた、自らの纏うべき鋼鉄聖衣を呼んだ。
「スカァァイ・クロォォォォォスッッ! とう!」
赤を基調とした空を飛ぶ聖衣が分解され、パーツが翔の肉体を鎧っていく。
それは巨嘴鳥座を象るというが、ハッキリ言ってしまうと小型の飛行機だ。
その真髄となるのは機械仕掛け、つまりはマシーン聖衣だと云う事。
お互いに自らの聖衣を纏うと、アルゴと翔がそれぞれに構えを執る。
「始め!」
審判役の檄が右手を挙げて叫ぶと……
「オラァァァァッ!」
それと時を同じくして、アルゴが左目だけを殊更に見開くと、物凄い形相で翔の方へと突っ込み、右拳を揮って翔に叩き付けるべく突き出した。
だが然し、翔は特に慌てるでもなく軽く左右に身体を揺らしてアルゴの拳を躱し続け、おもむろにに膝を鳩尾に叩き込む。
「グエッ!」
蛙が床にでも叩き付けられた様な悲鳴を上げると、軽く身体が浮かされて動きが止まり、翔は透かさずに両手を組んで上からアルゴの頭を叩き伏す。
「ぎゃん!」
再び悲鳴を上げたアルゴは顔から地面にぶつかる。
『『『『『ウオオオオオオオオオオオッ!』』』』』
観ていた鋼鉄聖闘士訓練生達が歓声を上げた。
「フッ、どうした? 青銅聖闘士とはこんなものか? 俺の知る者達ならこうも簡単にはいかんぞ」
翔達、鋼鉄聖闘士候補者はずっと見てきたのだ……嘗ての星矢達の闘いを。
そんな彼らの力からすればアルゴは余りに弱い。
肉体的にも精神的にも、性根からして弱かった。
「チキショーが! 俺を嗤ってんじゃねーっっ!」
立ち上がったアルゴは、小宇宙を水へと変換させて拳を揮う。
「喰らえや!
小宇宙で生み出した水を凝縮し、更には音速で回転させると鋼鉄をも穿つ弾丸と化して飛ばす。
左手で右腕を支えつつ、放たれた水弾丸。
「ふっ、はっ!」
だが、そんな攻撃を華麗なステップで翔は躱す。
「糞がぁ! ハエみてーにチョロチョロとっ!」
「フッ、それを言うなら隼の様にと言って貰おうか」
隼ではなく、
アルゴからすれば透かした態度が気に入らない。
「この野郎!」
小宇宙を膨大な水へ変換し巨大な水球を作り出し、それを更に小宇宙を用いて圧縮していく。
「喰らえや、この飛魚星座アルゴ様の最大の拳を……
最初に作った水球は直径にして十メートルはあったというのに、今はバスケットボール並にまで小さくなっている。
それがアルゴの両手より放たれた。
「フッ、それが君の最大の拳という訳か……」
「気取ってんじゃねぇ! この気障野郎がっ! 俺のこの拳はてめえのポンコツ聖衣モドキをぶち砕く!」
アルゴは造った人間を敵に回す様な科白を浴びせ、首を掻き切る仕種をする。
「ならば君がポンコツと宣ったスカイクロスの力……存分に御見せしよう!」
言うが早いか左腕を掲げると、レフトアームに装備された小さなファンが回り始めた。
「な、何だ!?」
激しく回転するファン。
「小宇宙キャンセラー!」
「な、なにぃ!?」
ファンは突如として牙を剥き、アルゴの放った技で生み出された水を吸収してしまう。
小宇宙キャンセラーとは翔の纏うスカイクロス──そのレフトアームに装備されている機器だ。
流石に固形物は無理だろうが、流体やエネルギーであれば吸収が可能なシステムである。
「そして、返すぞ!」
「は?」
ファンを逆回転させて、今度は吸収した水をアルゴに向けて吐き出す。
余りにも余りな光景に、ボーッとしていたアルゴはマトモに鳩尾へ喰らい……
「ガハッ!」
吹き飛ばされてしまう。
壁や柱が有る室内戦闘ではないから、アルゴは地面へ無様に転がりながらその叩き付けられるダメージを追加で喰らっていた。
「俺に敵を嬲る趣味は無いのでな、そろそろ決着を着けさせて貰おうか……」
フラフラと立ち上がって来たアルゴに言い放つと、翔は高速で空を舞いアルゴの周囲を廻る。
「な、何をする気だ?」
廻る、廻る、廻る。
その勢いは大気の流動を促し風となり、風は渦旋を巻き起こしていく。
「
「う、おおおおっ!?」
旋風は遂に竜巻となり、アルゴを巻き上げた。
本来は他の鋼鉄聖闘士との合体技だが、初代鋼鉄聖闘士の聖衣の身体強化機能が独力でのスチールハリケーンを可能とする。
翔も自らが飛翔をして、アルゴを追い抜くと胸部に踵を付けて急降下……
「はぁぁぁぁっ!」
全身の体重を乗せた踵、背中から大地に激突をしたアルゴ。
「ゲハァァッ!」
「勝負あり! 勝者、スカイクロスの翔!」
起き上がれないのを確認した激が右腕を挙げつつ、翔の勝ち名乗りを上げた。
暫しの沈黙、翔が瞑目をしながら勝利宣言だと謂わんばかりに右腕を掲げて、その刹那……
『『『『『ワァァァァァァァァァァァッ!』』』』』
鋼鉄聖闘士の候補生や、正規の鋼鉄聖闘士達がドッと沸き上がる。
未だに仮免生に過ぎない未熟者だとはいえ、聖衣を授かった青銅聖闘士と模擬戦をして鋼鉄聖闘士が勝利したのだ、盛り上がるのも仕方が無い事だろう。
そんな様子を少し離れた位置で見ていた鋼鉄聖闘士候補生らしき、銀髪蒼目の少女が亜麻色の髪に茶目な少女に話し掛ける。
「やっぱり鋼鉄聖衣こそ、私達の理想に近いです」
「そう、私達が得てしまったこの力を存分に揮うにも此処が一番なのね、菜々芭ちゃん」
「はい、凛々奈さん」
その一方で、やはり少し離れた場所から翔の闘いを見ていた鋼鉄聖闘士。
「ケリー先輩、翔さんが勝ちました!」
「ああ、やっぱり戦闘経験があるオリジナル鋼鉄聖闘士は違うねぇ……」
金髪の少女エマはマルスとの闘いをで家族を失い、幼い内からグラード財団が経営する施設に入っていたのだが、自分みたいな子供を減らすべく聖闘士になる事を決意して、適性検査を受けた。
似た境遇──とはいえ、既に大人で元は既婚者──のケリーを先輩と呼んで、共に訓練に励む。
然し、訓練をしてみても未だに小宇宙を使えないが故に、鋼鉄聖闘士養成所の方へと二人は送られた。
それが少しコンプレックスになっているらしくて、鋼鉄聖闘士を侮蔑していたアルゴを、オリジナルとはいえ鋼鉄聖闘士である翔が破ったのに興奮気味だ。
「アルゴ、口程にもない」
ユートは首を横に軽く振りながら言う。
「ま、あんなもんじゃねーのか? 俺達、鋼鉄聖闘士は小宇宙が使えないか一定に達していないとはいえ、オリジナルの鋼鉄聖闘士が仮免生のボウヤに敗ける程に弱くはねーぜ?」
辛辣なマリンクロスの潮だが、実はアルゴに対して可成りムカついていたのかも知れない。
それに実戦経験を持たない連中より、少しなりとも実戦を経験した矜持とてあるのだろう。
「そうだな、機能を削ってコストを一定にした量産型には小宇宙キャンセラーも付いて無いが、俺達の聖衣には特殊な装備も用意されているからな」
潮の言葉を肯定するのは巨漢といって差し支えない薄い褐色肌の男、ランドクロスの大地だった。
然し、信じられるであろうか? この大地が今でこそ翔や潮に比べて巨漢であるが、聖戦の時代は一番の小柄だったなどと。
三人の鋼鉄聖闘士達は、一巡目とは異なり麻森博士の鋼鉄聖衣製作が上手くはいかず、
よって、逆説的に聖衣の機能は真なる意味で
それもまた、仮免生とはいえ青銅聖闘士のアルゴを全く寄せ付けなかった理由でもある。
何しろ、小宇宙程では無いにしろ身体機能を引き上げる咸卦の氣を使える為、ある程度は神の闘士の動きに付いていけるのだから。
本来は鍛えた肉体と防御と攻撃武器兼用の鋼鉄聖衣のみで闘うが、咸卦の氣がその肉体を強化してくれているし、その気になったら魔法染みた力も使える。
この世界の鋼鉄聖衣は、謂わば小宇宙戦闘練習機としての意味もあった。
某・あいとゆうきのおとぎばなしに登場する実戦用の不知火と、高等練習機の吹雪みたいな関係になっているのだ。
勿論、鋼鉄聖衣はそもそもが実戦を前提に造られている訳だが……
ユートの持つ計画では、雑兵制度を無くして小宇宙を使えない者でも、聖闘士を名乗れる様に鋼鉄聖闘士の増産を第一とする。
正直に言ってしまうと、雑兵の皆さんの装備品が余りにもちゃちで、幾ら何でも革の鎧兜に槍はないだろうと考えていた。
実際、海皇ポセイドンの雑兵は雑兵用の鱗衣を纏っているし、冥王ハーデスの雑兵はスケルトンの冥衣を纏っているし、氷戦士でさえ均一化された聖衣モドキを纏っているというのに、聖域の雑兵に支給されている装備が、RPGの序盤で割かし簡単に買える革装備に布の服に鉄の槍な訳だ。
それで聖戦を闘えなど、どんな虐めだろうか?
ユートの持つ権能なら、スケルトンの冥衣くらいは万単位でも用意が可能だったりするが、流石に聖闘士へ冥衣という訳にもいかないし、幾ら通常金属を用いて神秘金属を減らしているとはいえ、やはり暗黒聖衣──現・黒鍛聖衣もそれなりに小宇宙は必要であるし況んや、十二宮黒鍛聖衣は黄金級の小宇宙が必須で、機械で出来た小宇宙を必要としない聖衣、鋼鉄聖衣を増産する運びとなった。
元・狼星座の那智と元・仔獅子星座の蛮、オリジナル鋼鉄聖闘士達が鋼鉄聖闘士養成所に詰め、こうして鋼鉄聖闘士を鍛えているのも実はその一環である。
だけど余りにも興がノってしまい、調子ぶっこいたのが運の尽きと云おうか、余計とまでは言わない迄も量産機に有るまじき性能にしてしまって、数を当初の予定を全く揃えられてはいなかった。
まあ、現在では訓練用に麻森博士が用意をした量産型鋼鉄聖衣を使ってるが、ハッキリと言うとこいつは脆過ぎる。
本当に練習用にしかならないとユートは視ており、博士には
鋼鉄聖衣は二種類が存在していて、一つは麻森博士が開発した画一的な形状と性能を持ち、安価に造り出せる量産型鋼鉄聖衣。
今一つがユート達の開発した、実際に星座を模した『
例えば、空を翔ぶ生物を模した
勿論、それは星座の名前を冠している訳だ。
オリジナルとはまた違う
オリジナルとの区別を付けるべく、名前付きとして最初に製造された鋼鉄聖衣である。
因みに、青銅聖闘士にも
そして全く以て関係は無いが、これより未来でとある世界にて鋼鉄聖衣は活躍の場を得る事になる。
閑話休題……
「まあ、何にせよアルゴとかいうのは運がねーよな」
「ああ、何しろ翔は俺達の──初代鋼鉄聖闘士のリーダーだ。見た目だと優男にしか見えないだろうけど、一番の実力者だからな」
潮の酷評に大地が頷きながら言う。
「そうだね。アルゴの聖衣の破損、あの程度だったら小町の時と違って、自分の血でも塗り付けて聖衣石に入れておけば自己修復されるだろう……」
鳳凰星座みたいなダイナミックな瞬間再生は当然ながら出来ないが、聖衣石に備わる修復機能なら少しは自己修復を促せる。
しかも、
「聖衣の心配とは、流石に聖衣製作師って処か?」
「そんなとこだよ、潮」
「そういや、本来だったら俺らとユートって身分的に開きがあったな。いっつもタメ口で話してるけどよ」
「今更だろ? マルスとの聖戦では轡を並べた仲だ。気にする事もないさ」
潮の言う身分、ユートは本当なら聖域でも十二人しか居ない聖闘士の最高峰、黄金聖闘士だ。
軍隊的に云ったら教皇が元帥、黄金聖闘士が将官、白銀聖闘士や精霊聖闘士が佐官、青銅聖闘士が尉官、鋼鉄聖闘士が准尉、未だに存在する雑兵の皆さんだと下士官辺りだろう。
因みに、黒鍛聖闘士だとそこら辺が微妙に複雑だ。
色は一律で漆黒なのに、元の聖衣によってバラバラだったりするから。
また、十二宮黒鍛聖闘士は准将くらいであろう……とは以前にも記述した。
そういった意味でなら、ユートと星矢が大将辺りで瞬や氷河は中将、新参になるハービンジャーやレオーネや翔龍が少将だろうか?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その夜、ユートは檄達と会議をしていた。
「
「いや、正確には規模を小さくした聖闘士同士の試合──聖闘士ファイトをしてみようと云う事らしい」
何だろう?
何処からか、秋元洋介のボイスで『皆さん、御待ちかね』とか聞こえてきそうな名前の大会は……
「まさか、それを姫巫女達が来る時に開催しようとか云う訳か?」
「うむ、鋼鉄聖闘士養成所の者も希望をするなら観に行ける様に計らう心算だ」
檄が此処まで言うからには既に、聖域への承認などは受けている筈。
「聞いた話じゃ、聖域では暗黒聖闘士が動いて保管をしていた黄金聖衣を奪い去ったとか。そんな事をしている場合か?」
「だからこそだ、次の聖戦に向けて力の有る聖闘士が一人でも欲しい! 俺達は昔に大した役には立てなかったしな。それでも今回は鋼鉄聖闘士も増えてきた。それに例のアレ、
「まあ、確かに幾つか完成したとは報告されている」
「お前に何人か鋼鉄聖闘士訓練生を預ける。名前付きを使えるくらいに鍛えてやってくれないか?」
「希望する鋼鉄聖闘士を連れてくるのは、それが主な目的って訳だ……」
「ガッハハハ! まぁな」
豪快に笑う檄。
「俺達からも頼む。メンバーの何人かはユートが決めても構わない」
翔が追従し、大地と潮も首肯をする辺り賛成という事なのか、序でに那智と蛮も頷いている。
成程、既に外堀は埋まっている感じがした。
「銀河戦争……嘗ては某・兄さんが暗黒聖闘士を率いてしっちゃかめっちゃかにして験が悪いと思うぞ? 況してや、今は暗黒聖闘士が活動しているんだし」
「それを推して頼む!」
まだネームド・クロスの使い手は居ない。
一応、青銅聖闘士引退組の鋼鉄聖衣こそは名前付きだったが……
今も現役な
「判ったよ。それじゃあ、選んだ鋼鉄聖闘士を二〜三人くらい連れてくぞ」
ユートの決断に、檄達はそれはもう嬉しそうに頷いたものだった。
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