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それは少し前。
「御断わりします」
「は? いや、けど星那って栞とは仲が良かったろ。なのに何でだ?」
「何でって、あのねぇ……お父さん? 女の子だよ、栞だって」
「そうだな」
そんな事はユートだって……否、ユートの方がよく知っている話。
何しろ、百野 栞の秘密な洞窟を探検したのはそもそもユートなのだから。
濡れそぼった洞窟内を、〝ユート自身〟が入口を分け入り、邪魔な茂みを無理矢理に引き〝契って〟奥へ奥へと入り込み、その最奥の広場でけたたましくも熱い咆哮を上げた張本人。
栞の性別を間違えるなどあろう筈もない。
「友達より彼氏の方が良いに決まってるよ」
「む?」
「まあ、お母さんの事を考えると……娘としても複雑ではあるんだけど……ね」
「ああ、それはな」
「だいたい、月には詠を付けるんでしょ? あの二人は恋人に近いわ。なのに栞は友達を宛がう訳?」
「くっ!」
間違ってはいない。
私情を挟みまくっている人事をしながら、栞に対して自分が往かないのは確かに有り得なかった。
とはいえ、友人枠な星那を宛がうというのも充分に配慮した心算だったのか、然しどうにも心算でしかなかったと考え直す。
「判ったよ。僕が栞を案内すれば良いんだな?」
「そういう事です!」
溜息を吐きたくなるくらいに満面の笑顔で言われ、ユートは部屋を後にしながら実際に溜息を吐いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ちょ、勘弁してくれよ」
「駄目よ、光牙ってば家を出ても余り変わらないんだもの! お父さん達に何て報告すれば良いか!」
「って、すんなよな!?」
アリアがツンツンしながら何やら義姉としてお説教をしており、光牙はそんな義姉には逆らえないのか、シドロモドロになりながら反論を試みている。
一巡目──原作Ω──を知る者達が見ればおかしな風景だが、この世界と彼方ではそもそもアリアの生活からして違い、性格も大人しくはあるものの光牙へはお姉さん振っていた。
一応は同じ十三歳ではあっても、義姉と義弟という関係から仕方ない事なのかも知れない。
「よう、光牙」
「ああ、蒼摩かぁ」
僅かな時間で窶れ気味な光牙、応える声にはいつもの元気が足りてない様だ。
「そっちが巫女様か?」
「まあな。オリーヴァの天姫巫女を務めるアリア姉。姉貴、こいつは俺の仲間の蒼摩だ」
光牙が間に入ってそれぞれに紹介する。
どうせ後で全員に紹介をする訳だが、此処で知り合っても問題は無かろう。
「えっと、初めましてだ。俺は青銅聖闘士・仔獅子星座の蒼摩。宜しく巫女様」
頭を掻きながら自己紹介をしてくる蒼摩に、アリアは長い白スカートを両手で摘まみ、貴婦人の如く軽く頭をさげて応対。
「初めまして、天姫巫女・オリーヴァのアリアです。此方こそ宜しくお願いを致しますね? 蒼摩さん」
余りにも優雅で見事に過ぎる挨拶に、蒼摩は思わず見惚れてしまう。
「お、応!」
故に返事が遅れた。
「蒼摩……」
「な、何だよ光牙?」
「俺、お前の事は友達だと思ってるけどな……」
「? おう?」
「兄貴とは呼びたくない」
「喧しいわ!」
ジト目で言う光牙に蒼摩は怒鳴ったという。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
何と云うか、まるっきり別世界でも構築されているかの如く、周囲に他者を寄せ付けないオーラが垂れ流されている。
三日月の天姫巫女の月とアンドロメダの詠、二人は腕を組んで寄り添う形にてパライストラ内を恋人宛らに歩いていた。
明確に恋人付き合いという括りにはなかったのに、もう誰にも止められない程のベッタリ感。
「ねえ、月? これはちょっとどうなのかな?」
月の温もりを半身に感じながら、周囲からの痛々しい視線も感じていた詠は、少し自重を促したい。
「詠ちゃんは私とこうするのって……嫌?」
「い、嫌な訳はないよ? だけど目立つし……」
何しろ前世繋がりな女顔な詠は、男として見たなら可成りの美形であったし、そんな詠が連れている少女の正体も知れており、更に銀髪美少女とあっては注目せざるを得ない。
しかも、『私達はお付き合いをしています』と言わんばかりのこの体勢だし、男共から嫉妬混じりの視線を受けても仕方ない。
寧ろ、〝夜の御突き愛〟をしていそうでジェラシーはマックスである。
因みに、流石のラブラブ・オーラを垂れ流す二人といえど〝夜の御突き愛〟にまでには発展しておらず、それでも唇を重ね合うだけの可愛らしいキスと、簡単な手淫程度は及んでいる。
十三歳の身には早いのか遅いのか? 少なくとも、手淫に関しては月の方から致した結果だ。
キスだけで膨らませてしまった股関を見た月だが、すぐにもその異常の正体に気付いて、あろう事か──『こうなったら辛いよね? すぐに楽にして上げるよ詠ちゃん』──などと言ってズボンのチャックを降ろして固くなった詠の分身を手に取り、上下に扱き始めたのである。
前世の無意識からなのだろうか? 絶妙な扱き方に翻弄された挙げ句に初めての感覚故に、一分も保たず月の顔を汚してしまった。
詠は余りの恥ずかしさに顔を真っ赤に染め上げて、涙ぐみながら月の部屋からダッシュで逃げ出す。
そんな詠を月は聖母の如く微笑みを浮かべ、見送っていたのだと云う……
当然、暫くは修業に身が入らなかった詠だったが、避けられているのを気にした月に、強引に部屋へ連れ込まれてしまう。
ちゃんと話し合った上で告白までされ、詠は情けなさで一杯になりながらも、自分自身の想いを告げた。
処女神の一柱たるアテナに仕えるが故にか、完全に恋人的な事までは至らなかったが、それでも可成りの前進には違いないのだ。
否、年齢を鑑みれば充分過ぎるくらいだろう。
男が性欲を持て余して、自らが手淫に浸るというのは珍しくもない年齢だが、付き合っている女の子から致してくれるなど、現年齢からはちょっと無い。
偏に、前世に於ける無意識の記憶──ユートのちょうきょうの結果である。
前世ではユート一人から月と共に女の子二人で攻められたが、今生ではユートと共に月を攻める自分というのを幻視した……かどうかは詠にしか判らない謎。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ユートと栞は距離感に関しては月と詠より離れている様に見えるが、そもそも麻帆良時代からの突き愛を経験している栞としては、そこまでガツガツと攻める必要性を感じていない。
何より、ユートの女誑し振りを知っているのだし、今更ジタバタする意味など見出だせる筈も無く。
心無し和かな笑顔で隣を歩いていた。
昔の栞からすれば殆んど見られなかったと、仲間達ならば言うであろう。
そう、仲間達……だ。
【十一の瞳達】により、一つの偉業を達成する。
本来なら義体でしかなかった彼女の身体だったが、今やユートが創った肉体に安定しており、使徒契約で衰えを知らない百野 栞としては、〝彼〟との出逢い以上の何かを感じていた。
最早、あの世界の教会に縛られない栞は、アテナの巫女として蛇の名を冠する事にも忌避感は無く、喜んでユートの手を取る。
嘗ての世界や慕った相手が居た他の皆より、一歩ではあるがアドバンテージを取れたが所以でもあった。
十一人の瞳となれば人間の二つの目を考えると足りないが、約一名──唯一の少年は見えない訳ではなかったが、日常では眼帯をして隻眼だったから内訳には間違いが無い。
つまり栞は隻眼の少年を中心に集まり、とある巨大な力の持ち主と戦いをした六人の内の一人。
内の五人が女の子だ。
強き力の持ち主は慕った先輩が居た。
五つの宝刀の主は隻眼の少年を、後輩として指導しながらも無意識に異性を感じつつあった。
天使を喚ぶ者は記憶を喪いながら、嘗ての弟と同位体の少年を見守っていた。
罪を重ねた少女──六人に対して敵対していたが故にか、自分が生きて別世界に居る事に罪悪感を感じ、半ば引き篭っていた。
三つの瞳──隻眼の少年と少年に執着する少女は、そもそも此方側には来ていない様だ。
そもそも、彼女らは本来だと死んだ因子を集めて、再有生体に近い形で蘇生したに等しく、生き残っていた二人ともう一人の少年は対象外だったらしいとは、ユートが彼女らを連れて来た少女? から聞いていた話だった。
その少女? は迷ったら面白い方を選ぶらしくて、此方側に連れて来たというのも、罪を重ねた少女──リーゼロッテをユートに委ねた後を期待しての事。
リーゼロッテの本来のと云える人格、リゼットには宗教的な戒律から男に身を任せる事は出来ない。
それが嘗て、襲撃をされたリゼットは心ならず身を穢され、心はズタズタに引き裂かれたが故に冥府魔導に堕ち、【劫の眼】を持つ男と寄り添い世界に喧嘩を売った訳だが、リーゼロッテの人格をリゼットの内に封じて再有生した彼女は、果たして此方側で新しい救いを得られるのか?
それを見るのが楽しい、それに折角だからちょっと摘まみ食いをしてみたが、予想以上に手慣れた十歳児に悦ばされたのは蛇足だ。
そんな思惑までは栞も知らないが、本来の世界では隻眼の少年に一定以上には興味を持たなかった事もあってか、すぐに此方側へと順応が出来た。
精々が義体の製作者による悪戯で、力の封印解除の為に男との性的な交わりを必要としていたから、封印を解除させても構わない……程度である。
実際、彼女は隻眼の少年に拒絶された後は行きずりの誰かに封印を解除させた訳なのだが、彼女自身は実の処だと封印解除の時間を得られず、結局は封印した侭で決戦に挑んだ可能性の世界から連れて来られた。
義体的に正真正銘な処女だった栞は、今やユートと使徒契約を交わしているという訳だ。
平行世界を往き来したらしい事は仲間達とも情報を掴んでいたから、別世界に来た事もすんなり受け容れられたというのもある。
栞はユートの女癖の悪さを知りつつ受け容れた為、ユーキ程ではないにしてもそれなりに楽しんでいて、ユートと他の娘が交わる中に突入する事もあった。
本人曰く知識の実践だと憚らない。
「実は梟になれそうな娘を二人程見付けたわ」
「
現在のアテナの天姫巫女は三人だが、本来は四人が選出をされる。
嘗てはもう一人が居た──パルティータではない──のだが、マルス戦に出られる人間であったのが災いして、その聖戦で戦の指揮を執った一人だが死亡。
爾来、十三年の間は梟が不在の侭である。
「で、候補者って?」
「一人はイシュト・カリン・オーテ。【鋼鉄の聖女】と呼ばれているわ」
「うん? どっかで聞いた様な気がするけど……」
「そうでしょうね」
実はとある人物の庇護下にあり、彼女はとても慕っているのだが……
少なくとも五百歳を越えるらしいと、栞は調査をした者から聞いている。
「もう一人、彼女は聖闘士……というか聖闘少女達の追っかけ? みたいな事をしていたみたい」
「追っかけ?」
「名前は確か彩姫くるみ、国際教導学園の生徒ね」
「……それは聖闘少女の」
「そう、今代の聖闘少女が嘗て通っていた学園」
ユートは知らなかった話だが、ある日にユーキが言いに来た事が切っ掛けで、異世界ロアに向かった。
虚無魔法の【
つまり、向かったというよりは向かわされたが正確な表現となる。
『この世界って魔法戦士な世界とも混ざってるみたいなんだ、という訳で兄貴にはロアって異世界に行って貰うから』
『は? ユーキ、いったい何を言ってるんだ?』
『問答無用! ロアへ入口を繋いだから』
『おい!?』
『向こうには可愛かったり綺麗だったりって、女の子が沢山居るからさ。男だと立場が低いのが難だけど、上手く立ち回れば喰い放題は間違いなし! 原作は始まってないみたいだから、今からならココノを救えるかもね?』
『いや、ココノって誰?』
『逝ってらっしゃい♪』
『おわぁぁぁぁっ!?』
殆んど詳しい話は聞けない侭に、ユーキによりロアに蹴り入れられたユート、其処は丁度ココノ・アクアがメッツァー・ハインケルに敗れ、今正にヤられそうになっていた処であって、偶然? 助ける事に。
その後、クイーン・グロリアとは契約を結んで魔導シンジケート・ゼーロウを叩いて、契約に従い彼女の娘のティアナと最初に接触をしたココノを連れ、地球へと帰還を果たした。
更に、聖闘士として闘う中で国際教導学園の女生徒を救い、その女生徒の二人が聖闘少女となっている。
女教師と共に。
つまる話、国際教導学園はユートにも縁がある。
「まあ、どちらを梟にするにしても……ヤるなら私も呼んで欲しい」
「君も大概、変な性癖に目覚めているよな?」
仲間との情事に混ざり、他の娘と一緒にヤられるのが愉しくなったらしくて、栞との情事では一対一が珍しいのだと云う。
しかも、梟を選出したらヤるのが前提だとか……
「ま、楽しく生きているみたいで何よりだよ」
ユートは苦笑した。
「処で、アレは何?」
周囲には睨む男共。
「ああ、あれは二世聖闘士──ユートもそうだと思われている──ばかりが巫女の案内役で僻んでるんだ」
決して多数を占める訳ではないが、何人かは気に食わないと感じている。
「莫迦の集まり?」
「上手く立ち回れなかったのも確かだよ」
天姫巫女の知り合いが、そもそもユートや詠や光牙であり、案内役には気遣い無用な知り合いを推すのは無理からぬ話だ。
然し、もう少し上手く立ち回れば良かったと考え、しかつめらしい表情になってしまう。
「今のユートは青銅聖闘士だし、難しく考えても仕方がないと思う」
「だけど実際は黄金聖闘士なんだよ、僕は……」
「ああいった手合いは何処にでも生息してる」
「まあ……ね」
「だから、気にするなとは言わないけど……し過ぎるのも良くない」
「そうだね……」
アルゴとか酷いものではあるが、気にし過ぎるのも無意味でしかない。
世界など基本的に万全と程遠く、彼方が立てば此方が立たぬを地で往く。
故に、結局は気にし過ぎる意味が無くなるのだ。
こんな天姫巫女達の案内が為される中、檄達の教師陣は聖闘士ファイト開催に向けて調整中だった。
当然、会議には学園長の黒獅子ミケーネが陣頭で、更に天姫巫女の護衛的立場の黄金聖闘士が二人。
乙女座の瞬と、水瓶座の氷河……ユートは栞の案内役だから参加していない。
まあ、黄金聖闘士の二人はオブザーバーに近い立場ではあるが……
次々と決まっていく案件にホッと胸を撫で下ろし、安心して会議に参加をしている瞬だが、銀河戦争では実兄の一輝により御破算となった事実を挙げられて、ひたすら謝るしかない。
最終的に、一輝の乱入が無ければ誰が優勝したか、そんな話題に変わってしまったのは御愛敬だろう。
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