聖闘士星矢【魔を滅する転生星Ω】   作:月乃杜

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第22話:模擬戦をしよう

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 聖闘士ファイト……

 

 何だか『レディGO!』とか言いたくなりそうで、苦笑いが出るユートだったけど、自分の参加に関しては待ったを掛けたい。

 

 理由は簡単、現状で封印されているが故に最下級の青銅聖闘士のレベルにまで小宇宙を落としているが、タイプⅡα繊維を鍛えに鍛え抜き、更には肉体的にはカンピオーネという人間を遥かに凌駕した存在である為か白銀聖闘士の数倍にも達する実力を誇るだけに、やればユートが必ず優勝するという余りにもつまらない結果となる。

 

 此処には既に並の青銅聖闘士を越える実力者が数人は居るし、そうなれそうな人材も何人か見付けたが、だからといって白銀聖闘士までなら未だしも、それを数倍まで越えるとなっては間違いなく居ない。

 

 並の青銅聖闘士を越える実力者とは?

 

 白鳥星座の凍夜

 

 アンドロメダ星座の詠

 

 黒鍛(ブラック)アンドロメダ座の星那

 

 オリオン星座のエデン

 

 そして、将来性の高いであろう聖闘士はΩ勢と言えば解るであろうが、光牙とユナと龍峰と蒼摩と栄斗の事である。

 

 また、ユートが修業に付き合い始めたからだろう、本来ならユナの友達AとBでしかない兎星座のアルネと鶴星座の小町、この二人が徐々に実力を弥増して、模擬戦での勝率もそれなりに上がっていた。

 

 当初は雑魚街道をまっしぐらだと思えない程に。

 

 更に、聖闘士ファイトに出場しない鋼鉄聖闘士四人も実力は上がっている。

 

 初めから魔力に覚醒していた凛々奈と菜々芭は兎も角として、小宇宙を少しは感じられたケリーや力には覚醒してなかったエマは、小宇宙に覚醒しつつあるとユートは視ていた。

 

 これならば切っ掛けさえあれば小宇宙を燃焼爆発も出来るだろうし、そうなったら青銅聖衣を与えるのもアリだろう。

 

 だけど未来はそれで良しとしても、現段階でユートと拮抗が出来るのはやはり黄金聖闘士の中でも、嘗ての聖戦を幾度となく潜り抜けてきた星矢、氷河、瞬、他には青銅聖闘士に戻った一輝に教皇の紫龍くらい。

 

 祭壇座の玄武、天秤座の翔龍、獅子座のレオーネ、牡牛座のハービンジャー、牡羊座の貴鬼などでは多少なり物足りなかった。

 

 そんな訳もあり、ユートが聖闘士ファイトに出場をするのは単なる虐待だ。

 

 だけどその一方でユートは現在、パライストラへと所属をする青銅聖闘士。

 

 聖闘士ファイトへの出場は基本的に義務。

 

 まあ、予選会みたいなのがあるからそれに落ちれば出場せずとも済む訳だが、ユートはパライストラに於いて実力を示し過ぎた。

 

 そんなユートが予選落ちなぞ、きっと誰も納得をしないであろう。

 

「実際、ユートって教官みたいな事もしてるよね?」

 

「む、まぁね」

 

「鋼鉄聖闘士養成所から連れて来た四人に、鶴星座の小町と兎星座のアルネとか云ったっけ?」

 

「ああ、六人共が上手い事成長をしてくれているよ。それに伴って光牙達も混ざり始めたけどね?」

 

「ユート、貴方は生徒じゃなく教師として来るべきじゃなかった? 麻帆良の時みたいに……」

 

「何と無くそんな気もするんだけどな」

 

 然しそれではどうあっても同じ視線になれない。

 

 同じ生徒だからこそギリギリで保った線、それを鑑みてみれば教師は有り得ない選択肢だ。

 

「ま、良いわ。それと貴方が活躍をするのを観たい人が居る」

 

「? 誰?」

 

「私、月、アリア」

 

「って、天姫巫女かい!」

 

「それだけ貴方は私達から慕われてる。だから私は……こうして全部を受け容れているのだから」

 

 薄く微笑みを浮かべて、栞はユートの胸板に頬を擦り寄せる。

 

 一つのベッドを共有し、二人共が全裸で横になっている状態、そして栞の手がユートの分身を握った。

 

「ふふ、背徳感で一杯」

 

「確かに、処女神の一柱たるアテナを奉るパライストラでセ○クスしてるしね。とはいえ、アルテミス程には気にしないだろ? 彼女なら……さ」

 

「まあ、アテナはあの城戸沙織な訳だしね」

 

 オリンポス十二神の女神として処女神とされるは、アテナとアルテミスとヘスティアの三神。

 

 その中でも自らの処女性だけでなく、部下にまでも厳しく処女性を求めたのがアルテミスである。

 

 月と狩猟の女神にして、処女神アルテミス。

 

 とはいえ、多産にも関わるなど部下とは関係が無い人間には正反対に信仰されたりもするのだが……

 

 尚、某・神殺しが弑逆奉ったアルテミスは恐らく、ある程度ではあるが原典に近いと思われる。

 

「そういえば、月には手を出してないよね?」

 

「は? 当たり前だろ」

 

 詠の為に探し当ててきた月を、ユートの身勝手にて手を出すなど有り得ない。

 

 否、前世に於いては詠も含めて抱いている訳だが、栞が言っているのはそんな意味ではあるまい。

 

「詠には?」

 

 ボカッ!

 

「殴るぞ!?」

 

「殴ってから言うかな?」

 

「誰が男に手を出すか!」

 

「でも……ね、前に月と寝た事があるんだけど」

 

「月と?」

 

「そう、その時の寝言で──『へぅ! スゴい、ユートさまぁ……詠ちゃん気絶しちゃいましたぁ』──って言ってたから」

 

「……」

 

 明らかに前世の記憶だ。

 

(まさか月の奴……前世の記憶を持ってるのか?)

 

 或いは寝ている時に偶々という事なのか。

 

「いずれにせよ、男の尻を貫く趣味は無いよ」

 

 前世の詠の穴は全部貫いているが、だからといってカマを掘る趣味も掘られる趣味も持ち合わせてない。

 

 今の詠は男なのだから、流石にユートも手出しする筈が無かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「今日は蒼摩か」

 

「応よ! 今まで誰も勝てなかったアンタに勝ってみせるぜ!」

 

 橙色の仔獅子星座(ライオネット)聖衣を纏って、まるでボクサーの様な構えからビュッビュッ! と風切り音を響かせるパンチを見せ付けてくる蒼摩。

 

 周囲には自主的に訓練をしている仲間達、光牙や詠や凍夜やユナといったいつものメンツが揃う。

 

 この自主戦闘訓練に関しては、ユートと光牙が檄やミケーネ学園長から許可を得てやっていたが、向上心の強い聖闘士仮免生がすぐに集まってきた。

 

 これまでにユートが対戦した相手は光牙は元より、龍峰にユナに栄斗に小町にアルネに詠に星那といった面々であり、何気に蒼摩との対戦はこれが初となる。

 

 飽く迄もユートとの対戦がであり、蒼摩も他の面々とは対戦をしていた。

 

「じゃあ、始めようか」

 

「へっ、先手必勝!」

 

 始まりの宣言と共に蒼摩が拳に炎を宿す。

 

炎熱無法(フレイムデスペラード)ッッ!」

 

 放たれる炎の拳。

 

「いつも思うけど、これって要するに炎を拳に纏わせて殴る技だよな?」

 

 掌で往なしながら蒼摩に語り掛ける。

 

「それがどうした!?」

 

「せめてこれくらいやってみないか?」

 

「おわっ!」

 

 蒼摩の腕が伸びきったのを機に、その拳の甲を叩き付けて下に力を向かわせ、踏鞴を踏ませたユートは後ろにジャンプ、炎を右拳に纏わせて更にペガサス十三の星を描く。

 

「あ、あれは!?」

 

 ユナは驚愕に満ちた声で呟いた。

 

「火炎流星拳!」

 

「な、なにぃ!?」

 

 ガガガガガッ!

 

 百数発の火炎を纏う拳の全てが、蒼摩の肉体にしこたま叩き込まれた。

 

「ぐわぁぁぁっ!」

 

 壁に叩き付けられる。

 

「このくらいはしないか? 音速とはいえ一撃一撃は強くても単発でしかない。多少の威力を落としたとしても、それ以上にヒットさせれば御覧の通りだ」

 

「ぐっ、莫迦な……俺の炎熱無法と光牙の流星拳による合わせ技だってぇのか」

 

 フラフラと起き上がり、信じられない表情でユートを睨む。

 

 今までにも合わせ技などは使ってきたし、究極的には嘗て獅子座のレグルスが使った十二宮葬送(ゾディアック・クラメーション)も使っている。

 

 それは黄金聖闘士十二人が使う必殺技を一時に放つ技で、肉体的に未成熟だったレグルスは消滅してしまう程の反動だった。

 

 然し、今回のは炎を拳に纏わせて百数発を殴るだけの技でしかなくて、危険な反動などあろう筈もない。

 

「チッ、んなの簡単に出来るかよ! コンチクショーがぁぁぁぁぁっ!」

 

「まだまだ元気だな」

 

 手加減をしたとはいえ、聖衣を破損させる程の攻撃を受け、それでもピンピンしているとはいえずとも、未だに戦闘力を残す。

 

(言いたくないが、やはり一摩の息子って訳か)

 

 南十字座(サザンクロス)の白銀聖闘士たる一摩は、蒼摩の父親でもある。

 

 星矢達より僅かに年下であり、先代から聖衣を受け継いだ後はずっと聖闘士として活動して、マルスとの聖戦でも白銀聖闘士を指揮しつつ闘った。

 

 どうやらその血は脈々と受け継がれていたらしい。

 

「中々にタフネスな蒼摩にはこれを贈ろう」

 

 ユートは右の人差し指で蒼摩を指すと……

 

「Кольцо」

 

 技を放った。

 

「な、何だ!?」

 

 凍気が蒼摩の周囲に展開され、よく見れば氷の輪によって取り囲まれている。

 

「な、に!? ば、莫迦な……氷結乃輪だと?」

 

 他ならない、使い手である白鳥星座の凍夜が驚愕の表情で固まっていた。

 

「チッ、クソ! う、動けねー!? しかも氷の粒が更に増えてんじゃねーか」

 

「何だ、凍夜が使っているのを見た事が無いのか?」

 

「凍夜が?」

 

「ならばコレもか?」

 

『『『『っ!?』』』』

 

 ユートが凍気を全身に張り巡らせ、腰をどっしりと落として右腕を引く。

 

「莫迦なっ!」

 

 最早、凍夜は信じられないといった風情だ。

 

極小氷晶(ダイヤモンドダスト)は知ってるな? あれは静の技。これから放つは動の……キグナス最大の拳だ」

 

「って、キグナスの?」

 

 ヤバい!

 

 それが蒼摩の感想。

 

 凍夜の極小氷晶(ダイヤモンドダスト)でさえ強力な技なのに、それをも上回る必殺技となれば今の蒼摩には受け切れない。

 

 躱したくとも氷結輪による拘束とは殊の他強力で、蒼摩が炎を熾こす事も封じてきている。

 

 目の前のユートが両腕を横に広げ、まるで翼をはためかせるが如く上下に動かしながら、片足を挙げての一本立ちとなり……

 

極冷竜巻(ホーロドニースメルチ)ッ!」

 

 コークスクリューアッパーを蒼摩に叩き込む。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 高めに造られた天井にすら届かんばかりにブッ飛ばされ、ドシャッ! と見事なまでの車田落ちを披露してくれた。

 

 凍夜が──『びーくーるびーくーる……』と呟きながら頭を抱えている。

 

「ホーロドニースメルチ、確かロシア語で冷たい竜巻って意味……よね。その前のカリツォーは同じくロシア語で輪だったかしら?」

 

 ユナもうろ覚えなのか、自信無さげに言う。

 

 まあ、ロシア人という訳でもないユナが知っていただけでも大したもの。

 

「手加減はしてやったし、いつまで寝てる気だ?」

 

「ぐぅ、あれで手加減付きとかハンパねーな!」

 

 起き上がりながら呟き、自らの凍結した聖衣を見下ろして溜息すら吐く。

 

「うわ、凍ってらぁ」

 

「僕の“今の”凍気は温度にして零下二百十度って処だからな。白銀聖衣だって凍結が可能なんだ、況んや青銅聖衣なんて余裕だよ」

 

「マ、マジか!?」

 

 小宇宙をセブンセンシズにまで高めなければ、流石のユートでも絶対零度とはいかなかった。

 

「既知外め!」

 

 氷の闘士たる凍夜でさえ未だに白銀聖衣を凍結には至らず、百七十から百八十の間をうろうろしているのが実情である。

 

 それを専門家でもない筈のユートに先を往かれて、思わず感情的になってしまった凍夜は、未だに氷河の足下にも及ばない。

 

「随分と面白そうな事をしてるじゃないか」

 

「と、父さん?」

 

「じゃあ、あれが水瓶座の黄金聖闘士の氷河さん?」

 

 まるで某・雷電張りの知識を披露するユナ。

 

「うん? 君は……」

 

「あ、貴方の弟子の一人である孔雀座の白銀聖闘士、パブリーンの弟子で鷲星座(アクィラ)のユナです!」

 

「パブリーンの? へぇ、噂じゃ随分前に弟子を取ったと聞いたが、君がそうなのか」

 

 つまり、氷河はユナにとって我が師の師は我が師も同然な相手。

 

 パブリーンは孔雀座──この時代ではピーコック──の白銀聖闘士で、凍夜より一世代前に当たる。

 

 それより前の世代だった友にして愛弟子のヤコフ、彼が杯座(クラテリス)となった頃に修業を開始した。

 

 当然、氷河の弟子なだけに氷の闘士な訳であるが、彼女の弟子のユナは風を扱う方が得意だったりする。

 

「折角だから俺とも闘らないか?」

 

「青銅聖闘士を相手に? 黄金聖闘士の氷河が?」

 

「ああ、そうだ」

 

「それはどんな虐めだ?」

 

「そちらは聖衣フル武装、此方は生身だぜ? それなりに面白くならないか?」

 

 ニヤリと人の悪い笑みを浮かべ、挑発的な視線を向けて言う氷河に……

 

「判った、闘ろうか」

 

 ユートもそれに乗る。

 

 俄にざわつく周囲を他所にして、生身の氷河に対峙したユートは麒麟星座聖衣(カメロパルダリスクロス)を纏った侭で立つ。

 

 相手は生身だとはいえ、聖域最強の一角黄金聖闘士であり、下馬評でユートの勝利を信じている者は流石に居ない様だ。

 

 騒ぎを聞き付けた瞬や、アリアと月、更には審判役として檄までが引っ張り出されている。

 

 鋼鉄聖闘士組の四人も、同じく固唾を呑んでいた。

 

「さて、闘うとはいっても黄金聖闘士と青銅聖闘士。ただぶつかり合っても勝つのは俺だ。その隅っこでやってる賭けも成立しない」

 

 氷河の言葉に賭けをしていた連中がギョッとする。

 

「つまり、勝利条件を設定して満たせば僕の勝ちという訳だ?」

 

「そうだな……その認識で間違いは無い」

 

「嘗て黄金一二宮の闘いに於いては、ペガサス星矢が牡牛座のアルデバランから聖衣の角を折れば勝ちを認めてやると言ったとか……なら氷河はどんな条件を出す心算なんだ?」

 

「シンプルに一撃クリーンヒットで良いだろう?」

 

「了解した。此方の敗北は気絶とギブアップだな」

 

「そうなる」

 

 お互いに構えて小宇宙を燃焼させていく。

 

「始めっっ!」

 

 檄による合図と同時だ。

 

「ペガサス流星拳!」

 

 行き成り近付きながらの流星拳で攻める。

 

「相変わらず防ぎ難いな、お前の放つ流星拳は!」

 

 言いながら難無く躱す。

 

 人間、数を熟すと大抵がルーチンワーク化してしまいがちで、パターンとして一定の動きになる。

 

 ユートはそれを意図的にアトランダムとする事で、来ると理解しながら躱し難くて防ぎ辛い技に、流星拳を昇華させてしまった。

 

 光牙なら二数発で一巡、星矢でも数発単位でどうしてもパターン化しており、矯正するにも可成りの時間が掛かっている。

 

 だが、ユートの放っている流星拳は一発一発が正にランダムなのだ。

 

 氷河だから見極めて難無く躱しているが、光牙達では身体全体で防御しながら吹っ飛びかねない。

 

 それにしても……と思う光牙達は、余りにも余りな二人の戦闘に付いていけない事を歯噛みする。

 

 二人は見極めるのが困難な速度で応酬をしており、時折に聴こえる巨大な音と感じる衝撃で何とか闘いの方向を掴んでいた。

 

「なんつー闘いだよ!?」

 

 蒼摩が呻く。

 

「まあ、当然だな」

 

「檄先生?」

 

「奴、ユートは青銅聖闘士の枠を越えている。俺達、教師がアイツの教導に何も言わんのは、それが故だ」

 

「そういや、自主訓練とかで何か言われた試しは無かったな」

 

 檄と蒼摩の会話に光牙が納得する。

 

「エデンも大概だが……、ユートはそれに輪を掛けている訳だ」

 

 即ち、ユートもエデンも檄と比べれば遥かに強い。

 

 それでも経験値の差で、檄ならエデンを斃せるかも知れないが、黄金聖闘士で経験値も洒落にならないが故に、ユートを相手になど出来る筈もなかった。

 

 尚、模擬戦の決着に関しては互いに極光処刑(オーロラエクスキューション)を放ち、部屋が凍り付き始めた時点で檄が引き分けと宣言したと云う。

 

 

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