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薄い翠掛かった金髪に、青い瞳の麿眉の男性が奥から現れる。
二百数十年前、前聖戦に於いて青銅聖闘士から黄金聖闘士に昇格し、ハーデスの復活に際して一番に動こうとした真友の一人である天秤座の童虎と共に、聖域の外へと出て当代の冥王が器のアローンと対峙して、今一人の真友の杯座の水鏡の弟子、天馬星座の天馬と出会った嘗ての黄金聖闘士である牡羊座のシオン。
彼は聖域が終了して後、童虎がMISOPETHA−MENOSを受け、冥王の封印の監視をする任務を受けたのに対して、教皇となりボロボロの聖域を纏める任に着いた。
それは此処に繋がらない世界線でも確定した過去。
『開かぬ扉……か。我が師ハクレイ、セージ様……今また貴殿方の強さを実感しております。無人の聖域で虚しさと想い出とは何ともはや強敵に御座いますな。この教皇のマスクも玉座も法衣も、私はいつ馴染む事が出来ましょうや……』
シオンの結末やその後の未来など、そこら辺は大きく変わるものではない。
何故ならば、この物語はユートが転生をしなかった一巡目の世界線……
未来に於いても生き延びたシオンと童虎、テンマやアローンなどのキャスティングはある程度をその侭にして、全く別の人間模様で世界の歴史は繰り広げられていた。
例えば、天雄星ガルーダのアイアコスは聖闘士には成らず、水鏡の名前を捨てて邪悪な一人の冥王軍の将としてアテナ軍と闘う。
ちょっとずつちょっとずつが変化をせしめ、世界線は大きく変遷をしたのだ。
だが先も言った通りで、シオンと童虎の未来は特に変更も無い。
童虎は冥王軍の監視をしており、シオンは……
老いたりとはいえ教皇、内面の邪悪に侵されたサガに気付いていた、とはいえ魂の相剋たる邪悪の自分に
今代のハーデスとの聖戦では、アテナの聖衣の存在を伝えるべく、ハーデスの誘惑に乗った振りをして、十二宮へと臨む。
最終的にはアテナの聖衣をアテナの
そして偽りの生命の灯火と共に消滅、シオンは涅槃へと還るのであった。
どちらの世界線にせよ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あ、貴方が前聖戦時代の
「うむ、お前が今代の
「は、はい! 御会い出来て光栄です、シオン様!」
感動に打ち震えながら、貴鬼は拝むが如く両手を胸の前で合わせ、膝を付いて崇敬の念を以て言う。
「フッ、礼儀を弁えた良き弟子ではないか、ムウ」
「ハ、恐縮です我が師よ」
流石のムウもシオンには頭が上がらず、此方も恐縮をしっぱなしであった。
「然し、ユートの創り出した冥界にまさかムウ様処かシオン様まで居らっしゃるとは、ユート……どういう事なんだ?」
「簡単な話だ。先にも言った通り、僕はハーデスを討った際にその神氣を喰らっていた。そしてカンピオーネとなった時点で、権能として再現が可能となって、僕は冥界を創造したんだ。シオンやムウ、他にも今代の黄金聖闘士達やオルフェとユリティースも、此所──エリシオンで暮らしているという訳だよ」
「な、何と!」
オルフェとユリティース──それは黄金聖闘士にも迫る白銀聖闘士・琴座(ライラ)のオルフェと、その恋人であるユリティースの事である。
毒蛇に咬まれてしまって死んだユリティースを救う
べく単身冥界へ降りたは良かったが、パンドラの奸計により結局は救えなかったオルフェは、冥界の一角で琴を奏でてユリティースへの慰めとしていた。
そんなオルフェも死に、本来だったなら冥界と共に消滅していた筈だったが、ユートは二人の魂を確保しており、冥界の再創造に伴い解放する。
オルフェとユリティースは最早、互いに離ればなれとなる事も無く幸福な日々を過ごしていた。
因みに、
「ですが、我が師ムウは元よりシオン様までが此処で聖衣の修復を? しかも、これらは
「フッ、一度は死したとはいえど私もムウもアテナの聖闘士よ。なれば我々にも出来る事が有るのならば、それを行うものだ」
「その通りですよ貴鬼」
「ムウ様、シオン様……」
感窮まった感じの貴鬼、何と無く幼い頃に戻った気がして心地好い空気だ。
ムウは厳しかったし怖かったけど、貴鬼にとっては尊敬をするべき師匠であるのだと、それを忘れた事はムウ亡き後の二二年間というもの決して無かった。
「さて、ユート」
「うん?」
「別に暗黒聖衣の黒鍛聖衣への変遷進捗を訊きに来た訳ではないのでしょう? 第一、未だに担い手が居ないのではありませんか?」
「まあ、目的は別にある。貴鬼を連れて来たのが理由なんだよ。
「ふむ、ならば最初に序での話をしておきましょう。担い手は現れてますか?」
ムウとしても担い手が居ないというのに、幾つもの暗黒聖衣を黒鍛聖衣に直す作業は苦痛である。
況してや、大恩ある師のシオンまでも動かしておきながら、いざとなったなら担い手が居ませんでした……などと冗談で済まない。
そうなったら情けも容赦も呵責も無く、
怒れる黄金の羊として。
「覚えているか? 二二年前の暗黒聖闘士との闘いの末に、富士からムウが彼らも生かすべくテレポーテーションさせたが、白銀聖闘士を騙くらかす為に幻覚で青銅聖闘士に見せ掛けて、死んでしまったのを」
「ええ、私が自身の意志でした事ですからね。言い訳のしようもありませんよ」
「だけど、星矢だけは魔鈴の空拳で死んだと見せ掛けたから、暗黒ペガサスだけは生き延びていた」
「成程、確かにその可能性はありましたね」
白銀聖闘士の第一陣として現れたのは、
第二陣には、
第三陣として
まあ、獅子座のアイオリアを監視するのが任務で、闘いに来た訳ではなかったのだし、何より白銀聖闘士の人数が減り過ぎた。
先の連中は基本的に全員──魔鈴とシャイナは除く──である八名が死亡。
ケフェウス座のダイダロスは魚座のアフロディーテに討たれ、
聖域にはまだ
但し、
因みに、ユートが把握をしている〝この世界〟に於ける白銀聖衣は……
白銀聖衣は二四個だが、
とはいえ、造り直した際に幾つか聖衣の階級を変えた事もあり、今はこの限りではなかったりする。
閑話休題……
「暗黒ペガサスのロディ、ウチの
「成程、あの時に彼らを惜しんだ甲斐はありました」
「彼らとはいっても、他の暗黒聖闘士は死んでいるんだけどね」
ムウはそっぽを向いた。
「で、黒鍛アンドロメダ座には星那を据える。尤も、彼女にはセブンセンシズに目醒めた時点で、
「ほう、アフロディーテの後継者とは……星那というのは誰の事ですか?」
今度はユートがそっぽを向いてしまう。
「貴方の関係者……と?」
「一応ね」
何とはなしにヤっちまった感があり、少しだけだが後ろめたさを感じている。
「それは兎も角……」
「誤魔化しにきたな?」
「誤魔化しですね?」
「誤魔化し……か」
貴鬼とムウとシオンによる口撃……ユートは華麗にスルーをした。
「兎も角として! 双子座には僕が就いているから、
「カシオス? 確か彼は、
「貴鬼、黒鍛聖闘士は宿星に関係無く就く者が居ても良いだろう?」
「そうか……」
元々、黄金聖衣の暗黒──2Pカラー──は無かったから新たに造った。
その際には此処に住んでいる先代黄金聖闘士全員が協力し、黒鍛聖衣に血液を提供してくれている。
お陰で十二宮黒鍛聖衣は黄金聖衣並となっており、最早単なる2Pカラーと言えない性能となっていた。
相違点が在るとしたら、太陽の光や黄金の意志を宿していないという事。
黄金聖衣は他の階級とは異なり、黄金の意志が宿って使用者を助けてくれる。
また、黄金聖衣の十二宮というのは黄道……太陽を一年掛けて回る軌道を執る星座を意味しており、故に黄金聖衣も神話の時代より連綿と太陽の光を浴び続けていて、膨大な歴史と光とエネルギーを構造の内側に蓄積していた。
造られたばかりの聖衣にそれは無い。
「
やはり其処は気になったのか、ムウだけではなくてシオンも見つめてきた。
「黒鍛牡羊座には聖騎士のシエスタを取り敢えず……いや、沙姫を就けるかな? 現在の
「シエスタと沙姫?」
「シエスタは僕の使徒で、
「ユートの使徒ですか……しかも貴鬼の娘とはね」
ムウもイリヤを知っているから、それがどんな存在であるかも熟知している。
だが貴鬼に娘が居るとは思いもよらず、貴鬼を見遣りながら驚いていた。
「シエスタは聖衣修復技術を持つし、セブンセンシズにも目醒めているからね。それに沙姫も同じく修復師を習っている見習いだし、青銅聖闘士・
「打って付けですね」
だからすぐに頷く。
「ユート、暗黒エクレウスなどの一部が足りないが、それはどうしたのだ?」
「幾つかは既に喪われていたから、恐らくはこの時代の暗黒聖闘士が既に活動をしているみたいだね。黒鍛聖闘士のイメージが悪くなるし、やめて欲しい処なんだけど……ね」
ユートは嘆息をしながら呟いた。
「それで、本題の方なのですが……?」
「何ね、貴鬼の聖衣修復の技術がどの程度かをムウとシオンに見せようかと」
「なっ!?」
「ほう……確かに我が弟子の成長を見るのは楽しみですね。尤も、結局は聖戦で死んでしまいましたから、最後まで面倒は見れませんでしたが」
「ふむ、私も弟子の成長を見るのは愉しいものだったからな。孫弟子の成長も愉しませて貰おうか」
貴鬼の驚愕を他所にし、ムウもシオンも興味深そうにしている。
「丁度良かったという訳でもないけど、パライストラの生徒の聖衣が損傷してしまってね。貴鬼に修復を頼みに来たんだよ」
ユートは
「
とはいえ、鉄錆びの様な臭いに赤黒い液体が塗れており、それが小宇宙を籠められた聖闘士の血液である事が判った。
「血液は誰のモノを?」
「その聖衣の持ち主の友人が二人」
「ほう? 今の時代でも友の為に動ける者が居るのですか、喜ばしい事ですね。紫龍を思い出します」
「因みに紫龍は現在の教皇をやっているよ」
「教皇とは、我が師シオンの後継者という訳ですか」
「フッ、あの小僧共ぉぉぉぉぉっ! も成長したな」
感慨無量なムウとシオンは頷きながら話を聞く。
「そ、それでは聖衣の修復を始めます……」
若干、緊張をしつつ貴鬼は黄金の鑿や鎚を手にし、
「なあ、貴鬼?」
「どうした? ユート」
「手からビームは?」
「はぁ? 何だ、その手からビームというのは」
「いや、貴鬼の聖衣修復と云えば手からビーム……」
「そんな修復を私はムウ様から習った覚えは無い! きっと幻覚か夢や幻の類いに違いない。無かったのだ……そんな修復は! 仮にあったなら、それは私ではなくキキだろう! 」
貴鬼は鬼気迫る表情で、必死に言う。
例えば某・仮面の戦士の平行世界人の名前が片仮名であったみたいに、手からビームを出して修復をするのは、きっと貴鬼ではなくてキキ……
手からビーム疑惑を無いと断言をした貴鬼、確かにムウが貴鬼の目の前で手からビームを出した事実など存在せず、黄金の鑿と鎚を手にして
「今回の修復は青銅聖衣、ならば
「了解をした」
ユートが準備した
「随分とボロボロとなったものだな。此処まで酷いと私にも元の形には戻せぬ。大幅に形状を変える必要がありそうだ。さあ、
嘗てはムウが天馬星座と龍星座と修復をする際に、龍星座は多少の変形でどうにかなったが、天馬星座に関しては大幅に形を変えざるを得なかった。
カツーン! カツーン! 甲高い音を鳴り響かせ、慎重に聖衣を削り出していったり、素材を掛けて固着をさせてみたりと修復作業を進めていく。
それを見ながらユートに近付くムウ。
「ユート、訊ねたい事があるのですが……」
「何だ? ムウ」
「私が見た限りは、
「言っておくけど、鶴星座や鷲星座は貴鬼が担当だ。僕は基本形状を造ったに過ぎないからな」
「そうですか、貴鬼が……聖衣をあの様なファンシーな形状に。これは久方振りに少しOHANASHIをする必要がありそうです」
ズゴゴゴゴッ! なんて擬音が目に見えるくらい、ムウが静かに怒っている。
「お、おお……久し振り、久し振りにムウが……天翔ける黄金の羊の如く、常に優雅な微笑みを絶やさなかったムウが、ハーデス戦より久し振りにその牙を剥いたというのか!?」
驚愕を露とするシオン、貴鬼は背後での会話を聞いて厭な汗が流れ落ちた。
何しろ、貴鬼は敵である
それでも修復の手は決して休めず、集中力も乱さない辺りは流石というべきであろうか?
約二十分の修復作業が終わり、其処には新たな生命を吹き込まれた
「完成だ、これで鶴星座(クレイン)は再び優雅に、力強く羽ばたくだろう」
その輝きは修復前と比べて遥かに強く、生命の躍動感にも満ち充ちていた。
「終わりましたか。成程、私や我が師と比べても遜色無い実力ですね」
「ム、ムウ様……」
「まあ、それはそれとして……貴鬼よ」
「は、はい!」
「少しOHANASHIがあります。ですので此方へ来なさい」
「……判りました」
ガックリと項垂れた貴鬼は大人しく館へ付いていくしかなく、ユートもシオンも貴鬼の冥福を祈る。
冥界なだけに……
その後、ユートは完成をしていた黒鍛聖衣を受け取ると、冥界を後にしてパライストラへと戻った。
尚、貴鬼はムウの愛の鞭によって、もの凄く憔悴をしていたと云う。
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【聖闘士名鑑19】
名前:一輝
年齢:37歳
階級:青銅聖闘士
聖衣:鳳凰星座
誕生日:8月15日
血液型:AB型
身長:186cm
体重:78kg
出身地:日本
修業地:デスクイーン島
必殺技:鳳翼天翔 鳳凰幻魔拳 炎獄天雷(ブレイジングボルト) 光子星嵐(フォトンストーム)
備考:獅子座(レオ)の黄金聖衣を与えられていたが、現在は封印されていた筈の鳳凰星座聖衣(フェニックス・クロス)を持ち出して行方不明。炎獄天雷と光子星嵐はユートからアイオリアの技を参考に教わった。青銅聖闘士の中でも最強を誇るとされている。
【聖闘士名鑑20】
名前:レオーネ
年齢:21歳
階級:黄金聖闘士
聖衣:獅子座
誕生日:8月16日
血液型:O型
身長:185cm
体重:85kg
出身地:ギリシア
修業地:ギリシア・聖域
必殺技:雷光電撃(ライトニングボルト) 雷光放電(ライトニングプラズマ) 雷光大鎌(ライトニングクラウン) 雷光電牙(ライトニングファング) 光子破裂(フォトンバースト)
備考:アイオリアとリトスの息子。アイオリアは性欲が余り無いというか、禁欲的だからユートが策略によって結ばせた事で生まれてきた。媚薬を混ぜてみたりと碌な事をしてなかった。ユートが原因で生まれたが故に、ユートの居なかった一巡目には存在してない。一輝を師と仰ぎ、その所為か父だと思い込んでいた。雷光電撃と雷光放電以外はユートが教えている。
【聖闘士名鑑21】
名前:翔龍
年齢:21歳
階級:黄金聖闘士
聖衣:天秤座
誕生日:?月?日
血液型:A型
身長:180cm
体重:72kg
出身地:中国・廬山五老峰
修業地:中国・廬山五老峰
必殺技:廬山昇龍覇 廬山百龍覇 廬山亢龍覇 廬山龍飛翔 龍王爆連打 龍王破山拳 破山拳逆鱗断 遊虎千人演舞
備考:ハーデスとの聖戦後に春麗に拾われ、紫龍達に育てられた義息子。紫龍の元で聖闘士の修業をして、龍星座聖衣(ドラゴン・クロス)を受け継ぎ、龍峰の誕生後は基本的には世界を巡って任務に就いていた。龍峰がパライストラ仮免生となった折り龍星座聖衣を譲ると、玄武から天秤座の黄金聖衣を渡された。拾われた子だから誕生日は不明だが、一応は紫龍や龍峰と同じ10月とされている。