選択お題『交換』+『海開き』『デスゲーム』『ネジ』『幼馴染』
※注意※ グロ表現があります。また、鬱展開および鬱エンドです。
【呪い】
振り回される巨大な戦斧をかいくぐり、僕の突き出した槍が二足歩行する大赤牛の首をえぐる。気道を傷付けただろうが、まだ浅い。
巨躯に見合った首の太さであり頚椎の破壊には至らなかったようで、大赤牛は驚きに目を見開きながらも後ずさる。
もっとも逃しはしない。僕の意思によって軌道が蛇のように曲がるこの聖槍で、先程よりも鋭く全身全霊をかけて首を狙った。
相手が首を戦斧で庇う。ならば狙うは――――。僕が手を返すことなく槍は軌道を変え、心臓へと吸い込まれた。
確実性を高めるために、槍を捻りながら抜き去る。心臓が破壊されても残る体内の圧力によって血が勢い良く吹き出し、僕の身に降りかかった。
急激な血圧の低下があるはずの中、目の前の異形な存在は戦斧を振りかぶり、驚くことにこちらへと投げてくる。
受け流そうと咄嗟に槍を構えるも、倒したと確信したゆえの油断、気の緩みがあった。
戦斧を受けた衝撃によって右手を弾かれてしまい、右肘の先を持って行かれたのは痛恨の失態だ。
二足立ちしていた大赤牛の化物はそれで満足することなく、僕を睨み付けながらうつ伏せに倒れた。
頚椎丸出しになった首筋に槍の穂先を立て、鍔の部分に飛び乗る。拉げた音と感触が左手に伝わりこれで一安心。
この大赤牛の化物は、幼馴染の好きなゲームに出てきたミノタウロスというやつに似ているかもしれない。
改めて石組みによる大広間を見たが、戦闘によって酷く損壊しながらも崩れなかったことに感心する。
仕留めた
いや、もしかしたらあの戦斧によるところが大きいかもしれない。段々と輝きを失う戦斧を見てそう思う。
僕は懐から長めの布切れを出して生地を裂き、右腕を止血する。ちぎれ飛んだ右手を見る限り、縫合などとても望めないだろう。
もっとも魔法なんてものはあるのに怪我や病気を治すものは存在せず、医療をまじない師がやる文明レベルではどうしようもない。
医療で用いられる白い治癒スライムを召喚して、患部にまとわりつかせる。和らぐ痛みに思わず長く息を吐いた。
蛆虫を使った医療技術をヒントに、僕がこれを戦場で思いついて唐突に実践した時は、野営陣地がパニックに陥った。もともと死肉喰らいと呼ばれて忌諱されていたスライムだ。
僕が鼻歌交じりに怪我人を探し歩き、見つけ次第に治療と称してこのスライムを投げつけていたので、頭がイカれたと心配された。
でも死肉しか食わないこのスライムを利用すれば鎮痛効果と感染症予防に効果があり、傷の塞がりが早まることがわかると、治癒スライムへと名称変更され医療体系へと組み込まれて急速に国中へと広がった。
ふとこの城砦の上層から女王と王子、そして勇者である僕を称える喚声が響いているのを感じた。
僕がこの大赤牛を引きつけている間に、僕の属する王国の王子や騎士たちが牛人の魔王を仕留めたのかもしれない。
ようやく勝てた。これで元の世界に帰れる。
聖槍を左手だけで何とか引き抜いて担ぎ上層へ向かおうとすると、二年前に対峙した自称の神が忽然と現れた。
◆ ◆ ◆
そう、転移先となる異世界の暦で二年前が事の始まり。
宮古島の海開きに合わせて幼馴染と互いの家族の総勢一二人で訪れたのは、僕が中学三年になる前の春休みだ。
海開きのテープカットと同時に僕の目の前は真っ白となり、真後ろから掛けられた老齢の男の声に振り向いた。
内心パニックになっていたが、その老人は表面上落ち着き払っている僕を残念がりながら、異世界に勇者として招待すると言い出す。
魔王討伐ゲームのルールはとても簡単。
突然あらわれた魔王と眷属が人類を滅ぼそうとしている。
たとえ僕が生き残っても王国の女王が討たれればつられて死ぬし、三年以内に敵対する十一の魔王を討伐しなければやっぱり死に、話を断ればこの場で餓死するだろうと言われ、流されるままに応じることとなった。
ちなみに女王は城から出られないようにしてあるらしい。なんだよそれ。
身体能力の向上と敵味方の居所を探知・察知する能力、および様々な魔法への適性をもたらすこれらの
逡巡することなく聖槍を寄こせと応じると、僕の戸惑う姿が見られなかったことを非常に残念がる。
仕切り直して、デスゲームへようこそと自称の神に迎え入れられた。虫唾の走る笑顔と共に。
◆ ◆ ◆
その虫唾の走る笑顔は二年前と変わらなかった。
僕がさっさと元の世界へ戻すように詰めるが、ゲームにもエンドロールが必要だろうとあしらわれる。
自称の神はちょうどいい広さだと言い、この二年で僕が仕留めてきた
僕が倒した時のままの状態で呼び寄せたことを不思議に思ったが、それはすぐに嫌な予感へと変わり、確信に至る。
約束通り元の世界へ戻してやろうというその言葉通り、
横たわっていた魔物が形を変えそこに現れたのは、僕の家族四人と幼馴染の家族六人の亡骸だ。
先程倒した大赤牛は、体積を激減させて幼馴染と瓜二つの姿を取った。
目の前が急激に暗くなり、その場に膝をつく。自称の神は何かを言っているようだが、耳鳴りが酷くて聞き取れない。
凄絶な耳鳴りのなか、反応が思ったよりもつまらなかった、次の舞台ではもう少し抑えるかとそれだけの呟きを残し、自称の神は霞となって掻き消えた。
僕が覚えているのはそこまでだった。
◆ ◆ ◆
気が付くと、木造の部屋で寝ていた。僕の身じろぎで気が付いたのだろう、部屋の仕切り幕から初老の女中が顔を覗かせる。
その女中は僕が簡単な受け応えを出来るか確かめてから、王子のもとへと報告に向かった。
二十代前半である王子はすぐに僕の所へとやって来て、三日前となっていたあのあとの顛末を話してくれた。
結局、突然現れたという他種族は全て人族であり、自称の神によって幻覚症状に陥っていたようだ。
また、僕のいた大広間の亡骸は似顔絵を残した後に埋葬したと言う。涙ながらに謝意を述べると、他人事ではないのだと言われた。
王子たちが最後に打ち倒した牛人の王とその親族は人の姿に戻ったところ、王子の嫁いだ姉とその国王、および子供たちだったようだ。
もしかしたら他の国から見ると、僕達の姿も魔物として写っていたのかもしれない。王子もその考えに至っており、頷いていた。
この世界で唯一崇められていたという神だったが、それが僕の前に現れた自称の神と同じみたいだ。
あの時王子や騎士たちの前にもあらわれており、ネタばらしをした挙句にこの世界を放棄すると言って姿を消したらしい。
すでに多くの人たちが今回のことを知っている。この世界からは唯一の信仰が失われた。
自称の神の象徴である教会は暴動により破壊され、聖職者をはじめとする教会関係者は怪我では済まない状態にあると言う。
また、僕のことも危険視されているらしい。この世界に勇者として召喚された僕は、結局のところ異物だ。
そんな僕との関わりを持たなかった一部の民衆や貴族たちなどが、やり場のない怒りのはけ口とする恐れがあると伝えられた。
そのため、人里離れたところで不自由がないように暮らすことも出来ると言う。
戦友である王子だけではなく、女王も僕の身の振り方に配慮してくれているようだ。
ありがたい事ではあったけどすぐに断った。
もう勇者としての役割は終わったんだ。僕はあてのない旅に出た。
神を自称する悪魔の首をネジり切って墓標の前に捧げなければ、この先を生きることなど出来やしないのだから。
〈おしまい〉