イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!! 作:ハチミツりんご
鬼道兄妹に出会って、それなりの期間が過ぎた。
最初はあまり話しかけてこなかった児童養護施設の子供たちも、すっかり慣れたのか話してくれるようになっていた。実際みんないい子達だった。
なお、一番俺のことを警戒していた鬼道有人――この世界ではまだ高島――はと言うと・・・
「行くぞ、五条!!」
ドリブルをしながら、こちらに走り込んできていた。未だ小学校にすら入っていないのに、そのスピードには目を見張るものがある。
「ククク……行かせませんよ!」
しかし、俺も抜かせまいと即座にブロックに向かう。鬼道は巧みにフェイントを織り交ぜ突破を試みるが、俺が即座に対応し、突破は出来なかった。
しかし、こちらがボールを奪おうとすると、見事な足さばきでボールをキープし続ける。
どちらも決定打の無い、一進一退の攻防が繰り広げられる。
「やるな!ならばこれならどうだ!」
すると、鬼道が一歩後ろに下がり、見当違いの方向にボールを蹴り出した。
「…?何を……」
「くらえ、【ひとりワンツー】!!」
見当違いの方向に蹴ったはずのボールが高速で回転し、その軌道を変える。そこに走り込んだ鬼道がボールを受け、あっさり俺は抜かれてしまった。
「ククク…流石ですね、高島君。」
「いや、それはこちらのセリフだ。俺にこの技を使わせたのは、お前が初めてだ。」
「……光栄ですね。」
これは、鬼道有人に必殺技を使わせた自分の実力を褒めるべきなのか、この歳で必殺技を使える鬼道有人の実力を見て嘆くべきなのか・・・。
五条さんの体が覚えていたのか、サッカーは問題なく――というかふつーにハイレベルに――出来た。しかし、まだ必殺技は1つも習得していなかった。
【キラースライド】や【ぶんしんフェイント】といった原作で覚える必殺技はもちろん、先程鬼道が使った【ひとりワンツー】などの初歩的な技も覚えていなかったのだが、まぁこの歳で必殺技を使える鬼道が異常なのだろう。天才ミッドフィルダーの名は伊達じゃないということか。
とまぁ、こんな感じで仲良くなれた。施設の子達では鬼道と相手にならず、必然的に俺とやることが多くなったからな。
「お兄ちゃーん!まさるクーン!」
次の1本を始めようとした時、不意に声がかかったので声のした方を振り向く。するとそこには、目の前の有斗の妹である音無春奈――こちらも現在は高島――が手を振りながら近づいてきていた。
「どうしたんだ、春奈?」
「お婆ちゃんから伝言!もうすぐご飯だから戻っておいでって。」
「わかりました。呼んでくれてありがとうございます、高島さん。」
「もう、勝くん!春奈でいいってば!
それじゃ、他の子達も呼んでくるね!」
おーい!と声を上げながら、春菜は他の子供たちの元へと走って行く。
いやー、あんなに警戒されてたのに今ではこの対応ですよ。可愛い子が慕ってくれるのは嬉しいね。鬼道がシスコンになるのも納得ですわ。
「……お前には感謝しているよ。」
唐突に、鬼道が神妙な顔で話し始めた。
「……なんの事ですか?」
「とぼけるな。この施設で孤立しかかっていた俺達兄妹が馴染めるように、色々してくれていたんだろ?」
「身に覚えがありませんねぇ。私はただ、貴方達となかよくしたかっただけですが?」
「……ハァ。まぁ、そういうことにしておこう。みんなが待ってる。行こう。」
そう言ってみんなが待つ方へ歩き出す鬼道。
なんなのこの子。ほんとに幼稚園くらいの年齢なの?なんでその歳でそんなことが分かっちゃうの?鬼道さんだからなの?みんなの司令塔鬼道さんだからなの?なんなのこの気遣いの出来る天才イケメン。
これでゴーグルとマントとシスコンさえなくなればなぁ……。
「おい、今失礼なこと考えなかったか?」
「………………………………………」
「おい五条、なぜ黙っている、おい。」
――――――――――――――――――――
「全く……何故俺が夕食の買い出しなんぞに行かなければならんのだ。」
「だってみんながお昼ご飯たくさん食べちゃうんだもん。晩御飯の分ないよ。」
「ククク……それに、人一倍昼食を食べていたのは貴方じゃないですか。」
「サッカープレイヤーは身体が資本だ。それと、お前にだけは言われたくないな。一体どうやったらその体にあの量が入るんだ…。」
ワイワイと、取り留めもない会話をしながら歩いている鬼道兄妹with五条さん。俺達は現在、なくなった食材を補充する任務を受け、近くのスーパーに来ていた。
「そういえば、何を買うんだ?」
「えっとね、人参、ジャガイモ、玉ねぎ、豚肉……これはカレーだね!!やったぁ!」
カレー♪カレー♪と言いながら買い物を続ける春奈。それを見ながら、隣に立つ鬼道に話しかける。
「……高島くん、まだカレー粉って残ってましたっけ。」
「……いや、俺の知る限りだと無かったはずだ。」
2人で顔を見合わせ、思わずため息をつく。
「……肉じゃがですね。」
「……肉じゃがだな。」
「せめて、高島さんには今だけでも幸せな夢を見てもらいましょう。」
「……教えてやった方が、後で受けるショックも少なくなる気がするがな。」
そんな思いを抱きつつ、俺たち3人は買い物を続けるのであった……。
「いやー、いっぱい買ったね!」
「と言っても、子供が持てる量だ。今日の夕食でほとんど無くなるだろうな。」
そんな取り留めもない会話をしながら我が家に向かっていく俺たち。
ちなみに、荷物は俺と鬼道の2人が分けて持っている。女の子の春奈に持たせるわけにはいかないからね。
会話の途中で、鬼道が思い出したかのように「そういえば……」と呟いた。
「どうしたんですか?」
「いや、あの人たちが子供に買い出しに行かせるなんて、珍しいなと思ってな。」
鬼道の言うあの人たちとは、施設を運営している老夫婦のことだ。
「確かに……。高島さん、何か聞いていますか?」
「たしか、もうすぐお客さんが来るから、買い出しに行けないって……。
あっ、ほら!あれじゃない?」
春菜が指差す先には、施設の門の前に止まってる黒塗りのリムジンがあった。近くにはゴツイ黒服が何人も立っている。
……なぁにあれ。あからさまに怪しい車に、あからさまに怪しい集団。疑ってくださいと言っているようなものだ。
鬼道も同じなのか、なんだあれは、といったような視線を向けていた。
「……すみません、ここに何か御用でしょうか?」
近くに立っていた黒服に声をかけると、面倒くさそうな表情で答えた。
「あん?……あぁ、ここのガキか。
おい!こいつらどうすんだ?」
「ん?……おいまて!そのガキ共は……!」
話しかけた黒服が他の黒服達に引っ張られ、少し離れた場所で話している。すると、話していたうちの一人が電話を取り出す。
「すみません、私です。例の2人が帰ってきました。……はい、はい。ではそのように。」
黒服は電話を切ると、作り笑いを浮かべてこちらに向き直る。
「えっと、そこの君たち。ちょっとついてきてくれないかな?」
そう言って、黒服のひとりが門を開き、ついてくるように促す。どうするのかと、鬼道の顔を見ると、彼は俺と目を合わせて頷く。
「とりあえずついて行こう。……どうも、向こうの目的は俺たちらしいからな。」
門をくぐり、中庭に入ると、そこには施設の子供たちが立っていた。黒服は子供たちに近づいた後、こちらを振り向く。
「それじゃ、お嬢ちゃんはここで待っていてくれ。君たち2人はこのまま私についてきてくれ。」
待つように言われた春菜が心配そうに俺たちを見上げるので、心配するな、と言いながら頭を撫でる。鬼道も同様に春奈の頭を撫で、2人で黒服についていく。
ついて行った先には、施設の老夫婦と、対面に座っている怪しげな男、その護衛であろう黒服が2人いた。
「おお!君たちが高島有人君に、五条勝君か!私は、
怪しげな男は両手を広げながら、怪しげな笑みを浮かべて話しかけてきた。
しかしまぁ、名は体を表すとはまさにこの事だな。流石イナイレネーム。
「亜夜さん、何故、勝くんと有人くんがここに居るんですか!?彼らは関係ないでしょう!?」
「何を言っているんですか、大ありですよォ!!どうです、彼らを私の養子にすると言うのは!!そうすれば先程の話は取り消し、さらに私が多額の援助を約束しましょう!」
「なっ!?わ、私たちに、子供を売れというのか、貴方は!!」
「人聞きの悪い!!親として、子供がお世話になった方にお礼をするのは当然のことでしょう!?」
……一体何が起こってるのだろうか。俺にはさっぱり理解出来ないぜ!!
そんなことを考えていると、隣にいる鬼道が「なるほど」と声を出した。
「つまり、資金不足のこの施設に資金援助をする代わり、俺と五条を養子にする……。それを断れば、施設の取り潰しにかかるってことか。随分と姑息な手を使うじゃないか、亜夜とやら。」
あ、解説ありがとうございます、鬼道さん。
「クックック……その通りですよ。流石は高島くん。では、何故私が君たちを欲しているのか、わかりますね?」
「俺達が優秀なサッカープレイヤーだからだろう?」
「素晴らしい!!ますます欲しくなりましたよ!さぁ2人とも!私と共にいきましょう!私ならば、あなた達が欲するものを何でも揃えてあげられますよ!?
最適な練習環境、最新鋭の設備、最高の対戦相手!!さらにお世話になったご夫婦への恩返しまで出来るのです!これ程恵まれたことはないでしょう!!」
「い、いかん!!ダメだ2人とも、こんなやつについて行っては何をされるか……!」
「だァまれぇ!!さぁ、私と共に行くのか、行かないのか!
どうするのですか、高島有人!五条勝!!」
鬼気迫る表情で叫ぶ怪しい人。
俺達は顔を見合わせ、お互いに軽く笑うと、相手に向き直り、答えを出す。
「断るに決まっているだろう。」
「同じく、断らせていただきます。」
「……は?」
ポカンとした顔をしている怪しい人を見て、鬼道が笑いをこらえきれない様子で話す。
「当然だろう?俺達はお前のような小物に扱える様な人間じゃない。身の程を弁えるんだな。」
「な、んだと、この糞ガキがぁ!!」
フー、フーと、肩で息をする亜夜。怒りが収まらない様子で、こちらに向かって叫び出す。
「……いいでしょう、ならばサッカーだ!!三日後、再びここに私たちは来る!その時にサッカーをし、あなたがたが勝てば私たちは手を引きましょう!しかし負ければ、そこの糞ガキ2人は貰っていくぞ!!」
「フッ、面白い!!その勝負、受けて立つ!せいぜい首を洗って待っておくんだな!」
そうかっこよく宣言する鬼道君。
キャー、カッコイイ!流石鬼道君!!あなた今、輝いてるわぁ!!
……何勝手に決めてくれとんのじゃぁァァァァァ!!!!!!!!!
え?なに、なんで勝負することになってんの?しかもなんでサッカーなの?馬鹿なの?その後ろにいる屈強な黒服達は飾りなの?え?後ろの黒服達は直属のサッカープレイヤー?あっはいそうですか。わかりました。
え?つまり俺達は大人とサッカーをするって事?何その無理ゲー。
あ、でも原作でも雷門はSPフィクサーズに相手に試合して勝ってるのか。なんだ、余裕やん!!
なんてなるかボケがァァァァァァァ!!!!
せめてもっと、もっと練習時間をくれよ!
そんなことを考えているうちに、詳しい時間が決められ、亜夜と黒服達は部屋から出ていった。
「………高島くん、その、練習時間の事なんですが………。」
「分かっているさ。今は1分1秒が惜しい。早速練習を始めよう!」
あ、いえそういうことではなく、3日って短すぎないってことで……あ、出てっちゃった。
……はぁ、もう。やるしかないのか。せめてこの3日間で1つくらい必殺技を覚えないとなぁ。
そんなことを考えながら、俺は鬼道に続いて中庭へと向かうのだった。