イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!! 作:ハチミツりんご
「うがァァァァァァァァっ!!!!」
「っ!つぅ……!!」
チームでもトップクラスの体格を誇る大野が雄叫びを上げながら突進。ボールを保持していた佐久間はなんとか身体を挟み込ませてボールをキープしようとするが、あまりの勢いに踏ん張りが効かずに倒れ込んでしまう。
「大野!!なんだそのプレーは!!実際の試合ならイエローが出てもおかしくないぞ!!」
「っ!わ、悪ぃ!!大丈夫か、佐久間!?」
「いや……俺なら大丈夫だ、このまま続けよう!」
鬼道からの叱責を受け、大野がハッとしたように冷静さを取り戻す。慌てて佐久間に駆け寄るが、佐久間はそれを手で制すと自力で立ち上がり、練習の続行を促す。佐久間自身、かなりギラギラと熱の篭った眼光を宿している。
「っらァァァァァァァァァ!!!!」
「っ!!どっせい!!」
その逆側のゴールでは、寺門が雄叫びを上げながらボールを全力で蹴る。荒々しい唸りを上げ迫り来るボールを、一軍控えキーパーの兵藤が真正面からガッチリと受け止めようと、シュートボールとぶつかり合う。
鋭い回転がかけられたボールを、腹部や両腕、更には片膝をついて腿の部分まで動員して回転を摩擦で押し殺そうと力を込める。しばらくは強く回転していたボールだったが、兵藤の実力とパワーの前に次第に回転を弱め、その唸りを鎮めていった。
「っ……ただのシュートでここまで押し込まれんのか……!!あいっかわらず馬鹿げたバネしてんな、おい!!」
「いや……こんなんじゃダメだ!!あのキーパーには……バンダナ野郎はこれじゃ点取れねぇ!!椋本!!ボールくれっ!!」
「は、はいっ!!」
自慢のシュートを尽く防がれた。帝国学園、エースストライカーともてはやされながらあの失態。あのキーパー、円堂守の存在によって、寺門の中のプライドに火がついた。帝国学園エースストライカーとして、僅かな緩みすら許さない集中力をもってシュート練に励んでいた。
______雷門中との練習試合から数日。帝国学園として、絶対王者として目も当てられないあの試合を経験した帝国メンバー達は、各々が過去最高の熱意で放課後の練習に取り組んでいた。
当然ながら平時の練習も並々ならぬ集中をもって取り組んでいるが、これとは別。ここまでの集中力を得るには、普段から研鑽を積んでいる団体が何らかの外的要因によって掻き乱されなければならない。
皮肉にも、自分達帝国学園の顔に泥を塗った雷門中の存在が、彼らをより高みへと導いたのである。
「渋木!」
「おう!!行くぞ源田!!」
「頼みますっ!!」
そんな帝国メンバーの中でも、最も吼え猛ける者。ゴール前にて腰を落とし、構えを取る彼______現正キーパーの源田。帝国の守護神たる彼に向けて合図を送っているのは、一軍で数少ない3年生の恵那と渋木。
恵那の声に合わせて、渋木が駆け出す。何度もやりなれたタイミング、今更間違える方が難しい。
「………フッ!!」
「っらぁ!!」
足元のボールを軽く回転させて浮かせ、足先に乗せる。そしてギリギリを見計らって、ムーンサルト気味にボールを真上へと放り投げる。それに合わせて駆け寄ってきていた渋木が跳躍、勢いをつけてボールにヘディングを入れて真下の恵那へと戻す。
「「【ツインブースト】ッ!!」」
「【フルパワー………シールド】ォォオッ!!」
帝国学園でも代表的な連携技。単純的ながら、タイミングを合わせれば連続でシュートするよりも高い威力を発揮出来る。ましてや三年間帝国で努力を積み重ねてきた2人、さらに起点は佐久間が一軍入りするまではレギュラーFWの座を掴んでいた恵那だ。その威力は並ではない。
源田は両手にそれぞれエネルギーを充填し、右手に集約。拳を振り上げ大きく跳躍すると、全力で拳を地面へと叩き付ける。極厚の衝撃波の壁がゴール全体を覆うように立ちはだかり、迫り来ていたシュートと衝突。しばらくは拮抗していたが、衝撃波にヒビが入る前にボールが大きく弾かれた。
「わーお、ヒビすら入んねぇか。FWとしてのプライドが傷つくなぁこりゃ」
「まだまだァ!!もう一本、お願いします!!」
渾身の力を込めて放ったシュートを止めた後輩に向けておどけたように笑ってそう言う恵那。しかし源田はそんな彼の言葉が耳に入っていないのか、獣のような気迫を滲ませながら次を求める。それを聞いた渋木が慌てたように源田へと言葉を投げた。
「待て源田!!お前これで何本目だ!?フルパワーシールドは腕への負担が大きい技だろう?そんなに連発したら、いくらお前でも身体が持たないぞ!!」
「大丈夫です!!まだいけます!!」
「まだって、お前………」
エネルギーを直接拳へと溜め込むパワーシールド系統の必殺技は、総じて高い性能を誇る。出は速く、威力も十分以上。カバー範囲はゴール全体という、まさしくキング・オブ・ゴールキーパーに相応しい必殺技。
しかしその性能を誇る故、必然腕部への負担が大きくなる。高い実力を持ち、何度も特訓を重ねてきた源田ならばパワーシールドは問題無い。しかし、フルパワーシールドはパワーシールドの倍以上の負荷がかかるのだ。
その為普段の練習でも数回しか使わないのだが、既に今日源田は3桁にすら及ぶ回数フルパワーシールドを使用している。腕に掛かっているダメージは相当なものだろう。
「渋木、やめとけ。源田ー、もー1本いくぞ!」
「っ、恵那!?」
「お願いします!!」
そんな後輩を案じて止めようとした渋木だったが、背後の恵那からストップがかかる。まさか止められるとは思っていなかった渋木が驚きの声をあげるが、気にした様子なくポールをセットする。
「おい恵那、さすがに止めねぇと源田の奴……!」
「お前もあいつの性格知ってるだろ?1回決めたら頑なにやめようとしない奴だ、ここで無理に止めると放課後や夜中に抜け出して特訓始めんぞ、あの馬鹿」
すぐさま恵那へと詰め寄るが、肩を竦めながら彼が答える。源田幸次郎という男は中々に頑固であり、かつ自分のキーパーとしての実力に自信を持っている。その上、誰よりも王者帝国の……絶対王者の背番号一に、誇りを感じている男である。
そんな彼は、雷門中との試合で二失点したことを酷く悔しがっていた。ゴールキーパーの中のゴールキーパー、キング・オブ・ゴールキーパーと呼ばれていた自分が、無名のチームに二失点。しかも全力で相手をして、だ。
「そんな奴相手にする時は、気が済むまで相手して、アドバイスして、ちょうどいいとこで身体休めんのも仕事だって言ってやるんだよ。無理やり休ませるより、本人に納得させるのが得策だ」
「……そういうもんか?」
「そういうもんだよ。それにあいつは王者帝国の正キーパーで、リトルから長い間トップキーパーを維持してる奴だ。自分の限界くらい、自分で把握してるだろ………やばくなったら止めるし大丈夫大丈夫!俺、怪我しまくってるから詳しいのよ」
ケラケラ笑ってそう話す恵那。そんな彼に呆れながらも、渋木は知っている。恵那和樹の実力と観察眼は、充分信頼することが出来る。去年の冬頃にようやく一軍入りできた自分より長く源田とプレーしている彼の判断なら、問題ないだろうとも。
「………分かったよ。俺もとことん付き合うさ」
「さっすが渋木、いい男〜っ!おーい源田、次行くぞー!!」
「はいっ!!」
「(……かなりやる気になってるな、みんな)」
グラウンド全体を見渡しながら、ふと五条はそんなことを思う。各々が極限まで集中し、己を高めることのみに尽力する。名門帝国ではよくある事だが、その普段の極限すら超えた稀有な光景だ。
「おーい五条、ちょっといいか?」
タオルで汗を拭いながらグラウンドを眺めていた彼に、背後から声が掛かる。振り返るとそこにあったのは辺見の姿があり、手には作戦ボードが握られていた。
「おや辺見、どうかしましたか?」
「ちょいと相談があってよ。試合中の動きなんだが………」
頭を掻きながらそう相談を切り出してきた辺見に、珍しいなと心の中で五条は思う。鬼道に相談する姿は見ることもあるが、五条に相談を持ちかけることは少ないのだ。
パチリ、と作戦ボードにマグネットを置きながら、ペンを使って線を描いていく。ボードを見れば、この間の雷門中との試合で使った戦術に関する事のようだ。
「ここで鬼道さんが、サイドバックの2人に指示出して攻撃に繋げただろ?」
「そうですねぇ。特にサイドのメンバーはどの戦術でも攻守に走ることが多いですからね、帝国の戦術」
「そうなんだがよ、この場面、俺も前に出た方が良かったんじゃねぇかって思ってさ」
「辺見も?」
ベンチに座り込み、胡座をかきながらボードに線を追加する。本来この場面においてはサイドのDF2人が攻めに参加する分、中央で鬼道の背後にいる辺見はカウンターや守備に専念する役回りだ。
「ほら、この動きなら鬼道さんや他のやつの邪魔せず、サイドメンバーと連携出来るだろ?そしたら、雷門との試合でツインブースト放った場面で代わりにデスゾーンに繋げられると思ったんだわ」
「……なるほど。しかし威力面はまだしも、君が攻撃に参加すると万が一止められた時の失点の危険が高くなりませんか?確かに総合力の高さは君の長所ですが……」
「だがお前も見てただろ、雷門中との試合。………お前がいればあのキーパーのゴッドハンドもぶち抜けたかも知れねぇが、お前や鬼道さんに頼りっぱなしはまずいだろ」
静かに拳を握りしめる辺見。どうやら彼自身、あの試合に思うことは多かったようだ。舐めてかかった無名校相手に同点、しかも五条を除けばフルメンバーの完璧な布陣。相手メンバーの半数ほどがまだ拙い動きだったことを加味すれば、実質半分近い相手に翻弄されっぱなしだった事になる。
「それに、大野と万丈がシュートブロック出来るようになったし、ゴール前には源田もいる。成神の野郎もいるし………何よりお前がいる。失点するイメージ浮かばねぇよ、正直」
「………なんと言いますか……意外ですね。有人に比べて、私は君からはあまり認められていないものだとばかり思っていましたが」
辺見渡という男は鬼道の事を心から尊敬している。その為佐久間と同様、同学年ながら彼の事を『鬼道さん』とさん付けで呼んでいるのだ。対して、五条の事はほかのメンバー同様に呼び捨て。同じ一軍寮に住んでいるため気さくに接しているとは思っていたが、あまり信頼されている実感は無かった。
そんな風に素直な感想を五条が告げると、「はぁ?」と呆れたような顔で辺見が反応する。
「なんでそうなんだよ。特待生のお前を認めてねぇ訳がねぇだろ。ただでさえこの一年、嫌ってほど実力差を見せつけられてんのによ」
「おや、プライド高い君が嫌に素直ですねぇ……これは明日雨でも降りますかね?」
「こんっのクソメガネ…………」
素直にそう告げた辺見に向けて、空を見上げながら明日の天気の心配をする五条。おどけた様子を見せるチームメイトに静かな怒りからワナワナと震えるが、諦めたようにため息をつく。
「………それに、鬼道さんとの扱いの差はアレだ。あの人は俺にとって………いや、この世代にとって特別だからだよ」
「特別?」
聞き返した彼に向け、辺見が軽く頷く。
「あの人は俺らにとって、特別な憧れなんだよ。リトルん時から変わらず世代のトップ選手、どれをとっても隙がない完璧さ………あの人に触発されてサッカー始めた奴もこの世代にゃごまんといる。俺だってその一人だ」
______鬼道有人という男は、特別な男だった。
王者帝国の総帥であり、サッカー協会副会長の影山から教えを受けた比類なき天才。常に頂点に君臨し続け、日本のリトルサッカー界を牽引し続けてきた男。長らくスター選手のいなかったサッカー界に舞い降りた、正真正銘の麒麟児。
そんな鬼道を見て、サッカーを始めた同年代はとても多い。帝国内であれば、佐久間や辺見、大楠などもその一員だ。そんな彼らにとって見れば、鬼道有人という存在は酷く輝いていた存在なのだろう。
「………そんなあの人が親友だと認め、総帥からも特待生を貰ってるお前を信用してない訳がねぇ。それにお前は時折人をおちょくるが、良い奴だ。いっつもなんか考えて、誰かの為に行動してやがるからな」
「……それ褒めてます?」
憧れであり特別である鬼道有人が認める存在、五条。実際に一年近く彼と共に過ごし、学業面でもサッカー面でも切磋琢磨し合ってきた相手だ。充分信頼に足る相手だと、辺見はしっかりと認めていた。
面と向かってそんなことを言われ慣れていないのか、些か気が落ち着かないような様子を見せる五条。そんな彼の言葉に、辺見は呆れた笑みを見せる。
「褒めてんだよ。実際お前がいたお陰で、俺も結構変われたしな」
「私のお陰で?………特に身に覚えがありませんが」
「だろうな。俺に限らず、帝国のやつは大体そうだろうぜ」
自分のお陰で変われたというが、見に覚えが全く無い五条は首を傾げる。その反応を当然だと言わんばかりに肯定する辺見は、グラウンドを眺めながらふと話し始めた。
「………俺はさ。自分に自信があったんだわ。特待生って訳じゃないが、帝国の試験はきっちり突破、入部試験では総合トップ10に入る実力を見せて即二軍入り、夏が終わる頃にゃ2年や3年を差し置いて繰り上げ一軍。勉強だって、学年で上から数えた方が断然早い。俺を完全に負かせるような奴なんて、鬼道さんしかいないと思ってた」
「……………………」
「だから、俺は鬼道さんの指示に従うって決めてた。あの人なら間違った指示は出さない、全面的に従って、俺は完璧にそれをこなす。それこそ、最高の関係だってな」
ボードに描いた線を消し、チームメイトや自分に見立てていたマグネットを片付ける。次いで鬼道に見立てていたマグネットを袋の中に戻すと、右サイドバック………五条に見立てていたマグネットを手に取った。
「………だが、お前は違った。俺達が従おうとした人の隣に立って、平然と意見が出来た。そしてそれを鬼道さんも当たり前のように受け入れていた。
______それ見て思ったんだよ。あぁ、こいつにだけは負けたくねぇなって」
ピンッ…と軽く指で弾いたマグネットは、真っ直ぐ空へと駆け上がっていく。美しい放物線を描いたそれは、そのまま真っ直ぐ、ぶれること無く袋の中へと落ちていった。
「だから、帝国の連中の大部分は死にものぐるいで練習してんだ。鬼道やお前の隣に立つ為にな………昔の俺なら、鬼道さんの指示なら間違ってる訳が無いっつって、こんな作戦のひとつを考えることすらしなかった。それをするようになったのも、お前って存在が切っ掛けなんだよ。______サンキューな、五条」
鬼道有人は絶対的な存在。だから手は届かない、そこへ伸ばそうとする労力があるのなら、あの人の為に完全に作戦をこなす能力を身につけるべき。今までは、そうだった。
しかし違った。いや、悔しかったのかもしれない。憧れの隣に立てる彼が。誰から見ても、隣に立って遜色ない実力者の彼が。無名ながら、いきなりトップに躍り出た彼の存在自体が、酷く目に付いた。
______いや、それだけならば良かったのかもしれない。
「……………私が切っ掛け、というのは理解しました。そのうえで、一つだけ」
カチャリとメガネを押し上げるような動作を見せる。ズレ落ちたメガネを直すための動作なのだろうが、もはや癖づいているようだ。そんな動作を見せる時は、決まって何かを伝えようとする、その時だ。
「確かに切っ掛けは私だったのやもしれません。しかし、そこから考え、悩み、憧れの存在へと手を伸ばそうと決意したのは他ならぬ貴方でしょう?
ならば礼を言われる筋合いはありません。決意したのは貴方で、努力しているのも貴方なのですから」
「______!」
これだ。この男は、これなのだ。
全国の頂点たる帝国学園で、特待生という圧倒的な地位を得ながら。たとえ一人だろうと並のチームを軽く蹴散らすであろう並外れた実力を備えながら、決してそれに胡座をかかない。果てなく研鑽を重ね、途中で止まった仲間がいれば人知れず後ろから押してくれる。自分だけでなく、周囲も高みへと引っ張っていく。だから、憎めない。嫌いになれない。友として、チームメイトとして、この男はどうにも心地よいのだ。
「………ハッ!礼くらい素直に受け取っときゃ良いのに、可愛げのねぇ奴!」
「おや、私に可愛げがあるとでも?」
「ねぇな、不気味さと怪しさしか感じねぇ」
あぁ、でも。でもしかし。だからこそ進もうと思う。前に足を伸ばそうと思う。並外れた速度で駆け抜けていく憧れ達の背中は未だ遠くとも。日に日にその壁が高く険しくなろうとも。
「おい、五条」
「なんでしょう」
望む所だ。幾ら壁が険しくなろうが、茨の道に覆われていようが。足を止める理由になどなりはしない。どんなに多くの試練が待ち受けようと、全て踏み砕いて進むのみ。
「首洗って待ってろ。すぐにでも上から見下ろしてやるよ」
______それが自分達【王者帝国】だろう。
「………んじゃ、サンキューな。お前の言う通り、攻撃面ばっか考え過ぎてたわ。DFやGKの動きも加味して、もう何パターンか考えてから鬼道さんに見せてみる」
「…………えぇ。それがいいかと」
「おう。それじゃ俺はドリ連戻るわ。咲山と確認したいこともあるしな」
ベンチから立ち上がった辺見は、ヒラヒラと軽く手を振って去っていく。不思議と彼の背中は、以前に比べて少し頼もしく見えたような気がしてならない。
そんな彼を背を眺めながら、五条はポツリと独り言を呟いた。
「…………君は勘違いしている」
「私は…………俺は、隣になんて立てていない」
「…………突き詰めれば、俺は身体を借りているだけの異物だ。本来この道にさえ組み込まれない、遠くから眺めるだけの異物。だから、みんなが…………」
「______本当の意味で前を歩いているみんなが、酷く眩しいんだ」
☆☆★
「______なんだ勝、こんな所にいたのか」
ようやく見つけた親友の姿にため息をつきながら、鬼道が声を掛ける。姿が見えなかったので軽く探してみれば、こんな所で一人考え事をしていたようだ。
ふと鬼道の声に気がついた五条は、顔を上げて鬼道を見やる。
「…………おや、有人。いつの間にそこにいたんですか」
「今しがただ。……………お前、大丈夫か?」
「何がでしょう?私は、いつもと変わらぬ『五条勝』ですよ………ククッ」
顔を上げた彼の様子に違和感を覚える。なにか理由がある訳では無い、何となく直感的な、そんな違和感。しかし、肩を竦めて慇懃無礼に笑う彼は確かにいつもの彼であった。
「そうか?何か悩んでいるのなら、遠慮無く俺やアイツらに言え。お前は妙に隠し事をするからな………」
「はいはい、善処しますよ。それで?何か用があったんですか?」
「あぁ、用という訳では無いが………少し面白い情報が入ってな」
過去に自分に相談もせずに総帥の判断に反抗したりした事例のある友にそう苦言を呈すると、五条は軽く答える。そんな彼に言われて、手に入った情報をいかにも愉快そうに伝えた。
「雷門中に練習試合の申し込みがあったらしい。相手は去年お前が二軍試合で蹴散らした尾刈斗だ」
「あぁ、なるほど。……まぁ、雷門が勝つでしょう。正直、あの戦術に頼る尾刈斗に勝ち目があるとは思えません」
雷門中と、尾刈斗中の練習試合。原作を知る五条からすれば、なんのパワーアップもしていない雷門ですら勝てたのだ。現状の雷門ならば勝負になるかすら怪しい程である。
「いや、この試合………案外面白いことになりそうだぞ」
しかし。その言葉を否定した鬼道は、先程手に入れたデータを五条へと手渡す。なんのデータだ、と思いながら受け取った五条は軽くそれに目を通すと、驚愕のあまり目を大きく見開いた。
「…………えっ、ちょっ、えっ?」
「驚くだろう?連中、お前にリベンジしようと随分躍起になったらしいな」
何度も何度もデータを見直す五条に向けて鬼道は、これから起こるであろう試合を想像して至極面白そうにニヤリと笑った。
☆☆★
「______アォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!」
吼える。胸に宿る猛き誇りと、この身に遍く満ちる怨讐を込めて、力の限り吼える。
その叫びが視認出来る形となり、蠢く死霊の如くなりてボールへとまとわりつく。黒く、おぞましいもの達に包まれたボールに向かい四肢を躍動させて地面を蹴ると、その噛み付かん勢いのままボールを蹴り放った。
「______【ハウリングウルフ】ッ!!」
両頬に動物のヒゲのような模様を描いた、紫色の長髪の男子選手がシュート放つ。真っ直ぐゴールへと向かうかと思われたボールだが、僅かに軌道が上へと逸れる。ミスキックではなく、彼の想定通り。この次に繋げるための布石だ。
「______フッ、ハハハハハハッ!!」
後方から素早く走り込んできた金髪オールバックで白い肌、鋭い牙に赤目という吸血鬼のような選手が両手を交差させる。両手の指には揺らめく真っ赤な液体がまとわりついており、それを解放するように両腕を大きく振るった。
真っ赤で流動性のある、血液の如き液体が空を駆けるボールへと集約。黒から一点、どす黒い紅へと変貌したボールに向けて回転しながら跳躍すると、一気にカカト落としを叩き込んだ。
「【ブラッディア・ルナ】!!!」
ふたつのシュートを内包し、威力が掛け合わさった赤黒いボールが勢いよくゴールに向かって飛来する。その威力は推して知るべし、並大抵のそれでは無いことは明白であった。
「そう簡単には行かせない…………!」
迫る赤黒いシュートの前に、ふらりと一人の男が立ち塞がる。線は細く、顔も青白い。額に巻いている白い三角巾も合わせて生霊のような雰囲気を醸し出す少年だったが、纏う雰囲気は並々ならぬもの。
両腕をダランと脱力させると、地面から真っ白な何かが湧き上がるようにして出現。朧気であり、透けているそれらは彼の両腕を軸にして纏わり回りはじめる。
「フッ!!」
彼の両腕が霧のような生霊達に包まれ見えなくなった時、大きく両腕を振り上げる。すると生霊達が空中にて、空から流れ落ちる一筋の川のごとく形成された。
「_____【リバーズ・レイス】ッ!!……くっ!?」
川の様に広がった怨霊達による広範囲ブロック。赤黒いシュートを引きずり込むように怨霊達の手がボールを掴み、しばらく拮抗していたものの、さすがに分が悪かったのか怨霊の川は弾き飛ばされ掻き消えた。
「ヒーホーッ!!【キラーブレードV3】ィ!!」
ゴール前に立つ、仮面を被った一つまとめのドレッドヘアーをしたゴールキーパーが吠える。叫びと共に右腕に全身のエネルギーを集め、青い刀身を形成。幅の広い鉈状のそのブレードを大きく振りかぶり、迫り来るシュートに勢いよく叩き付けた。
ギャリギャリギャリギャリッ!と削れるような音とともに拮抗していた両必殺技だったが、一度ブロックを入れられたシュート側が次第に回転を止め、削れた刀身によって弾き飛ばされた。
「______ヒューッ!!アンビリバボーッ!!リバーズ・レイスを挟んでこんなに削られるか!!月村パイセンも武羅渡もいい感じじゃーん!?」
シュートを止めた仮面のゴールキーパー……【
「ちっ!!止められちゃあ意味ねぇんだよ!!」
「ふむ………少し血が足りませんでしたかね。それに今日は陽が強過ぎて私の身体を蝕む………」
「試合は基本昼間でしょ………明るいのが嫌なのは分かるけどね………」
そんな鉈の言葉を受け、決められなければ意味が無いと荒々しく吼える紫色の長髪FW………【
「ガァッ!!納得いかねぇ!!おい鉈、もう一本だ!!次はぶち込むっ!!」
「オフコォースッ!!何回だって付き合っちゃうぜ!?決められる気はねぇけどな!!」
「やれやれ、月村先輩の悪い癖が出ましたね………私たちも付き合うとしますか」
「……………疲れたから休みたいけど………仕方ないか………」
ガヤガヤと騒ぎながら再び各々のポジションへと戻っていくメンバー。そんな彼らを少し離れた場所から眺めている人物がいた。
紫色のバンダナで瞳の部分を覆い隠した、薄い紫色の髪の少年。本来目が見えているはずの部分にあるのは、バンダナに描かれた赤い単眼。この状態で目が見えているわけは無いのだが、彼は今まで至ってなんの不都合も無く日常を送ってきていた。
「__________________!」
ポケーっとした雰囲気を醸し出しながら石段に腰かけていた彼だったが、突如としてピクリと反応して顔を上げる。虚空を見つめながら、しきりに何度か頷くと、その場で立ち上がってベンチへと足を運んだ。
「木乃伊!キックもっと丁寧に!!霊幻、お前は固まるな!!八墓にフォローされっぱなしだぞ!!不乱、屍、いいプレスだが上がりすぎるな!………ん?」
ベンチにいたのは、灰色の髪をしたこのチームの監督。目の下辺りに赤い模様を引いているのが特徴的な人物であり、この古豪を長く率いている名将だ。
そんな監督が近づいてくる少年の気配に気がつくと、練習を続けさせながら彼の方を振り向いた。
「幽谷か、どうしました?何かわかったのですか」
「はい。雷門の方まで見に行ってくれた人達がいたので…………。木戸川清修の豪炎寺さんが雷門にいるっていうのは本当らしいです。周りも、豪炎寺さんと遜色ないプレーをしてたって言ってました」
「そうですか………分かりました。全員集合ッ!!」
幽谷、と呼ばれた単眼バンダナの少年からの言葉を受け取ると、監督は立ち上がってグラウンドの選手達へと号令。各々が特訓に励んでいたメンバー達が、その声を聞いてなんだなんだと集まってきた。
「ヘェイカントク?いきなりどうしたんだい?まだ練習時間あるだろ?」
「試合……近い………練習……大事………」
「そう焦らないで下さい、鉈。不乱もです、その試合に関する連絡ですよ」
『!!!』
仮面越しにブーブーと文句を垂れるゴールキーパーの鉈に、チームでも一際巨漢を誇る3年生DFの不乱も同意。しかし監督から試合に関する連絡、と聞いた瞬間、全員が背筋を正した。どうやら彼らにとってその試合は、特別な意味を持つ様子。そんな彼らを見た監督は、そのまま話を続けていく。
「今しがた、幽谷からの報告がありました。幽谷、詳しくお願いします」
「はい。ちょうど見てきてもらったんですが、元木戸川清修のエースストライカー、豪炎寺修也さんが雷門にいるというのは本当でした。周りの選手も、豪炎寺さんに遜色ないほどの実力者だったそうで、特にキーパーは______」
監督に促された幽谷が一歩前に出ると、次々の雷門に関する情報を伝えていく。流れるように紡がれていく言葉は、まるで実際に見てきたかのように細かく、かつ把握しやすい様に簡潔。今日一日このグラウンドにいたはずの彼が何故それを知っているのか。本来ならば疑うはずのそれを、この場の誰も言及することなく話は進んでいく。
「______という感じでした。帝国に勝ったというのも頷けるレベルです。仮に帝国が雷門に負けたという噂が嘘であったとしても、相当な実力を有していると思われます」
「ありがとう幽谷。………今聞いたように、全くのノーマークだった雷門が帝国に近い実力を持っている可能性はかなり高い!そんな彼らとの練習試合が、もう三日後に迫っているのは知っての通りだ!」
幽谷からの報告が終わると、再び監督が前に出てメンバーたちへと言葉を投げる。その目は真剣そのもの、普段はあまり見せないほどに鋭く、ぎらついたものであった。
「二年、三年は覚えているだろう!!去年、フットボールフロンティア終了後に行った、帝国との練習試合!!………みんなと共に編み出した【ゴーストロック】が、一選手に破られた!!その後は自力の差を見せつけられ、二軍相手に大敗。新チーム移行直後だったのもあるが、正直に言って辛かったと思う!!」
そう叫ぶ監督。覚えのある上級生達………特に実際に試合に出ていたメンバー達が、強く拳を握りしめ微かに震える。
帝国学園。言わずと知れた絶対王者であり、常勝無敗を掲げる超名門校。去年彼らは、その帝国学園の二軍と戦った。結果は、監督である【
監督である地木流もだが、それ以上に選手達の方が心にダメージを負った。現三年生達の中でも、退部者は多く。ここに残っている者の中でも、サッカーを辞めようと本気で悩んだ選手は少なくなかった。
「______だがよく頑張った」
「お前たちは強い。この一年間、今までに無いくらい頑張って来た。同級生達が帰っていく中、遅くまで残って練習したな。休みの日も返上してみんなで帝国の試合を見て、対策を練ってきた。幽谷と柳田も加わってから、今の今まで打倒帝国の為に…………あのゴーストロックを破った『五条 勝』を打ち負かす為に、中学生活の大切な一年を捧げて来た!!」
「フットボールフロンティア直前のこのタイミングで、帝国に近しい実力を持つ相手と試合を組めたのは僥倖だった。ここで今一度自分たちの実力を測って、欠点を洗い出し、本番の帝国戦に備えよう!」
「______そろそろ君達が報われても良い頃だ。雷門との試合、全力で行くぞっ!!!」
『はいっ!!!』
今ここに、新たな変換点が産声を上げた。本来ならば2人のFWの確執を埋める為、彼らの信頼を育む為だけの相手。慢心し、一つの戦術に拘ったがあまり敗北を喫するはずの、そんな存在だった彼らが『
円堂守率いる主人公雷門中が、東京地区の古豪【尾刈斗中】と試合を開始するまで、あと三日______