イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!! 作:ハチミツりんご
「………クソっ!!やるな、アイツら……!!」
汗を拭ったタオルを乱雑に扱いながら、染岡がボヤく。既に試合は前半が終わっているものの、得点は動かず0-0を指し示したまま。こちらも点を取られていないが、FWの染岡からしたら納得のいく結果ではなかった。
「帝国に勝てたから、尾刈斗なんて楽勝だと思ってたのに……」
「蓋を開けてみれば、帝国レベルに強いよ〜……」
つい一週間ほど前に戦った絶対王者、帝国学園。彼らとの試合は事実上引き分けだったが、円堂がゴッドハンドを覚醒させてからの流れは決して悪くなかった。むしろ雷門に流れが寄っていたし、あのまま行けば正式に勝てていたかもしれない。
そんな自信があったが故に、尾刈斗の予想外の強さに意気消沈する宍戸と少林。ある意味殆どのメンバーの心情を代弁した二人のつぶやきは、チーム全体に暗い陰を落とす。
「なんだなんだ、みんなして!!こんなにすげぇ相手と試合出来てるんだ、楽しんでこーぜ!!」
そんな中でも楽しむことを忘れない天性のサッカー馬鹿、円堂はそう皆を鼓舞する。円堂からすれば帝国の強力なシュートに匹敵する程の攻撃力を有している尾刈斗との試合は楽しくて仕方が無い様子。底抜けに明るいキャプテンからの言葉に、自然とメンバーの顔が上がる。
「………でもどうすんのさ。正直、こっちはシュートブロック出来るやついないんだよ?」
「豪炎寺のファイアトルネードなら出来るかもだけど………エースを下げるのはまずいしね……」
円堂の言葉に明るさを取り戻すも、マックスが現実的な問題を突き付ける。
現在の雷門メンバーでシュートブロックが可能なのは、はっきり言って豪炎寺のみだ。その豪炎寺は染岡と並んで攻めの要、わざわざブロックの為に下げるような真似は避けたい。それに気がついている影野は、ため息を零しながらそう呟いた。
「大丈夫だって、マックス、影野!!相手もすげぇけど、俺が全部止めてみせるっ!!」
「円堂を疑う訳じゃないよ。あんまり負担かけ過ぎなのもどうかなって思っただけ。この試合に勝たないとフットボールフロンティアへの出場権は貰えないけど、それで円堂がボロボロになって肝心の本戦で……なんて、笑い話にもならないよ」
「それは、確かにそうだな………下手な受け方して怪我でもしたら目も当てられない」
円堂が全部止めて見せると明るく笑いかけるが、マックスは首を振ってそう言う。雷門でキーパーが出来るのは唯一円堂のみ。しかも彼はキャプテンであり、豪炎寺に並ぶ雷門の柱だ。彼に負荷を掛けすぎで潰れてしまうような事があっては目も当てられない。マックスの考えを聞いた風丸も、神妙に頷いていた。
「ご、豪炎寺さん、何かいい方法無いっすか?」
「おい壁山、豪炎寺に頼りっきりになるなよ」
「で、でも……何かしないとこのまま引き分けになるでやんす!」
そんな中で一年生で一番の大柄な体躯の持ち主、壁山がオドオドしながら豪炎寺に尋ねる。あまり彼に頼りきりにならないよう半田が注意するが、そこに栗松が口を挟んだ。現状、雷門の単体最強火力を誇る【ドラゴントルネード】が止められてしまっている。その上シュートブロック可能な選手が二人も在籍している尾刈斗の方が、ブロッカーがおらず相手シュートに関して円堂頼りな雷門よりも優勢なのは目に見えている。
「……………染岡。最初のシュートのとき、身体が傾かなかったか?」
「あん?………あぁ、確かにぐらついたな。靴紐とかも確認したが変なとこ無かったし、俺がバランス崩しただけかと思ったんだが………お前もか?」
「あぁ………」
打開策を探ってうんうんと唸る雷門メンバー。そんな時に、エースである豪炎寺が染岡へと違和感を感じなかったかどうかを尋ねた。最初のシュート………ドラゴントルネードを打った際に、どうにもバランスが取れなかった。そのせいで染岡は本来の体勢でシュート出来なかったのだが、豪炎寺も同じ様だ。
「………そうだな。後半始まってボールを奪ったら、染岡に回してくれ。もう一度ドラゴントルネードを狙いたい」
「いいの?さっきキーパー単独でも突破出来なかったのに、ブロック入るよ?」
「いや、それは………大丈夫じゃないかな……」
再びドラゴントルネードを狙っても先程止められた二の舞になるのではと危惧したマックスだったが、意外にもそれに異を唱えたのはマックスと同時期に入部した影野。彼がそんなことを言うのは珍しいが、観察力に関しては豪炎寺やマックスに並ぶほどのものがある。
「影野の言う通り、策……と言える程でもないが、一つ手がある。上手く行けば、あのキーパーのからくりを見抜けるかもしれない」
「本当ですか!?」
「さっすが豪炎寺さん!」
この状況を打破するきっかけとなれるやもしれぬ、豪炎寺の一手。それが存在すると聞いた宍戸と少林が頼りになるエースの周りをぐるぐると回って喜びを露わにする。当の豪炎寺はそんな後輩達に驚きながらも、特別なにか言うことはしなかった。
「よっし!!後半は染岡にどんどんボールを集めるぞ!!みんな、しまっていこーぜ!!!」
『おうっ!!』
☆☆★
「幽谷、感触は?」
「シュートブロック無しにデスゾーンを止めたのは伊達じゃありませんね。正直、ビデオで見た帝国の源田より強そうです」
前半戦を終えて、ドリンクを飲みながら水分と塩分を補給する尾刈斗イレブン。その中で監督の地木流は、前半では様子見に留めていたキャプテンの幽谷と話し込んでいた。
幸いな事に雷門側にシュートブロック可能なDFは今のところいないらしい。しかしそれを補ってあまりあるキャプテン、円堂の存在が厄介だ。単純なセーブ力なら長年世代のトップを走り続けてきたキング・オブ・ゴールキーパー、源田幸次郎にすら勝る。
「ふむ………これほどのキーパーが無名だったとは。豪炎寺君といい他の選手といい、向こうの監督、意外にスカウト上手な可能性もあるかもしれませんね」
「えぇ〜、あの冴えないおっさんがアルかぁ?」
「ハーフタイムのミーティングも蚊帳の外みたいですし………無いんじゃないですか?」
地木流のつぶやきに、霊幻と柳田が思わず反論する。何処からどう見たってただの薄幸そうな冴えない中年、とても帝国と渡り合えるチームを育成出来るとは思えない。事実このハーフタイムの話し合いの中でも、雷門側で監督である彼だけ蚊帳の外である。
「自然と集まって出来たチームにしては、いくら何でも役者が揃い過ぎていますからね。才能を磨くことは出来ずとも見抜く事は得意なタイプかもしれませんし、豪炎寺君を引き抜ける辺りどこかに強いコネを持っている可能性もあります。…………まぁ、想定するに越したことはありませんからね。貴方たちは試合に集中しなさい」
実際のところ、地木流の考え過ぎではあるのだがこれは致し方ない。何せ40年無敗の王者、帝国学園に引き分けを収めるチームなのだ。まさか自然に集まって、しかもその殆どがリトルすら経験していないなどと思えるわけが無い。まだ打倒帝国を本気で目指す指導者が、帝国より早く才能ある選手達を集めて回ったと言われた方が納得が行く。
と言っても、それを注視し見抜くのは監督役たる自分の役目。選手達には目の前の試合に集中することを促して、地木流は作戦ボード片手に少し考え込む。
「フゥーッ……」
「鉈先輩、大丈夫ですか?」
「ン〜?ドントウォーリー、問題ナッシング!!」
そんな中でゴールキーパーの鉈は、氷嚢を手に当てて1つ息を吐く。柳田が彼の安否を気遣うが、鉈は仮面越しでも分かるほどに明るい声音で問題ないと告げる。だがそれは実の所強がり。
決して前半に受けたシュート総数は多くない。中盤のMF陣が果敢にボールを奪いに行き、DF達も相手FWを自由にさせないように動いている。特に、シュートブロック可能な三途と不乱が受け止めてくれているので、実質鉈が受けたのは数回程度だ。
「(………あれだけでこの痺れって、頭おかしくナーイ?どんなキック力よ)」
最初に受けた、ドラゴントルネード。そしてその後に受けたのは、殆どが隙を突いた豪炎寺のファイアトルネードのみ。普段の練習の方が余程多くのシュートを受けているのに、それとは比にならない程の痺れが鉈を襲っていた。仮面を被って無ければ一目で分かるほどに疲弊しているだろう。
だが、それを表には出さない。ゴールキーパーはチームにとっての最後の砦、最も後ろを守る者。皆の背中を預かる男が心配を掛けてはならないだろうという、鉈のプライドも勿論ある。
しかし、もっと大きな理由______鉈はチラリと、その理由たる男を覗き見る。
「______そういえば、源田の奴が新技作ろうと躍起になってるらしいぞ。恵那さんや大楠に頼み込んで、随分な気合いの入れようだったな」
「この間の試合でかなり屈辱を味わってましたからね。大野や寺門、万丈も……というか全員いつも以上に気合い入ってますし」
「あそこまで追い詰められたのは過去に無いからな。帝国内の選手以外に刺激の足りない俺達にとって、雷門はいいスパイスだったという所だろう」
「んん〜……これだけやっても、『雷門』ねぇ………俺たちゃ眼中に無いってか?」
忘れない。一年前の、あの試合。
地木流監督と共に当時のレギュラーメンバーで作り上げたばかりの必殺タクティクス、ゴーストロック。帝国相手にも通じれば正しく最強、誰も手出しできない無敵のタクティクス。その試運転の為に、帝国の二軍と試合をした。
結果は、惨敗。編み出したタクティクスは一人の選手に破られ、シュートすら満足に打たせて貰えず。地力の差を見せつけられるように、自分達は負けた。当時から正ゴールキーパーである鉈は、一本も止められずにただただ決められ続けた。
そんな中で、最も際立っていた選手……圧倒的とも呼べた、桁違いの男。ゴーストロックを破り、当時の鉈のプライドを粉々に砕くシュートを放つDF。当時何故か二軍試合に同行していた、一軍トップ選手。
「……おい、五条」
「ん?」
鉈の視線に気が付いたのか、同じく去年の二軍試合に参戦していた佐久間次郎が隣に立つ男へと促す。
そして男と______【五条 勝】と、目が合った。
あの時の鉈の自信を砕いた張本人の視線。トラウマにもなり掛けた、その男を見て、鉈はニヤリと笑った。
自分たちが眼中に無いならそれでもいい。せいぜい後で悔しがってくれればそれで。
「鉈!後半も行けるか?」
不意に監督から声が掛かる。去年の試合で選手達と同じくらい……下手したらそれ以上の辛酸をなめた人。それでもこの一年間、帝国に勝ちたいという自分たちの思いに答えてくれた人だ。
頼れる大人もいる、引っ張ってくれる先輩も、切磋琢磨し合える気の置けない同級生も、小生意気だが才能ある後輩も。
だから彼は、ニヤッと笑うと、いつもの通り軽い調子で立ち上がって見せる。
「オフコォ〜〜スッ!!後半も、全部止めちゃうぜ!!」
自分はゴールキーパー。キャプテンとは違う、チームの支柱。勢い付く時は騒いで後押しし、沈みそうな時は真っ先に引っ張り上げる、皆の背中を守る者。
ならばおどけてみせよう、巫山戯て見せよう。滑稽だろうと、これでチームの士気が保てるのならば安いもの。もう二度と、一年前のように塞ぎ込んだりはしない。
決意を新たに鉈は行く。因縁ある相手と決着を付けるため、仲間達と共に全国に行くために______。
☆☆★
『さぁ!!後半戦が始まりました!!尾刈斗中はボールを一旦下げ、FWが上がっていくーーっ!!』
「アチャーーーっ!!」
「【呪いV2】……!!」
「ギャァァァァァーーッ!?」
後半戦、角馬の実況が響き渡る中で始まった。尾刈斗の幽谷が月村にボールを渡すと、即座に後ろにいた八墓へとパス。果敢に少林がスライディングを仕掛けるが、八墓の背後から現れた人型の影に捕まって悲鳴をあげる。
「少林!!【クイックドロウ】!!」
「っ……しまった……!!」
しかし少林が気を引いたことと必殺技後の隙をついて、近くにいた半田がブロック技を仕掛ける。急加速した半田が八墓に肉薄すると、かすめ取るようにボールを確保した。
「ボールを寄越すネ地味顔!!」
「誰が地味顔だ!!【ジグザグスパーク】ッ!!」
「アイエエエ!?」
密かに半田が気にしている事を言われながらも、必殺技を使われる前にジグザグスパークで突破。痺れて動けなくなった霊幻の横を通り抜け、一気に上がっていく。
「不乱、三途、中央固めろ!!柳田、屍、サイドにパス通すな!!」
地木流からの支持を受けたディフェンス陣が守りを固める。サイドから隙をつかれなければ、雷門の攻撃を防げるのは前半で検証済みだ。ならば中央を固めれば易々と突破されることは無い。
「行くよ、半田!!」
「おう!!」
「っ!!アスタリスクドライブか……!!」
隣まで走ってきていたマックスが半田に呼び掛け、応じる。そのやり取りを見た三途が、帝国との試合で見せたMF2人の連携シュート……【アスタリスクドライブ】だと当たりをつける。ドラゴントルネードで突破出来ないので、更にチェインを増やして強引に突破するつもりなのだろう。
「そうはいかないよ………【リバーズ・レイス】!!」
「【フランケン守タイン】ッ!!」
「待て、三途、不乱!!」
半田がボールを蹴り上げ、マックスが跳躍。そのシュートを通さぬ為に、三途と不乱がそれぞれ必殺技を展開してシュートコースを塞いだ。幾ら連携技とはいえ、この二重ブロックを抜けるとは思えなかった。
……それを見たベンチの地木流が叫び声を上げる。外から見ていたが故に、雷門の思惑に気が付いたから。
「………バレちゃったみたいだけど、もう遅いよ」
飛び上がっていたマックスが、ボールをキックする。必殺技に繋げると思ってある意味油断していたDFの2人は、マックスのキックにより大きく、そして鋭く下降していたボールに反応出来ず。
地面にワンバウンドしたボールは、三途の展開したリバーズ・レイスの下をくぐり抜けるようにして突破。その先にいたのは、もちろんこの男。
「よっしゃぁ!!ドンピシャだぜ、マックス!!」
雷門の点取り屋、ドラゴンストライカーこと染岡竜吾。フリーでボールを受けた彼は、今一度大きく右足を振り上げてシュート体勢に入る。
「っ!【歪む空間改】!!」
「っぐ……!?」
しかし即座に鉈が歪む空間を使用。バランスが失われる感覚に苛まれながらも染岡は出来うる限りの力を込めてシュート。空中にいる豪炎寺へとボールを送った。
「無駄だ!歪む空間で威力の軽減されたそのシュートじゃ、サーティーン・マチェッツは破れない!!」
鉈がそう叫ぶ。先ほど止めたという事実も相まって、ドラゴントルネード単体ではゴールを揺らされない自信があった。
歪む空間は、不可思議な手の動きで相手の平衡感覚を失わせてバランスを崩し、本来のシュート威力を出させないようにする尾刈斗伝統の必殺技だ。タネが割れれば対策されるしあくまで軽減されるだけなので本人の実力が低ければ点を決められるのだが、格上のシュートでも止める可能性を生み出す必殺技。
それを進化させた鉈の歪む空間改は、なんと
と言っても、別に違う次元に飛ばしてボール奪取とか、ボール自体を不可思議に動かすようなものでは無い。錯覚の延長、鉈を中心にした球状の空間内を歪ませて範囲内の相手のバランスを崩すだけ。とどのつまり、空中にいる相手にも効くようになった歪む空間だ。
だからこそ、豪炎寺にも効いた。本来空中にいる豪炎寺には歪む空間の効果が及ばないため、彼のシュートが有効打になるハズだったのだが、思わぬ所で豪炎寺に対する対策が発生していたのだ。本人は与り知らぬところではあるが、これも間接的に全て五条さんのせいである。
歪む空間の前には、豪炎寺ですら抗えない。そう思っていた鉈は、空中の豪炎寺を見やった。
「………ホワッツ!?」
信じられないものを見るかのように鉈が声を上げる。
それもその筈だ。何故なら豪炎寺は………雷門のエースストライカーは、
『【ドラゴントルネード】ッ!!』
「っ!!【サーティーン・マチェッツ】!!!」
目を瞑ったままで、見事にタイミングを合わせて必殺技を放った豪炎寺。その姿に呆気に取られながらも、鉈が必殺技を発動。彼の背から発せられた蒼色のエネルギーが形作った刃が、舞い降りる灼龍を切り裂かんと躍動する。
先程、止めたはずのシュート。しかし、ビキリ、ビキリと嫌な音が響き、1つ、また1つと刃がへし折れていく。
「ウッ……ソ、だろ……!?」
鉈の驚きの声。止めたはずのシュートに押された彼は、そのまま両腕の蒼い刃すらも崩れ去り、為す術もなく。そのまま紅い龍は、ゴールネットへと突き刺さった。
『ゴ………ゴォォォォォォォォォォォォォォルッ!!決めましたエースストライカー豪炎寺!!先程止められたドラゴントルネードで、尾刈斗ゴールを揺らしてみせた!!後半早々均衡を破ったのは、我らが雷門だァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』
「っしゃァァァァァ!!!豪炎寺!!」
「ナイスシュートだった、染岡!!」
角馬の実況と、観客達の歓声がコートを揺らす。染岡と豪炎寺が互いを讃えてハイタッチする中、残りのメンバーも2人の元に集まってきていた。
「すっげぇぜ、豪炎寺、染岡!!」
円堂を筆頭に、他のメンバー……特に一年生が中心となって二人をもてはやす。一度止められたドラゴントルネードで決めてみせた2人のストライカーは、はしゃぐ1年生達に苦笑を見せながらそれぞれのメンバーとハイタッチを交わしていく。
「そういえば豪炎寺、なんで目を瞑ってたのさ」
「えっ!?目を閉じてシュートしてたでやんすか!?」
「ご、豪炎寺さんも、高いところ怖いんすか?」
「高いところ怖かったらファイアトルネードなんて使わないだろ」
目敏く豪炎寺の挙動を見ていたマックスが呟くと、栗松と壁山の一年生コンビが驚愕しながら尋ねる。壁山は若干の親近感が湧いているようだが、高所恐怖症ならばファイアトルネードなんて高く飛ぶ技は身に付けないだろうと半田が半目で壁山に呟いた。
「最初にキーパーの手の動きを見て、何故最初からサーティーン・マチェッツを使わないのかと思ってな。もしやあの動きが重要なんじゃないかと、当たりをつけたんだ」
「………だから、染岡はそのまま、豪炎寺は動きを見ないように目を瞑ったんだね……」
染岡には言わなかったがな、と豪炎寺が少し笑みを浮かべる。これでお互いがバランスを崩せば別の要因があるし、豪炎寺がまともにシュート出来れば仮説が当たった事になる。そして見事、豪炎寺は歪む空間のカラクリを見抜いて見せたのだ。
「でも、目を瞑ってもダイレクトで蹴れるなんて……流石豪炎寺さん!」
「ほんと、凄いです!」
「いや、本当に凄いのは染岡だ」
宍戸と少林が豪炎寺の正確なキックと感覚に目を輝かせていると、豪炎寺は頭を振って染岡を見る。
「……バランスを崩した状況でも、いつもと全く同じ場所に蹴って見せたからな」
「ったりめぇだろ。この1年、何回おめーのシュート見てきたと思ってんだ」
本来の雷門ならば、この時期にこんなプレイは出来なかっただろう。信用もそうだが、何より豪炎寺が加入して日が浅すぎる。目を瞑った選手が普段の感覚でシュート出来るようなボールを送るなんて不可能だ。
それを、この1年で可能にした。豪炎寺が周りに合わせるのではなく、周りが豪炎寺に合わせるを可能にした雷門。ひと足早く絆を結んだ彼らは、並大抵の事で破られるほど脆くはなかった。
「______アァッ!!」
一方、シュートを決められて地面に伏していた鉈は、ひとつ大きく声をあげると身体を曲げて飛び起きる。
「メンゴメンゴ!油断してた、次止めるわ!!」
内心、悔しさで溢れている。あれだけの特訓を重ねたのに、止められなかった。染岡には歪む空間の効果が及んでいたのに、豪炎寺が万全なだけであれだけ威力が向上するのかと驚く程だ。
だが、それを表に出す時間は無い。バカみたいに悔しがる時間があるのなら、目の前の事実を分析しなければ。でなければ、帝国には勝てない。
「ゴメン鉈!僕らも油断してた、次はブロックかける!!」
「オーケー!!頼りにしてんぜDF!!」
三途の謝罪にグッとサムズアップ。それを皮切りに、尾刈斗側も口々に声を掛けあって士気を高めていった。
☆☆★
「………戻るぞ、2人とも」
「?最後まで見ていかないのか?」
豪炎寺のシュートを見ていた帝国の3人。称え合う雷門を見ていた鬼道がその場から離れると、途中で戻っていいのかと佐久間が尋ねる。
「今の一本で流れは決まった。この試合、尾刈斗が逆転することは無い」
十分な情報は取れたしな、と呟きながら鬼道が歩みを進めていく。そんな彼の後ろに、佐久間と五条は並んでついていく。
「中々いい試合だったが、まさか目を瞑るとはな。あの男も随分と奇抜な事をする」
「確かにな。帝国でも目を瞑ったままデスゾーンは厳しいものがある。……鬼道の合図込みならいけるか?」
「君と寺門と洞面ならいけるでしょう。現状、目を開けてれば合図無しでも打てるようになってるんですから」
豪炎寺の奇抜な突破方法について話し合いながら、帰路につく3人。ふと鬼道が立ち止まると、五条の方を振り向いて尋ねてくる。
「勝、あのFW、どう思う?」
「………幽谷の事、で間違いありませんよね?」
「ふっ……それ以外誰がいる」
鬼道が小さく笑いながら己の親友にそう問うた。先程の試合で、一年生ながらキャプテンマークを巻いていたFW……あまり活躍の場が無かった、幽谷についての問だった。
ふむ、と腕を組んで考え込む五条。しばらく考えてから視線をあげると、憶測で悪いですが、と前置きして話し始める。
「なにか隠してそうではありますね。動きが消極的過ぎますし、どうも見ている事が多かった」
「やはりお前もそう思うか。ではもう一つ………その隠し手込みで、
「ゼロです」
2度目の問いに五条が断言すると、満足気に「そうか」と呟いて頷く鬼道。その瞬間、鬼道宛に電話が掛かってきた。恐らく相手は総帥だろう、2人に断ってから鬼道は少し離れて電話越しに話し始めた。
「……まぁ俺達が見ているのを知ったら奥の手は隠すだろうな」
「でしょうねぇ……しかもキャプテン直々だ、見せても警戒するより先に分析して対策立てるだけでしょうし、彼」
「ははっ、目に見えるな、それ。………それにしても少し驚いたよ」
「何がです?」
離れた場所で話す自分たちのキャプテンの後ろ姿を眺めながら、談笑する五条と佐久間。元々佐久間は彼を逆恨みしていたが、現状では謝罪して和解済み。それなりに気の良い友人関係として、学校生活でも話す事は多い。
そんな佐久間が驚いたという言葉に五条が首を傾げると、佐久間が話し始める。
「いや、お前なら『油断すると足元すくわれますよ。勝負に絶対はありませんので……ククッ』……とか言いそうじゃないか。断言するなんて珍しいと思ってな」
「………まぁ、そうですね。油断すれば負ける可能性もありますし、ゼロとは言いましたが勝負事に絶対はありません。ましてやサッカーにおいては、偶然の一点で勝負が決することも珍しくない」
「ならば何故?」
「………強いて言うなら______」
「______そんなとこで負けてる暇は無い、ってだけですよ。私達はね」
普段と違い、何処か重苦しい五条の言葉。それが指し示す意味は、今の佐久間に察することは出来なかった。
練習試合最終結果
雷門 1-0 尾刈斗
豪炎寺の決勝点が決定打となり、雷門の勝利で幕を閉じた………。