イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!! 作:ハチミツりんご
「ホッ、ホッ、ホッ、ホッ………ちょっと休憩!」
雷門サッカー部のユニフォームに身を包んだ背の高い青年が、肩にタオルを掛けて校舎の周りをランニングしていた。その途中でわざとらしく声に出しながら近くの電柱に背をもたれると、タオルで汗を拭きながら静かに話し始める。
「______40年前のイナズマイレブンの話題と、その監督である円堂大介の秘伝書がありました。しかし孫の円堂守以外読めませんので、手に入れても意味は無いでしょう。……よっし、休憩終わりっ!」
誰もいない中、ボソリと語り掛けるようにそう告げると、足早に青年はランニングに戻る。
「土門さーん!!いつまでランニングしてるんですか、練習はじまってますよー!」
「おーう、今行く!」
そんな青年……土門の姿に気がついた後輩の宍戸が、練習が始まっている旨を告げる。それににこやかに対応しながら、土門は雷門サッカー部が集まっている練習場所へと急いで行った。
「………円堂大介の秘伝書、か……面白いことになってきたじゃないか」
その電柱の裏にいた人物……鬼道有人は、伝説のキーパーの秘伝書の情報にニヤリと笑みを深めた……。
☆☆★
「【イナズマ落とし】ねぇ………結局、豪炎寺と壁山がやることになったの?」
「そうみたいでやんすねぇ」
「でも壁山、高いところ怖いらしくて……悪戦苦闘してるみたいです」
タオルで汗を拭いながら地面に座り込む土門。その隣に座った栗松と少林が、土門の呟きに答えるように語り掛ける。
土門がサッカー部に加入してから既に数日、フットボールフロンティア地区予選、野生中との試合が日に日に近付いてきているそんな日。今日も雷門サッカー部は、打倒野生中に向けての特訓に励んでいた。
円堂達が雷雷軒というラーメン屋の店主から聞き、理事長の娘である雷門から受け取って来た秘伝書。その中に書かれていた必殺技のひとつ、【イナズマ落とし】を習得する為に、豪炎寺や壁山を中心として精力的な練習に取り組んでいる。
しかし、全員がそれに掛かりっきりになる訳にも行かず。今は円堂や豪炎寺、壁山と木野を確定として、それ以外のメンバーが数名手伝い。残りは各々特訓という形をとっていた。
「そういえば土門さんって、必殺技使えるんでやんすか?」
「ん?そりゃまぁ、サッカー部の端くれだし、いくつか使えるぜ」
栗松からの問いに、土門がそう答える。元帝国学園サッカー部として、彼は当然の如く必殺技を扱える。というか、必殺技も使えない選手が生き残れるほど帝国学園は甘くないのだ。
「それなら、俺たちの考えた必殺技を見てほしいでやんす!」
「あっ、それ良い!!」
「必殺技?」
必殺技を使えると聞いた栗松が投げ掛けた提案に少林が同意。曰く、宍戸に先を越されたのが悔しかったとの事。一年生四人の中でも比較的体格の近い二人で、なにか編み出せないか模索してやっと形が出来たらしい。
「なるほどな。いいぜ、見るくらい」
練習中とはいえ、帝国学園の様に人員が多くない雷門だ。円堂が抜ければキーパーはいないし、豪炎寺や壁山、その他サポートの為のメンバーが向こうへ行けば残る面々で出来る練習は少ない。せいぜいがドリブルやディフェンスの練習に、個々の必殺技の特訓くらいなものである。
それゆえ暇を持て余していた土門が了承すると、栗松と少林が笑顔でボールを持ってコートへと向かう。DFの栗松とMFの少林寺なのでドリブルやブロック技かと思ったが、どうにも違うようだ。
「いつでもいいよ、栗松!」
「いくでやんす!はぁぁぁぁぁ!!」
少林から合図を受けた栗松がボールをドリブルしながら走る。そして少林が駆け寄ってきて飛んだタイミングに合わせて栗松もジャンプ。ヘディングでボールを少林へと送った。
「「新必殺!!ジャンピングサンダーっ!!」」
二人で考えた技名を叫びながら、栗松のパワーを込めたボールを少林がシュート………しようとしたのだが。
「うわわわわァ!?」
上手く足元に送られてこなかったのか、それとも少林のタイミングがズレたのか。蹴ろうとした足は空を切り、バランスを崩した彼は足を開いた状態で地面に激突。男として守らなければならない最大の急所を強打し、栗松や土門はもちろん、近くで見ていた風丸や半田も思わず内股になる。
「し、少林、大丈夫か……?」
「だ、大丈夫……です……ギリギリ……」
股間を抑えながら青い顔でプルプル震える少林。幸いにも彼は体重が軽かったので酷いダメージには至っていないようだ。これが壁山だったら塀吾郎が塀子になっているところである。
「上手くいったと思ったんでやんすがねぇ……」
「二人の想定だと、どんな技になる予定だったんだ?」
「栗松のパワーが籠ったボールをシュートして、こう……カミナリを纏ったシュートがドラゴントルネードみたいにドーンッ!って行く感じで……」
少林と栗松の想定では、マックスと半田のアスタリスクドライブのように物理的に触れるブロックに強い…といったような特殊な強みを持つのではなく、ドラゴントルネードのように純粋に火力の高い技にしたかったとのこと。そうすれば中盤からジャンピングサンダーを放ち、染岡がタイミングを合わせてドラゴントルネードに繋げる、という形にしたかったようだ。
「そうだなぁ……タイミング云々はまだまだ練習が足りてないから仕方ねぇけど、そもそも上手く蹴れたところでドラゴントルネード程のパワーは出てねぇと思うぜ?綺麗にパワーが伝わってないからな」
土門がそう指摘すれば、2人はガックリと肩を落とす。未だに個人技を持たないふたりでは必殺技のエネルギー操作の面でまだまだ劣っており、必殺技というレベルまでは至っていない。ましてや想定していたジャンピングサンダーは連携シュート、現時点の2人では無理があった。
「やっぱりオレたちじゃ無理でやんすか……」
「キャプテン達の役に立ちたいんだけどなぁ……」
「まぁまぁ、そんな悲観的になんなよ!まずは個人技からやってみようぜ、俺も協力すっからさ!」
「ど、土門さん〜〜!!」
「嬉しいでやんす〜〜!!」
せっかく考案してみた必殺技も全く上手くいかなかった事にため息をつく2人。そんな後輩達に土門が明るく手伝う旨を告げれば、栗松と少林は感動のあまり土門へとひしっと抱きつきに走る。
本来敵側のスパイである土門にとって、雷門があまりにも成長するのは立場上良くは無い。情報さえ送れば鬼道有人という極大の頭脳擁する帝国学園の事だ。対策を練ってくるのは想像に難くなく、大きな問題は無いだろうが、それでもスパイとしては敵のパワーアップに力を貸すのはどうかとも思う。
しかし、ここに来る前に相談した友人が言っていた。自分の思うように行動すれば、きっと大丈夫だと。
「(それに頑張ってる奴って、どうにもほっとけないのよね……)」
おーいおいおい、と大袈裟な態度を見せる後輩達に苦笑しながら、土門が心の中で思う。三軍時代にもメンバー内で浮いていた佐久間を心配して何かと世話を焼いていた男は、なんだかんだ面倒見がいいのだ。頑張る人を放っておけるほど、薄情な精神は持ち合わせていないのであった………。
「………必殺技、か………」
「ん?どしたー風丸?」
「………いや、俺も頑張らなきゃと思っただけさ。半田、ドリブル練習付き合ってくれよ!」
「?おぉ、いいけど……」
そんな3人を眺めながら、ため息をつく男が一人。現状、レギュラーとして出ている2年生の中では最も経験が少ない風丸が、思い詰めたような表情を浮かべるのであった。
☆☆★
「【フリーズショット】ッ!!」
腕を組み、前方を睨む。僅かな所作だが、ことこの技においては大きな意味を持つ。
瞬間的に凍りついたグラウンドに向けて、辺見が渾身の力を込めてシュート。青白い波動を纏い、そのボールは氷上を滑るかのように加速し、ゴールへと一直線に向かっていく。
「______【スピニングカットV2】、【サイクロン改】ッ!!」
しかしそうは問屋が卸さない。凍りついた地面の上に立つその男は、動きにくい氷上でも上手くバランスをとって右足を振るう。
青色の衝撃波の壁が、フリーズショットを通すまいとその身を張って受け止める。一段階進化した彼のスピニングカットは、ブロック性能は充分。このままにしていても衝撃波の壁を抜ける頃にはノーマルシュート程度の威力にまで落とせるが、追撃の手は緩めない。
右足を振るった勢いを利用し、身体を一度回転させながら右足に風を集める。振り向きざまにもう一度振るえば、今度は集めた風が小規模の竜巻となってボールに襲いかかった。
「フッ……!!」
本来の辺見のフリーズショットならばこれで飛ばされることは無いが、スピニングカットによるブロックを入れられてはそうもいかない。サイクロンの勢いにのまれ、ボールは風と共に天高く舞い上がる。それを見ていた彼は、身体をひねりながら一度しゃがみ、左足に僅かな黒い炎を纏って飛び上がった。
「【ダークトルネード】ッ!!」
数年前から使っている、黒き焔のシュート。タメが足りないものの、殆ど威力を削ぎ取られたボール相手ならば問題ない。飛び上がりながら回転し、その炎の勢いを高めながら、左足を振り抜いて逆側のゴールへと打ち出した。
「【ワイルドクローV2】ッとぉ!!」
ゴール前に立っていたキーパーの兵藤が、巨大な黒爪を具現化させて叩き伏せる。しばらくの間拮抗していたものの、流石に殆どタメのない上に遠距離からのカウンター気味のシュートだ。兵藤のパワーを持ってすれば、止めるのはそう難しくなかった。
「………まぁこんな感じですかね」
「てめぇ必殺技の発動速度早すぎんだよ!!何をどうやったらそうなんだよ慇懃メガネっ!!」
「君が特訓に付き合えと言ったので。手を抜くのは失礼でしょう……?クケケッ」
地上に降り立った慇懃メガネ______というか、我らが五条勝。本日練習中に辺見から特訓に付き合って欲しいと頼まれて勝負したのだが、いくら何でもあの短時間に三つの必殺技を発動し、ブロックどころかカウンターまで持っていったこの男に辺見が驚愕と共にそう言った。
「ったく、おっかしいなぁ……お前単品のシュートブロックでも抜けるくらいにはなったと思ってたんだが……」
「実際、スピニングカット単体なら抜けてたと思いますよ。威力もそうだがスピードがかなり速い。実戦で不意を打たれれば驚異だ」
「キレーに止められた相手から言われても嬉しかねぇよ」
ほぼノーモーションから放たれる辺見のフリーズショットは、充分以上に驚異的なシュートだ。威力という面では円堂や源田といったレベルのキーパーは突破できないだろうが、不意をつけば必殺技を使わせる間もなくゴールにたたき込めるほどスピードが速い。その点を見事と評する五条だったが、止められた側の辺見からしたら複雑な気分である。
「にしてもお前、ほんとどうなってんだよ。あんだけ重ねられるか、フツー」
「昔っから使ってきた技ですからねぇ……練習を欠かしたこともありませんし、流石に使い慣れてないとまずいでしょう。それにブロック2つはまだしも、ダークトルネードなんてひっどい威力でしたよ、アレ」
「確かにいつものとはまっっったく別物だったな。ワイルドクローで止めれるとは思わなかったぜ」
五条曰く、アレは慣れ親しんだ技を威力を下げる代わりに連発しているだけとのこと。特にシュート技であるダークトルネードはある程度溜めなければ本来の威力は出ないので、あくまで今のコンボはカウンターで前方に送るのが目的らしい。事実シュートを止めた兵藤が、普段ほどの威力が出ていなかったことを告げてきた。
「かーっ、やっぱ新技作るよりも既存技磨くべきかぁ…?サンキュ五条、付き合ってくれて。兵藤も悪いな」
「いえ、お気になさらず」
「おう、んじゃ俺は寺門んとこ戻るぜ。相手頼まれてっからよ」
五条との一本勝負の結果を受けて、新技を作るか既存技を使い慣らすか悩み始める辺見。そのあとは自分で考えるようで、勝負に付き合ってくれた五条と兵藤に礼を言いつつ別の練習へと戻っていく。兵藤も兵藤で、寺門のシュート練に付き合うらしくその場を離れていった。
「………いよいよ、フットボールフロンティア編か………」
ぽつりと呟いた五条。その言葉は誰の耳に聞こえることも無く、だだっ広い帝国学園のグラウンドへと吸い込まれていった。
ふと周りを見渡せば、フットボールフロンティアに向けて。そして雷門との再戦に向けて、帝国学園の一軍メンバーが各々集中して特訓に励んでいた。
「はぁぁぁぁぁ!!」
「うおっ!?」
「凄い洞面!成神からボール取ったじゃん!!」
「へっへー!結構形になってきたでしょ!」
「いいじゃん洞面!俺も新技作っちゃうかなー」
一年生三人で集まって特訓していた彼らは、洞面が新しい技のコツを掴んだ様子。特待生である成神を、不意打ちとはいえボールを奪って見せたことに椋本が驚きの声を上げる。そんな親友の姿を見た成神も、新しい技を作ろうかと考えていた。
「一号を元にしたシュート技?」
「あぁ。一号は一人で行う故に身体への負荷が大きかったが、威力は絶大だ。その負荷を分散すれば、ゴッドハンド攻略の為の必殺技になると思ってな」
「使い勝手も考えて3人技にするらしいんだ。起点は鬼道さんだが……キッカーはやっぱり俺とお前じゃないとな、寺門。特訓しているところ悪いんだが……」
「いや、気にしねぇでくれ。俺の新技よりも、そっちを完成させるべきだろうからな……付き合うぜ、鬼道、佐久間」
兵藤相手にシュート練習に励んでいた寺門の元に、鬼道と佐久間がやってきて新技の提案をしていた。恐らく……というか確実に、皇帝ペンギン2号だ。提案を受けた寺門は、頷きながら特訓を一時中断し、そちらへと協力する旨を告げる。
「【ジャッジスルー改】ッ!!」
「ぐっ、おおおおおおっ!!!」
「おい大野、無茶し過ぎじゃないか?いくら新技が思い浮かばないからって……」
「いや、ダメだ!!万丈、お前はもう少しでサイクロンを元にした新しい技が完成すんだろ?アースクェイクを派生させようと思ったが、しっくり来ねぇ………俺ァ、考えんのは得意じゃねぇんだ。とにかく身体張って、糸口掴みてぇんだよ!!咲山ぁ!!も一本頼まァ!!」
「頼まれたからやっけどよォ………ったく、試合に響くような無茶はすんなよ!?オラァッ!!」
咲山の進化したジャッジスルーをその身に受けながら、なんとかして新しい必殺技を編み出そうとする大野。これ以上、五条に頼り切りになるのはゴメンだ。誰にも負けないと自負しているこの巨大な体躯を使って、チームみんなの手助けとなる為に。新技の完成が間近に迫った万丈が見守る中、とにかくがむしゃらに大野は足掻き続けていた。
「(チームの士気は高い……何人かは、新しい自分だけの技を身に付けかけている程だ。なのに、俺は……)」
帝国学園全体の雰囲気は、かつてないほど向上していた。雷門中という、目に見えるライバルが現れたことにより。眼前まで敗北が迫ったことにより、ほぼ全員が勝利に向けて躍起になって特訓に明け暮れていた。
そんな中で、一人だけ……五条だけが、イマイチ集中し切れていなかった。よくは分からない。しかし、漠然とした不安が、彼を襲っていた。
「………有人。ランニング行ってきますね」
「ん?…そうか、珍しいな。分かった、あまり遅くなるなよ」
「えぇ、分かっています」
こんな状態で練習していても身にならない。そう感じた五条は、鬼道へと断ってからジャージを羽織り帝国の外へとランニングに向かった。本来の練習中ならばあまり褒められた行為では無いが、他ならぬ五条だ。どうにも集中出来ていないのを察した鬼道は、止める訳でもなくそのまま許可を出した。
「………大丈夫なのか、アイツは……」
「鬼道さん?」
「五条のやつがどうかしたか?」
「いや、何でもない。続けよう」
何となく。何となく普段と違う親友の姿に、小さな違和感を覚える鬼道。その違和感を胸にしまいながら、対雷門中用の必殺技の特訓へと入っていった………。
☆☆★
「こんな状態でいても仕方ない。少し走って、頭を整理しよう……」
今下手な特訓をしていても効果はなし、下手したら怪我に繋がると思った五条は、一人グラウンドを離れて帝国の外へと向かっていた。
「野生中はイナズマ落としさえ完成すれば問題ない。あそこはシュート能力は高いとは言い難いから今の円堂なら失点はしないだろうし……秋葉名戸は問題外。怖いのは御影専農か……?だがパワーアップした雷門を計算だけで抑え込むのは不可能に近い………なら、やはり本番は全国______」
ブツブツと小さな声で状況整理しながら五条が歩く。
野生は強いものの攻撃面はイマイチ高いとは言い難い。『
対して御影専農は、影山が協力しており完全なるデータサッカーだ。不具合があるとすればココだが、原作ですら影山から手酷い言われようだったのだ。パワーアップした雷門なら問題ないと信じたいが、万が一があるので要警戒。
秋葉名戸はもう放っておいてもいい。メガネがどうにかする。
帝国学園戦?もっとどうでもいいさ、何故なら決勝で当たる以上
となれば原作から外れるのはやはり全国。そう思った時だった。
「______五条」
「っ!………これは、総帥」
ふと、五条の視線の先に立っていたのは、帝国学園総帥。40年無敗の帝国学園の頂点に君臨する、サッカー協会副会長……影山零治だった。
「こんな所にいるとは珍しい。練習はどうした?」
「キャプテンに許可を取ってランニングに行く途中でして。どうやら柄にもなく緊張しているようでしてねぇ………ククッ」
「ほう、お前ほどの男が緊張か………」
極力表情を表に出さないように努めながら、ランニングに行くことを告げる。影山は目の前の男が緊張という、想像からは程遠いことを言ってのけたことに小さく笑う。
「つまり、去年と今年は比較にすらならないと?」
「雷門の試合を見れば、そう思うのは至極当然でしょう……負けるつもりなんぞ毛頭ありませんがね」
「ふっ、そうでなくては困る。私の顔に泥を塗ることになるのだからな」
雷門中の出現により、去年のフットボールフロンティアと今年のものは比較にならないほどのレベル差がある。雷門だけでなく、確認した中では尾刈斗もかなりの成長を遂げているのだ。負ける気はサラサラないが、去年よりも苦戦を強いられるだろう。
仮にここで簡単に勝ってみせる、なんて事を言えば影山は五条の評価を一段階下げるところだった。現実が見えていないものや自身におべっかを使うものは肝心な時に使えない。しかし目の前の彼は実に影山好みの………現実を捉えた上で、勝ってみせると言ってのけた。欲を言えば圧勝すると言ってもらいたいものだが、五条の性格上そう断言することは無いと影山は知っているのでとやかくはいわない。
「ふむ、惜しいな……実に惜しい」
小さく呟いた影山。そんな彼は、ふと五条へと手を差し伸べた。
「______五条。私の元に来るつもりは無いかね?」
「………総帥の元に?」
「あぁ。帝国学園としてではない。影山零治個人の元に来ないか、という意味でだ」
差し伸べられた手を見て、五条が瞠目する。どちらも同じように聞こえるが、実際の今は全く違う。帝国学園としてではなく、影山個人の元へ。それ即ち、こういう事だ。
______帝国の仲間を裏切って、自分の手駒になれ。そういう意味だ。
「どうだ?私の元に来るのなら、お前にかつてないほどの力を授けてやろう………それこそ、
こちらに来るのならよし。断るのなら放置は出来ない。将来的に雷門共々、消えてもらうことになる。
「(さぁ……どう出る?)」
内心反応を楽しみにしながら、表情を崩さない五条の変化を見逃すまいと注視する。そして、五条がふと顔を上げ______
「………お言葉ですが、お断りさせていただきます」
「……ほう」
まっすぐ、まっすぐに影山の目を見て、そう言い放った。
「解せんな。神の座に至りたくはないのかね?」
「個人的に、帝国の仲間達を裏切るのが嫌なだけですよ。私はあくまで『帝国学園サッカー部の五条勝』だ。いくら総帥とはいえ、それは譲れない」
自分は帝国学園の選手だ。鬼道有人のチームメイトだ。それだけは譲れないと頑とした態度を崩さない五条。
ある意味簡単に予想出来た返答。やはりなと思うと同時に、ありふれた返答を返す事しかしなかった五条のことを少し残念に思っている影山。しかし五条は、「それに」、と小さく呟いた。
「______
「………ふっ」
「ふっ、ふふっ……はっはははは!!!そうか、神の力をその程度か!!」
全く持って予想外であった言葉。神の力、自分が与えてやるといったその力を、『その程度』と評するとは。まさかそれ以上を求めるだなんて思ってもみなかった、随分と強欲らしい。
「そうか、神程度では足りぬか……いやはや、面白い……どうやらまだまだお前を侮っていたようだ」
至極愉快と言わんばかりに笑い始める影山。そんな影山の様子に身構える五条に、影山が再び語り掛けた。
「ふむ、笑わせてくれた礼だ。少し耳寄りな情報を教えようじゃあないか」
「耳寄りな、情報……?」
唐突に影山が言い始めた、情報という言葉。どういう風の吹き回しだと首を傾げる五条だったが、影山は愉快そうな顔を崩さぬままに指をひとつ立てる。
「一つ目は、地区予選のトーナメントについてだ………お前が気にかけていた雷門と尾刈斗、どちらも我々帝国学園と当たるような位置取りになっている。良かったな、真剣勝負が楽しめそうじゃないか」
影山が言った一つ目の情報に、五条が驚く。雷門と当たるのは知っていた、しかし尾刈斗は原作において準々決勝で秋葉名戸に敗れるはずだ。つまり雷門と逆側に位置した帝国学園とは当たるはずもない。そう思ったが、ひとつ五条に心当たりがあった。
「(_______土門か!!)」
そう。一年前の、尾刈斗中が変わったあの試合。二軍試合に、土門飛鳥は出場しているのだ。帝国学園と当たるまでの間に土門がスパイとバレるのは望ましくない。そのため、雷門と当たらないようにトーナメント表を操作したのだろう。
「ふふふ………そして、二つ目」
五条の様子を眺めながら、影山が2本目の指を立てる。
「フットボールフロンティアの地区予選は、移動のことも考慮して首都圏から離れた場所や交通の便が悪い場所から行われることは知っているな?」
「………えぇ、知っております」
「既に沖縄地区と北海道地区のトーナメントが終了しているが………本戦出場校は沖縄から比得呂介の所属する『大海原中学』。北海道からは、吹雪兄弟や白兎屋なえが率いた、初出場の『白恋中学』に決定したそうだ」
「っ!?」
「特に白恋中学は、直前まで手違いで出場しないことになっていたらしいな。それに、未だ予選中の近畿地区でも、小鳥遊の所属するクラブチームが勝ち上がっているようだ………良かったな五条、勝ち進めば友人達に会えそうだぞ?」
先程よりも大きな衝撃が、五条へと襲う。大海原、白恋。どちらも聞き覚えのあるチーム名……原作において、エイリア編まで出番がないはずの学校達だ。
特に白恋は、吹雪士郎という強力なストライカーの存在を危惧した影山が出場権利を剥奪していたはず。この世界だと弟のアツヤが生存し、白兎屋も加入している。確実に出場権利を奪われると思っていたのに、彼らも参加するとの事。
………それ即ち。影山零治にとって、吹雪兄弟と白兎屋の所属している白恋程度では大きな脅威にはならないということだ。
「………何故それを、私に?」
「いや、なに………良い時間を過ごさせてもらった礼だよ。実に面白い返答だった……それでは、引き止めて悪かったな。ランニングに行ってくるといい」
良い時間を過ごさせてもらった。その言葉を最後に、影山は五条の横を通り、その場を後にした。
「______私だ。【神のアクア】の濃縮レベルを限界まで引き上げろ。どうやら奴は、神程度では足りないらしいからな………ふっ、はははは______ッ!!」
☆☆★
「…………くそっ」
小さく悪態をついて、汗を拭う。かれこれ既に一時間は走り続けているが、嫌な考えは振り払えない。
「白恋と大海原を脅威として見ていない……?片や吹雪達がいるチームだし、大海原も確かイプシロンと戦ってる時の雷門と勝負出来たチームのはず………いくら時期が早いとはいえ、フットボールフロンティア編の世宇子が圧倒出来るレベルじゃないはずだろ……?」
白恋中に入学している、吹雪士郎と吹雪アツヤの兄弟。原作においても吹雪士郎一人で豪炎寺と並び立つ氷のストライカーであったはずだ。その弟が生きているとなると、チームの強さは原作の比では無い。
「アツヤが生きていると士郎が完璧を求めないから弱体化する……?……いや、有り得ない。間違いなくアツヤが身近にいた方が士郎は燃えるタイプだ、むしろ原作より強くなってる方が有り得る……白兎屋さんがどれだけ強くなってるのかが不明だが、アツヤを超えるスピードだ。弱いとは思えない」
幼い頃、愛媛の施設時代に戦った3人の人物。使用する必殺技やプレースタイルなどが分かっているのは士郎だけではあるが、残りの2人も弱いわけが無いのだ。その白恋を脅威と見なしていない時点で、影山率いる世宇子中がとんでもないことになっているのは想像に難くない。
「大海原は……まだ大丈夫か?音村の指揮能力は脅威だが、時期が早いからエイリアレベルとは思えないし………綱海がいる訳でもないもんな。てか大海原に進学してたのか比得………まぁノリは似合うか……」
原作においてはあまり活躍していなかった大海原中。音村楽也というリズム感で指揮する特殊な司令塔有するトリッキーなチームだ。比得という強力なFWが加入して強力なチームであることには違いないが、あの身体能力お化けサーファーがいないのならまだ脅威度は白恋よりは下になるだろう。………実際はいるのだが。
「……影山は帝国が強くなっているのを見ている。だから世宇子中にもテコ入れしたのか……?だとすれば、雷門の成長率をもってすれば十分勝負にはなる……いや、やめよう。不確定な要素が多過ぎる、考えるほどドツボにはまりそうだ」
世宇子中。帝国学園を去った影山零治が、神のアクアというドーピング剤を用いて作り上げた、フットボールフロンティア編のラスボス。インフレの始まりとも呼べる存在。当時雷門を圧倒し、成長した彼らとも互角の勝負を繰り広げた帝国学園を完膚なきまでに叩きのめすチームだ。
そんなチームがさらに力を増していると考えるとゾッとするが、こんな所でつまづいては居られない。このあと、彼らより余程やばいチームがうじゃうじゃ現れるのだ。
「………神の力ねぇ……それくらい、自力で辿り着けないとこの先ついていけないんだよ………俺は、置いていかれるわけにはいかないんだ」
立ち止まってはいられない。置いていかれるわけには行かない。フットボールフロンティア編なんてインフレの始まりに過ぎないのだ、このあとは蹴り一発でコンクリート製の建物を倒壊させる宇宙人もどきが現れるし、それを打ち勝つ日本を苦しめるアホみたいな実力を誇る世界勢だって出てくるのだ。こんなところで置いていかれたら、原作を駆け抜けるのなんて夢のまた夢。
「………はぁ………ほんっと、原作の奴らってとんでもないな………」
自分の存在を自覚してから、その世界編を目標に努力してきた。その自分が既に置いていかれるかもしれないと危惧しているというのに、原作のメンバーはそれを超えてみせるのだから。特に初心者から代表になるようなメンツは頭おかしいとしか思えない。
そんなことを考えているときだった。軽く走っていた五条は、ちょうど道が交差する場所でドンッと軽い衝撃に見舞われる。
「っと……すみません!」
「あぁいえ、コチラも不注意で______って、もう居ねぇ……」
ぶつかったことを謝罪する声が聞こえたので問題ないと返そうとしたが、既にその場に人はおらず。少し離れた場所に、青い髪を揺らして走る人影が見えたのできっとその人物だろう。
「……ん?青い髪?」
ふとその髪に見覚えがあった五条が思い出そうとすると、足にコツン、と何かが当たった。
「これは………雷門のスポーツボトル?」
拾ってみれば、見覚えのあるスポーツボトル。振ってみればちゃぷちゃぷと音がするので、まだ中身は大量に残っているようだ。ふと顔を上げれば、既に目的の人物の姿は遠くにうっすら見える程度。
「………あぁ、まったく……!」
そのままにしておくのもしのびない。ひとつため息をついて、五条はその人物の背を追い始めた……。
☆☆★
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……!!」
走る。アスファルトの地面を蹴って、身体を前へ、前へと進めていく。陸上時代、疾風とも呼ばれた瞬足を飛ばして、全てを置き去りにする勢いで駆け抜ける。
「ハッ、ハッ………ハァッ……ハァッ……!!」
次第に速度を弛めて、足を止める。全身に送るための酸素を求めて肺がうるさい程に空気を欲して荒く呼吸する。汗が滴り、長い髪がベタっと頬に張り付いた。
それを拭いながら、彼______【
「そろそろ、戻らないと、な………ん?」
息を整えながら、時間との兼ね合いも考えて自宅に戻ろうかと思う風丸。取り敢えず喉を潤そうと腰に取り付けたポーチに手を伸ばす。が、手に伝わる感触は随分軽い。
慌てて中身を確認すると、最低限の荷物しか入っていない。持ってきていたはずのスポーツボトルのみ、その姿を消していた。
「っべ、どっかで落としちまったか……?」
近くに自販機がある様子も無く、長いこと走っていたのでどの辺で落としたのかも定かではない。ポーチのジッパーをしっかりと閉めていなかった己を呪いながら、ひとまず自販機を探そうと思った時だった。
「……はい、どうぞ」
不意に風丸の耳に入ってきた声。近くに誰かいたのかと重い後ろを振り向けば、そこには見覚えのある顔が浮かんでいた。
「……!お前、帝国の………!!」
そう。後ろにいたのは、帝国学園サッカー部の五条勝。風丸達雷門中との試合の途中で、棄権する旨を伝えに来たあの選手だ。
「なんでここに!?」
「ランニングの最中ですよ。途中でぶつかった時にこれ落としていた様なので、持ってきただけに過ぎません」
あの練習試合の仕打ちを知っているゆえに、帝国学園の選手というだけで警戒心がこみ上げる。しかし五条はそんな様子を不快に思うこともなく、落としたボトルを拾って持ってきたことを告げた。
「……ぶつかった?」
「えぇ、交差点で。覚えてませんか?」
五条が首を傾げながら尋ねる。風丸にも、確かにぶつかった身に覚えはある。しかし、その場所はここからそれなりに離れていたはずだ。ぶつかったことを忘れる程度の距離は、風丸も走ってきた。しかもそれなりに本気で、だ。
「(………追い付かれたのか?)」
完全なる全力……という訳では無いものの、ランニングとして考えればかなりのスピードを出して走っていた自覚はある。しかし、目の前の五条は大きく息切れしている様子もなしに着いてきてみせた。その事実に風丸は驚愕を隠せなかった。
「……?要らないんですか?」
「あ、あぁ、いや……ありがとう……」
「いえ、大したことではありません。それでは、失礼しますね」
ポン、と五条はほうけた風丸にスポーツボトルを手渡すと、目的を果たしたと言わんばかりにそのまま踵を返して去っていこうとする。
「っ!待ってくれ!」
風丸がそう叫ぶと、五条は立ち止まって振り返る。表情の変化は読み取れないが、困惑している様子は伝わってきた。咄嗟に呼び止めてしまった風丸だったが、息を整えると五条の方をまっすぐ向く。
「……?他になにか御用でも?」
「いや、その……厚かましいことは分かってる。そのうえで、ひとつ頼ませてくれ」
分かってはいる。彼は敵側の人間だ。帝国学園自体にも、正直良い印象は持っていない。アレだけのラフプレーをされたら当然とも言えるが。
しかし、豪炎寺が言っていた。帝国学園に、気のいい友人がいると。そのうえで、初心者の風丸に参考資料として丁度いいと見せてくれたのが、彼のプレーだったのだ。
厚かましいとも、都合がいいことも分かっている。しかし今の風丸にとって、これ以上にないチャンスに思えたのだ。
未だに2年生レギュラーメンバーの中で、必殺技を身につけていないのは自分だけ。後輩の宍戸も必殺技を身に付け、壁山は豪炎寺と共に特訓を重ねている。栗松と少林も、新しく加入した土門と共に必殺技を編み出そうとしている最中だった。
土門という実力あるDFが加入した今、外されるべきは風丸だ。身体能力には自信があるが、今の雷門のレベルについていけているとは言い難い。しかし、助っ人して参加している以上、みんなに迷惑はかけたくなかった。
「五条!頼む……俺に、必殺技を教えてくれないか!?」
故に、風丸は………蒼き疾風は、目の前の男に頭を下げて教えを乞うた。
「…………えぇ………?」
なおその男は度重なる予想外の出来事に困惑しっぱなしの様子だが………。
五条さん「みんなが新技を作り始めて影山から話し掛けられて小鳥遊や吹雪達が本戦に出ると言われて訳の分からん勧誘されて比得が大海原にいることにビックリしていたら原作で初心者の癖に黒歴史作って日本代表の裏のキャプテンとか言われる人に教えを乞われた。な、何言って(ry」