イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!! 作:ハチミツりんご
「______それで?一体全体何故私にそんなことを頼むんですか?」
近くのベンチに腰を下ろしながら、五条がそう尋ねる。隣に腰掛ける中性的な容姿の青年……雷門サッカー部の風丸が、申し訳なさそうな表情を作りながら頭を掻く。
「その………雷門と帝国の試合、五条も見ていたんだろう?」
「えぇ、まぁ。試合に出るなとは言われましたが、同行はしていましたからねぇ」
「……円堂や豪炎寺達のこと、どう思った?」
チームメイト達のことをどう思うか、と尋ねる風丸。何となく風丸の言いたいこと…というよりかは抱えている悩みを察している五条だが、いきなりそれを指摘するようなことはしない。ふむ、とひとつ置いてから、顎に手を当てて考える。
「単純に言えば、強かったですね。試合に出ていたのは、キャプテンの鬼道を筆頭に帝国学園のレギュラーメンバーだ。そんな彼らと互角以上に戦えた雷門の実力は、全国でも有数と見て間違いはないでしょう」
「そうか……やっぱり、帝国の人間から見てもそうなんだな。………あいつらに比べてさ。俺の動きは酷かっただろ?」
王者と呼ばれる、40年間公式戦無敗記録を伸ばし続けている帝国学園。その実力は嘘でも何でもなく、今年は歴代最強……いや、例年と比べるのすら烏滸がましいほどにずば抜けていた。
そんな帝国学園と、序盤は慢心込みであったとしても先制点を奪い、互角以上に渡り合った雷門は強い。去年のフットボールフロンティア決勝で、エースを務めた豪炎寺がいなかったとはいえ強豪木戸川ですら大差で敗北したのだ。帝国側の途中棄権があったとはいえ、同点まで漕ぎ着けた彼らには諸手を挙げて賞賛が送られる。
そんなチームメイト達と、自分は比べる事も出来ないと風丸は自嘲するように笑った。しかし、それは五条からしてみれば至極当然のことだ。
「んなもん当たり前でしょう。君確か陸上出身で、うちとの試合の為に助っ人参加してたんですよね?」
「?あぁ、そうだが……よく知っているな」
「帝国の情報網って奴ですよ。………そんな初心者が、数日そこら必死になって特訓したところで追い付けるわけないでしょうに。むしろ君はよくあれだけ動けたものだと褒められるレベルだ」
帝国学園のメンバーは、その殆どが親元を離れて厳しい規律の元生活している。特にサッカー部の面々は、三軍メンバーですらリトル時代にある程度名が轟いた猛者ばかり。一度手を抜けばそのまま蹴落とされる、そんな環境下で生き残る為に覚悟を持って努力してきているのだ。
「そんな帝国学園の中で、選ばれた精鋭中の精鋭のみがユニフォームに袖を通すことが出来る……三年間日の目を見ない選手なんて、数え切れないほどいるんですよ。それに一年そこらで追いつくような努力をしてきた彼らが頭おかしいんですよ。君が悲観することは無い」
「……………なるほど。豪炎寺が言ってたことがよく分かるな」
最適な環境が整っている上に元の実力もある帝国学園サッカー部に対して、学校のグラウンドも借りられないような雷門が一年で追いつくのがおかしいのだ。その事実を告げながら肩を竦めると、風丸は友人の名前を出しながら小さく笑った。
「豪炎寺がどうかしましたか?」
「いや、俺がサッカーの練習始めた時に、参考資料として送ってくれたのがお前の動画だったんだよ」
「…………え、私の……?」
首を傾げながら五条が問えば、そんなことを風丸が返す。予想外の言葉に五条が戸惑っていると、風丸は携帯を取り出してフォルダを開く。そして「ほら、これ」と言って五条に見えるように差し出すと、確かにそこに映っていたのは自分だった。
「……あぁこれ、去年のフットボールフロンティアの……大巨人中ですかね」
「そうそう。俺のポジション、お前と同じだろ?動きの参考にはもってこいだって豪炎寺が言っててな」
去年のフットボールフロンティア……逆に言えば五条が唯一大々的に出場した公式戦だ。確かにあの後は、鬼道や源田達と一緒に雑誌の特集なんかもやらされた記憶がある。確認する為の資料は多いだろう。
「………話が逸れましたが……結局、参考にした相手に聞くのが一番確実だと思ったんですか?正直、私に聞くより豪炎寺達に協力して貰った方が手早く確実だと思うのですがねぇ………」
「………その…………足を、引っ張りたくないんだ」
話がズレたのを修正しながら、改めて五条が問う。別に風丸の周りには、豪炎寺を筆頭に必殺技習得者が多数いるのだ。関わりの無い、敵である五条に聞く必要性は皆無。
そう思ったのだが、風丸は俯き気味に足を引っ張りたくないと言う。
「豪炎寺や円堂は今、野生中対策の必殺技開発に集中してる……他のみんなも、それぞれ頑張ってるんだ。俺の特訓に付き合ってもらって、足を引っ張るのは……」
「はぁ、なるほど。つまり私に聞けば自分は成長出来て敵側の足も引っ張れて一石二鳥だと?」
「っ!違っ、そういう意味じゃ……!!」
雷門には、未だに足りないものが多すぎる。野生中対策のためのイナズマ落としの特訓も重要だし、マックスや影野は尾刈斗との試合の反省を活かしてシュートブロックの必殺技を習得しようと考えている。一年生たちだって、必殺技を身につけようと頑張っているのだ。その邪魔をしたくはなかった。
そんな風丸の答えを聞いて、ため息混じりに五条が聞き返す。そういうつもりは全くなかったが、失礼な物言いだったかと風丸が慌てるが、それより早く五条が動いた。
「ヘェアッ!」
「いっでぇ!?」
謎の掛け声と共に繰り出された五条のデコピン。不意打ちでまともに受けた風丸は想像以上の痛みに思わず悶絶する。
「貴方ねぇ。この短い時間話しても分かるレベルで抱え込みやすいってどんだけ損な性格してんですか。将来禿げますよ」
「お、前の、一撃で……毛根が、抜けそうだよ………」
元々知っているつもりではあったが、こんなレベルだとは思わなかった。ほぼ初対面でも分かるくらいに溜め込みやすい性格の風丸に向けて、ため息をつきながら五条がそう呟く。予想外の一撃を受けた風丸は、遠回しにデコピンへの抗議を込めながら額をさする。そんな風丸を横目に見ながら、五条がベンチから立ち上がった。
「ひとつ、言っておきますが」
立ち上がった彼は、風丸の方をくるりと振り向いた。
「教え合うこと、助け合うことと、足を引っ張る事は別物だ。チームの為に成長したいと思って教えを乞うのは決して悪いことでは無い、遠慮なんかせずに身近な仲間を頼るべきです」
足を引っ張るということは、単純に双方に不利益が生じる事だ。引っ張られる方は勿論のこと、引っ張る方もそれに力を注ぐので本来の目的に向ける力量が減り、結果としてどちらも成長どころでは無くなる。
だが教えを受ける側は当然力を増すことが出来るし、教える方も筋道立てて説明する事になるので自分に対する確認にもなる。それにサッカーはチームスポーツだ、仲間と交流を深めることの意味は大きい。
「そもそも、何も知らない初心者の状態で、誰にも教えられずに完璧にこなせる人間なんてそうそういないんですよ。あんたまだサッカー始めたてホヤホヤの初心者なんですから、『自分でなんとかしなきゃ』なんて考える前に周りに聞きなさい」
今の帝国メンバーだって、始めた時からずば抜けていたなんて輩は少ない。せいぜい鬼道や成神と言った特待生に選ばれた面々だけだろう。五条の場合は事前知識を持ち、これから起こることを知っていたが故だ。何も無い状態から、一足飛びで強くなったなんてことは無い。
むしろ五条からしてみたら、初めてひと月も経たないで必殺技を編み出す領域にまで踏み込んだ風丸は充分所では無い才能の持ち主だ。ある程度身体が出来上がっているのもあるが、普通そんなスピードで必殺技を作るなんて出来ないのである。
「………ははっ」
こちらを見つめながらそんなことを言う五条。はっきり言って彼と風丸は見ず知らずの間柄だ。五条からしてみれば原作の重要人物ではあるが、風丸からしてみたら参考にしていた他校の選手程度なもの。
そんな自分に、わざわざこんなことまで言うとは。その気遣いに思わず笑ってしまう。
「______ほんっと。豪炎寺が言ってた通り、随分なお人好しだな、お前って」
「お人好し?………あまり言われたことはありませんけどねぇ……」
「初対面の俺の話聞いて、そんなことまで言うやつのどこがお人好しじゃないんだよ。……ありがとう、楽になったよ」
お人好し、と言われて自覚が無いのか首を傾げる五条。本人からして見ればそんなつもりは無く、ただ相談に乗っているだけなのだろうが。受け手側からしたら、真摯に話を聞いて考えた上で回答してくれる五条は充分お人好しだ。そうじゃなければ、咄嗟とはいえ豪炎寺の妹を庇って原作から乖離するような行動を取ったりはしない。
そんなお人好しの五条相手に、風丸はスッキリとした顔で礼を述べた。走っていた時より、幾分か心が軽くなった気がする。
「まったく、悪魔に魂売る決意であんなこと言ったのに、アフターケアまでされるなんて思っても見なかったよ」
「おや、代償が必要ですか?それじゃなんでもいいので飲み物奢ってくださいな」
ククク………と怪しげな笑みを浮かべながら冗談のつもりでそう言った五条。そんな彼に冗談も言えるんだな、なんて見当違いな感想を思い浮かべながら、風丸が今一度笑った。
「なんだ、新発売のレンコンミックスオレでも買ってやろうか?」
「チョイスが壊滅的過ぎるでしょう貴方。今どき怖いもの知らずの小学生でも買いませんよそんな目に見えた地雷」
「はははっ、冗談冗談!スポドリでいいか?」
「おや、結局買ってくれるんですね」
「世話になったからな。これくらい安いもんさ」
立ち上がった風丸は、五条と共に少し離れた場所に見えた自販機へと向かい、スポーツドリンクを購入。五条に向かってポンッと放ると、五条は片手でそれを受け取った。
「それでは、私も代償を頂いたのでキチンと働かなければいけませんねぇ」
「ん?あぁいや、気を遣わなくていいぞ?俺から言っといてなんだが、時間も遅くなるだろうし……」
「問題ありませんよ、そう長くは掛かりません。コツとイメージを教えるだけですし」
お礼としてスポーツドリンクを受け取ったので、自分もきっちり教えなければと笑う五条。風丸としては相談に乗ってくれたお礼であり、今更五条を拘束して必殺技を教えてもらうのは偲びないと断ろうとしたが、五条的にも風丸に早期パワーアップを促せるのでデメリットは無い。
「それにちょうど良い時じゃないですか。初戦の相手、野生中でしょう?」
「?あぁ、そうだが………ちょうど良いって?」
首を傾げた風丸に、五条が近くの開けた場所に出る。あまり使われていない公園のようで、人はいない。道路と面してはいるが車の通りも疎らなので、練習しても問題は無いだろう。
「野生中は身体能力に秀でたチームだ。高い跳躍力を生かした空中戦もだが、スピード自慢も複数いる。並の選手なら、攻めも守りもその速さに翻弄されてしまう………だからこそ、ここで君が必殺技のコツを掴めれば、試すのに丁度いい。速さで負けるつもりは無いでしょう?」
「………あぁ!スピードでは、そんじょそこらのやつに負けるつもりは無いぜ!もちろん、お前にもな?」
「おや、これはこれは……どうやら私は厄介な選手の手助けをしているようですねぇ………」
野生中は高い身体能力で敵を翻弄するトリッキーなチームだ。風丸の得意とするスピード面に優れた選手がチラホラといるので、必殺技を身につけた上でそれを試すのには絶好の相手だ。
そんなことを言いながら、五条は近くに落ちていたサッカーボールを軽く足で拾い上げる。大々的にサッカーが人気の今の世の中、コンビニですらボールが買える時代だ。そこら辺に落ちているのも珍しくなかったりする。
「______さて」
ポーン、ポーン……と軽くリフティングをする五条は、ボールを地面に落とすと同時に上から強くドンッ!と踏み付けた。その表情に変化は見られないが、風丸にはなんとなく纏う雰囲気が変化したように思える。
「やるからには本気でやらせて頂きます。覚悟はいいですね?」
「……あぁ!よろしく頼む、五条ッ!!」
「お任せを……まずは君の得意なスピードを生かしたドリブル技から______」
☆☆★
「…………ここが、野生中………?」
ポカンとした表情の円堂が呟いた言葉が、ジャングルへと消える。虫達のざわめきが聞こえてくるこの巨大なジャングル内に、目的の野生中は存在する。
円堂達が待ちに待った、フットボールフロンティア東京地区予選一回戦。会場となる野生中に、バスに乗ってやってきた雷門イレブンだったが、おおよそ東京都内とは思えない密林の様子に各々困惑気味である。
「コケッ!コケッ!!」
「ん?」
そんな彼らの耳に飛び込んできた、ニワトリのような鳴き声。しかしすぐ近くから響いたことに疑問を感じて振り返れば、そこにいたのは10人近い生徒らしきもの。
「これが車コケッ!初めて見たコケッ!」
「タイヤが4つもついてるチータ!!」
「すげぇー!!中は機械で一杯だゴリ!!」
興奮したような声とともに、雷門の乗ってきた車にまとわりつく彼ら。フロントガラスに張り付くものもいれば中のシートを漁るものもいる。ルーフに乗って跳ねるものがいたかと思えば、ボンネットを開け閉めして中を確認している大男までいる始末だ。
「……な、なんなの、あれ……?」
「あーっ!アレですよ、野生中サッカー部!!」
お嬢様である雷門が見たことも無い珍妙な人間たちに困惑していると、音無が叫ぶ。どうやらこの東京都内に住んでいるとは思えない、車すら知らない様子の彼らこそ、本日の対戦相手にして昨年度の地区予選決勝進出者、野生中サッカー部のようだ。
「野生中は大自然に囲まれた立地を活かして、ジャングルで練習しているそうなんですが……その結果野性の本能が呼び起こされて、あんなことに……」
「なんっだそりゃ…………あんなのに負けられるかよ………」
音無の説明を聞いた染岡が呆れ混じりにそう呟く。周りのメンバーの殆どが頷いて同意を示している。流石にこんな奴らに負けたとあれば、実力云々を置いておいて単純に悲しくなる。
「サッカー部ーッ!!今年も頑張れよぉっ!!」
「水前寺!!いつもの快足、見せてくれよーっ!!」
「真吾ーッ!!お前は俺たちの希望だウホーッ!!」
「キャーっ!!香芽先輩こっち見て〜〜ッ!!」
「すっげぇ!!観客がいっぱいだ!!」
「全部、野生中の応援だけどな……」
試合と場となるグラウンドにやってきた雷門イレブンの目に飛び込んできたのは、一面ぐるりと囲んで応援に来ている野生中の生徒達。沢山の観客がいることに円堂が喜びの声をあげるが、全部雷門ではなく野生中の応援だと風丸が指摘すると僅かにずっこける。
「……あ、でも……そうでも無いみたいだよ………」
影野がボソリと呟いて集団の一部を指さす。すると、野生中の生徒達から離れた場所に見覚えのある制服の集団が集まっていた。
「おぉーい、円堂ー!!」
「秋ちゃーん!!みんなー!!」
「あぁーっ!!東!!東じゃないか!!」
「つくしちゃん!来てくれたんだ!」
その集団の中でまとめ役のように立っていた2人の男女が、サッカー部に向けて大きく手を振る。男子の方が【
名前を呼ばれた円堂と木野が笑顔を見せながら手を振り返す。すると東がドヤ顔気味に胸を張ってドンッ、と叩く。
「へっへー、どうだ!!帰宅部の暇そうな連中中心に、応援に来たぜ!!」
「雷門中以外からも来てるんだよー!!」
これまでサッカー部が頑張っているのを見ていた雷門中の生徒達が集まって、応援団を結成。原作ならば起こりえなかったが、帝国学園と本当の意味で互角に渡り合ったサッカー部を認める人達は多かったのだ。……一部は豪炎寺や風丸のファンクラブ的な意味合いも含んでいるらしいが。
雷門中以外も含まれている、と言った大谷が、後ろの方から手招きをして誰かを呼ぶ。そして姿を現したのは、中年の女性に押される車椅子に乗った少女だった。
「お兄ちゃ〜〜〜んっ!!」
「っ!!夕香……!!」
やってきたのは、未だに歩けないものの至極元気な豪炎寺の妹、夕香。わざわざ父親に頼み込んで外出届を出し、家政婦のフクさんと共に大好きな兄の応援に駆けつけたのだ。まさかの妹の登場に、クールな豪炎寺の顔も人知れず綻ぶ。
「兄ちゃーん!!俺も応援に来たよーっ!!」
「うええっ!?さ、サク!?」
そしてそんな夕香の隣に並んで壁山に声を掛ける少年の姿もあり、それを見た壁山が大きく動揺。彼こそ、壁山塀吾郎の実弟の【壁山 サク】。壁山は弟に帝国学園に勝ったと告げており、そんな兄の事を尊敬している弟の期待を裏切りたくないのである。
「あれが俺の兄ちゃんだ!」と友人達に自慢しているサクの姿を見て、壁山が顔を青くする。未だに高いところが怖くてイナズマ落としを完成させられていない、情けない姿を弟に見られるかもしれない。その事が壁山に恐怖として襲いかかった。
「お、俺……ちょっとトイレに……!」
「ダメでやんすよ壁山!!」
「もうすぐ試合始まっちゃうってー!」
「弟も見てんだろー!?」
恐怖のあまり逃げ出そうとした壁山だったが、ほかの一年生たちに阻まれる。今トイレに行って隠れられでもしたら、試合に間に合わない。土門という新規のDFと、一応の控えとして目金もいるので試合にはなるが、ここで逃がす理由にはならない。
「______大丈夫だ、壁山」
「うっ……ご、豪炎寺さん……」
そんな壁山を引き止めたのは、エースである豪炎寺。練習の後も、情けない自分の手助けになるようにと不安定な足場でもオーバーヘッドを繰り出せるように特訓してくれていた豪炎寺相手では、壁山もなんだが居心地が悪い。
「緊張し過ぎるな。大丈夫、俺たちならやれる。イナズマ落とし、決めようぜ」
「うぅ………は、ハイッス……」
エースストライカーであり、普段から世話になっている豪炎寺からこう言われれば腹を括るしかない。観念した壁山は逃げ出そうとするのを辞め、円堂の掛け声と共にグラウンドへと走っていった。
『さぁー、いよいよ始まりました、フットボールフロンティア東京地区予選!!我らが雷門の初戦の相手は、強豪野生中!!果たしてどんな戦いが待っているのでしょうか!?』
「うぅ……あぁは言ったけど、やっぱり出来るならイナズマ落としやらないで済みますように………」
応援団から抜け出して雷門ベンチの隣までやってきた角馬の声が響く中、ポジションについた壁山がボソリと呟く。
「………壁山」
「うあぁっ!?す、すみませんすみません!!頑張るっすー!!」
豪炎寺の手前ああ言ったが、やはり出来るならイナズマ落としをやりたくない。そう祈っていた壁山に、近くの風丸から声が掛かる。弱気になっているのを叱られると思った壁山だったが、風丸は穏やかな顔のまま話し掛けた。
「怖がらなくていいぞ。やっぱり、緊張するよなぁ」
「へ?……か、風丸さんも緊張するっすか?」
「そりゃするさ、俺初心者だぞ?」
笑いながら緊張すると言った風丸に、壁山が首を傾げて聞き返す。人数の足りないサッカー部に助っ人としてやってきた目の前の先輩は、そういったものとは無縁だと思っていた。
「で、でも風丸さんって、陸上の大会とかにもいっぱい出てたッスよね?」
「陸上も陸上で緊張はするが、サッカーのはちょっとその比じゃないな……俺は個人種目にしか出てなかったから負けても俺の実力不足で終われたけど、サッカーはみんなの分も懸かってるからな……緊張して当然だ」
陸上の大会を何度も経験した先輩ですら緊張している。その事実に、壁山の緊張が僅かに解れる。同じ感情を味わう人間がいたら、不思議と心強いものだ。
「まぁでも、どうせやるなら楽しまなきゃな。この試合で試したいこともあるんだ。壁山は?」
「おっ、俺……俺、は………」
風丸からの問いに、壁山がどもる。どうせならこの試合、自分の出番はなしで大差で勝って終わって欲しい。そう言おうとしたが、ふと先程の豪炎寺のセリフや、弟の姿が思い浮かんだ。
「………俺は………」
「壁山は?」
「………豪炎寺さんの期待に応えて……活躍して……弟に、いいとこ見せたいっす」
こんな自分でも見捨てずに、イナズマ落としのパートナーとして見てくれたエースストライカーの豪炎寺。それに、純粋に自分を応援してくれている弟のサク。その前で、情けない姿を見せるのは壁山もしたくなかった。
「………そっか!それならお互い、頑張らないとな!!」
壁山の答えに笑顔を浮かべて、満足気に頷く風丸。ちょうどその時、全員ポジションにつくように審判の声が掛かる。もう試合は始まるようだ。
「よし、壁山!お互いカッコイイとこ見せてやろうぜ!!」
「は、ハイっす!!」
駆け足でポジションへと戻っていく風丸の背中を見つめながら、壁山も前を向く。不思議とその姿は、どっしりと構えているようにも見えた。
「俺だって………俺だって、やってやるっす!!」
決意を胸に壁山が心待ちを新たにする。ここから、新生壁山の快進撃が始まる______
「………アイツ美味そうチータ」
「ひいいっ!?や、やっぱり怖いっす……!!」
______のかもしれない?