イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!! 作:ハチミツりんご
「はァァァァっ!!」
「は、速いーっ!!」
「追いつけないでやんすよー!!」
「はははっ!!そう簡単に追い付かれないぜ!!」
素早いドリブルを見せる風丸が、宍戸と栗松を同時に躱す。あまりの速さに2人が抗議にも似たような叫びをあげるが、風丸は笑って流す。特訓した成果、数日そこらで追いつかれるほどヤワではない。
「いかせないぜっ!」
「勝負だ、土門っ!!」
しかし、そう簡単にはいかない男が立ちはだかる。新規加入し、野生中戦でも見事なディフェンスとドリブルで活躍した自称ファンタジスタ、土門だ。
風丸がスピードに乗って土門を引き離そうとするが、土門はコースに先回りして風丸の行く先を潰す。たまらず風丸がロールやステップを駆使して突破を試みるが、土門はアメリカ時代に全米を驚かせた日本人集団の一人。いくら五条との特訓を経ているとはいえ、初心者の風丸がそう簡単にぶっちぎれる相手では無い。
「くっ……ならこれはどうだっ!!」
風丸はボールを後ろに蹴り土門との距離を空ける。何を、と思った瞬間に風丸が加速。土門が疾風ダッシュかと身構えるが、風丸は土門の前で急停止した。
「うおっ!?」
「もらった!」
急に止まった風丸に対し、土門は僅かに身体が流れて隙が生まれる。その隙を見逃さず、風丸は一気に土門の横を抜けた。
「凄い、突破した!!」
「よしっ、いけた……っ!?」
確かな実力を持つ土門を風丸が突破したことに、少林が驚きの声を上げる。風丸も完全に意表をついたと思い笑みを深めたが、土門はその程度では終わらなかった。
「甘いんだ、よっと!!」
なんと土門は身体を地面スレスレにつけるまでしゃがみ込むと、その長い脚を活かして風丸の足に当たらないように、大きく回り込ませてバックチップのようにして風丸の足元のボールを弾いて見せた。
驚きのあまり風丸が立ち止まると、土門はしてやったりと言わんばかりに振り向いた。
「へっへー、どうよ!そう簡単に抜けると思うなよ!」
「脚を使ったバックチップとはな……驚いたよ、土門」
「土門さん凄いでやんす!」
「でも風丸さんも凄い!」
上手く抜けたと思ったのだが、どうやらまだ土門には及ばないようだ。風丸を止めた土門のディフェンス力も、土門を翻弄した風丸のドリブル力も等しく凄いと1年生たちは歓声を上げる。
「にしても風丸………お前何があったんだよ」
「?何がだ?」
「とぼけんなよ!いきなり必殺技を3つ!!しかもブロック技に至っては帝国のサイクロンだぞ!?あれ俺覚えられな______んんっ!!かなり難しい技だろ!」
そんな土門が風丸へと訝しげな視線を投げながら、急激なパワーアップについて問う。つい数日前までは、雷門中の面々でもスピードに優れているだけの一選手でしかなかった。それがいきなり走攻守全てをこなす万能選手に早変わりだ、流石に聞かない訳には行かない。
「ははは………ここだけの話、帝国の奴に練習付き合ってもらったんだ」
「帝国の奴にぃ!?し、知り合いでもいたのかよ!?」
「いや、初対面で頼んでみたんだがOKしてくれてな!いやぁほんと、五条のやつには頭上がらないよ!!」
「(お前かゴジョォォォォォォォオォォォォ!!)」
王者帝国にとって雷門はスパイを送り込むほどに敵対視しているチーム。当然ながらライバルだ。そんな相手に力を貸すやつがいると聞いて驚いた土門。さらにそれが帝国の特待生で自分の相談に乗ってくれたあの男だと聞いて百面相を浮べる。
「……?どうした土門、妙な顔して」
「い、や……なぁんでもねぇよぉ!?」
どうにか怪しまれないように四苦八苦する土門。しかし、風丸に教えていたのが五条だったとは。何やってんだあのメガネとも思うが、同時に帝国メンバーで風丸に律儀に特訓をつけてやる奴なんてアイツくらいだろうなとも納得出来た。
「んん……?土門もしかして、五条の知り合いとか______」
「あぁーっ!!そぉー言えばさぁ!!?なーんか最近ギャラリー増えてなぁァい!?」
怪しい土門の様子に訝しげな視線を投げる風丸。もしや知り合いだったりするのだろうかと思った風丸だったが、その思考を中断するように土門が話を逸らした。
「ギャラリー?あぁ確かに増えてるな」
「なんなんですかね、あれ」
「カメラとか構えてますよ」
「っぶねぇ……勘弁してくれよ五条……」
土門の必死の願いが通じたのか、話の主題は最近大量にやってきて練習を眺めているギャラリーたちの方へと移った。友人への悪態をつきながらホッと胸を撫で下ろす土門だったが、確かに彼も観客の多さには疑問があった。
「ふっふっふ……決まっているでしょう」
「あ、目金先輩」
なんでギャラリーが多いのだろうかと考える、そんな彼らの元にやってきたのはこの男。チームのベンチを温め続ける役目を担ったメガネが似合う人気者(自称)、目金欠流である。かちゃりとメガネを上げながら不敵に笑う彼には正解が分かっているのかと首を傾げたメンバー。
「ズバリっ!僕ら雷門サッカー部のファンです!!」
「「な、なんだってーっ!?」」
ズバーッン!と目金の背後にイナズマが落ちるかの如き迫力を見せると、宍戸と少林が大きな声で叫ぶ。彼らの他にも、練習していた円堂や染岡、半田達も手を止めてファンという言葉に食いつく。
「ファン……!俺たちにも、ファンが出来たのか……!!」
「校内に応援団が出来たんだ!!他校のファンがついたっておかしくねぇ!!」
「すげぇ……去年入部した時じゃ考えられねぇ!!」
「フ、ファン……!!注目されてる……ふふ、ふふふふふ………!!」
自分たちの頑張りが認められたかのようにジーンと感動を味わう円堂。その隣で、今までの活躍を考えればファンがついてもおかしくはないと染岡が笑う。影野は注目してくれているのが嬉しいのか、彼にしては珍しく顔を赤らめながら分かりやすく喜びを露わにしていた。
「………なぁ~豪炎寺、アレってよ……」
「……間違いなくファンなんかじゃないだろうな……」
そんな中で、土門と豪炎寺の他校出身の2人だけがたくさんのギャラリーの真意を見抜いていた。そんなことは露とも知らず、円堂はテンションを上げながら皆に練習を促す。
「よぉーし!!練習練習!!必殺技に、もっと磨きをかけるぞーっ!!」
円堂の掛け声に、豪炎寺と土門を除いた面々が同意するように拳を突き上げる。流石に必殺技の特訓はまずいと思った豪炎寺が止めようとした、その時。
ガガガガガっ!という大きな音が河川敷に響く。すわ何事かとみんなが視線を向ければ、なんと河川敷の道路の方から一台の黒塗りの高級車が颯爽と芝生の上を駆け下りてきていた。
「どわぁぁぁ!?……って、夏未?」
円堂の目の前に停車したそれに驚きの声をあげる。しかしその車は、円堂達雷門サッカー部には見慣れた車。ドアを開けて中から降りてきたのは、先日サッカー部にマネージャーとして加入した理事長の娘、雷門夏未だ。
雷門はギャラリーの方を一瞥すると、円堂たちの方を真っ直ぐにみて言い放った。
「みなさん。必殺技の練習は、禁止とします!」
「えぇっ!?なんでだよ!必殺技無しに、どうやって予選を勝ち抜けるんだよ!」
「……貴方達、アレが見えてないの?」
雷門の急な必殺技禁止令に円堂が驚きながらも文句を述べる。実際この世界において必殺技の存在は重要であり、雷門中が最も磨かねばならないものではある。
そんなこと言う円堂に呆れながら、雷門は橋の上に陣どるギャラリーたちを指さした。
「何って……俺たちのファンだろ!!」
「ファン!?あっきれた、あれはデータを取りに来た他校の偵察隊よ!」
『………え?えぇーっ!?』
自分たちに出来たファンだと目を輝かせて言う円堂に、呆れてものも言えないと頭を押える雷門。応援に駆けつけたファンではなく偵察隊だと知ると、うんうんと頷く豪炎寺と土門以外の面々がショックを受けていた。
「あっ、なるほど!この河川敷で、このまま必殺技の特訓をしちゃうと、詳しい情報を相手に与えてしまうことになるんですね!」
「豪炎寺君のファイアトルネードは有名だったからまだしも、それ以外の技まで分析されてみなさい。何も出来なくて終わるのがオチよ」
ベンチに腰かけていた音無がポンッと手を叩いて必殺技禁止の意図を察する。木戸川清修時代から有名だった豪炎寺の必殺技はまだしも、ドラゴンクラッシュやドラゴントルネード、アスタリスクドライブにソニックショットといった必殺技を解析されては溜まったものでは無い。
「でも、必殺技も無しにどうやって!!」
「円堂、サッカーは必殺技だけじゃない。パス回し、トラップ、シュート、連携やポジション取りの確認……やるべきことは山ほどある」
それでもなお食いさがろうとする円堂に豪炎寺がそう諭す。流石に豪炎寺に言われれば円堂も口を閉じるしかないが、円堂はいいことを思いついたと言わんばかりに雷門に詰め寄る。
「そうだ!!誰にも見つからない練習場所で特訓ならどうだ!?」
「そんな場所が、どこにあるんだ?」
「うっ……で、でもよぉ……」
どうにかして必殺技の特訓をしたい円堂。それは他のメンバーも同じだったようで、肩を落とす面々も少なからずいた。特に、未だ必殺技の無い少林と栗松、それに活躍の機会が無い宍戸だ。
「はぁ……俺、せっかく連携技考えたのになぁ……」
「なんだ宍戸、どんな技だ?」
「グレネードショットとドラゴンクラッシュを掛け合わせるんです!そうすれば手数が増えるし、豪炎寺へのマークが少なくなるかもって!」
「いいじゃねぇか!!よっしゃ、練習終わってから特訓すっか!二人でシュート練出来る場所くらい、どっかにあんだろ!」
「は、はい!」
せっかく考えた連携技の練習ができなかったと肩を落とす宍戸だったが、そんな後輩の気持ちを汲んだ染岡が放課後も付き合うことを約束。この人数ならばダメだが、二人程度の練習まで偵察しようとは思わないだろう。
「そ、それなら土門さん!俺にも必殺技の特訓に付き合って欲しいでやんす!」
「お、俺も!!」
「ん?あぁ~……付き合ってやりたいのは山々なんだが、放課後はやる事が………」
「それなら俺が付き合うよ、2人とも」
「俺もっす!」
放課後は帝国のスパイとして活動しなければならない土門が口ごもると、そこに風丸と壁山の二人が助け舟をだす。ブロック技を完成させた2人ならば申し分ないと、栗松と少林も笑顔で頷いた。
「ほら。ほかの人達は納得したようだけれど?」
「むぐぐ………仕方ない!みんな、この機会に基礎練習をズバッとやるぞ!!」
偵察隊に情報を与えるのはまずい。それを理解した円堂は、基礎能力を固めることに決定。それに豪炎寺や雷門がホッとしたのも束の間。
「……ん?」
ふと雷門中メンバーが視線をあげると、橋の上にいたギャラリー達がざわつき始める。何かあったのかと思ったが、すぐに理解できた。
「おいおいおいおい……なんか仰々しいのが来たぞ!?」
土門の呟きが雷門メンバーの心境を表していた。やってきたのは、二台の巨大なトラック。彼らは河川敷の道路の上に陣取ると、荷台の部分が変形。その場でアンテナやレーダーが展開され、簡易式の研究施設のような設備が整っていた。
「な、なんだアレ!?」
「あぁーっ!!あれ、次の対戦相手です!御影専農!!」
「対戦相手だァ!?」
音無が発した言葉に染岡が反応。あんな変な施設を展開してくる奴らが相手なのかと聞き返すが、音無は自分で作ったデータベースを開きながら画面を見せる。
「徹底的なデータサッカーを主とするチームです!あそこに座っているのは、二年でエースストライカーの下鶴改選手!それに、三年のキャプテンでゴールキーパーの杉森威選手です!」
「キャプテンでゴールキーパーだって!?」
エースストライカーにキャプテン、敵側の主力選手がわざわざ偵察に来ている。ほかの学校のようにたくさんの人員を割いている訳では無いが、設備自体は一番力が入っていた。そんな中で円堂は、学年は違えど同じ立ち位置の杉森という選手に親近感を抱いていた。
とにかく、気にせずに行こう。そう言った雷門イレブンは、夏未の車が退くのを待ってから練習を再開。必殺技は使わず、個々の基礎能力をあげることに尽力していた。
「夏未さん!ここ座って!」
「マネージャーゾーンへようこそ、夏未先輩!」
「え、えぇ……ありがとう……」
なお夏未は帰宅せず、そのまま木野と音無に誘われるがままベンチに腰かけていた。執事の場虎も背後に控えていた。
「よーし、いいぞいいぞみんな!……ってぇ!?」
必殺技を使わない練習だが、集中して取り組んでいた雷門イレブン。しかしそんな彼らの元に、なんと御影専農の2人が無断でやってきた。グラウンドに入ってくる彼らを見た円堂は、一時練習を中断。杉森の元へ詰め寄った。
「ちょっと!!御影専農のキャプテンだよな?グラウンドに入らないでくれよ!」
「……なぜ、必殺技を隠す?」
「へ?」
勝手に入るのを止めてくれと言った円堂の言葉には答えず、逆に杉森が何故必殺技の練習をしないのかを問う。何言ってんだと思った円堂に、下鶴が追加の言葉を投げた。
「隠しても無駄だ。既に我々は雷門中サッカー部全員の能力を解析している」
「君達の評価はB++……全国でも有数の能力を持っているが、我々に勝てる確率は0%だ。必殺技を隠そうと、それは覆らない」
表情を変えず、淡々とそう述べる杉森と下鶴。勝てる確率はない、と聞いた円堂は、その言葉に真っ向から反抗した。
「勝負はやってみなくちゃ分からないだろ!!」
「………勝負?何を言っている?」
勝負はやってみなくては分からない。確率で語れるものでは無いのだと円堂が豪語し、雷門イレブンがそれに同意するように頷く。しかし、当の御影専農の2人は無表情のままに首を傾げていた。
「勝負とは、特定の状況下で勝利するか敗北するかを競うことだろう?なぜ勝負に繋がるのか理解不能だ」
「だーかーらーっ!!お前達御影専農との試合も、どうなるか分からないだろ!?」
「……?フットボールフロンティア2回戦は我々の勝利に決定づけられている。勝利は我々に、敗北は君達に。最初から決まっているのだから、これは勝負では無い。ただの作業だ」
至極分からないと言いたげに杉森がそう言い放つ。勝負とは勝ち負けを競うもの。つまり自分たちの試合は結果が分かりきっているのだから、勝負なんて呼べないと真顔で言い切った。
「なんだとーっ!?」
「作業なんて酷い!!」
「俺が追い出してやるっ!!」
「待て、みんな!」
あまりな物言いに雷門イレブンから抗議の声が上がる。特に染岡は今にも実力行使によって追い出そうと、袖を巻くって前に出るがそれを円堂が制した。
「______俺たちとの試合は作業なんかじゃない!!そんなに言うんなら、必殺技を見せてやるっ!!決闘だ!!」
ビシッ、と杉森達を指さす円堂。今ここに、御影専農との決闘が決定された。自分たちが相手にもならないと言うのなら、その実力を見せつけるまでだ。
「ルールはお互い1本ずつシュートを打つ!!それでいいな!?」
「決闘……?なぜそのようなことをする必要がある?」
ルールを取り決めた円堂だったが、杉森は何故そんなことをしなければならないのかと首を傾げる。そんな彼の様子に僅かに雷門イレブンがずっこけながら今一度円堂が説明する。
「だから!!数字なんかで勝てないって言われても納得出来ないんだよ!!」
「?つまり実際に証明したいと?」
「そう!!」
「なるほど。理解した」
小さく頷く杉森に、やっと通じたと円堂が喜びを露わにする。なんて面倒くさい連中だと雷門側の何人かがため息をついた。これならボディランゲージの伝わる外国人と会話した方がマシである。
「ならば2人で構えるといい」
「………なんだって?」
そんなことを思っていると、御影専農指定のブレザーを脱いで、緑色のネクタイを外しながら杉森がそう言った。なんで一対一の決闘を提案したのに2人で構えるのか。しかも彼は制服のシャツとズボンのままでやるようだ。
「なんで2人だよ。それに、着替える時間くらいいいぞ?」
「?必要無い、どちらにしろ止めるのだからユニフォームへのチェンジは時間の無駄だ」
あくまでその態度を崩さない杉森にあ、そう……と円堂が眉間に青筋を立てる。そんな杉森は、キーパーグローブだけ身につけると「それに」、と言いながらゴール前に立った。
「______君達は、自分たちが確実に負けると証明したいのだろう?ならばそちらの最大火力であるドラゴントルネード、もしくはイナズマ落としを止めるのが最適解だ」
「てめぇ!!シュートブロックも無しに、止められると思ってやがんのか!?」
「事実だ」
「てっめ……!!」
「やめろ、染岡」
確実に負けると知りたいのなら、最も威力の強い技を止められた方が分かりやすいだろう。杉森なりの気遣い……いや、彼はそれが効率がいいと思っているだけだ。
杉森に染岡が文句を言おうとするが、それを豪炎寺が制止する。そして杉森を睨みながら、今一度確認する。
「いいんだな?」
「構わない」
短いやり取りをした後、豪炎寺はポジションにつく。それを見た染岡も舌打ちをしながらも、豪炎寺の後ろに位置どった。
「いつでも構わない。始めろ」
「舐めやがって……行くぜ豪炎寺!!」
「あぁ!来い、染岡!!」
あの舐め腐ったトゲトゲ頭をギャフンと言わせて、すかした面構えを変えてやる。そう決意しながら染岡がドリブルし、十分な距離になったら大きく右足を振り上げた。
「「【ドラゴントルネード】ッ!!」」
雷門の誇る、2人のストライカーによる必殺技。赤く染まった竜が、杉森の守るゴールを食い破らん為に躍動するが、対する杉森は至って冷静に右拳を構えた。
「シュートスピード306、シュートパワー1065、角度、タイミング……全てデータ通り。【ロケットこぶし】」
右拳に溜めたエネルギーをロケットパンチのように打ち出した杉森。ドラゴントルネードにその拳がぶつかるが、しばらく拮抗した後に拳を弾き飛ばした。
「やったぁ!!」
「みたか、染岡さんと豪炎寺さんの凄さを!!」
コート外から見守る雷門中の面々が歓声を上げる。相手の必殺技を撃ち破り、後は決めるだけ……しかし杉森は、既に左の拳を構えていた。
「ロケットこぶし一度で止められる確率、6.38%………【ロケットこぶし】」
逆の手によって繰り出された、2度目のロケットこぶし。今一度発射された拳のエネルギーにぶつかったドラゴントルネードは、先程よりも長い時間拮抗して漸くはじき飛ばした。
「二発目のロケットこぶしで止められる確率、41.82%………【シュートポケットV2】!」
そして勢いの弱まり、ロケットこぶしによって届くまで猶予ができたドラゴントルネード。杉森は両手を交錯させて空気とエネルギーを織り混ぜ圧縮。見えない壁と化したその障壁にぶつかったドラゴントルネードは、大きく減速した。
「シュートポケット込みで止められる確率、93.49%……そして」
空気の壁に阻まれながらもなんとか進もうとするボール。しかし杉森は、そのボールに容赦なく振りかぶった拳をぶち当てる。もう勢いは殺されたボールは、容易く吹き飛んで豪炎寺達の足元へと転がった。
「このパンチングで止められる確率、100%……証明完了」
「………嘘だろ……?」
「ドラゴントルネードが、キーパー1人に……!!」
シン、と辺りが静まり返った。雷門中の面々も、偵察に来ていた他のチームも、誰一人として口が開けない。帝国学園や尾刈斗中を脅かした雷門最高火力の連携シュートが、たった1人のキーパーの手で止められた。
「これで君達が得点出来ないことが証明された。次は_______」
「待つっす!!」
下鶴の番、と移行しようとした杉森。しかしそれに待ったをかける大きな人影の姿。雷門中一年生、イナズマ落としの土台役を担う壁山だ。
「まだイナズマ落としが残ってるっす!!豪炎寺さん!!」
「……了承した。イナズマ落としの有効性が0であることを証明しよう」
壁山がコート内に入ると、杉森は頷いて今一度ゴール前に立つ。壁山の決意を無駄にしないため、豪炎寺は頷いてシュート体勢に入った。
豪炎寺が飛び上がり、壁山も跳躍。大きくのけ反り、腹を上に向けると、豪炎寺がそれをジャンプ台にして大きく飛んだ。それを確認した杉森は、右の拳を構えてエネルギーを溜める。
「【ロケットこぶし】!!」
「「【イナズマ落とし】ぃぃぃい!!」」
そして豪炎寺がシュートを打つよりも早くロケットこぶしを打ち出した杉森。豪炎寺がシュートした瞬間、直後のボールにロケットこぶしが衝突した。
「気をつけろ!!二発目が来るぞ!!」
「必要無い」
先程のドラゴントルネードの時のように重ねがけで止められる。そう危惧した染岡が叫ぶが、杉森は必要無いと断言。
なんと、ロケットこぶしを受けたイナズマ落としはヘロヘロと力なく落下。もはやパスとすらも呼べないそれを、杉森は簡単にキャッチして見せた。
「え……な、なんでっすか……!?」
「証明完了。君達の攻撃は尽く意味を成さないことが理解出来ただろう」
「て、てめぇ!!イナズマ落としがあんなになるわけがねぇだろ!汚ぇ小細工仕掛けやがったな!!」
「………?何を言っている?至極当然のことだろう」
イナズマ落としが急激に威力落ちしたことに戸惑う壁山。そんなはずはないと染岡や半田が杉森に小細工を弄したと怒りをあらわにするが、杉森は当然の様に言い放った。
「イナズマ落としは本人のキックに交えて、落下時の重力加速も加味して威力が累乗式に上昇するシュートだ。ならば初速を挫けば後は脅威ではない………豪炎寺のシュート後、コンマ24秒以内にロケットこぶしを当てた場合、必殺技を使わぬキャッチで止められる確率は100%となる」
「コンマ24秒って……!」
「どんだけ精密な計算すりゃそうなんだよ!!」
全ては計算のうち。緻密に構成された数式に当てはめて正しく実行すれば、結果は嘘をつかない。事実として杉森は、たった一人で雷門の連携シュートを2本、止めてみせた。しかも制服のままで、だ。
「下鶴、行け」
「はっ!」
コート外に戻った杉森が下鶴にそう告げる。当然もう攻守交替だ、次は攻撃手である下鶴の出番。故に杉森は下がったのだが、それに待ったをかける男がいた。
「待て!!こっちが2人で攻撃したんだ、そっちも2人じゃないと不公平になる!!」
当然円堂だ。2人で攻撃すれば、必然的に攻める方の有利……つまり御影専農の有利だ。キーパーである円堂に利益は無い。しかし、こちらが2人で攻めたのだから御影専農も2人で攻撃するのが公平だろう。
「………一人ですら止められないのに二人を相手にするのか?」
「いいから!!絶対止めてやるからな!!」
わざわざ自分が不利になる発言をした円堂が理解できずに杉森が首を傾げる。そんな彼に向けて円堂が吼えると、雷門のみんなが円堂へと檄を飛ばす。それを見た杉森は下鶴とアイコンタクトをとると、杉森がボールを持って下鶴が前に出た。
「気をつけろ円堂!きっと左右に揺さぶってくるぞ!!」
半田が大きな声を出して円堂にアドバイスを送る。あの杉森という男はゴールキーパー、しかも悔しいがかなりの腕前だ。ならば必殺シュートを持っているとは考えにくく、下鶴と連携して左右に揺さぶりを掛けながらエースストライカーに打たせるだろうと踏んだ。
「必要無い」
「なにっ!?」
「その場所を動くな。我々は今から君に向けてシュートを打つ」
「てめぇ!!円堂を舐めんなよ!!」
「キャプテンは、めちゃくちゃ凄いんでやんす!!」
その場を動くな。つまり、円堂を真正面からぶち抜いてみせる。そう豪語する御影専農の2人に、半田や栗松が自分たちのキャプテンを舐めるなと叫ぶ。
「……こいっ!!」
「では始める」
円堂がグローブを鳴らしてそう叫ぶと、下鶴の無機質な声と共に2人が動き始める。しばらくドリブルをしたふたりがどんなシュートを打つのか注目していた雷門中メンバーだったが、次の瞬間______
「なっ………」
「あれは……!」
「そんな、嘘だろ………!」
「______【ドラゴンクラッシュ】」
杉森が無機質に技名を告げながら、右足をおおきく振りあげてシュート。染岡のものと同じ、蒼い体躯の龍が舞い降り、シュートと共に翔ける。
空を駆け上がった龍の先にいたのは、下鶴。左足に炎を纏い、回転しながら……雷門メンバーがよく知っている、フォームだった。
「【ファイアトルネード】ッ!!」
「完全に……ドラゴントルネードだっ!!」
「っく……!!【爆裂パンチ改】っ!!!」
ドラゴントルネード。幾度となく雷門の切り札として活躍してきたそのシュートが、コピーされた。その事実に驚いた円堂が僅かに止まるが、すぐさま爆裂パンチを使用。何度も何度も殴り付けるが、ボールは円堂の手から弾かれ。ゴールバーに当たり、そのままゴール内側へと入っていった。
「そんな………」
「キャプテンが、決められた……!?」
「こちらを解析したとは言っていましたが……必殺技……しかも、連携技すらコピーしてくるだなんて……!!」
円堂が決められた。しかも不意を打たれたり、何本ものシュートを重ねられてではなく。ゴールキーパー起点のシュートで、決められた。
「我々は君たちを完全に分析している。このシュートは、私以外の選手達も同様に使いこなすことが出来る」
つまり杉森がゴール前から離れずとも、試合中にはドラゴントルネードが飛んでくる。そんな絶望的な事実を告げながら、杉森は円堂の前までやってきて、ボールを拾って目の前に落とす。
「______証明完了。君達は、勝てない」
強豪野生中を打ち破り。王者帝国との再戦を目指す雷門に、あまりにも大きすぎる壁が、立ちはだかった_________。