イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!! 作:ハチミツりんご
「______イナビカリ修練場?」
『はい。雷門中の地下に存在する、伝説のイナズマイレブンが使っていた特訓場です。そこを改装したものを、雷門イレブンは使っています……』
「そうか、そんなものが………すまない土門、助かる」
『いえ、それが俺の役割ですし……』
執事の袴田が運転する車の中で、鬼道有人は電話越しに連絡を取り合っている。相手は雷門中にスパイとして潜り込んでいる土門だ。
伝説のイナズマイレブンが使っていた特訓場。無敵とも呼ばれた彼らが使っていたものならば、なるほど確かに40年経った今でも高い効果が見込めるだろう。あれから更に強くなるのかと、柄にもなく雷門中のパワーアップをワクワクしている鬼道がいた。
「………そうだ、土門」
『はい?なんでしょう』
そんな鬼道がふと思い出したかのように土門に語り掛ける。内容は先日の雷門中の試合……野生中との戦いで活躍した、あの選手だ。
「あの選手……風丸一郎太と言ったか。あの男がサイクロンを使ったことに探りを入れてみてくれないか。血縁者は卒業生含め帝国にはいなかったが、教えた者がいるなら把握しておきたい」
『えっ!?え、えーっと………そう!!既に探りを入れましたが、練習試合で万丈の奴がサイクロンを使っていたでしょう!?ビデオを見て反復練習していたら、なんとか形になったらしいです、はいっ!!』
「そ、そうか…………既に探りを入れているのは流石と言うべきだが……大丈夫か、お前」
『全然全くもって大丈夫です!!』
「ならばいいが………しかし独力でサイクロンを会得するか。才能があるとは思っていたが………風丸一郎太か。ふっ、警戒すべき相手が増えたな………」
黄昏ながら小さく笑う鬼道。だが実際のところ、そこの車の窓際で笑っているゴーグルマントの親友である慇懃無礼な彼の仕業なのだが。そんなことは無いだろうが、万が一これが総帥の耳に入って五条が懲罰室行きにならないように、土門は誤魔化したのだ。結局風丸に才能があって警戒すべきという点は変わらないので、取り立てて報告すべき内容でもないと思ったのもある。
『それでは、失礼します』
「あぁ、すまないな」
土門からの断りを受けて電話を切る鬼道。雷門は順調に力を増しているようだ。あの御影専農の2人から完敗を喫したと聞いてはいるが、雷門の恐ろしさは試合の中でないと測れない。円堂守という、予測不可能な大馬鹿は特にだ。
「ふふっ……試合が楽しみだなんて……いつ以来だろうな」
「お珍しいですな、有人さま」
「そうか?……袴田、父さんや総帥にはだまっておいてくれないか」
「ほっほっ、仰せのままに」
鬼道の名を次ぐものとして、そして影山から完全なるサッカーを教わるものとして。この発言が相応しくないことは分かっているが、それでも楽しみなのだ。そんな彼の言葉を聞きながら、執事の袴田は優しく微笑んで車を走らせていった。
☆☆★
「なるほど、雷門の地下にそんな施設が……」
『あぁ。伝説のイナズマイレブンの特訓場ともなれば、さぞ高度な施設に違いない。明日からトレーニングを更に厳しいものにすると、みんなに伝えてくれ』
「了解しました。すぐにでも伝えましょう」
『頼んだ。おやすみ、勝』
「ええ、おやすみ」
別れの挨拶をしてからピッ、と電話を切る。唯一自宅からの通学を許されているキャプテンにして親友の言葉を伝えるべく、五条は自室に広げていたノートを閉じた。
この世界にいることを自覚してから、書き連ねてきた必殺技ノート。将来的に帝国のチームメイトや、誰かが行き詰まった時。また、もしかしたら使用してくるかもしれない必殺技を忘れない目的で書いていたものだが、未だに役に立ったことはない。
「この時期に有用な必殺技って、結構少ないもんだなぁ……技の難易度が高過ぎたり、将来的に別チームや敵側が使う技は教えたりしたらまずいだろうし」
原作において数々の必殺技が登場したが、ゲームを含めればそれよりも技の数は多い。だが今の時期に問題なく使える技で、メンバーがパワーアップ出来て、なおかつその後に問題がなさそうな技……となるとほとんど無い。
それに今から新技を教えるよりも、既存の技を磨いたりした方がいいだろう。何人かは原作にもなかった個人のオリジナル必殺技を編み出し掛けているので、今自分が余計な手出しをする必要は無い。
「(影山にだけは見られたら厄介かなぁ……)」
正直な話、GOの時代……10年後の松風天馬達の世代の必殺技も載っているのだ。さすがに皇帝ペンギン3号などはまずいと思って載せていないが、10年後の帝国のエース、御門春馬の皇帝ペンギン7は書いていた。何を思って書いたんだ当時の自分よ、と思うが、今の今まで影山からアクションがあったりはしていないのできっと大丈夫だろう。
一応いつものように普段使用する教科書類のなかに紛れ込ませながら机に仕舞う。そして部屋から出た五条は、未だにみんな集まっているであろう大広間へと向かった。
「………ん?よう五条、何やってんだ?」
大広間にやって来てみれば、やはりサッカー部の面々が未だに残っていた。食事が終わってから五条は「少し予習をする」と言って部屋に戻り、これからのことについて考えていたが、他のメンバーは就寝までの短い時間だがリラックスしていた様だ。
そんなタイミングで降りてきた五条に佐久間が軽く手を上げて声を掛ける。椅子に腰かけ、目の前には寮のメイドに頼んで用意してもらったフルーツが盛られた皿が置いてあった。
「……ほんとよく食べますね、佐久間」
「練習時間長くなってるからな。特訓もしてるし、男なら腹が減るだろ。体調管理の為にフルーツとか野菜にしてるけど、ほんとなら肉がいい」
「大野は肉食ってますけど?」
「あいつの腹は例外だ。どんな胃袋してんだよほんと」
佐久間が呆れた様子で近くにいる大野を見る。既に夜も遅く、夕食も相当量食べていたはずなのに未だに巨大丼サイズのものを大口でかきこんでいる。これで胃もたれもせず翌日にはケロッとまた朝飯を食べているのだから、彼の胃は正しく超人である。スポーツ選手としては、屈強な肉体を作るために必要な才能ではあるので佐久間からしたら少し羨ましい。
「んで?どうしたんだ、お前も腹減ったか」
「そういう訳ではありませんよ。有人から連絡がありましてね」
「鬼道から?」
キャプテンである彼からの連絡と聞いて、佐久間が反応。彼以外にも近くにいた大野や兵藤、離れていたほかのメンバーもなんだなんだと近付いてきた。
「雷門が、伝説のイナズマイレブンの特訓場を見つけたようです。それに対抗するべく、こちらも特訓時間を増やすとのことで……」
「イナズマイレブンの特訓場ぉ?」
「伝説っつっても……40年前の代物だろ?効果あんのか?」
「さぁ?しかし、警戒するに越したことはありません。雷門との試合、必ずリベンジすると意気込んでますからねぇ、彼……」
伝説といえど既に40年も昔のこと。その当時の施設なんかが脅威になり得るのかと辺見と咲山が疑問を提示。しかし五条の言い分に納得したメンバーはそれを了承、明日からさらに練習時間を伸ばすこととなった。
それに、イナビカリ修練場の効果は絶大だ。原作で雷門イレブンが帝国に追いついた主たる要因でもあり、大幅に身体能力を向上させる施設。恐らく無茶苦茶な機械ばかりだが、その効果は帝国の最新鋭のトレーニングマシンと比べてもなお優れている。ただでさえ豪炎寺の早期合流で強くなっているのだ、再試合であっさり負ける……なんてことは、誰も望んでいない。
「練習時間増えるのかぁ……個人技の時間取れるかなぁ」
「鬼道さんなら取ってくれるんじゃね?連携面は殆ど大丈夫っしょ」
そんな中で洞面と成神の1年生レギュラーコンビが呟く。どうやら洞面は個人技の練習に重きを置きたいようだ。実際五条からしてみても、連携面は殆ど問題無い。あとは個々の必殺技や、より優れた連携技、フォーメーションや各作戦の確認だろうか。
「ねーねー五条先輩!ちょっといいすか?」
「?えぇ、大丈夫ですよ」
そんな中、成神が五条を呼ぶ。何かあったのかと首を傾げて五条が近づくと、二人の手元には紙が広げられていた。見てみると、どうやら洞面の動き……というか、新技の設計図のようなものだ。
「必殺技………洞面のですか」
「そーなんすよー、こいつ行き詰っちゃって」
「うるっさいなぁ!ノリで新技完成させる奴に、この気持ちは分かんないよーだ!」
んべー、と舌を出して成神を挑発。成神も成神で笑いながら「やるかこのー!」と洞面の翼のような髪をわしゃわしゃする。基本的にそんな事言われても笑ってスルーするか反応しない成神が反応する辺り、本当に仲がいいんだなと五条は思う。
「それで?どういう技ですか?」
「ドリブルとブロック兼用にしたくて、こう……加速しながら掠めとるみたいな」
「なるほど……クイックドロウに近い感じですね」
「そうなんです!けど僕キックのパワー弱いから、クイックドロウの派生系じゃ実践レベルのスピードが出なくて……」
なるほど、と呟きながら五条は洞面の技予想図を見る。クイックドロウのように独特の体勢から横を抜け掠めとる形ではなく、小柄な体躯を活かして足元に潜り込みながらボールを奪い去る形の様だ。
「……ん?」
「?どうかしました?」
「あぁいえ、なんでも……」
そんな洞面が立った状態から、ロケット頭突きの様な姿勢で飛んでいく予想図を見てどっかで見た事があると思う五条。こんな技は他校のデータにも無いので、必然自分の原作知識の中にあるはずなのだが……と記憶を掘り出すと、ポンッ、とひとつ思い浮かぶものが。
「(あぁ、かっとびディフェンスか!)」
そう。風丸に教えたソニックショットと同じく、10年後の雷門の必殺技。ディフェンス技を身につけようとした一年生と、その彼に土壇場で協力した一年生、二人による連携技。この必殺技から発射台を抜いた状態にそっくりなのだ。
ならばそれをそのまま考案……とはいかない。
帝国学園は雷門とは違い、連携サッカーが持ち味だ。ならば連携技のかっとびディフェンスはいいじゃないか、とも思うが、これは洞面に加え発射台となるものが拘束される。そして洞面の近くにいる選手ともなれば、鬼道や五条、それに辺見だろう。鬼道や五条を拘束するのは戦術的に通らないだろうし、辺見も彼の役割がある。この技のために拘束するのは全体で見れば不利益だ。
「と、なると……」
これを大元にして洞面一人で使いこなせる技に仕上げなければならない。ひとまず五条は、ロケット頭突きする洞面の絵に矢印マークを書き足し回転を示す。
「取り敢えず、勢いが足りないのなら回転を加えるのはどうでしょう?トルネードキャッチの様に」
「あっ、それいいです!回転しつつ行けば勢いも増して、実践向きになる!」
洞面が笑顔でそう言う。これで殆ど完成系だろうが、五条からしたら少し気になる点があった。
「……しかし、クイックドロウとの差別化が出来ませんねぇこれだと」
「デスヨネー」
クイックドロウとこの新技、正直並べられてもどちらがいいかとは言えない。脚力が高いとは言えない洞面でも使いこなせる、と考えれば良いのかもしれないが、結局根本的な必殺技の強さの問題は解決していない。
「どうするか……」
「こうしたらいいんじゃないっすか?」
そんな悩む二人の隣から、成神がペンを持って書き足す。洞面の絵に上向きの矢印を足し、そこから下に戻るように矢印を加える。
「回転しながら上昇して、相手選手より上の目線に行く。そんで急降下、ボールを掠める……どっすか?」
「………なるほど……!この形ならスピードはクイックドロウの比にならない。更に一度視線を上に向けてから足元を狙う故に急激な上下移動によって相手が反応しにくい……!」
「で、出来たー!!新技の概要!!」
わーい!と両手を上げて喜ぶ洞面。成神、五条の二人にハイタッチをせがむ彼に、律儀にいぇーい、と応える2人。どうやら洞面も納得のいくいい感じの技が出来上がったようだ。あとは明日以降、雷門との試合までに反復で身につければいい。
「………そういえば」
「どうかしました、先輩?」
「いえ、新技といえば………寺門と源田の2人が見当たらないなと思って」
洞面の新技を見て、ふと二人のことを思い出す。どちらも新しい技を身につけようと、毎日毎日倒れる寸前のような特訓を行っている。それでも形にならないようで、悩んでいる姿も見かけた。
「寺門さんと源田さんは、もう寝てますよ。シャワー浴びてご飯食べたら、そのまま部屋に直行です」
「………そうですか」
思い詰めすぎなければいいが。そんなことを思いながら、五条はチームメイト達に部屋に戻る旨を告げて、階段を上がっていった……。
☆☆★
「……これ、サッカー場か……?」
呆然と呟かれた半田の言葉が、チームメイトたちの気持ちを代弁していた。
数多のアンテナや機材が乱立し、グラウンドの周りを囲んでいる。この場所こそ、フットボールフロンティア2回戦の会場、雷門の相手である御影専農のサッカーグラウンドだ。
野生中とはうってかわって機械的な雰囲気に気圧される雷門イレブン。しかし円堂はあっけらかんとして笑ってみせる。
「アンテナがあろうとなかろうと、サッカーには関係ないさ!みんな、気を引き締めていこうぜ!」
円堂がチームメイト達を鼓舞し、御影専農の生徒の先導についていく。控え室に案内された雷門イレブンは、それぞれユニフォームに着替えてスパイクなどの調子を確認する。
「……ちょっと、トイレ……」
「キャプテン、壁山の真似でやんすか?」
「そうじゃねぇっての!」
栗松の冗談にみんなが笑う中、円堂は部屋を出て近くのトイレへと向かう。
「ふぅー………ん?」
用を足して手を洗い、トイレから出た円堂。そんな彼の視線の先、廊下からちょうど姿を表す男がいた。
「………君か」
「よう。お前もトイレか?」
「監督からの指示を受け戻るところだ」
円堂の冗談に真面目に答える、御影専農三年生キャプテン、杉森。そんな彼に向けて、円堂は自信を持って言葉を投げる。
「この間みたいにはいかないぜ」
「君たちの勝つ確率は計算済みだ」
「へぇ…どれくらいだ?」
雷門が勝つ可能性……とどのつまり自分たちの負ける可能性。それを尋ねられた杉森は、表情を変えずに円堂の横を過ぎ去り、すれ違いざまに一言。
「………聞かない方がいい」
「ならいいさ。進化した俺たちを見せるだけだ」
杉森に向けてそう笑いながら、円堂は控え室へと戻っていった。その顔付きに怯えなどはなく。ただ純粋に、彼らとの試合を楽しみに……。