イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!! 作:ハチミツりんご
「影野君、大丈夫?」
「う、ん………平気だよ……」
救急箱を片手に木野が影野に応急手当を施す。影野は平気だと笑うが、腹部に大きなアザが出来ている。この試合はこのままベンチに下がるのが賢明だろう。
「それにしても、どうしましょう……先取点取られちゃいましたよ……?」
「きついですねぇ………こちらの動きを完全に読まれている上に、必殺技も通じない。しかも、ああも守りに徹されては……」
既に前半が終わり、得点は0-1。御影専農がリードした状態で、コチラに触らせないようにボールをキープしているという不利な状況。音無の心配そうな呟きに、目金が冷や汗を流しながら同意した。
「大丈夫よ。彼らはイナビカリ修練場での特訓で、一回り大きく成長したのだから」
そんな中で新しくマネージャーになった雷門だけが、イナビカリ修練場での厳しい特訓を潜り抜けた彼らならば大丈夫だと自信ありげに言う。しかし、そんな彼女に向けて栗松がジト目でため息をつく。イナビカリ修練場での特訓を思い出しているのだろう。
「と言っても、あそこではサッカーの特訓は出来なかったでやんす………俺の新技も、完成しなかったでやんすし……」
「それは………大丈夫じゃ、ないかな………」
「え?」
栗松だけでなく、宍戸や少林の新技も完成せず。チーム全体で見てもドラゴントルネードを超える技は思いつかず。頼みのイナビカリ修練場では、まったくもって意味があるとは思えない謎の特訓の数々。試合を見ても杉森を筆頭とした御影専農の硬い守りを崩せず、勝ち目が見いだせなかった。
そんな中で、影野がボソリと大丈夫ではないかと呟く。試合を見ていてもそんなふうには思えなかった栗松や目金、マネージャーの面々が彼の方を見る。
「大丈夫、ですか?」
「うん。後ろから見てたけど……みんな、普段とは動きが違う。上手くは言えないけど……俺、円堂の前で、一年間みんなの動き見てたから……」
一年前。まだまだ出来たばかり、弱小中の弱小だった雷門サッカー部。そんなチームに、炎のエースストライカーと噂される有名人が加入したと当時はその話題でもちきりだった。
だから、あの時勇気を出してオンボロサッカー部の戸を叩いた。そんな有名人がいるチームに入れば、こんな自分でも少しは変われるのでは無いかと期待して。
まぁ結果として、一年間は試合すら出来なかったのだが………それでも自分を歓迎してくれた円堂や豪炎寺に染岡、半田、同じ時期に入ったマックス。それにマネージャーの木野。彼らと過ごす時間はとても楽しかったし、自分自身変われたように思える。
そんな風にチームメイトを見てきたからこそ、何となく思う。きっとこの試合は大丈夫だと。後半になって、巻き返すだろうと。そして影野は少し笑いながら、「それに」、と小さく口を開いた。
「______円堂があんなサッカー、認めるわけないからね」
☆☆★
「おい、杉森っ!!」
控え室前。無機質に一列に並んで歩いていく御影専農の選手達に向けて、大きな声が掛けられた。怒りを孕んだその声に杉森が振り向くと、円堂を筆頭に雷門イレブンがこちらへと歩みを進めていた。
「なんで攻撃しないんだ!!アレじゃサッカーにならないだろ!!」
サッカーとは勝負事であり、勝ち負けが決まるもの。しかし同時にスポーツだ。互いを認め合い、リスペクトし、最後の最後まで全力で戦う。それこそ円堂の知るサッカーだ。その価値観に当てはめれば、御影専農の行った戦術はサッカーとは言いたくない。
そう熱くなる円堂に、杉森は無表情に言葉を返した。
「それが、監督命令だ」
「なんだって!?」
「10点差だろうと1点差だろうと、同じ勝利。リスクを冒さず、タイムアップを待つ」
途中過程がどうなっていようと、サッカーは最終的により多くの点を取った方が勝ちとなる。ならば攻撃を続けて相手に攻める機会を与えるよりも、常にボールを保持してその機会を潰し、タイムアップまで耐え忍ぶ。それこそ、確実な勝利への道だと断言する杉森。そんな彼に、円堂がわなわなと震えて怒りを露わにする。
「何もかも………何もかも計算通りに行くと思ってんのかよ!?」
「君達のデータは全て把握済みだと言っただろう……俺からはゴールを奪えない。君達の負けは決定づけられている」
サッカーは計算では成り立たないと叫ぶ円堂。しかし杉森は至って冷静にそう返した。事実彼は、前半を無失点に抑えている。しかも雷門の怒涛の攻撃を、シュートブロックも無しに凌ぎ切ったのだ。俄然彼の言葉には重みがます。
しかしそんな事で怯むほど、このサッカー馬鹿は甘くは無いのだ。ドンッと胸を叩いた円堂は、真っ直ぐに杉森を見つめながら断言する。
「そんなもん、計算じゃ分かるもんか!!勝利の女神は、勝利を強く信じる方に微笑むんだ!!」
「データに無いことは、決して起こりえない。我々の勝利に、揺るぎはない」
「っ!!データ、データって………そんなサッカーやってて楽しいのかよ!?」
データに従えば絶対。計算上負けは無い。そんな風に全てを筋道立てて計算し、ただただ言われるがまま、機械的に、事務的に勝ちという結果のみを求める。そんなサッカーは円堂の知っているサッカーではない。
そんな円堂の言葉に、杉森が僅かに顔を顰めながら疑問の言葉を発する。
「………楽、しい……?」
「そうさ!!サッカーは楽しいもんだろう!?仲間と、ボールを通して通じ合う、素晴らしいものだ!!」
「素晴ら、しい………?君の意見は理解不能だ」
楽しい。素晴らしい。そんな感情論的なものがなんの意味を持つのだろうか。そんなもの、結果という不変のものの前では塵芥程の価値も持たない。杉森達御影専農の選手達からして見れば、こんなに熱くなって叫ぶ意味が理解出来ない。
そんな姿勢を崩さない御影専農の選手達に怒りを覚える円堂は、目の前のサッカーの楽しさを忘れた男たちに真っ直ぐ指を突き付ける。
「それはこっちのセリフだ!!見てろ……お前達に、本当のサッカーを思い出させてやるっ!!」
その言葉を最後に、円堂は雷門の仲間達と共に控え室へと戻っていく。負けない、絶対に負けられない。勝利しか価値はないと思い込んでいる彼らに、夢中になって時間を忘れる、そんなサッカーを思い出させる為に。
「………楽しい。楽しい………」
「どうした、威」
「………プログラムされていないはずなのだが………懐かしいと感じてしまう」
「?インストールミスか?伝達機に故障でも?」
「………分からない。試合までに確認しよう。戻るぞ、巌」
☆☆★
『さぁ!運命の後半戦が始まりました!!雷門中は、前半身体を張ったブロックを見せた影野がベンチへ!代わりに栗松がサイドバックへと入り、その位置にいた土門が影野のポジションについています!』
雷門フォーメーション
ーー豪炎寺ーー染岡ーーー
ー宍戸ーーーーー少林寺ー
ーーー松野ーー半田ーーー
ー風丸ーーーーーー栗松ー
ーーー壁山ーー土門ーーー
ーーーーー円堂ーーーーー
ホイッスルが鳴り、後半が始まる。山岸が下鶴にボールを渡し、下鶴は後ろに向かって大きくバックパス。前半と、同じ戦術だ。
『ああっと!!始まって早々、御影専農は全員下がってのディフェンス!!これでは雷門中、なかなかこの守りを崩せなぁーいっ!!』
『ふふ、ふふふふふっ……!!見事でございましょう総帥!!』
データに則った完璧なサッカーを見せる御影専農の選手達の映像。そしてそれ越しに聞こえてくる、富山の自慢げな笑い声。既に見捨てられる結末が決まっていることも知らず、より上へと登っていると確信している滑稽な役者。そんな彼の声を聞きながら、影山は笑った。
「ふっ、なるほど……このままボールをキープし続けるのか」
『えぇその通りでございます!!この精密さ、貴方様の帝国の手駒達にも匹敵し______』
「………随分と、つまらないんだな?」
『………へ?』
自慢げに帝国学園にすら匹敵すると豪語する富山だったが、至極つまらなそうに笑った影山の声に耳を疑った。そんな彼の事はどうでもいいとばかりに、影山は目の前の映像を見る。
「統率されたデータサッカー……なるほど。素晴らしい機械だな。だが富山、君の作戦とはそんなものなのか?」
『わ、私の策!?』
「あぁそうとも。君は私の役に立つ人間なのだろう?こんな三流役者ですら簡単に思いつくシナリオを自慢げに見せるだけでは終わるまい?」
くくく…と影山が嗤う。実際のところ、影山は富山にこれしか策が無いと勘づいている。こんなつまらない男が、自分を楽しませるようなものは生み出せないと確信している。
それでもこんなことを言うのは、ここで散る運命なのだ。せめて最後の最後まで、面白おかしく踊って笑わせてくれればそれでいい。
「私は役に立たぬ人間は嫌いだが………これだけしか、ないのかね?」
『ひぃっ!!そそそ、そんなことはございませんっ!!今に、今に総帥に満足頂ける策を披露してみせます!!』
「ほう、楽しみだな……あぁ楽しみだとも……ふふっ、ふふふ……」
ありもしない策を見せると言う富山。影山の手のひらの上で踊り続ける愚かな男にわざとらしくそう言って見せれば、富山は慌てたようにして御影専農の選手達に指示を出した。
『全選手に通達!!敵ユニットを自陣まで誘いこめ!!二度と……二度とプレー出来ないよう、ダメージを与えるのだっ!!』
そうして出された、インプットもされていないラフプレーの指示。その指示が今手の中にある勝利を投げ捨てる結果になると気が付かない富山を見ながら、影山は通信先の富山に聞こえないように興味深げに頷いた。
「……なるほど。愚か者もここまでくれば良い見世物だな………くっ、くくくっ……!」
☆☆★
「し、しかし監督!!我々のプログラムに、ラフプレーのデータは、インプットされていません!!作戦の変更をお願いします!!」
『お前達に意見する権利などないっ!!実行しろ……勝利への数値をあげるために!私の未来のために!!こいつらを潰すんだっ!!』
インプットされていない指示を出してきた監督に困惑しながら、代表して杉森が作戦の変更を願い出る。しかしもはや影山への恐怖と出世のことしか頭にない富山は、頑としてその意見を曲げなかった。
「しかしっ!!敵ユニットを機能停止させることは、サッカーではありませんっ!!実行は、不可能です!実行は………」
プログラムにないことは実行出来ない。しかし、指示を出す監督はそれを実行しろと言ってくる。その板挟みに杉森が困惑している間にも、御影専農の選手たちによるパス回しは続いていた。
「くっそー!!」
「奪えないでやんす!!」
未だ明確な指示が出ていないので、杉森とは違い困惑せずに済んでいるほかの選手達。素早いパス回しに翻弄される攻撃陣を見ながら、土門が円堂へと声を掛ける。
「どうする円堂?俺も上がろうか?」
シュート技を持つ風丸や、イナズマ落としの為に必要な壁山もあがっているこの状況。唯一DFとしてのポジションについている土門だったが、一人増えれば状況が好転するかもしれない。そう思って、土門が円堂へと提案をするが、ここで円堂は彼の予想を遥かに超えることをやってのけた。
「くっそー……攻めてこないんじゃ、ここにいたって仕方ないっ!!よしっ!!」
「そーそーよし……って、えぇ!?」
攻めてこないのではキーパーの位置につく必要は無い。そう言わんばかりに、なんと円堂は常識外れのゴールキーパー単身特攻に走った。
「えぇーっ!?な、何やってるんですか円堂君!?」
「じょ、常識が通用しないにも程がありますぅ!!」
「あ、あははは………円堂らしーい……」
「あら、やっと走ったのね彼」
「キーパーが走るのは常識外れなんだけど……円堂自身が、常識の中にいないからね……」
ベンチに座っているメンバーも口々に円堂の有り得ない行動に驚愕。サッカーのルールすら詳しくは知らない雷門は何が変なのかもよく分かっていないが。一年次から一緒の木野に加え、彼女と同じくらい……いや、フィールドに共にたっていることも考えたら彼女以上に円堂のアホな行動を見てきた影野の二人だけは、円堂らしいと苦笑していた。
『な、なんとキーパー円堂!!ゴールをがら空きにしての、攻撃参加ァ!!ゴール前にいるのは、土門だけだァ!!』
「ひ、兵藤の野郎ですらそんな事しねぇぞ!?せめて壁山だけでも戻って来てぇぇぇぇぇ!!?」
土門の悲痛過ぎる訴えが空へと消える中、三人で取り囲むようにしてボールを確保していた御影専農の選手を強引に突破し、円堂がドリブルで駆け上がっていく。
「な、なんだと!?」
「だァァァァァァァァァっ!!」
まさかの選手の突撃に、データを駆使する御影専農の選手たちが混乱する。杉森も監督との通信を一時遮断し、困惑しながらも目の前の円堂に意識を向けた。
「いくぞっ!!杉森ィィィィィィィィィイっ!!」
そして円堂の渾身のシュート。必殺技でこそないものの、培ってきたパワーの籠った中々のシュートだ。
「何故だっ!?データにないっ……!!君のシュートは、データに無いぃっ!!」
しかしいくら混乱していても流石は御影専農の守護神。コーナーに打たれたシュートに的確に反応し、両手でがっしりとキャッチして見せた。
「なぁぁぁぁ!!!くっそーっ、止められた!!」
止められたことに本気で悔しがる円堂。ドラゴントルネードやイナズマ落としすら防ぎ切った杉森にまさかキーパーがノーマルシュートする。その事に、杉森は有り得ないと目を疑いながら円堂へと叫んだ。
「な……なぜ君が攻撃に参加する!?」
「点を取る為に決まってるだろ!!それがサッカーだ!!」
「点を取るのはFWを筆頭にした攻撃陣のミッションだ!!キーパーは違うっ!!」
「そんなもん関係無いさ!!これが俺のサッカーだ!!」
にひひ、と笑ってそう叫ぶ円堂。キーパーが攻撃参加するほど、有り得ないほど自由なサッカー。それこそが、円堂の大好きなサッカーというものだ。常識の外にある、ただ単純に大好きなものを追いかけるサッカー。それを聞いた杉森は、呆然と立ち尽くしてしまう。
「円堂ォ!!てめ早く戻れぇ!!ゴールガラ空きじゃねぇか!!」
「円堂ぉーっ!!頼むから戻ってきてくれーっ!!」
「悪い悪い!……へへっ、久しぶりのシュート、楽しかったぜ!!ナイスセーブ、杉森!!」
味方ですら度肝を抜かれる円堂の行動に、額に青筋を浮かべながら叫ぶ染岡。ゴール前で必死にカバーしようとする土門の悲痛な声を聞いた円堂はなはは、と申し訳なさそうに笑う。そして久々のシュートの感覚を噛み締めながら、見事なセーブを見せた杉森を褒め称えつつ走ってゴールへと戻っていった。
「………戦闘中の敵ユニットを褒める?何を考えているんだ……くそっ!こんなものデータにはないっ……!!理解不能だ……!!」
円堂の全く予知できない行動に、杉森がゴールポストをガンッ、と殴る。そんな彼の脳内に、先程の円堂の言葉が反芻していた。
「点を取る為………楽しい………俺の、サッカー………」
『何をしている!?早くつぶせ!!早くっ!!』
「………オフェンスフォーメーション、α-9だ!!」
『なぁっ!?貴様!!命令違反だぞっ!!』
富山が叫ぶが、そもそもインプットされていない作戦を出している彼が悪いのだ。杉森は点を取る為に、今の状況に最善の作戦を出した。しかし______
『潰せ……!!潰せぇ……!!』
「っ!?くっ……」
「信っ!?」
『あぁっと!!性格無比な御影専農の連携が、初めて乱れたァ!!大部、杉森からのパスをトラップミス!!』
富山の潰せという声が邪魔をし、今まで性格無比なプレーでボールを前線へと運んでいた10番の大部が初めてミス。ボールが零れたのを半田が拾うが、素早く山郷がスライディングで取り返した。
「す、すみませんっ!!」
「礼はいいっ!!作戦を実行しろ!!」
「はいっ!!」
カバーしてくれた先輩に思わず礼を言うが、山郷は大部に檄を飛ばしながら走っていく。染岡がカバーに入るが、山郷は強引に突破。そのまま一気に走っていく。
「改っ!!」
「了解っ!!」
山郷が下鶴に声を掛けると、下鶴はひとつ頷いてから炎を纏って回転しながら飛び上がる。そして山郷は杉森や山岸と同じく、大きく右足を振り上げて、先程突破した染岡と同じ必殺技を繰り出した。
「「【ドラゴントルネード】っ!!」」
「何人がコピーしてやがんだ、俺の必殺技ァ!!」
染岡が叫びながらも、紅色に染まった竜はゴールを穿たんと駆け下りてくる。しかし、そんなドラゴントルネードの前に現れた、これまたありえない人影………円堂だ。
「なにっ!?」
「またあのキーパーか……!!」
「今だ、豪炎寺っ!!」
「円堂!?何をするつもりだ、お前っ!!」
データに無い行動を当たり前のようにこなす円堂に、もはや御影専農が一種の恐怖すら覚える。そんな円堂が豪炎寺に声を掛けると、何をするんだと豪炎寺が瞠目。しかし円堂の、「俺を信じろ!」という言葉を受けて、豪炎寺は覚悟を決めたように笑って走り込んだ。
「止まるなっ、シュートだっ!!行くぜぇ!!」
「全く………おうっ!!」
「「だァァァァァァァァァっ!!」」
飛んでくるシュートに向けて、円堂と豪炎寺が互いに交錯するように場所を移動。身体を回転させながら、円堂が右足、豪炎寺が左足で、タイミングを合わせてツインシュート。2人のパワーを合わせた、稲妻のごとき光を纏うシュートがまっすぐに御影専農のゴールへと突っ走った。
「な、にぃっ!?」
まさかのカウンターシュートに、ゴール前の杉森が瞠目。あまりにも高いエネルギーを内包したシュートの飛来に、杉森の身につけるセンサーが危険を知らせる警報を鳴らす。
「この数値は、我々の知るデータを遥かに超えているっ!?くそっ!!【ロケットこぶし】っ!!」
狼狽えながらも杉森が拳を構え、エネルギーを射出。しかし今まで杉森を救ってきたその拳は、ボールにぶつかった瞬間に碎ける。
「ロケットこぶしで止まる確率、0%……!!二発目を使用しても0%、シュートポケットならば1.57%……!?有り得ない……!!有り得るかァァァァァァァ!!!!」
どんなに計算を再要求しても返ってくる答えは変わらない。しかし、杉森の心の中に灯る何かが、彼の身体を突き動かした。
「【ロケットこぶし】!【ロケットこぶし】!【ロケットこぶし】ィィィィィィィィィ!!!」
左右の手を使い、ロケットこぶしを3度連続で乱射。きっちり体勢を整えぬまま打てば多大な負荷がかかる技だが、それでも杉森は止める確率をギリギリまで上げようと更に両手にエネルギーを込める。
「【シュートポケット_____V2】ゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」
そしてギリギリでシュートポケットを発動させた杉森。極厚の空気の壁が、迫り来る稲妻を止めようと立ちはだかる……が。
「ぐおおぉっ!?」
杉森の健闘虚しく。猛き稲妻の手によって、ゴールネットに彼ごと叩き込まれた。
『ゴォオォォォォルッ!!円堂と豪炎寺の新たな必殺技で、雷門中ついに同点に追いついたァァァァ!!』
「やったぜ!!守備と攻撃が同時なら、奴らも対応出来ないんだっ!!」
「あぁっ!まさか、あんな技が決まるなんてな……」
「へへっ、何だか身体が軽いとは思ったけど!」
同点のゴールを決めたことに沸き立つ雷門中。ついに完璧なデータサッカーの御影専農の牙城をうち崩したのだ。円堂の奇抜な発想に豪炎寺が笑うと、身体の調子がいいことに……いや。自分達の身体能力がレベルアップしている事実に、円堂が鼻の下をこすって笑う。
「なんなんだ、今のは……!!これが、データを超えた、アイツの………!円堂のサッカーだというのか……!?」
杉森が不可思議な感情に見舞われている間にも、試合が再開。御影専農のボールから始まったソレは山岸が素早くボールをパス。大部、山郷、寺川、藤丸が素早くボールをパスして雷門を突破、一気に山岸へとボールを繋いだ。
「迫っ!!」
「改っ!!」
「「【ドラゴントルネード】ッ!!」」
御影専農のコピーした必殺技の中でも最高火力を誇る、雷門のドラゴントルネード。豪炎寺は前線にいるので先程のカウンターは使えない。これならば決められると、そう思った時。
「うおおおおっ!!【ザ・ウォール】ッ!!」
ゴール前に立った壁山の必殺技が発動。地面からせり上がった壁がドラゴントルネードをブロックし、しばらく拮抗。ヒビが入りながらも、ギリギリのところで止めてみせた。
「なにっ!?」
「ナイスディフェンス、壁山!!」
「へへっ……練習で受けた豪炎寺さん達のドラゴントルネードより全然軽いっす!!」
ここに来て、データが通用しないことへの動揺と富山からの不可解な指示によって御影専農の連携に綻びが生じる。ドラゴントルネードも最適なタイミングで発動出来ておらず、威力が十分に発揮できていなかったのだ。
「壁山、こっちでやんす!!」
「いくっす、栗松っ!!」
そして壁山がサイドにいた栗松にボールをパス。すぐさま栗松の目の前に山郷が立ちはだかるが、栗松は怯まなかった。
「みんな凄いでやんす……!!でも、俺だって……俺だって特訓してきたでやんす!!」
栗松が走る。風丸のような鮮やかに躱す走りは、自分には出来ない。だから、真っ直ぐ。加速に神経を全て集中させて、真正面からぶち抜く。
「______【ダッシュアクセル】っ!!」
「なにっ……うおおおっ!?」
前傾姿勢になりながら、栗松の周りを微かに風が覆う。その風に乗って山郷へと真っ直ぐ突っ込んだ栗松は、自身よりも大柄な選手をはじき飛ばして突破してみせた。
「や、やった……!やったでやんす!!」
「あの選手が必殺技だと!?データには無いぞ!!」
「よーし、俺だって!!栗松!!」
「少林っ!!」
初めて成功した必殺技に、栗松が歓喜の声を上げ、逆に御影専農はデータには存在しない栗松のダッシュアクセルに顔を顰める。そんな同級生の活躍を見た少林がボールを要求し、パスを受ける。
「アチャーっ!!」
そして少林はボールを足に挟み込む。身軽な身のこなしと、カンフーで鍛えた足腰。これがあればきっと何か出来ると思い考案し、風丸や壁山、練習中の土門と編み出してきた技。それが今実現する。
「これが俺のっ!!【竜巻旋風】っ!!」
「この、選手まで……うわぁぁぁっ!!」
回転したボールから巻きあがった小規模の竜巻が、ディフェンスに来ていた大部を吹き飛ばす。
「やった!やったーっ!!」
「いいじゃねぇか、少林っ!!こっちだ!!」
「お願いします、染岡さんっ!!」
新たなる必殺技を編み出した後輩達に興奮しながら、染岡がボールを要求。少林が素早く彼にパスを通すが、流石に御影専農も黙ってはいなかった。
「ディフェンスフォーメーション、β-4!!豪炎寺を囲めっ!!」
『ラジャーっ!!』
杉森の指示を受けた御影専農のDF達が、一斉に豪炎寺を取り囲む。四方を防がれた豪炎寺は、これではシュートどころかパスをもらいにいくことすらままならない。
「豪炎寺さえ……奴さえ止めていれば!!俺が全てのシュートを、止めるっ!!」
「へっ、いい顔つきになってきてんじゃねぇか………宍戸っ!!」
「えぇ!?お、俺ですかァ!?」
ディフェンス無しだろうと、豪炎寺がいないならば止められる。豪炎寺という脅威的なユニットを取り除けば、自分が止められる確率はどんなに低いパターンでも83.46%だ。十分賭けに出れる数値である。
自分が止めると豪語する杉森に、試合開始の頃とはうってかわって人間みを感じることに笑う染岡。そんな彼は、共に連携技の練習をした後輩に声を掛ける。
「豪炎寺が動けねぇんだ!!今がある意味チャンスだろ!!」
「で、でも、俺じゃあ……」
実戦で豪炎寺が全く動けないというある意味稀有なこの状態。新技を試すのにうってつけだと染岡が叫ぶが、宍戸は自信が無い。練習で一度も成功しなかった必殺技だ。しかも栗松や少林が次々と成功させる状況も、彼にプレッシャーを与えていた。
しかし、そんな後輩を染岡が叱責するように声を飛ばす。
「馬鹿言ってんじゃねぇ!!他の奴らが出来てお前だけ出来ねぇなんざあるかっ!!あんだけ練習したんだ!!俺が信じてるてめぇを信じろ、宍戸っ!!」
「っ!染岡さん……っ!!」
努力をした。染岡を誘って、イナビカリ修練場での地獄のような特訓を乗り越えてから、更に二人で日が暮れるまで特訓したのだ。その事実を染岡は知っている。
ならば自分を信じろ。お前に付き合って特訓した俺が信じている自分を信じろ。そう叫び、鼓舞してくれる先輩の姿に、宍戸は心を改める。
「………染岡さんっ、お願いしますっ!!」
「っしゃあ!!!行くぜ杉森ィ!!」
「来いっ!!もう1点たりとも渡しはしないっ!!」
覚悟を決めた宍戸が、ゴールに向かって駆けていく。そんな後輩に笑みを向けながら、染岡は御影専農の守護神に向けて獰猛に吼える。
「いくぜっ!!【ドラゴンクラッシュ改】ィィィ!!」
染岡が右足を大きく振りあげ、ドラゴンクラッシュを使用。その使いやすさと確かな攻撃力から、御影専農の選手たちにも多数コピーされている優秀な技。しかし、杉森には止める自信があった。
「ユニット11、染岡竜吾のドラゴンクラッシュにユニット8、宍戸佐吉のグレネードショットをチェインしたシュート……シミュレーションで、何度も確認したデータだっ!!」
何度も見てきた、何度だって止めてきたシュート。防衛成功率は100%を誇る。確実に止められる。自分は強くなった、自分達は勝てるようになった。このデータサッカーにおいて、データに無いことは決して起こりえない。
飛来するドラゴンクラッシュに併走するように宍戸が走る。不安はある。失敗したらと考えてしまう。だがそれ以上に、このチャンスを逃したくはなかった。
「栗松や少林だってやったんだ……俺だって……俺だってっ!!」
「ぶちかましてこい、宍戸ぉぉぉぉ!!!」
「はい、先輩っ!!おおおおおおおっ!!」
決意を新たにし、染岡の応援を背に受けて、宍戸が飛んだ。そして彼は、ドラゴンクラッシュに向かって上からかかとでバックスピンをかけるように蹴り付ける。すると、ボールは進むのを止め、その場でギュルギュルと超高速で回転しながら留まった。
「いっけぇぇぇぇぇぇっ!!!」
そしてその高速で回転するボールを、宍戸は身体を一度回して勢いをつけながらダイレクトボレーのように蹴り放った。蒼いエネルギーに覆い隠されたボールが杉森へと突き進んでいく。
「っ!?データよりもパワーが上がっている……だがっ!!ロケットこぶしを二度放ってからのシュートポケットで、止められる確率は100%だっ!!【ロケットこぶし】っ!!」
データ以上の数値は出たが、十分対応可能な範囲内。先程の円堂と豪炎寺のシュートのようなデタラメな数値は出ていない。止められると確信した杉森は右腕を構え、拳の形状をしたエネルギーを発射。突き進んだこぶしが、宍戸のシュートを削る為にぶつかろうとした、その時______
「______なぁっ!?」
ロケットこぶしは、
『______ドラゴンクラッシュを包み込むだァ?』
『はいっ!風丸さんのソニックショットが、風で覆い隠して加速するじゃないですか。俺がグレネードショットのパワーで染岡さんのドラゴンクラッシュを覆うんです!』
『………なるほどな、それで包んでっからドラゴンクラッシュはパワーを減らさずにキーパーまで運べるのか』
『そうです!それに、エネルギーで包んでるから、あの杉森ってキーパーのロケットこぶしが当たったら______!』
「______爆発して、更にパワーが大きくなるっ!!これが俺の……俺と染岡さんの、合体技だっ!!」
「一射目のロケットこぶしが無効化……パワー上昇……二発目を当てることは不可能っ!!くそっ、【シュートポケットV2】ッ!!」
宍戸の考案したこのシュート。風丸のソニックショットの原理を参考にし、染岡のパワーシュートを余すところなく敵に食らわせるシュート。そして、ドラゴントルネードやイナズマ落としを止めて見せた、杉森の必殺技の重ねがけに対抗するべく生み出した、シュートだった。
爆破し、ロケットこぶしを砕き進む蒼き龍。包み込まれたエネルギーの中から顔を出したその龍に、杉森はシュートポケットで対応。僅かながらに残された可能性に賭け、全力を持って止めようとする。
「がぁっ!?」
しかし。ロケットこぶしによる重ねがけを無効化された杉森では、そのシュートを止められず。彼の手から弾かれたボールは、ゴールバーに跳ねてネットへと吸い込まれていった。
『ゴォオォォォォルっ!!雷門中ついに逆転っ!!待望の二点目をもぎ取ったのは、染岡と見事な連携を見せた宍戸だァァァァァァっ!!』
「やったァァァっ!!出来ました!!成功しましたよ染岡さんっ!!」
「おうっ!!見てたぜ、最っ高のシュートだ、宍戸!!」
シュートを決めた喜びを爆発させながら、宍戸が染岡へと駆け寄る。そんな染岡は笑みを浮かべながら右手を上げると、宍戸は少し恥ずかしそうにしながらも渾身のハイタッチ。その後、豪炎寺やマックス、半田も彼を褒めたたえ、栗松達の一年生3人は彼の自慢のアフロをもみくちゃにして口々に褒めていた。
「やりましたねぇ!!敵の必殺技を爆発させ、砕き進むドラゴン……!!まさしく【爆砕龍】とでも呼ぶべきシュートだっ!!」
「ふふふっ………いいじゃん、後で言ってあげなよ………宍戸喜ぶよ……」
ベンチに腰掛ける目金が逆転したことに喜びながら、染岡と宍戸の連携技に彼なりの名前をつける。必殺技の名前を付けてもらったならきっと彼は喜ぶだろうと、隣の影野も笑っていた。
☆☆★
『そ、そそそそんな……!?何をやっている、何をやっているんだこの役立たずどもっ!!』
雷門中の逆転。しかも同じシュートによる失点ではなく、別選手……しかも全くもって脅威とみなしていなかった選手を軸とした必殺技での得点。その事実に富山が狼狽えながら、失態を犯した御影専農の選手達を罵倒する。
『そ、総帥!!これは、何かの間違いで……!!』
「間違い、ねぇ………そうだな、確かに間違いだ」
『っ!!そ、そうでしょう!!』
絶対的上位者に擦り寄る為に見せるはずの勝利が、もはや消え失せた。富山はこれは間違いだ、自分は悪くないと影山に縋るように通信すると、影山は笑いを堪えながらそう言った。まだ助かるかもしれないと思った富山が必死にそれに同意するが、影山は至極楽しかったと言わんばかりに口を開いた。
「あぁ、間違いだったとも。………貴様なんぞにチャンスを与えた、私の判断ミスだ」
『………え?』
「杜撰な作戦を自慢げに語り、少し煽っただけで動揺して悪手の連続。挙句の果てにはそれを修正することすら出来ず、手の中にあった勝利を自分でドブに捨てる………あぁ全く。何故こんな時間を過ごしたのだろうな」
この試合における富山の働きは、全てにおいて先を見据えぬ愚かな判断。そんな影山の判断を聞いた富山は先程から一転、顔を真っ青にしてなんとか助かろうと声を絞る。
「あぁ、安心したまえ、失望はしていないよ………元々期待していないからな」
『そ、そんな……お許しを、お許しを総帥ぃ!!』
「実に滑稽な『お遊戯会』だった。楽しませてくれてどうもありがとう………だが、私の計画に貴様は不要だ」
『あぁぁぁっ!!総帥っ!!総帥ィィィィィィィィィっ!!!』
ブツリ、と影山は富山との回線を遮断する。それを最後に、富山の声は影山の耳に届くことは無かった。
☆☆★
『はは……終わりだ……私は、もう終わりだ……はは、ははははははは………』
「………監督?指示をお願いします、監督!」
通信リンク越しに聞こえてくる、富山の全てを諦めたかのような笑い声。何かあったのかと思いながらも、杉森はプログラムに則って富山に指示を仰ぐ。
しかし代わりに帰ってきたのは、試合に勝つための指示ではなく。ブツリ、という回線が遮断される音。モニター越しに表示される富山との通信リンクの所には、砂嵐が舞っていた。
「っ!?監督との、通信リンクが切断された……!?」
チーム全員に動揺が走る。監督である富山との通信リンクが遮断された、つまり彼の高性能コンピュータによる指示が行えなくなったということ。御影専農にとっての生命線、盲目的に従うべき指針の消失に等しかった。
「なんだ?いきなり止まりやがったぞコイツら」
指示がない。つまるところ勝利への計算式が構築出来ない。御影専農のサッカーサイボーグ達にとっては、それは諦めるのに十分な理由だった。
『______終わりだ』
『指示がない………終わりだ……』
「改っ!?迫っ!!」
エースストライカーの下鶴、彼を見事な連携でアシストした山岸のFWの2人との通信も切れる。意図的に遮断したのだろう、杉森が二人に声をかけるが、彼らは応答しない。
『無理だ……』
『これじゃ勝てない……』
「信っ!!応答しろ、啓っ!!」
今まで見事なプレーでボールを前線に運んだ大部、素早い動きで完璧に指示をこなしていた藤丸からの通信も切断された。
『もうダメだ……』
『打つ手がない……』
『雷門には勝てない……』
『機能停止……機能は、停止……』
「強っ、則!?くそっ、諦めるな誘!恐、お前まで……!!」
杉森のすぐ近くで雷門中の攻撃を防ぎ続けてきた花岡や稲田。弘山に室伏達、DFの4人も自ら試合を放棄し通信リンクを切った。
『______無理だ、威』
「暴っ!!まだだ、まだ策はある!!」
そして残り二つ。同じ三年生の山郷に言葉を掛けるが、彼のリンクも切断された。残るは一つ。副キャプテンとして登録されている、寺川のみ。
『______諦めろ、威。監督との通信が無い以上、俺たちに術はない』
「巌っ!!まだだ、まだ点を取れば勝ち目は……!!」
『そんなもの、もう無いよ。我々は敗北する______』
それを最後に、寺川との通信リンクも切れた。もう杉森のリンクには、誰一人として繋がってはいなかった。
「______敗北?負ける?俺達は………ここで………」
「【ドラゴンクラッシュ改】ッ!!」
呆然と立ち尽くす杉森。しかし、時間は残酷にも進んで行く。誰もディフェンスしてこない事を訝しがりながらも、染岡は渾身の力でシュート。この試合何度も見た、蒼い龍が杉森へと迫っていた。
「いっけぇー!!決まれぇぇぇぇっ!!」
円堂の叫び声が、杉森の耳にまで届く。その時、前半終了後______ハーフタイムの時に円堂が口にしていた言葉を、杉森は思い出した。
『そんなもん、計算じゃ分からない!!勝利の女神は、勝利を強く信じる方に微笑むんだっ!!』
「勝利を……強く、信じる方に………」
「ぶち抜けぇぇぇぇっ!!」
勝利を強く信じる方に微笑む。なんの確証があってそういうのだろうか。そもそも神自体が人間の被造物に過ぎない。当時の技術で証明出来ないことを目に見えぬ上位者の怒りだと恐れおののく。進歩した現代において、殆どが証明されているはずだ。勝利の女神なんて、いるはずはない。
「______勝利の女神は、微笑む……ッ!!」
いるはずは、無いのだが。その言葉が、酷く杉森にとっては好ましかった。
「おおおおおおおおおおおおっ!!!【シュートポケット______V3】ィィィィィィィィィッ!!」
「っ!?進化させやがった!?」
この土壇場。杉森は全身の力をフルに使ってエネルギーと空気を結合。今まででは有り得ない強度を実現した空気の壁がドラゴンクラッシュを阻む。
「負けたくないっ!!俺は負けたくないっ!!俺はまだ、こいつらとサッカーをやっていたいっ!!!」
染岡のドラゴンクラッシュにシュートポケットが破られてもなお、杉森は両手を前に突き出して腰を落とし、全力を以て止めにかかる。地面に抉れた跡が出来るほどに踏ん張ってゴールを守るキャプテンの姿に、呆然と立ち尽くしていた御影専農の選手たちの視線が集まる。
「おおおおおおおっ!!」
そして杉森は地面にボールを叩きつけ、上から押さえ込むようにして全力を注ぐ。唸りを上げるボールにも負けず、その回転を止めるべく全身の力を以て対抗し………見事、ボールを止めて見せた。
「や、やった………やったぞ!!」
「キャプテン……!」
確率を頼りにせず、己の力のみで止めて見せた杉森。普段冷静な彼からは考えられないほどの笑みを浮かべる彼に、下鶴がポツリと呟いた。
「みんなっ!!みんなも同じだろう!?負けたくないっ、まだサッカーをやっていたいはずだっ!!」
「______そうだ……負けたくないっ!!」
「俺達はまだやれる……まだ、勝ち目はあるっ!!」
杉森の本気の叫びを聞いた御影専農の選手たち。下鶴が負けたくないと叫ぶと、山岸が、大部が、藤丸が______ピッチに立つ選手達全員が、口々に『負けたくない』と叫びを上げた。
杉森が頭部に取り付けていたセンサーを力任せに剥ぎとる。もうこれは、必要無い。自分にとってやるべきことが……本当にやりたいサッカーが、見つかったから。
「だから、戦うんだ!!最後の最後まで………試合が終わるホイッスルが鳴るまでっ!!」
「______最後の一秒まで、諦めるなァァァァァァッ!!!」
杉森が全力を持ってボールを投げる。御影専農の選手達は全員が彼に倣ってセンサーを取り外し、走り出す。先程のような統率は取れていないが、全員が本気で点を取ろうと。勝ちを拾いあげようと、走っていた。
「やらせないよっ!【スピニングカット】っ!!」
「ぐぅ………おおおおおおおっ!!」
「なにっ!?」
ボールを持った山郷に、マックスが必殺技を使用。青い衝撃波が彼の行く手を阻むが、山郷は雄叫びをあげながら突貫。全身にダメージを喰らいながらも、必死でぶつかり合い、強引にスピニングカットを真正面から突破した。
「そうだ、俺達は勝ちたいっ!!どんなに無様だろうと……勝ちたいんだっ!!」
「そうだ、そうだ暴っ!!凄いプレーだぞっ!!」
思い出した。自分たちが何故富山のサッカーを受け入れたのかを。勝ちたかったからだ。ギリギリまで長く、このチームでサッカーをやりたかったからだ。ガラリと変わって泥臭くなった仲間のプレーに、杉森が大声で鼓舞する。
「……っへへ!!面白くなってきた!!」
その後、雷門中も御影専農も一歩も譲らない一進一退の攻防。御影専農の全力のシュートに円堂が全て対応し、逆に豪炎寺を筆頭にした雷門中の攻撃は全て杉森とDF達が協力して防いでみせた。
「【疾風ダッシュ】ッ!!半田っ!!」
「任せろっ!!【ジグザグスパーク】ッ!!」
風丸が持ち前の瞬足で一気に敵を躱すと、すぐさま半田にパス。ボールを受けた半田に藤丸と大部が飛び掛かってくるが、得意のドリブル技で彼らを痺れさせ、間を抜いた。
「頼んだ、豪炎寺っ!!」
「あぁっ!!」
そして半田が高くパスをあげる。待ち受けているのは、エースストライカーの豪炎寺。何度も何度もシュートを止め続けた杉森の手は限界だ。豪炎寺のシュートはきっと止められない。
「それでも、止めるっ!!来ぉい!!」
だが杉森は諦めない。限界ならば、超えればいい。そう決意しながら構えた杉森に向かって豪炎寺が炎を纏いながらシュートしようとした、その時だった。
「______させるかぁっ!!!」
「なにっ!?」
御影専農エースストライカーである、下鶴が前線から爆走。コピーした豪炎寺のファイアトルネードを使用し、ギリギリのところでブロックに入ったのだ。
両チームエースのぶつかり合い。お互いが全力を以て蹴りあった結果、二人は弾かれて受け身すら取れず地面に激突。ボールはぽとりと、すぐ近くに落下した。
「豪炎寺ッ!!」
「改ァッ!!」
それぞれのキャプテンの叫び声が響く中、砂埃が舞う。そして、最後の力を振り絞った下鶴は頭を使って杉森の元へとボールを送る。コロコロと力なく転がってくるボールを見て、杉森は目を見開いた。
「っく………キャプ、テン……」
力なく下鶴が笑う。もう時間はロスタイムに突入している。このままいけば、御影専農の負けが決定づけられてしまう。そんな状況でも、下鶴は諦めずにブロックして自分へとボールを送ってくれた。ならば、応えなければいけない。
「______うぉぉぉぉぉぉっ!!!」
『なんとっ!!残り時間僅かの中!!キーパー杉森が大きな賭けに出たァ!!』
ボールを受けた杉森が、ゴール前を離れて全力で駆け上がっていく。時間はない、守っている暇もない。攻めなれければ。当然ながらそう簡単に行かせる訳もなく、雷門中の選手達がディフェンスに入る。
「威の邪魔をさせるなっ!!」
『おうっ!!』
しかし副キャプテン寺川の指示の元、全員が杉森の進路を作る為に壁となって雷門中のディフェンスを防ぎ始めた。
「巌……!!」
「行ってこいよ、キャプテン!!」
「あぁ……ありがとうっ!!」
このまま行けと笑ってくれるチームメイトに、杉森も思わず笑いながら駆け上がっていく。センターラインを超え、もう彼の目には、雷門中のゴールと……円堂しか、見えていなかった。
「行くぞ______円堂ォォォォォォォォォォォォッ!!!」
全力を込めた、杉森のシュート。コピーした必殺技も使わない。自分だけ、彼本来の実力だけで放ったシュートは、揺れ動きながらも円堂に向かって真っ直ぐ突き進んでいった。
杉森は全力で勝負を仕掛けてきてくれた。なら、円堂も全力だ。彼は全身に力を込め、代名詞である祖父の技を……彼最強の技を以て、杉森に応えよう。
「______【ゴッドハンド】ッ!!」
黄金に輝くエネルギーが、巨大な手を形作る。杉森の本気のシュートを真正面から受け止めたその神の手は、静かに、そして確実に、そのシュートを止めて見せた。
そしてその瞬間、試合終了を告げるホイッスルが審判の手によって吹かれる。
『試合終了ーッ!!熾烈な試合を制し準決勝へと駒を進めたのは、雷門中だァァァっ!!』
角馬の実況が響き渡る。勝利したのは雷門中。つまり、御影専農のフットボールフロンティアはここで終わりを告げたのだ。
「……キャプテン」
立ち尽くす杉森の後ろから、声が掛かる。振り返ればそこには山岸の肩を借りてこちらへやって来ていた下鶴。そして、寺川や山郷達、御影専農のメンバーだった。
「……負けたな、改、みんな」
「あぁ。でもいい試合だった」
「まさか、威がシュートしに行くなんてな。こんなサッカーもあるんだな」
「キーパーがシュートするサッカー、か………」
負けた。最後には全力でプレーしたが、それでも負けた。しかし、御影専農イレブンの顔つきは晴れやかだった。
「杉森っ!」
「円堂………」
そんな中。ゴール前からやってきた円堂が、杉森へと声を掛ける。全力をぶつけたサッカーが出来た彼は、とても楽しそうに杉森へとこう語り掛けた。
「また、サッカーやろうな!サッカー!」
「ふっ………あぁ!また、サッカーを……!!」
両チームのキャプテンが、どちらともなく手を差し伸べて固く握手を交わす。互いを称え合うその姿に、観客達も大歓声で2つのチームにエールを送った………。
「ふっ……随分と人間らしいじゃないか。最初からそうだったら、結果は分からなかったかもしれないな……」
「かも、しれませんねぇ………」
「まぁこれで分かった。準決勝での波乱は無い……決勝に上がるのはやはりアイツらだ。いくぞ、勝」
そんな中。観客席から試合を観戦していた王者帝国の誇る特待生二人は、静かに笑いながら彼らの姿を眺めていた。
鬼道が踵を返し、その場を去ろうとする。しかし五条は動かず、それに疑問を持った鬼道が首を傾げた。
「……どうした?」
「いえ、なんでもありませんよ。行きましょう」
声を掛けられた彼は、静かにそう言って鬼道の後に続く。
しかし最後に。ふと後ろを振り向いて、互いを称え合う円堂と杉森の姿を捉えた。
「______いつの世も、終わりっていうのは、なんとも言えないものですね」
原作においてただの通過点にしか過ぎなかったこの試合。御影専農の選手達を眺めながら、静かにそう呟いた。
☆☆★
「ちょっと誰か手伝って、これ重い……」
「おーい、これそっち運んでくれ!」
「迫ー、これも頼む!」
試合が終わり、雷門中のメンバーが学校から去った後。観客達も帰宅してから、御影専農のメンバーはコートの後片付けに追われていた。
「改、ちょっといいか?」
「寺川先輩?どうかしましたか?」
片付けを進めていた下鶴に、寺川が声を掛ける。後ろには山郷も一緒だ。そんな寺川は頭を掻きながら辺りを見回して下鶴へと問う。
「威の奴見掛けてないか?」
「杉森先輩、ですか?確か向こうの方に行ってたような……」
「そっか、悪いな、サンキュ」
確か先程見かけたキャプテンの姿を思い出しながら、下鶴が彼がいそうな方向を指さす。そんな後輩に礼を言いながら、寺川と山郷はその方向へと歩いていった。
「____________」
一人、空を見上げながら地面に座り込む人物がいた。暗い色合いのユニフォームに身を包んだ、紫に近い紺色の髪をトゲのようにしたスキンヘッドの男。そんな彼に、後ろから声がかかった。
「おっ、いたいた」
「よう、威」
「巌、暴……」
そんな男……杉森の後ろから現れたのは、同級生でサッカー部の寺川と山郷。軽く手を挙げて挨拶する二人は、杉森に「隣はいいか?」と聞く。断る理由も無いので了承すると、二人それぞれ杉森の隣に腰かけた。
「強かったなぁ、雷門中」
「そうだな………あれで来年も全員残ってるなんて、末恐ろしいよなぁ」
「ははっ……だが改達ならやってくれるさ。きっと負けないチームを作ってくれる」
寺川の呟きに、ただでさえ強いのに来年も全員残っていることに身震いする山郷。そんな二人に苦笑しながら、下鶴ならばきっとやってくれると笑ってみせた。
「あぁホントに、良いチームだった………試合出来て、良かった。俺は満足だよ」
試合には負けたが、晴れ晴れとした気持ちだ。満足だと言う杉森の方を見て、寺川と山郷は大きくため息をついた。
「………あのな、威。満足だって言ってるけど______」
「______泣きながら言われても、説得力ねぇよ」
「っ!」
杉森の目から流れ落ちる。指摘された杉森が手で拭うが、その涙はとめどなく彼の目から溢れ続け、拭えど拭えど途切れることはない。
「す、まない……!こんなつもりじゃ、なかったんだがな……」
「みーんな片付けしてっから、こっちにゃ来ねぇよ。心配すんなって」
誤魔化すように笑いながら杉森がそう言うが、山郷がバンッ、と背中を叩いた。
その瞬間。杉森の中の、なにかが決壊した。
「______勝ちたかった」
「おう」
「雷門中に、勝ちたかった」
「そうだな、俺らもだわ」
「負けたくなかった。ここで終わりたくなかった」
「______お前らと、最後まで……っ!!もっどずっと、ザッガーを、やっていだがっだ……!!」
あぁそうだ。これが、悔しいという感情か。久しく忘れていたその締め付けるような痛みに、杉森が懐かしく思いながらも涙と共に言葉を零す。
「俺がっ……俺が、不甲斐なかったがら……!!あんな奴の誘いに乗ったから……!!みんなに、迷惑をかけてっ……!!」
強くなりたかった。元々御影専農は、そんなに強いチームではない。フットボールフロンティアに出場しても、一回戦を勝てるかどうか。杉森の先輩達は、そういったチームだったのだ。
だが杉森は、強くなりたかった。負けたくなかった。少しでも長く、今のチームメイトたちとサッカーを続けていたかった。
そんな彼が新キャプテンに就任してすぐ、富山から提案されたのだ。『君達に素晴らしい力を授ける』、と。杉森はそれに乗った。乗ってしまった。
「俺が断っていれば、あんなサッカーはしなくて済んだ……!!済まない、巌、暴っ……済まない、済まない………っ!!」
自分がもっと強ければ。あの時、自分たちだけで強くなると断言出来ていれば、あんな機械のようなサッカーは……スポーツマンシップの欠片も感じないサッカーなんて、みんなにさせなくて済んだ。そう謝る杉森。
そんな彼の言葉を聞き、寺川と山郷は互いに目を合わせる。そして頷くと______
「ふんっ!!」
「どらぁっ!!」
「ぐへっ!?」
二人同時、左右から杉森の脇腹に渾身の拳を叩き込んだ。
「なーに一人で抱え込んでんだこのトゲハゲ」
「馬鹿な事言ってんじゃねぇぞ、殴るぞ老け顔」
「も、もう殴ってるだろうが……!!」
プルプルと脇腹を押さえながら蹲る杉森に、寺川と山郷は呆れ顔で散々な言いよう。本気で申し訳なく思っていたからあぁ言ったのにこの仕打ちはなんだと杉森が困惑していると、寺川がポンっと彼の肩に手を置いた。
「大体さぁ、なーにが俺のせい〜、だよ。あんとき頷いた俺と暴も同罪だろうが」
「だ、だが……!」
「だがもクソもねぇよ、一人でかっこつけんな、バーカ」
杉森と同い年、同じクラスだった二人は当時杉森からその話を聞いていた。そして悩んだ末に、いいんじゃないかと彼を後押ししたのだ。ならば自分らも同罪、謝る必要は無し。そう言ったが、杉森は納得がいかない様子。
そんな彼を見てまだ分からんのかと呆れ顔を見せる寺川。しかし山郷がポンっと手を叩くと、いいことを思いついたと言わんばかりに笑いかける。
「んじゃこうしようぜ。俺らは威のせいであんなサッカーをすることになった」
ピッ、と一本指を立てる山郷。何言ってんだと寺川が訝しげな目で彼を見て、杉森め困惑したように山郷を見た。
「______だけど威のお陰で最っ高のチームだった。プラマイゼロどころか、むしろプラスじゃね?」
ピッ、と2本目の指を立ててピースマークを作る山郷。杉森が瞠目していると、寺川は「そりゃいいや」と笑って同じようにピースマークを作った。
「確かにそれは言えてんな、暴!」
「だっろぉ!?特にさっきの試合で威と走ってる時とか、最っ高だったぜ!!」
げらげらと笑い始める同級生達に、杉森が困惑しっぱなしだ。だが彼は知っている。これは、二人なりに自分を励ましてくれているのだ、ということも。
「______ありがとう、二人とも」
「いいってことよ、友達だろ?」
「こんくらい、おやすい御用ってな」
ニヤリと笑って見せる寺川と山郷。そんな仲間に恵まれた幸運を女神に感謝しながら、杉森は満足気な表情で空を見上げた。もうその目には、涙は無い。
「あぁ、本当に………俺達の最後の相手が、彼らで良かった______」
フットボールフロンティア東京地区予選、第二回戦。
雷門 2-1 御影専農
物語が着実に進んでいく、その中で。杉森威の、最後のフットボールフロンティアが、静かに終わった______