イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!!   作:ハチミツりんご

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第四十七条 『世界』の壁

 

 

「【ハウリングウルフV2】ッ!!」

 

「【ファントムシュート改】ッ!!」

 

「くっ、トルネードキャ……うわぁぁぁっ!?」

 

 

雄叫びをあげ、どす黒く染まったボールをシュートする月村。さらにそこへ幽谷のチェインが加わり6つに分身。相手キーパーも負けじと必殺技を発動しようとするが月村の素早いシュートと幽谷のトリッキーなシュートの合わせ技に間に合わず、そのまま点を決められてしまう。

 

 

『ゴールっ!!そして試合終了のホイッスル!!フットボールフロンティア東京地区予選準々決勝、勝ったのは尾刈斗中!7-0の大差で見事な勝利を飾りました!!』

 

 

「グルルル………歯応えねぇなぁ………」

 

「勝てたからいいじゃないですか。雷門や帝国と比べるのは酷ですよ」

 

 

試合終了した瞬間に崩れ落ちる相手選手達。この試合で三得点……ハットトリックを達成した月村が燃焼不足とでも言いたげな不満顔を見せるが、幽谷がため息をつきながらそんな先輩を窘める。ちなみに彼もハットトリックを達成している。

 

 

 

「けっ……まぁいいか。にしても幽谷、ナイスシュートだったなぁ!!」

 

「うわわっ!?や、やめてくださいよ先輩!!」

 

「はっはは!!照れんな照れんな一年!!」

 

 

わしゃわしゃと、一年生ながらチームのキャプテンマークを身につけた後輩の頭を撫でる。彼が来てから、このチームに足りなかったピースがようやく揃った。月村や武羅渡では足りない、エースストライカーという特別な存在を担う彼は、実に頼りになる仲間だ。

 

 

だが同時に、大事な後輩でもある。生意気を言うところはあるが、三年の月村からしてみたら可愛いものだった。

 

 

乱雑に撫で回されてボサボサになった髪を触りながら、幽谷がバンダナ越しに抗議の目線を向けてくる。バンダナに描かれた単眼の魔力か、それとも本人の念の強さか。どうにも圧を感じてしまい、月村が一歩引きながら悪かったと謝罪する。

 

 

「全く…………まぁ、でも。いよいよですね」

 

「______あぁ。待ちに待った………一年越しの、リベンジだ」

 

 

 

獲物を前にした獣のように、獰猛に笑ってみせる月村。そんな先輩の様子に小さく呆れながらも、幽谷はこのチームの先輩たちがリベンジに燃える、まだ見たのことのないライバルへと思いを馳せた。

 

 

準決勝は、一週間後。既に決定した、尾刈斗中の対戦相手は______

 

 

 

 

 

 

 

______王者帝国だ。

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

 

 

「メイド喫茶……ですか?」

 

 

困惑したように、電話を耳に当てた五条が呟く。特訓を終えて、夜の自由時間。珍しく雷門に行った友人から電話があったかと思えば、いきなりメイド喫茶に行った話が飛び出てくるとは思わなかった。

 

 

『そーなんだよ!うちの次の対戦相手の情報収集だーっつって、目金って奴に連れてかれてさ。まぁでも、可愛い子と喋れて、結構楽しかったけどな!』

 

「おや、流石はアメリカ帰り。コミュ力高いですね」

 

『お前もお前で妙に言葉砕けたとこあるよなぁ……まっ、みんなの気が抜けてんのが心配だけど、こっちは大丈夫だろ。そっちはどうだ?』

 

 

電話越しにそう笑う友人こと、元帝国二軍の土門。こちらにいた時よりも明るくなっているのを見るに、やはり彼は雷門の方が性に合っているのだろう。元の性格を取り戻しつつある友人に安堵しつつ、冗談交じりに話を進めて行く。

 

 

「おや、我々の心配とは……もう帝国のことは忘れてしまったのですかねぇ」

 

『そういう事じゃねぇっての!次、尾刈斗なんだろ?相当強くなってるらしいじゃん、豪炎寺とかも言ってたぜ』

 

「まぁ、大丈夫ですよ。負けるわけにはいかないので………それでは」

 

『ん?おう、じゃあな!』

 

 

 

一言断ってから、プツリと電話を切る。椅子に腰かけながら、彼はこれからのことについて考えを巡らせた。

 

 

 

雷門がメイド喫茶に行く、という事は、秋葉名戸との邂逅を意味する筈だ。マニアックな生徒達が揃い、身体能力自体はフットボールフロンティア最弱の呼び声高い弱小校……だが、五条からしてみれば彼らは十分にすごい選手達だ。

 

 

 

「目的とやり口はあまり褒められたものではないが……身体能力的に劣ることを自覚して作戦を立てて必殺技を作って、その上で勝ち上がる。なかなか出来ることじゃない」

 

 

 

フットボールフロンティア優勝のアメリカ遠征を限定フィギュアを買う為に使う……その為に反則スレスレの戦法をとる姿はスポーツマンとしては褒められた行為ではない。

 

しかし逆に言えば、彼らは限られた手札と時間から最善の方法を練ってきたと言うことでもある。特に五里霧中の使い方なんて、ゲームから考えたら有り得ない活用方法だ。恐るべきはオタクの愛、と言ったところか。

 

 

 

「……まぁ雷門に勝てるとは思えないんですけど……」

 

 

正直目金がいる以上、その戦法がバレるのは確定的だ。しかも円堂もかなりのパワーアップを得ている為、ど根性バットの不意打ちで点を取られる未来が見えない。

 

 

こうなれば、原作通り雷門が決勝に来ると考えて間違いない。となれば、問題はこちら側だ。

 

 

 

「______尾刈斗か……まさか当たるなんて思えなかった……」

 

 

はぁ、と小さくため息をつく。それもそうだろう。なまじ原作知識を持っているが故に、尾刈斗はこの間の練習試合を見るまでノーマークだった。まさか一年前にやったリハビリの意味合いが強い練習試合が切っ掛けでこうも変わるなんて予想出来るだろうか。五条には予想もつかなかった。

 

 

 

「原作……か。一体全体どっちに進むことやら……」

 

 

 

原作。しかし、五条の知っている原作は一本だけだ。エイリア学園が攻めてきて、世界と戦って、そして松風天馬のGOへと繋がる道。五条もよく知るイナズマイレブンだ。

 

 

しかし、記憶が間違っていなければ《アレスの天秤》と呼ばれる新シリーズも存在する筈だ。そっちに進まれるとかなり困る。

 

五条の知らない道………吹雪アツヤが生存したり、白兎屋なえが新しく参戦していたりなど、正直未知な部分が多い。どう展開するのか、黒幕は誰なのか、誰がいなくなったら展開上まずいのか………全く分からない。

 

エイリア学園が攻めてこないのなら大丈夫なのでは?とも思えるが、あの超次元世界のことだ。別の世界線でもどうせ地球の危機に瀕してたりするに違いない。というか下手に無印よりも酷いなんてことになってたら目も当てられないのだ。

 

 

「………吉良財閥の御曹司の死亡事故……その情報が見つかれば、アレスではないと言えるけれど………見つかる訳もない、か」

 

 

一番手早い確認は、《吉良ヒロト》が存命しているかどうかだと五条は思う。アレスの天秤は、ストーリーどころか主要人物達の性格すら分からない。そんな中でも、事前に発表されていた参戦キャラクターたちは五条も知っている。そんな中で一番目に付いたのが、本来死亡しているはずの吉良ヒロトの存在だ。

 

 

彼が死亡したか否かさえ確認出来れば、吉良財閥会長……《吉良 星二郎》がエイリア石の研究をするか否かが推測出来る。そこから判断を……と、行きたい所だが。

 

いくら帝国学園の特待生という、学生身分としては破格の立ち位置にいるとはいえ。海外の権力者が揉み消したのであろう事故の情報を手に入れるのは不可能に近い。というか影山の目を掻い潜ってそれを手に入れるなんて無理ゲーが過ぎる。

 

 

 

「結局、なるようにしかならないか………はぁ〜あ、やめだやめだ。気晴らしにボール蹴ってこよ………」

 

 

 

確認したいのに手に入らないことが多すぎる。原作が崩壊しかかっている状態で______ほとんど自分で無意識に蒔いた種なのだが______迂闊な行動は取れない。これで下手な行動に出て雷門に妨害でも掛けられて見ろ、もはや五条の原作知識はキャラクターの性格面や警戒すべき相手くらいしか役に立たなくなる。大筋を破壊するのだけは防ぎたかった。

 

 

 

そんな暗い気分を払拭しようと、ボールを持って寮から出る。気晴らしもそうだが、どうせこれからもっと実力をつけていかなければならないのだ。昔に自分で決めた事、それに自分を信頼してくれている鬼道を裏切りたくはなかった。

 

 

 

「どうせどこも空いてるだろうし、一番近い7番コートを……ん?」

 

 

1時間弱程度の短い練習のつもりだ、近場のコートでいいだろうと思って足を向けた五条。しかし、やって来てみればそのコートは使用中のランプが点灯していた。中に入ってみれば、夜間練習用の照明がコートを照らしている。

 

 

こんな時間まで特訓しているのか、と驚きながら五条が足を踏み入れると、コートの上には乱雑にボールが散らばっていた。100や200……いや、もっとあるかもしれない。そんな量のボールを蹴り続けていたのであろう男は、首からタオルを下げながらベンチに腰掛けていた。

 

 

 

「………寺門?」

 

「…………五条、か」

 

 

五条の呼び掛けに反応し、ゆっくりと顔を上げる。長い手足に、オールバックにしたドレッドヘアー。帝国学園9番……エースストライカーの番号を任された男。一年生の時から五条や鬼道と一軍にいた、寺門大貴が、悩ましげな表情でそこにいた。

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

 

「______新技が完成しない?」

 

「あぁ………」

 

 

勢いよくスポドリを飲み干しながら、寺門が頷く。汗を拭う姿やユニフォームの汚れ具合からみるに相当今日もやり込んでいたようだが、一向に掴めないとのこと。

 

 

「今まで、帝国の必殺技である百裂ショットに頼って来てたからな………一番の得点源も連携技のデスゾーンだったからか、いざ単独シュート技を……って考えると、まとまんねぇ」

 

 

鬼道有人とリトル時代から共に戦ってきた、エースストライカーの寺門。しかし必殺技に関しては、帝国学園の選手が伝統的に覚える必殺技のみで賄ってきたのだ。故に必殺技を作る、という点に関してはイメージが湧かず、難航しているのだと言う。

 

 

 

「と、言っても………君なら開発出来ると思いますがねぇ。ベースとなる身体能力はきっちり仕上がっているのですから、あとは技の具体的なイメージ図だけでは?」

 

 

しかし五条からしてみれば、寺門なら難しく考え過ぎなければすぐにでも完成させられそうだ、というのが正直なところだ。

 

寺門大貴という選手は強い。長い手足を生かした鋭いシュートは得点を量産するし、ドリブルやディフェンスも並の選手とは比べ物にならないほど上手い。佐久間はプレースタイルと本人の適性が見事帝国にハマっている選手だが、寺門も同様。本人の才能を最も生かせるであろうチームは、間違いなく組織サッカーの帝国だ。

 

 

そんな寺門の事を五条は十分に信頼しているし、周りも頼りにしている。帝国学園の9番を背負う男は伊達では無い。鬼道や五条がいない時などは、参謀の佐久間と並んでチームを良くまとめてくれている。

 

 

「君は凄いストライカーだ。そう悩み過ぎる必要は無いのでは?」

 

「………凄い……凄いストライカー、か……なぁ五条。俺は本当にストライカーなのか?」

 

「………?何を……?」

 

 

 

君は凄い。自信を持てと五条が励ますが、寺門は自嘲気味に笑った。一年の頃は練習の密度や帝国のレベルの高さに奮起しながら、自信を持ってレギュラーについていた男だ。そんな顔をするのは珍しいと驚いていると、寺門はそんなことを言い出した。

 

 

 

「……俺はさ。ホントは、チームのエースストライカーなんて呼ばれちゃいけねぇと思ってんだ」

 

「……何故です?確かに佐久間や恵那さん、大楠に椋本だっていいFWだ。でも帝国のエースストライカーは、君しかいない」

 

 

 

エースストライカーと呼ばれてはいけない。そう考えている寺門を、五条は訝しげに問う。きっとそれに足るだけの根拠を寺門はもっているのだろうが、このチームのFW達の中でも寺門の総合力はやはり高い。エースストライカーと呼ばれるに相応しい実力の持ち主だと思っているのだが、「だったらさ」、と寺門は五条の方を見て問うた。

 

 

 

「………ロスタイム。時間が無い状況、一点取らなきゃ俺たちの負け………そんな状況でボール持ったお前がパスするのは……俺か?」

 

「そりゃもちろ______ッ!」

 

 

時間が無くギリギリ。ラストシュート、彼なら決めてくれるとボールを託す選手。それは自分かと問われた五条が当然だと頷こうとしたが、急に言葉に詰まった。寺門の言いたいことを察してしまったから。

 

五条が止まったのを見て、寺門は曖昧に笑いながら言葉を続ける。

 

 

「………だろ?その状況でお前がパスするのは俺じゃない………鬼道だ」

 

 

 

そうだ。そんなギリギリの状況で。五条が全力を以てパスを送る相手は……きっと、親友でキャプテンの鬼道有人だ。

 

そんな五条の判断を責めるでもなく、当然だと言わんばかりに寺門は頷いた。

 

 

 

「お前が正しいよ。きっと鬼道は同じ状況ならお前に出すだろうし、他の奴らもお前か鬼道、どっちかにパスを出すはずだ………俺だって、そうだ」

 

 

鬼道有人と五条勝。帝国学園特待生、チーム内でも頭一つ抜けた実力者。きっとどうしようもない状況で、コイツならやってくれるって信じられるのは、この2人だ。司令塔とディフェンスリーダー。MFとDFの彼ら。エースストライカーで、FWの寺門じゃない。

 

 

 

「FWである事に誇りはあるし、別にお前らを恨んでるとかもない。俺たちは実力主義だ、特待生に選ばれるお前や鬼道を尊敬こそすれど、逆恨みなんてだせぇ事はしねぇよ………成神の野郎も、あと一年したら俺くらい抜いてきそうだしなぁ。今でもシュート以外は抜かれてっか?」

 

 

寺門がベンチから立ち上がり、そう伸びをしながら言う。きっと彼の本心なのだろう。FWだ、帝国学園のエースストライカーだと言われながらも、土壇場で頼りにされないと直感的に察している。後輩の成神も、学年差でどうにか並んでいるが一年後にはもう抜かれているだろうな、と彼は思っていた。

 

 

もう一度言う。寺門大貴は強い選手だ。一年次から帝国学園の一軍に属し、その後もレギュラー落ちすることもなくユニフォームに袖を通し続けている。

 

しかし、ドリブルやディフェンスと違い、シュートするということ………点を取るという行為は特別なのだ。試合を直接左右する、キーパーと並んで単純かつ重要な役割。そう何度もチャンスが巡ってこない試合の中で、より強いシュートを打てる選手にパスを回すのは当然の事。

 

 

「まっ、そういう訳だ。変な事言って悪かったな」

 

 

そう笑ってくる寺門。五条はすぐに何か言葉をかけようとしたが、何も浮かんでこなかった。

 

 

大丈夫?お前は凄いストライカーじゃないか?新技が完成すれば、すぐに俺なんか追い抜ける?

 

駄目だ。何を言っても、届く気がしない。今の自分が彼に何を言っても、どんな慰めを掛けようとも、それは寺門に対する侮辱になる気がした。

 

 

「………寺門」

 

「ん?」

 

 

あぁでも。これだけは言わなければ。五条はゆっくりと立ち上がって、振り返った寺門の方を見やる。

 

 

 

「______君がどう思おうと。周りがなんと言おうと。俺達のエースストライカーは、寺門大貴。君しかいない……それだけは、分かっててくれ」

 

 

 

安心して欲しい。誰を恨む訳でもなく、自分を見据えることの出来る君は。自分自身の意思で道を選択し、歩んでいこうとしている君は、凄い男だって事を。そんなお前だからこそ、鬼道も、五条も、みんながエースストライカーだと信頼しているって事を。

 

 

 

「………おう、サンキュ」

 

 

響いただろうか、伝わっただろうか。それは分からないが、きっと寺門なら大丈夫だ。一年の時から同じチームでやってきた彼は、十分どころでは無いくらい、信頼している。

 

 

 

「………まっ!どっちにしろもっと強くなんねぇといけねぇんだけどなぁ……あのバンダナ野郎をぶち抜かねぇと気が済まねぇ」

 

「ククク………そうですね。私も、もっと強くならねば」

 

 

尽く自分のシュートを止めて見せたあの雷門のバンダナキーパー。彼のゴッドハンドを破らないままでいるのは、寺門大貴の誇りが許さなかった。

 

そんな彼に同意するように……これから先の脅威を知っている五条が同意。そんなことは露とも知らない寺門は、「そうだ」と言いながらベンチの脇に置いていた携帯を手に取る。

 

 

 

「俺さ、帝国卒業したら留学も考えてんだ」

 

「留学?何処に……というか、なぜそんな急に?」

 

「どこってのはまだ決めてねぇが………まぁそこはおいおいだよ。ほら、コレ見てみろよ」

 

 

 

唐突に留学という選択肢を持ってきた寺門に五条が驚く。確かに帝国学園には留学制度も存在するが、まさか卒業したら留学しようなんて寺門が思っていたなんて。初耳だ。

 

そう言いながら寺門が携帯を操作しながら画面を向ける。どうやら動画の様だが、そこに映っていたのは五条も知っている顔だった。

 

 

 

 

『______【オーディンソード】ッ!!』

 

『決めたァァァァァ!!これでハットトリック!!イタリアの白い流星、フィディオ・アルデナ!!この試合も魅せてくれましたァァァァァ!!』

 

「……フィディオ・アルデナ!?」

 

「そーそー。俺らと同い年、イタリアじゃ知らない奴はいないほどの超有名FW………見ろよこのシュート、レベル違い過ぎるぜ」

 

 

 

寺門が見せてくれたのは、原作の登場人物。世界との戦いにおいてイタリア戦の副キャプテンを務めていたFW……そして、影山の心に光を差し込ませた少年。世界有数のストライカー、フィディオだった。

 

 

「それだけじゃねぇよ……アメリカだと、ミスターゴールって呼ばれてる『ディラン・キース』に、グラウンドのトップスター『マーク・クルーガー』だろ?」

 

 

ついつい、と画面を操作しながら別の動画を再生。映っていたのアメリカ代表に抜擢される2人の選手。一之瀬や土門とも交流の深い、マークとディランのコンビ。

 

 

「他にも、イギリスの静かなる闘将『エドガー・バルチナス』。ブラジルのキング・オブ・ファンタジスタ『マック・ロニージョ』………そこら辺には知名度で劣るが、フランスの『ジュリアン・ルソー』にドイツの『マキシミリアン・ミラツ』だろ?」

 

 

それ以外にも出るわ出るわ、世界の中でも特に知名度の高いFW達。どれもこれも世界編で登場する……言わばエイリア学園と戦って勝った日本代表を苦しめることの出来る頭のおかしい実力を持つ選手ばかり。よくもまぁこんなに調べたものだと驚くしかない。

 

 

 

「後は……あぁほら。こいつもすげぇぞ。スペインの『クラリオ・オーヴァン』!」

 

「………クラリオ?」

 

「おう、こいつこいつ」

 

 

聞き覚えのない名前に五条が首を傾げる。そんな彼に寺門が映像を見せてくる。再生された動画に映っていたのは、彫りが深い故か目の周りが黒く、大柄なソフトモヒカンの選手が映っていた。

 

 

『【ダイヤモンドレイ】ッ!!』

 

『ゴォォォォォルッ!!カタルーニャの巨神、クラリオ・オーヴァン!!得意のシュートでチームを救った!!バルセロナ・オーブ、見事スペイン少年サッカーリーグ優勝を果たしました!!』

 

 

ボールを軽く蹴りあげると、それをダイヤの原石の如くエネルギーで包む。輝く宝石のようなそれを、素早く、かつ鋭いキックで削り取っていき、美しい光沢を生み出していく。そしてそれをスタンプキックのようにシュートすると、光り輝く超速の軌跡がゴールまで一直線に伸びていった。

 

 

「(………誰だコイツ!?)」

 

 

スペイン代表の選手の中にこんな目立つシュートを持った男はいなかったはずだ。というか五条の知っているスペイン代表の選手が使うのは【スリングショット】と呼ばれるシュートや【マタドールフェイント】という染岡さんを牛岡さんにする必殺技のはず。間違いなく無印にはいなかった。

 

 

実力は測りきれないが、どうみても現状の自分達より遥か格上。そんな選手が追加されている事実に五条が頭を抱える。

 

 

「あーでも白兎屋さんがいる時点でそりゃ世界編のもいるか……原作が狂う……いやどうせ他のメンツもいるんだし大筋変わらず強くなるだけって線も………」

 

「五条?どうしたんだよお前」

 

「あぁいや!なんでもありません」

 

 

そんな友人の様子に訝しげな視線を投げた寺門だったが、五条は慌てて平静を装う。ただでさえ目の前の事態すら先が見えないのだ。世界編まで変わるのは勘弁して欲しい。

 

 

「………にしてもホントにレベルが違いますね、海外は………」

 

「今の俺らが戦っても勝ち目無さそうだよなぁ………だが、日本人の選手も結構いるんだぜ」

 

「………あぁ、イタリアのヒデナカタさんですか………って、結構?」

 

 

 

流石に世界編の登場人物達はレベルが高い。基本的な身体能力もそうだが、必殺技の練度と規模が段違いだ。仮に今のパワーアップした雷門と帝国学園、それに小鳥遊やら比得、吹雪兄弟に白兎屋といった面々を集めても勝ち目は無いだろう。卑下ではなく、純粋にそれだけの実力差があるのだ。

 

 

そんな中でも、世界で活躍する日本人がいるという寺門。ふとアニメにもゲームにも出演していたあの選手を思い出すが、『結構』、といった寺門に首を傾げる。世界編で登場した日本人選手は、一之瀬と土門を除けば彼だけの筈だが。

 

 

「?ヒデナカタもそうだけどよ、女子選手も結構多いんだ。ほら、これとか。イタリアのクラブチームにいる【乙女乃 スピカ】とか、アメリカの女子リーグの有名人の【砥鹿 火蓮】とか」

 

「乙女乃?砥鹿?………どっかで見覚えがあるような………」

 

 

 

そう言って寺門が何人かの日本人らしき選手の映像を見せてくれる。沢山の選手の中には、五条の見覚えのある選手が混ざっている。しかし、世界編で出てくるメンツとは合わない。見覚えがあるということは前世のどこかで見ているはずだが、彼には思い出せ無かった。

 

 

「(アレスの事前情報で公開されてたりした選手とかか………?もしくは思い違いとか……)」

 

 

うんうんと考えるが、やはり思い起こすことは無い。どうせ世界編、しばらく後の話だ。今は気にしても仕方ないと五条は割り切る。それにフットボールフロンティアインターナショナルという大会は男子選手のみだ。今映った女子選手達が絡んでくることは無いだろう。

 

 

 

「それにしても寺門、貴方よくこんなに情報持ってますね………?帝国のデータベースにもないですし、有人でもここまでは……」

 

「ん?あぁ、俺の親父は貿易会社やってっからな。親父自身が海外に行くことも多いから、行先の有名選手の映像とか送って貰ってんだ。参考になるかもしれねぇしと思って………言ってなかったか?」

 

「初耳ですよそんなの………」

 

 

目の前の友人がこんな有力選手たちの情報を持っているという事実に改めて五条が驚きを露わにする。目金や音無が世界編で中々手に入れられなかった相手選手の情報……それをこんなにも持っている寺門にそう言うと、彼の実家の仕事柄海外の情報も手に入るのだという。

 

 

「……というかそんなご実家なら、留学せずとも親父さんの仕事についていけば似たような体験は出来るのでは?」

 

「あー………俺は親父と違ってそっち方面の才能無いからな。ついてっても邪魔になるだけだし……それに気まずいんだよなぁ」

 

「気まずい?」

 

 

 

ポリポリと頬を搔く寺門。そんな彼は五条に向けて申し訳なさそうな表情を作りながら、僅かに頷く。

 

 

 

「俺には兄貴がいてさ、親父は兄貴と俺で支え合って会社を継いで欲しかったらしいんだ。けど、俺はそういうのはどんなに勉強してもからっきし、逆に兄貴は親父以上にそういうのが得意………会社は兄貴が継ぐ事になったんだが………」

 

「……が?」

 

「………兄貴も俺と一緒でサッカーやっててさ。でも会社を一人で継ぐ以上、もうサッカーに当てる時間は無くなってよ………お前は俺の分までサッカー楽しめ、才能あるんだからって応援してくれてんだ。親父も同じように俺を応援してくれてんだが………どうにも親父の期待を裏切って兄貴に押し付けた気がして、3人で出掛けんのとか避けちまってんだよ」

 

 

 

ポツポツと寺門が語る、家庭の事情。本来なら知るはずのない、語られるはずのない彼の背景。しかしその言葉に嘘がある様子はなく。真実なのだろうなと、五条はふと思う。

 

 

 

「…………悪ぃ、お前にこんな話しちまって………」

 

 

五条にはもう親兄弟はいない。血の繋がった相手は、遠縁ならばどこかにいるかもしれないが、わざわざ探す気にもならない。

 

そんな五条相手に、未だ両親も兄も健在なのに気まずいなどという話をしてしまったことを寺門が謝罪する。

 

 

「…………五条?どうした?」

 

「……………いや…………」

 

 

 

分かっていた。この10年近くでしっかりと自覚していたハズだった。だが、やはり。知らなかったはずの人間の背景を知り、目立つことの無かった選手たちの内面を知ると、否が応にも思い知らされる。

 

 

 

 

「…………寺門も、生きてるんだなぁって……」

 

 

 

 

______この世界が現実だと。目の前の彼は、キャラクターなんかではなく。生きて喋る、当たり前の人間なんだな、と。

 

 

そんな中で、五条は考えてしまう。

 

 

両親の記憶はあれど思い出は体験した事がない。友人はいるが、事前に知っていたが故に仲良くなれたようなもの。今の自分が培ってきたものだって、この身体の本来の持ち主が得るはずだった才能によって形作られている。

 

 

______突き詰めていくと、自分自身で成し遂げたことが何も無いように思える。そんな自分は、果たしてこの世界の『人間』と呼べるのだろうか、と。

 

 

 

 

「………生きてるだァ?あったり前だろ、目の前にいんじゃねぇか」

 

「………えぇ、そうですね。変な事言って申し訳無い」

 

 

寺門の訝しげな視線を受けて、『彼』が謝罪する。そして立ち上がると、そのまま寺門に部屋に戻ると告げてその場から去ろうとした。

 

 

 

「おい、練習しに来たんじゃねぇのか?」

 

「いえ……気晴らしのつもりだったので、大丈夫です。迷惑掛けましたね」

 

 

 

練習するために来たのではないのかと寺門が聞くが、五条は静かにそういうとそのままコートから出ていこうとする。そんな彼の背中が酷く小さく見えた寺門は、彼に向かって声をかけた。

 

 

 

「おい五条!」

 

「………はい?」

 

「あー、その……なんか知らねぇけど、抱え込みすぎんなよ?鬼道も言ってたが、お前すぐ一人で背負い込むからよ………俺らにも相談しろよ?チームメイト云々以前に、友達だろうが」

 

「………えぇ。ありがとう、でも大丈夫ですよ。新技、完成するといいですね………」

 

 

 

軽く手を振って、そのまま姿を消した五条。力無い返事をする友人が消えた暗闇の中を、寺門は心配そうに見つめていた______

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