イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!! 作:ハチミツりんご
「パスもっと鋭くっ!!」
「おいポジショニング甘ぇぞ!!今のカットいけただろ!!」
「動き悪くなってんぞー!!ダッシュダッシュ!!」
尾刈斗中との試合、そしてその先に待つ雷門中との再戦に向けて。平時の膨大な授業カリキュラムを終えた帝国学園サッカー部一軍のもの達は、互いに声を張り上げながら今日も今日とて練習に励んでいた。
「っらぁ!!」
「フッ!!」
長く、そしてしなる寺門の利き足から繰り出される鋭いシュート。下手な必殺技クラスの威力を持ったノーマルシュートが、ゴールの隅に目掛けて唸りを上げながら迫っていくが、キーパーの源田がそれを許さない。片手でボールを掴むと無理やり自分の胸元までボールを引っ張りこみ、両手で押さえつけるようにしてボールを止める。
「オッケオッケ、ナイスセーブ!寺門もコース良かったぞ!」
恵那が見事なシュートとセーブを見せた2人に声を掛ける。揃って彼の言葉に返事をしながらも、どちらも納得がいっていない様子。ブツブツと今のプレーの反省点を洗い出しながら、鬼気迫る様子で練習にのめり込んでいた。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「うおっ!?」
寺門達の逆側では、洞面と辺見が相対。一対一を行っているようで、ドリブルで迫ってきた辺見に洞面が飛び上がる。そして彼は風を纏いながら急降下、一気に加速してボールを奪い取って見せた。
「やった!ついに完成ーっ!!」
「ほう……ドリブルとブロックを両立させた必殺技か。良いじゃないか、洞面」
「はいっ!ありがとうございます、鬼道さん!」
五条や成神のアドバイスを貰って構築し、思い描いた洞面個人の必殺技。ついに実戦でも十分に使えるほどにまで完成度を高めていた彼の技を横から見ていた鬼道が思わず感心する。
洞面は裏をかいたトリックプレーが持ち味の選手だが、同じサイドハーフで先輩の咲山に比べたら突破力で劣っていた。それを自力で補った後輩に労いの言葉をかけると、洞面が嬉しそうにはしゃぐ。
「ぬっ、ぐぐぐ………後輩に負けてらんねぇ……!おい佐久間ァ!!特訓付き合え!!」
「はぁ?………まぁ皇帝ペンギンもほとんど完成しているし、別にいいが………」
逆に洞面からボールを奪われた辺見は、後輩に負けていられないと奮起。近くにいた佐久間をとっ捕まえて自力の特訓を始めるようだ。元々既存技を磨く方向でいこうと思っていた彼だが、こう見事な技を後輩に見せられては自分も新技を、と思うのは無理も無い。佐久間もなんだかんだ言いながら、辺見に付き合って特訓する様だ。
「辺見、佐久間!特訓はいいが、明日は尾刈斗との準決勝だ!あまり根を詰め過ぎるなよ!」
「練習終わる頃にはあがるんで大丈夫です!」
一応、明日はパワーアップした尾刈斗イレブンとの準決勝だ。負けるつもりはサラサラないが、身体を休めるのもサッカープレイヤーの務め。そう思い鬼道が釘を刺すと、辺見は大丈夫だと言いながら佐久間を連れて別コートに向かっていった。
あぁ見えて辺見は利口な男であり、自分の身体のことをよく知っている。試合前に疲れを残しパフォーマンスを落とすような愚行はしないだろう。
「………ん?そう言えば、勝の奴の姿が見えないな」
「五条先輩っすか〜?さっき第3コートでドリ練してましたよ」
「そうか、分かった。少し様子を見てくるから、このまま自主練を続けてくれ」
そんな中で、最近様子のおかしい親友の姿が見えないことに気がつく。鬼道の呟きを拾った成神が、後ろ手を組みながらつい先程見かけた五条の居場所を彼に教える。
どうにも思い詰めている雰囲気がして気になってしまう。以前は勝手に別コートに行くようなことはしていなかったが、ココ最近は増えてきている。鬼道は成神に自主練を続けるように言うと、そのまま少し離れた第3コートに続く廊下へと足を向けた。
「了解で〜す」、と軽く答えて手を振った成神。鬼道の後ろ姿が見えなくなると、その手をおろして小さくため息をついた。
「………あの人流石に抱え込み過ぎでしょ。気にし過ぎても、どうしようもないだろうに……」
「?成神、どうかしたか?」
「いーえなんでもっ!万丈先輩、新技の特訓付き合いますよー!」
あくまで共犯者、知識を共有しているだけ。大きく気にかけるつもりは無かったが、こうも抱え込まれてはこっちの気まで滅入ってしまう。彼の思い悩み、最善の選択を掴もうとする姿勢は好ましい。
それに、こんな面白いことに巻き込んでくれた先輩だ。それを抜きにしても面白い人だし、潰れて欲しくはない。そんな思いは口に出さぬまま、成神は足取り軽く練習を続けるのであった。
☆☆★
「______【分身フェイントV2】」
ボールを前にし、小さく力を溜める。瞬間彼の身体が僅かにぶれ、全く同じ姿形をした分身を2人………計3人にその身を分ける。そして不規則に並べられたコーンに向けて、ボールを蹴って走り始めた。
「【スーパースキャン】、【疾風ダッシュ改】、【ダッシュアクセル】______」
入れ替わり立ち代わり、二人の分身と絶えず位置を入れ替えながら、彼は更に必殺技を重ねる。彼の脳裏に重く、締め付けるような負荷が発生する代わりに最も最適なコースを瞬時に割り出す。
そのまま2種のドリブル技を重ね、今までとは比較にならない加速をもって彼は全てのコーンの間を抜けていく。体勢を崩す事も、ボールがコーンにかすることすらなく。正しく一瞬、瞬きの間に全てを走破してみせた。
「……っ!?ぐっ………」
しかし、全てのコーンを抜き、ゴール前で減速した瞬間。ズキリと頭痛が彼を蝕み、身体がグラつく。支えようと利き足で踏ん張れば、その足にも僅かながら痛みが発生した。だろうな、とその痛みを受け入れた彼は、近くに置いていたタオルを手に取って汗を拭った。
「スーパースキャンの負荷は良いとして……ダッシュアクセルまで重ねるのはまだ厳しい、か……使う度にこうなってちゃ試合じゃ役に立たない……」
そう呟いて、僅かにため息をつく。新技の為にもと思い始めたコレだが、まだまだ道のりは長そうだ。己の実力不足に嫌気がさす。
現在五条は、皆の練習している第1コートから離れ、別コートで単独練習に励んでいた。ココ最近の悩みを考えないようにするためにか、人一倍自分を追い込みながら、だ。
「分身フェイントを解除……いや、そうすると直線的過ぎるか……スーパースキャンを解除したら制御し切れないから、外すとしたらやはりダッシュアクセル?でもそれでスピードが足りるかどうか______」
ブツブツと呟きながら、今自分のとれる最善手を考える。これから置いていかれないために、やるべきことを明白にして努力を重ねなければならない。
今現在彼がおこなっているのは、必殺技同士の重ね合わせだ。五条の知らない言い方で表すとするのなら、【一人オーバーライド】とでも言うべきだろうか。
【オーバーライド】。アレスの天秤においてその名が出てきた、必殺技と必殺技を重ね合わせる技術。単純に合わせるのではなく、掛け合わせることで累乗式に威力を向上させる………言い方を変えれば、技同士を合わせて一つの技を生み出すことだ。
例えるなら、最も身近にあるものは【ドラゴントルネード】だろう。あれはドラゴンクラッシュにファイアトルネードをチェインしただけの場合よりも格段に威力が高い。そうして親和性のある技を合わせる事で、新たな技にする技術こそがオーバーライドだ。
そして五条は、手探りながらそれに近い考えに辿り着いた。一人で技を同時発動させることで、格段に威力のある必殺技を生み出そうとしているのだ。
「………分かってたけど、身体への負荷が馬鹿にならないな。しかもこれじゃ必殺技じゃなくて、ただ合わせてるだけだし……」
しかし、本来は複数人で分担するのがオーバーライドだ。それを一人で制御しようとすれば、相応に負荷が発生する。そして五条は、その負荷を重くしてまでスーパースキャンを発動している。そうしないと、重ねた技を制御し切れないからだ。
「既存の技ならイメージが浮かぶが、オリジナルとなると途端に描けない………寺門の気持ちが、よく分かるな……ん?」
周りが新しい技を身につける中で、どうしても新しい必殺技のビジョンが見えてこない五条。どうしても彼の原作知識の中にある既存の必殺技のイメージが、オリジナルを阻害するのだ。
思い悩んでいたエースストライカーの気持ちがよく分かると自嘲気味に笑うと、ふと彼の耳にパチパチパチ、という拍手の音が入ってくる。コートの入口に目を向ければ、壁に背を預けるようにして見知った男が立っていた。
「______その数をあの短時間で突破するか。流石だな、勝」
「……見ていたんですか、有人」
「覗く気は無かったが、自然とな。ほらっ」
五条の親友にして原作の重要選手。これから先、主人公である雷門中の中心メンバーの一人として活躍し、世界にもその名を響かせる天才ゲームメイカー。ピッチの絶対指導者とも呼ばれる怪物、鬼道。彼は手に持ったドリンクボトルを五条へと投げ渡すと、片手でキャッチして喉を潤す。
「良い技じゃないか、新技か?」
「……いいえ、ただ既存の技を掛け合わせただけに過ぎません。完成度もお粗末なものですしね」
こちらに歩み寄ってきた鬼道が、たった今の五条のプレーを褒め称える。帝国学園でも類を見ないスピードに加え、分身との連携による撹乱。寸分違わぬ見事な必殺技だと褒めてみせるが、五条は肩を竦めてそう言った。
「なるほど。分身フェイントに疾風ダッシュ………加速のスピードを見るにダッシュアクセルもか。それに制御補助のためにスーパースキャン……その辺りか?」
「……流石ですね。一目で見抜くとは」
「お前のプレーを見間違うことは無いさ。何度見てきたと思っている」
五条の言葉を受けて、鬼道が彼が重ねた技を予測する。見事に当ててみせた親友に瞠目する五条だったが、今度は鬼道が肩を竦めて見せた。
幼い頃からの仲であり、離れてからも連絡を取りあった親友。影山からよく映像を貰ってはその実力を誇らしく思い、同時に追いつこうと必死になった。そんな相手のプレーだ、今更間違うことも無い。それくらいの付き合いをしてきたと、勝手ながらに鬼道は思っている。
「おやおや、光栄ですねぇ………それで?何か連絡事でも?」
「いや、特には無い。ここに来たのは、お前と話がしたかったからさ」
「……話?」
平然と気恥ずかしいことを言うものだと苦笑しながら、五条が問う。目の前の親友はチームを纏めるキャプテンだ。影山から何か連絡事があって自分に伝えに来たのかと思ったが、どうにも違うらしい。
話とは何事だろうかと首を傾げる五条、そんな彼に鬼道は真っ直ぐに見つめながら、表情を変えずに質問を投げた。
「単刀直入に聞く。総帥と何かあったのか?」
「……………何故、そんなことを?」
ズバリと言ってきた親友に、五条は少し目を逸らしながら逆に尋ねた。
「お前はココ最近様子がおかしい。必殺技が上手くいかないからかとも思ったが……お前はそれだけじゃそこまで苦悩はしない。勝が抱え込む時は決まって対人関係だ……それも誰かを巻き込むような時」
五条勝という男はお人好しだ。仲良くなったり近しい相手は勿論のこと、赤の他人であっても手を差し伸べるほど。そして相手の悩み事を隣で聞き、より良い道へと背中を押してくれる……そんな酷く他人思いな男である。
そんな五条が一人で抱え込むのは、自分が関係している上に誰かに迷惑がかかるような場面だ。彼は自分に不利益が被るだけだったり、忌み嫌われる分には許容する。佐久間の時がいい例だ。だが他者が関わり、そちらに不利益が生じるとなれば、五条は事態を重く受け止め、どうにか出来ないかと考え込むのだ。鬼道はそれをよく知っていた。
「だがお前はサッカー部にも一般生徒にも、教職員達からも頼られている。一部からは特待生という立場に嫉妬して心にも無いことを言う輩もいるが、それを気にして抱え込むお前じゃない。となれば、相手は限られる……一番可能性が高いのが、サッカー部監督にして学園長の影山総帥。そう予測したまでだ……その反応を見るに、当たりだな」
だが五条が思い悩むほどの相手となれば、自ずと限られてくる。先程も言ったが彼は人がいい。関わったことの無い人物はともかく、一度でも話をしたり委員会などで一緒になった生徒ならば決して五条が悪意ある人物でないことは理解出来るほどに、だ。ある意味でフレンドリーな五条は、同じ特待生でも鬼道以上に他の生徒との距離が近い。
それ故に生徒からも教員からも信頼を勝ち得ている彼の事だ。ここまで抱え込むような相手は自然と少なくなる……その中で可能性が高いのは、間違いなく影山だ。そう予想を立てた親友の頭脳に驚くと共に、随分と自分を信じてくれているのだな、と五条はそう感じながら息をついた。
「………当たらずとも遠からず、と言った所でしょうか」
「なるほど。話すつもりは?」
「……すみません。これは有人でも、話す気にはなれない」
五条がそう言って首を振る。実際問題、彼は影山からの言葉で悩んではいる。しかしそれ以外のことも含まれているのだ。それこそ、原作キャラである鬼道有人には話せない事も、だ。
「………俺はそんなに頼りにならないか?」
「貴方ほど頼りになる人もいませんよ。信じていますし、頼りにもしています………だが、これは私自身の問題にも等しい。どうか、分かってください」
決して鬼道には言うことは出来ない。これから先にやってくる、自分達を圧倒するほどの神たる世宇子中。そしてそれを遥かに超えるエイリア学園。更にそれを乗り越えた日本代表が苦戦の連続を強いられる世界の選手達。彼らとの戦いが上手くいくのかどうか、そして平和に終わるのかどうかを心配しているだなんて、彼には絶対に言えない。
鬼道有人は、影響が強すぎる。原作において名もないに等しい成神ならばともかく、ほぼ全ての展開で円堂と共にいるゲームメイカーに、こんなことは話せない。確実に乖離がはじまってしまうし、何より友人として、親友として。鬼道にこんなことは言いたくなかった。
「………そうか、分かった。だが勝、一つだけいいか?」
「……?はい、なんでしょう?」
言いたくないのならば言わなくていい。そうため息をついた鬼道から呼ばれた五条が返事をすると、鬼道は少し笑って彼に話し掛けた。
「______何があってお前が悩んでいるかは分からない。だが俺は、どんな状況だろうとお前の味方だ。間違った道に行くのなら引きずり戻し、正しい道で迷っているなら背中を押す。例え打ち明けられなくても、俺はお前の悩みを共有しよう」
「______俺の背中はお前にしか任せられない。だからお前の背中は、俺に預けろ。親友だろう?」
きっとこれからも五条は悩み立ち止まるのだろう。鬼道には計り知れない何かと、彼はきっと戦っているのだ。
だったら勝手に彼の隣に陣取ろう。事情は分からずとも、勝手に彼の隣で話し掛け、その重荷を少しでも軽くしてやるのが自分だろう。
天才ゲームメイカーと呼ばれ、良い仲間にも恵まれた。それでも、最高のチームである帝国学園を率いる鬼道有人にとって、背中を預ける相手は五条しかいないのだ。
「…………そう、か」
小さく五条が呟くと、顔を上げて鬼道を見る。こんどは目を逸らすことなく、真っ直ぐに。
「………ありがとう、有人。いつかきっと……いつかきっと、お前の親友に相応しい『人間』になるよ」
「もうなっているさ。お前は人間で、俺の人生最高の親友だ」
そう言って二人で笑い合う。幼い頃から、あの時から心持ちは少し変わってしまったが。それでも、この絆は……この信頼だけは、変わらずにいると思いたい。
「そろそろ戻らないか?最後に皇帝ペンギン2号の確認だけしてから、明日に備えて早めに切り上げようと思うんだ」
「えぇ、それがいいかと。尾刈斗は手強そうですからねぇ………」
「ふっ…そうでなくてはな。きっと、熱い試合ができる……楽しみだ」
「えぇ、本当に………楽しみですね」
☆☆★
『______影山総帥。例の件、無事終了致しました』
「そうか、ご苦労」
ピッ、と通信を遮断する。帝国学園総帥室にて、影山は空中に浮かぶ立体的なビジョンを操作すると、ひとつの映像が浮かび上がってきた。
「______優れた司令塔は、試合の前に勝っている………1%の不安が全てを狂わせるのならば、それを取り除く。それこそが、勝利を収める秘訣だ」
万事において、事前準備というものは馬鹿にならない程に大切だ。先を見越し、念入りに準備を重ね、用意周到に策を張り巡らせる。そうすることで、不安を極限まで取り除く事が出来る。そうすれば、もう結果は手中に収めたも同然だ。
「私からの通告に従わず、打倒の為に生徒達と共に努力してきた監督…………ふんっ、泣かせるじゃあないか。私の最も忌み嫌う人種だ………」
だから影山は策を巡らせた。鬼道達がどんな思いを抱こうと。五条勝がどんな手を打ってきたとしても。限りなく自分に勝利を近づけるために。
影山の目に映る映像には。前面部が血に染まった大型トラックと、赤いランプで周囲を照らす救急車。慌ただしく作業する救急隊員達。そして______
「君も、運が無かったな………地木流とやら」
______血に濡れ地面に倒れ伏す、一人の成人男性の姿があった。