イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!!   作:ハチミツりんご

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前話の裏で、尾刈斗中視点であったお話


第四十九条 帝国戦に向けて

 

 

 

アイム(わたくし)っ!!ンヴェリ(とっても)ィ!!タイアァァァァァッド(お疲れモードでぇぇぇす)ッ!!!」

 

「鉈うっさいアル」

 

 

ずざーっ、と勢いよく芝生に向けて一人の選手がうつ伏せの状態でスライディング。仮面で顔を隠しドレッドヘアーを後ろでまとめるという奇抜な見た目をした少年の叫びを聞いて、近くにいた顔面に御札を貼っつけた少年が耳を塞ぎながらため息をつく。

 

 

「だーってだって朝からずっと月村パイセンに付き合わされてんだぜぇ!?」

 

「明日帝国との試合だから気合い入ってるんだろうね………鉈もノリノリだったじゃん……」

 

「でもそろぼち俺腕やべぇんですけど!!」

 

 

フットボールフロンティアを勝ち進み、ついに因縁ある帝国学園との準決勝を明日に控えた尾刈斗中イレブン。それ故にいつも以上に熱を入れて特訓に望んでいた。

 

学校側からもその見事な戦績を讃えてか、試合前のこの日は1日特訓に当てていいという大盤振る舞い。既に昼も過ぎ、随分長いこと練習を行った。特にキーパーである鉈は、月村のシュート練に付き合わされてヘトヘトのようだ。

 

 

「ねぇーエー監督ゥー!明日試合だけど何時まで特訓すんのー!?」

 

「はは……心配せずともそろそろ終わりますよ」

 

 

 

明日は試合、万全の体制で臨みたい尾刈斗中イレブン。そんなメンバーの気持ちを代弁するように鉈がベンチに腰かける監督に尋ねると、そんな彼に苦笑を見せながら地木流はそう言った。

 

 

 

「え、もう終わるんですか?さすがに早いような………」

 

「万全の状態で挑まないと、帝国は厳しい相手ですからね。やるべきことはやってきたんです、無理せずしっかり休むのが得策でしょう」

 

 

 

まだ空も明るく、日が落ちるまでには随分と時間がある。そんな早いうちに練習を終えることに首を傾げるキャプテンの幽谷であったが、地木流はそう言って笑う。帝国学園は王者の名に相応しい強敵だが、尾刈斗サッカー部も彼らに勝つために特訓を重ねてきた。ならば前日に厳しい練習をして疲れを残すリスクをとる必要は無い。

 

 

「2年、3年は去年の敗戦を経験して1年間必死にやってきた。それに柳田がDFに入って、一番の課題だった攻撃力の面では君が………幽谷がいる。勝機は十分だ」

 

 

 

月村や不乱の三年生、鉈や武羅渡、三途といった二年生たち。彼らは去年の試合に出場していたり、ベンチに座っていたメンバーだ。目の前であの屈辱的な大敗を経験しているが故に、帝国との試合にかける想いは大きい。

 

 

そして、帝国学園との試合で一番の課題となるもの………あの世代最強DF、五条勝有する帝国守備陣を突破し、その上で強力で隙のない必殺技を操る源田幸次郎をぶち抜かなければならないという事。生半可な攻撃力ではゴール前にすらたどり着かせてもらえない、圧倒的なまでの防御を、どう崩すかということだ。

 

キーパー技の威力という面でこそ全国トップクラスの防御を誇る『千羽山中学校』に譲るものの、それ以外の部分………発動の速さや事前に攻撃を潰すという面においては帝国学園に軍配が上がるほどの守備力。そしてそれは、今の尾刈斗にすこぶる相性が悪かった。

 

 

 

 

「………人形や円谷、黒上がいてくれれば、君に負担をかけすぎることもないんですがね……」

 

「?」

 

「あぁいえ、なんでもありません。______全員集合っ!!」

 

 

 

ボソリと呟かれた地木流の言葉に、幽谷が首を傾げる。聞いたことの無い選手名だ、幽谷の知る限りではそんな選手はチームにはいない。

 

それについて尋ねようとしたが、それより早く地木流は立ち上がってチーム全員を呼び集めた。

 

 

 

「さて……知っての通り、明日いよいよフットボールフロンティアの準決勝が行われる!相手は待ちに待った、王者帝国だ!生半可な状態で勝てる相手ではない!みんな今夜はしっかり体を休めて、試合に備えてくれ!」

 

 

 

地木流の前に並び立つ、11人の選手達。いよいよ巡ってきたリベンジの機会に、ほとんどのメンバーが………特に三年生の2人は思わず視認できそうな程に闘志を滾らせていた。

 

 

 

「と、言うわけで練習はこれまでだ!身体冷やさないようにしっかり汗拭けよ!」

 

「へい監督ゥ!この後みんなで飯食いに行ってもオーケーッ!?」

 

「馬鹿言うんじゃない、下校後の買い食いや飲食店への入店は校則で禁止だ!生活指導の先生は駅前を中心に見回るからバレないようにしなさい!」

 

「さすが監督、話分かるゥーッ!!」

 

 

 

そんな中でもチームのムードメイカーである鉈がそんなことを言い始め、地木流も呆れながらも遠回しに駅前以外なら大丈夫と笑う。そんな監督に話が分かると感動しながら大袈裟に鉈が手を突き上げて見せれば、他の選手達からも笑い声が出始めた。

 

 

 

「とにかく!飯行くにしてもホントばれるなよ!それと、事故には気を付けろ!それじゃ解散!」

 

『ありがとうございましたっ!』

 

 

 

地木流からの号令を受けて一礼し、コートに向かってもう一度礼をする。練習にずっと使ってきたコートだ、礼を欠かしては祟られてしまうかもしれない。

 

 

「うぇーいっ!飯だ飯だ!月村パイセンと不乱パイセンも行くよねぇー!?」

 

「ったりめぇだろ、いくぞ不乱!」

 

「確かに……腹は減った、な………」

 

 

校舎に向けて戻っていく地木流を除き、選手達は大きく伸びをしながら帰り支度を始める。そんな中で飯を食いに行こうと提案した鉈が3年生に尋ね、月村が不乱を引っ張りながらそれに同行すると話したり、他のメンバーも口々に何を食べるのか話し合っていた。

 

 

「柳田と幽谷も行くか?」

 

「優しい先輩達が奢ってやるアルよ〜」

 

「ホントですか!?幽谷君、一緒に行かない?」

 

「あっ、はい!是非一緒に______」

 

 

 

帰り支度を進めていた幽谷と、彼と同じく一年生でレギュラーの柳田。そんな後輩達に向けて木乃伊と霊幻が食事の誘いをする。練習後ということもあってお腹は空いているし、先輩達から奢ってもらえるというのなら断わる理由はサラサラない。柳田からそう尋ねられた幽谷が笑顔を覗かせながら頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『______あの人アブナイよ』

 

 

瞬間、ゾクリと悪寒が走った。

 

 

 

咄嗟に声が教えてくれた相手に感覚を向ける。目は見えない、当然だ。バンダナで自分から隠しているのだから見えるはずもない。

 

 

しかし感じる。その人に黒く纏わるナニカが。正しく影のようなものが薄く、縛るようにチームの監督を蝕んでいるのが肌で分かってしまう。

 

 

 

「っ!監督っ!!」

 

「……?はい?」

 

 

 

やばいと感じて反射的に呼び止めてしまう。

 

しかし幽谷の焦りとは裏腹に、地木流がこちらを振り向くと彼を取り巻いていたその黒い影は、何故か分からぬままに霧散してしまった。

 

 

 

「……消え、た……?」

 

 

 

肌がひりつくような、あの嫌な感覚がない。悪意を持っているナニカが取り憑いたのかとも思ったが、それならば急に霧散するなんて有り得ない。そう首を傾げる彼に向けて、地木流も同様に首を傾げていた。

 

 

 

「幽谷?まだ何かありましたか?」

 

「っ……か、監督も!今日は、早めに帰って、ゆっくり休んでくださいね!」

 

 

訝しげにこちらを見やる監督に、誤魔化すようにそう言った。まだあの影が何を意味しているのか分からない。それに、明日は先輩達にとって、監督にとっても大切な意味を持つ試合だ。言い知れぬ不安はあっても、今の和を崩すような発言は不用意にはしたくない。

 

 

そんな幽谷からの言葉を受けて、地木流が面食らったように目をぱちくりさせると、薄く笑って頷いた。

 

 

 

「大丈夫ですよ、私も仕事を終えたら休みますので」

 

「幽谷の言う通りっすよー!ちゃっちゃと休めよ監督ー!」

 

「無理は、禁物………」

 

「はいはい、ありがとうございます。気をつけて帰るんですよ」

 

 

 

幽谷の言葉に同意するように月村と不乱がそう言うと、地木流は苦笑しながら軽く手を振ってその場から離れていった。

 

 

 

 

「………注意していて貰えますか……?」

 

『見テても、助けラレなィよ?』

 

「それでも、何か変わるかも……」

 

『分カッた』

 

 

その場で、一人でボソリと呟く。声ならざる声、ノイズの交じる怪奇音に耳を澄ませながらそう願う。すると、隣にあった気配は霞のように消えていった。きっと、自分の願いを聞き届けてくれたのだろう。

 

 

 

「……幽谷君!大丈夫?」

 

「……あぁ、うん。俺は大丈夫。いこ、柳田」

 

 

 

心配そうな気配を持って、同い年の友人である柳田が話し掛けてくれる。そんな彼に大丈夫だと告げながら、幽谷は先輩達の待つ方へと歩いていった。胸に引っかかるものが、自分の勘違い、考えすぎであることを願いながら………。

 

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

「地木流先生、お先失礼しますねー」

 

「はい、お疲れさん」

 

 

 

同僚の教師が仕事を終えて、そう告げてから退室していく。もう殆ど職員室に人は残っていないし外も暗くなってきた。それでも地木流は机から離れず、携帯に流れる映像を食い入るように眺めていた。

 

 

「サッカー部のやつですか、地木流先生?」

 

「えぇ、明日は大事な試合なので。出来うる限りのことはやっておきたくて」

 

 

 

残っていた数少ない教師の一人が、ひょっこりと地木流の机にやってくる。地木流の携帯に流れているのは今日の練習風景の録画や、つい先週行われたフットボールフロンティア2回戦、帝国学園の初戦の映像だ。

 

 

「(といっても、北斗星学園相手に前半10分で17得点………バスケットじゃないんだぞ、全く………必殺技を使う素振りすら見せないとは)」

 

 

 

尾刈斗イレブンの調子は万全といっていい。ただでさえ部員が試合人数ギリギリしか残らなかった中で、よくここまで戦ってくれたと思う。一回戦、二回戦の相手が雷門のような隠れた実力などを持っていなくて本当によかった。お陰でここまで、怪我もせず、大きな疲労を残さないまま勝ち抜いてこれた。

 

 

しかし、相手の帝国学園の情報はあまり掴めていない。向こうの監督による情報規制もあるのだろうが、それ以上に帝国学園が圧倒的過ぎる。北斗星学園も東京地区では中堅に位置する、それなりの強さを持った学校だ。それをこうもあっさり、必殺技すら使わずに下して見せるとは予想外だった。

 

 

 

「あの帝国学園との試合ですもんね!私、応援いっちゃいますよ!」

 

「おっ、それは嬉しいですね!なにせ会場が向こうのグラウンドなもので、うちの応援は保護者の方々以外は殆どいないんですよ。鉈がやる気だしそうだ」

 

 

 

地木流の同僚であるこの女性教員が応援に来てくれれば、チームのムードメイカーでありテンションの上がりやすい鉈が騒ぎ立てて明るくなりそうだ。そうなればリラックスして試合に望めると笑う。

 

 

「………ん?」

 

 

そんな時に、女性教員にふと地木流の携帯のメールアプリが目に入った。

 

 

 

「地木流先生、そのメール開けなくていいんですか?だーいぶ溜まってますけど」

 

「……あぁ、これですか。……まぁ、タチの悪い迷惑メールですよ。ほっといて構いやしません」

 

「ふーん………?」

 

 

 

メールボックスに目をやりながら、地木流は小さくため息をついてそう言った。

 

 

ココ最近送られてくるようになった……というか、雷門との練習試合を終えて、一回戦を勝ち上がった時くらいから急に送られてきたメールだ。その内容の殆どが、フットボールフロンティア辞退を求めるもの。共通して差出人は不明、特定しようにも使い捨てのアドレスのようで、辿ることも出来なかった。

 

 

「辞退をしなかったら死ぬことになるだなんて………センスの欠けらも無い。うちの生徒の方がまだマシな呪いの手紙送れますよ」

 

「あっはは………そういえばありましたね、この学校………呪術の授業………サッカー部はみんな得意ですよね、たしか」

 

「ええ、特に幽谷は呪術テスト毎回満点の優秀なキャプテンです。オカルチックで面白いんですよ、みんな」

 

 

 

単純明快に死ぬだとか、大変な目に遭うだとか、捻りが無さすぎてセンスを感じない。こういうのを書くのは幽谷や柳田、2年生なら八墓辺りが得意分野だ。意外に不乱も達筆で品のいい呪いの手紙を書ける。

 

 

「あぁ幽谷君ですか!確か彼、ものすっごい霊感の持ち主だとかなんとか………サッカーも凄い上手なんですよね」

 

「本人いわく、プロサッカー選手の霊にコーチを受けているらしいですよ。私も是非隣で勉強させて欲しいものです」

 

 

 

学校でも噂になるほど強い霊感を持つと言われている、幽谷。彼は常人には見えないものが視えるらしく、普段はバンダナで自分から隠しているらしい。それでも問題なく日常を送れているので、噂は真実だとまことしやかに囁かれている。

 

 

そんな幽谷はサッカーもかなりの腕前だ。攻撃センスもシュート力も、統率力だって一年生でキャプテンに抜擢するほどに高い。彼を指導しているというサッカー選手の霊に是非とも一度会って話を聞いてみたいと笑う地木流だったが、ふと彼の頭に先程の幽谷の様子が浮かんできた。

 

 

 

「……………」

 

「?どうかしましたぁ?」

 

「いいえ、なんでもないですよ」

 

 

 

女性教員から首を傾げられると、地木流は笑って誤魔化す。それでも先程の幽谷の、一瞬見せた深刻そうな表情が気になって仕方がない。

 

 

「………八尺先生、ちょっといいですか?」

 

「?はい、なんですか?」

 

「いえ、少しお願い事がありまして……」

 

 

 

そう言って地木流は隣の女性教員……八尺という名の彼女に頼み事をする。手元にあった紙を持ってコピー機の前に行くと、数枚の紙を印刷してコピーする。

 

そしてコピーしたその紙にさらさらと色つきのペンいくつか書き加えると、それをクリップで止めて八尺へと手渡した。

 

 

 

「明日応援に来る時、一緒にこれも持って来て頂けませんか?」

 

「?これって………あっ、作戦とかですか!?」

 

「えぇ、明日の試合に向けてのフォーメーションや注意点等を纏めたものです」

 

 

 

地木流がコピーしたのは、明日試合会場に持参して選手達と確認する時に使う予定の作戦などを纏めた用紙。サッカー初心者の八尺にも分かるように説明やらなんやらを書き足したものになっている。

 

 

 

「………もし、私に何かあった場合、これを持って監督代理としてベンチに座って頂きたいんです」

 

「………へぇっ!?む、ムリですよ!?私サッカーどころかスポーツすら……!」

 

「あぁいえ!その紙をみんなに見せれば、後は大丈夫ですので!代理でも監督がいないと、自動的に敗退となってしまうので……保険、というか心配症というか………お願い、出来ませんか?」

 

「う、ぅーん………地木流先生には日頃お世話になってますし………分かりました!万が一地木流先生がお腹を壊して家から出られない場合、私こと八尺が代理を務めさせていただきます!」

 

 

 

万が一、万が一地木流に何かあった場合、そのせいで彼らの夏が終わってしまうのは申し訳が無さすぎる。もちろんどんな状況だろうと這ってでも会場で監督を務めるつもりではある。普段ならばこんな心配をすることは無いのだが……幽谷のあの態度が気になってしまった。

 

 

「ははは………すみません、いきなりこんな事頼んで」

 

「いいんですよ!まっかせといてください!」

 

「おぉ、流石は八尺先生。頼もしいですね」

 

 

 

コピー用紙を大切に抱えて大袈裟にそう言ってみせる同僚に笑いながら、地木流は帰り支度を始める。といっても、殆ど整理しているので荷物をカバンにしまうだけなのだが。

 

 

 

「それでは、お先に失礼します」

 

「あっ、はい!お疲れ様でーす!」

 

 

 

八尺にぺこりと頭を下げて職員室から出ていった地木流。辺りはもうすっかり暗くなってしまっている。時計を見れば、もう既に午後九時を回っていた。

 

 

流石に考え込み過ぎたな、なんて思いながら、地木流は帰り道を急ぐ。幽谷から早く帰って休んでくれと言われているし、今日は家の残り物で軽く飯にして風呂に入ったら明日に備えて寝るつもりだった。

 

 

 

「………大丈夫、彼らは強くなった………幽谷が入ってくれた今なら、帝国学園相手でも勝機はある。私も監督の役目を果たさないとな……」

 

 

 

夏の夜。暗くなった道を歩きながら、そんなことを独り想う。この一年間、血のにじむ様な特訓を一番近くで見守ってきたのだ。彼らが報われてもいい頃だ、きっと帝国学園相手だろうと勝負になる。

 

暗くなっているからか、人通りの少ない道を歩く。ちょうど渡ろうとした横断歩道が赤信号になったので立ち止まりながら、地木流は財布を取り出して中身を確認する。

 

 

 

「………んー………足りるか?いや、でも……うん、足りるな!明日試合に勝ったら、アイツらに焼肉でも奢ってやるかぁ!変な事頼んでしまってるし、八尺先生も誘って……いやでも男軍団の中に女性一人は気まずいか?まぁどちらにしろ、アイツらにこれくらいのことは______」

 

 

 

あの王者帝国に勝てた暁には、大盤振る舞いで焼肉に連れていこう。大食らいの不乱や屍、どんちゃん騒ぎが好きな鉈や月村が騒ぎ立てる様子を予想しながら小さく笑う地木流。可愛い生徒達が喜ぶのなら、これくらいの出費は許容範囲内だろうと財布を閉じ、カバンにしまおうとした時。

 

 

 

 

「…………じゃあな」

 

 

 

 

ドンッ、と背中に衝撃が伝わった。

 

 

ぐらつく身体。前に倒れ込むようにする彼の身体を、車輪が擦れる音と大きなクラクション音、極光が包み込み______

 

 

 

 

「______え」

 

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

 

 

 

「……人形?」

 

「はい。監督が口にしてて……人形と、円谷と……あと、黒上?って選手、いましたか?」

 

 

 

モゴモゴと口を動かしながらハンバーグステーキを食べる月村に、幽谷がそんなことを尋ねる。ガヤガヤと煩いファミレスの店内で、幽谷は同い年の柳田や3年の月村や不乱、それに2年の木乃伊や八墓と一緒の席についていた。後ろの席からは、鉈の馬鹿でかい声が響いて武羅渡にチョップされていたりする。

 

 

 

「………懐かしい名前だな」

 

「懐かしい、ですか?」

 

 

木乃伊がそう呟くと、幽谷が首を傾げる。やはり在籍していた選手なのだろうかと思っていると、八墓が寂しそうに笑いながらそれに答える。

 

 

 

「………3人とも、俺や木乃伊と同学年で………サッカー部だったんだ……」

 

「揃いも揃っていいFWでな。お互い競い合ってて……当時の月村さんを超えるくらいキック力もあった」

 

「えっ!?」

 

 

八墓と木乃伊の説明に、柳田が驚く。DFとしてよく月村のシュートを見る機会がある彼からしてみれば、月村はFWでもなんらおかしくないほどのキック力がある。そんな彼を超えるキック力の持ち主が3人もいたことを知らなかった柳田、そして幽谷は思わずぽかんと口を開けた。

 

 

「……月村は元々FWで………人形達が入ってきたから、MFにコンバートしたんだ……」

 

「凄い選手だったんですね、その人たち………今は、いないんですか?」

 

「…………………」

 

 

 

元々はFWとしてチームに入った月村だったが、その3人の力をより生かすためにMFにコンバートする予定だったと言う。そんな選手達が今は姿かたちもないことに首を傾げる幽谷だったが、先輩達は揃って黙ってしまった。

 

聞いちゃいけないことだったかと焦る一年二人だったが、ガリガリと頭を掻きながら月村が口を開く。

 

 

 

「………辞めたんだ、3人とも」

 

「………辞めたん、ですか」

 

「あぁ。去年の練習試合………俺がFWとして最後に出場した………帝国の二軍との試合が終わって、直ぐにな」

 

 

カチャリ、と手に持っていたフォークを置くと、背もたれに体を預けてドリンクバーのジュースで口の中を流した。

 

 

 

「…………3人だけじゃねぇ。俺や不乱と同い年で、中盤纏めててくれた魔界って奴に………鉈とよく練習してた、GKの不死も辞めたよ。帝国学園との実力差に絶望してな」

 

 

 

 

カラカラと、ストローをいじくって氷を鳴らす。月村や不乱と同じ、現3年生の2人。そしてFWの現2年生の3人。それ以外にも、当時の部員の大多数がサッカー部を自主的に退部していった。

 

 

 

「あん時は一軍の選手が一人混ざっててな……そいつに完膚なきまでに叩きのめされた。結果は36-0、シュートは相手が気まぐれで俺に打たせてくれた一本だけ………笑えるだろ。当時、不死を超えるキーパーだって期待されてた鉈が36点取られて、チームで一番の得点王だって言われてた俺のシュート、簡単に止められた………」

 

「………フットボールフロンティアの試合になれば、出てくるのは一軍……その選手と同レベルに動ける選手たち相手に勝てる訳がないって言って………みんな、辞めた。残ったのは………幽谷と柳田以外の、ここの9人だけ」

 

 

 

月村と不乱の言葉を聞いて、幽谷は愕然とする。入学してから実力の高さと纏める力があるからと言われて、キャプテンに就任した。そんな彼から見ても、尾刈斗の先輩達は強かった。並の学校では相手にならない、全国に出場してもきっと活躍出来ると思わさせてくれるほどに、だ。

 

そんな彼らが……彼らの同級生たちが、絶望するほどの相手。それが、明日戦う王者帝国なのだと知ると、微かに恐怖が湧き上がってくる。

 

 

 

「………マジで……ったくよぉ…………」

 

 

 

月村が俯き、コップを手に取って少し飲む。この話題はまずかったかと幽谷が慌てると_______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______あんっのくそバカ野郎共っ!!!なぁぁぁぁぁに俺の許可もなしに辞めてやがんだ!!ほんとに男か!?〇玉ついてやがんのか!?あぁ!?」

 

 

ズダンッ!!と大きな音を立てながらテーブルにグラスを叩き置くと、私怒ってますと言わんばかりに月村が爆発した。

 

 

 

「だいったいアイツら、なーにが『月村先輩が止められるんじゃ無理ですよ』だボゲっ!!お前らのが凄かったってんだよォ!!」

 

「落ち着けアホ」

 

「へぶしっ!?」

 

 

ギャイギャイと騒ぎ立てる月村の喧騒を聞いてなんだなんだと周りの客やお店のスタッフがこちらを覗き見ていた。隣に座る不乱がそのバカの頭をスパコンっと引っぱたいてテーブルに頭を抑えると、木乃伊と八墓が「なんでもないでーす」、と周りに頭を下げていた。

 

 

 

「………すまんな、変なの見せて」

 

「あ、いえ……大丈夫、です……?」

 

 

 

不乱が幽谷たちにそう謝ると、幽谷も困惑気味に首を傾げて返した。普段から煩い月村だが、こんな事をしでかすとは思いもしなかったのだ。そりゃ困惑もする。

 

 

 

「まぁでも、悲しかったのは事実だ。一緒に練習してきた仲間が、完全に心折れてしまってな。もうサッカーのことは思い出したくないって言って、未だに俺らと関わることも避けてるよ」

 

「人形達もだ。クラスが同じになっても、話しかけにもこない」

 

 

信じてきた、特訓してきた自分達の力が塵芥の様に振り払われる。まるで消化試合だと言うようにボコボコにされた帝国学園との試合で、完全に心を折られた。しかもその相手も、二軍だ。一軍ともなればこれを容易に超えてくる……そう考えただけで、昨日まで楽しかったサッカーが、とても恐ろしいものに感じてしまったのだ。

 

 

 

「………あの、えっと………こんな事言うの、失礼だろうけど……」

 

「…?どうかしたか?」

 

 

言いにくそうにする幽谷に、不乱が首を傾げて尋ねる。意を決したように幽谷は、不乱や月村、木乃伊、八墓達に問うた。

 

 

 

「………先輩達は、なんで辞めなかったんですか………?」

 

 

 

他の選手が心折れるほどの試合を、ここのメンバーは全員経験している。それどころか月村や不乱、鉈といったメンバーは実際に試合に出ていたのだ。それなのにほかのひとたちとは違い心折れずに、毎日遅くまでサッカーをしている。普通ならば、彼らだって折れていてもおかしくはない。

 

もちろん、不乱達とサッカー出来ることは幽谷にとって喜ばしい。こんなに頼れるチームで、自分を受けいれてくれた先輩達に出逢えたことは宝だ。でもなんとなく、それが気になってしまった。

 

 

幽谷からの質問を受けた月村と不乱が互いに目を合わせる。そして小さく笑うと、代表して月村が口を開いた。

 

 

 

「んなもん決まってんだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______ここにいる連中、揃いも揃ってサッカーバカなんだよ。王者にボコられた程度じゃへこたれねぇ、筋金入りのな!」

 

 

 

にっ、と月村が笑ってみせる。それに合わせて不乱や木乃伊、八墓も同様に笑みを見せた。

 

 

 

「つーか、馬鹿じゃないと毎日遅くまでサッカー出来なくナーイ?そういう意味ではユーたちも同様だゼ、幽谷あーんどヤナギータァ!!」

 

「うわっ!?鉈先輩後ろから話しかけないでくださいよ!」

 

「ソーリーソーリー、アイムソーリィー!」

 

 

 

いつの間にか後ろの席に陣取っていた鉈や武羅渡、三途、屍、霊幻もこちらに身を乗り出して来てきた。全員が全員、笑みをたたえながら幽谷たちのことを眺めている。

 

 

 

「リベンジもしないで辞めるってのもなんかアレですしねぇ」

 

「つーかサッカー辞めてやること思い付かないアル」

 

「ぐふ、ぐふ………悔しいならば、倍返し……ぐふふっ」

 

「お前が言うと危なっかしい意味に聞こえるぞ藤美………まぁ、そんな訳。二年生も揃って馬鹿ばっかりって事だよ」

 

 

 

ワイワイガヤガヤと話し始める2年生組。負けっぱなしは嫌だと武羅渡が言えば、そもそもやることがないと霊幻がボヤく。借りは倍にして返すと屍が不気味に笑うと、三途がそれに突っ込みながら肩を竦めた。

 

 

 

「それに……俺らが帝国に勝てば、みんな戻ってくるかもしれないしね……」

 

「そうだな……帝国に勝ったら雷門との決勝だ。人形達が戻ってきてくれると、嬉しいんだがな」

 

 

かつての同級生や先輩達の実力はよく知っている。トラウマになっている帝国学園を、同じチームだった自分たちが打ち崩せれば、きっと戻ってくるきっかけになるだろうと八墓が笑う。木乃伊も、この先にある雷門との試合を考えれば彼らに戻ってきて欲しいのは同意だった。

 

 

 

「と、ゆーわけだ!!リベンジする為にも、アイツら引きずり戻す為にも!それに、監督を全国に連れてくためにも!!期待してんぜ、幽谷キャプテン!」

 

 

月村がガシガシと幽谷の頭を撫でる。うわわ、と幽谷が困惑するものの、そんな月村に同調して先輩達全員が後輩キャプテンの頭をグリグリと撫で回し始めた。

 

 

「ちょちょっ!?やめ、やめてくださいよ!?」

 

「はっは!!悪い悪い!」

 

 

月村が手を離せば、ようやく解放された幽谷がボサボサになった髪を触りながらため息をつく。乱雑な先輩達だが、試合ではすこぶる頼りになる人達だ。それは幽谷がよく知っていた。

 

 

 

「………んまっ!明日は俺がぜーんぶ止めっからさ!幽谷、ユーどんどんシュート決めチャイナー?」

 

「鉈、それもう英語違うアル。ルー語アル」

 

 

 

鉈の英語被れとも言えない変な口調を霊幻が指摘すると、鉈が「ノォォォォ!!」と頬を抑えてみなを笑わせにかかる。こんなんでもチームのことを思って行動する正キーパーだ。あの練習試合でもっとも屈辱を味わったと言っても過言ではない男は、チームを盛り上げるべく今日も動いていた。

 

 

 

「とにかく!幽谷、明日がんばろうな!」

 

「……はいっ!」

 

「よーしよく言った!追加でパフェも頼んでいいぞ!奢りだ!………不乱の」

 

「おい月村」

 

 

 

寸劇のようなやり取りをおこなう先輩達を眺めながら、幽谷は笑う。入学する前までは、こんなに先輩達と仲良くなれるとは思っていなかった。それがこれだ、何とも人生とは不思議なものである。

 

 

先輩達が強いと認める、王者帝国学園。その強さは聞いたことはあれど、実際に体験したことは無い。それでも、あの雷門と同じかそれ以上に強いらしいのだから気は抜けない。

 

 

……しかし、それ以上に。

 

 

 

「…………試合、楽しみだなぁ」

 

 

 

 

幽谷の中には、このチームメイト達と全力で、王者に下克上を挑むという試合そのものが、楽しみで仕方ないという気持ちが渦巻いていた。

 

 

フットボールフロンティア東京地区予選準決勝、第2試合。王者帝国と相見えるまで………彼らに恨みをぶつけるまで、後少し。

 

 

 

 

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