イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!!   作:ハチミツりんご

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あけましておめでとうございます。色々忙しすぎて投稿遅れて申し訳ない。今年も不定期ですがポツポツ投稿していきますので、お付き合い頂けると嬉しいです。


第五十三条!! 決着、VS尾刈斗

 

「______シャアっ!!同点だァ!!」

 

「幽谷ゥ!!お前やれば出来る子思ってたアルヨ!!」

 

「幽谷の親か何かですか貴方は……ともかく、ナイスシュート!流石ですね幽谷!」

 

 

 

 後半開始早々、試合を振り出しに戻して見せた一年生キャプテン、幽谷。相手のディフェンスを見事に抑え込み、単独であのキング・オブ・ゴールキーパー源田を打ち破った、値千金の同点弾。

 

 まさしくチームを救う一撃。そんなシュートを放って見せた後輩の元に、攻撃陣の先輩達が寄り集まってわしゃわしゃと頭を撫で回す。

 

 

 

「うわわっ!?ちょっ、やめて下さいって!?」

 

「わっはは、照れんな照れんな!!」

 

 

 

 もみくちゃにされながら幽谷が文句を告げるが止まる訳もなく、むしろ月村の一言と共に背中をバシバシと叩かれる。

 

 ぐえ、と小さな悲鳴をあげながら幽谷はゴール前に視線を向ける。

 先程の幽谷の見事なカウンター、その起点となった3年生DFの不乱。ゴール前でもろにシュートを食らった腹を擦りながら疲れたような表情を浮かべていたが、幽谷が目を向けていることを知ると小さく笑って手を挙げた。

 

 

 

「よっしゃぁ!幽谷のお陰で同点だ!残り時間死ぬ気で行くぞ!!」

 

「後はぜぇーーんぶ止めちゃうから、ン任せといてぇぇぇぇーー!!」

 

「鉈声小さいアル!もっと張り上げるネ!」

 

ン任せといてぇぇぇぇーーーー!!!!

 

「あ、やっぱうっさいから黙るヨロシ」

 

 

 

 月村の号令にメンバー全員がやる気を滾らせ、肯定の返事を返す。特に鉈は不乱の勇姿を目の前で見たからか、いっそうやる気を滾らせてそう叫んでいた。

 

 

 

『______良ィシュートだっタネ』

 

 

 霊幻からのぞんざいな扱いに鉈が抗議の声をあげる中、幽谷の耳元で囁く声。いつも自分を導き、サッカーを教えてくれたあの声。

 

 そちらに視線を向ければ、薄らぼんやりとした何か………幽谷にしか視認出来ないその人が、確かにそこに居た。

 

 

 

「……ありがとう。お陰で、あの技を使えるようになったよ」

 

『わタシから見タら、まだマダだけドね?』

 

「ははっ……相変わらず手厳しいなぁ」

 

 

 小さく肩を竦めてみせるその人に苦笑しつつ、それでも感謝の念を伝える。ここまで至れたのも、あの技を完成まで持ってこれたのも、どれもこれもこの人のおかげなのだ。

 

 

『そレにしてモ、外シテ良かッタの?』

 

「はい?」

 

『ソれ』

 

 

 指をさされた気がして、首を傾げていたが、首元を触って「あぁ」、と納得の声をあげる。普段は目元を覆い隠している、単眼の模様が入ったバンダナ。今はそれを外し、両眼を露わにしていることについてだろう。

 

 

『嫌イなんジャなかったッケ』

 

「嫌いですよ。こんな目をしてるせいで中学に入るまでついぞ友達は出来なかったし、バンダナ無しだと()()()()()気持ち悪くなりますし」

 

 

 久しぶりに外気に触れる両眼だが、好きか嫌いかと問われれば嫌いだ。縦に2色、赤と紫が1つの瞳に混在する目。おおよそ一般的ではないその目は気味悪がられたし、見え過ぎて脳に負荷が凄いのだ。もし霊感がなければ隠して日常を送ることも出来ず、頭痛でマトモにプレーも出来なかっただろう。

 

 

「でもまぁ………みんなは入部の時に受け入れてくれましたし」

 

『ソッか』

 

 

 両眼をバンダナで隠す。普通ならば生活すらままならない風貌で難なく日常を過ごす自分は、少なからず気味悪がられた。恐れられたのか目に見えて迫害されることこそ無かったものの、友人と呼べる相手はいなかった。

 

 そんな自分を受け入れて、キャプテンまで任せてくれた監督。唯一の同級生で、真っ先に友だと呼んでくれた友人。むしろ個性的で良いと笑い飛ばしてくれた先輩達。

 

 

 あぁ、つくづく思う。自分という人間は、なんて恵まれているのだろうと。

 

 友に恵まれ、仲間に恵まれ、指導者に恵まれ、才能に恵まれ。これ以上望んだならば、バチが当たってしまいそうだ。

 

 

 

「______でも」

 

 

 

 あぁ、足りない。足りない。どうしようも無く足りない。

 

 

 仲間に恵まれたから結果は要らない?そんな訳あるか、最高の仲間がいるから結果が欲しいんだ。

 

 

 雷門にリベンジするだけじゃ足りない。王者を引きずり下ろすだけじゃ足りない。全国に出るだけじゃ足りない。その頂点を掴み取るまで、渇いた喉は潤わない。

 

 バチが当たるかもしれない?上等だ、元々こちとら死者が見える冒涜的な人間だ。当てられるものなら当ててみろ。

 

 

 バチ当たり上等。不謹慎上等。夢だけ見てる馬鹿者だと笑うのならそこで勝手に笑えば良い。

 

 

 

 

「おい、幽谷っ!」

 

「!」

 

 

 ニヤリと笑った月村さんが、背中をバンッ、と荒々しく叩く。

 

 

「次も頼むぜ!うちのエースでキャプテンはお前なんだからな!」

 

 

 ……あぁそう、そうだ。俺はエースだ。キャプテンだ。

 

 だから決める。だから勝ちに導くんだ。だって、そうしたら______

 

 

 

 

「………勿論、ハットトリック決めてやりますよ!」

 

 

 

 

 ______みんなに貰った恩を、少しでも返せるような気がするから。

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

 

「______アァァアァァァァァァァアッ!!!!」

 

 

 ガァんっ!とゴールポストを叩く荒々しい音色。

 サッカーという競技を愛し、ゴールキーパーというポジションに人一倍思い入れのある男、源田幸次郎は備品にも敬意を払う人物だ。ボールやシューズ、グローブはもちろん、それはゴールマウスにも向けられる。

 

 その彼が、それすら忘れて感情を剥き出しにして吼える。それだけ胸中を悔しさが満たしているのだろう。飢えた獣のようなそれは、何処か泣きじゃくる子供のようでもあった。

 

 

 

「……落ち着け源田」

 

「鬼道………スマン………」

 

「アレはお前だけの責任じゃない。向こうが俺達より一枚上手だった………突き詰めれば見抜けなかった司令塔である俺の責任だ」

 

 

 ゴール前まで歩み寄り、源田の肩を叩きながら労わる様な声を掛ける。言外にお前は悪くない、最大限の仕事をしたと励ましの言葉を、キャプテンである鬼道は投げ掛けた。

 

 

「………あぁ………ありがとう………」

 

 

 

 だがそれは、同時に源田の心に影を差す。

 

 止められなかったことがキーパーの責任ではない。それ即ち、『お前じゃ止められない』という事実を、誰よりも頼りになるキャプテンから突きつけられるという事に他ならないのだから。

 

 

 勿論、鬼道にそんなつもりは無い。最大限を発揮した源田を突破して見せたあの尾刈斗のFW。彼に対しての最大限のリスペクト、それを抱いただけの話。決して源田を軽んじる訳でも、下に見ている訳でもない。ただ単純に、彼のゴールキーパーとしてのプライドの問題であった。

 

 

 

「………さて。勝、一体ゴール前で何が起こった?強力なシュートではあったが、お前達がブロックに入れない程だったのか?」

 

 

 立ち上がり、大丈夫だと言う源田の姿に少し心配しながらも、司令塔として、キャプテンとして、ディフェンスリーダーである親友に声を掛ける。

 

 

「…………いえ、確かに強力なシュートではありました。初見で驚いたのもありますが、決してシュートブロックが間に合わない程のスピードを持っていた訳ではありません」

 

「と、なると………なるほど、動きが不自然だとは思ったが、阻害されたのか?」

 

「流石、察しがいい。………不自然に身体が硬直し、動けませんでした。ブロックに行くどころか、そこから動くことすらままならない程に」

 

「!お前が動けないレベルだと……?」

 

 

 

 王者帝国学園、そのディフェンスリーダーである彼………五条の実力は、他の誰よりも鬼道が良く知っている。間違いなく守備能力はトップクラスであり、出来る仕事は確実にこなしてくれるという信頼もある。

 

 そんな彼が動けない。それ即ち、全国区で見ても幽谷のシュート技、【ゲイズ=ウジャド】を止められるチームは数える程もいないということを指し示していた。

 

 

「俺も動けなかったっすねー。シュートブロックどころかカウンターのために走るのも無理でした」

 

「俺と大野もだ……くそっ」

 

「悪ぃ、鬼道………」

 

「気にするな。お前たち全員をこうも手玉に取るともなれば、それだけ研究してきた尾刈斗を褒めるべきだろう」

 

 

 

 DFとして、守りを担う者として何も出来なかったことを万丈が悔しげに顔を歪め、大野が申し訳なさそうに後ろ手で頭を搔く。

 唯一成神のみ口調が軽いが、ユニフォームで汗を拭う彼の顔つきは真剣そのもの。決して楽観視はしていなかった。

 

 それもそのはず。王者たる帝国学園の守りは、並大抵では済まされない。連携の練度は間違いなく日本トップだ。それはチーム全員が自覚し、誇りとしていること。

 

 驚くべきはその動きを全て止めて見せ、かつキング・オブ・ゴールキーパーの異名を持つ源田の進化したフルパワーシールドを打ち破る威力。それを両立させる、幽谷の技量の高さだ。

 

 

 

「………勝、佐久間。お前達は一度尾刈斗と試合をしているだろう。一年前、今とは比べ物にならない程度の力しか無かっただろうが………今の技に心当たりは?」

 

「俺は無いな……あの幽谷という選手は一年だ、去年はいなかった。それに、大勢のDFの動きを同時に止める必殺技なんて使ってこなかったぞ?」

 

 

 どうにかして突破口を探ろうと、スターティングで出場しているメンバーの中で一年前の練習試合に出場していた2人に鬼道が声を掛ける。ベンチの大楠や兵藤、渋木も同様に出場していたが、今フィールド上にいる中で戦った経験があるのはこの2人だけだ。

 

 そんな鬼道からの問いかけに、佐久間は首を振って答える。彼から見たら今の尾刈斗は昔とは比べ物にならない高い実力を持っており、参考に出来そうな情報は無いとの事。

 

 しかし彼はFW、敵の守備ならばいざ知らず、攻撃面まで完全には把握し切れていないだろう。となれば一番の情報源は、DFとして出場していた五条だ。

 

 

「勝、お前は?」

 

「…………【ゴーストロック】、かと」

 

「ゴーストロック?」

 

「えぇ、練習試合で尾刈斗が切り札として隠していた必殺タクティクスです。視覚と聴覚、両面から相手を惑わせることで催眠をかけ、身体の動きを止める………今回の特徴と一致します」

 

 

 当然、と言ってはなんだが、原作知識というある種の反則的要素を持っている五条には見当がついていた。

 

 【ゴーストロック】。原作において尾刈斗が雷門戦で使用した、必殺タクティクスだ。

 タネさえ割れてしまえば大声をあげるだけでかき消す事が出来る代わりに、初見での攻略は難しい上にほぼ確実に失点に繋がる恐ろしい技。フィールドの選手だけでなく、監督も含めて初めて成り立つ戦法だった。

 

 

「………あぁ!事前にお前が対処法教えてくれたアレか!」

 

「対処法だと?」

 

「帝国に練習試合申し込んでいる時点で奥の手があるのでは、と予測していましたからね。向こうが怪しい動きをしたら目か耳を塞いでみて欲しいって言っただけですよ。両方から惑わされなければ、ゴーストロックは意味を成しません」

 

 

 練習試合の時には五条という例外がいたせいで、事前対処されて殆ど効果を発揮出来なかったゴーストロック。佐久間も思い出したらしく、成程と納得の声を上げていた。

 

 ならば今回も同じ対処をすれば、と思った鬼道だったが、頭を振ってその思考を追い払う。

 

 

 

「………もしゴーストロックそのままならば、お前が引っかかる訳が無い。別物という事だな?」

 

「………えぇ。いくら何でも違う点が多い。同一のものだとは思えません」

 

 

 ゴーストロックという技を使うためには、少なからず制限がある。

 

 

 1つ、監督の声による催眠が必要であるということ。

 

 2つ、複数人のプレイヤーが絶えず入れ代わり立ち代わりを繰り返すことによって視覚的に惑わせる事。

 

 

 この2つをクリアして始めてゴーストロックは成り立ち、相手全員の動きを止めることが出来るのだ。

 

 

 

 ………しかし、今回の幽谷が放った必殺技は、とてもではないがゴーストロックとは呼べなかった。

 

 まず監督が不在であり、聴覚による催眠を行えない事。これはフィールドプレイヤーの誰かが担当すればいいかもしれないが、あいにく試合中にそんな声は響いてこなかった。

 

 更に幽谷は単独で必殺技を放っており、他の選手も特殊な動きをしてはいなかったという事。この時点で、ゴーストロックが成り立つ筈もなかった。

 

 

 

「その上、ゴーストロックは全員の動きを止めるタクティクスだ。ブロックに入れなかったであろう中盤以降のメンバーはともかくとして、ゴール前で最大の障壁になるだろう源田の動きを止めない理由が無い」

 

「あぁ、そうだろうな………仮に人数制限があったとした場合、俺が使い手なら真っ先にお前と源田の動きを止める。DF全員を妨害しておいて、源田をフリーにするのは不自然だ」

 

 

 DF全員を止めることが出来たとして、何故GKの源田だけが動くことが出来たのか。もし効果範囲があるとするのなら、ただ距離を詰めればいいだけだ。動きを止められる以上、多少なりとも距離を詰めたところで関係ない。源田を妨害出来るメリットの方が遥かに大きいはずなのだ。

 

 

 

「(視覚でも聴覚でも違和感は無かった。発動出来ないはずだ、なのに動きを止められた。例えゴーストロックじゃなかったとしても、4人を同時に止める技の割に違和感を感じ取ることができなかった………!)」

 

 

 一人考え込み、脳内に思考を巡らせる。違和感が無い。何か大規模なことをやってくるような素振りは全く見せなかった。なのにこれだけの事を可能にしている。それが五条には大きく引っかかっていた。

 

 

 

「(考えろ、何処で見落とした?何処で相手はこちらに仕掛けてきた?何処で俺達は()()()()()()()()()()()()()()?)」

 

 

 ぐるぐるぐるぐる、巡り巡る思考は答えには辿り着かず。ここで終わるわけにはいかないという微かな焦りが、余計に答えを見つけ出せと思考回路を急かして止まない。

 

 それでも違和感に辿り着くことは無く、せめて幽谷にボールが渡るのを防ぐ術だけでも………そう思った矢先だった。

 

 

 

「ねぇ五条先輩、ちょっといいっすか?」

 

「………成神?」

 

 

 

 考え込んでいた彼に声を掛けてきたのは、同じサイドバックにして一年生特待生。同時に五条から原作の存在を教えられた唯一の人間。帝国学園背番号4番、成神だった。

 

 

「どうかしましたか。何か気がついたことでも?」

 

「いや全く。これっぽっちも無いっすね」

 

「やはり君もですか………」

 

 

 肩を竦めてそう言う成神に、五条はやはりかとため息をつきそうになって、それを堪える。

 

 そもそも自分も思いついていないのだ。原作の知識を教えただけで原作自体を知る訳では無い成神が思いつかないからと言ってため息をつくなぞ失礼にも程がある。第一自分が思いつかなければならないのだ、彼はあくまで興味本位で補佐してくれているだけに過ぎない。

 

 

 そんなことを思っている五条だったが、成神は軽く伸びをしながら「ただ」、と真剣な目付きで言葉を続ける。

 

 

「逆に、違和感無いのが違和感って感じっすね」

 

「………それは私も思っていました。ゴーストロック級の効果を見せているにもかかわらずその発端が全く無い。私が見落としていただけかとも思いましたが………君も、となると話は変わる」

 

 

 

 違和感が無いのが違和感。とどのつまり、自然過ぎるのだ。

 

 大規模な技を使おうとすると、少なからず隙が生まれたり、違和感を感じるものだ。

 例えるならデスゾーン。アレは空中に送る前に、3人の選手が飛び上がって待機しなければならない。全く隙を見せず、地上から最高威力のデスゾーンを放つなんて不可能なのだ。

 

 これがキラースライドのような単純な技ならいざ知らず、強力なわざを使う時には必ずと言っていいほどに技の『起こり』というものが存在するはず。そこを見極めれば、強力な必殺技でも対処する猶予が生まれるのだ。

 

 

 それが存在しない、なのに強力な効果を見せている。これは相反する事象のはずなのに、今目の前に起こっている。それが五条にも成神にも違和感としてのしかかっていたのだ。

 

 

 

「私も君も、有人も見落とすなんて普通なら有り得ない………この3人に限らず、帝国全員が見抜けないような事なんて今まで無かった。一体どうやってゴーストロックを………」

 

「それなんすけど………ホントにゴーストロックなんすかね?」

 

「………というと?」

 

 

 帝国学園レギュラーメンバーは、司令塔の鬼道がずば抜けているものの他のメンバーも一級品の観察眼の持ち主だ。それを全て騙し切るなんて事は有り得なかった。

 解決の糸口を探る五条だったが、後ろ手を組んで不意にそんなことを述べる成神に向けて首を傾げてそう問い掛ける。

 

 

 

「五条先輩から聞いただけだからアレっすけど、ゴーストロックと今回のって結果が似てるだけで中身別モンじゃないんですか?しょーじきな話、俺は先輩から教えてもらっただけで『ゴーストロックを使われた』って印象は無いんすよねぇ………。それよりも、DFの動きを妨害する必殺技を向こうが作り上げたって方がしっくりきません?」

 

「それは確かに考えました。ですが、規模が大き過ぎるんですよ。複数人のDFの動きを完全に止めるなんて、一人の必殺技とは考えにく______いや、待てよ」

 

 

 

 あくまでゴーストロックを知っているのは五条本人だけであり、成神自身は彼から又聞きした知識を保有しているに過ぎない。二軍試合に出場していた佐久間も、五条が早々にゴーストロックを打破してしまっているので名前程度しか知らないだろう。

 故に、成神が五条よりも『ゴーストロックを仕掛けられた』という感覚が薄いのも当然の事だった。

 

 

 その為成神は、こちらが気付かぬ間にゴーストロックを使われたのではないんじゃないかと五条に進言。尾刈斗が新たに作り上げた対帝国用の必殺技を使ってきた、と考えた方が自然だという見解を述べた。

 

 

 

「ゴーストロック……動きを止めれば擬似的に再現出来る……あのシュートと同時に発動しているのなら規模は大きくない、それでも4人を止められる?………いや待て、そうだ、尾刈斗には______!」

 

 

 成神の述べた意見も考えはしたが、4人同時に動きを止めることが出来るなんて規模だ。間違いなく一人技では無い………そう考えていた五条は、突然ブツブツと言の葉を紡ぎながら考え込み始める。

 

 

 

「成神。動きが止まった時、上半身は動かせましたか?」

 

「上半身?そうっすね、動かせましたよ。下半身、というか足元絡められて押さえられてる感じでしたし」

 

「大野、万丈!貴方たちは?」

 

「ん?あ、あぁ俺もそうだぜ」

 

「同じく。足を押さえつけられたから、サイクロンを発動すら出来なかった」

 

 

 不意に動きを止められた時の様子を聞いてくる五条に、成神が訝しげにしながらも答える。

 同様に近くにいたDF2人、同級生の大野と万丈にも訊ねると、凡そ成神と同じ答えが返ってくる。

 

 

「あぁ、そうか、そういうことか……有人。少しいいですか」

 

「………なにか分かったようだな」

 

 

 なるほど、と頻りに頷く五条。そして考えを纏めたのか、五条は顔を上げて、佐久間達とパスコースを切る為のフォーメーションや動きについて確認していた司令塔、鬼道へと声を掛ける。

 

 自分から声を掛けてくるということは、大なり小なり対策が思いついたということ。そう思った鬼道の期待を裏切ることなく、五条は「えぇ」、と短く頷いてみせた。

 

 

 

「まだ確信はありませんが、予想がつきました。試合再開後、幽谷がボールを持った時は任せて頂けませんか?」

 

「ふっ………守備はお前に任せている、元よりそのつもりだ。フォローと速攻の準備は整えておく。存分にやれ」

 

 

 元より五条は帝国学園の守備陣まとめ役、ディフェンスリーダーだ。基本的に帝国はエースである鬼道が全体の指揮を担っているチームだが、速攻を掛けられた際など緊急時に限り、五条には独断で指揮をする権限を渡している。

 

 そんな親友の提案を、彼が信じないはずもない。軽く拳を突き出すと、五条は「ありがとう」と呟いてからコツンっ、と己の拳をぶつける。

 

 

 

「よし。聞いての通りだ、尾刈斗の攻撃の対処は勝に一任する。咲山、洞面は普段より2歩半前にポジショニングを取れ!寺門と佐久間は『()()()』を何時でも打てるように準備しろ!」

 

「!使うのか?」

 

「あぁ、雷門戦まで取っておくつもりだったが………それは俺達の驕りだったようだ。ヤツらは全身全霊をもって叩き潰す、それが礼儀だ」

 

 

 

 すぐさま鬼道が守備陣であるDFと辺見以外の面々に指示を飛ばす。

 

 サイドを担当する咲山と洞面を普段より前にだし、五条がボールを奪ったら即座に敵陣に切り込める様な場所に配置。FWである寺門と佐久間の2人には、対雷門用に隠しておくつもりだった奥の手を切る為に準備させておく。それだけの価値があると、天才ゲームメイカーが彼らを本当の意味で認めたことにも等しい言葉だった。

 

 

 

 

「後半はまだ始まったばかりだ!王者帝国の力、見せつけるぞっ!!」

 

『ハッ!!』

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

『さぁ、後半開始早々に同点に追いついた尾刈斗!勢いそのままに古豪が王者を喰らい尽くすのか、それとも帝国が磐石さを見せつけ41年連続の決勝進出を決めるのか!今、試合再開ですっ!!』

 

 

 角馬の声が響き渡るスタジアムの中、帝国ボールで試合は再開。佐久間からおろされたボールを受け、鬼道が即座にドリブルで攻め上がっていく。

 

 

「ドッペルゲン______」

 

「甘いっ!【イリュージョンボール改】ッ!」

 

 

 当然唯一の尾刈斗FWの幽谷も黙っておらず、鬼道の進行を妨害するために必殺技を放とうと右手に黒いモヤを集中させる。

 が、それを放つよりも早く鬼道がボールを足に挟み込み縦に一回転。地面に降り立つと同時にボールにスピンをかけ、分裂。複数になったボールが彼の周りを惑わせるように飛び交い、判断を鈍らせた間に横を突破した。

 

 

 

「止めろっ!ゴール前に行かせるな!」

 

「八墓!木乃伊!パスコースは切らなくて大丈夫ですのでとにかく前にいかせないように!」

 

「分かっている!」

「うん………!」

 

「………なるほど、簡単にパスを通させるリスクを取ってでも俺を攻撃参加させないつもりか」

 

 

 

 しかし幽谷単体で止められないことなんて織り込み済み。すぐに月村と武羅渡、サイドにいた八墓と木乃伊の4人が連携して鬼道の前に立ち塞がる。

 ワンパスで簡単に前に運ばれてでも、互いがドリブルで突破されてもすぐさまフォロー出来る位置に構える。とにかく鬼道を前に行かせない、時間を稼ぐことに注力したポジショニングで彼を迎え撃つつもりだ。

 

 

 

「ちっ!鬼道、コッチだ!!」

 

「!咲山っ!」

 

 

 五条が前に出てこない今、攻めの要は司令塔の鬼道有人、彼一人のみだ。今の尾刈斗の守備能力ならば、鬼道さえ止めれば彼抜きの攻撃陣を抑え込める自信があった。

 

 暗に驚異では無いと示された怒りから舌打ちしながら、前に出ていた咲山がパスを受け取りに下がってくる。

 どちらにしろこのままでは攻めるに攻められない。鬼道は一度フェイントをかけて近くにいた月村と武羅渡を振り切ると、八墓と木乃伊が詰める前に素早くパスを送った。

 

 

「ぐふっ、ぐふふふっ!!」

 

「どけっ!!【ジャッジスルー改】ッ!!」

 

 

 鬼道一人に四人もの人員を割いている、それ即ち他の攻撃陣へのプレッシャーは軽いということだ。FW組と逆サイドの洞面の三人がデスゾーンには最も慣れており、威力も発動速度も高い。彼らに最適なタイミングでボールを送れる様、咲山は自分自身で尾刈斗陣営を切り裂いていく。

 

 しかし尾刈斗もそう簡単に進ませるわけもなく。DFのうちの一人、大柄な体格で気味の悪い笑い声をこぼす屍がその巨体を揺らしながら咲山へと一気に詰め寄るものの、やすやすと奪われるほど咲山は弱くない。

 すぐさまボール越しに屍を蹴りを入れ、吹き飛ばす。体躯からは分かりづらいが、咲山の力は大野や万丈に次ぐほどのパワーファイター。ラフプレー慣れした技術も相まって、屍は大きく吹き飛ばされる。

 

 

 

「ぐ、ぐふふふふっ……効かない、痛くない………負けないっ!!」

 

「っ、はぁ?完璧に入っただろ今の………!?」

 

 

 改まで進化した咲山のジャッジスルーは相当な威力を誇る。帝国内でも指折り、これに限れば鬼道や五条にも劣らない程の練度と完成度だ。だからこそ、吹き飛びながらも即座に体勢を整えて距離を詰めてくる屍に面を食らってしまう。その一瞬が命取りだった。

 

 

 

「ぐ、ふふっ………お返し。【アンデッドリベンジ】っ!!」

 

「うおおおっ!?」

 

 

 

 ボールを受けた腹部から赤黒いエネルギーがうねるように巻き起こる。縄のような、生き物のようなソレがうねりながら一つにまとまっていくと、赤黒のサッカーボールのような形に変化。屍が右腕を振るうと、その赤黒のエネルギー塊は咲山の腹部………屍がジャッジスルーを受けたのと同じ場所に激突、彼を吹き飛ばした。

 

 

 

「咲山さんっ!!」

 

「あれは……咲山のジャッジスルーのダメージをエネルギーに変えて返したのか!?ここまで隠していたのは………カウンターの為か!?」

 

 

 洞面が心配する声を上げる中で、鬼道が歯噛みする。屍は雷門との練習試合の時でも、この試合でも目立った動きをしていなかった。しかしそれがブラフだと、この逆転の瞬間のチャンスを生むために隠し通していた必殺技があったのだと気がつけなかった。

 

 たったワンチャンスの為に一人の選手の技を隠す。鬼道を責めると言うより、王者帝国相手にこの瞬間まで彼を温存する博打を成功させた尾刈斗を褒めるべき作戦だった。

 

 

「幽谷っ!!」

 

 

 そして屍はすぐさま幽谷に向けてロングパス。鬼道もボールカットに動こうとするが、月村達がそれを許さなかった。妨害を受けないそのパスは、真っ直ぐ幽谷の足元に収まる。

 

 

「決めてこい幽谷っ!!」

 

「任せて、月村さん!!」

 

 

 先輩からの檄を受け、幽谷は前を向く。眼前に映るゴールネットを揺らす為、このボールを叩き込む為に、全速力で駆け出した。

 

 

 

「おら、行かせっか!!」

 

 

 鬼道は抑えられており、攻撃陣が戻ってくるには時間が足りない。流石にこのまま行かせては帝国MFとしてのプライドが許さないと、辺見が幽谷に迫る。

 

 幽谷も振り切ろうと身体を揺らしてフェイントをかけるが、引っかかる辺見では無い。ボールの位置、足の向き、体の向きや視線などの情報から即座に虚偽を見抜き、対応して幽谷が前に進むのを妨害する。

 

 

「(ボールを奪いに来ない……鬼道さん達が戻るための時間稼ぎか!)」

 

 

 辺見の狙いは幽谷をなるべく拘束して鬼道達が戻る時間を稼ぐこと。守備が増えればその分余裕を無くすことが出来る上に監視の目も増える。その状況下ならば、幽谷もそう簡単には必殺技を使うことは出来ないと踏んだのだ。

 

 そしてそれは幽谷としても望ましく無い。早々に抜いてしまいたいが、辺見は帝国学園で守備的MF、中盤の底という重要ポジションを任される実力者。いくら幽谷と言えども突破は容易ではなかった。

 

 

「こうなったら………!」

 

 

 痺れを切らした幽谷は一歩後ろに下がると、右手を横に薙いで黒いモヤを発生させる。必殺技のモーションだと気がついた辺見が身構えながら注視する……が、幽谷はそのまま斜め前へと辺見を避けるようにボールを蹴り出した。

 

 

「なにを………っ!?」

 

 

 特に何かされるわけでもなくボールを手放した幽谷に訝しげな視線を送りながらも蹴り出された方に視線を投げる。そしてそこに居た()()()()()()()()()()()を見て、目を丸くした。

 

 

 辺見の目の前にいた幽谷が彼の横を走り抜けると、ボールを受けた黒いモヤに包まれたソレが走ってきた幽谷へとボールを返す。そして次の瞬間、黒いモヤは霧散してもう一人の幽谷は姿を消していた。

 

 

 

「くそっ、しくじった!!【ドッペルゲンガー】を使ったワンツーかっ!!」

 

 

 幽谷が使用したのは相手の分身を出現させ、驚いている間に分身にボールを奪わせる尾刈斗伝統のディフェンス技、【ドッペルゲンガー】。分身を出現させる対象を幽谷自身にすることで、擬似的なドリブル技として応用して見せたのだ。

 

 辺見が決して難しくない、初歩的な技に対応出来なかった事に焦りを滲ませる。辺見が突破されたということは、残るはDF4人と源田………先程得点された時と同じシチュエーションだ。

 

 

 

「これで残りはDF……!!」

 

 

 幽谷が視線を上げる。視界に収まっているのは、ゴール前の大野と万丈、源田。視界の両端に、五条と成神のサイドバック二人。鬼道たち攻撃陣の戻ってきている様子はなし。

 

 決める。ここしかない。これが決められなければ、正直もう絶望的だ。しかし逆に決められれば、決勝進出に、王者帝国に雪辱を果たして雷門と戦う未来に大きく近づくことが出来る。

 

 勝つためにはここで逆転するしかない。過去に類を見ないほど神経を研ぎ澄まし、集中する幽谷。

 

 

 そんな彼に向けて、帝国ディフェンス陣のとった行動は______

 

 

 

 

 

「いまだっ!!耳を塞げっ!!」

 

 

 

 源田の号令の元、守備陣全員が耳を塞ぐことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「______(引っかかった!)

 

 

 

 幽谷がほくそ笑む。今この時だけ、神に最大級の感謝を贈りたい。一か八かの博打だったが、最高の形に転がった。

 

 

 

「………っ!?くそっ、またか……!?」

 

「う、ごけねぇ……!!」

 

「………マージかぁ………」

 

 

 

 大野が、万丈が、成神が。全員が動きを止められる対策で耳を……聴覚を塞いだ。にも関わらず、彼らの身体はまるで呪われたように固まり、その場から動くことが出来なかった。

 

 

 

 一つ、種明かしをしよう。幽谷が帝国ディフェンスの動きを止められる理由、それは『()()()()()()()()()()()』。

 

 

 彼の使用するシュート技、【ゲイズ=ウジャド】は元々彼の先輩達や監督の地木流が協力して編み出した必殺技だ。モーションが大きい分威力は尾刈斗のどのシュート技よりも強力。幽谷の高いキック力も合わせることで、源田幸次郎の進化したフルパワーシールドですら破る事が出来る脅威的なパワーを持つ。

 

 

 ただし、それだけなら何も新技を作る必要は無い。源田幸次郎は確かに強力なGKであり、帝国の背番号一に相応しい実力を持っている。だが、尾刈斗の実力があればシュートチェインを複数繋げれば突破出来ない事もない。

 

 むしろ問題なのは、彼より前。DFによるブロックだ。

 

 

 大柄な体格と重心の座った重さ、DFとしての高い経験値と恐れずシュートに立ち向かう精神力を併せ持つ二番、大野伝助。

 

 相手の動きを見逃さず、猟犬の如くボールを狙う対人のスペシャリストにしてシュートブロックまでこなす三番、万丈一道。

 

 一年生ながら帝国レギュラーに選ばれた特待生、五条と共に攻守に渡って走り回る新世代の何でも屋、成神健也。

 

 

 そして何よりも。

 

 世代最高峰の実力を誇る怪物。鬼道有人に唯一肩を並べる存在として全国に名を轟かす帝国学園のディフェンスリーダー、五条勝。

 

 

 

 このメンバーの守備をかいくぐり、シュートブロックを超え、尚且つ源田幸次郎を突破する。はっきり言ってこれをこなせるチームが日本にどれだけ存在するだろうか。少なくとも数える程しか居ないことは容易に想像が付くだろう、それほどまでに帝国の守りは堅牢だった。

 

 

 

 だから尾刈斗メンバーは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 源田幸次郎という選手を突破出来る火力を保持した上で、ディフェンスによってそれを邪魔される可能性を排除する。そうすれば帝国に勝つ目も生まれる。

 

 言うなれば得点を奪うための最大の障害を、『源田幸次郎(日本一の守護神)』から『帝国学園ディフェンス(日本一の守備陣)』に切り替えて考え始めたのだ。

 

 

 しかし、その為の最大の切り札だったゴーストロックは昨年の練習試合で五条が打破してしまっている。複数人掛かりで発動するこの技は隙が大きいものの、事前情報無しではまず防がれない………文字通りの初見殺しだ。

 

 それをどういう事か、五条は見抜いてみせた。帝国学園の情報網か、はたまた彼自身の観察眼によるものか。実際のところは原作知識という反則じみた事象によるものなのだが、尾刈斗側が知る由はない。

 

 

 

 

 では、どうするか?一年前の試合とは違い、五条勝どころか鬼道有人、それに帝国学園一軍が勢揃いしたこの試合で【ゴーストロック】を使ってみる?

 

 いや、博打にすらならない。五条勝が見抜けるということは、即ち鬼道有人も同じ。そのうえ対応力は二軍の比では無いだろう、間違いなく不発に終わってカウンターを食らう。そうなれば失点確実、帝国との力量差を考えれば絶対に出来ない。

 

 

 

 だから彼らは______尾刈斗の面々は、こう考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【ゴーストロック】という切り札自体を、()()()()()()()()()()と。

 

 

 

 

 

「(気づいてくれると思った!間違いなく、五条さんほどの選手ならゴーストロックを使ったと、そう()()()()()()()と信じてた!!)」

 

 

 

 幽谷が心内で叫ぶ。

 

 もう一度言おう。尾刈斗はゴーストロックを使っていない。ただその情報を利用した。たったそれだけの事なのだ。

 

 

 

 帝国学園のレギュラーメンバーの中で、ゴーストロックを最も知っている人物は間違いなく五条だ。

 そして彼は帝国学園でも指折りの実力者であり、プレーを見ただけでもチームメイトと信頼を築いている事が容易に察することが出来る、正しく一流プレイヤー。

 

 彼の実力や脅威は、誰よりも尾刈斗の面々が良く知っている。そんな彼の事だ、ゴーストロックを使っても通用しないことなんて分かりきっている。

 

 

 

 しかし、しかしだ。今の帝国学園の中で、尾刈斗と戦う際に【ゴーストロック】という必殺技が最も強く頭にあるであろう選手も、また五条なのだ。だからそこを利用した。

 

 

 端的に言おう。尾刈斗中は、わざとゴーストロックに似せることによって五条の脳裏に『ゴーストロックを使われた』と誤った情報を刷り込ませたのだ。

 

 

 

「(穴だらけなのは分かってる!作戦とも呼べないなんて重々承知だよ!でも来た!!貴方はやっぱり気が付いてくれた!!)」

 

 

 

 五条の脳裏にゴーストロックの情報が浮かばず、本質に気が付かれたら終了。

 

 そうでなくても本来の技に気が付かれてしまえば終了。

 

 五条が気が付かずとも、鬼道有人や周りの選手たちが気づいてしまえばそこで終わり。

 

 

 あれも、これも、何もかも足りない大博打。相手の選手に依存する、作戦なんて呼ぶことも出来ないほど穴だらけのソレは、今ここで成し遂げられた。

 

 

 

 サマーソルトの要領でボールを高く蹴り上げ、深くしゃがみこんで手を地面に沈みこませる。どす黒いオーラの中に沈みこんだ両手に力を込め、拳を握り振り上げる。

 

 真っ黒に塗り潰された凶鳥は、彼にとっては福音を運ぶ使者だった。

 

 大空を羽ばたく黒鳥と共に、幽谷も跳ぶ。過去最高の集中と高揚をその胸に、真っ黒に彩られたボールを蹴り抜かんと体勢を整えた。

 

 

 

「これで………逆転だっ!!」

 

 

 

 赤と紫、2つの色が混ざりあった瞳が帝国陣内を捉える。

 

 これで逆転だ。いける。決められる。眼前の()()に向けて、その足を振り下ろし______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______【スカイウォーク】」

 

 

 

 

 血の気が、引いた。

 

 

 

 

「………なんで」

 

 

 おかしい。何故だ、完璧に決まっていたはずだ。手応えもあった。

 

 

 

 

「………………なんでっ!!」

 

 

 

 なのになんでだ。何故眼前に四人しかいない。GKの源田は対象から外したとはいえ、他の三人は捉えられたというのに。

 

 

 

 

 

「______なんであんたがここに居るんだっ!!」

 

 

 

 『一番恐れた人物(五条勝)』が、ここに登ってきているんだ。

 

 

 

 

「有人」

 

「っ!よし、あがれっ!!一気に攻めるぞ!!」

 

 

 

 幽谷からボールを掠めとったその男は、静かに空中からボールを蹴り下ろし、司令塔でありキャプテンの鬼道に預ける。

 受け取った鬼道はそのまま反転、一気に勝負を決めに行くため動揺の隠せない尾刈斗側に向けて走り出した。

 

 

 

 

「っ!もどらなきゃ……!!」

 

 

 地面に降り立った幽谷は、迷うことなく自陣に向けて走り出す。そうだ、まだ負けた訳では無い。ここを凌ぎさえすれば、まだ同点なのだ。足を止めるな、走り続けろ。

 

 

 

「駄目ですよ、戻っては………君は厄介だ」

 

 

 だが、それすらも嘲笑うように。世代最高のDFは、仲間を助けるために駆けることすらも許さなかった。

 

 

 びたり、と足が止まる。必死になって動かそうとしても、進めない。足が上がらない。実に身に覚えのある状態だった。

 

 

 

「っ、これ、は………!!」

 

「あぁ、本当に君は厄介だ………君達の大胆不敵さには度肝を抜かれましたよ」

 

 

 あぁ知っている。知っているとも。だってこれは()()()()()()使()()()()()()()()()()()。目の前のこの人も使えたのか、あぁもう本当に規格外だ!!

 

 

 

 

「全く…………まさか動きを止める技の正体が、【おんりょう】とはねぇ……えぇ全く、予想だにもしませんでしたよ………」

 

 

 

 目の前の人からの言葉に、自分の足に絡みつく半透明の禍々しい腕に、幽谷が吐き捨てたい気持ちでいっぱいだった。

 

 

 

 そう、尾刈斗の技の正体は、【ゲイズ=ウジャド】のカラクリは至極単純。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ただそれだけなのだ。

 

 

 

「君達の実力は高い、それは私たち帝国も認めるところ………それでも尾刈斗にとって、帝国学園は死力を尽くさないと勝てない相手だ。だからこそ、格上に対してこんな技を使うはずが無い、別のカラクリがある______そう思い込ませることこそ狙いだった」

 

 

 

 おんりょうは、決して難易度の高い技ではない。尾刈斗の伝統的な必殺技で、初心者でも覚えやすい技の一つ。その分キラースライドなどの技に比べて遅く、捉えにくい為に使い勝手の悪い技のはずだった。

 

 

 だからあの大事な場面、ましてやFWの幽谷が使うわけも無い。

 

 その深層心理を突いて、派手な動きやモーションで気を引く間に密かにDFに向かっておんりょうを発動、動きを搦めとり、あたかも大規模な技で止めて見せたように錯覚させる。それこそが幽谷の目的だったのだ。

 源田の動きを止めなかったのは、不用意に遠い相手におんりょうを向かわせてバレるのを避けたかったのと、源田のフルパワーシールドは下半身を止めても発動できるので効果が薄い為であった。

 

 

 

 

「………こっちの狙いに気がついた上で引っかかったフリをしたのか………!?」

 

「いえ、本音を言うと確信が持てなかっただけですよ。本当にゴーストロックを改良したのかもしれない………だから他のみんなにはゴーストロックの対処法をしてもらって、私だけ遊撃に出たんですよ。【ざんぞう】で躱して、ねぇ」

 

 

 

 完全に見抜けていたかと言われれば、そうではない。ただこの形が最善に思えたから。どう転んでも失点のリスクが低いと思ったから。そうして行った対処が、見事にハマった、ただそれだけの事だと五条は肩を竦める。

 

 

 あぁくそ、本当に面倒だ。手の中で転がせていたと思ったら、転がされていたのは自分たちだった。本当に心底嫌気が差す、壁もここまで高いと笑えてくる。

 

 だがまだだ。自分たちを舐めているのか、五条が攻めに転じていない。その状態の帝国の最高火力は【デスゾーン】だ。仮にここに鬼道有人がチェインを入れたとしても、頼もしい先輩達と、何より鉈が止められない訳が無い。そこからならばまだ反撃の芽が残っている。

 

 

 

 そこまで考えた幽谷に、「あぁ」と彼が声を掛ける。

 

 

 

「言っておきますが、私は決して貴方達を舐めてなんかいない。むしろその実力に、心の底から尊敬している。本当に………本当に、凄いチームだ」

 

「………なら、僕の相手なんかしてて、攻めなくていいんです?」

 

「えぇ、勿論。君の爆発力は厄介だ、止めるに越したことはない。それに______」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______君の方こそ、私の仲間を舐めないで頂きたい」

 

 

「【ぶんしんフェイント】ッ!!」

 

 

 

 ドリブルで駆け上がりながら、その身を分ける。

 

 親友が好んで使うこの技、イリュージョンボールなどに比べて些か消費が大きい為に使う機会は少なかったが、こうして多対一の場面だと中々どうして使い勝手の良い。彼が愛用するのも頷ける、と心の中で密かに笑う。

 

 

 その身を三人に分身させた帝国の司令塔、鬼道が巧みな連携で月村や武羅渡達といった尾刈斗中の守備陣を抜き去っていく。ただでさえ世代トップのドリブル能力、それが3人に増えて連携してくるともなれば、いくら彼らでも止められる訳は無かった。

 

 

 

「なるほど、アイツがよく使う訳だ。もう少し慣らしてみるのも悪くないな」

 

「んじゃ試合終わってから存分にやってヨ!!」

 

「あぁそうするとしよう。【イリュージョンボール改】ッ!!」

 

 

 

 常用技の一つに加え入れようかと密かに考えている鬼道に向けて、隙をついて霊幻が必殺技を使用しようとする。

 が、それも見抜いていた鬼道はイリュージョンボールで撹乱、動きを止めた霊幻の横を抜け、一気に前に躍り出る。

 

 

 

「絶対決めさせんな!!死ぬ気で止めるぞっ!!」

 

「柳田、藤美ぃ!!サイドの二人通しちゃわないでよォ、そしたら俺ちゃん止めちゃうからさぁ!!!」

 

「デスゾーンさえ、打たせなければ………っ!!」

 

 

 

 即座に反応した尾刈斗DF陣は、不乱と三途をゴール前に固めて一歩引く。完全にシュートブロックのための体勢に入った。

 GKの鉈が指示を飛ばした通り、サイドバックの屍、柳田の2人はそれぞれ咲山と洞面を中央に入れないようにブロッキングしている。これで攻撃参加出来るのはFWの寺門、佐久間、そしてボールを保持している鬼道の3人。デスゾーンを放つには鬼道自身が参加せねばならず、実質的に塞いだも同然だった。

 

 

 

「………尾刈斗中イレブン、本当に良いチームだ。俺たちを良く研究し、そして最善手をとってくる。一年前とは比べ物にならないほどのその実力、そこに至るまでの努力。素直に賞賛しよう」

 

 

 

 鬼道がそう口にした事に、尾刈斗メンバーは少なからず驚く。まさか試合中に、しかも天才ゲームメイカーたる鬼道有人からそんな言葉を投げかけられると思わなかったからだ。

 彼の言葉に偽りは無く、ただ純粋な賛辞の言葉。ここまで登り詰めてきた尾刈斗イレブンに対して、王者として、頂点に立つものとして、そして一人のサッカープレイヤーとして尊敬を念を抱かずにはいられない。

 

 

 そんな彼は、足元にボールを構え。大きく息を吸い込み。

 

 

 

 

 

「だからこそ。見せてやろう………王者帝国の本当の強さを

 

 

 

 甲高い笛の音が、鳴り響いた。

 

 

 

 その合図に合わせ、佐久間と寺門が同時に駆け出す。これこそあの技の合図。雷門中を、円堂守を突破するために帝国が編み出した、あの禁断の技の改良型。

 

 

 鬼道の足元、地面から5匹のペンギンが顔を出す。キョロキョロと愛らしく視線を右往左往させるが、内包する力は計り知れない。その力を一点に集め、鬼道は打ち出した。

 

 

 

皇帝ペンギンッ!!」

 

「「2号ッ!!」」

 

 

 

 打ち出されたボールに追従し、宙を游ぐペンギン達。互いに入れ替わり、立ち代わりながら弾丸の如く飛来する彼らとタイミングを合わせ、寺門と佐久間の2人が更に左右からツインキック。威力を倍加させ、螺旋回転すら掛かったボールが唸りを上げて尾刈斗ゴールに迫っていく。

 

 

 

 

「っ!?フランケン守タ______うおおおぉっ!?」

 

「リバースレ______わぁぁぁぁっ!?」

 

 

 

 見たことの無い必殺技。確かに王者帝国といえど進化する。だがここまでの力を内包したシュートを見せてくるだなんて、完全に予測を超えていた。

 驚きながらもシュートブロックをしようとした不乱と三途、2人のDFだったがそれよりも早く、皇帝ペンギンの威力の前に発動すら許されずに吹き飛ばされる。

 

 

 

「舐、めんなぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 

 しかし、彼は諦めず。折れず。灯火消えず。

 

 

 

 誰よりも屈辱を味わったその少年は、同時に誰よりも諦めが悪かった。少なくとも一年前の試合、同級生や先輩が次々と部を去り、入部してからずっと世話になっていた同じGKの3年生が居なくなってしまっても、立ち上がってみんなを支えていけてしまう程には。

 

 

 両の手が淡く光る。蒼白く輝く光が、慣れ親しんだ刃を形作る。溢れた光が背中に流れ、揺れ動きながら生命ある焔が如く。諦めの悪い彼に呼応し、《十三》の刃となって最大火力を迎え撃つ。

 

 

 

「【サーティン・マチェッツV3】ィィィィィィィィィィィィッ!!」

 

「進化した……!!」

 

「頼む、鉈ァ!!」

 

 

 

 

 この土壇場、一段階先へと足を踏み入れる。蒼白い十三の刃が次々とボールに飛来、その勢いを削ごうとぶつかっていく。

 

 

 ひとつ、またひとつと刃が砕け散る。射出された11本の刃が砕け散り、淡い光となって霧散してもなお、鉈は諦めない。両の手の刃を振りかぶり、真正面から叩き付ける。

 

 

 

「先輩に助けて貰って!後輩が魅せてくれてっ!!ここで止めなきゃ全部無駄だろっ!!」

 

 

 

 ぶつかった衝撃が骨に響く。あまりの衝撃にお気に入りの仮面にヒビが入る。だからなんだってんだ、関係ないね。

 

 あぁそうだ、止めろ。止めるんだ。何がムードメーカー、何がお祭り担当。自分はなんだ?ゴールキーパーだ。全員の背中任されてるんだ、止めなきゃいけないに決まってるだろう。全員掛かりで繋ぎ続けたこの試合を、ここで終わらせて溜まるものか。

 

 

 

「あんたら倒して!!雷門倒して!!監督も一緒にみんなで全国行くんだよっ!!!終わって溜まるかァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 

 

 鉈が叫ぶ。必殺技は使用者の精神に大きく左右される。たとえ実力が劣っていても、心の底から感情を発露するものの必殺技はそれを穿つ脅威となる。

 

 鉈は間違いなく最高潮だった。過去どんな試合よりも、今この瞬間の彼が勝っていた。まさしく全身全霊、全てを掛けた、ゴールキーパーの意地を掛けたこの一瞬。それは王者帝国にも、決して劣ることは無かった。帝国の歴代ゴールキーパーに名を連ねても、何らおかしくない。それほどまでに、彼は輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

「無駄だ。俺たちはこんな所で止まらない」

 

 

 

 その輝きすらも。王者は貪り、邁進する。

 

 

 

 蒼白い刃が砕け散り、ボールは彼を押し込んでゴールネットを揺らす。

 

 テン、テンと転がるボールの音だけが響く空間で、誰かが膝から崩れ落ちた。

 

 

 

「______本当に強かった。この1年間でここまでの成長を遂げたことに、ただただ驚かされた」

 

「えぇ、本当に………一年前とは比べ物にならない。成長速度だけなら間違いなく、私なんか比較にもならないほどですよ」

 

 

「だが俺たちは負けていられない。王者帝国に負けは許されない。奴らに雪辱を晴らすまで、止まってはいられない」

 

「ですが………【自分たちの意思】で前に進み続けた君達とこんな試合が出来たことを、心の底から嬉しく思う。次はなんの邪魔もなく………本来の君たちと、本気でサッカーをしたい」

 

 

 

 

「「ありがとう尾刈斗中。その実力に、最大級の敬意を」」

 

 

 

 

 15分後、試合終了を告げる笛の音が響いた。

 

 

帝国学園 4-1 尾刈斗

 

 

 結果だけ見れば、大勝。尾刈斗が一矢報いたものの、王者帝国がその実力を見せつける形で、準決勝第二試合を制した。

 

 

 

 いよいよ数日後。【最強の王者(帝国学園)】と【最強の挑戦者(雷門中)】が、激突する。

 

 




※しばらく前からオリジナルの必殺技のまとめとか出来てなくて申し訳ございません。纏まったら各話の後書きにコソッと書いときます!許して
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