イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!!   作:ハチミツりんご

59 / 64
第五十四条!! 鬼道兄妹

 

 

『______と、突然の連絡、誠に申し訳ありません……!その、雷門について報告を、と思いまして…………』

 

 

 帝国学園、総帥室。許可なく入室することを許されないその部屋で、恐る恐るといった様子の電子音が響く。電話機越しに聞こえてくるその声の主に向けて、部屋の主は肩を竦めながら返事を返す。

 

 

 

「おぉ、これはこれは。初出場のチームを決勝まで進めた名監督の冬海さんじゃあありませんか。さすがの手腕ですなぁ……くくっ」

 

『もっ、申し訳ありません………!!まさかアイツらがここまでやるとは思わず………!』

 

 

 

 至極愉しげなその様子に、電話越しに聞こえる男の声は恐怖で揺れる。それもそのはず、ただでさえ事前に敗退させておくべき自チームを、あろうことか決勝にまで駒を進めてしまったのだ。青ざめた顔でどうにか取り繕おうとするも、むしろ影山は上機嫌であった。

 

 

 

「それで?事前連絡も無しにとは、随分とお急ぎの様子だが?」

 

『い、いえ………わ、私はどのようにしたらよいのでしょうか………?アイツらを決勝に進めないためにも、指示をお伺いしようかと………』

 

 

 

 あまり電話でやり取りをすれば足が付く。影山側がいくら傍受や情報漏洩に対して完璧な体制を整えていたとしても、この男から漏れ出ないという保証は無い。

 

 それでも電話で連絡を寄越したからにはそれ相応の理由があるのかと思ったが、帰ってきた答えは自分はどうすれば良いのかという指示待ちの言葉。影山はわざとらしくため息をつき、額に指を当てながら緩慢に首を振った。

 

 

 

「冬海、君はその程度のことすら指示がなければ動けないのかね?私は無能な味方、というものが有能な敵以上に嫌いなんだがねぇ………」

 

『ひ、ひぃーっ!!も、申し訳ありません!申し訳ありません!かっ、必ずや総帥のご期待に添える結果をご覧に入れます!』

 

「くっくくく………あぁ、期待している」

 

 

 

 能力のある者が敵に回るのは厄介だが、警戒を出来るという面においてはまだ有情だ。味方に引き込んでしまった無能共は、こちらの予想だにもしない事をしでかして足を引っ張ってくる。敵の手によってではなく、味方陣内でのそういった足の引っ張り合いによって歴史から姿を消した者なんて数えるのも億劫になるほど居るだろう。

 影山もそういったもの達は嫌いであったし、何より考えることが出来ないものが嫌いであった。それを包み隠さず伝えれば、悲鳴をあげながら冬海が電話を切る。

 

 ツー、ツー………と音の鳴る電話を眺めながら、ふむと影山は顎に手を当てた。

 

 

 

「富山以上だな………ここまで無能だと一周回って大物に思えてくるとは。いやはや、案外学ぶ事は多いかもしれないな………」

 

 

 心にもないことを半笑いで呟きながら、電話を置く。

 

 

 冬海は雷門中がここまで駒を進めるとは思っていなかったと口にした。

 

 しかし、あの練習試合の内容を見れば雷門中の秘めた力が帝国学園に劣っていないことはひと目でわかる。点差を見ても参考記録止まりだが同点、あの鬼道が翻弄されることも少なくなかった。

 

 

 つまり冷静に、正しく状況を判断すれば雷門中が勝ち上がってくることなんて簡単に予想出来ることなのだ。富山率いた御影専農が唯一可能性のあったチームだったが、実態はお粗末なものだった。

 

 

 それすら見抜けず、このギリギリになるまで何も対処しようとしないとは。

 

 

「仮に役目を果たしたとしても、与える席は無いな………精々愉しく踊ってくれたまえ、冬海監督………」

 

 

 

 そんなことを思い嗤う影山。切り捨てられることが決定づけられる中、己の行く末なんて露知らず。滑稽に踊り続ける冬海であった。

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

「______あぁ〜、腹減ったァ〜!!」

 

 

 ぐぐっ、と背伸びをしながら、ぐぐぅ〜、と腹を鳴らす。そんな器用な芸当をしてみせるのは、雷門中キャプテンにしてチームでただ一人のゴールキーパー、円堂守その人だ。

 

 

「まったく、お前はいつも腹減りだな円堂」

 

「なはは、練習中はサッカーに夢中だからいいんだけど、終わるとどうしてもな!でもお前らだって腹減っただろ?」

 

「あぁ、腹ぺこだぜ。なんか食って行かねぇか?」

 

 

 昼飯もたらふく食った上に、練習中に木野が差し入れてくれたおにぎりも頬張っておきながらまだ腹を鳴らす。そんな幼なじみに風丸が苦笑するが、その隣を歩く染岡は円堂に同意しながら空っぽの腹をさする。

 

 

 いよいよ迫ってきた、王者帝国との決戦。雷門中とも戦った古豪、尾刈斗を激闘の末に下して決勝の舞台へと駒を進めた帝国学園との戦いに向けて、雷門イレブンはより一層気合いを入れて練習に取り組んでいた。

 

 

「俺さんせーい!家までもちそうにないや。影野とマックスは?」

 

「俺も………お腹空いた、かな…………」

 

「ボクもいこっかなー。にしても影野、食べる量増えたよね。去年なんか雀の涙くらいしか食べてなかったのに」

 

「みんなと練習してるとお腹空くから………この一年で自然にね………」

 

 

 

 ただし、練習量が増えるということはエネルギーを使うということ。それ即ち腹が減るということだ。特に彼らは食べ盛りの中学生、食べても食べてもお腹が空く時期なのである。

 

 チーム内でも指折りの少食だった影野ですら小さく腹の虫を鳴らしているこの状況、どこかの店に入ろうという流れになるのは自然だった。雷門中は比較的ユルい学校なので、放課後の買い食いなども許可されているので心配も無い。

 

 

「んじゃ近いし、雷々軒にしましょうよ!俺ラーメン食べたいです!」

 

「おっ、いいねぇ!ボク坦々麺かな〜」

 

「僕はチャーシューメン!」

 

「うおっ、セレブでやんす………」

 

「俺はラーメン特盛とチャーハン特盛!!…………にしたいけど金が無いからラーメンでガマンっす…………」

 

「普段からバカ食いするからだろー」

 

 

 

 宍戸の提案により近場にある個人経営の老舗ラーメン屋、雷々軒に行くことが決定。松野の坦々麺発言を皮切りに、腹ぺこ中学生達が思い思いに食べたいものを羅列する。

 手持ちに余裕があるのか、店で最も高価なメニューを選ぶ少林寺の懐事情を栗松が羨む傍らで、金欠の大食漢DF、壁山はズーンと沈みこんだ様子で節制を選択。とは言っても、しっかりラーメンは食べるようだが。

 

 

 

「土門先輩も一緒に行くでやんすよね?」

 

「ん?あぁ、俺は………」

 

 

 既に大半が雷々軒に行くことを決める中、栗松が隣を歩く土門に声を掛ける。

 

 ちなみにだが、本日練習終わりに「妹の見舞いに行ってくる」と言って早々に帰宅した二年生のエースストライカーである豪炎寺、そしてリアタイしているアニメの放送時間が迫っているからと脱兎のごとく帰宅して行った二年生、目金の二人はこの場にいない。マネージャー3人も同様だが、男メンバーはほぼ揃っている。

 

 

 そんな状況だ、一人帰るのはなんだか気が引けるし、何より友人と帰りに飯を食うなんて帝国じゃ出来なかった。

 勿論だと了承しようとする土門だったが、不意に携帯が鳴る。音からして着信音ではなく、メールを受信した音だ。

 

 

「(メール?指示はいつも電話で来るってのに………)」

 

 

 栗松に一言「悪いな」と断ってから携帯を開き目を通す。

 

 メールに記載された送り主は、鬼道 有人。帝国学園時代のキャプテン、世代最高のゲームメイカー。土門から送られた雷門の情報を総帥である影山に繋ぐ、中継役のような立場を担っている相手だ。

 

 

 鬼道からのメールを珍しく思いながらもなにか指示が出たのかと思った土門。しかし、書かれていた内容を見て、周りから気付かれない程度に小さく目を丸くした。

 

 

 

『いよいよ地区予選決勝が近付いてきている。総帥からの指示とはいえ、今までこんな真似をさせて済まなかった。俺の方から話は通しておく、試合ではスパイの立場や帝国への忠誠心などのまだるっこしいことは抜きにして、全力で戦おう。佐久間や勝が絶賛していた本気のお前を見せてくれ。

 

鬼道 有人』

 

 

「………メールなのに名前書くとか、相変わらず律儀な人だなぁ、鬼道さん………」

 

 

 

 帝国学園から、雷門中のパワーアップ内容や必殺技の詳細なデータを手に入れるために送り込まれた刺客、土門 飛鳥。五条からの助言があったとはいえ、やはりこうして素性を隠したまま雷門中の面々と交流を持つことに申し訳なさがあったのも事実だ。

 

 そんな自分を気遣ってなのか、律儀なメールを送ってきたかつてのキャプテンに思わず苦笑が漏れる。だが、不思議と悪い気はしなかった。

 

 

 

「おーい土門、早く行こうぜー!」

 

「メールって、誰から来たんだ?前の学校の知り合いか?」

 

「も、もしかして彼女さんっすか!?」

 

「彼女じゃねーっての!あー、まぁ、そうだなぁ………」

 

 

 先を歩く半田から呼びかけられ顔を上げる。携帯を開いたまま立ち止まった土門に向かって訝しげに話し掛ける風丸に便乗して、壁山が興味津々といった様子でメールの相手を問うてくる。

 

 真っ先に女性じゃないと否定した上で、土門はポリポリと後ろ手で後頭部を掻く。少し吹っ切れたような、晴れやかな顔で、パタンと携帯を閉じた。

 

 

 

「………友達だよ。大事な友達。______あー腹減った!俺ちょーっと豪遊しちゃおっかなー!」

 

 

 ググッ、と大きく伸びをしながらみんなに駆け寄る。晴れやかな様子の土門に思わず目配せをする面々だったが、染岡が真っ先にニヤリと笑って肩を組んだ。

 

 

「おっ、なんだ土門。ラーメンセットでもいくか?」

 

「チッチッチッ、甘いねぇ染岡!大盛りチャーシューメンに大盛りチャーハン!ついでにエビ餃子までいっちゃうもんね!」

 

「うっわ金持ちだ!金持ちが貧乏人に自慢してきやがるぞ!」

 

「なーはっは!ひれ伏せー、なーんてね。ほら、早いとこ飯行こうぜ!」

 

 

 

 中学生にあるまじき豪遊っぷりをみせる土門にギャイギャイと騒ぎながら、中学生達は潜り慣れた暖簾を通って雷々軒へと足を運ぶ。

 

 

 

「(ほんっと。良い仲間に恵まれてんな、俺って)」

 

 

 

 それが雷門なのか、帝国なのか。はたまた両方なのか。判断するのは容易だった。

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

 次の日。土門は通学路をフラフラと力ない足取りで歩いていた。腹の辺りを摩っている彼は、どうやら胃もたれしているらしい。

 

 

「うぅ………昨日、食い過ぎたかな………」

 

「ふふっ………円堂くん達から聞いたけど、流石に食べ過ぎだよ、土門くん?」

 

「いやぁ、思わずはしゃいじまってな」

 

 

 なはは、と笑う彼の隣には、同じサッカー部の仲間でありアメリカ時代の幼なじみ、木野の姿が。

 

 普段は円堂を迎えにいってから通学している木野だが、本日は当の円堂が寝坊。木野が迎えに来た時にはまだ夢の中だったらしく、彼の母親が『秋ちゃんまで遅刻したら申し訳無いから、このバカは放っておいて大丈夫』と告げられた様だ。話を聞いた土門も、円堂らしいと苦笑していた。

 

 

 

「ったく、地区予選の決勝が近いってのに。マイペースというか、我が道行ってるというか………」

 

「まぁ、そこが円堂くんらしい所じゃないかな?今頃、大慌てで走ってたりして」

 

「ハハハ、有り得るな!…………っと、んじゃ俺こっちだから、また後でな」

 

 

 

 帝国学園との決戦の日が刻一刻と近付いてきている中、普通の選手なら緊張して眠れなかったり、落ち着かなかったりするものだ。それが寝坊するほど爆睡するだなんて、と土門が言えば、それでこそ円堂なのだと木野が微笑む。

 

 円堂守という男は、そういう人間なのだ。何時如何なる時もサッカーというスポーツに真摯に向き合い、楽しむ。ワクワクして眠れないということはあれど、緊張して眠れないなんて彼の辞書には無いだろう。それが円堂の魅力でもあり、人を惹きつける要因でもあるのだ。

 

 

 母親から大目玉をくらいながら大慌てで準備をしている円堂の様子を思い描きながらクスッと笑う木野。そんな彼女に向けて、土門はヒラヒラと手を振って別の方向へと足を向ける。

 

 

「?土門くん、部室に何か用事?」

 

「忘れ物。昨日、半田に英語教えた時に教科書忘れちまってさ」

 

 

 既に校門を潜り、真っ直ぐ進めばいつもの校舎にたどり着く。にも関わらず部室方向に歩みを進める土門に木野が首を傾げながら声を掛けるが、忘れ物を取りに行くだけとの事。

 

 なるほどと納得した木野は、また後でね、と一言声を掛けてから土門と別れ、教室に向かって歩いていった。

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

「おー、あったあった。こんなとこに落ちてたのね」

 

 

 

 物置小屋の様なサッカー部のオンボロ部室。その中に入った土門は、隅っこの方に落ちていた自分の教科書を発見して拾い上げる。少々埃を被っているので、軽くはたいてから肩に背負ったカバンの中へとしまった。

 

 

「うし、とっとと教室に…………ん?」

 

 

 忘れ物も回収してしまったので、早いところ自分も教室に向かおうとした土門。そんな彼の目に、ふと部室に置かれている棚が飛び込んできた。

 

 マネージャーの三人が協力して纏めあげた雷門イレブンの個人能力や必殺技、他校の選手の情報などといった重要なデータをファイルごとに綺麗に纏められた棚だ。端の方には、栗松や宍戸といった漫画好きの部員が持ち込んだ単行本や、少林寺が愛読している拳法の特集本、松野が飽きて置いていった雑誌なども並べられている。

 

 

 

「…………順番が違う?夏未お嬢様辺りがポンコツ晒したか?」

 

 

 漫画本やらはまだしも、普段は部員達がデータ関連の書類を漁ることなんてない。故に順番が違っていても、マネージャー以外が気がつくことは無い。

 

 しかし、土門は帝国から派遣されてきたスパイ。褒められた事ではないが、この棚からデータを抜き取って帝国に密告することも多かった。その為、普段とは順番が異なっていることに気がついたのだ。

 

 

 おおかた、しっかりしているように見えて箱入り娘な雷門夏未が順番を間違えでもしたのだろう。そう思った土門だったが、何やら嫌な予感がしたので、数冊のファイルを取り出してパラパラと流し目で確認する。

 

 

 

「………!無い!イナビカリ修練場の個人データ………それに必殺技データまで!」

 

 

 

 そして彼の感じた予感は的中。順番が違っていたファイルのうち、数冊から紙が抜き取られていたのだ。しかもそれら全てが、帝国学園との練習試合の後のデータ………イナビカリ修練場でパワーアップした部員の身体能力の上がり幅や、新たに開発した必殺技といったものばかりだ。

 

 

 

「(誰がこんなこと………いや、1人しかいない、か)」

 

 

 メンバーの誰かが詳しく確認するために借りた可能性もあるが、こういった情報は音無が報告してくれるため自分から確認する必要性は薄い。情報面に目を通し、作戦を立案する豪炎寺ならば借りるかも知れないが、彼は律儀な性格だ。必ずマネージャーや部員に一言言ってから借りるだろう。こんな乱雑に抜き取るような真似はしない。

 

 わざわざ雷門中のデータを盗み出すなんて真似をする人物。帝国のスパイである土門を除き、それを行う可能性があるのは1人しかいなかった。

 

 

 

 手にしたファイルを棚に戻し、カバンを背負い直すと土門は部室から出る。心做しか、足取りは重くなっているようだった。

 

 

 

「(あのデータを送れ、なんて指令は来ていなかった。なんでこっちじゃなく向こうに?………鬼道さんが気を使ってくれたからか?)」

 

 

 

 こういったデータを盗み出し、帝国へと送るのは土門の役割だった。

 もう一人は、所謂雇われ者………豪炎寺修也という特大のイレギュラーが雷門中に加入した為に、その情報を帝国へと横流しする為だけに影山に買収された人間だ。元々雷門中の教師なだけあって、頻繁には動けない。

 

 豪炎寺のみだった時はそれでも構わなかったが、今の雷門中は一人一人が驚愕すべき実力を身につけている。

 その為、自由に動けない雇われ者に代わり、部室に出入りしても怪しまれない土門が情報を盗み出していたのだ。

 

 

「…………ん?なんだ、この音………」

 

 

 なぜ今になって………そんなふうに考えている土門の耳に、不意に金属音が響く。機械を弄るような、そんな音に加えて水音も聞こえてくる。

 

 近くには部活動生が利用する水飲み場があるものの、そこには誰もいない。ましてやこんな朝早い時間だ、朝練する部活も無い雷門中で金属音なんて響いてくるはずもないのだ。

 

 違和感を感じ、音の出処へと歩を進める。

 

 

 そこは、裏門の近くにある倉庫。普段あまり使われない送迎用のバスが収納されている場所だ。そのうちの片方のシャッターが僅かに開いており、音はそこから漏れてきていた。

 

 

 シャッターを潜り、中に入る。薄暗い倉庫の中、稲妻マークの入った雷門中の送迎バスが二つ並んでいる。

 

 そしてそこに、土門が予想した人物______雷門中サッカー部顧問の、冬海卓の姿があった。

 

 

 

「冬海先生ッ!!」

 

 

 土門が低く、鋭い声でその名を呼ぶ。狭い倉庫の中で反響する彼の声にビクッと肩を揺らした冬海だったが、相手が土門だと知るとほっとしたように肩をなでおろした。

 

 

「な、なんだ君ですか………脅かさないでください」

 

「こんな所で、何やってたんですか?」

 

 

 見られたのが学校関係者や他の部員ではなく、同じ立場の土門だったことに安堵する冬海。彼の手には、何やら液体の入ったバケツが握られていた。

 

 何をしていたのか、と土門が問うても、「何でしょうねぇ」と肩を竦めてしらばっくれる冬海の姿に、土門は無意識に拳を強く握る。帝国の指示を受けて、何かしらの工作をしているのは明らかだ。

 

 

「………部室からデータを持ち出したのも、先生ですね」

 

「おや、見たんですか。まぁ別に何だっていいじゃないですか…………あぁ、それと」

 

 

 

 土門の予想通り、データを盗み出して帝国へと密告したのは冬海だった。それがどうしたと言わんばかりの冬海の態度に次第に怒りを感じる土門だったが、そんなことを知らぬこの男は彼の横を通り抜けながらぽつりと呟く。

 

 

 

「一つだけ忠告しておきましょう。このバスには乗らないことだ………命が惜しいならね」

 

「っ!!アンタ……!!」

 

「それじゃ、私はこれで」

 

「〜〜〜………クソっ!!」

 

 

 怒りのままに冬海の方を振り向くが、彼は、気にした様子もなくシャッターの下を潜って倉庫から出ていく。

 

 その後ろ姿を見届けた後、思わずバスのタイヤを強く蹴りつけてしまう。物に当たるのは間違っていることは分かっていても、この怒りが収まりきらなかったのだ。

 

 

 

「これも帝国の…………総帥の命令かよっ!!どうすりゃいいんだ………!!」

 

 

 今まで帝国のスパイとして、雷門中の情報を密告していた身だ。帝国の………否。影山零治という男の汚いやり口は知っていたつもりだったが、ここまでとは思わなかった。

 

 このバスに、みんなを乗せるわけにはいかない。だがきっと自分が何か手を打っても、影山は別の手を打ってくるだろう。ましてや自分はただの中学生、相手は強大な力を持ち、帝国学園総帥兼サッカー協会副会長という地位もある。太刀打ち出来る相手では無い。

 

 

 

「……………頼るしか、無い」

 

 

 

 自分一人ではどうしようもない。だからこそ、土門は携帯を取り出す。

 

 己の不甲斐なさと、縋るような祈りを込めて、短いメッセージを送る。この状況で、影山に提言出来る人物の中で、最も可能性が高い人物へと、願いを告げた______。

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

「ファイトー!」

 

『ファイトー!』

 

「もっと声だせーっ!ファイトーっ!」

 

『ファイトーっ!』

 

 

 円堂を中心として大声を張り上げながら、練習前のランニングをする雷門イレブン。もう既に慣れた様子の二年生たちや小柄で走るのが得意な少林寺といった面々は余裕の表情だが、宍戸や栗松はまだスピードに慣れない様子。特に大柄で鈍足な壁山は、最後尾でひぃひぃ言いながら置いていかれないようについて行っている。

 

 

「よーし、ストップ!息整えろよ、しばらくしたらパス連から始めて、一通り終わったらイナビカリ修練場で特訓だからなー!」

 

 

 先頭の円堂が足を止め、息を整えるように促す。身体能力をあげ、必殺技の基礎を作るためにも練習の中心はイナビカリ修練場だ。ただし、サッカーは必殺技だけで勝てるものでは無い。細々とした基礎メニューも同じように大切なのだ。

 

 

「円堂、俺まだ走ってきてもいいか?」

 

「ん?珍しいな土門、どうかしたか?」

 

「あぁいや、その………ちょっと走り足りなくってさ」

 

 

 各々がボトルで水分補給をし、汗を拭って息を整える。ただ、はひー、はひーと一番息を荒くしている壁山ですら座り込んだりせずに立っていられる辺り、チーム全体のスタミナが上がってきているのが伺える。

 

 そんな中で円堂に声を掛けたのは、DFの土門だ。普段はのらりくらいとした様子ながらも練習に真剣に取り組む彼だが、まだランニングを続けていいかと聞いてきた。

 

 

「おおっ、土門もやる気満々だな!俺も付き合うぜ!」

 

「だ、大丈夫だって!円堂は唯一のゴールキーパーでキャプテンなんだし、しっかり休んでろよ!そんじゃな!」

 

 

 帝国学園との決戦に向けて、土門もやる気を滾らせているのだと考えた円堂は目を輝かせながら自分も一緒に走ると告げる。

 だが土門は慌てた様子で大丈夫だと言うと、そのまま走り去ってしまう。残された円堂も、土門の勢いに押されてその場にポツンと取り残された。

 

 

 

「………どうしたんだ土門の奴?」

 

「珍しいですね、あんな土門先輩」

 

 

 普段の様子からはあまり想像できない土門の姿にポリポリと頬を掻く円堂の隣で、音無が珍しそうに走り去っていく土門の背中を見つめる。

 

 そんな彼の様子を見てか、他の部員達にタオルを配っていた木野は頬に手を当てて少し考え込む。

 

 

「音無さん、ちょっといい?」

 

「はい?」

 

 

 トントン、と音無の肩を叩く木野。振り向いた音無はこてんっと首を傾げると、心配そうな表情の木野の姿が目に映った。

 

 

 

「土門くんの事、見てきてもらってもいい?」

 

「確かに普段と様子が違いますけど………どうかしたんですか?」

 

「うん、なんだかちょっと心配になって………」

 

 

 幼い頃から知っている仲だ、土門の様子がおかしいことはすぐに分かった。そして、本気で悩んでいる時は抱え込んでしまって素直に話してくれない彼の性格も同時に知っていた。

 

 新聞部出身で聞き上手の音無ならば上手いこと彼の悩みを探り当てられるのでは、そう思って頼んだ木野だったが、音無は元気に返事を返す。

 

 

 

「はーいっ!部員の精神状態もケアするのが、マネージャーのお仕事ですもんね!」

 

「ゴメンね、こんなお願いして」

 

「大丈夫ですよ!それに、男の人が神妙な表情してる時は悩みを抱えてる時もあるけど、大抵碌でもないこと考えてるだけだって、昔からお世話になってるお兄ちゃん分も言ってました!心配いりませんって!」

 

「あ、はは………辛辣なお兄ちゃん分だね………」

 

「でも凄く優しいんですよ!それじゃ、いってきまーす!」

 

 

 

 どこぞの慇懃無礼な笑みを浮かべた男の言っていたことを思い浮かべながらそう告げる音無に、思わず頬を引き攣らせながら苦笑する木野。あははは、と笑いながらいってきますと言うと、音無は駆け足で土門を追いかけていった。

 

 

 

「随分土門くんのことを気に掛けるのね?」

 

「昔の知り合いだから、気になるだけだよ」

 

「ふーん………そういうものなのかしら」

 

 

 ベンチに腰かけながら、興味深げにそんなことを聞いてくる雷門に対して木野が小さく笑う。昔からの知り合いでなまじ知っているだけに、小さな変化に目がいってしまうのだ。

 

 

 

「それに………」

 

「それに?」

 

「土門くん、優しいから。周りにばっかり目を向けて、自分の事を後回しにしちゃう癖があるの。昔っから………ね」

 

 

 

 思い起こすのは、あの日。いつも一緒にいた仲良し4人の中心人物………【一之瀬 一哉】が、事故で死んだ時。

 

 

 自分ともう一人は、死んだことが信じられなくて、もう会えないことが悲しくってわんわん泣いた。そんな中でも、土門だけは2人を気遣ってくれていたのだ。

 自分だって悲しかっただろうに。一番仲が良かっただろうに。それでも土門は、周りを気にかけることが出来た。自分の中の悲しみを、押し殺すことが出来た。そういう人間なのだ。

 

 

 

「私の勘違いだと、いいんだけどなぁ………」

 

 

 ポツリ、と木野が呟く。優しい彼が、どうか思い悩んでいませんように。一人で抱え込んでいませんように、と。

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

「すみません、突然………」

 

「いや、構わない」

 

 

 グラウンドから離れた、茂みの奥。木々が生い茂るその場所に放置された物置の陰で、2人の人物が隠れながら話していた。

 

 

 

「直接会って話したい、と来た時は驚いたぞ。何かあったのか?」

 

 

 そう話すのは、私服姿の鬼道。土門の方から直接会って話したいと連絡が入った為、こうして雷門中にまでやって来たのだ。

 

 わざわざメールや電話で話すのではなく、直接会って話したいという土門からのメッセージを珍しく思う鬼道。そんな彼に向けて、土門は神妙な様子で言葉を切り出した。

 

 

「………鬼道さん………鬼道さんは、総帥からなにか話を聞いていませんか?雷門に細工するとか、そう言った話を………」

 

「雷門に細工?………いや、総帥の口からは何も告げられていない。お前への指示も受け取ってはいないが………」

 

「!てことは、やっぱり鬼道さんも知らないんですね……!」

 

「………どういう事だ、何があった?」

 

 

 

 やはり、鬼道には知らされていなかった。当然だ、こんな馬鹿げたやり口、鬼道が認めるはずもない。

 

 突然の言葉に戸惑いながらも、こうして直接呼び出したのだ。それなりの事情が有りそうだと感じた鬼道が土門に尋ねると、今日起こったことの詳細を鬼道へと共有する。

 

 

 自分に指示が出ていないのに冬海がデータを盗んでいたこと、決勝の日に使われる送迎バスに細工をしていた事、ブレーキオイルと思わしきものを抜いていたこと………全てを告げると、鬼道は目を丸くする。

 

 

 

「バスのブレーキオイルを抜いただと……!?馬鹿な、総帥は何を考えておられるのだ………!そんな事をしたらタダで済むはずがない、下手をすれば雷門は、全員………!」

 

「鬼道さん、これが総帥のやり方なんですか!?スパイになる事を受け入れて、アイツらを裏切ってる俺が何を言っても説得力は無いけど………いくら何でも強引過ぎる!そうまでして勝ちたいんですか、あの人はっ!!!」

 

「くそっ………土門、俺を呼び出した理由はわかった。だがあまり大声を出すな。総帥の情報収集能力は並大抵では無い、何時どこで聞かれているか分からないぞ」

 

「っ!」

 

 

 影山零治という男の魔の手は、いつどこから伸びてくるのか分からない。鬼道は教え子として、最も影山に近いものとして信用されていると思っていた………が、そんな自分にすら監視をつける可能性があるのがあの男だ。下手なことを口にすれば、次の対象は土門になるかもしれない。暗にそう告げられた彼は、冷や汗を流しながら黙り込むと、物置の壁をドンッ、と殴り付ける。

 

 

 

「俺、なんだか、総帥のやり方についていけなくなりました………佐久間や辺見、他の帝国メンバー………それに何より五条の奴だって、こんなやり方認めるわけがない!鬼道さんだってそうでしょう!?」

 

「あぁ………アイツらとは直接対決でケリをつける。その為にも、全員今までにないほどの集中を持って特訓しているのだ………こんな事で邪魔をされるなんぞ、認められるわけが無い」

 

 

 雷門中には、借りがある。王者帝国として、誰も自分達には敵わないと驕っていた一軍メンバーの前に突如として現れたライバル。まだ十分な特訓が積めていない様子だったにも関わらず、自分達が負けかけた。

 

 いや、あのまま試合を続けていたら、負けていたのは帝国だったかもしれない。それほどまでに力を持つチームだ。このまま終わらせるのは、王者のプライドが許さない。

 

 

「………ありがとう土門。雷門への余計な手出しは無用だと、俺から総帥へと話してみよう」

 

「鬼道さん!俺もなにか………」

 

「いや、お前は動かない方がいいだろう。情報が入り次第連絡はするが、下手をすればお前まで巻き込まれる可能性がある」

 

 

 すぐに帝国に戻り、影山に事情を尋ねようと頷く鬼道に、自分も力になりたいと土門が願い出るが彼はこれに首を横に振る。

 

 ただでさえスパイとしてここに居るのだ。もし土門が動いて冬海の悪事を防ぐことが出来たとしても、彼が帝国のスパイだと分かればあらぬ疑いを掛けられるかもしれない。鬼道としては、本人の望まないスパイ活動を強要されている土門にこれ以上負担をかけたくはなかった。

 

 

 

「では、追って連絡する。お前も気を付けろよ______」

 

 

 

 そう告げて、その場を去ろうとしたその時だった。

 

 

 

 

 

「______お兄ちゃん?」

 

「ッ!!」

 

 

 

 不意に響いたその声。

 

 思わず鬼道が立ち止まる。忘れない。忘れるわけもない。だってこの声は、大切な………大切な、血を分けた兄妹の声だ。残された唯一の肉親の声だ。自分がこうして戦っている、最も大きな理由の声だ。

 

 

 

 鬼道が視線を、土門が隠れている方向とは逆に向ける。そこに居たのは、予想通りの人物。鬼道有人の愛する妹にして、幼少期に別れたまま禄に連絡をとることも許されなかった子………春菜の姿が、そこにあった。

 

 

 

「どうして、雷門に………?」

 

「……………………」

 

 

 

 何故帝国学園のキャプテンである兄がこんなところにいるのか。偵察にでも来たのかと思ったが、彼女の知っている兄はこんな風に陰に隠れて盗み見るような真似をする人物ではない。

 

 正々堂々と、真っ向からぶつかることを好む。どうやったら勝てるのか、どうしたら最善なのか………相手の未知の必殺技ですら楽しみながら、勝つために全力を尽くす。そんな兄だ。

 

 

 

 そんな彼が、何故ここにいるのか。そう聞いた音無だったが、鬼道は何も答えずにその場から去ろうとする。

 

 

 

「待って!待ってよ、お兄ちゃん!!」

 

「っ、春菜…………」

 

 

 

 しっかりと、兄の腕を掴んで止める。鬼道は掴まれた腕を振りほどこうとするが、不思議とそうすることが出来ない………いや、振りほどこうとしなかった。

 

 

「どうして?どうして、連絡してくれなかったの?」

 

「………お前との連絡を禁じられていた。鬼道家の人間として、一流のサッカープレイヤーとして、甘えることは許されない………過去を振り返ってはならない、と」

 

 

 影山に引き取られたあの日から、妹の春奈への連絡を禁止されていた。影山零治の最高傑作は強く在らねばならない。

 それは実力面も当然として、精神もだ。誰かに甘えることは許されない、常に己を厳しく律し続けなければならない。連絡を取ることを許されたのは、当時の知り合いの中で唯一影山の施設へと行った親友、五条一人のみだった。

 

 

 

「そんな…………」

 

「…………済まない」

 

 

 

 連絡を取りたかった。電話して声を聞きたかった。置いていってゴメンと。元気にしているかと。ちゃんと健康にしているかと。友達は沢山作れたかと。聞きたいことが、山ほどあった。

 

 だがそれは許されなかった。五条を通して、彼女が明るく日々を過ごしていることを知ることだけが、鬼道が感じることの出来る兄妹の繋がりだった。親友が気にかけてくれなければ、それすらも無かった。謝っても、謝りきれない。

 

 

 

 こんな兄の事を、嫌いになられても仕方が無い。だがそれでも、鬼道はもう一度。もう一度、妹と共に暮らしたいのだ。

 

 妹を心配させ続けた自分の不甲斐なさに思わず強く拳を握る。そんな彼に向けて、音無は優しく微笑みかけた。

 

 

 

「…………大丈夫だよ、お兄ちゃん」

 

「…………春菜」

 

「勝くんがね、ずっと連絡くれてたの。そりゃ昔は、お兄ちゃんが連絡くれなくって、何も言わずに居なくなっちゃって。裏切られたーって、思った時もあったよ。嫌いになった時もあった。でもね、勝くんが言ってくれたんだ」

 

 

 

『______あの有人がなんの考えもなく春菜を置いていくはずがない』

 

『______絶対に、何かある。私にも、春菜にも言えない何かが』

 

『私なら連絡が取れるかもしれない。だからせめて、春菜だけは。春菜だけは、アイツを信じてやって欲しい』

 

 

 かつて実の兄を信じられなかった自分に、そう言ってくれたもう一人の兄。誰よりも自分たちのことを想い、絆が壊れてしまわない様に必死につなぎ止めてくれていた、大切な家族。

 

 誰よりも優しく、誰よりも兄妹の事を理解してくれていた親友がそんな事を言っていたなんて。鬼道が目を丸くしていると、春菜はえへへ、と笑った。

 

 

 

「それにね、思ったんだ。この間、帝国と試合してる時さ。お兄ちゃんってば、すっごいラフプレーするし、あんまり楽しくなさそうにプレーしてたし…………本当は変わっちゃったんじゃないかって心配した。でもね、違ったんだ」

 

 

 

 つい最近あった、雷門中と帝国学園の練習試合。内容を思い返すと、帝国のラフプレーが目立っていたし、以前のように楽しくサッカーをやっているようには到底思えなかった。

 

 

「最後の方、円堂先輩のゴッドハンドに止められて、同点に追いつかれて。普通なら焦ったりする所でしょ?」

 

 

 

 でも、違った。春菜には、血の繋がった妹には、分かったのだ。

 

 

 

「でもお兄ちゃん………笑ってた。すっごい楽しそうに………昔、私や勝くんと一緒にボール蹴ってた時みたいに。だから思ったんだ。あぁ、お兄ちゃんはやっぱりお兄ちゃんだって」

 

 

 

 そうだ、楽しかった。あのひりつくような緊張感の中。デスゾーンを止め、本気の源田を打ち破る雷門中の実力に驚愕しながらも。それをどう打ち負かしてやろうかと考えるのが………勝ちが約束されていない本気の試合が、酷く楽しかったのだ。

 

 

 

「だからね。信じてるよ、お兄ちゃん。バラバラになっても、音無と鬼道になっても………お兄ちゃんは昔から変わらないって。私の知ってる『高島 有人』なんだって、信じてる」

 

「………!!」

 

 

 

 例え、進む道が分かれてしまっても。かつて一緒に過ごしていた日々は変わらない。今目の前にいるこの人は、鬼道財閥の御曹司であり帝国学園のキャプテンで、世代最高のゲームメイカー。それは事実だ。

 

 

 だが、同時に………誰よりもサッカーが大好きで、子供なのに大人にすら勝っちゃうくらいサッカーの天才で、だけど結構抜けてるところがあって、意外に裏で気にしてたりするところもあって………そして誰よりも自分に優しくしてくれた最愛の兄だと言うことも、事実なのだ。

 

 

 

 だから、信じてる。その音無の言葉に肩を震わせる鬼道は、静かにゴーグルを外して振り返る。かつてと変わらない、綺麗な紅い瞳の少年の姿が、音無の目に映った。

 

 

 

「………もう少し。もう少しだけ、待っていてくれ。俺は絶対にフットボールフロンティアで三連覇を成し遂げる。そうしたら、また一緒に………兄妹仲良く、暮らせるんだ」

 

「それって…………あ!待って!待ってよ、お兄ちゃん!!」

 

 

 

 あと少しなのだ。幼少期に引き取られたあの日から、ずっと目標にしてきた約束。フットボールフロンティアで三連覇を達成し、鬼道家の人間として相応しい功績を残せた時には、春菜を鬼道家に引き取る。そうすれば、また仲良く暮らすことが出来る。それを目標にして、ここまでやってきた。

 

 

 兄から告げられた言葉に驚愕しながらも、次の言葉を紡ごうとする音無。しかし、鬼道はそれよりも早く、音無が止めるのも聞かずに、その場から立ち去ってしまう。

 

 

 

 

「そうだ………これは誰の力でもない、俺の力で成し遂げなければ意味が無いんだ。じゃないと、俺は…………春菜に顔向けできない」

 

 

 影山の策略ではなく、自分自身の力で勝ち取ってこそ意味があるのだ。誰かに頼り、偽りの力で手に入れた栄光では意味が無い。そんなもので手にした勝利のお陰で、また春菜と一緒に暮らすことが出来たとしても………自分が自分を許すことが出来ないだろう。

 

 

 そう思う鬼道の背中を眺めながら、音無は小さく零す。

 

 

 

「お兄ちゃん………お兄ちゃんが勝とうとしてるのは、私の為なの………?私、お兄ちゃんの重荷になんて、なりたくないよ………!」

 

 

 

 きっと、勝ちたいのは本心なのだ。雷門との試合を楽しみにしていることも、五条と共にフィールドを駆けるのが心躍ることも事実。だが同時に、自分の為に勝ち進んでいるというのも事実なのだろう。

 

 自分は今、十分幸せだ。新しい父母との関係も良好で、この人たちに引き取られてよかったと胸を張って言える。だからこそ。自分のためにと勝ち続けようとする兄の重りにはなりたくない。純粋に、大好きなサッカーを楽しんで欲しい。

 

 

 だがその言葉は、届かない。音無は静かに祈る。兄が心の底からサッカーを楽しめます様にと。いつか、お互い分かりかえる日が来ることを願って______。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼道さんと音無が、兄妹………鬼道さんが勝ちにこだわるのには、そんな理由が…………」

 

 

 

 意図せず兄妹の会話を聞いてしまった土門は、衝撃の真実にしばらくその場に立ち尽くす。そして一度頬を叩くと、よし、と覚悟を決めてその場を離れた。

 

 

 

「絶対に、冬海を止めてやる。例え俺がスパイだってバレて、雷門に居られなくなったとしても………雷門のみんなを無事に決勝の舞台に送り届けるんだ。鬼道さんが音無と、本気で向き合えるようにするためにも………!!」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。