イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!!   作:ハチミツりんご

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凄く中途半端になった気がする


第五十六条!! 河川敷にて

 

 

 

「_____お願いです総帥!せ、せめてお話を……っ!!」

 

「出せ」

 

 

 街頭が深い夜闇を疎らに照らす深夜零時前。

 

 人気の無い道路の中心に佇む一台の高級車と、それに縋り付く一人の中年男性。

 必死の形相で車のドアにしがみついていた中年男性だったが、その訴えも虚しく車は夜の街を走り出した。

 

 

「そ、そんな!総帥!総帥ぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

 絶望の入り交じった絶叫が、夜の闇に消えていく。地面に膝を着いて蹲る男性の様子をミラー越しに眺めていた車の中の男は、何事も無かったかのように手元の資料に視線を落とした。

 

 

「………よろしかったので?」

 

「あの程度の男、始末する必要も無い。それとも、私の判断が誤っていると?」

 

「い、いえそのような事は………」

 

 

 運転席に座りハンドルを握っている彼の部下が小さく尋ねてくる。話を聞かなくてよかったのかという意味ではなく、始末して口封じしなくてもいいのか、という意味だ。

 

 しかし、男はそれを必要無いと一蹴。あの程度の男がなにか行動を起こす訳もなく、もし行動したとしても自分を糾弾できる証拠は無い。放っておいても問題ない、という判断だ。

 

 

 

「………?……………車を止めろ」

 

「はっ」

 

 

 ふと視線を窓の外に向けた男が、とある暖簾を視界に捉える。雷々軒と書かれたその店から出てきた一人の初老の男性………おおよそ老人とは思えぬ恵体を誇るその男性を見て、車を止めるように指示を出した。

 

 

「………ん?」

 

 

 バタン、と扉を開けて車から降りる。その音とヘッドライトの光に気がついた初老の男性が、暖簾を下ろそうとした手を止めて視線を向けた。

 

 

「久しぶりだな、響木」

 

「………っ!?お、お前は……!」

 

 

 響木、と呼ばれた男性の顔が驚愕に歪む。それもそのはず、彼の目の前に立っている男との因縁は生半可なものでは無い。

 

 かつては同じチームに所属していながら、自分達の夢を終わらせ、恩師を殺した男………怨敵とすらも呼べる関係性だ。

 

 そんなことは知ったことじゃないとばかりに蔑んだような笑みを浮かべる男は、表面上は親しげに言葉を続ける。

 

 

「丁度、夜食でもと思っていたんだが………店仕舞いかね?」

 

「………お前に食わせるもんなんか、うちの店にゃ置いてねぇ」

 

「おや、随分と嫌われたものだ。まぁ、貴様に好かれたくも無いがね」

 

「それに関しちゃ同意だな。お前と話しているだけで気持ち悪いったらありゃしねぇ」

 

 

 飄々とした態度を崩さない男に対して、嫌悪感を隠さず露わにする響木。互いの性格が如実に現れてはいるが、それぞれ思うことは一つ。『こいつは嫌いだ』という、シンプルな感情のみだ。

 

 

「ふんっ………まぁいい、客に飯も寄越さぬ店に用など無い。早々に去るとしよう」

 

「あぁ、とっととどっか行きやがれ」

 

「言われなくても………あぁ、そうだ」

 

「あん?」

 

 

 軽く肩を竦めて車のドアを開く男にシッシッと手を払う。改めて暖簾を下ろそうとした響木だったが、意味ありげに呟いた男の一言に眉を顰め、訝しげに立ち止まる。

 

 

「雷門中サッカー部が監督を探している」

 

 

 ピクリ、と響木が反応したのを見逃さなかった。

 

 フットボールフロンティア東京都地区予選、その決勝で絶対王者たる帝国学園と戦うダークホース、雷門中。しかし勢いに乗るそのチームも、諸事情によって監督を欠いたらしく、このまま行けばフットボールフロンティアのルールに則って不戦敗。自動的に帝国が優勝という流れになる。

 

 

「そして、彼らはお前の元にやってくる」

 

 

 半ば確信しているかのようにそう断言する。

 

 当然雷門中は代理の監督を立てるだろう、だがそれが響木である意味は無い。

 いや、かつてイナズマイレブンと呼ばれた響木は確かに並の人物とは比べ物にならないほどサッカーに精通している。雷門のサッカーも良く知っている響木は、間違いなく雷門にとって最良の監督であることは事実だ。

 

 だがしかし、それは響木がイナズマイレブンの元メンバーだと知っていればの話である。普通ならば他の部活の顧問やそれ以外の教師に代理を頼むだろう。

 

 それをわかっている響木はふんっ、と鼻を鳴らした。仮にも帝国学園の総帥が随分と乱雑な理論を使うものだと。

 

 

「だからなんだ、先手打って潰すとでも言うつもりか?生憎だが俺はそんなもん引き受けるつもりは_______」

 

「何もしない」

 

「_____なんだと?」

 

「聞こえなかったのか?随分耄碌したものだな響木………もう一度言う。今、お前をどうこうするつもりは無い」

 

 

 かつてこの2人が所属していたサッカーチーム、雷門中サッカー部。伝説とも呼ばれたイナズマイレブンが道半ばで諦めてから40年経った今、新たな夢が雷門中に芽生え始めている。

 だが響木にとって、既にサッカーは終わっているのだ。四十年前のあの日、夢へと挑戦する権利すら奪われたあの時。四十年前のフットボールフロンティア決勝の日を境に、元祖イナズマイレブン達の火は潰えたのだ。

 

 故に、今監督に誘われても受けるつもりは無いと言おうとした響木だったが、予想外の影山の言葉に一瞬戸惑い、次いで睨みつけるような視線をサングラス越しに送った。

 

 この男は策謀家だ。ありとあらゆる手を尽くしてそこら中に根を張り、獲物が掛かるのを待つ。そんな男が『何もしない』だと?疑うなという方がどうかしている。

 

 

 そんな疑いの目を向けられる中、動じる様子も無く男は静かに語り掛けた。

 

 

「………響木、貴様には最高傑作はあるか?」

 

「最高傑作?………どういう意味だ」

 

「そのままさ。己の全てを注ぎ込んだ、人生の集大成………これ以上のものは今後現れないと確信が出来るほどのもの。私にはそれがある」

 

 

 最高傑作。

 

 この男、影山の言ったその言葉の意味が見いだせずに困惑する響木だったが、一人笑いを押し殺しながらそう続ける。

 

 圧倒的な才能。他の追随を許さぬカリスマ性。全ての戦術を理解する程のサッカーIQ。ありとあらゆる事象を見抜き先手を打つ、史上最高の司令塔………それこそが、影山零治の最高傑作とも呼べる少年だった。

 

 

「今まで、私は大切にそれを育ててきた………私の持てるもの全てを懸けて育成して来た!_____だが、ある男に気付かされた」

 

「………………」

 

「簡単な事だ。私の庇護下で育てている限り、私の期待した程度の物しか生まれない。たったそれだけの事だ、あぁだがしかし………それを気づかせてくれたのだよ、分かるか、響木?」

 

 

 響木が思わず一歩、後ずさる。それほどまでに今の影山から放たれる気配は異質で、気味が悪くて。そして同時に、とても愉しそうだった。

 

 

「つまりだ。あの子が私の手から離れ、私の予想すら超える爆発的成長を遂げる。その為に最高の土台を用意する。それこそが教育者というものだろう?」

 

「………意味が分からん。貴様のような男が教育を語るな、虫唾が走る」

 

「ならばもっと簡単に言ってやろう。お前は土台だ、響木。あの子がより成長する為には一致団結した雷門との全力のぶつかり合いが必要だ。その為には帝国に歯向かおうという意志と、それに見合う実力を持った監督が必要不可欠なのだよ………この雷門という街でそれを満たしているのは貴様だけだ」

 

 

 他のイナズマイレブンでは駄目だ。

 

 備流田では駄目だ。あの男の火は円堂大介が死んだ時点で消えている。

 

 浮島では駄目だ。あの男は誰かを支えるならまだしも、表立って率いる様な器では無い。

 

 会田では駄目だ。受け身なあの男に帝国に逆らうような気迫も度量も存在しない。

 

 髪村では駄目だ。場寅では駄目だ。定良では駄目だ。碇では駄目だ。中間では駄目だ。民山では駄目だ。菅田では駄目だ。

 

 

 ただ一人。40年前のあの時からずっと、胸の内に燻った炎を宿し続けているこの男。

 

 

 響木 正剛でなければ、雷門中は最高の土台となり得ない。

 

 

 

「…………イカれてるのか?」

 

「まさか。あぁだがもしかしたら狂ったのかもしれないな。神すら足りないと豪語する男に出逢えた不幸と幸運のせいか、あるいは元々持っていた異常性か………どっちだっていい。私は私だ」

 

 

 あまりに身勝手な自己中心の論理。最高傑作の成長の為にライバルとなる敵が必要で、その為には響木が必要となる。

 

 影山にしては随分杜撰な論理だ。この話を聞いた響木が雷門の監督になる話を断ればそれだけで成り立たなくなる、そんな穴だらけのロジック。

 

 しかし影山には、こうなるという確信があった。何故なら______

 

 

 

「(私の手から鬼道を解放したい筈だ………ならお前は確実にそう動く。鬼道が私と袂を分かってでも戦いたいと願う、最高の相手を用意するために………)」

 

 

 クククッ、と笑った影山は静かに響木を見てこう言った。

 

 

「それでは、また会いましょう………響木キャプテン?」

 

「っ!貴様………!!」

 

 

 怒りを滲ませた響木を一瞥すること無く、車に乗り込んで走り去っていく影山。

 

 徐々に遠ざかっていくエンジン音だけが聞こえる中、後に残された響木はただ一人、夜の闇の中に佇むことしか出来なかった。

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

 日を跨ぎ、燦々と輝く太陽に照らされる河川敷。

 

 稲妻KFCというリトルチームに頼み込んで去年からずっと使っている、雷門中サッカー部のメイン練習場。

 打倒帝国学園、そしてフットボールフロンティア優勝を掲げる雷門中は、今日も今日とて練習に励んでいるのだが…………

 

 

 

「______オレたち、もう負けっすよ………」

 

「壁山ァ!諦めるなよ!!」

 

 

 グラウンドに座り込んでしょぼくれる巨漢に対し、円堂が叱咤激励の言葉を飛ばす。

 それでも暗い雰囲気を隠さない壁山は、その大きな身体が縮こまって見えるほどに落ち込んでいた。

 

 

 監督だった冬海が帝国のスパイだったと判明し、その危険な工作を未然に防いでから数日。雷門中サッカー部は、未だに新監督を見つけられないでいた。

 

 

「だって、監督が居ないんじゃ幾ら練習しても決勝戦には出られないっす!雷々軒のオヤジさんにも断られましたし………」

 

 

 壁山の呟いた言葉に、円堂を除く全員が俯く。彼らも今の状況が不味いということをよく分かっていた。

 

 冬海が学校を去った当初は、まだみんな楽観的だった。元々冬海はサッカー知識に乏しく、大したアドバイスも受けずに自分たちで考えて勝ち上がってきた。そんな雷門中サッカー部なら、例えサッカー知識のない素人が監督になったとしてもあまり問題は無い、と。

 

 

 しかし現実として、誰も監督代理を引き受けてはくれなかった。

 理由は単純。日程が急すぎる事と、相手があの帝国学園だからだ。

 

 

 他の雷門中教師は、揃って別の用事があるといって監督代理を断ってきた。そして豪炎寺の提案で、一番頼りになりそうだった雷々軒のオヤジさんにも、引き受けては貰えず。試合を間近に控えながら、不安だけが募っているのが今の彼らだった。

 

 

「諦めるなって!監督になってくれる人は、きっと居るさ!」

 

「ホントっすか〜〜………?ホントに見つかるって……言いきれますかぁぁぁ〜〜〜!!?」

 

「うおわっ!?腰掴むな腰!!お前今日は根深いな!?」

 

「円堂さぁぁぁぁ〜〜〜んっ!!」

 

 

 円堂が明るくみんなを鼓舞するが、暗く差した影は晴れない。このまま監督が見つからなければ、今まで自分たちがやってきた練習は全て無駄になってしまう。帝国にリベンジすらできないかもしれない。

 

 その不安からか、壁山は円堂の腰を掴んで縋り付き始める。尾刈斗中を思い起こさせる怨念じみた壁山の圧に押されて円堂が逃げ始めるが、壁山も負けじと引きずられながら腰を離さない。

 

 

「………全く、アイツらは………」

 

「ははっ、まぁいいじゃないの。暗くなるより、笑える方がいい…………っ!」

 

「……?どうした、土門」

 

 

 逃げ回る円堂としがみつく壁山のおかしな逃走劇に、風丸たち雷門の面々が笑い始める。

 

 そんな彼らの様子を見ていた豪炎寺が小さく笑いながら呆れ声でそう呟くと、隣にいた土門が暗くなるより良いと肩を竦める。

 実際、落ち込んだ気分で練習するよりも空元気だろうと声を出していた方が幾らかマシというものだ。

 

 

 少し明るさを取り戻したチームメイトたちの様子を見ながら土門の意見に同意しようとした豪炎寺だったが、不意に土門が言葉を切った。

 視線を向ければ、驚いたような表情で河川敷の上にある橋を見ている。

 

 なにかあるのか………釣られるように土門の見ている方向に目を向けた豪炎寺は、彼と同じく目を見開くこととなる。

 

 

「………鬼道さん!」

 

「んぇ?鬼道?」

 

 

 土門の呟きが耳に入ったのか、壁山を引き摺っていた円堂も顔を上げる。

 

 そこにいたのは、一人の男。橋の上からこちらを見下ろす様にしてこの河川敷を眺めている彼は、ここにいる誰もが知っている人物。

 

 帝国学園キャプテン、鬼道 有人。一度雷門と戦い、その実力を見せつけたライバルの姿に、なんだなんだとほかのメンバーも集まってきた。

 

 

「偵察に来たんだな………」

「いやいや、不戦敗寸前の僕たちを笑いに来たのかもしれませんよ」

「どっちにしろ、やな感じだぜ………!」

 

 

 御影専農の時の他校のように自分たちの偵察に来たのかと半田が勘繰るが、わざわざ直前になってキャプテンが偵察に来る可能性は薄い。それよりも試合に出られるかすら危うい自分たちを嘲笑いに来たのだと目金が言えば、染岡がケッ、と吐き捨てるように呟いた。

 

 どのような理由であるにしろ、冬海の件があった雷門中にとっては帝国学園所属の鬼道は警戒すべき相手だ。招かれざる様な雰囲気を纏う面々だったが、円堂はよし、と呟くと壁山の手を腰から引き離した。

 

 

「………俺、ちょっと行ってくる!」

 

「え?あぁおい、円堂!?」

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 河川敷の階段を駆け上がっていく円堂の背中に思わず半田が声を掛けるが、振り返ることなく鬼道の元へと走っていく。

 そんな円堂に気がついた鬼道は、ゆっくりとした足取りで橋から歩きだし、円堂の元へと進んで行った。

 

 

「よっ、鬼道!」

 

「………済まないな、練習中だったのだろう」

 

「気にすんなって!どうしたんだよ、急に」

 

 

 練習を中断させてしまったことに対して申し訳なさそうにする鬼道だったが、円堂は明るく笑って大丈夫だと返す。

 

 事前連絡もなく対戦相手の元に向かうなど常識知らずな行為だと分かっている。それでも鬼道は、この男に伝えたいことがあった。

 追い返されても文句は言えないと思っていたが、こちらの想定以上に円堂という男は器が広いらしい。それとも本当になんとも思っていないのか………どちらにしろ、鬼道にとって彼の人格は好ましいものだった。

 

 

 気にした様子もなく話しかけてくれる円堂に感謝の念を抱きながら、意を決して言葉を切り出した。

 

 

「………冬海のこと、謝りたかった。それに土門の事も」

 

 

 帝国学園から雇われていたスパイである冬海、そして同じスパイではあるが思い悩んでいた土門。

 

 冬海がスパイだと言う事は知っていたし、何より土門を送り込むために推薦したのは鬼道自身だ。

 帝国学園の人間として、何よりもかつてのキャプテンとして、謝罪をしたかった。

 

 鬼道は聡明で、優しい人間だ。だからこそ今回の事件の大きさと危険性をよくよく理解していた。

 

 

「ん?あぁ、それはもういいんだ!」

 

 

 

 だからこそ、この言葉に面を食らった。

 

 

 あっけらかんと言ってのけた円堂に対して、驚いた様に目を丸くする鬼道。

 それもそうだろう。あの冬海の策略が成功していたら間違いなく決勝の場には立てない。それどころか怪我で二度とサッカーが出来なくなるかもしれないし………下手をしたら、死んでいた可能性もあるのだ。

 

 

「もういい、って…………そんな軽く済ませられることじゃ…………!」

 

「だってさ、何があろうと土門が雷門の一員なのは変わらない!俺達も、誰も怪我せずサッカー出来てる!ならそれでいいじゃん。それにお前は何も悪くないんだし!」

 

 

 当たり前だろ?と言って円堂は笑う。

 

 鬼道は瞠目した。そして次第に、呆れたような笑みが無意識に零れ落ちた。

 

 

 何も知らない人間が聞いたら、円堂は薄情だと言うかもしれない。仲間が危険にさらされた事に対して、それをもういいと評するなど本当にキャプテンなのか、と。

 

 

 だが鬼道には分かった。円堂の根底、そこに根付いている彼の偽りない性格が。

 

 

 円堂は、とにかく優しいのだ。

 

 仲間が危険に晒され掛けたこと、それは怒っているし許し難いことだとちゃんと感じている。

 

 

 だが彼はそれを根に持たない。同じ帝国の人間と言うだけで、鬼道に理不尽をぶつけるための根拠にするという発想自体が浮かばない。

 

 円堂守という少年にとって、冬海の事は悲しい事件であっても引きずるべき過去では無い。仲間がみんな無事、ならばそれでいいじゃないか。そう考えるのだ。

 

 

「土門のやつさ、サッカー上手いよな!あれから帝国の友達の話もしてくれるんだぜ、特にサッカー部のこと!それ聞く度にワクワクしちまってさ………へへっ、お前たちと試合する時が楽しみだ!」

 

 

 そう言って鼻の下を擦って笑う円堂の表情に、一切の嘘はない。

 

 

 考え無しの短慮では無い。彼の器の大きさが常人の比ではないのだ。

 

 きっと冬海が心を入れ替えたと言って戻ってきたとしても、彼は喜んで受け入れる。

 そして不思議と、彼の熱さや優しさが伝わっていき、本当に心を入れ替えさせてしまう。

 

 

 円堂守とは、そういう男なのだ。

 

 

「………羨ましいよ、お前が」

 

 

 だからこそ比べてしまう。

 

 

「それに比べて、俺は………」

 

「………鬼道?」

 

 

 この男のような器が自分にあったなら、と。

 

 この男のようにいる事が出来たなら、と。

 

 帝国学園キャプテンである自分。理想とは程遠い今の自分と、比べてしまう。

 

 

「………お前のように、自分の正しさを持ち続けて居られたなら………もっと早く、あの人の歪みに気がつけたのだろうか」

 

 

 小さい頃に、才能を見出してもらった。今考えればあの亜矢とかいう気味の悪い男も影山の手駒だったのだろうが、少なくとも最近までそう思っていた。

 

 ………いや、もっと正しく言おう。鬼道は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 自分にありとあらゆる技術を教えてくれた師匠。鬼道家に相応しい人間へと成長させてくれた恩師。義父からの信頼も厚く、社会的にも多くの人から尊敬を集める、帝国学園の総帥。

 

 この人のような人間になりたい。

 本気でそう思っていたし、周りだって本気でそれを勧めてくれた。影山さんのような立派な人になりなさい、と。

 

 

「………尊敬していたんだ。本気で、心の底から………影山総帥のようになりたいと。それが実際は、卑劣な工作によって勝利を奪い取るような人間だった」

 

 

 固く結んだ自らの拳に目を向け、吐き捨てるように呟く。

 

 尊敬していた恩師は、実力ではなく策略によって勝利を掠め取る悪漢だった。自らが望む結果の為なら当たり前のように、息をするが他者を如く犠牲にする、そんな男。

 なまじ尊敬の気持ちが強かったが為に、反動も大きかった。

 

 

「俺は、憧れに追いつくために必死で努力してきたつもりだった。だが今まで掴んできた勝利は、全て偽物の勝利だった!………チームメイトに、顔向けできない」

 

「そんな訳ないだろ!!」

 

 

 自分が頂点にいると驕っていたあの時、遠く離れた場所にいながら自分の目を覚まさせてくれた親友。未だ追い付けない彼の隣に立つ為に、必死になってサッカーに打ち込んできた。

 

 だがそれすらも偽物だった。自分を信じてついてきてくれた帝国の仲間達に、そして何より親友に顔向け出来ない………そう言った鬼道だったが、円堂は真っ向から否定した。

 

 

「お前の凄さは、試合した俺達が一番よく知ってる!それに、お前の仲間がお前を信じてるってことも!!」

 

「っ……!」

 

「お前がキャプテンの帝国の強さ!シュート打たれまくった俺の体が、いちばんよく知ってるぜ!!」

 

 

 ドンッ、と胸を叩いて屈託なく笑う円堂。

 

 戦った試合はたったの一度、だがその一試合が他のどんなものよりも濃密であることは、円堂も鬼道も分かっている。

 

 だからこそ、円堂は胸を張って言えた。天才ゲームメイカー鬼道有人は、間違いなく日本トップクラスの選手だと。今までの勝利がまやかしなんかでは無いということを。

 

 

「………だが………俺は………」

 

「だから!…………あっ」

 

 

 それでもまだ、俯いた表情を浮かべる鬼道。円堂が再び言葉を重ねようとしたが、不意にあっと呟いて止まってしまった。

 不思議に思った鬼道が円堂の顔に目線をやると、ポカンとしたような顔で鬼道の後ろを見ている。

 

 何かあったのか。

 

 そう思い鬼道が振り返ろうとした、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「____はいドーン」

 

「うおっ!?」

 

 

 ゲシッ、と軽く尻を蹴られた。

 

 

 僅かな衝撃に足が前に出るのを踏ん張りながら、呆れたように後ろを振り向く。そこにいる人物、その正体はすでにわかっていた。

 

 

「いきなり何をするんだ、お前という奴は」

 

「変なことで抱え込んでる有人が悪いんですよ。損な性格してますね、ほんと」

 

「あーーーっ!!お前!!練習試合の時の!!!」

 

 

 鬼道が抗議の視線を向けても、彼は相も変わらず慇懃無礼な笑みを浮かべて肩を竦める。帝国のジャージではなく私服なので、彼も鬼道と同様練習を早退してここに来たのだろう。

 

 そんな男の顔を見て、円堂が大声を上げて指を指す。河川敷にいる彼の仲間たちも同様、驚いたような顔で彼を見ていた。

 

 …………交友のある豪炎寺や土門、風丸を除いてだが。

 

 

「あぁ、そう言えばこうして面と向かって話すのは初めてですね」

 

「おう!!俺、円堂守!よろしくな!!」

 

 

 一方的に知っているのでつい、なんて呟きながら、彼は今一度円堂の方を振り向いて、手を差し出された手を掴んだ。

 

 

 

 

「クククッ………初めまして、円堂君。帝国学園所属の背番号5番、五条と申します。これからよろしくお願いしますね?」

 

 

 

 円堂守と、五条勝。

 

 本来の物語の主人公と、紛れ込んだ異物。

 

 これから、ちょっとばかり長い付き合いになる2人が初めて出会った時だった。

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

「改めまして、どうも雷門の皆さん。帝国学園の五条勝と申します。そしてご存知でしょうが、こっちのドレッドマントゴーグルがうちのキャプテンの鬼道有人です」

 

「おい、なんだその紹介は。改めて、鬼道有人だ。この怪しい薬を売ってそうな慇懃無礼つるなしメガネがチームメイトの五条」

 

「あんたも大概でしょうが。怪しい薬なんか売ってる訳ないでしょう」

 

 

 河川敷グラウンドの脇、ベンチ近く。そこに集まった雷門中サッカー部の前に立っているのは、すぐそこに控えたフットボールフロンティア地区大会決勝の相手、帝国学園の二人だった。

 

 少なくとも見た目はそう見えるぞ、なんてからかったように鬼道が笑えば、五条が呆れたようにため息をついてメガネを押し上げる。

 半ばコントじみたやり取りを見せられた雷門中の面々は、揃ってぽかんと口を開けていた。

 

 

「………ん?どうかしたのか?」

 

「え、ああいや………なんというか、帝国のイメージと違ったというか………」

 

「あぁ、もっと厳格なの想像してました?まぁ私達は昔からの付き合いですしねぇ。教師の前でもないこの状況で肩肘張るほど真面目でもありませんよ」

 

 

 雷門メンツの視線に気がついた鬼道が訝しげにそう尋ねると、円堂が苦笑交じりにそう言った。

 

 帝国といえば徹底的に管理された超エリート校。それに違わずエリート意識の強い生徒たちが揃っているのは円堂たちもよく知る所だ。

 それが目の前で寸劇のようなものを繰り広げていれば驚くというもの。少なくともほとんどのメンバーはそう感じたが、そんなに真面目でもないと五条は軽い調子で言ってのけた。

 

 

「じ、じゃあ帝国の人でも、ラーメンとか食べるんすか?」

 

「ラーメンですか、帝国では出ませんからねぇ………ただ私は普通に好きですよ。帝国の友人にもラーメン好きはちらほら居ますし」

 

「ラーメンとかないって、帝国では普段どんなもん食ってるでやんすか?」

 

「帝国の昼食は基本はビュッフェスタイルだから、常にこれといったものは無いな。時折テーブルマナー講座も兼ねてコース料理が出る事もあるが………時間がかかるばっかりで大して腹も膨れない」

 

「昼飯がビュッフェだって、少林!」

「コース料理とか最早世界が違うよ………」

 

 

 

 思いのほか話しやすそうだと感じたのか、壁山や栗松が帝国についての質問を投げる。五条と鬼道が揃って律儀に答えると、住む世界が違うと宍戸と少林が口を開けて驚きを露わにする。

 

 

 

「………で?なんだってその帝国様がこんなとこにいんだよ」

 

「不戦敗寸前の雷門を笑いに来た………という様子でも無さそうですしね」

 

 

 そんな中で、不機嫌そうに顔を顰めている男が警戒心剥き出しで噛みつかんばかりに尋ねてくる。雷門の切り込み隊長にして豪炎寺と並び立つ点取り屋、染岡だ。

 

 何故帝国がここに居るんだという感情を隠さない染岡に同意する様に、目金も不審げに呟く。

 最初に鬼道がいるのを確認したときは自分達を馬鹿にしに来たのかとも思ったが、こうやって目の前にしてみればそんな雰囲気は感じない。むしろ友好的、リスペクトすら感じるほどである。

 

 そんな彼らが試合前の貴重な練習時間を割いてまでここに来たのは何故なのか。

 

 そう問えば、鬼道が真っ先に口を開いた。

 

 

 

「俺は………雷門に迷惑を掛けたと知って、帝国のキャプテンとして謝罪に来たつもりだった。最も、大した意味は無かったようだが」

 

「あ゛ぁ!?」

 

「件の事件で怪我してしまった選手は居ないか、土門は本当にチームに馴染めているのか心配していたけど逆に励まされる結果になったから自分の謝罪は意味をなさなかった、という意味ですよ染岡くん。というかアンタも誤解されそうな言い方するんじゃありませんよ、有人」

 

「………お前は律儀だな、勝………」

 

 

 鬼道の返答の意味を『謝罪する程の価値もなかった』といったマイナス方向に捉えた染岡が声を荒らげるが、五条がフォローを入れて鬼道の言葉の意図を説明する。

 

 冬海の危険な行動のせいで怪我人が出ていないのか、そして帝国のスパイだったと判明した土門が本当に受け入れられて居るのか。

 それを心配して、また純粋に謝罪したくてここに来た鬼道。しかしそれは円堂との問答で全て杞憂だったということが分かった。

 

 それをそのまま言葉にするのも気恥ずかしく、別の意味にも捉えられる言い回しをしてしまったが………即座にフォローを入れてきた親友に向けて、感謝と呆れが半々と目線を送る鬼道であった。

 

 

「じゃあ、勝くんは何しに来たの?」

 

「……え、名前呼び?」

 

「私ですか?そうですねぇ………」

 

「あ、やっぱり待った!当てる!」

 

 

 ともかく鬼道のやってきた理由は分かったが、五条がここに来た理由がまだ不明だ。雷門サッカー部の言葉を代弁するかのように尋ねてきた音無だったが、咄嗟に待ったをかけた。

 

 

「おや、これはこれは。春奈名探偵の推理力は如何程でしょうかねぇ」

 

 

 小さい声でマネージャー仲間の雷門が自然に名前呼びした音無に驚愕し、サッカー部勢の大半も同様に驚いている。

 

 それを知ってか知らずか、はたまた気にしていないのか。愉快そうに返答を待つ五条に向けて、音無の瞳がキランっと光った。

 

 

「…………すなわち!久々に私に会いに来た!!」

 

「はっはっは。寝言は寝て言いなさい」

 

「ひっどーい!!」

 

 

 ポコポコと五条の腹に拳を当てる音無に向けてわざとらしく声を出して笑ってみせる。

 

 あまりに親しげな様子に、この場のほとんどのメンバーがあんぐりと口を開けていた。気にしていないのは関係性を知っている鬼道と、『うちの妹とも似たようなことしてたな』なんて考えていた豪炎寺の2人のみである。

 

 

「………お、音無さん?名前呼びって………」

 

「しかも五条さんの方も名前で呼んでるって………」

 

「こ、これってもしかして、そういうことっすか〜っ!?」

 

「「いえ全く」」

 

「あっ、凄いあっさり否定したでやんす………」

 

 

 関わりがないと思っていた2人が名前呼び。

 しかもお互いに気の置けない親しげな様子。

 

 これはそういう事なのか、全国の中学生が一度は思いを馳せる、そういう関係なのか。

 

 

 雷門と木野のマネージャー陣と、音無と同い年の一年生組が興味津々に尋ねようとしたものの声を揃えて否定する五条と音無。それもそのはず、この二人は別に恋仲でも何でもないし、お互いにそんな気持ちは微塵も持っていない。

 

 

「じ、じゃあどういう………?」

 

「?勝くんは私のお兄ちゃんってだけですよ、夏未先輩!」

 

「あぁなんだお兄ちゃん………お兄ちゃん?」

 

『…………お兄ちゃんンンンーーーっ!!?』

 

 

 あっけらかんと兄であると言った音無に雷門が本日何度目かの驚愕の表情で聞き返す。そして言葉の意味がやっと呑み込めたサッカー部の男達が、目を点にしながら天を衝くような大声で叫んだ。

 

 そりゃそうだ。音無春奈は非常に可愛らしい少女で、男子からもモテる美少女。

 対して五条はというと、身長も高く身体付きも鍛えられているものの雰囲気としては怪しい売人やら悪の組織の幹部やら、そういったものが似合う男だ。とても兄弟であるとは思えない。

 

 

「あ、こっちの有人お兄ちゃんもお兄ちゃんです!」

 

『でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

 

「おい春奈、実の兄をついでのように説明するな、ついでのように」

 

「えーっとですね………色々勘違いなされているようなので説明しておきますが________」

 

 

 まさか3人兄妹だったなんて、と驚きを露わにする雷門中サッカー部。鬼道も否定すること無くついでのように紹介した妹にジト目で抗議し、音無もちろりと舌を出して「ごめーん」、と軽い謝罪をするのみ。完全に状況を楽しんでいた。

 

 そんな兄妹共の代わりに説明することとなった五条が額に手を当てながら、幼い頃孤児院で一緒だっただけである事、血が繋がっているのはこの2人だけで自分は血縁関係もクソもない赤の他人だと言うことを説明。

 

 五条と音無が兄妹、というインパクトに比べれば受け入れられたのか、雷門サッカー部も一応納得の表情を浮かべてくれた。

 

 

 

「………と、言う訳で。私はこの兄妹と仲がいいだけで血の繋がりなんかありゃしません。ここに来たのだって、神妙な顔で練習から抜けた彼を連れ戻しに来ただけですし」

 

「えー、『春奈に会いに来たよ』とかないのー?」

 

「言ったらどうします?」

 

「全身サブイボが出る!」

 

「クックック……クソガキ」

 

「お前らな………」

 

 

 アホなやり取りをする五条と音無に呆れたように注意する鬼道。だがその雰囲気は悪くなく、むしろ適度に弛んだ心地よい空間だった。

 

 

 

「…………ん?そういえば鬼道さんも五条も、なんでわざわざ降りて来てんだ?鬼道さんは謝りに来たけどそれは終わったみたいだし、五条は連れ戻しに来たんだろ?」

 

「あぁ、それは______」

 

「俺がサッカーやろうぜって誘った!」

 

 

 そんな中でふと、土門が首を傾げながら呟いた。

 

 元々鬼道がここに来たのは雷門への謝罪をする為で、それは円堂と話した際に済ませていたと言っていた。五条が来たのも、そんな鬼道を連れ帰る為だ。

 

 となれば、わざわざこうやって河川敷のグラウンドに降りてくる必要も無い。何でなのかと尋ねてみれば、帰ってきたのはあっけらかんとした円堂の返答だった。

 

 

「サッカーって………お前コイツら決勝の相手だぞ!?分かってんのか!?」

 

「分かってるさ!だから誘ったんだよ、こいつらとサッカー出来るのワクワクするだろ!!」

 

 

 

 すぐそこに迫った決勝戦の相手、普通ならばこちらの手の内を隠したいもの。それがなんで一緒にサッカーすることになっているのかと染岡が飽きれるが、宇宙にすら轟くサッカー馬鹿にはそんな理論は関係ない。ただ凄いプレイヤー達と一緒に楽しいサッカーをしたい、それだけだ。

 

 

「俺は賛成だぜ。鬼道も凄いやつなのは知ってるし、五条のサッカーは参考になるところも多いしな」

 

「だな。元々こっちにゃ隠すほどのものもないんだ。鬼道さんや五条の手の内見せてもらった方がお得だよねん」

 

 

 真っ先に賛成を口にしたのは、五条と特訓した経験のある二年生のまとめ役の一人、風丸。帝国で二人の凄さをよく知っている土門も、いい刺激になるだろうと賛成を口にした。

 

 だよな!と円堂が笑顔を浮かべると、そんな彼らに触発されたのか他の雷門メンバーも確かに、とポツポツ賛成し始める。

 

 

「おいおい、俺らが練習した方がいいんじゃねぇのか?」

 

「いや、染岡。帝国のプレーは基本がしっかり出来ているから参考にしやすい。それに、特に俺たちFWは見ていて損は無いはずだ………あいつのシュートはな」

 

 

 唯一染岡のみ、帝国のメンバーを加えることに懐疑的だった。自分の特訓に時間をあてたいらしい染岡に対し、FWでツートップを組むエースの豪炎寺がそう諭す。

 

 練習試合を経験し、尾刈斗との準決勝を見ていた雷門メンバーは帝国の凄さ………特に鬼道と五条の実力の高さはよく知っている。そんな彼らのプレーは間違いなく刺激になると言う豪炎寺だったが、一番気になっているのはやはり友人の彼だった。

 

 

「おや、買い被りすぎですよ」

 

「そうか?尾刈斗との試合では単独でのシュートは見ることが出来なかったが………お前のダークトルネード、俺のファイアトルネードと同格かそれ以上に見えたが?」

 

「ご、豪炎寺さんと同格!?」

 

「嘘だろ、そこまで………?」

 

 

 好戦的に笑いながら豪炎寺が放った言葉に、少林と半田が目を丸くする。

 

 それもそうだ、豪炎寺のファイアトルネードの凄さは雷門の仲間達が一番よく知っている。それこそ単純なパワーでは染岡に軍配が上がるが、総合的なクオリティや威力は豪炎寺のシュートが最も優れている。

 

 そんな豪炎寺が同格以上という五条のシュート。驚くなという方が無理な話だが、当の本人はいやいやと首を振っていた。

 

 

「昔っから使い込んでるから、体勢やタイミングが整ってるだけですよ。単純な威力なら、間違いなく君の勝ちでしょう」

 

「謙遜か?………いや、本当にそう思っているんだろうな。お前はそういう男だ」

 

 

 小さく豪炎寺が笑う。

 

 影山の策略のせいで妹が巻き込まれ、その結果知り合うこととなった五条。当初は申し訳なさもあって色々とおかしな態度を見せてしまったが、今ではこうして認め合える良き友人だ。

 

 

 

 そんな二人の様子を見ていた鬼道がふむ、と一つ考えて、円堂に顔を向けた。

 

 

 

「円堂からの誘いは嬉しいが、こちらも練習を抜けてきている身だ。あまり長い時間を共にすることも出来ない。それに、俺は今日サッカー用のシューズを履いてきていない」

 

「あー、そうなのかぁ………残念だな、お前ともサッカーしたかったのに」

 

「また別の機会に頼むよ、円堂。まぁとりあえず、時間も無いし俺はフルの実力は発揮出来ない。そこで、だ」

 

 

 

 ポン、と隣に立つ友人の肩に手を置いた。

 

 

 

 

「勝と円堂が一対一の勝負、と言うのでどうだ?」

 

「……………は?」

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

 

「よっしゃあ!!いつでもいいぜ、五条!!」

 

 

 

 円堂は心の底からワクワクしていた。

 

 目の前に立つ、慇懃無礼な笑みを浮かべた彼を見る。1年生の頃から、一度シュートを受けてみたいと思っていた相手。それが今目の前にいる、それが堪らなく嬉しかった。

 

 

「豪炎寺から、おまえがすっげー奴だって良く聞いてる!!こうやって勝負できて、嬉しいよ!全力でやろうぜ、五条!!」

 

「………えぇ、お手柔らかに」

 

 

 円堂の仲間であり頼りになるエース、豪炎寺。日本トップクラスのシュート力を持つ、世代屈指のFW。何度も練習で勝負して来た友人でありライバル。

 

 そんな豪炎寺が認めるシュートの持ち主。しかもDFだ。サッカーバカの円堂が戦いたいと願い、今こうして心躍らせているのも無理のない話であった。

 

 

 やる気マックスで笑う円堂。当然対戦相手の五条も、それに感化されて獰猛に笑っている…………

 

 

 

 

 

 

 

「(…………どーしてこうなった)」

 

 

 

 ………という訳があるはずも無く、いきなりの原作主人公との対決に心の中で白目を剥いていた。

 

 

「(まさかこんな形で対決することになるとは………というかなんだよ豪炎寺と同格のシュートって。今までの試合見てると本気のダークトルネードしても突破出来る気がしないんだけど)」

 

 

 今まで鬼道や音無と同じ孤児院、小鳥遊や比得の居る愛媛の施設。北海道の大会で吹雪兄弟や白兎屋に出会い、帝国に入って今のチームメイトたちと出会ってきた。

 

 そんな彼の人生の中では、リトルチームに所属しておらず単独でサッカーをやっていた円堂は会う機会が無かった。いちばん最初の邂逅になると思っていた練習試合は、影山の采配のせいでベンチにすら入れなかった。

 

 

 

「円堂守、か……………でっかいなぁ」

 

 

 思わずポツリと、誰にも聞こえない程度の大きさで呟いてしまう。

 

 

 身長的には五条の方が上だ。体格も鍛えられているが中学生の範囲を出ていない円堂は、大きさという意味では五条より一回りほど小さい。

 

 だがそうでは無い。円堂守という存在そのもの、彼の心とも言うべきものがとにかくデカい。

 

 今こうして目の前に立っている五条に、それが不思議と伝わってきた。

 

 

 

「(だけどプレッシャーとかじゃない。なんというか………心強いな。相対してるのに勇気が湧いてくる、そんな感じ………これが円堂か)」

 

 

 決して相手を威圧するプレッシャーではない。むしろ逆、リラックスさせるような暖かいもの。

 

 敵であろうと全力を出させる、そんな器の大きさ。誰よりもサッカーを愛している円堂らしい、本気のぶつかり合いを望む故の暖かなプレッシャーだ。

 

 

 

「それなら……………ただ打つだけなんて、失礼だ」

 

 

 あぁそうだ。ただシュートを打つだけ、試合ですらない一対一。

 

 それをここまでワクワクさせてくれる彼に、ただのシュートなんて失礼だ。物足りない。止められると分かっているシュートを打つなんて自分自身が許さない。

 

 

 挑戦したい。紛れ込んだ異物(今の自分自身)が、どの程度なのか。

 

 

 

「………フッ!!」

 

 

 構えを取りながら笑みを浮かべる円堂に笑い返し、シュート体勢に入る。

 

 

 姿勢を沈め、低い体勢でボールを踵から軽く蹴りあげる。そしてそのまま地面を削るように右足を反時計回りに一回転、揺らめくような黒い焔で辺りを包み込む。

 

 

「…………へぇアッ!!」

 

「………なんだと?」

 

 

 僅かに焔を纏った右足で、ボールを蹴りあげた。

 

 

 ここまではいい。ここまではいつものダークトルネードを丁寧にやっているだけだ。

 

 だがしかし、誰かから声がこぼれた。それは鬼道か豪炎寺か、はたまた他の誰かか。目に見える程にわかりやすい何かが、彼らの目に映っていた。

 

 

 

「………()()()()。いつもの勝のシュートの倍近いぞ?」

 

 

 そう、高い。高いのだ。

 

 

 蹴りあげたボールが、目で追わねばならないほど高い場所まで蹴り上げられた。その高さは、普段の五条や豪炎寺のシュート時の二倍近く。明らかに異常だった。

 

 

 

「(試合じゃ絶対に出来ない、妨害の懸念や効率性ガン無視の威力特化。非効率的だけど、俺が放てる文字通りの最高火力!)」

 

 

 焔揺らめく中で、全身のバネを総動員。全身の筋肉に酸素を送り込み、最高の状態で、最高のパワーを溜めて、溜めて、限界まで溜める。

 

 

 

「………今っ!!」

 

 

 ドンッ、という破裂音と共に五条が跳び上がる。爆ぜた空気が観戦している全員の間を抜けて走り去り、突風となって吹き荒れる。

 

 今まででは考えられないほどの高速回転を以て、空中を駆け上がっていく。揺らめく焔が螺旋階段のように渦を巻き、黒い嵐の如く蒼穹を塗りつぶす。

 

 

 タイミングは一瞬、外す可能性の方が圧倒的に高い。だが外す気は毛頭ない。

 

 

 唯一無二の親友が、兄だと慕ってくれる義妹が、自分を認めてくれるストライカーが、本当の居場所を見つけた友人が、これから共に歩む雷門のみんなが見てくれている。外すなんてダサすぎる。

 

 

 それに、だ。

 

 

 空中、落ちてきたボールを蹴り抜く瞬間。

 

 

 眼前で最高の笑みを浮かべている、彼を見て。

 

 

 外す訳には、いかないだろ。

 

 

 

「ダークトルネード_____改ッ!!」

 

 

 ボールがくの字にひしゃげる。渦巻く焔が全てを焦がす。

 

 轟音と共に打ち出されたその一撃は、獄炎と共に宙を切り裂き進む。さながら黒い稲妻のごとく、ただ真っ直ぐに彼を目掛けて。

 

 

 

「________ゴッドハンドォッ!!」

 

 

 全てのエネルギーを右手に集結させ、凝固。

 

 今まで幾度となくチームを救ってきた神の手を顕現させ、最高の笑みと共に突き出した。

 

 

 

 黄金の輝きと、黒い暴雷が衝突する。片や全てを包み込み止めてみせんとし、片やその神の手すらも食い破ろうと荒れ狂う。

 

 

 

「「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」」

 

 

 

 全身全霊、ただ威力を突き詰めた一撃同士の激突。

 

 

 削りあって霧散したエネルギーが綯い交ぜになって極光となり、眩く光る。あまりの眩しさに目が眩むが、それでも誰も目を離そうとしなかった。

 

 

 円堂の足が一歩、後ろに下がる。

 

 

「っ!負けるかァァァァァァ!!!」

 

 

 押され、足元に土色の電車道が生まれる。だがそれでも、円堂は笑って叫んでみせる。

 

 

 あぁ、楽しい。本気と本気でぶつかり合う。お互いがお互いを尊敬し合い、それでもなお負けたくないと吠えるこの時間。GKにとって、円堂にとって何者にも代え難い時間。

 

 

 あぁ、だけど。終わってしまう。

 

 

 

 眩い光は徐々に収まり、荒れ狂っていたボールはしゅるしゅると力なく緩やかに回る。

 

 

 

「止めた!!」

 

「やった、円堂!!」

 

「いや………待って」

 

 

 彼の右手に収まったボールを見て、雷門のメンバーが自分たちのキャプテンの勝ちだと拳を握る。

 

 しかしすぐさま松野が否定。真っ直ぐに視線が注がれたのは、円堂の足元の電車道。

 

 

 シュートに押し込まれた円堂の電車道は、白いラインに完全に交わっていた………つまり、円堂は完全にゴールエリアの中まで押し込まれていた。

 

 

 

「押し込まれてる!?」

 

「そんな、じゃあキャプテンの………!」

 

「………見事だ、円堂」

 

「………え?」

 

 

 完全に押し込まれた。円堂の負けだ。

 

 そう言おうとした瞬間、鬼道は獰猛な笑みと共に彼を賞賛した。

 

 

 

 

「______全力だった。試合じゃ絶対に出来ない、最大限に時間を使いまくっての最高威力だった。タイミングも完璧だったと思った」

 

 

 

 しゅるしゅると回っていた右手のボールが、ポトリと落ちる。

 

 

 

 

 

 

「あーあ。負けかぁ」

 

 

 

 ()()()()()()()()白黒のボールを見て、彼は悔しそうに呟いた。

 

 

 

 

「………最っ高のシュートだったぜ、五条!!」

 

 

 

 にっ、と笑う円堂。

 

 届かなかったその壁が、なんだか酷く心地よかった。

 

 

 

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