イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!! 作:ハチミツりんご
「…………五条が止められた!?」
帝国学園内に複数存在するサッカー部専用グラウンド。その数は優に10を超え、芝生は勿論室内用や敢えて荒れたグラウンドなど種類も多様だ。
そのうちの一つ、フットボールフロンティアの本戦用に調整されたグラウンドにて、一人の選手が驚きの声を上げた。
「あぁ。かなりギリギリの勝負だったが、ゴールラインを割れなかった。久しぶりに勝が止められるのを見たよ」
「………マジかよ、源田ですら本気のダークトルネードを止めるのは稀なんだぞ?しかもブロックが入ったり、距離があったりする時だけだ………フリーの五条を止めるとか、どんだけだよあのバンダナキーパー」
畏敬の念を通り越して最早呆れるしかない程に驚きを見せる男、2年DFの万丈。普段から物静かだが確かな実力と視野の広さで一軍を支える、帝国DF陣の一人だ。
そんな彼に親友が止められたことを愉快そうに話すのは、キャプテンの鬼道。つい最近まで思い悩むような表情を見せていた彼だが、今日は随分と明るい。
吹っ切れることがあったのか、それとも悩んでいたものが解決したのか。
ともかく調子が良さそうな鬼道が話しているのは、昨日行われた一対一の勝負。雷門キャプテンである円堂と、帝国の中心人物の一人である特待生、五条の話だ。
「なんだか過大評価されてる気もしますけど、私DFですからね?本職のFWでも無いんですし、止められもするでしょう。源田を抜けるのは、ただ単純に彼が十全にフルパワーシールドを発動させないタイミングで打ってるだけですしねぇ」
「出の早い源田の技をそうやって押さえ込めるだけで十分脅威なんだよ。嫌味かお前」
鬼道と万丈の会話に割って入ったのは、話の当人である五条だ。
本来DFの一員である自分が過大評価されすぎではないか、と肩を竦めて告げるものの、万丈から呆れ混じりに否定される。
本人曰く『幼少期から特訓を続けているから必殺技の使い方に慣れているだけ』との事だが、そもそもDFなのに前線に駆け上がって得点を決めてくるわドリブルでディフェンスをぶっちぎるわ、守備をすればカットもブロックも十全にこなせるのだ。それだけで五条という男の実力が伺えるというのである。
「つーかマジで止められたのかお前。キックミスったとかじゃなくてか?」
「キックミスどころか、実戦で使い所ないくらいギリっギリまで溜めて打ちましたよ。それで止められたんですから、まともにやったら私じゃ円堂くんを抜けないでしょうねぇ………」
「………こりゃ厄介だな。雷門のDFもかなりやる、それを突破した上で五条を止められるあのバンダナキーパーを抜く、か………デスゾーンじゃ厳しいかもな」
今一度止められたのかと万丈が問えば、普段以上の威力で打ったのに止められたと五条が首肯。
現状の帝国学園で、個人シュートに最も秀でているのは五条だ。当然FWの寺門や佐久間もシュート力はあるし、鬼道や咲山といった中盤の攻撃陣も負けてはいない。
ただし、単純な必殺技の火力では五条の【ダークトルネード】が帝国内で最も高いのが現実だ。
エースストライカーである寺門は個人シュートよりも連携に重きを置いており、佐久間も身体を張ったサポート能力が売りのFW。咲山もドリブル突破が本職であるのでシュート力はFW組には譲るし、鬼道は個人シュート技を持っていない。
とどのつまり、五条が止められた時点で帝国レギュラー陣の個人シュートでは円堂守を突破出来ないことが証明されてしまったのだ。
「デスゾーンなら火力は出るだろうが………飛び上がる故に悟られやすい。円堂単独ならまだ可能性はあるが、3番や9番………壁山や松野といったシュートブロック可能な面々に妨害されると厳しいだろうな」
「と、なると…………やっぱ皇帝ペンギン2号が軸だな。守備に関しては俺や大野、辺見で詰めておくから、鬼道と五条は攻撃時の連携なんかを頼む」
空中に3人が跳び上がるという技の性質上、デスゾーンは使用時に敵に悟られやすい。並の敵程度ならそんなの関係ないとばかりに蹴散らせるのだが、相手はあの雷門だ。壁山や松野がブロックに入ってきた場合、円堂を超える火力が出せるかと言われると頷けなかった。
そうなれば、一番現実的な手段は対雷門中用に新しく生み出した【皇帝ペンギン2号】だ。
地上から放つ上に特に派手なモーションもなく、指笛でペンギンを呼び出した後はすぐさまシュートに入るためデスゾーンよりも悟られにくい。威力もデスゾーンより上であり、仮に壁山のブロックが入ってもゴッドハンドを破る事が出来る自信があった。
それに、これはシュート技一つに限った場合の話だ。帝国の真骨頂はその手数の多彩さ、仮にダークトルネードが止められたとしてもそこに寺門や佐久間、辺見などのシュートをチェインすれば十分に火力を出せる。ただ単にフォーメーションに大きな変更を加えず応用が利きやすいのが皇帝ペンギン2号、というだけだ。それ以外にもやろうと思えば幾らでも方法がある。
「良いのか?お前達の実力を疑う訳じゃないが、雷門は強敵だ。特にあの攻撃陣は厄介極まりない、勝を攻めに偏重させると、負担が増すぞ」
「ぶっちゃけた話、雷門との決勝で無失点は不可能に近いだろうけどな。雷門は正統派のチームだが、攻撃力は全国でも有数だろ?そういうチーム相手に守りに入ると主導権を握られる。それに乗せると怖い連中だ、勢い付く前に点差付けて引き離すやり方がいい気がする」
「……………………」
「そうだな………ほかのメンバーとも相談して………ん?勝、どうかしたか?」
万丈と決勝の作戦について話していた鬼道が、ふと足を止めて五条を見やる。
普段ならば戦術話に口を出すのだが、不思議な事に何も言わなかった。帝国内でも五条は確かな戦術眼と高い発想力を併せ持つ選手であり、鬼道や佐久間といった面々と共に作戦を考えることが多い男だ。
疑問点や改善点があれば口に出すだろうし、仮に鬼道達が納得のいく答えを出していたとしても同意等を口にするはず。そんな彼が黙ったまま、というのが鬼道には少し引っかかった。
「………いえ、なんでも。早いところ寮に戻って作戦詰めましょう、あまり遅くなると袴田さんに御迷惑でしょうし」
そう言って五条は鬼道と万丈の隣に並ぶ。表情は雰囲気は普段の彼と変わらないものに見えたが、何か違和感を感じる。
少しの間親友をじっと観察した鬼道は、ふと五条の視線の向く先に気がつく。
使用中を意味するランプが点灯した、帝国一軍寮にほど近い7番コート。最近頻繁に使われているその場所で練習している人物は、鬼道もよく知るチームメイト………エースストライカーと、正ゴールキーパーの二人だ。
「………勝」
「はい?」
長い付き合いの親友が考えていることだ、鬼道が五条の考えている事を察するのは容易だった。
ポンッ、と五条の背を軽く叩く。誰よりも不可思議なこの友人の事は、鬼道自身が誰よりも理解している。時折自分にも黙って動く事もあるが、彼の行動や思考の基本は他者の為だと言う事もだ。
「単純な付き合いなら俺とお前が一番長い。サッカープレイヤーとしての実力も、友人としても、最も信頼するのはお前だ」
「はぁ………ありがとうございます、と言えばいいんですかね。どうしたんですか突然」
急な鬼道からの言葉に、五条は思わず気の抜けた返事を返す。
齢5歳の頃、あの孤児院で偶然一緒になった鬼道と五条。その後程なくして五条は影山の手引きで愛媛の施設へと移動したが、その友情は途切れることなく。互いの人生において最も信頼出来る相手として、今では二人揃って帝国学園の中心となっている。
「だが………単純なサッカー歴でいえば、アイツらはお前より長く俺と共に同世代のトップとして走り続けた男達だ」
「………!」
「フッ………あの二人をあまり舐めるなよ?アイツらは………寺門と源田は、お前が合流するより前から俺が認めた実力者だ。必ず形にしてみせるさ」
だが、そんな五条よりも早く鬼道と同じチームでフィールドを駆けてきた選手がいる。
五条が愛媛の施設で小鳥遊や比得と共に切磋琢磨している間、鬼道も同様に寺門や源田、大野と共にその実力を磨き続けてきたのだ。単純なサッカープレイヤーとして見れば、この3人は五条以上に鬼道と歩んできたことになる。
そんな彼らの事を、鬼道は信頼している。その厚さは積んできた年月の分、並大抵のものでは無い。
彼らが悩み、歩むべき道を模索してさまよっているとしても。必ず正しい道を選び抜くと鬼道は知っていた。
「………ククッ………そうですね。私が気にし過ぎるのは彼らに対して失礼か………ありがとう有人」
「いや、そうやって他者を気にするのはお前の美点だろう。それはアイツらも分かっているさ。ただ、お前は他人を気にすると自分を蔑ろにしがちだからな………それでは、雷門には勝てないぞ」
「えぇ、そうですね。彼らと最高の試合をするためにも、私も自分の実力向上に努めなければ」
他者を気にかけ、共に悩むのは確かな優しさの表れだ。
しかし共に信頼し合う相手の場合、時には信じて放っておく………それもまた信頼の表れだ。示し方が違うだけ、そのどちらも相手を深く理解しているからこそだ。
だが他者を気にし過ぎる事で、自分の特訓を疎かにしては雷門には勝てない。彼らは必ず成長して帝国学園の前に立ちはだかる……それも驚異的な速度で実力を伸ばしながら、だ。
特に五条は人を気にかけると自分の事を横に置いてまでそれを解決しようとする。それを知っているが故の、鬼道からのアドバイスだった。
「あぁ、お互いにな…………ん?万丈、どうかしたか?」
「………いや。一周まわって呆れそうな程の信頼関係だなと思ってただけだよ」
「クククッ………そうですね。有人ほど信頼出来る相手も稀ですねぇ………小さい頃から知ってるってのもありますけど」
「そうだな。俺も勝ほど信頼している相手は居ないな………勿論、帝国のメンバーは信頼しているがな。さぁ、早いところ対雷門戦の戦術を練ろう。どうせなら佐久間も捕まえるか」
そうして3人は寮に向けて歩き始める。チームメイトを信じて、彼らと共に雷門に勝つための作戦を練るために………。
☆☆★
「百烈ショットV3ィィィ!!」
「フルパワーシールドV2ッ!!」
寺門の放った全力の連撃を、源田もその全てを以って迎え撃つ。
生まれ持った長い手足と、それを最大限に発揮出来る様に磨いてきた柔軟性。鞭のようにしならせた利き足から放たれる全力のキックを余すこと無くボールに伝える技術。
それを百度、寸分の狂いもなく叩き込む寺門の百烈ショットは、正しくエースストライカーの必殺の一撃だ。帝国学園でもトップクラス、単独シュート技としては五条のダークトルネードにすら並び立つ。
だがしかし、源田幸次郎の誇りの障壁はそれすらも超えた領域に踏み込んだ。
ただエネルギーを溜めて放つのではなく、両拳にそれぞれ充填したパワーを掛け合わせ、倍化。
加算では無く乗算。
エネルギーとエネルギーとの共鳴によって引き出された本気のフルパワーシールドは、半円状にペナルティエリアを覆ってなお余りある力を残していた。
上空より急降下する形で迫り来る寺門のシュートを極厚の障壁が受け止める。
並のGKでは止めるどころか拮抗すら許さない帝国エースストライカーの一撃を前にしても、源田のフルパワーシールドは揺らぐことは無かった。
回転するボールと障壁がぶつかり削り合うような音が暫く響き、耐えられなくなったボールが弾かれる。
「…………また強度上がってんな」
「当然だ」
コート外へと飛ばされたボールを一瞬目で追いながら、寺門が呟く。
元々パワーシールドの出力を限界まで高めて放つ源田のフルパワーシールドは、歴代帝国GKの中でも図抜けた堅牢さを誇っていた。
しかし今のフルパワーシールドは、以前とは比べ物にならない程の硬さを見せつけた。
今の源田なら、皇帝ペンギン2号すら止められるかもしれない。少なくともデスゾーンでは万に一つも得点は望めないだろう。
寺門が感じた素直な感想だった。
「そういうお前の百烈ショットも、無駄が消えてパワーも速さも上がっている。実戦で使われたらパワーシールドで対応するしかないだろうな」
「ったりめぇだ。なんでもフルパワーシールドで対応されてたまるか」
しかし、寺門もただシュートを放っただけでは無い。
愚直な反復練習によって必殺技のフォームを逐一確認、細かな修正を継続。威力の向上はもちろんの事、以前と比べてより効率良く、より素早く技を繰り出せるようになっていた。
互いの進化を確認し合い、共に認め合う二人。鬼道有人という天才と同じ場所で戦ってきた二人だからこそ、細かな成長を見逃すことなく感じ取れた。
「だが………」
「あぁ………」
『全然足りないっ………!!』
だがしかし。
足りない、全くもって。
鬼道有人という天才と共に戦うものとして。
五条勝と共に歩むチームメイトとして。
そして何よりも、あの雷門に打ち勝つ為。
今の自分では、欠片も満足出来なかった。
「………あぁっ、クソ!!取り敢えずもう一カゴやんぞ!!手ぇ持つか源田!?」
「舐めるな、三カゴいくぞ!」
考えは纏まらぬままだが、何もしないのは性に合わない。帝国らしくは無いかもしれないが、サッカープレイヤーらしくがむしゃらに身体を動かしてみるのも悪くは無いだろう。
自身の提示した3倍の量でもこなして見せると豪語する源田にニッ、と笑みを向けつつ、寺門は新たなボールカゴに手を伸ばすのだった。
☆☆★
「_______なんだ、思ったより元気そうだな」
「だから言ったろぉ?アイツら意外にタフだってよ!」
寺門と源田の練習するコートを外から眺める二つの人影。
片方は水色の長髪に眼帯をした、中性的な顔立ちの少年。寺門と共に帝国学園のFWツートップを務める、三軍から這い上がった不屈の男。
もう片方はゴーグルと一体化したヘルメットをかぶった山の如き大柄の少年。古馴染みのチームメイトである鬼道らと同じく、一年次から一軍メンバーとして帝国を牽引してきたパワーブロッカー。
『佐久間 次郎』と『大野 伝助』。共に帝国学園スターティングメンバーとして戦ってきた人物である。
「新技作れなくてへこんでるかと思って見に来たが………必要無かったな」
壁に背を預けながら呟く佐久間。
雷門の円堂、尾刈斗の鉈にほぼ完璧に個人シュートを止められ、FWとして悩んでいた寺門。
完璧と思われたフルパワーシールドを破られ、GKとしての自身の力不足に憤っていた源田。
因縁である雷門との再戦も近い。そんな時期でも未だに新技が完成していない二人が無茶をしていないかと見に来てみたが、どうやら彼の杞憂に終わったらしい。
「だから言っただろ?アイツらそんなヤワじゃねぇんだよ」
チームメイトとして、仲間として心配していた佐久間だったが、そんな彼に向かってガッハッハッと笑う大野。
佐久間の付き添いとして2人の様子を見にやってきたが、どうやら彼はさほど心配しては居なかったようだ。
「………にしても意外だな。お前が一番心配するかとも思ってたんだが」
「んぁ?俺が?」
その場を離れ、暫く帝国学園のサッカー部専用練習棟を歩く佐久間と大野。
寮に戻るか、どこか空いているコートで自主練を始めるか………そう思っていた矢先、佐久間の呟きに大野が反応した。
「鬼道さんもだが、お前も寺門や源田とは付き合い長いだろ。てっきり一も二もなく声掛けに行くかと思ったけど………意外に冷静なのな」
「んだよぉ、人のこと薄情者みたいに言いやがって!まぁ確かに、大して心配してねぇけどよ」
「結局してねぇのかよ」
今の帝国一軍メンバーの中でも、大野は入学当初から一軍でレギュラーとして活躍している古株だ。
特に鬼道、寺門、源田の三名とはリトル時代から同じチームのメンバーとして、日本のトップを走り続けてきた。
仮に五条が合流しなかった場合、最も信頼の厚いDFは彼だっただろう。それに見合うだけの実力を大野は持っている。
その為、古くからの友人であり仲間である寺門や源田のスランプを心配していると思っていた佐久間だったが…………大野はどうにも違うらしい。
「逆に心配するほどか?あの二人、そんなにヤワじゃねぇよ」
「心配するだろ。俺が合流したのは五条が怪我から復帰して少し後くらいだったけど………あんな寺門と源田、初めて見たぞ」
リトルではワンマンチームのエースとして鬼道達が率いるチームと戦い、惨敗した過去を持つ佐久間。
帝国サッカー部の入部試験もギリギリ、三軍という立場からここまで登り詰めた彼だからこそ、寺門と源田という2人の実力はよく分かっている。
現時点でも日本指折りの選手であろう二人があそこまで根を詰めて練習に打ち込み、なお辿り着けない領域。
それがどれだけの物なのかは分からないが、寺門と源田の努力量は並のものではない。
サッカープレイヤーたるもの、怪我というのは常に付き纏う問題だ。あの二人が怪我をして戦線を離脱すれば、雷門との戦いを前にして大きな戦力ダウンとなるだろう。
………何より佐久間自身、友人として、また仲間としてあの二人に怪我をして欲しくないという思いがある。
そんな佐久間の気持ちを知ってか知らずか、大野は後ろ手に頭をボリボリと掻きながら「あー」とボヤいた。
「つっても、俺がアイツらに介入して何か出来る訳でもねぇしなぁ。佐久間もだろ?」
「それはまぁ………俺は寺門とはそもそものプレースタイルが違うし、今の源田が求めてるのは高威力のシュートだろうから、俺より寺門や恵那さんのが良いだろうし」
「俺が入っても源田のキーパリングにアドバイス出来るわけでもねぇし、そもそもFWの寺門にシュートのアドバイス出来るわけでもねぇしな。つかDFの癖にFWばりのシュート打って点取ってくる五条がおかしいんだよ、なんだあのメガネ」
「それは俺も思う」
脳裏にいつもの慇懃無礼な笑みを浮かべ、クックックッ………とピースサインを浮かべる友人の姿が浮かぶ大野と佐久間。良い友なのだが、どうにも色々規格外な所がある。
それは兎も角として、大野の言葉は最もだ。ポストプレーを主体とするサポート型のFWである佐久間と、典型的な鈍足パワーブロッカー系DFである大野。彼等では寺門と源田の二人が求める有益なアドバイスは出来ない、というある種の確信のようなものがあった。
「寺門も源田も、全体的に纏まってるバランス型だしな。多分なんかが足りねぇんじゃなくって、発想とかメンタルとか、もっと根本的なとこだ。つーかキック力とかスピードとか、そういうのが足りねぇんだったら真っ先に自分で気が付くだろ、アイツらなら」
大野や雷門の壁山、尾刈斗の不乱といったスピードよりもパワーを重視するような重量型タイプ。
雷門の風丸はもちろん、近畿の戦国伊賀島の選手達に多いトップスピードで相手を翻弄するスピードタイプ。
身体能力よりも後天的に身につけられる技術を重視し、細かなテクニックで相手を翻弄する曲者タイプ。
選手として、殆どの選手は何かしらに秀でる事が多い。
そしてその大きな理由は誰でも何かしらに秀でている………のでは無く、その逆。
パワーには秀でても、スピードとテクニックは無い。
スピードには秀でても、テクニックとパワーは無い。
テクニックには秀でても、パワーとスピードは無い。
そんな選手が全体の殆どを占める中、寺門と源田は違う。
パワー、スピード、テクニック。試合経験値に勝負強さ、駆け引きの上手さ等、あらゆる面で秀でている本物のバランス型。
しかも才能にかまけている訳ではなく、日々努力を怠らないプレイヤーだ。そんな彼らの事だ、身体能力やテクニックが足りないとも思えない。
つまり、彼等に必要なのはもっと別のもの。それも自分や佐久間が介入した所で意味の無いものだと大野は思っていた。
「んでもって、
「………………」
「んだよ、その意外そうな目は!」
大野は知っている。寺門大貴という男の強さを、源田幸次郎という男の諦めの悪さを。
だから大丈夫、あっけらかんとそう言ってのけた大野に思わず目を丸くする佐久間だった。
それが不満なのか肘で佐久間を小突く大野に、それを迎撃しつつ笑みを浮かべた。
「いや、お前でももの考えてんだなーって思っただけだよ」
「んだと佐久間テメェ!!」
「うわっ!やめろゴリラお前、ギブギブッ!死ぬっての!!」
心外だと言わんばかりに佐久間にヘッドロックを掛ける大野。佐久間ももちろん鍛えてはいるものの、大野とはあまりにも体格が違う。
抵抗するものの為す術なくギリギリと締め付けられ、彼の腕を叩いてギブを宣言する。
その様子は実に中学生らしいもの。しかし大野がふっと拘束を外すと、勢いよく佐久間の背中をドンッ!と叩いた。
「ってぇ!?」
「なっはっは、わりぃわりぃ!まぁ、アレだ!アイツらが悩んでる時こそ、俺らが支えてやんねぇとな!!」
「!」
佐久間は寺門と同じFWのツートップ。
大野はゴール前で源田を支えるメインブロッカー。
チームの軸を担う二人が大変な時こそ、自分たちが支えてやろう。気負った様子もなく当たり前にそう言った大野に少しばかり驚きつつ、佐久間は返すようににっ、と笑った。
「あったりまえだ。誰に言ってんだ、よっと!!」
「おおっ!?中々いってぇな!鍛えてんなぁ佐久間ぁ!」
「メニュー増やしてるしな、そのうちお前にパワーで勝ってやるよ」
かつてとは比べ物にならない程に鍛えられた佐久間に思わず大野が唸ると、不敵に笑って大野を挑発する。
体格は大野の圧勝だが、体格がパワーの全てではない。将来的に彼が大野を上回るパワーファイターになっても何もおかしくはないのだ。
…………大野にパワーで勝つ佐久間という図は中々にシュールなものではあるが。
ちなみに帝国内では大野や兵藤といったガタイのいい面々はもちろん、咲山や万丈もかなりのパワー自慢だ。
イメージには無いが五条さんも相当パワーのある選手である。背が高くよく鍛えられた肉体を誇っており、休日に行われた帝国一軍寮腕相撲大会にて大野と競り合った猛者なのだ。
「んだとぉ、唯一の長所で負けてたまっか!!なんなら今からトレーニングルーム行って勝負すっか?」
「おっ、やるかぁ?折角だし寮によって他の連中も誘おうぜ」
「良いな!勝ったやつ、この間鬼道ん家が差し入れしてくれた奴の残り貰うでどうだ!」
「はぁ〜?なんだそれバカバカしい」
「お?嫌か佐久間?」
「俄然やる気出るわ」
「出てんじゃねぇか!!」
ゲラゲラ笑いながら寮への通路を歩いていく二人。苦楽を共にしてきた仲間同士、掛け替えのない絆が育まれているらしい。
この後、寮に戻っていた鬼道や五条、万丈も交えて開かれたパワー自慢大会は白熱の接戦。
そんなことは露知らず景品の高級プリンを勝手に食べた兵藤が、全てを終え帰ってきた一同によって処されるまで続いたのだった。
「帰ってきたらゴリラがゴリラをバックブリーカーしてる地獄絵図だった」、と後の洞面が語っていたのは秘密である……………。