イナズマイレブン! 脅威の転生者 ゴジョウ!! 作:ハチミツりんご
更新したから許して(震え声)
『ゴォォォォォォーーーーールッ!!!大巨人中のゴールネットがまたもや揺れたァ!!背番号5番の五条くん、DFながらこの試合既に2得点をあげております!!』
「強いな…………」
部室に置かれた古いテレビから流れる音声に、誰かがボソリと呟いた。
テレビの画面には昨年行われたフットボールフロンティア、それも東京地区予選の映像が流れている。
組み合わせは『大巨人中vs帝国学園』。今しがた、見覚えのある慇懃無礼な笑みを浮かべたDFがセカンドボールを拾ってゴールに押し込んだ所だ。
「この間の尾刈斗との試合の時も思ったがよぉ、コイツの反応速度何なんだ?気持ち悪ぃくらいボール拾ってんぞ」
「基礎練習の長さと反復の多さだろうな。厳しい練習を緩むこと無くこなし、染み付いた感覚が瞬時にボールの方向を察知するんだろう」
「考えるより先に身体が動くってやつ?えっげつないな〜………」
フットボールフロンティア東京地区予選の決勝が間近に迫っているこの日、雷門中サッカー部の部室には数人の生徒が思い思いの体勢で座っていた。
その中で
半端では無い基礎練習の賜物だという彼の答えに、松野が思わずえげつないと零す。一体どれだけの時間を練習に当てればそうなるのか。幾ら器用な彼でも軽々と習得出来る領域では無いだろう、そういう所に五条という選手は居る。
「何か動きの癖でも探れれば………って思ったけど、特に見当たらないのがなぁ」
「もっと接戦だったなら見えてきたかもしれないが、この試合は帝国の圧勝だ。手を抜いているとは思えないが、限界ギリギリの力を出している訳じゃない」
「そう、だね………帝国は、かなり余裕が見えるし…………」
辟易したかのような半田の呟きに豪炎寺が応えると、悩ましげに影野もポツリと言葉を零す。
大巨人中は決して悪いチームでは無い。その名の通り高身長の巨漢選手が多く集まった学校で、パワー勝負ならば全国区に位置するチームだろう。
しかし、王者帝国の実力はそれを遥かに上回る。あらゆる面で大巨人中を圧倒し、心をへし折りに掛かっていた。
ダメ押しと言わんばかりの寺門のシュートがゴールネットを揺らした時、豪炎寺は映像を止めて部室内にいるメンバーを見回した。
「見ての通り、帝国は殆どの試合を圧倒しているからか本気を出した場合のデータが少ない。マトモに役立ちそうなのは、それこそこの間見た準決勝の尾刈斗戦くらいだろう」
室内に居るのは、豪炎寺を中心に染岡、松野、半田、影野の5名。円堂と共に昨年度から雷門中サッカー部に在籍している面々だった。
現在雷門中サッカー部は、迫る帝国との決戦に向けて特訓の日々に明け暮れている。
円堂は最近監督として加入した老将、雷々軒の店主にして元イナズマイレブンキャプテンである【響木 正剛】に特訓をつけてもらっており、風丸と土門の二人もその手助けに。
一年生4名は、帝国戦までに少しでもレベルアップしようとイナビカリ修練場にて特訓している。その際、未だに身体能力面で劣る二年生部員の目金も巻き込まれたらしく、時折彼の悲鳴が遠く響いてくる。
その中で彼ら5人は、何か帝国への有効打を思い付かないかと自主ミーティングを行っていた。
少しでも特訓したい気持ちもあるが、ガムシャラにやっても帝国には勝てないだろう。そう思い、少しでも情報を得られないかと話し合ってる。
「やっぱ中心は鬼道と五条だな。ここ二人を抑えるってのが先決か?」
「でも他のメンバーへの警戒疎かにしたらまずくない?そう簡単に御せる相手じゃないよ」
「中盤キッツイなぁ………鬼道を注視しても咲山と洞面の両サイドの突破力凄いし、カバー範囲の広い辺見が補助してくるぞ」
「かといって下がり過ぎると攻め手が俺と染岡に絞られる。負けるつもりは毛頭ないが、必然的に得点チャンスは減る事になる」
帝国の要は中盤を牛耳る天才ゲームメイカーの鬼道、そして類まれなる守備力と対応力でこちらのチャンスを潰して帝国のカウンターの起点を生み出す五条の二人。それは紛れもない事実だ。
しかし帝国の選手は一人一人がトップクラス。個々人の能力の高さと緻密な連携によって攻め上がってくる姿は、王者の名に相応しい実力を誇る。
かといって守備を重視すれば、五条を筆頭にしたディフェンス陣が雷門のFWコンビを潰しにかかる。幾ら豪炎寺と染岡でも、帝国ディフェンス相手に数的不利ではそう易々とシュートに行くことも難しかった。
「…………栗松を頭から出すのは、どうかな…………」
「栗松を?」
何かに特化した訳では無い、全てにおいて優れている帝国の強さの由縁だ。その総合力の前にどうしたものかと頭を悩ませる面々だったが、ふと影野が声を上げる。
現在、雷門中サッカー部所属の選手は13名。その中でレギュラーから外れてベンチスタートしているのは、未だ総合的に実力とスタミナの足りていない目金。
そしてガッツはあるものの小柄な体格故に土門とレギュラーを交代した1年生DF、栗松 鉄平。この二人だった。
「確かに、栗松を入れりゃ攻め手は増えるな。ドリブル技も使えっし、風丸程じゃねぇがスピードもある」
「でも誰外すの?攻め手増やすって考えたら宍戸や少林を下げるのは結局変わらないってことになるし、DFにも空きは無いでしょ」
腕を組みながら、染岡が確かにと頷く。
体格こそDF向きとは言い難い栗松だが、持ち前のガッツで絶えず走り回ることの出来る選手だ。チームでは風丸や少林と言ったスピード型の選手に次ぐレベルの足もあり、確かに彼を加えたら突破要員として活躍してくれるだろう。
しかし、サッカーのレギュラーは11人。GKの円堂を外すなんて有り得ないし、エースである豪炎寺、点取り屋となる染岡のFWコンビも同様。
ならば突破力を活かしてMF、とも思うが、総合的な実力を考えれば松野と半田の二人を外すのは悪手である。かといって同じ一年と宍戸か少林と変える場合、わざわざ栗松でなければならない理由は無い。それなら少林に前半を走り回って貰って、後半から栗松にバトンタッチする形にすればいいだけだ。
そして本職のDFにも、チーム一の俊足を誇る上にブロックにドリブル、挙句シュート技まで持つ風丸に元帝国DFにして圧倒的なサッカー経験値を誇る土門。
ザ・ウォールを皮切りにパワーDFとして覚醒し始めた壁山に、静かに敵からボールを奪い取る能力に優れDF組を纏めてくれている影野。
この布陣をわざわざ崩すほどではないのではないか、と松野が口にすると、影野は小さく笑いながら頭をゆっくりと横に振った。
「…………俺が下がるよ」
「…………マジで言ってんの、影野」
自分が下がる。
即ち影野自身がスターティングメンバーから外れるという事なのだが、松野だけでなく他の3人も同様に目を丸くした。
影野は雷門中DFの中ではただ一人昨年度から在籍している男だ。当然一年間豪炎寺の特訓を受け続けており、初心者だったとは思えないほどに実力を伸ばしてきた。
特に昨年度からサッカー部に籍を置いているメンバーは、豪炎寺と染岡は最前線で点を奪うFW、松野と半田も中盤の要として前に出ることが多く。
挙句GKの円堂ですら駆け上がってシュートに行くなど、全体的に攻めに偏重している中で数少ない守備型の選手だったのだ。
そんな影野がベンチに下がる。
それはつまり、円堂と共に攻撃陣の背中を支え続けた功労者を下げるということでもあった。
「影野が下がるって………それ不味くないか?」
「あぁ。栗松には悪ぃとは思うが、攻め手が1つ増えるだけなのに対してデメリットがデカい。お前がいなくなる穴の方がキツイんじゃねぇか、影野?」
すぐさま反応したのは半田と染岡の二人。影野という男の頼もしさをよく知る二人は、彼がベンチに下がる方がマイナスが大きいと反対意見を述べる。
帝国に勝つ為には、影野が必要。言外にそう述べる半田と染岡に、松野は無言で首肯する。それほどまでに、彼等にとって影野の存在は大きかった。
「………お前自身の意見だ、俺は否定しない。だがもし栗松を哀れんで試合に出そうとしているなら、それは他ならぬ栗松自身への侮辱だ」
「うん、分かってる。そういう意味じゃないよ………栗松は良い選手だ。あのガッツにはよく助けられてる」
唯一豪炎寺だけは影野の意見を真っ向からは否定せず。
栗松を下に見るような意図は無い、と知った豪炎寺は、一つため息をついて作戦やフォーメーションをまとめたファイルを開く。
「とにかく、スターティングの相談は円堂達や響木監督も交えて改めて話し合おう。一応、影野抜きのフォーメーションも幾つか考えておく」
「………ありがとう、豪炎寺」
影野の礼に、軽く手を振って答える豪炎寺。
それを最後に二人は帝国戦に向けた分析に戻り、半田と松野も仕方無し、といった表情でそれに追随する。
「…………………」
そんな中でただ一人。仲間想いの不屈のストライカーだけが渋い顔を浮かべていた。
☆☆★
「おい、豪炎寺」
「ん?」
練習後の帰り道。豪炎寺はふと声を掛けられた方へと視線を向ける。
「この後空いてるか?」
「あぁ、問題無いが」
「メシ食ってこーぜ」
染岡からの誘いに首肯して帰路を共にする。
日課の妹の見舞いも、今日は検査の為控えておきなさいと医者である父から伝えられていた豪炎寺。
となれば特にやることも無く、家に帰って作戦でも固めようと思っていたところだ。染岡の誘いを断る理由も無かった。
「………ん?なんだ染岡、もう来やがったのか。豪炎寺も一緒とは珍しいな」
「腹ァ減って仕方なかったんすよ」
「ハッ、コイツめ。そこの席座ってろ、すぐ作ってやる」
雷々軒の暖簾をくぐって戸を開ける。
出迎えたのは、既に雷門での監督業をこなしているとは思えないほどの機敏な動きで明日の仕込みや昼間の分の作業をこなす店主の響木。
染岡の軽口を小さく笑って流すと、慣れた手つきで2人の座るカウンター席にお冷を置いた。
「注文は?」
「俺はチャーハンセット。豪炎寺、お前は?」
「夕飯もあるので、ラーメンだけで」
「はいよ」
手早く注文を取って調理へと入った響木。
60近い人間とは思えないほどパワフルだな、なんて感想を浮かべながらよく冷えたお冷で喉を潤す。
試合が進むのに連れられるようにして暑さも増してきた今日、ただの水がやたら美味しく感じる。
「なぁ、豪炎寺」
「………影野の事か?」
少し言葉を溜めてから話を切り出そうとした染岡に、先手を取るように返す。微かに驚いた染岡だったが、直ぐに首を縦に振った。
豪炎寺修也という男は聡明だ。松野が育つまでの間は雷門で唯一指示出しをこなせる人間であったし、尾刈斗との練習試合でも見事に歪む空間の原理を見破っている。
そんな彼にとって、仲間想いの染岡がわざわざ放課後に呼び出してしそうな話なんて簡単に予想出来た。
「マジでアイツを外すのかよ」
「…………納得出来ないか」
「出来るわけねぇだろっ!!」
声を荒らげ、カウンターに拳を打ち付ける。
すぐさまハッとした表情を浮かべると、「悪い」と謝罪。隣に座る豪炎寺は大丈夫だと手を軽く横に振り、店主の響木も調理を進めながら肩を竦めて問題無いと告げていた。
「………出来るわけがねぇ。アイツは一年の時から、ずっと一緒にやってきたんだぜ」
だろうな、と内心豪炎寺は思う。
正しい歴史において、初年次から雷門中サッカー部に在籍しているのはたったの4名。
キャプテンの円堂、マネージャーの木野。そして小学校でもサッカーをやっていた半田、染岡。彼等だけだ。
しかしこの世界では、豪炎寺修也の早期加入に引き摺られるようにして入部した面々が居た。
野球部の夏大会の助っ人を終えて暇を持て余していた為、面白そうだと加入してきた松野。
そして、もう一人。
目立たない自分自身を変えたくて、豪炎寺という著名な人物のいるサッカー部の門を叩いた、影野。
マネージャーも含めて総勢7名。これがこの世界における、雷門中の始まりであった。
故にこの仲間思いのストライカーは、影野が外れる事に対して憤っている_______否。
「このままだとアイツ…………なんつーか、消えちまいそうっつーかよ…………お前なら分かるだろ、豪炎寺!?」
言葉に詰まるが、彼の言いたいことはよく分かる。
影野 仁はこのまま周囲に気を遣い続け、自らに蓋をしてしまうのでは無いか。
彼の方が強いから、と言って自分の意見を封殺してしまうのでは無いか。
染岡が漠然と感じ、豪炎寺が同様に思っていた事だった。
「_______影野は消極的だ」
豪炎寺の言葉に、染岡が首肯する。
元来インドア型の人間である影野は、凡そ闘争心というものが希薄だ。
輪を尊び、諍いを嫌う。
積極性の有無と言うよりもっと根本、生まれ持った気性の話。
言葉尻の荒くなりがちな染岡や、余程の事態でもない限り介入を控えようとする豪炎寺とは反対の、気遣い屋であり心優しい人間であるという証左とも言える。
それだけならば問題は無い。スポーツに限れば闘争心の薄さは欠点ともなり得るが、逆に細やかに周囲を見る癖が根付いている点においてはメリットともなる。
しかし影野の場合は、それに伴って決して小さくない欠点も抱えていた。
「…………その上に、アイツは自信が無さ過ぎる。本来なら、もっと欲張っていい位の実力を身に付けたにも関わらず、どうにも自分を過小評価する」
「あぁ………そこだきゃ去年からずっと変わってねぇ。自分がチームで一番下手、とでも本気で言っちまいそうだ」
そう。自信だ。
影野仁は、自信が無い。チームで自分を一番下だと思い込んでいる節がある。
少なくとも、豪炎寺と染岡にはそう見えて仕方なかった。
「だからよ!自信つけさせる為にも試合には出すべきだろ!実力はあんだ、試合慣れしてないだけで場数踏めばアイツも………!」
「………もう一つ、厄介な問題がある」
影野は自信が無い、しかし実力は雷門の誰もが認めるところ。故に試合に出し、荒療治的に自信を付けさせた方が良いと言う染岡。
そんな彼に、豪炎寺は悩ましげに首を横に振る。
カラン、と溶けた氷がカップの中で鳴った。
「影野は周りをよく見ている。判断力も的確だ………だからこそ、
「………どういう事だよ」
影野は実力ある選手。
しかし彼が抜けることが間違っていない。
豪炎寺の評に、低く唸るように染岡が返した。
「そのままの意味………帝国戦で影野を下げるのは戦略上
荒々しい音がした。
椅子から弾けるように立ち上がり、胸ぐらを掴む。拳と頭に熱が走る。血が昇るのが感覚で分かった。
今自分が浮かべている感情は『怒り』だろう。それ以外に見つからない。額に青筋すら浮かんでいそうだ。
ギリ、と拳が絞まる。それを当然というような顔で受けるエースストライカーに、更に腹が立って。
そして仲間思いの彼は、その拳を緩めた。
「……………悪ぃ。カッとなった」
「いや、当然だ。俺がお前でもやる」
ドカッ、と椅子に腰を下ろす。飲みかけのお冷を引っ付かみ、一気に喉に流し込む。
震えるような冷たさが、全身を駆け巡る
「…………分かってんだよ。お前が敢えてそうやって一歩下がったとこから考えるようにしてんのは。俺らの中じゃお前くらいしか出来ねぇからな」
木製のカウンターに氷だけが残ったカップを叩き付ける様に置く。
大きく吐いた息と共に残りの熱が排出された。怒りから正常へ、感情が元に戻る。
分かっていた。
豪炎寺が悪意あってあんな事を口にした訳では無いこと。
彼が仲間思いで友を蔑ろにするような人間ではないことを、この一年間で何度も感じた。
そして誰よりもこのスポーツに真摯に向き合っていて。
あの円堂にも匹敵するほどのサッカー馬鹿である事も、知っていた。
だからこそ、言って欲しくなかった。
豪炎寺修也の言葉に偽りが無いと。影野を下げる事が間違っていない事が明確な真実になってしまうから。
「…………帝国は強い」
結露したコップを掴み、一口水を飲む。
カランと氷の転がるカップを置いた豪炎寺は、静かにそう呟いた。
「予選決勝で戦うのは、五条の入ったベストメンバーだ。練習試合の時とは訳が違う」
王者、帝国学園。
その強さは個々の能力の高さを筆頭に、圧倒的な総合力や得点力、源田幸次郎の守るゴールラインの堅牢さも然ることながら、最大長所は他にある。
「帝国攻略の最大の難関は、連携能力の高さだ。ただでさえ高い個々の能力を、連携によって更に跳ね上げる………それが帝国の最も厄介な所だ」
帝国最大の強みは、連携の緻密さ。
互いが高いレベルで切磋琢磨を繰り返し、動きを頭に叩き入れ、なお進化を辞めず先へと進む。
そんな彼らが連携すれば、ただでさえ全国有数の力を持った選手たちが手の付けられない領域へと足を踏み込む。
「連携の数と種類が増えれば増えるほど、相手の隙を突きやすくなる。隙が生まれれば相手の対応が後手になり、そこから戦略も個人技も、全てを蹂躙して圧勝する…………帝国学園が王者と呼ばれてきたのは、この連携を筆頭にした引き出しの多さだ」
ジャンケン、というものがある。
グー、チョキ、パー。互いに三竦みになったそれらを同時に出し合い、勝敗を決める。至って単純な遊戯。
部員数の多い帝国は、出せる札を無限に持っているのとほぼ同義だ。そしてそれらを組み合わせることによって、相手の出せる手を限定する。
連携に焦り、グーしか出せなくなった敵。パーを出せば必ず勝てる。
そういう状況を意図的に作り、それを繰り返す事で敵の心すらへし折る。
勝つべくして勝つ。王者帝国たる所以だ。
「そして、これは個人的な意見だが_______五条勝という選手は、フットボールフロンティア参加者の中で最も引き出しが多い。アイツが入るだけで、帝国の連携能力は倍加じゃ済まないほどに膨れ上がる」
FWと遜色の無い威力のシュートを放つキック力。
ハーフラインからですらゴールマウスの四隅を狙えるボールコントロール。
鍛え上げられ、並のパワープレイヤーに押し勝つことすら出来るボディの強さ。
帝国随一の反応速度と加速力でフィールドを縦横無尽に駆け抜けるスピード。
試合終盤であっても衰えずに足を動かし、必殺技を放つことの出来る不断のスタミナ。
圧倒的な状況でも一切手を抜かず、あと一歩、あと少しの気を抜かず研ぎ澄ますガッツ。
そして世代でも屈指、圧倒的なまでの必殺技の引き出しの多さとそれらをフル活用して立ちはだかる鉄壁のガード能力。
個のDFとして、五条勝は一種の完成形とすら言える。
『勝ちに拘るなら五条の居るサイドでの勝負は捨てた方が無難である』と豪炎寺が感じるほどに、対峙を避けるべきサッカープレイヤー。
「そしてその五条の真価を、
個としてトップクラスの性能を誇るディフェンスリーダーの五条。
群を率いた時に真価を発揮するゲームメイカーの鬼道。
この両者が揃っている。それが王者の強さである。
「………だから影野を外してでも、攻めを増やした方が良いってことかよ」
「………壁山は外せない。幾ら円堂でも帝国の攻撃を一人で受け切るのは厳しいだろう、パワーに優れシュートブロックで円堂を助けられるアイツは必要不可欠だ。攻めと守りの双方で力を発揮出来る風丸を外す理由もない。トップスピードだけなら、風丸は五条にだって追い付ける」
「っ、だがよ!!影野は守備の纏め役だ!!この一年お前の特訓受けて培ってきた経験値は、風丸にも壁山にもねぇだろ!!」
壁山塀吾郎と風丸一郎太。
野生中との戦いで才能を開花させ、ここまで雷門を支えてきた二人の実力は本物だ。円堂の負担を減らすという意味でも攻撃への切っ掛けを作るという意味でも外すことは出来ない。
しかし影野には二人にはない経験の長さがある。
一年間豪炎寺の特訓を受け、培ってきたサッカーへの理解。間違いなく二人よりも影野の方がサッカーを知っているはずだと。
「_______染岡。勘違いしてはいけない」
しかし。豪炎寺は敢えて容赦なく。薄々染岡も分かっているであろう残酷な答えを返す。
「今の雷門DFの中で、最もサッカーへの理解度が高いのは影野じゃない_______土門だ」
ぐうの音も出なかった。
世代トップ選手たる豪炎寺の教えを受け、一年間その知識を吸収して来た。サッカーを理解しようと努めてきた。
…………土門飛鳥は、それを幼少期から続けて来たのだ。高々一年と少しで超えられるほど、アメリカでその名を轟かせた土門の経験値は甘くない。
土門に出来て影野に出来ないことは多数あれど、影野に出来て土門に出来ない事はほんの僅かしかない。
ハッキリ言おう。
現状、『土門 飛鳥』が居る中で『影野 仁』をスターティングメンバーに入れるメリットは殆どなかった。
「………重ねて言えば、ボールを奪うには最適なタイミングというものがある。幾ら影野が息を殺して死角から奪いに行ったとしても…………あの鬼道有人がそのタイミングを無防備に晒すとは考えにくい」
「…………………」
影野の真骨頂は、意識を逸らした所を狙ってボールを掠め取るような守備だ。
しかしボールを奪う最適なタイミングを把握している鬼道にとって、その動きは逆算出来る。敢えてタイミングをズラしたとしても、鬼道の高いボール保持能力によって防がれる。
帝国は間違いなく鬼道を主軸に攻めてくるはずだ。その鬼道に影野の守備は相性が悪かった。
むしろ最悪。円堂に筆頭されるような感覚派の選手とは違う、高度なサッカー教育を受け続けてきた生粋の理論派。
影野がサッカー選手として成長し、最適なタイミングを掴めるようになったからこそ。
鬼道 有人という理論派の極地に居る選手には、その行動が推察出来てしまう。
そしてそれを、影野は理解していた。自分の培ってきたものが通用しないと、分かっていた。
「…………何も出来ねぇのかよ、俺ら」
「アイツ次第だ。本人以外がどうこう言って改めるなら、とっくにやってる」
「………それもそうだよな」
染岡が拳を握り、眉間に皺を寄せる。
豪炎寺の表情も悩みが滲み、明るくない。
当然だ。酷く仲間想いの彼らにとって、この問題は簡単に割り切れるものでは無いのだから。
「_______はいよ。ラーメンお待ち」
ゴトンッ、と二人の前に赤い器が置かれる。
湯気を立ち上らせる、オーソドックスなラーメン。雷々軒の定番メニューであり、雷門サッカー部には馴染みのある味だ。
「チャーハンはもう少し待てよ、染岡。すぐ出してやる」
「あ、ウス………」
「………………」
響木が軽く声を掛けるが、返事は重い。
そんな教え子の様子にため息を一つ零した響木は、扱い慣れた中華鍋を手に取りながら顔を彼等に向ける。
「俺は使うぞ、影野」
弾けたように2人が顔を上げる。揃って面食らった様な表情を浮かべる彼らを見て、響木はニッ、と食えない笑みを覗かせる。
「と言っても、スターティングはお前らに任せる。それに影野本人の調子次第じゃ使わないかもしれないし、そもそも相手は帝国だ。マトモに試合をさせて貰えるかすら分からん。あくまで、順当に試合が進めば………って話だがな」
器用に鍋を振りながら事も無げに告げる響木。適当に考えている訳では無い。円堂との勝負の末に雷門に力を貸すことになったこの男は、かつてイナズマイレブンのGKとして名を轟かせた名選手。
同時に、響木が練習を見るようになってからこの数日間。各選手の癖や動きの問題点を見つけ指導する姿は、紛れも無く名将と呼べるものだ。
そんな彼が考える影野の起用法。ただ2人に慰めの為に口にしたとは思えなかった。
「今の影野に必要な物はなんだと思う、豪炎寺」
「………自信。傍から見た物じゃない、影野自身が自分を信じられるだけのサッカーの経験値と実力じゃないかと」
「惜しいな、微妙に違う」
影野に必要なのは、彼が自分自身を信じられるだけの実力を身に付けること。
その豪炎寺の回答は決して間違いではなく、響木も的を射ていると感じる。
しかし、それは百点満点の回答では無かった。
「染岡、お前一年の頃に豪炎寺にやたらめったら対抗心燃やしてたそうじゃねぇか」
「げっ、なんで知って…………昔の話じゃないっすか」
「ははは、円堂の奴が土門や一年達に話してるのを一緒に聞いてな」
ふと、響木がニヤつきながら染岡に声をかける。かつて豪炎寺が加入したばかりの、一年前の雷門サッカー部。
全国でも有名な木戸川清修でエースナンバーを背負っていた豪炎寺の加入に、もっとも対抗心を燃やしていたのが染岡だ。
「お前、その時えらく凹んだんだろ。どうやって立ち直った?」
「どうって………円堂の奴に話聞いてもらって………それで、楽になったっつーか」
「そん時、どう思った」
「………豪炎寺の背中を追っ掛けるだけじゃ追い付けねぇ。だから円堂の言葉通り、今までやってきた自分のサッカーを信じて貫いてやる………って、なんだよこの時間っ!?」
「はっははは!!良いじゃねぇか、青春してんなぁクソガキども!」
彼を一方的に敵視し、実力差を実感し、自信を無くしかけていた事もあった。
それでも円堂に背中を押され、豪炎寺 修也ではなく染岡 竜吾のサッカーを見つけ。遂にはその集大成である必殺シュート、【ドラゴンクラッシュ】を会得した。
当時いなかったメンバーに、円堂がその話をしていると聞いた染岡が気恥ずかしさから後日円堂をぶん投げてやろうかと考える中。
響木はそんな彼の話を聞き、子供達の青春に笑顔を見せた後。真面目な表情で、再び話し始める。
「
「それって………アイツも円堂と話くらい………」
「………
「察しがいいな、豪炎寺」
根拠、と豪炎寺が口にする。
一体何の話だと染岡が首を傾げるのを見て、響木は「そうだな」と少し考えてから口を開く。
「染岡には小学校時代からのサッカー経験がある。その最中で学んだこと、自分はこういうプレーがしたい………そういうもんが積み重なっていたからこそ、自分のサッカーを貫くって考えを選べたんだ」
「あぁ、まぁ確かに細かく言えばそうなんのか………」
「大介さんのノート使って独学でやってた円堂、昔っから名前の売れてた豪炎寺も同じだ。アメリカでやってた土門に、あとは半田なんかもそうだな」
雷門サッカー部の大半は、小学校時代もサッカーをしていた部員だ。
祖父の特訓ノートを使い、独学でGKとしての特訓を積んでいた円堂。
アメリカ時代にその名を轟かせる程に活躍した土門。
全国の中学校からスカウトや推薦の止まない程に活躍していた豪炎寺。
この3人に加え染岡や半田。壁山を筆頭にした一年生4人も、小学校からサッカーを続けている。
「逆に風丸は、サッカーじゃなく陸上やってた時に培った経験だな。松野は色んな部活に顔出してたろ、サッカー部やりながらも他の部活の助っ人をやってた経験は貴重だ」
元々助っ人としてサッカー部に手を貸してくれている風丸は、雷門陸上部のエース格。走るという事に重きを置くサッカーにおいて、その経験が腐ることは無い。
一年の時に円堂に誘われてチームに加入したマックスこと松野は、サッカー部の練習をこなしながら手隙の時間に他の部活動に助っ人参加をしていた。生来呑み込みが早く、器用な彼は初めて行ったスポーツでも結果を残し続けてきた。
「だがまぁ、今の二年連中じゃ影野だけそういった信じられる根幹がねぇんだ。アイツは去年、サッカーを始めるまで特に何かをやっていたわけじゃねぇみたいだからな」
しかし、影野にはそれが無い。
良くも悪くも、彼は普通の学生なのだ。
円堂のような轟くサッカー愛も無ければ。
豪炎寺の様な実績も無い。
染岡や風丸の様な鍛えた身体も無ければ。
松野の様な器用さも持ち合わせていない。
二年生で唯一、チーム内で影野だけが何も成していない。
それが彼にとって、自らの実力を軽視してしまう最大の理由だった。
「_______だがな、
しかし。豪炎寺たちの心配を他所に、響木はカラカラと笑いながら何ら気にしていないようにそう言った。
「俺の昔馴染みに、似たようなのがいた。だがなんだかんだと折れずに続けて………最後にゃレギュラー、それも守備の要さ」
「…………レギュラーって」
「あぁ、40年前のイナズマイレブン………その一人だ。影野はソイツによく似てる」
懐かしそうに、響木が笑う。
かつて円堂大介の元で共に練習した、一人の友人。
身体能力に恵まれた男では無かったが、日々努力を怠らず。真面目で謙虚、周囲へ気配りを忘れない出来た男。
そんな奴だったから、練習にも付き合ったし………レギュラーになった時には、肩を組んで喜んだ。
「何より、お前らのチームにゃ円堂がいる。なら平気だ」
「…………そんなもんっすか」
「あぁ、そんなもんだ」
何よりも大丈夫だと言える根拠の一つ。
あの宇宙一のサッカー馬鹿の元で、一緒にプレーしているのだ。
なら、大丈夫。
そう言わせるだけのものが円堂にはあると、響木は静かにそう思っていた。
そんなもんなのか、と一人ごちた染岡。彼が割り箸に手を伸ばそうとした時、不意に通知音が鳴った。
済まない、と一言断ってから豪炎寺が携帯を開く。
すると見る見るうちに目を丸くし、驚きと興奮を滲ませながら染岡の肩を叩いた。
「おい、染岡ッ!」
「あん?…………おいおいマジかよ!!豪炎寺、急いで食って合流すんぞ!!」
ああ!と強く頷いた豪炎寺と共に、頂きますと言うやいなやほぼ同時に出されたラーメンに手を付ける。
作り手を前にしてのその食べ方はあまり褒められたものでは無いが、何となく事情を察した響木がハッハッハと大きく笑う。
「金払うのは今度でいいぞ、さっさと行ってこい阿呆共」
「ありがとうございます!ご馳走様でしたっ!染岡、先行くぞ」
「あっテメ待て豪炎寺!!ごっそさん!!チャーハン今度食います!!」
「おーう、仕方ねぇから許してやる。早く行け」
しっしっ、と手払いする響木に頭を下げながら急いで雷々軒を出ていく豪炎寺と染岡。
慌てたように去っていくその背を見ながら、響木は何度目か分からない笑みを浮かべる。
「…………大介さん。アンタの孫、良いチーム作ってんぞ」
まぁ、俺らほどじゃあねぇけどな!
楽しげな響木の笑い声が、雷門の町に良く響いた。
☆☆★
「_______マックスと半田はやっぱり中央………いや、少林のキープ力も上がってる。攻撃的にいくなら2人をサイドにして、FWの2人と一緒に一気に上がらせるのが…………でもあの鬼道に少林や宍戸を当てるのは、流石に可哀想かも………」
整理された机に、丁寧に広げられたノート。
一つ一つを確かめるように、時折訂正を加えながら鉛筆を紙に走らせる。
几帳面そうな性格が見え隠れするその人は、悩ましげに唸ってフォーメーション図を睨めつける。
「………最善策、浮かばないものだな………帝国が強いのは分かってたけど、こうも総合力があるんじゃ…………何をやっても対応されそうで………」
攻め上がり得点を重ねる攻撃陣。
前後を繋ぎ試合を支配する中盤。
鉄壁の守りとカウンター能力を誇る守備陣。
どれをとっても一流の帝国の手札の多さに、影野は思わず辟易とした感想を洩らす。
敵として、これほどまでに相手にしたくないチームも珍しい。
隙らしい隙も無く、どんな布陣を敷いても超えてきそうな総合力。
成程、王者とはこうも恐ろしいものなのか。
自らが戦う相手の強大さをヒシヒシと感じた影野は、頭を横に振って思考をリセットする。
「………俺が弱気になってどうする。試合に出る皆はもっとだ、その分俺がなにか攻略法を_______」
_______本当に?
役に立てるのか?
所詮は今の自分を変えたい程度の思いで門を叩いた自分程度が。
支えられるのか?
あんなに輝かしく光り、王者に臆さず立ち向かっていく仲間の背中を。
_______フィールドに立っているのが何故自分では無いのかと、甚だ可笑しい恨みを抱かないのか?
「………違う、俺じゃ駄目だ。守るだけしか出来ない………壁山のように直接シュートをブロック出来る技も無い俺じゃ駄目なんだ。それよりも攻撃………点を取れる、様な………」
あぁそうだ。自分じゃない。
豪炎寺の様に輝かしい炎は放てない。
染岡の様に不屈の龍は宿らない。
半田や松野の様に攻守にわたって支えることは出来ない。
風丸の様に疾風として駆ける事も出来ない。
壁山の様に聳え立つ事も、宍戸の様に脅かす伏兵の如きシュートも、少林の様な預けられるキープ力と突破力も、栗松の様な最後まで走り抜けるガッツもない。
_______俺の出来ることは、土門にも出来る。
だから、俺では駄目なのだ。影野 仁では駄目なのだ。
自分のような守備型の人間ではなく、得点に絡める選手を。
そう思った時だった。
「_______
弾けたかのように棚を漁る。
入部してから、なにか役に立てないかと記録し続けていた自分用のノート。
その内の一つ。そこにかつて自分が描いた、とある
「_______そうだ、難しく考え過ぎてた。帝国の守りは磐石、搦手は有効打にならない。だけど、どんな守備でも………それを超える力で………!」
あぁ、そうだ。思い出した。
入部して、しばらく経って。円堂から祖父の特訓ノートに記載されている技をいくつか聞いて、考えついた馬鹿みたいな技。
だがそうだ。この状況下においてある意味笑える程の最善手。
「いけるか?いや皆なら形に出来る!それだけの力が皆にはある!!必要なのは5人、FWの2人に………マックスに半田!!起点はセンターラインが良い、なら土門に任せれば…………!」
嵌っていく。
かつて自分が落とした
もしこれが完成するなら、きっと対帝国の切り札になり得る。
「連絡………!土門………は確か円堂と連携練習するって言ってたから………マックスは半田とコンビニ寄っていくって言ってたからまだ近くに………!」
興奮冷めやらぬ様子で、携帯を手に取って連絡を入れる。
松野は、マイペースな所があるためメール連絡では気が付かない可能性がある。
時間があるなら少しでも使いたかった影野は、電話で彼に連絡を試みた。
『…………もしもし影野〜?珍しいじゃん、どったの急に』
「あ、マックス!まだ学校近くに居る!?」
『おおぅ、テンション高いね。居るよ〜、ガッコのすぐ近くのコンビニ。半田の奴、ツナマヨか明太子かでずっと悩んでるんだよ、ウケるよね』
「あ、はは………鮭じゃない所がある意味半田っぽい………じゃなくて!実は_______」
すぐさま電話に出た松野に、影野は勢いそのまま話し掛ける。
どうやらまだ学校の近くに居るらしい。幸運だ、上手く集まれば今日から練習を始められるかもしれない。
帝国戦に向け、練度は少しでも高い方がいい。自分も精一杯サポートすれば、皆なら………そう思っていた影野が要件を伝えると、松野は電話越しに『んー』と唸った。
「………なるほどね。でもさ影野、土門は今円堂と守備連携の特訓中でしょ?その上で新技、しかも5人連携なんて………無理じゃない?」
「…………ッ!」
冷静な松野の意見に、冷や水を掛けられた様に思考が落ち着いていく。
幾ら土門が連携に秀でた帝国の出身、しかも本人の実力もあるとはいえ、彼が本当の意味でチームと和解したのはつい最近の話だ。
帝国戦に向けて、円堂と共に連携ミスを出さない様に特訓に勤しむ土門。
この上でさらに新技の連携もこなさなければ………となれば、確実にオーバーワークだ。帝国戦よりも前にDFを1人減らすことになりかねない。
………なんて身勝手なことを考えていたのだ。この程度の事にも考えが至らない状況で最善手だ、等と笑わせる。
「…………ゴメン、マックスの………言う通りだ。急に、悪いね………」
なんて情けない。大切な試合も間近に迫ったこの時期に、要らぬことをしようとするなんて。
『_______待ってよ、影野』
そういって電話を切ろうとした影野に、松野が待ったを掛けた。
『とどのつまり、アレでしょ。土門以外を起点にすればいい訳だよね?』
「………壁山を起点にするつもり……?確かにアイツはキック力もあるけど………パワーブロックの要だし、一年だから連携って面では土門とそう変わらな_______」
『違う違う、何言ってんのさ』
確かに土門とポジションの近い壁山ならば、起点の代わりとしては申し分無い。
しかし現状壁山はチーム随一のパワーブロッカー。
円堂と並ぶ守備の要にして、帝国の猛攻を防ぐには彼の尽力が必要不可欠。その上、未だ1年生だ。連携という意味で、土門以上のものがあるかと言われれば疑問が残る。
しかしそれを聞いた松野は、軽い口調で違うと笑った。
『居るでしょ
果て、そんな選手が居ただろうか。風丸は勿論サイドの選手であるし、少林や宍戸、栗松は中央でもプレー出来るが壁山と同じく1年生。
目金も今年入部した選手なので連携が万全とは言えない上に、彼はFW。この役目を担うには、松野や半田より後ろの方が_______
「_______俺?」
『他に誰が居んのさ、ばーか』
センターラインで、DF。去年からチームでプレーし続けており、他の二年生4人との連携も問題無し。
豪炎寺と戦術に関する話が出来る数少ない部員であり、何より新技を考案した張本人。
今この状況において、新技の起点役に最も相応しい男_______影野しか、居なかった。
「いや、でも………!起点役にはシュート力が最低限必要だ、俺じゃそんなパワーは………!!」
『あるでしょ、パワー。普段影野が練習でぶつかってる相手、誰だと思ってんの。染岡や豪炎寺、それに壁山………そいつらと競り合ってるでしょ、いっつもさ』
「だけど俺じゃッ!!」
『影野』
昨年から、豪炎寺が考案する練習メニューをこなして来た。
周りより遅れていると思ったので、やれるだけの事は精一杯やろうと。
豪炎寺が提示する練習や、オススメの食事、普段の習慣など。取り組めるものには、蔑ろにせずに真面目に取り組んだ。
ただ細く長いだけであった影野の身体は、もはや昔のそれでは無い。
肉がつき、力がつき。一端のスポーツマンを名乗れるほどには、彼にはパワーが着いていた。
それでも、と食い下がる影野に。松野は小さい声で、ボソリと呟く。
『分かるよ。ぶっちゃけ、力になれるか不安だよね』
「………!いや、マックスは………」
『同じだよ、同じ。部活の助っ人と言えば聞こえはいいけどさ、結局ハマれなかっただけ。真剣にやろうとしなかったから、色んなとこ転々としたんだよ』
松野の言葉に、驚いたのは影野だった。
飄々として、掴みどころが無く。それでいてしっかりと結果を出す器用な男。
中学からサッカーを始めたにも関わらず、雷門中の擬似的な司令塔をこなす才能。
同じ時期に入ったのに、こんなにも違う。影野が憧れたその男は、自嘲するようにそう話す。
『今まで真剣にやらなかった奴が、今更やった所で役に立つのか…………王者との試合で役に立てるのか。こー見えて色々思ってるんだなー、これが』
「………知らな、かった」
『言ってないからね。そんな振る舞いも見せてないし…………だからさ、影野』
なんてことは無い。真剣になれなかっただけ。
なまじなんでも器用にこなせてしまうだけに、其の経験が全くもって不足している松野。
そんな彼が、飄々とした男が。
『_______勝とうよ』
「_______ッ!!」
電話越しに感じる程に闘志を洩らした事に、言葉が詰まった。
『勝とう、王者に。日本一に。フルメンバー揃った帝国に勝ってさ、ガチで喜ぼう。そうすればさ…………2人とも、土門みたいに本当の意味で【イナズマイレブン】になれると思わない?』
王者帝国。日本で最も強い中学サッカーチーム。
生半可な気持ちでは闘うことすら許されず蹂躙される、本当の強者。
そんなチームに勝てれば、きっとお互いが持つ不安程度吹き飛ぶだろう。
そう言ってのける松野の言葉を笑う………影野仁とは、そんな男では断じて無い。
「………マックス」
『んー?』
「…………ありがとう。らしくもない発破、掛けさせた」
『あ、気付かれた?いやー、柄じゃないことするもんじゃないね』
「ホントにね」
あっはっは、と軽い笑い声が電話越しに聞こえてくる。
まだ日は落ちていない。今からでも十分練習は出来る。
滲んで見えにくい窓の外を眺めながら、影野はくしゃりと自分の髪を強く掴んだ。
「マックス、やっぱり今日の練習で言った奴………無しで」
「ボクじゃなくて豪炎寺に言いなよ〜、取り敢えずFW組にも連絡つけとくからさ。早く来なよ」
「うん………ありがとう」
『どういたしまして〜』
プツン、と電話が切れる。
大きく息を吸い、深く吐く。
パァンッ!と頬を叩く乾いた音が、部屋の中に響いた。
「_______よし」
もう一度、窓の外を見る。
今度はもう、滲んでいなかった。
「自分ばーっかり周り見てると思ってさ〜、そういうとこだよね」
ヘラヘラ、と松野が笑う。
影野は気が付いていない。ないものばかりだと思っている己に、確かにあるものを。
松野は、熱くなれなかった。真面目になれなかった。真剣になれなかった。
人が何かに打ち込む様子を見て、羨みこそすれど共に本気になることなんてなかった。
そんな彼にとって。
同じ時期にサッカー部の門を叩き。
自分より上手い同級生を恨むどころか追いつこうと努力し。
言われたことを真面目に腐らず取り組み。
結果が出るかも分からない、先の見えない努力を続ける同期の仲間。
「意外に見られてんだぜ………君もさ」
そんな仲間の背中が、部内で最も眩しく見えたこと。
きっと彼は違うと言うだろう。
それでも、自分にとって。
【松野 空介】が初めて憧れた、サッカープレイヤー。
そんな奴が腐るところなんて、見たいわけがないだろうに。
「世話が焼けるよね、仲間ってさ」
その感覚が不思議と心地いいのが、なんかむず痒いんだけども。
そう笑った彼は、メールを打ちながら目の前に居るおにぎりで迷っている相棒の背中を蹴っ飛ばす。
引っ込み思案な仲間の、力になる為に。
目の前の相棒の様に_______本当の意味で、チームに馴染むために。