響と未来が買い物帰りに約束をするお話です。

初めて小説を書いたので、至らぬところが多々あると思いますがよろしくお願いします。
単発です。

永愛プロミスからはタイトルだけいただいたので、内容は意識しておりません。すみません。

pixivにも投稿しております。

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永愛の誓い

 夕方の空を紅く染めていた太陽は、今日の短い役目を終え既にその姿はない。

代わりに、静寂の中で輝く月とまるで順位を競うかのように瞬く星たちが暗く黒くすべてを包み込むような空を支配している。

すでに夜の帳は降り、昼間は太陽の光を遮り影を産み出していた高層ビル群も、

今はその身体のそこかしこから眩い光を放ち、目を覚ました街灯たちは規則正しく整列し、白色の優しい光で道路を照らしていた。

 住宅街から少し離れた一角に、家が数十個ほど入るであろう区画が存在し、

そこには周辺住宅街一体の生活を一挙に支えている巨大なショッピングモールが堂々と鎮座している。

 金曜の夜だというのに、周辺一番の光を放つその建造物には未だ多くの人が呼吸をするように出入りをしており活気が衰える気配はない。

そんな人々の雑踏に紛れ、響と未来もまたそれらの活気を構成する一組であった。

 

「うええええ!?もう外真っ暗じゃん!こ、このままじゃ翼さんの番組、間に合わない…どうしよ未来ぅ…」

 

「響があちこち店の中を動き廻るからでしょ。もう、おかげで余計な出費もしちゃったじゃない、今月ピンチなのに…」

 

 ショッピングモールから出てきた二人の手にはそれぞれ一つずつビニール袋がぶら下がっており、どちらもパンパンに入っている。

見れば、結構な出費であったことは一目瞭然の量であり、出費の大半の原因であろう響をジト目で咎めている。

 そもそも彼女たちが今月ピンチなのは9割方、人のためならと猪突猛進になって勝手に色んなところに首を突っ込み、その結果ボロボロになって帰ってきた挙句お腹が空いたなどとぬかし、月々の食費は勿論のこと遊興費やその他の費用を丸ごと平らげ、絶対不可侵領域である家賃や光熱費にまで噛り付いた今未来の隣にいる大食い猪系女子のせいであり未来の不満は最もだが、残りの1割は、そんな親友を言葉だけで咎めつつ本心では「いっぱい食べる君が好き」と、なんだかんだで甘やかしていたツンデレ陽だまり系女子のせいでもある。

 

「え、えぇと…それは何というか…そのぉ…どれも美味しそうでついつい手が勝手に伸びてしまったと言いますか…あはは」

 

 ショッピングモールでの出費の小言と、今までの食費についての文句のダブルパンチは響に効果抜群のようで、響はたじたじになりながら言い訳をなんとか口にする。

途中で無理があると察して誤魔化そうとしたのか、単に諦めたのか最後には後頭部を右手で掻きつつ引き攣った笑いを浮かべていた。

そんな響に対し明確に諦めたとわかるのは未来の方であった。

なんだかんだで響にはかなり甘い彼女であるため、口では割と容赦なくストレートやジャブをぶつけつつも、直接的な行動に出ることは殆どないため、このような響の専横も結局は容認してしまう結果になっている。

 

「はぁ……まぁもう買っちゃったし、良いけど。…それよりも早く帰ろう?響」

 

 いつまでも文句を言っているのも流石に無駄だと学習している未来は、

早々に切り上げ響に空いている左手を差し出す。

それに対し、響はにへら、と引き攣りを消した純粋な笑顔を浮かべ、

躊躇うことなく右手を差し出し指を絡ませる。

 

「あっ……」

 

 指と指が交差していく感覚に未来は胸の高まりと少しの快感を感じ、

顔をほんのりと朱く染め恥ずかしがるように、顔を伏せる。

その顔を見た響は今日の昼休みにいつもの仲良し5人組で、ご飯を食べていた時の一人に言われたことを思い出していた。

 

『前々から思ってたんだけど…あんた達の関係ってアニメみたいよね、恋人…いや、夫婦?みたいで』

 

 その時の思い出としてはこの言葉の直後に、口の中のモノを全部噴き出し飲み込みかけたモノを詰まらせた未来が一番衝撃的だったのだが。

 その時は未来のフォローで私も含めて他の4人は大変で、その言葉を深く考えている余裕はなく、響自身もよくわかってなかったので、最初は頭の片隅の小さな引き出しにしまっておく程度であった。

しかしどうも、今の未来の仕草を見た途端にその言葉が一気に肥大化し、響の思考の殆どを占領してしまった。

そしておそらく未来の表情からして、彼女も同じ事を考えていることは響にはハッキリとわかった。

 

「あぁ~…えと…そのぉ…」

 

 文章自体の意味が分からずとも、それぞれの単語の意味は理解できているため

響はなんとなく照れ臭いような恥ずかしいような、でもどこか嬉しい感情を覚える。

しかしその感情は、響が今まで抱いたことのないモノであり、また抱いた相手も未来であるというのも合わさり、響の思考と心を大きく混乱させる。

未来を見てみれば、こちらもまた顔を朱くしたまま俯いており喋りだすようなそぶりはない。

そんな状況をとりあえず打開しようと響は一旦手を抜こうとする。

だが、響の右手が直後に握ったモノは夜の冷たい空気ではなく、陽だまりのように暖かく

小さいながらもしっかりと響の手を包み込んでいる未来の左手であった。

 

「あ、えっと…未来?…抜いても…」

 

「…………いい……」

 

「えっ……あっ、未来、今なんて…?」

 

 求めた言葉であったはずなのに、それは予想外の返答に聞こえ胸に少し痛みが走った響であったが、聞き取れない部分があったことを認識したため胸に走った感覚を塗りつぶすように意識をそちらに向ける。

問いかければ未来は恥ずかしがるように少し躊躇い、意を決して再び口を開く。

今度は聞き逃さないように、響は顔を近づけ聞き取り手として万全の態勢を整える。

 

「……このままが……いい…」

 

 掻き消えるように小さく途絶えるように短いその言葉は、確かに響の耳に届き鳴り、

その心の奥底に特大の一撃を持ち、決して抜けぬ槍の如く突き刺さる。

 

「………!!!」

 

 他の存在や記憶、呼吸すらも忘れる程に、彼女の胸を大きく穿ったその言葉は常識や世間体という概念の殻をいとも簡単に打ち破る。

元から無自覚に持っていたソレは友人の一言で、響にある一つの感情を自覚させる。

それは先程覚えたモノよりももっとしっかりして、一つの形となった感情――愛、であると。

 

「あ…えーと………うん、じゃあこのまま帰ろうか、未来?」

 

「……うん」

 

 戸惑いつつも決心を固め、響は未来の手を引きながら歩き始める。

どうにもその二人の動きはぎこちないモノであり、まるで初々しいカップルのようであった。  

 愛、といっても種類は沢山ある。家族愛だとか友人愛だとか…様々であるし、

そういうモノであるなら響は人一倍持っている自覚はあった。

だがそれが異性に対して向ける、恋愛感情での愛はどうであろうか。

あいにく響は今までそんなモノには縁がなかったしまして今のこの時期だって、恋愛事に気を回している余裕はあまりかった。

そもそもリディアンは女子高であったし、古い親友も未来位しかいなく、周りの親しい男性と言えば風鳴弦十郎と藤尭朔也、そして緒川慎二くらいであったが年齢も離れていて響的に恋愛感情を抱くには全く違う存在であった。

故に響は、そういった恋愛的な愛というのは全く抱いたことはなく

確かに恋をしてみたいと思ってもいたが、響的には精々『そろそろ彼氏がいてもいいのかなぁー』程度であった。

つまり、今回のような愛を抱くのは響にとって、今回が初めてなのである。

 胸の鼓動が早まる。口の中の水分は全てが額や手のひらを伝う汗に変わったかと思うほど渇き

緊張のせいだろうかほんの少しだけ体が震えているのがわかる。

 

「……いやぁ…今日は、なんというか…肌寒いねぇ、何か上に来てくればよかったなぁ…」

 

 体の異変を悟られぬように、自然として話しかける。しかしその声は若干震えていたが、それが未来に届いたか否かはわからなかった。

 

「うん、そうだね…思ったよりも寒いけど……でも、響の手が暖かいから…へっちゃら、かな」

 

 顔をあげ、握っている手に少しだけ力を込めて未来はそう、鋭利で優しい言葉を放つ。

その言葉も中々に胸に迫るものがあったのだが、それと同時に響の瞳を一気に染め上げた彼女のその顔こそ響の心に更なる衝撃を与えていた。

未来の顔は依然として朱色に染め上げられており照れくささが多く残っているが、

その中にある笑みは何時にも増して輝かしく、そして愛おしいようなモノであった。

それを瞳で捉え心でそう感じた瞬間、心の一端が黒と形容できるような感情に塗りつぶされる。

それはシンフォギア装着時の暴走と同じような、でもどこか違和感を覚えるような、そんな感情だ。

名前もまだ知らぬ、彼女の中に生まれたソレは気が付けば心の隙間を縫うように成長し

とうに幼子の姿を終えると、目を緑に輝かせた巨大な怪物へと変貌を遂げ、今やその心全てを飲み込まんとしている。

 

「……響、どうしたの?顔…怖いよ?」

 

「……ッ!!あ、あー…えーと、な、なんでもないっ!!へいき、へっちゃらだよっ!…あははは…」

 

 周りの活気が産み出す雑音すら掻き消すほどの胸の高まりは、隣にいる最愛の親友の言葉によって止められる。

そこで初めて自らの顔の歪みと、そして今の自分の心を支配している感情に、正しく気づいてしまう。

――瞬間、体中に鳥肌が走る。

親友に向けた感情がとても穢れた感情であった怒りか、自分が親友に醜い感情を持った恐怖か、はたまた両方か…

正気を取り戻し、抱いた感情がわからなくなる程響は戦慄し、憤慨し、そして混乱していた。

 

「ほんとに?まだ顔硬いし、平気そうには見えないけど…」

 

「大丈夫、大丈夫だって!私、こんなに元気だし!」

 

 顔を近づけのぞき込む未来から、跳ねるように飛び退きつつ笑顔を作り出し、重い腕でガッツポーズをとる。

嘘の言葉と偽りの笑顔を浮かべるのは大いに響の心を締め付けたが、そうであってもこの内にあるモノは決して、知られては、悟られてはならないと確信する。

 

「…そう?…響がそこまで言うなら、いいんだけど…」

 

「あははは…ごめんね未来、心配かけちゃって…」

 

 未来は少し不満そうだが、それでも心配が上回る表情をしながら納得する。

そんな未来に謝る響であったが、それには自然と言葉以上の意味が込められていることに気づかなった。

 

「…ううん、心配かけられるぐらいなんともないよ響。…私だって響のこと、ちゃんと心配したいから…ね」

 

「………未来…ありがとう、やっぱり未来は私の陽だまりだね…とっても、暖かい…」

 

 握る手の感覚を確かめるように繋いでいる右手を何回か揉むように動かす。

目を閉じ未来の手の感覚に浸かる響を、儚い笑みを浮かべて見つめている未来が口を開く。

 

「……ねぇ、響、今更言うのも可笑しいけど…もし今何か思い悩んでいる事があるなら、私にも聞かせてほしいの」

 

「え…ッ!あ、あー、えーと…それは…」

 

「今すぐじゃなくていい。響の中で、決心がついて整理してからでいいよ。…その後でいいから私に教えてくれれば…嬉しいな…」

 

 気が付けば先程まで煩く鳴り響いていた胸の騒めきは息を潜めいつも通りの平穏と穏やかな愛おしさだけがそこに残っている。

それは今目の前にいる、暖かい笑顔を浮かべている親友のお陰かそれとも時間経過によるものなのか、響には考えもつかなかったがただ一つだけ何の気もなく思ったことは、未来に心の深淵までも染められたという事であった。

 

「未来……ごめんね、また心配かけちゃった……うん、今はまだ、この胸にあるモノは自分でもまだまだ割り切れていないんだ……」

 

 一呼吸置き、澄んだ心に決心を置く。

未来の目をしっかりと据えるために上げた顔は、ほんのりと朱く染まっておりそれの決心に似合った真剣さに彩られていた。

 

「でもきっと、いつか、必ず!…ちゃんと整理してして…真っ直ぐに未来に伝えるから、その時まで…その…待ってて欲しいんだ…!」

 

 その顔に、その覚悟が込められた眼差しに射抜かれた未来は、

決して動じる事も、たじろぐ事も、そして蔑ろにする事もなく、ただ胸の全てでその言葉を優しく受け入れる。

そして口を開く。その問いかけに、響の心に、答えるために。

無論、その答えは初めから、決まっている。

 

「うん、わかった、待ってるよ私。響がその気持ちの全部を教えてくれるまで、ゆっくりと隣で待ってるから…!…約束だよ?」

 

「うん、約束。…その…さ…未来もそれまで……絶対、絶対に…隣にいてね?」

 

「…当たり前でしょ!私の隣は響にしか座れない、特等席なんだもん!」

 

 満面の笑みでそう宣言する未来に、一瞬呆気にとられた響は次の瞬間には顔一面に紅葉を散らし、同じように満面の笑みを浮かべ笑いだす。

 

「あははは!うん、私も誰かに譲る気もないからね!」

 

 言い終わると同時に握っている左手をそのままに、一気に腕全体を絡ませ引き寄せる。

少し強引に引かれたため体がよろけ、未来は響の体にもたれかかるような体勢になる。

 

「きゃ…もう、急にくっついてくると危ないよ?」

 

「ごめんごめん!でもこうしてくっついてると、今日の寒さなんて目じゃないし…それに、こっちのほうがいつもより未来を深ーく堪能できるからねッ!」

 

「……ッ!…ふふっ、だったら私も…!」

 

 やり返さんと言わんばかりの無邪気な笑みを浮かべる未来は、体勢を直し響の肩に顔を乗せるように首を傾ける。

そんな未来に少しだけ鼻の下を伸ばした響は、鼻孔を撫でる未来の香りに心を踊らせる。

 

「おぉ?なんだか…たまには積極的に来る未来も、いいもんですなぁ…毎回こんな感じでもいいんだよッ!」

 

 ほんの少し、すぐ隣にいる響だけがわかる程度に頬の赤らめを見せる未来は

若干の照れ隠しを込めてその言葉を受け流す。

 

「はいはい、バカなこと言ってないで帰るよ?もうだいぶ遅くなっちゃったし…」

 

「わ、私の割と真剣な思いが一言で両断された……っと、そうだね、気づいたら7時半廻っちゃてるし…お腹も…」

 

 言い終える前に腹の虫が空腹を知らせる。

狙ったかのようなタイミングに鳴るお腹に呆れつつ周囲を確認する響は、その音が大して響いていないことに安堵し、恥ずかしがるような笑みを浮かべ未来に向き直る。

 

「あぅ~…そんなに大きくなくてよかったぁ……でも、未来にはバッチリしっかり聞こえたよねぇ…?」

 

「うん、それはもうハッキリと……じゃあ早く帰ってご飯にしよう?今日は響の好きな物、沢山あるからね!」

 

「おぉッ!!未来の手料理と私の好きな物、これはもう今世紀最大の奇跡的マッチングッ!うぅ~もう我慢できない、急ごう!未来!」

 

 その言葉とともに、寄り添う二人は歩幅をピッタリと合わせ歩き出す。

ほんの数時間前の宵闇のか細さは既に死に絶え、外は暗く全てを包み込む夜と

それに抗う様に光を放つ人工灯に支配されていた。

夜の空気は夕方に比べて更に冷え込み、往来を行きかう人々は皆震えながら足早に歩いていく。

無論その寒さはショッピングモールから出たばかりの響と未来にも襲い掛かったが

身体の限界までピッタリと一緒の二人には寧ろ心地いいくらいであった。

 

 寒さを跳ね除け、快適さをくれる愛おしい温もりに浸かりながら、響は静かに心の中で先程の約束を憶う。

今日という日以外にも未来とは数多の約束は交わしてきたし、

未だ果たせていないモノやもう覚えていないモノ、変わってしまったモノなんていくつもある。

しかし世界でたった一人の愛おしい陽だまりと交わしたこの小さな誓いは、

決して変る事も、色褪せる事も、無くす事も無く、その時が来るまで永遠に真実のままであることを、響は誓う。

そしてその先の未来へと続く永遠なる感情を胸に秘め、響は誓う。

例え明日にこの世が滅んでも、例え世界が敵に回って独りぼっちになったとしても、

例え未来が闇に包まれ見えなくなったとしても―――この繋いだ愛おしい手は絶対に離さない、と。

 

 

 永愛の誓いを、ここに――。

 



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