トリップした先で天才漫画家に振り回されててとりあえず早く帰りたい 作:ミツホ
角を曲がったら、知らない町だった。
何を言っているか分からねーと思うが以下略としても千と千尋の神隠しだってトンネルっていうなんかこう非日常へと赴くための道が有るわけで角を曲がったら知らない町並みになって振り返っても知らない道ってちょっとひどすぎませんかね?
スマホを出したら圏外どころか時計の表示すらバグってて通信が必要な物全てが使えないってどういうこと…?
脳内にはトリップだの裏世界だのそういう系の文字が過ぎっていくけどアーアーちょっと何の事だかわかんないですね常識的に考えて白昼夢っていうか明晰夢っていうかもしかしたら熱中症で倒れたりとかしてこんな夢見てるのかもしれないし早く起きなきゃっていうかマジでどうしよう…。
日陰が碌にない住宅地を取りあえず抜けて見つけた公園に入る。
さっきからすれ違う人やここにいる人を見るに日本なのは間違いないからちょっと安心したけど…。
冷静になって考えれば流石にこの肌を焼く熱気や四方から響いてくる蝉や人の声が夢だと思わせてはくれない。
近くにいたママさん集団に怪しまれないよう『すみません迷子になったみたいで、ここらで1番近い駅はどこですか?』と聞いてみると丁寧に駅への道を教えてくれたのでお礼を言ってその場を離れる。
近道として教えてもらったのは太い道路に出ず住宅街の中を突っ切る道で、暑さのせいか日陰の無い道ですれ違う人は中々現れない。
道が合っているのか不安になりつつも進んだ道中に一際大きな家があって思わず視線を向ける。
こんなデカい家、維持するのが大変だろうなぁ…。
そんな事を思いながら顔を前に向ければこのちょっとハイソな住宅街に似合わないコスプレ男が歩いてくるのが目に入った。
「き、岸辺露伴!?」
髪型、服装全てが完璧に漫画から飛び出してきたかのようなハイクオリティに恐れ戦くがそれよりつい叫んでしまった事に気付いて回れ右をすべきか迷う。
イベント会場ならともかくこんな住宅街で堂々とあの格好をして歩ける人にあまり関わりたくない。
しかしこの暑さも問題で早く駅に向かって何か冷たい飲み物を飲みたい。
2つの思いを天秤にかけているうちにコスプレ男は2mの距離まで近付いていた。
「僕のファンか。 まさか家にまで押しかけてくるとは…サインでも欲しいのか?」
「えっ」
あっ。(察し)
なりきってる系の人だこれ関わったら駄目なタイプ確定ですねわかります。
「ア、ハイ、ファン…デス。 オアイ デキテ コウエイ デス。 シツレイ シマス」
全力で笑顔を浮かべその横を気持ちマッハで通り過ぎようとした瞬間…
『ヘブンズ・ドアー』
ちょ、そこまでなりきらな、く…て…
「おい」
「ギャアアアアァーッ!」
横をすり抜けたはずのコスプレ男が目の前にいて思わず悲鳴を上げる。
しかも気付けば手首を掴まれててしかもそれが結構な力なせいでこの男に私を逃がす気が無いのがよく分かって正直泣きたいっていうかもう涙目!
「お前はスタンド使いか」
「いいえ」
ぎゃーっ!
口が勝手に動い…スタンド使い?
「そうか。 とりあえず黙って付いてこい」
その言葉を聞いた瞬間声が出なくなり足が勝手に動き出す。
そのまま目の前に有った豪邸に入っていく男の後ろに付いて入り、クーラーの効いたリビングに通された。
「そこのソファーに座れ」
言われるがままに動く体がソファーに身を預けると同時に再び
『ヘブンズ・ドアー』
もしかしてこれ本物…の…
「なるほど、これは面白い。 この世界に来る前の事が読めないのは残念だがネタとしては中々に優秀だ」
さっきと同じように意識がふと戻れば目の前にスケッチブックを持った…岸辺露伴が座っていた。
……これ絶対ジョジョトリップじゃん…。
「おい。 何か話せ」
急に目線をこっちに向け声をかけて来た岸辺露伴に思わず固まれば機嫌を損ねたのか眉間に皺を寄せられとてつもなく気まずい。
「さっき書きこんだ内容は消した。 好きに動いて話せるだろう」
「なにそれこっわ…」
さっきの一連がスタンドの力だっていうのは何となくわかってたけどとんでもない事やっといて淡々と言葉にされると怖いの一言に尽きる。
そもそも岸辺露伴はヘブンズ・ドアーで私を読んだんじゃないの?
何を言えばいいのか分からないし、何でこうなっているのかすら分かってないのに何を話せと言うのかこの男は。
怪訝な表情になっている自覚はあったがじっとりと目の前の男を睨めば仕方がないというように口を開いた。
「フン。 君が異世界から来たのは分かった。 そして何故僕の事を知っているのに僕をコスプレ男だと思ったのかも見当は付いている。 1番気になっている異世界での記憶が何故か読めないのは手間だが仕方がない。 衣食住や帰る方法が欲しければ、詳しく話してもらおうか」
「ありがとうございます露伴先生何でも聞いてくださいね!」
こうして岸辺露伴と私の主従生活は始まったのであった。