トリップした先で天才漫画家に振り回されててとりあえず早く帰りたい 作:ミツホ
よせと言われたところで1人にされたせいでこんな目にあったのだという認識を持つ京がそう簡単に露伴を逃すわけもなく…
「だが断る!! もう無理マジ無理リアルジョジョ界怖い!! あーこのサイケデリックな落ち着きのない色合いに落ち着くぅ~っ! もう風呂トイレ仕事以外のおはようからおやすみまで露伴先生の背後にいる! トリップ特典も無いのにこんな世界でやってられるか! 普通転生とかトリップとか特典有るのがセオリーだろうが! 怠慢か!? トリップの神様怠慢か!? 保護者もひのきの棒も無しに歴代最強主人公にマイナスイメージから会わせるのやめろォ!」
むしろより強固に絡みつかれる結果となった。
腹同様無防備な背中に触れる前頭部の髪が擦れる感触に露伴の背筋がぞわりと粟立ち、それをどうにかしようと身を捩れば京はより一層拘束する力を強め頭をぐりぐりと押し付ける。
承太郎達はともかく、遠巻きにこちらを窺う赤の他人には京の話している内容までは分からない程度の声量なのは不幸中の幸いか。
この中で1番事情や状況が分からない由花子は京が自分と康一にとって取るに足らない人間で、露伴の関係者であることだけを理解し態度を軟化させた。
恋人の親友を自称するイカレた漫画家の関係者であるならこのよく分からない状況も大したことではないと結論をだしたのだ。
しかしそれ以外の人間はむしろ混乱が強まりつつある。
スタンドが見えていなかったにも関わらず声をかけただけでパニック状態に陥られた承太郎はもちろんの事、絡みつかれた露伴はたまったものではない。
そして仗助と康一は昨日の事を思い出しながら心の中で『岸辺露伴は渡利京が最も安心してはいけない相手なんだよなぁ…』と思い遠い目になっていた。
現状、傍観者であり漫画のネタやセオリーの分かる康一がこの面子で1番状況を理解している。
しかし理解しているから解決できるとは限らない。
どちらにどう声を掛けたものかと迷っている間にも事態は悪化の一途を辿っていった。
「よせって言ってるだろ! 君がみっともないのはどうでも良いが僕を巻き込むなッ!」
「嫌ああああぁぁぁぁーっ! 絶っっっ対にヤダ!」
一歩引いて見れば完全に男女の修羅場である。
女の方があまりにも残念な姿でしがみついていることと、男の格好がやや常軌を逸している事を鑑みれば完全に関わってはいけない案件だ。
しかし好奇心をそそるのも事実。
流石に立ち止まる猛者はいないものの、通り過ぎる者の目や耳が向くのは仕方のないことだろう。
「おいッ! くそ、仗助! こいつを引き剥がせ!」
「み、ミヤコ落ち着け! てか何でそんなパニクってんだ!?」
「全てに! 全てにパニックだよ分かれよ!!」
「京さん! 大丈夫だから露伴先生を放して! 承太郎さん京さんに何したんですか!?」
「……声をかけただけだ」
実際はちょっと過激な確認もしたが、京にとっては知覚外の出来事であるからその主張は見方によっては間違っていない。
何故ここまで過剰に反応されるのか、疚しいことがあるからこうなるのかなど様々な考察が過ぎったがそんなものはすぐに消し飛んだ。
「DIO信者じゃないから許してください私の知ってるDIO様はポンコツ吸血鬼か女王様かツンデレかWRYWRY泣くヘタレのどれかでジョナサンと追うか追われるかの一方的妄執を繰り広げ花京院に当て身くらわされてたり花京院にちょっかいかけて承太郎にボコられたりしてるのがほとんどなんですDIO様っていうのもDIO様カッコワライみたいな感じでネタとしての様付けっていうか吸血鬼じゃない状態をカタカナのディオ吸血鬼になってからをディーアイオーのDIOでDIO様っていうか空条博士の記憶のDIOとは全くの別物でとにかくさかなクンがクンまでが名前でありそれでいてさかなクンさんとは呼ばないようにDIO様は様までが名前みたいなもんなんですぅぅぅああぁぁーっ!」
「…………」
記憶の中のDIOと京から聞かされたDIOの齟齬の激しさに流石の承太郎も思考を放棄せざるを得なかった。
「京さん! 承太郎さんが理解の範疇を超えて固まっちゃったからもうやめて!」
「じょ、承太郎さんを固まらせるなんて…!」
「オラオラだけは…っ! オラオラだけは勘弁してくださいっ!」
「ミヤコは承太郎さんに何をしたんだよ!」
「いや、お互いに何もしてない…はずだ」
先程の言葉で精神に多大な影響を受け、自分の知るDIOと京の語るDIOが全くの別物であると納得するまでに中々の時間を要したもののそれは意図せぬもので何かをしたつもりは京には無いだろう。
スタンド攻撃も京には知覚外の出来事で実質無傷なのだからあえて数えない。
自分も妥協したからお互いノーカンなのだという狡い大人の独自創作ルールが発現した瞬間であった…。
唯一全てを知る露伴だがそんなことより現状こそが問題だったためその遣り取りに関わる余裕も無く、あったとしても承太郎相手にわざわざ藪をつつくことは無いと素知らぬ顔を決め込んだことだろう。
「何でも良いからとにかくさっさと離せ!」
何せ未だに京に絡みつかれたままである。
もがく露伴。
離そうとすればするほど離すまいと抵抗する京。
何とかしようにも女性相手に手荒な真似はできず手を所在なさげに浮かべた仗助。
もはや何をするでもなく呆然と佇む承太郎。
…というお手上げ状態に途方に暮れる康一。
前4人はどうでもよかったが、康一の為になるなら由花子が動く理由としては十分であった。
「全く、ここは公共の場よ。 落ち着きなさい。 ほら、こっちに来るのよ」
現状に理解は無いものの、どうするべきか見当をつけた由花子は京に声を掛け、近付かずにやや離れたその場で手を差し伸べた。
男性陣にはその程度の声掛けでどうにかなると思えなかったが、予想に反して声に誘われ振り返った京は露伴から手を離して由花子の元へ向かい手を掴んだ。
離れると同時にジェラートは地面に落ち、引かれるままに由花子の後ろに回った京は必要以上にしがみつくこともなく手を握る力も弱くはないものの痛むほどではないようだ。
康一以外はいったい何故だと内心叫んでいたが、実際に叫ぶのは憚られたので何とか言葉を飲み込んでいた。
「どういう状況か分からないけど、寄って集って男に囲まれて落ち着く訳がないわ。 本来なら唯一頼られてる露伴先生が落ち着かせれば良かったのよ。 とにかく空条さんはこの人に近付かないで頂けるかしら」
同性故の着眼点か、とにかく元凶から離れる切っ掛けとなり更に守るように後ろに庇われたことで京もやや落ち着きを取り戻したらしいと分かり、意図せずとも女性を囲む形になっていたことを指摘され気まずい空気が漂う。
「すごいや由花子さん!」
「そ、それほどでもないわ。 でも康一君の為になったなら嬉しい…」
その空気もすぐに白けてしまったが…。
心の底からの賞賛を贈る康一とそれに照れる由花子。
並ぶと体躯はアンバランスに見えるが、その関係が盤石であるのは誰の目にも明らか。
『いちゃつくにしてももう少し後じゃ駄目だったのか?』
などと言える強者も居らず、ラブラブオーラ迸る若きカップルの横で辟易した男達は所在なさげに目線をそらし立ち尽くすのみであった。
「あ゛ー、惚れた。 これは惚れる。 由花子さん好き。 由花子さんと康一君マジベストカップル末永く幸せになるべき尊い」
「仗助アイツを今すぐぶっ飛ばせすぐに治せば問題ないだろ」
「問題大有りっスよ!?」
「……やれやれだぜ」
読者様より頂いたコメントへのQ&A
(という名の補足)
Q.
雑誌を持ってこさせることが可能なら、何故ジョジョを買ってこさせないの?
A.
持ってこさせなかった理由は取材として聞くことに意義を持っていたことと、まさか原作を知らない邪教徒だと思いもしなかったから持ってこさせる発想がまず無かった。
雑誌にしたのは時差の確認の為で、発行日を確認しただけで中身は読んでない。
邪教徒発覚後に悶絶してたのは買ってこさせるかどうかの葛藤。
金銭的問題で対価として衣食住の保証をしておきながら京の金を使わせるのは露伴のプライド的にはNGだった。
異世界であるので露伴の金を持って行かせると偽札になるのではという懸念により断腸の思いで断念。
取材対象がハズレだったと結論付け今はもうスッパリ割り切って京で遊ぶ日々を楽しんでいる。
ちなみに同じ理由で京の持ち込んだ金も家から持ち出さないよう決めてあるので京はガチの無一文だったりする。