トリップした先で天才漫画家に振り回されててとりあえず早く帰りたい   作:ミツホ

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日本語特有の曖昧な表現で私を窮地に追いやるのやめろ

落ち着きを取り戻した私は待ち合わせ場所にたどり着く前にこちらを見かけたから巻き込まれてくれただけで実はデート予定だったという康一君と由花子さんを泣く泣く見送り、露伴先生のサスペンダーを握り締めて歩いて家まで帰った。

 

露伴先生はもんのすごぉ~く嫌ぁな顔をしたけどしがみつかれるよりはマシと判断したのか振り払われなかったので私は飼い主のリードを掴んで歩く犬と化したのである。

 

いやもう冗談言ってないとやってらんないよね。

私の背後にぬっしぬっしと歩く空条博士がいて正直ドキがムネムネで口から心臓がハローみたいな思い出すだけで怖い状態だったから…。

 

それにしても露伴先生がスタスタ歩いてくから私はそれにさかさか早歩きでついてってたワケで割と機敏な動きだったはずなのにぬっしぬっしと歩く空条博士とペースが変わらないというコンパスの差よ。

仗助君は普通に空条博士の後ろを歩いてたけど、スタスタさかさかぬっしぬっしドカドカと全く足並みの揃わぬ行進の注目度の高さたるやもはやエレクトリカルパレード。

 

そして現在、リビングで目の前に空条博士が座ってて呼吸の方法忘れそうになっているんですが、動悸息切れ眩暈がすごんいので誰か救心くだしあ……はっ!

 

いかんいかん落ち着け落ち着けまだ慌てるような時間じゃないクールになれクールになるんだ……ふぅ。

 

 

由花子さんの救いの手により何とか落ち着きを取り戻した気でいたけど全然そんな事は無かった。

というかデート中だったって聞いて私なんかの為に時間をとらせて申し訳なかった本当にゴメンって謝って見送るまでは冷静だったと思う。

康一君がすごいこっちを気にかけてくれてたのを追い払う勢いで『大丈夫だ、問題無い』って断言してこの様だよ。

 

……まあ仕方ないねあれ以上拘束してたら由花子さんきっと怒っちゃってたからね。

私が落ち着きを取り戻して手を離した途端にベクトルが康一君全振りになって颯爽と康一君連れて歩き出そうとしたもん。

康一君がこっちを心配して歩き出すのを躊躇った瞬間ちょっと髪の毛うねった気がしたからそりゃもう全力で送り出すわ。

全力でデートの再開を促したから由花子さんの印象は悪くないと思いたい…。

 

 

で、嫌がる露伴先生のサスペンダーを握り締め帰ってきた訳で…その間にSAN値はどんどん削れていくじゃん?

現状の横に露伴先生、斜め前に仗助君、目の前に空条博士って形のせいで目を上げたら例の御尊顔にぶち当たるからひたすらテーブルの上を見てるじゃん?

息を吸って吐くことがままならなくなるじゃん?

 

正直今すごいギリギリの精神状態なんだけど早く何らかの形で話が始まってくれないかな私から動き出すのは不可能だよ…。

 

「ミヤコ、大丈夫っスか? 顔色すげー悪ぃけど」

あー、仗助君良い子過ぎる…。

何この子めっちゃ愛でたい…。

 

っていうか声かけられて何も考えずに目線向けたけど視界の端に空条博士が入ってSAN値チェック入りまぁす!

 

「オイオイ、まだ何も始まってないだろう。 いい加減挨拶もできないのかよ君は」

「ハジメマシテ… コロサナイデ…」

「だから何でそうなるんスか!」

「いやだって無理だよ普通に怖いよ195cmの威圧感ハンパないってほぼ2mってもはや巨人だしワンダでも兵長でもないモブ女に抵抗する術が有るわけ無いんだから全面降伏するに決まってるだろこの世界を踏まえれば何の特典も持たない私はザコッパ戦闘力たったの5のゴミで間違い無い195cm怖い」

言ってから思ったけどワンダは巨人じゃなくて巨像だったわ…適当言ってごめん…。

ただ何が言いたいかっていうのは伝わるよね私と空条博士が戦闘力の比較をするなら凡人が巨像や巨人を相手にするが如く…つまりはとなりのトトロでメイに遭遇したまっくろくろすけの如くパァンってことさ!

 

「俺も195っスけど大丈夫じゃないっスか! 何で承太郎さんは駄目何スか?!」

「えっ!」

 

仗助ってたしか身長差が承太郎と10センチ以上あるのに体重が同じでつまり仗助の方がジョースター家の血が濃いから筋肉質みたいな話を読んだ記憶があるんだけど身長追い付いたの!?

195cm組に仗助も新メンバー参戦なの!?

まっくろくろすけとか言ってる場合じゃないなんだこいつ筍か!?

 

「せ、成長期? 4部って何年前の話!?」

 

西暦やら何やら覚えてなくて原作より先の世界なのは何となく理解してたけど詳しくは聞いてなかったなそういえば!

仗助達が高校生だったのは分かるけど何年生かは知らないんだよなぁ。

そういや露伴先生はちょうど20歳って設定をよく見た気がするな…。

 

「露伴先生今何歳です?」

「君はもうしゃべるな」

「はい」

 

何故か露伴先生が黙れとおっしゃるのでお口チャックチャック。

とりあえず口を噤んでちらりと見やれば確かに目の前の2人髪型や帽子でイマイチわからんが座高はほぼ一緒…。

これで立ち上がって空条博士の方が背が高かったらちょっとアレですね…うん。

 

「い゛っ」

とか現実逃避にくだらないこと考えてたら露伴先生におもいっくそ頬を引っ張られて目を合わさせられた。

もっと平和的に誘導して欲しい。

 

「君本当にいい加減にしろよ? 君ん中では繋がってるんだろうがこっちは君の脈絡の無い言葉を掴む事から始めさせられてるってのを何回言えば理解するんだい? 用語を解説もせずこっちに分かる前提で話すのもよせ」

「ひゃい」

「だいたい君の頭は鶏以下か? さっきまで承太郎さんに怯えていたくせに仗助の身長なんていうどうでも良いことで目の前の承太郎さんを意識からあっさり弾くんじゃない! 君の思考の散漫具合はいっそ尊敬するよ!」

ごえんあひゃい(ごめんなさい)ゆゆひえくらひゃい(ゆるしてください)

 

だって現実逃避してたんだからしょうがないじゃないっすかとは言えずにとりあえず謝る。

自己防衛だっていうのにその辺を考慮せず一方的に責められるのは納得行かないが露伴先生が割とガチで怒ってるっぽくて謝るしかない仕方ないね。

 

普通に返事できるけどワザとひゃいひゃい言って摘ままれてるせいでうまくしゃべれないっていうフリをしたんだけど手を放す時すごい忌々しそうな顔してたからバレてるね完全に…。

 

 

「やれやれ…そこまでにしておけ。 とにかくこっちは危害を加えるつもりはない。 落ち着いて質問に答えてくれればそれでいい」

「余計な話やくだらない表現も比喩もこっちに分からないネタもいらないからな」

「……はい」

神妙に頷いたら露伴先生に疑わしげな視線を寄越されて納得いかないでござる。

 

こっちに来てからどうにでもなーれの精神でレリゴ~なエルサの如く赤裸々な心のパンツ丸出し状態ではあるけど、どうせ読まれるしバラされるかもしれないんならもう取り繕う方が無駄じゃない?

1ヶ月経ったらさよなら確定だからこその暴挙ですよ。

ぶっちゃけ空条博士の前では大人しくしていたかった気がしないでもないけど現実は残酷だ…。

今更取り繕ったところでよ。

……開き直るのは任せろ!

 

でも質疑応答ぐらいはちゃんとしますはい。

露伴先生がすごい睨んでるのもあるけど空条博士相手にふざけらんないっす。

 

「名前は?」

「渡利 京」

「歳は?」

「25」

「えっ! マジっスか!? にじゅう…ごォ!?」

本気で驚いたらしい仗助君がこっちに人差し指まで向けているけどそこまで驚くか?

こちとら童顔とも老け顔とも言われたこと無いぞ。

 

「……25…だと?」

何で露伴先生まで驚いてるんですかね!?

 

「…出身地は?」

ここで淡々と次の質疑をねじ込んでくる空条博士、これがコミュ障の強みか…。

「生まれは○○県だけど育ちは○○。 今住んでるのは○○市○○区○○町○-○-○」

「郵便番号」

「○○○-○○○○」

「小学校から大学まで通ってた校名は?」

「1年生だけ○○小学校で2年生から○○山小学校、○○東中学校、○○高等学校調理師コース、○○調理専門学校イタリア料理1年制コースを卒業」

「職業は?」

「飲食店で接客担当してます」

「家族構成は」

「両親と兄と弟。 実家から通ってるのでさっきの住所に全員住んでます」

「家族の名前は」

「両親は広海(ひろみ)(とおる)、兄は(ゆう)、弟は(こう)

「字はどう書く?」

「広い海で広海、透明の透、悠久の悠に幸せ」

「最近家族間で起こった事件はあるか?」

「事件…? ……。 …あー、えっと、家の中だと幸が兄弟部屋に出たゴキブリを放置して逃げた報告を聞いて兄貴がマジギレして…あんまりにもうるさいから退治してやったら1000円リビングに置いてったことぐらい…ですかね。 2年以上前になりますが」

 

あれは酷かった…。

昼まで寝てた幸がようやくリビングに下りてきたと思ったら『ゴキブリ出た』って言った瞬間兄貴の顔がヤバくなったのに

『……殺したんだよな?』

『いや、殺してない』

退治してないことを聞いた瞬間の顔芸並の絶望顔よ。

『殺してないんなら言うなよ! 殺してないんなら言うなよ! 殺してないんなら言うなよぉぉぉっ!』

『天井にいたし…』

『何で報告した!! お前が言わなかったら俺も知らないままで安穏としていられたのに!! 部屋入れねぇじゃねえか! さっさと殺してこいよぉ!!』

『え…無理…』

『1000円やるから! 殺してこい!』

『ヤダ…』

リアルで大事なことなので3回言いましたを見たのは久し振りだった。

その後も男2人でギャーギャーもだもだしてたから冷凍スプレー持って私が部屋に向かって探して凍らしてトイレットペーパーで拾ってトイレに流したんだけど、いらないって言ったのにわざわざ1000円持ってきて置いてったのが面白過ぎて思い出すだけで笑える。

 

「君が弟を殴って骨に罅を入れた話の方が事件なんじゃないかい? ……()ッたいなオイ!」

「露伴先生、ちょっと静かにしましょうね」

スパンッ、と露伴先生の後頭部を叩いて文句を言う口を笑顔で黙らせる。

父から遺伝したこの『怒ると笑顔になる癖』は何でそんなに怖がられるんだろうと思ってたけどシグルイの名言に首がもげるほど納得したわ。

 

笑うという行為は本来攻撃的なものであり獣が牙をむく行為が原点である、と。

なるほど分かり易い。

 

「今真面目に話をしてるんですよ。 ね? わかります? 私の歳もさっき知りましたよね? てことはその話がもう5年近く前の話だって分かってますよね? わざわざ誤解を招く言い方までして楽しいですか? 人が困ってる姿は愉快ですかそうですか。 人が真面目な対応心掛けてるのにそういうことをするんですね。 いえ別に悪いとは言いませんよそこが露伴先生の魅力でもありますから。 でも、ね? ほら、わかりますよね……露 伴 先 生 、良 い 子 に し て て く だ さ い」

 

もしこれでこの事件を掘り下げられたらジ・エンド・オブ私になるから必死にもなるよね露伴先生相手じゃなかったらこんな穏便に言葉で対応してないよあの時みたいにマウントとって殴りかかって骨に罅をいれてもおかしくないねこの場合罅が入るのは露伴先生であってほしい。

 

とにかく空条博士に早く弁明したいんだけど骨に罅入ったのは殴りかかった私で弟は軽度の打撲でむしろ私の戦闘技能はマイナスだから下手に危険人物認定しないでくださいお願いします!!


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