トリップした先で天才漫画家に振り回されててとりあえず早く帰りたい   作:ミツホ

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渡利家は極々一般的な家庭ですので! …たぶん

あーもうこの野郎マジふざけんな頭のバラン引き千切るぞ!

 

弟、幸を殴った話はそれ自体も問題なんだけどその原因をこの2人に説明することになったら私の精神は死ぬ。

この世界に居る限り死んだ目で『帰りたい…』しか言わなくなる未来が見えてる。

 

いや殴ったことは仕方なかったんだって理解してもらえると思うんだけどその起因が私が腐ってるが故のものだからもう社会的抹殺案件で死ぬしかないじゃない!って話なわけで…。

 

 

そう、アレは…5年ぐらい前のこと…。

 

我が家の人間が家族に対して割と何でもオープンで仲がいいことが徒になった事件だった。

 

どれぐらいオープンって恋人できたら普通に夕飯の席で報告するし兄姉弟間で漫画の貸し借りバンバンするし運ぶのが面倒だったら部屋に居座って読んだりするぐらいなんだけど、友達曰く未だにそれが普通なのは珍しいらしい。

 

兄貴は付き合い始めで普通に家に彼女連れてきて、普通にその時家にいた母さんに紹介して『付き合いたてで家族がいる家に連れて行かれて紹介されるとか重い…』ってフラレたし。

とりあえず世間一般的にはうちの家族は仲が良過ぎるらしい。

 

で、私が腐ってることは家族全員知ってる。

いや、これは単に部屋の掃除をしてくれた母さんが『京はやっぱり私に似てるわ~』と夕飯の席で言い出したからなんだけどね?

別に私からわざわざ話したわけじゃないし。

 

それからというもの兄貴が貸し借りしてる漫画のやり取りするときに『お前これだとどんなカップリングすんの? えっ、そこで…?』『何となくお前の好みの傾向が分かってきたぞ。 こいつは受けだろ? え? 違う?』みたいな会話が増えたり、弟の『ねーちゃんいつになったら彼氏つくんの?』が『ねーちゃんいつになったら3次元のチンコに興味持つの?』になったりしたんだけどネット上の腐友にそれを言ったら正気を疑われた。

いや弟はその都度殴ってたけどって言ってもそういう問題じゃないらしい。

 

で、私が腐ってることについて色々突っ込んで聞いてくる露伴先生に家族バレしてることとそんなやり取りがあった話をしたら面白がって家族関係についても根掘り葉掘り聞かれたわけで、その延長で弟を殴った話もしたわけで、これをこんなところで露呈させようとしやがったわけだよ!

 

 

家の中での殴るっていうのは小突く程度で本気で怒っても無いんだよ。

家の中なら

『ねーちゃんいいかげん彼氏作れよ。 生身の』

『紙粘土とかで良けりゃ俺が作ってやっても良いんだけどなー、ははっ』

っていう会話もおふざけで済むし拳骨1発で許してたし。

 

でも大学のサークル仲間家に連れてきて

『お姉さん超俺好みなんだけど、お前俺が義兄になったらどうする?』

っていう社交辞令と冗談を混ぜた発言に対し真顔で

『ねーちゃんチンコ2本無いと満足しないから』

とか目の前で言われたら普通に殺す気で殴りかかってもしょうがないと思うんだ。

ねーちゃん確かにチンコ1本のNL同人誌よりチンコ2本のBL同人誌の方が好きだけどその説明くっっっそ語弊あるし家族間なら笑って殴って終わるけど他人巻き込んだら闇落ちも辞さないに決まってんだろうが!

 

ぶん殴って倒れたところにマウントポジションとって殴ったら勢い余って床を殴って左手の中指に罅が入ったからね。

殴り合い初心者にマウントポジションは危険ってことだね。

実質私が殴ったの1発だけで即自滅してるからね。

 

骨折したのは自分だって言ったところで

『何を言われたらそんな骨折するほどの勢いで殴るんだ』

って聞かれたら詰むし…。

言わなかったら怪しまれるし、言ったら言ったで弟にそんなこと言われる姉とか無いわ…ってなるし弁解せずに淫乱の称号を得るか弁解して腐バレするかの究極の2択……死ぬしかないじゃない!

 

聞かれたらどうするべきかと頭を巡らせようと思ったんだけど言い訳と絶望しか浮かばなくってオワタ…。

 

 

飛んでた意識を取り戻してみれば露伴先生の二の腕をがっちり掴み、顔もだいぶ近かった。

ヤンキーのメンチ切りの距離で笑顔で凄まれた露伴先生は固まってるけどこんな体験滅多にできないんだから喜んでも良いんじゃないですかね仗助君に殴られたときは喜んでたんだろほら自分が招いた結果だよ私まだちょっと怒ってるからねちょっとだけだけどまだ怒ってるんだよちょっとだけほんのちょっとだけね!!

 

「オイ、離せよいい加げ…」

「え? ごめん聞こえなかったからもう一度言ってみてくれる?」

「……離してくれ」

「…しょうがないな」

 

もしこの相手が幸か兄貴なら

『オユルシ クダサイ オネエサマ(ミヤコサマ)』

と言うまで耳を引っ張ってたね。

 

「あのさぁ、露伴先生の助け船ってつまりは私のやらかしたこととかを面白おかしく暴露して『こんなのが敵の刺客とかマジウケるんですけど~。 無いわー』的な流れにすることなんだな? 社会的に私を殺してくれようとしてるんだな? そういうことなんだろ?」

「ソレが1番分かりやすいだろう。 というか君、そこまで言うほどか?」

こいつ、全く悪びれて無い…だと?

反省のはの字も見えない喉元過ぎればなんとやらってか?

さっきの語弊を生む言い回しやらその態度やらが我が家の末っ子クソガキ様の幸を彷彿させてくるし最高に嫌過ぎる。

何で今思い出さなきゃならんのだ。

 

「お前深海から深海魚無理矢理引き上げたら死ぬに決まってんだろひっそり人目に付かないところで生息してる生物を日の目に晒そうとすんなバカ野郎! そういう所さえ露呈しなけりゃ私は至極真っ当で平々凡々な中流家庭で生まれ育ったただの人だから! 次にこういうことしたら洗濯した後のパンツ全部ひっくり返してタンスに直してやるから覚悟しとけよ!」

「舌の根も乾かない内に脅し文句が非凡なんだよなあ」

「いや、家事を任せている相手に喧嘩を売るってのはそういうことだからね。 パンツか靴下かズボンの耳かそれ以外かみたいなバリエーションは家庭ごとにあると思うけどさぁ」

「たぶんそれ君ん家だけだと思うぜ」

「まさかぁ。 そんなわけ…」

 

ないよね?と続けようとして目線を向けた仗助君の顔は完全に『何言ってんだこいつ…』だった…。

 

「いやいやいやいや待って。 え? 嘘だよね? 仗助君だってお母さん怒らせたらパンツとまではいかなくっても靴下裏返しのままタンスに直されてたりズボンの耳出っぱなしだったりしたことあるよね? もしくはちょっと苦手な味付けのおかずばっかり食卓に並ぶとか部屋の掃除されて秘蔵のアレコレをリビングに広げられたりとか有るよね?」

「や…無いっスね…」

「……マジ?」

「マジっスよ…」

「空条博士は有りますよね初めてお母さんをアマ呼びした日の夕飯のおかずとか次の日の洗濯物の違和感とか何らかのささやかな竹篦返しぐらいは有りましたよね? ねっ!」

「無いな」

嘘だろ承太郎…!

 

「ナアナア、君ん家のルールがローカルかメジャーかはまた後で検証するとしてさっきから気になるんだがズボンのミミってなんだい?」

「普通にメジャーだと思ってた…。 お弁当が日の丸ってのが代表みたいな感じでよく取り上げられるけど家事を担う人間を怒らせたらそういう報復が有るのは当たり前じゃないの…? ズボンのポッケがびろーんと出てるのをズボンの耳っていうのもメジャーじゃないって追撃まで食らって正直混乱してる…」

「僕が言うのもなんだが、確かに僕が何もしなくっても君って人間に脅威を感じるのが馬鹿らしいって分かってもらえそうで良かったじゃあないか」

「うるせぇ頭のバラン引き千切るぞ」


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