トリップした先で天才漫画家に振り回されててとりあえず早く帰りたい 作:ミツホ
承太郎達が帰った後、露伴は沸き上がるインスピレーションを余さず己の物にするため仕事部屋に籠もることを決めた。
改めて聞いたものだけでなく、初めて聞いたものも多々あった京の話とあの空条承太郎の狼狽した姿。
そして思いもよらなかった京の醸し出した威圧。
それらが露伴の創作意欲を刺激して止まなかったのだ。
あれだけの近距離で笑顔の怒りを体験できたのは非常に良い誤算だった。
漫画的に表現するなら背後に般若が浮かんでいただろう。
京が聞けば『反省!しろ!』と言いそうなことを考えながら露伴はペン先を走らせる。
異世界人で、この世界を漫画の中と認識し、男同士の恋愛を好む。
それ以外は多少一風変わった家庭に住んでいようと極々つまらない人間だと思っていただけに、新しい発見は露伴にとってちょっとしたお得感のようなものを感じさせていた。
というよりは、落ち着きの無さから社会人ではなく大学生だと決め付けてそれ以上の個人情報に全く興味を持っていなかっただけに今更知ったことがやけに面白く見えてきているというのが正しい。
とにかく今後は今までよりも様々な方向から遊ばれることが確定したわけである。
そして…気が済むまで紙を埋めた露伴が部屋を出たのは次の日の昼などとうにこえ、夕方に差し掛かろうとする頃だった。
京が買ってきたであろうサラダを資料兼食事にするつもりで部屋を出て、キッチンに向かう。
しかし、開いた冷蔵庫の中にサラダは無かった。
調理台やダイニングテーブル、果てはリビングのテーブルまで見ても置かれてはいない。
買ってくるのを忘れたのか、昨日の露伴に対する抗議活動か。
そう思い苛立ちが募った露伴は、それをぶつける先である京を探す。
しかし家のどこにも京は居らず、露伴は電話に足を向けることとなった。
承太郎へ京が消えたことを伝えた露伴は、人手を求め康一へと電話を掛ける。
露伴は事件や事故に巻き込まれる以外、京から進んで姿を消す理由が無いと確信していた。
丁度買い物に出掛けているという可能性も有ったが、完全に乾いた状態ではためく洗濯物と食器かごに置かれたままの4つの椀。
片付けられていないそれらが告げる不自然さを露伴は見逃さなかったのだ。
露伴が知る限り渡利京はかなり几帳面な性分だ。
食事を食べる時には調理器具の一切合切が既に食器かごに入り、食後1時間も経たないうちに全てが収納場所に片付けられている具合である。
洗濯物に関しては昨日からだと断言できないが、少なくとも乾いた食器を丸1日放置するような人間ではない。
更にゴミ箱の中も確認したところ1番上に吸い物の空袋が有ったので、あの後一切の食事もしていないことになる。
おかしなことに巻き込まれたと露伴が考えるのも道理であった。
『ええっ!? 京さんなら昨日の夕方オーソンで会いましたけど…まさかその後に!?』
そしてなんという偶然か、昨日の夕方に康一はサラダを買いに出ていた京と会ったという。
康一が購入を見届けたサラダが家に無いことから少なくともその後帰ってきておらず、露伴の見立て通り行方知れずになってから丸1日近く経っていることが確定した。
もう一度承太郎に連絡しなければ…と考えながら更に詳しく話を聞いた露伴は、京が次に向かったというオーソンがどこか理解すると同時にとある可能性に気付く。
もうどこにもいない少女の面影とともに。
「そこは、例の小道近くのコンビニかい?」
『そうです。 っ、まさか…』
「鈴美が成仏してから全く見なくなったが、無くなったかどうかは分からない。 世界を渡ってきた彼女なら、もしかすると…」
『そ、そんな! 僕、そんなつもりは』
「落ち着きたまえ康一君。 振り返ってはいけないことを知らない、なんて可能性は限り無く低い。 少なくともあの道は、僕らにとって吉良吉影を見つけるためになくてはならない存在だった。 それだけ重要な部分なんだ。 世界を渡る体質のせいで出られなくなっているだけで、まだそこに居るかもしれない」
昨日の話でも出てはいなかったが、以前聞かなかった話も新たに幾つか出ていたので思い出せず話さなかっただけかもしれない。
勿論知らない可能性が低いだけで、ありえないとは言えない上に、出られなくなる理由も憶測でしかなかった。
それでもそんなことを言ってしまったのは、自身を責める親友を慰めたかったからに過ぎないのだ。
誰に言うでもなく心の中で御託を並べた露伴は康一に承太郎もしくは仗助への連絡を頼み、返事も聞かずに電話を切った。
着いたその先、乱れた呼吸を鎮めようとする露伴の目に映るもの。
あの日を境に消えたと思っていた例の小道が、さも当然のような顔をしてそこに在った。
そしてその道からスタスタと京が出てくる。
「うわっ、露伴先生!? え、どうしたんです? もしかしてサラダ急ぎだったとか?」
岸辺露伴は後にこう語る。
『あの瞬間から僕は彼女に対する容赦が無くなった』
と。
そしてそれを聞いた人間全てが
(それまでは容赦してるつもりだったのか…)
と内心驚愕していたことを本人は知る由もない。
誤字報告をしてくださる方、ありがとうございます。
自身でも投稿前に何度も読み返してはいるのですが気付かないだけでなく誤用している漢字等も有り、作品を読み込み訂正してくださる方がいるのは本当にありがたいです。