トリップした先で天才漫画家に振り回されててとりあえず早く帰りたい 作:ミツホ
露伴が京を見つけた頃、2人の高校生が岸辺邸の前に佇んでいた。
康一の連絡により現状を掴むことができ、少なくとも足取りが掴めたことと、下手に追い掛け擦れ違いが起こるよりは露伴が帰ってくるのを待つ方が確実だとなったからだ。
こうなったのは自分の責任だと感じ不安そうな康一。
待つだけとなったことをもどかしく思い落ち着かない仗助。
一方承太郎はどこに居るのかというと、岸辺邸への道中で掛かってきた電話によって仗助だけを向かわせどこかへ消えた。
何の説明もなく
「後でそちらへ向かう」
とだけ告げて承太郎が別れたことにより、頼れる大人が居ない2人は寄る辺無く待つしか出来ないのだった。
「京さん…大丈夫かな…」
「まぁ…ミヤコのことを1番知ってる露伴が大丈夫っつったんなら、大丈夫だと思うけどよぉ…」
「僕が一緒に行ってれば、こんな事態には…」
もう少し自分が食い下がっていれば或いは…、と思わずにはいられない生真面目過ぎる康一の顔色は悪くなっていく一方だ。
仗助自身も不安や心配で精神的な疲労を感じてはいるが、目の前で深く落ち込んでいく康一を励まそうと慌てて口を開いた。
「お、おい、落ち着けよ康一。 こればっかりは誰が悪いっつー話じゃ無ぇだろ。 それにお前、前あの小道で露伴に助けられたっつってただろ? そんならそん時みたいによ、露伴がミヤコを助けるかもしんねーし、お前が気に病んでどうにかなるっつーワケでもねーし…、っや、ほら気にすんなよってことなんだけどな! ミヤコはなんつーか、ほら、露伴相手に引くどころかグイグイ行くぐらいしぶといヤツだから、案外けろっと帰ってくるかもしんねーからよっ!」
「…うん、そうだよね。 ありがとう、仗助君」
やや微妙な発言も含めてそれが友人の心遣い故だと分かる康一は、気が楽になるのを感じ弱々しくはあるが微笑みを浮かべた。
仗助も自分の拙い言葉で友人が僅かでも気を取り直したことが分かり、自分自身の不安が軽くなったような気持ちになる。
うまい具合に気持ちの整った2人は、無意識ながらもそれを保つために軽口の応酬を始める。
落ち込んでいるよりは、空元気と紙一重であろうとそうしていたほうが遙かに良い。
その内容が専ら京の言動のことであったのは、恐らくそれがネタとして新鮮だったからだろう。
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「ええっ! 弟さんとの喧嘩で骨折!?」
「らしいぜ。 どんだけ殺伐としたキョーダイなんだろーな」
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「京さんは多分、何もなければ普通の大人の人なんだと思うんだけどなぁ…。 初めて会ったときや昨日なんかは、本当に普通の人だったんだよ。 状況と、相手が悪…難有りなだけでさ…」
「康一が言うんならそうかもしれねーけど、なんかもうイメージがなあ…」
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「チコっと思ったんだけどよぉ…」
「どうしたの? 仗助君」
「アレだよな、露伴とミヤコってよ…ああ見えて一応大人の男と女なんだよな?」
「……あぁ…」
「……なぁ…」
「「無いなぁ」」
他言して欲しくなかったであろう姉弟喧嘩の話や、完全に変な人間としてイメージが固まった京へのフォローはともかくとして、直接的な表現が無いにしてもだいぶ失礼な上に当人達に聞かれたら怒られそうなことを言う高校生達を咎める大人はどこにもいない。
だが、男女一つ屋根の下というシチュエーションだと今更ながらに認識された上で箸にも棒にも掛からないと思われる2人も大概である。
「何の話をしているんだ?」
「「承太郎さん!?」」
そんな中漸く現れた大人だったが、てっきり来るとすれば駅の方からだと思っていたことも有り真逆から声をかけられた2人は体が跳ねるほど驚いた。
「何でそっちから…、ん? そっちの人は誰ッスか?」
「うちのスタッフだ。 1人でここまで来れると言っておきながら迷ったと連絡をしてきてな…。 下手に駅から離れたせいで目立つ目印も無く、おかげで手こずったぜ」
「やー、大丈夫だと思ったんですけど。 でもほら、目的地には近かったじゃーないですか」
細い体躯の男が承太郎のすぐ隣で佇んでいたことに驚く2人だが、その態度により驚かされる。
畏まった様子が無いどころか、迷惑をかけた上であまりにも気安い。
これが承太郎よりも遙かに年上であれば年功序列によるものかと多少は納得できたかもしれないが、むしろ承太郎より仗助達の方が歳が近いと思えるほど若いのだ。
承太郎も多少は腹に据えかねるのかその頭を軽く叩いてはいたが、あまりにも承太郎相手にそぐわない態度に仗助と康一はたじろぎ何も言えないでいた。
そんな2人に気付くことなく、承太郎はまだ露伴が帰っていないことを確認すると男に声をかけた。
「先生が帰ってくるまで動きようが無いな。 おい、持ってきた資料を出せ」
「あ、それはねー…、あー…、例の人が居ないことにはちょっ…あっ! アレ、あそこの!」
「っ!! 露伴先生! 京さ…京さぁぁぁん!?」
「ちょっ、みっミヤコォォォーッ!?」
全員が男が指し示す先へ視線を向ければ、確かにこちらへと向かってくる露伴と京の姿が有った。
京の無事が分かり、喜び勇んで迎えの声をかけようとした高校生の言葉は残念ながら驚愕の叫びへと変わったが、無理もない。
「オイオイオイ待てよどこに行くんだ!?」
京はこちらを認識した瞬間無言で進行方向を180度変更し、全速力で走り出した。
突然のことに露伴も呆気にとられ、手を伸ばすこともなく後ろ姿を見送るしかない。
何の返事も無くとてつもない勢いで角を曲がり消えた京だったが、その逃亡劇はすぐに終わった。
「のわっ! は? あ? え? ……ぎゃーっ! 高い! びくともしない! え…、マジでびくともしない…怖い…」
「何故逃げようとしたのか、じっくり聞かせてもらおう」
京が承太郎に俵担ぎされ角から姿を現したことにより、スタープラチナ・ザ・ワールドが使われたことは明白。
そして京は急激に視点が変わったことよりも、それに混乱し暴れても揺るがない拘束に恐怖を感じすぐに大人しくなった。
「え? は? え? 今承太郎さん…、え?」
目の前に居た承太郎が消えたかと思えば遙か遠くの角から現れたことに激しく動揺する姿に、康一は後ろに立つ男が承太郎のスタンド能力、もしくはスタンドそのものを知らないと気付く。
しかし康一が落ち着かせようと声を掛けるよりも、男が叫ぶ方が早かった。
「しゅ、瞬間移動? いや、つーか……
ねーちゃん何で逃げてんだよ!!」