トリップした先で天才漫画家に振り回されててとりあえず早く帰りたい 作:ミツホ
…何を言っているのかわからないと思うけど私自身も何が起こってるのかわかってない。 たぶん頭がどうにかなってる。 催眠術だとかスタンド能力だとかじゃなく幽霊だと決めつけたらそんなチャチなもんじゃあ無かった。 生きてる人間がもっとも恐ろしいとかいうけどたぶんその片鱗を味わった気がするし私をトリップ主人公と仮定するなら設定詰め込み過ぎだろこれ…。
「君なあ! サラダ買ってくるだけにどれだけ時間かけてるんだよ! これぐらい5歳児だって出来る仕事だぜ!?」
露伴先生激おこなう。
幽霊の小道から抜けたと思ったら露伴先生が居てすごい怒ってて何がなにやらわからんのだけど、私が察せなかっただけで家事なんぞ後回しにして早くサラダを買ってきて欲しかったでファイナルアンサー?
「えぇー…。 明日の昼まで声をかけるなって言ってたしそんな急ぎだとは…」
「僕がそう言ったのは昨日だ!」
「…………きの…っ、ぁ!? は? え? き、昨日ぅ!?」
つまり私は丸1日、あそこに居たと?
そんな馬鹿な…。
いや、嘘だとは思ってないよ。
ここまで怒ってる露伴先生を目の前に疑うわけが無い。
なんというか正直そんなに時間の流れが違うとは思わなくって驚いただけでね?
「とにかくさっさと帰って承太郎さんに連絡するぞ! 君が消えたって伝えたからもしかしたら逃げたと思われて詰問されるかもしれないが僕は知らないからな!」
「え、え、あ、ぅ…。 ご、ご心配おかけしました」
「ハアアァァァー!? 誰が! 君の! 心配を! するっだってぇ!? 思い上がりも甚だしいぞ! 君がかけたのは迷惑だ! 馬鹿を言ってんじゃあないよ!」
後から思い返したときは字面だけで考えたらツンデレっぽかったなって思ったけど勘違いしてはいけない……ガチギレだった。
普通にマジで怒ってるから茶化す気にもなれないぐらいのキレっぷりにひたすら小さくなるしかなかったし、後になっても当人を前には笑い話にできないレベルのお怒りだったからね。
露伴先生があれほど怒ったのはその後1回ぐらいしか見てない。
「も、申し訳ございません…」
ひたすらに、ひたすらに小さくなって露伴先生の後ろをついて歩く。
無言の露伴先生怖い。
怒りのオーラ半端ない…。
というか丸一日あんな所に居たという事実もヤバい。
すぐに通り抜けずに居ただけで丸一日っておま……浦島太郎先輩に鼻で笑われそうなプチ竜宮城だね!
ゴミが亀の代わりなの?
もっと可愛い猫ちゃんとかにして!
いやもう本音を言うならもう二度と出てこないで欲しいんだけど正気度ロール回してる間は知能指数低下させないとチェック失敗した瞬間即発狂しそうになるので許して…。
とにかく私は背後に這い寄る混沌さん(仮)から無事逃れて正気も保ってるよ!
バス停に着いた露伴先生は時刻表を見て舌打ちをするとそのまま歩き出す。
たぶんバスが行った直後なんだろうね時計の無い私には時刻表を見てもわからんけど…。
ふと何で露伴先生ケータイで空条博士に連絡しないんだろうと思ったけど、よく見たらケータイどころか財布も持ってないね…。
ああ、本当に心から申し訳ない…。
あそこに来たってことはたぶん康一君から聞いたんだろうけど、あのオーソンが小道に近いって気付いて急いで来てくれたんだとしたら、そら私が呑気に出てきたらキレるのもしょうがないよね…。
今日はもうひたすら、ひたすらにもう本当にひたすらに大人しく謝罪と報告をしよう…。
他の人がソファーに座ってる中カーペットを避けてフローリングの上で正座するぐらいのつもりで反省の意を示そう…。
バスを使わないとそこそこ時間がかかる道を歩くペースは始めの方こそ置いて行かれそうな勢いだったのが、今では普通の足取りに戻っている。
むしろ私の普段のペースよりも遅い。
露伴先生は周囲を観察しながら歩くのが癖とかで歩くのがゆっくりな気がしないでもない。
それにしたって空条博士に連絡とか言ってたんだからもっと急ぎ足になりそうなもんだけど。
「ナァ」
「はい」
まあ、何か帰る前に話があるのかなーとは薄々察してましたはい。
「君はあの道が何か知ってたのか?」
幽霊の小道の話はしなかったもんなぁ。
私が知ってることをちゃんと話してればここまで迷惑かけなかったのだろうか。
「どこかのオーソンの近くにあの道が有るのは知ってましたが、入って後ろから声を掛けられるまでは存在すら忘れてました」
「鈴美のことは知ってるか?」
「…はい」
一瞬レイミって誰かと思ったけど、アレだね……スズミさんじゃ無かったんだね…。
ずっとスズミさんだと思ってたわ…。
まあ、す…鈴美さんのことはむしろ知ってるからこそ話さなかったんですが。
「どこまでだ?」
「吉良吉影に殺された女の子、ですよね」
そして露伴先生は鈴美さんに助けられたけど、鈴美さんのことを覚えていなかった。
「鈴美の話が出なかったのは忘れていたからか?」
「……部外者が知ったように語るのを憚られる話は出してません」
故意に話さなかったのはアヴドゥルさん、イギー、花京院の最期。
そして仗助君のお祖父さんと億泰君のお兄さん、鈴美さんのことだ。
嘘や誤魔化しはできずとも、黙秘というのはできる。
露伴先生に掘り下げられない限りは、死が絡む話をしたくなかった。
私が語るのはキャラクターの話だけど、ここにいる人にとってそれは身近な人の死の話だ。
軽々しく口にできるものじゃない。
「僕らには故意に話さなかった。 道に入ったのは偶然、ということか」
「はい。 落としたゴミが風に流されて、それを拾いに入ったのがあの道でした」
「誘われたのか、偶然か。 ……ナァ、君さっき声を掛けられたって言ったよな」
「はい」
ああ、流石露伴先生。
聞き流さないんだなぁ。
「声を掛けられて、幽霊の小道を思い出した。 君、誰に何て声を掛けられた?」
「……若い男の声で、『ねーちゃん』と…。 ……弟は2年前に海で…」
「…そう、か」
露伴先生は、何も言わず歩き続けた。
口を噤んだ露伴先生の背中に構わず零すように言葉を続けたのは、慰めが欲しかったのか、ただ話すことで整理したかったのか…。
少し感傷的になり過ぎていたのと、そんな自分に酔っていただけのような気もする。
ただ…そんなセンチメンタルが消し飛ぶようなことがこの数分後起こるなんて微塵も思わず私は語っちまったんだよなぁ~。
思い返すだけで奇声を上げたく…。
あぁ~、
「そのたった一言だけなら道を抜ける前に振り向きたくなったかもしれないんですが、最初の声を皮切りにいろんな声が私を『ねーちゃん』って呼ぶんですよ。 私にはいったい何人の弟がいたんだっていうぐらいずーっと呼ばれて、ふと思ったんです。 弟の声、どんな感じだったっけ?って…。 あは…まだ全然、3年しか経ってないから忘れてないつもりだったんですけど、幸がどんな声だったのかもう分からなくなってるって気付いて…。 いやー、ははは……なんか、聞いてれば思い出せるかなって思ったら、抜けられなくて…。 あ、でも流石に丸一日なんていなかったですよ! でもたぶんそれが原因ですね。 まあ、皆さんに迷惑を掛けたのは本当に申し訳ないと思うんですけど今回のこれでちょっと弟のこと吹っ切れたっていうか…まあ、忘れていくものなんだなって、納得できたというか、まあ、あの、そういう感じでした、はい」
「……。 ふん、お涙頂戴の話で承太郎さんが誤魔化されてくれるかは知らないが、康一君や仗助なら同情してくれるかもな。 言っとくが僕は誤魔化されてやらないからな。 この借りはきっちり返してもらうから、忘れるんじゃあないぜ」
「えぇー…。 いや、まあらしいっちゃらしいですけど…」
「貸し1つ、忘れるなよ」
「……、あぁ。 あー、はい。 分かりました。 憶えておきます。 返すまでは」
なんかね、このまま終わってたらね、ものすごくこう…なんか銀魂のシリアス回みたいな感じで終わったかもしれないんだけどね、残念ながらそうは問屋が卸してくれなくってね…うん。
角を曲がって露伴先生の家が見える道に出たら家の前に人影が
化けて出てきたと思うのもしょうがないと思うんだ。
吹っ切って忘れるとか言ったから化けて出てきたのかと思って思わず逃げたら確実にスタンドを使ったであろう空条博士に俵担ぎされてて私の小鳥のような心臓が10羽ぐらい飛び立ったし、混乱して結構暴れたつもりだったんだけど万力の如くガッチリ固定されてびくとしなかったし空条博士マジゴリラ。
「ねーちゃん!」
「分かった分かったまず落ち着いて成仏しろ話はそれからだ」
「それ話す気ねーじゃん!」
「おい、どういう状況なんだこれは。 ミユキ、説明しろ」
「いや、これ俺のねーちゃんなんですよ」
「待って待って待って待って何で空条博士幸をミユキって呼んでるんですかむしろこれはこの世界の私の弟でパラレルワールド的な感じで私の弟であって私の弟じゃない的な話?」
「ねーちゃん何言ってんの? 2次元への憧れが過ぎてトチ狂った感じ?」
「えー無理もう無理意味が分からん待ってお前が本当に私の弟の幸ならそれを証明する元の世界の話なんでもいいからしてみて現在未発行の漫画やアニメでも家族の話でもなんでもいいから」
「えー。 あー、ほらアレ。 ねーちゃんが俺を殴って骨を」
「おいやめろ」