トリップした先で天才漫画家に振り回されててとりあえず早く帰りたい 作:ミツホ
「おい、ふざけるなよ…っ!」
「ごめんなさいごめんなさいだってこんな事になるなんて思って無かったんです」
「信じられん! こんな冒涜的な…っ、くそっ!」
「許してくださいもうしませんヘブるのだけは勘弁してください」
「僕のスタンド技を動詞にするな!!」
「ひえーっ!」
あれから早3日…。
初日は私が所持していたスマホを電池が切れるまでこねくり回し説明させられ、財布の中身は糸くず1本すら余すことなくひっくり返された。
そして平成25年のくすんだ100円玉を見つけた露伴先生がそれにいたく興奮していたりと余すことなく変人ぶりを見せ付けられた私はすでにお腹がいっぱいになっていた。
ちなみにこの世界は西暦2000年…平成12年ということで、異世界プラス未来という感動をスマホではなくその100円玉から受信したらしいさすが露伴先生今の私には理解できない。
そしてその後、怒濤の質問責めに襲われたんだけど…。
聞かれた事に答えようにも一般人な私には説明できないスマホの原理だとか平成何年に何があったかとかを聞かれても覚えているわけがない。
しかしリアリティの追求者岸辺露伴先生はその足りない部分の方が多い情報に非常に満足したらしい。
専門家でもない人間が必死に説明する姿がいい資料になったって楽しそうだった。
……こいつただのドSなのでは?
ま、まあとりあえず落ち着いてから露伴先生と今後について契約を交わす事になり、そんなに悪くない条件でまとまった。
・1ヵ月過ぎたらヘブンズ・ドアーで『ドアを開けたらこの世界に来た日の自分の部屋に戻っていた』と書く。
・1ヵ月の衣食住は全て岸辺露伴が負担する。
・岸辺露伴に従う。
悪くないっていうかとりあえず必ず帰してくれる事と衣食住の世話がされるなら諦めるしか無かったともいう。
私には露伴先生に逆らえる能力も度胸も無いけど必死で1ヵ月にまで縮めたのが『そんなに悪くない』の部分である。
だって『元の世界の元の時間に戻れるのなら1年ぐらい問題無いだろう』とか言い出したからねこの人!
なんとか1ヶ月という期間で話をつけられたものの3つ目の条件にヤバみしか感じない。
というかこの条件で首を振らせるために最初に1年とか言い出したんじゃないかという疑惑という名の確信が今盛大に産声をあげてこれ完全にハメられましたね気付きたく無かった…。
どうにでもなーれ状態というか諦めの境地というのを実感させられたものの、ぐったりした上にお腹が鳴った私を見て『衣食住の保証を約束したから』と素早く出前を取ってくれたのはありがたかった。
なんかこう…これ高いよねって一目でわかる桶に入ったお寿司が届いてすごく美味しかったです。
そして連れ出されタクシーに乗って付いたショッピングモールでポンと1万円札が詰まった財布を渡され、服や生活雑貨を買うように命令された。
何が面白いのか私の後ろを歩きながら私の様子を見ている露伴先生は終始御機嫌だったんだけど、時代的な問題で服の流行が私の感覚だと時代遅れでダサい…と零したらテンション爆上がりしたらしく、家に帰ったら滅茶苦茶質問攻めされて詳しくもない流行について話させられてなんかもう疲れたよパトラッシュ…。
とにかく私の言動をチェックしてスケッチブックにペンを走らせ…。
露伴先生は大変楽しそうでございましたがこちらにとってはただの苦行です言えないけど!
そしてあれやこれやと3日経ち…とうとう来てしまったのだ、処刑の日が。
「さて、今日はもう仕事も無い。 時間は十分にあるから『君の知っている僕が登場する物語』について教えてもらおうか」
非常に残念な事に私は露伴先生に嘘や誤魔化しを一切出来ない身体にされてしまった(なんかこう表現するとエロいけどヘブられただけ…この状況でヘブられるってのもエロい気がしてきたけど全然そんな事は無い)ので全てが明るみに出てしまった訳だ。
原作、アニメ等を一切見た事が無いという事実が。
まあ聞いて欲しいジョジョの独特の絵が苦手だった私は漫画の名前ぐらいは知ってたしジョジョ立ちとかだが断るとかぐらいはネタとして知っていた。
AAのポルナレフ(名前は知らなかった)がジョジョキャラだとかは知らなかったレベルの知識である。
そんな私がジョジョを知ったのはそう…2次創作サイトで好きな作者さんが当時ハマっていたジャンルよりも多くのブクマを持っていた小説が過去作の承花だったからだ。
ふーんジョジョかー。
読んだ事無いけどこの人の書く話なら読もーっと。
そんな感じで読んでハマって承花を読み漁り……花京院が死ぬ事も承太郎が結婚して徐倫ちゃんが生まれる事も原作一切読まずに承花で知識を得たわけですね。
そんでまあ2次創作だと混部が有るわけですよ。
というか部によってJOJOが違うってのも私が何となく知ってたのが3部だったってのも承花タグで培った知識で…。
まあどういう事かって4部の承太郎がほぼ死んでたけど延命されてた17歳の花京院を年下の叔父である仗助に治して貰ったり、普通に一命を取り留めた花京院が仗助とゲーム友達になってたりね?
で、そこに並列して仗露タグがあったりね?
つまり私のジョジョ知識は承花と仗露で出来ている。
3部と4部以外はほとんど知らない!
…で、それを包み隠せず吐いた結果冒頭なわけで。
そりゃ怒るに決まってますよね!
言い訳するなら原作は近いうちに古本屋で立ち読みするつもりでした!
でも腐ってるのは今後も変わらないと思います!
仗露が好きでそんな話読んでてスミマセンデシタ!!
しかし流石露伴先生、怒ってるのは仗露の事じゃ無かった。
それでも『僕が怒ってるのがそんな下らない事のわけ無いだろう!』とむしろ余計に怒らせる結果になってじゃあ何に怒ってるのって3部の事だった。
「空条承太郎のっ! 一族因縁の吸血鬼を倒す為の旅をっ! 真偽が不確かな2次創作でしか知らないなんてふざけているのかぁぁぁーっ!!」
本人に取材させてもらえないその部分を喉から手が出るほど知りたいらしい。
自分達が登場する4部も客観的な物語としてはどうなっているのか自分の知らない裏側で何が起こったのか知りたかったけど3部の存在を知ってしまえばもうそれが知りたくて知りたくてたまらないみたいでもうとんでもない勢いでのた打ち回っている。
この人こんなキャラだったんだ…怖、近寄らんとこ。
「つまり君は真偽が不確かな3部のあらすじと、4部に至っては僕と仗助関係ぐらいしか知らないんだな?」
「だいたいそんな感じですはい。 原作知識皆無です」
「……まあ良いだろう。 それでも多少の穴埋めにはなるはずだ」
あらすじだけでも分かる3部の壮大な旅に露伴先生は満足してくれたっぽい。
インスピレーションが湧いたと言って仕事部屋に向かった先生を見送り、やる事の無くなった私はこの無駄に広い家の掃除に手を付ける事にした。
ちなみに私の現在の肩書は、とある事情により1ヵ月居候する事になり対価として家事全般と取材の手伝いをしているというトリップの事を伏せて住まわせる理由を足されたものになった。
これは昨日、露伴先生が親友と呼ぶ康一君が来た時に先生が説明した内容だ。
今週の漫画の感想や借りていた画集の返却として訪れたらしく
『露伴先生の家に担当さん以外が居てしかも女の人!?』
とものすごく驚いていたんだけど露伴先生の説明の後の
『その事情が面白くてね。 それについても取材させてもらっているんだ』
という言葉に納得していた。
というか『あっ、その取材が目当てなんだ…』って顔になっていた。
流石親友わかっていらっしゃる…。
あとやっぱり背ちっさいね。
それはともかくとして衣食住世話になっているし他にする事もないのでこうして家事に勤しむわけですよ。
これまでは長期取材の間にハウスキーパーを頼んでいたらしいんだけど、これから1ヵ月は私がこまめに家事をする事に康一君が帰った後落ち着いたのだ。
そもそも露伴先生は売れっ子なので仕事部屋に籠ってる時間も短くは無い。
しかも思い立ったら即取材なので置いて行かれる場合もあるだろう。
その間に何をすればいいのか分からないのは困ると言えばじゃあ本当にハウスキーパーをやればいいという話になったわけだ。
1番の懸念だった原作を知らないどころか腐しか知らないという事は許されたみたいなので一安心だ。
……そう思っていた時期がありました。
「おい、君は仗露が好きなんだろう? 取り合わせが生で見れたってのに何の反応も無いってのはどういうことだ?」
「ジョウロ? おねーさん園芸が趣味なんスか?」
今すぐチーズ蒸しパンになりたい。