トリップした先で天才漫画家に振り回されててとりあえず早く帰りたい   作:ミツホ

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仕組まれた出会い

初日、露伴が京から話を聞き分かったのは少なくとも彼女の世界はこの世界の一般人となんら変わりないという事だった。

 

露伴自身スタンドに目覚めなければスタンド事件の全てが知覚外の出来事として終わっていただろう。

つまりあちらの世界でも彼女の知らない所でもしかしたらスタンドという能力が存在するかもしれないのだ。

そう考えるとそのスタンドが異世界であるこの世界を知覚し、漫画として残している可能性も出てくる。

 

しかしその程度は露伴にとって些事でしかない。

『異世界に来た』と思っている人間を身近で観察できるなんて、有り得ない事が起こっているのである。

その切っ掛けに露伴が登場する物語というのが含まれているのは間違いないが、この数十分でそれを除いても面白いと確信できたのだ。

目論見通り1ヵ月という猶予を得た露伴は焦る事無く観察をする事にした。

 

 

ちなみに彼女の記憶には残っていないが、露伴はしっかり帰らせる事が出来るか確約を取り決める前に確認している。

露伴としてはもしヘブンズ・ドアーで帰らせる事が不可能なら衣食住の世話をある程度してやり、その後は就職の手助けをしてやって異世界で生活するトリッパーとして時折取材に行けばいいと思っていた。

しかし書き込んだ通り『渡利 京はドアを通り2年前の自室から発売日の最も新しい雑誌を持ってくる』事が可能であった。

このまま帰らして欲しいという言葉はページと共に破り捨てたが。

 

 

些細なことはともかく、買い物をする姿だけでも都会に来た田舎者やその逆とは一風違った反応を見せるのが面白く、露伴はその微妙な表情の変化を具に観察していた。

服のデザインや型については帰ってからも詳しく聞き出す程には興味深く、露伴はそれだけでも儲けた気になるほどであった。

 

そしてゲストルームを与え仕事部屋以外の出入りや使用の許可を与えた露伴は部屋に籠りインスピレーションの湧くまま様々な事を資料としてまとめたのだった。

 

 

後日、露伴の家に訪れた康一が京をみて酷く驚いた。

1部を伏せたせいで曖昧になってしまった説明でもあっさりと納得してくれる姿を見て、自身と康一の付き合いの長さを感じた露伴は機嫌が良くなる。

 

聡明な康一であれば露伴の家にいる女性について口外する事も無いだろうと結論付け、そのまま波に乗り今週分の原稿を終えた露伴は十分に空いた時間を最も知りたかった取材に宛てる事にしたのだった。

 

まさかその取材対象があまりに漫画に対して冒涜的な邪教徒だったとは思いもしなかったが。

 

 

 

 

そして有る程度の情報とその裏付けとなる部分をしっかりとピックアップし、露伴は康一を間に挟んで仗助を呼び出した。

 

話をそれなりに聞き終えた以上、次に気になるのは『キャラクター』に出会ったときの反応だ。

康一の時でも京は動揺しつつも目を輝かせ、一挙一動を見逃すまいと瞬きさえ最小限に留めていた。

ならば東方仗助や空条承太郎、ジョセフ・ジョースターといった『主人公』に会えばどうなるのか。

それを確認したい。

 

ついでに下手に勘繰られるぐらいならさっさと教えておく方が楽だと思い康一に『内密にして欲しいんだが…』と前置きをして誘導すれば、狙い通りの言葉を引き出せた。

 

「万が一の為に仗助君に伝えるべきでは無いでしょうか?」

 

露伴の顔が歪むのを見て取り繕うようにあのジョセフ・ジョースターや空条承太郎と連絡を取れる仗助であればという意味ですよと言葉を綴る親友の為に嫌々頷く…という体にすれば彼は露伴の気が変わらないうちにと仗助に連絡をとる。

あまりにも思惑通りに向かう筋書きに寧ろ不安になるほどだった。

 

この純粋で優しい親友にはアレぐらいイカれたプッツン由花子が傍に居て丁度いいのかもしれない。

あの女なら康一を守る為ならきっととんでもない勘を発揮するに違いない。

そんな事を思いながら露伴は仗助を説得する康一を眺めていた。

 

露伴は既に京をスタンド使いの差し金だとは思っておらず、完全に不可思議に巻き込まれたトリッパーだと認識している。

しかし当然ながらそんな事を信じ、認める酔狂な人間がそういない事も理解している。

漫画を読まない仗助や、様々なスタンド使いを相手にしてきた承太郎であれば先入観でスタンド使いによる罠だと言い切るだろう。

 

しかし、仗助だけであればその意見を変えさせるのは容易い。

単純で有り、正義感が強く、康一という存在がいる事で話を聞かせられるからだ。

思っていた通り、仗助を誘い出し康一と合流してからの話はとんとん拍子に進んでいった。

 

 

まず露伴は康一に理由をでっち上げて後から合流するように伝えた。

というのも京の反応を見る為という露伴以外からすれば下らない理由であったが、康一はすんなりとそれを受け入れ少し離れた所から様子見することを了承したのだ。

 

『もしスタンド使いの狙いが仗助だった場合、君が伏兵としていてくれた方が隙をつけるかもしれない。 それに近くにいるが故に気付けない不審な動きが無いか見張っていて欲しい』

 

そんな建前で作り出した『偶然』に見せかけた合流後、露伴は上辺のやり取りをしている間も京の一挙一動を観察していた。

 

 

しかし思惑と違い京は東方仗助に会ったことに対してのリアクションは有れど露伴が作り出してやった状況に見合う反応を全く見せない。

仗助の京への同情を誘う為だという大義名分を掲げ追い詰めるように問えばリアルには興味が無いという、リアリティの渇望者である露伴にとっては信じがたい理由が返ってきたがそれはそれで詳しく取材すれば良いだろう。

 

そして康一が合流するやいなや、京に向けてヘブンズ・ドアーを使ったのだった。


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