トリップした先で天才漫画家に振り回されててとりあえず早く帰りたい   作:ミツホ

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知らぬが仏

露伴は京の本状になった腕に素早く命令を書き込み、和やかに話が続いているように思わせる。

そして操り人形のようになった京を連れて4人でカフェを後にした。

カフェで意識の無い女性を男3人で囲むのは普通に通報されるからだ。

 

 

「……おい、露伴。 てめぇ取材したくなった一般人にこんな真似してねぇだろうな?」

「さあね。 お前に教える必要は無いだろ」

「仗助君、抑えて! それについて言及するのは後にしてよ! 先生もわざと仗助君を煽るのはやめてください!」

 

やいのやいのと言い合いながら露伴の家に着いた一行はリビングに直行し、京をソファーに俯せで寝かせると読みやすいよう背中を本にして紙を捲る。

 

「まずは仗助を見た瞬間から確認しようか。 もし彼女がスタンド使いの罠であるなら、SPWやジョースター家に関わりのある仗助に何らかの反応があるかもしれない」

刺客である可能性を露ほども思っていないくせに、『主人公』を見た京の内心を読みたいという欲求に従い露伴はそう提案した。

 

「そうですね。 この町で狙われる可能性が高いのは仗助君ですから」

思惑を知らない康一はあっさりと頷くが、仗助はむっつりと唇を尖らせ言葉を吐く。

 

「ったく、漫画だのトリップ?だのってありえねェんだからこんな回りくどい事しなくてもよぉー」

しかしその程度の反論は露伴も予測済みだ。

「良いか仗助、お前には分からないかもしれないがスタンドという能力なんざそこらを歩いてる人間からすりゃ異世界トリップと同等に有り得ない事だ。 不可解な事が起きたら全てをスタンドで片付けようってのはナンセンスだぜ」

「ちっ、わあったよ! とりあえず読みゃあいーんだろォ!」

 

渋々頷いた仗助も含め、3人で文字を覗き込む。

 

そして、パララ…と捲られ開いたページに康一と仗助は絶句した。

 

『たんだけど露伴先生何で頭にバ…おわぁーっ! ヤバいあの体格とリーゼント120%仗助じゃん! リアル東方仗助!! え、これ露伴先生とエンカウント? エンカウントする? 時間軸いまいち分からんし今のこの2人の関係どうなってんのか知らんけど露伴先生が絡んで行かなけりゃ大丈夫だよね? 露伴先生お願いだから面倒起こさないでっていうかヤバい近付いてくるリアル仗助ヤバいなんだあの顔面偏差値の高さカッケェェェーッ!! は? あんな生き物存在して良いの? 2次元>3次元の 法 則 が 乱 れ る !! お風呂上がりの露伴先生がただのイケメンになったときの衝撃もヤバかったけどヤバいヤバいヤバいこっちくんなその精悍さとやや残るあどけなさを併せ持つ麗しい顔はもはや凶器目が潰れ眩しい!! 超絶キラキラエフェクト!! はーっ! キレそうになるほどカッコイイ! 違うカッピョイイだっけ!? 仗助君カッピョイイ!! リーゼントとか漫画だとカッコイイけどリアルは流石に無理だろダサいわとか思ってたけどめちゃくちゃカッケェなぁおい! これが主人公の風格か!! ムッキムキじゃんジョースターの血ヤベェーっ! なんだあの二の腕! 夏サイコーだなおい!! ……くっ、落ち着け! 青少年をいかがわしい目で見るんじゃない!! じゃなくて筋肉が好きなだけであって別にいかがわしい目では見てないというか誰に言い訳してるんだ私は!! てかあそこまでムキムキだとワンパンで粉微塵にできそう…。 ……露伴先生よくあんなのに突っかかれるな!! 流石頭おかしい漫画家だぜそこに痺れる憧れるゥー!ってんなわけあるか! 露伴先生命知らずにも程があるよ! 露伴先生生存本能ある??? 露伴先生生存本能無さそう!!! 蜘蛛の内臓舐めるぐらいだもんな!! 小さい子みたいに何でも口に入れるんじゃありません!! っていうかこの世界の不良全てにも言えるけどよく喧嘩売れるな! 生存!本能!大事にしろ!! それとも街中を歩いてる不良も体格このレベルなの? 世紀末じゃん!! ジョジョの世界は世紀末だった!? ヒャッハーヤバいもう1人で外歩けない…アッー! 露伴先生普通に挨拶して! 枕詞にクソッタレつけるの止め』

「姿を見かけて挨拶するまでの間にここまで脳内で考えてたのか。 流石の僕も驚くぜ」

 

続きを読もうとページに手を伸ばした露伴の手を、康一と仗助は押し止めた。

 

「もう…十分です…」

「信じるからもうやめろ!! やめてあげろ!!」

 

痛ましいものを見たような顔の康一と、あのように思われていた事に照れたのか青い顔になりつつどういう原理か器用に赤くなっている仗助が京から露伴を遠ざける。

 

続き…仗露について聞いた辺りも気になる上にこの2人に読ませてみたらどんな反応をするのかを見てみたい露伴は不満げな顔を隠そうともしなかった。

 

「何だよ、ここからが良いところだぜ」

「正直な話気になるかならないかでいうと物凄く気になりますが他人の日記を読むよりも罪悪感というか良心の痛みが…とにかく結構です」

「何でコレをこのまま複数人で読み回そうと思えるんスか!? 鬼かアンタは!!」

「うるさいナァ。 まあ良い、仗助お前ちゃんとジョースターさんや承太郎さんに伝えておけよ。 彼女、あの2人の過去も能力も知ってるからな」

「俺ェ!? てかんなもん知ってるなんて聞いて無いっスよ!? めちゃくちゃヤバい情報じゃねーか!!」

「だから1ヶ月だけにしてるんだよスカタン。 そうじゃなきゃあもっと長く手元で取材したかったさ」

「それってもはや取材じゃなくって観察っスよね!?」

「とにかく僕からより君からの方があの2人は話をしっかり聞いてくれるだろ? 君が説明した後に『俺がちゃんと見張ってるんで安心してくださいっス』とか言っとけば丸く収まるんだよ」

「…! アンタ最初っからそのつもりだったな!」

 

 

 

言い合う露伴と仗助を置いて康一は京に近付き捲れたページを静かに閉じた。

初対面時の京を説明する露伴の顔を思い出し、先ほど読んでしまった内容を思い返す。

少なくとも京自身が自分を漫画の世界にトリップした人間だと思っていることも、こちらをキャラクターとして知っているということも間違いないだろう。

そして、露伴がそれを信じ心底面白がっている事も。

それらを知ってしまい、気付いてしまった康一にできること…それは…

 

「……頑張ってください…」

 

己の無力さを噛みしめながら、幸運とも不運とも言い難い状況下の京に激励の言葉をかけること。

それが康一にできる、唯一の気遣いだった。


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