トリップした先で天才漫画家に振り回されててとりあえず早く帰りたい 作:ミツホ
仗助君と会った日の夜、夕飯を食べてる最中に電話が掛かってきた。
ご飯がすっかり冷めた頃に帰ってきた露伴先生は何やら思案するような顔をしている。
露伴先生にこんな顔をさせる用件とは…?
漫画関係では無いだろうし、もしかしたらスタンド関係で露伴先生に要請が来たとか?
でも露伴先生なら既にSPWとかから依頼が山ほど来てそれを身も蓋もなく断り続けてそうなイメージもある。
まあ私には関係ないだろうと既に食べ終えていた食器を片付け、席を離れようとした時にこちらに向いた視線に思わず動きを止める。
「な、何ですか?」
「君、ジョースターさんや承太郎さんの事でこれなら自分がトリッパーだと証明できると思うネタは有るかい?」
「はい?」
詳しく話を聞いたところ、どうやら露伴先生が女性を一つ屋根の下に置いてるという話を聞いた2人が『もしや敵のスタンド使いからの刺客なのでは?』と疑い電話を掛けてきたらしい。
露伴先生みたいなスタンド使いは怪しいスタンド使いに狙われてもおかしくないし更に言うならSPWに見張られててもおかしくないですもんねと言ったらペン先が飛んできておでこにビシッと当たって痛かった。
刺さらないように投げる配慮じゃなく投げない方向でお願いしたい…。
とにもかくにも電話を掛けてきた相手は承太郎だったらしく、下手に言い訳をする訳にもいかず事実を教えたものの信じていないらしい。
で、私にネタを求めてきたと。
「つまりは敵も知らないようなネタを提供しろと…。 ジョースターさんのことはあんまり知らないなー。 お前は次にほにゃららと言うとか、飛行機に乗ると全部事故るとか、『ジョセフ以外はな』みたいなネタ…あー、テキーラ? テキーラの事なら…うん、ジョースターさんならナチス兵とテキーラの話でいいんじゃないかなぁ。 ナチス兵、テキーラの2ワードで通じると思う。 流石にタコスは覚えてないと思うし。 とりあえず仗助君には絶対に言わないから安心してくださいって付け足しとけば完璧」
「とんでもないネタだってことは分かったが、それ大丈夫なやつかい? 君がジョースターさんに秘密裏に消されるようなやつじゃあ無いだろうな」
「えぇー…いやちょっとした若気の至りみたいなやつですよ。 息子にかっこつけたいジョースターさんにとっては恥ずかしい程度の。 それよりも承太郎は…なんか地雷多そうで下手なこと言えない…。 あー、隠し芸とか? 火のついた煙草を何本か咥えてひっくり返して口に入れてシケらせずにジュースが飲めるみたいなよくわからん隠し芸を持ってるとか、相撲が好きとかそんなのでいい? たしか…千代の富士?だったかな? そもそもDIO様に見張られてたような旅だったっぽいし、承太郎に関しては何を言っても敵が知っててもおかしくないって一蹴されそう。 旅が始まる前…教師に焼きを入れて辞めさせたり無銭飲食したりみたいなのは地元民の有名なネタとかになってそうだし…」
「……それ、本当に承太郎さんの話かい?」
「露伴先生ですら信じたくない3部太郎の真実改めてヤバい! ちなみに私は3部太郎と6部太郎推しでーす」
「もう少し分かるように言ってくれ」
「高校生太郎と40代太郎が好き」
「いつも思うんだが君説明下手だな。 何も知らない人間にする説明じゃないぞ」
「前に説明したときに仗助君と露伴先生は4部のキャラだって言ったと思うけどつまり露伴先生が知ってるのは4部太郎。 ジョジョ好きの友達に原作ってどんな感じって聞いた中に3部太郎は周りが大人ばっかで言葉足らずでも察してもらえてたけど4部太郎は逆に周りが子供ばっかりになってコミュニケーション能力の低さのせいで大変な事になってるからそこを踏まえて読むとめちゃくちゃおもしろいって言われて寡黙な大人という評価が一転してダメオヤジになったんだけど実際どうでした?」
「僕に振るのはやめてくれ。 そもそも僕は承太郎さんとの接点なんて微々たるものだから判断のしようがない」
「あー、そうなのか」
「あと君呼び捨てにするのやめろよ。 もし承太郎さんが直接確かめるとか言い出して此処に来たときに馴れ馴れしく呼び捨てなんてされたら保護者の僕が睨まれるんだぜ」
「じゃあ空条さん? 空条博士?」
「そもそもジョースターさんは名字にさん付けのくせになんで承太郎さんは呼び捨てなんだい」
「うーん、たぶん一番呼ばれてた呼び方で覚えたから? スタクルメンバーは承太郎以外ジョースターさん呼びだったし、花京院がJOJO呼びじゃなくなったら全員承太郎って呼んでたからそれで覚えたっていうか…。 だからもし2部を先に知ってたらジョースターさんをJOJOかジョセフって呼んでたかもー? とりあえずこっちに居る間はキャラクターについての話は承太郎で、こっちの実物?については空条博士って呼ぶようにする」
「スタクルってなんだい?」
「スターダストクルセイダーズの略」
「君なぁ…。 何の略称か聞いてるんじゃなくてそのスターダストクルセイダーズってのが何なのかを僕は聞いてるんだよ。 言っとくけど和訳じゃないぜ」
「えーと、3部の主人公メンバーの事。 作中で『俺達はスターダストクルセイダーズだぜ!』みたいなやり取りがあったのか3部の副題がそれだったからなのかは知らないけど、スタクルメンバーといえば承太郎、ジョースターさん、アヴドゥルさん、花京院、ポルナレフ、イギーの5人と1匹。 あれ、アヴドゥルさん呼びは花京院しか居なかったのにさん付けしてるな…。 大人キャラだからか?」
「ジョースターさんにアヴドゥルさん、なあ。 君が本当に漫画でこの世界を知ったんだという事を示すワードにはなるかもな」
「へ? 何が?」
「ったく、君は説明も下手だし察しも悪いし良いところなんて無いんじゃあないか? 説明してやるからちゃんと聞けよ? 日本人とアメリカ人とエジプト人とフランス人、国籍がバラバラの集団が使う言語は何だ? 日本国外の旅の道中で出てくる登場人物や敵が日本語を喋れるか? そんな訳が無いだろう。 漫画だから読者に分かるように全てを日本語で表現してるが、実際は十中八九英語だ。 君が当たり前のように言う名言とやらも意訳されてるだろうね。 そういう部分で君が実際の旅については何一つ映像や音源では知らないっていう証になるんだよ」
「つまり……私が知る道中にあった数々の名言は
えっじゃあスタープラチナがストゥアプラティーナみたいな発音だったかもしれないのか!?
ネイティブな発音だとスタープラチナ・ザ・ワールドをストゥアプラティナ・ザ・ワゥドって言ってたり?
「真面目に解説してやった僕が馬鹿だった」
呆れたと顔に書いてあるかと思うほどの呆れ顔を初めて見た。
これは今すぐ鏡を突き付けて露伴先生に見せてあげるべきなんじゃないかと思うほどの心底呆れた顔でこの顔をパネルにしてタイトルを付けろと言われたら100人中100が『呆れ顔』って付けるレベルの呆れ顔!
思ったことをそのまま伝えれば露伴先生はそれを見事に聞き流し会話を打ち切り冷めた料理を胃に収め、再び電話に向かった。
露伴先生曰わく『僕を心底呆れさせたのは別に君が初めてじゃあないんだよ』とのこと。
つまりとっくの昔にスケッチ済みであると。
流石露伴先生。
それにしてもまさか承太郎とジョースターさんが出てくるとは…。
この時代のジョースターさんはボケてるのかボケた振りをしてるのか真偽はいまいちよく分からないけど、テキーラ娘ぐらいは覚えてると思いたい。
そもそも本当に私ジョースターさんについてはさっき言ったぐらいしかわかんないしこれ以上証明できんし。
2部の知識なんて本当に現パロ腐向け混部ぐらいでしか知らないんだから。
4部のほのぼのイカサマ親子も若干読んだ事あるけどそれは全く当てにならんだろうし。
若ジョセフは本当にネタでしか知らないっていう…。
もし顔を合わせる事があったら挨拶ははっぴーうれぴーよろぴくねーとかを言ってみたい。
承太郎に至っては死亡キャラの名前を出すのが憚られるし…。
出会い頭にブ男呼びしてアヴドゥルさんをキレさせたとか、花京院の果たし状の誤字とか旅始まる前のネタはあったけど言い辛いわ…。
私にとってはキャラでも、向こうにとっちゃ故人だし…。
「……いや、そうじゃないんですよたぶんそれはキャラクターに対する敬称のような…え? ちょっと待…承太郎さ…」
食後の紅茶を入れても戻ってこない露伴先生を探しに行けばまだ電話に向かっていたんだけど、どうやら丁度電話を切られたらしく耳から離した受話器を片手にニヤリと笑っていた。
声は焦ってるように聞こえたけどあの顔は『計画通り』の顔に違いない。
「君の事を直接見に来るらしい。 もしかしたら連れてかれるかもな」
楽しそうにそんなことを言う露伴先生はこっちを見向きもせずに紅茶を用意してあるリビングにスタスタと歩き出す。
「うえぇっ? ど、どういう訳?」
慌てて後ろを追うけど……まさか売られたとか?
もう私に直接聞くことは無いから私を餌にジョースター家かSPWを釣るの?
『ちゃんと帰してはやるけど、その間ずっと僕が面倒見るとは言ってないぜ?』みたいな幻聴が今にも聞こえてきそう!
「君がディオ信者かもしれないとか言ってたぜ」
……ほわい?
「……DIO様って呼んだから?」
思い返して引っかかったのはそこだけだ。
というかそれも『ジョースターさん』や『アヴドゥルさん』と同じで『DIO様』とはキャラの誰も呼んでないんじゃ?
いやアレだ肉の芽院がDIO様って呼んでるかも?
いやいやいやいやだとしても!!
「だろうね。 漫画に対する理解が無い人間ってのは頭が固くて嫌んなるよ」
「マジかー…。 まー、じょう…空条博士からしたら身内の近くにDIO信者の残党がいるかもしれないってのは見過ごせないか。 ……もう面倒になる前に私を帰らせるってのは」
「そしたら僕が怪しまれるだろ。 明日にはこっちに着くらしいが…ま、君みたいなのが脅威になる訳無いってのは直接会えばわかるさ。 どうしようも無くなったら助け舟ぐらいはだしてやるよ」
この時点で露伴先生の助け舟が善意な訳が無いって気付かなかった私ってホント馬鹿…。
っていうかほんのちょっと前に計画通りの顔見たじゃん!
売られた!?って思ったことも忘れてもうすでにこっちに向かっているという最強のスタンド使いの行動力パネェと思いながら『どうせ無実だし露伴先生がいるんだから酷い事にはならんでしょ』なんて気楽に構えてた昨日の私に拳を叩きつけたい。
あと仗助君に会った事で高身長のイケメンに対する耐性付いたと思ってたけどそんな事は無かった。
空条博士、後ろ姿が完全にゴリラ。