トリップした先で天才漫画家に振り回されててとりあえず早く帰りたい 作:ミツホ
「うわっよせ…ッ!」
汗ばんだ肌を巻き付けられ不快感に顔を歪めた露伴が京を遠ざけようとするも下手に暴れると左手のジェラートが滴となって飛び散った。
汚されたくないが故に動きを制限され、周囲もその左手を避けて距離を取る。
まさか1人にさせるために買いに行かせたジェラートが下手なスタンドより牽制力を持つとは流石の岸辺露伴も想像していなかった。
昨夜、説明するより直接聞かせた方が早いと密かに録音していた音声をそのまま聞かせれば、京がDIO様と言った部分でハッと息を飲む音が聞こえた。
露伴にとっては何の感慨も無いただのそういうキャラに敬称をつけただけの話で、実際知っている人間を呼び捨てにされることの方が気にかかる具合だった。
しかし当事者であると同時にこういった界隈に理解の無い承太郎はそのDIO様という一言だけで京を危険人物足る相手だと認識してしまったのだ。
実際現在進行形でDIOの残党に煩わされている承太郎にとっては無理もない。
だが、そんな事情を知らない露伴が多忙故に会わせられないだろうと諦めていた相手と京を引き合わせられると思い笑ってしまったことも仕方ないことだろう。
露伴は本を受け取った後、涼しい本屋に留まり雑誌を読む振りをしながらスタンド越しに京の様子を眺めていた。
あの後連絡がつかなくなったので仕方なくSPWを間に挟み『不意打ちの方が本性が見えるでしょう』などと嘯いて外で落ち合うことは伝え済みだ。
駅から露伴の家に向かう通りに本屋があるのでその近くで会えるよう取り計らう予定だったが、飛行機や新幹線、電車の時間を割り出してまで狙った邂逅が思っていたより混み合うジェラート屋のせいでちょうど京が店内に居る間に承太郎が通り過ぎてしまう事態となった。
仕方がないのでヘブンズ・ドアーで承太郎に合図を送り、視線を誘導すると京の周りを一周させて頭上に留まらせたのであった。
その動きで承太郎は京の存在と彼女にスタンドが見えていないことを察し、そして振り返った瞬間に京が自分を見ていたこともその後視線を逸らしたことも気付く。
漫画だの異世界トリップだのを鵜呑みにできるわけもなく、承太郎の中では8割方スタンド使いもしくはスタンド使いに操られた刺客という認識であったこともあり、その姿はあからさまに怪しい。
露伴のヘブンズ・ドアーすら騙し通している可能性。
スタンドが見えていない振りをしている可能性。
疑いはいくらでも湧き出てくる。
だからこそ、一片の油断もなく全てを見逃さないようスタープラチナを出して京に近付いた。
表面上は平静を装い、淡々と声を掛けたその時スタープラチナは大袈裟に腕を構え京の目を抉らんと指を突き出したのだった。
スタンドが見えていれば、間違いなく反応せざるを得なかっただろう。
眼球からほんの数ミリの場所で留めたが、京は何の反応も示さなかった。
その速さにより起こった風圧で瞬きをしたがそれだけである。
見えていなかったので当然ではあったが、これで承太郎は京をスタンド使い本体では無いという判断を下したのだった。
そしてその様子をヘブンズ・ドアー越しに見ていた露伴は寸止めを確認し自覚無く止めていた息を吐いてから、それに気付き改めて溜め息を吐いた。
スタンドが見える人間なら、例え承太郎を信頼する仗助や康一であってもスタープラチナの指が京の目を抉ると思い声をあげたであろう姿だった。
多少ではあるが承太郎の為人を知り、観察に長けると自負する露伴でさえ騙されたそれが京に見えていたとしたら腰を抜かすか……最悪失禁も免れなかっただろう。
ここまで荒っぽい確認をすると思っていなかった露伴が心の底から京がスタンド使いではなくて良かったと安堵の溜め息を吐くのも仕方がない。
これは様子見を切り上げるべきかと思ったが仗助が現れ街中でスタープラチナを出している承太郎に驚き、それによりスタープラチナは姿を消したので様子見を続けることにした。
しかし康一だけならともかく由花子までやって来たことを切欠に京の奇行が露呈し、面々が困惑することとなったのを見て普段より早い動きで渦中に向かうこととなったのだった。
まさか姿を見せた途端にすがりつかれるとは夢にも思わなかったが、傍観者であろうとした露伴の自業自得である。