中学時代のトラウマと再会した。   作:聖樹

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10:何があってもこいつとは合わない。というか何を考えてるのか分からない。

 遂に俺のベストプレイス、学校にいながら何者にも干渉されない優雅な昼食にさえも、真鶴が侵略してきた。

 

「勘違いしないでね。先輩に見せつけてるだけだから」

 

 お前のツンデレは微塵も嬉しくねえよ。デレなんかないんだろうけど。

 

「お前、今やってる事が火に油注いでる事だって分かってやってんの」

 

「分かってるよ。でも比企谷クラス違うし、放課後は部活あるから帰る瞬間しか見せつけれないし仕方ないじゃん。私だってあんたなんかより遥達とお昼食べたいし」

 

「参考までに言うけど、先輩の件のみならず俺に対しても油注いでるからな。かなり強火だぞ、今の俺」

 

「そうなの? ふたを開ける時は火傷に気をつけなきゃね」

 

 小粋なジョークで返したんじゃねえよ俺を馬鹿にしてんのか。

 

「そこまでしてストーカー先輩の反感を買おうとしてる意味が分からん。お前、ロクでもない事しようとしてるだろ」

 

 やべっ、柄にもなく他人の深層に踏み込むような事言ってしまった。

 俺の言葉に対し、真鶴はストローでイチゴ牛乳を飲みながら「んー」と肯定とも否定とも取れないトーンで返してきた。

 

「別に。あの人があんまりにもしつこいから早く離れて欲しいだけだよ」

 

 嘘偽りのない、素直な感想だった。それからしばらく無言で自分の飯を食べ始める。

 俺も残りのパンを咀嚼していると、ある程度食べた所で彼女は箸を止めた。

 

「なんかどもらなくなったよね。比企谷」

 

「……悪いかよ」

 

「なんでよ。褒めてんじゃん」

 

「お前に褒められる筋合いねえよ」

 

「あっそ。……なにそれむかつく」

 

「……」

 

「……」

 

 また無言で飯を再開する。

 あの、昼食って放課後よりも空気が重いというか気まずいんですけど、どこの界隈もこんな感じなの? みんな気まずいのを我慢して机くっつけたりしてんの? まるでお通夜なんだけど。

 

 つうかこいつなんなの? ある日突然話しかけ俺にしか頼れないとか戯言ほざき出したかと思えば何かと付きまとってきて。こいつこそ俺のストーカーじゃねえ? 今日のムーブはまさにストーカーランクの所業だと思うんだけど。

 

 なんて、一方的に言ってやりたい文句は沢山あるんだが、性格上そんな事を言えば知能指数の低さが伺える罵声を浴びせられるから言わない。頭の悪い言葉を吐かれるとこっちまで頭悪くなるって言うからな。言わない? 言わないか。

 

「比企谷」

 

 お前は、黙って、飯も、食えないの?

 

「んだよ」

 

「……昔の事、てか私の事、どれくらい恨んでる?」

 

「はあ? そんなの自分で考えろよ」

 

「考えたよ。結果、私の事殺したいとか思ってるのかなーって思った」

 

「馬鹿じゃねえの」

 

「……殺意とか無いの? 私に対して」

 

「あるわけないだろ。そりゃお前の事は恨んでるし普通に嫌いだけど、嫌いってだけでそれ以上はねえよ」

 

 時々殺意に近いものが芽生えるけどな。

 

 てかいきなり何聞き出したんだこいつ。質問が極端すぎて引くんですけど。

 

「お前、いきなりなんの話しだしてんだよ。少しキモいぞ」

 

「うざ。……まーでもそうだよね。うーん、なんだかなー」

 

 真鶴は空を見上げてボーッと何かを捻り出そうとしている。

 

「私、なんであんな事言っちゃったんだろうね。ごめんねって言っても、比企谷は私の謝罪なんか聞き入れてくれないっしょ?」

 

「……そう直接軽く言ってくる時点で誠意がないだろ。てか今更過去の自分の発言を見直してるみたいな態度取られても、俺はお前への認識を改める気ないからな」

 

「別にいいよ改めなくて。比企谷が思ってる私への印象はそのままでいい、今後そんなに絡む気もないしね。ねえ比企谷」

 

「なんだよ」

 

「ごめんなさい」

 

 目が合うなり、真鶴は頭を下げてそう言った。

 何度目の謝罪なんだろう。『ごめんなさい』と言う言葉は個人にそうやすやすと何度も発していい言葉ではないはずだ。

 

「お前本当なんなんだよ。今日おかしいぞ、気持ち悪すぎる」

 

「うっさい。あんたを利用してるんだからふと昔の事を思い返して、素直に悪い事したなって思うくらい普通じゃん。私だって人間だから罪悪感とかあるし」

 

「だからそういうのを打算的って言うんだよ。……アレだろ? お前のその謝罪は、俺を利用してる免罪符を得たいが為に許しを乞うてるんだろ? 人ってのはな、そういうのが一番腹立つんだぞ」

 

「……」

 

「な、なんだよ」

 

 いつまで経っても変わらない真鶴に事の真実の断片を教えてやると、彼女は何も言わずに俺の目を凝視した。その大きな瞳に意識が吸い込まれそうになり、目を逸らして何事かと尋ねると彼女は素っ気ない声で「別に」と言った。

 

「ひねくれ過ぎててダルいね比企谷」

 

「……あのな、流石に俺だってキレる時はキレるぞ」

 

 俺がこうなった原因の中枢に近いお前が、どのツラ下げてそんなセリフを言うのか。

 

「じゃあ私の事殴るの? キレたら何をしてくるわけ」

 

「それは……別に何もしねえけど」

 

「ヘタレじゃん何それダサ。結局昔と変わらないんだね比企谷も。私と同じじゃん」

 

「……っ!」

 

 つい、本当につい、真鶴の言葉が気に障り彼女の胸ぐらを掴んで振り上げて……その顔を殴りつける一歩手前まで感情が昂ぶってしまった。

 しかし、彼女が顔を逸らし、必死に目を瞑って痛みに耐えようとしてる姿を見て、俺は冷静さを取り戻し手を離した。

 

 こいつといると普段の俺からかけ離れたキャラになってしまう。何と言うか、怒りの沸点がやけに低くなるというか。それくらいこいつの事が真の意味で最も嫌いなんだなって理解出来た瞬間だった。

 

 俺はパンの袋をレジ袋に入れ、教室に戻ろうと立ち上がる。すると、背後から落胆したかのような声音で真鶴が言葉を吐き出した。

 

「……殴ればよかったじゃん。何でやめたんだよ、クソ谷」

 

「アホか。俺は博愛主義者だ。それに、お前がわざと殴られようとした事もそれで昔の事をチャラにしようとしてた事も見え透いてたし。そんなんで手を出せるわけないだろ」

 

「チャラにしようとなんかしてない。ただ単に分からないんだよ私には。比企谷の気持ちも、苦しみも、満足する謝り方も。だから……」

 

「だからで続かないだろそれ。だから俺に殴られて、それで何になるんだよ。俺がスッキリするとでも思ったのか? 殴った事に対する反省から許されるとでも思ったのか?」

 

「……」

 

「暴力で解決出来るのはバイキンマンの悪事だけで他の暴力はただの暴力だ。お前の頭ん中はよく分からねえけど、わざと俺を煽って殴った所でお前がした罪への精算にはならないだろ。単に俺に罪が加算されるだけだ」

 

 てか、ここまで身体を張って許されようだなんて一周回って必死過ぎないだろうか。こいつの意識に変化? があったのかどうかはさておき、何故か俺に許しを得ようとしてる姿勢は見て取れた気がした。そしてそれが嘘で、また俺は引っかかる。そこまで予見できた。

 

「はあ、もうここに居辛いし私もう教室戻るわ。じゃあね比企谷、邪魔してごめんね」

 

 またごめんと言った。こいつの謝罪は大安売りだ、大特価セールのような軽薄さのせいでさっきの「ごめんなさい」がネタなのかガチなのかの判断を難しくする。

 

 本当だとしても許す気など毛頭ないが。前提として許す許さない関係なく、このストーカー騒動が終わるまでの短い付き合いなのだから変に環境を変える必要もなし。あいつとの縁はすぐ切れるのだからどうでもいい。

 

 あ、そもそも俺と縁結んでくれる人なんかいないか。八幡号泣したい。

 

「……っ、?」

 

 立ち上がろうと手を階段に乗せた時、手のひらに何かが当たる感触がした。見てみると、そこには飴が一つ落ちていた。真鶴の忘れ物だろう。

 

「後で渡すか。……いや、地面に落ちてたから汚いよな、捨てるのが正解か?」

 

 俺が学校生活で最も重要としている1人の平穏な時間は、厄介事そのものである真鶴によってかき乱され最後には多少悩ませる問題を投下し去って行った。

 なんか今日あいつテンション変だったし、いつもより無駄にスタミナ使った気がするし、早く家に帰って小町にマッサージ受けながらカウンセリングされたい。あ、今の八幡的に超ポイント高い。

 

てかエロいな。小町にマッサージされながらカウンセリング。ゴホンゴホン、妹だったわ。

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