中学時代のトラウマと再会した。   作:聖樹

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08:比企谷小町はごみいちゃん製造機。

「は〜〜〜〜〜〜〜。あぁ〜〜〜〜…………はぁ」

 

「どしたのお兄ちゃん、ゾンビみたいな唸り声上げて」

 

 土曜日、リビングのソファーに寝転びながら呻きを上げていたら小町(こまち)が何事かと顔を見せてきた。

 

「いや〜、一難去ってまた一難とはまた言い得て妙な言葉あったもんだな〜と思ってな」

 

「イマイチ答えになってないんだけど……何か悩みでもあるの?」

 

「鋭いな小町。流石は俺の妹だ」

 

「へっへ〜ん。お兄ちゃんへの洞察力はピカイチだと自負しております! まあ普段他人に洞察されないお兄ちゃんだからこそピカイチの座を維持出来るってのもあるんだけどね!」

 

「小町ちゃん、兄の心を通り魔的に切り裂いていくのはやめようね」

 

「それで、悩みってなんなの? 小町が悩めるお兄ちゃんの為に聞いてしんぜよう」

 

「あ〜、なんつーか、詳しく話すと俺の兄としての沽券に関わるからサブストーリーは端折るんだが、簡単に言うと面倒な奴に絡まれてな」

 

「ほうほう。それは男? 女?」

 

「いきなりする質問じゃないだろ。それに、小町が思ってるような奴じゃない。俺はそいつを心から嫌ってるし、小町だって好きになれるタイプじゃない筈だ」

 

「えー? 小町お兄ちゃんに酷い事する人以外は基本的に嫌いにならないよ。……あ、今の小町的にポイント高い!」

 

 ドンピシャじゃないですか、真鶴と小町は水と油である事が証明されたよ。

 

「で、その嫌いな人ってのは男なの? 女なの?」

 

「女だよ。その質問なんの意味があるんだ……」

 

「いやあ、事と次第によっては小町のお義姉ちゃん候補になる可能性もあるわけだしライバルになる方々に情報は共有しておいた方がいいのかなって思ったり思わなかったり〜?」

 

「なんだお義姉ちゃん候補って……そんな候補今の所0人だし今後もきっと0人だよ。小町は兄を買い被りすぎだぞ」

 

「そういうお兄ちゃんは自分を過小評価し過ぎだよ。小町お兄ちゃんの捻デレは好きだけどそういう自分の存在を蔑ろにしちゃう所はポイント低いからね!」

 

「馬鹿言え、俺は自分を蔑ろになどしていない。人には適材適所ってのがあるんだ。世の理に逆らわず、誰よりも従順であろうという清い心が今の俺を形作ってるんだよ。言わば誰よりも自分を正確に理解しているとまである」

 

「はいはいすごいなー。それで、お兄ちゃんはその面倒な人からどんな絡まれ方をしてこんなにぐでーんとしてるの?」

 

「なんかそいつ興味無い男に言い寄られてるらしくてな。その相手に牽制する為に俺に彼氏役をしろって迫ってきたんだよ、勿論断ったけど。で、色々あってとりあえずそいつと一緒に行動する事になったわけだ」

 

「へえ」

 

「いつまで続くのか分からねえ。しかも何で俺なんかを選ぶのか分からねえこの状況、ストレスがマッハで蓄積されていくわけですよ。先の事考えるともう部屋に引きこもっていたくなる」

 

「その人、女の人なんだよね? それでわざわざお兄ちゃんに彼氏役を頼んできたと。……お兄ちゃん、私の知らない所でも遺憾無くごみいちゃんを発揮してるんだ」

 

「待て。小町、今回のはマジで違うぞ。今回のはごみいちゃん案件じゃない、勘違いしないでくれ」

 

「はいはい、とうとうお兄ちゃんもそんなチャラ男じみた事を言うようになったんですね。その成長っぷりに、小町は感動すればいいのか呆れてしまえばいいのかよく分からないよ」

 

 言いながら小町はリビングを出て階段を上って行った。

 

 本当に違うってのに……真鶴と俺は何かがあるわけじゃない。純粋な敵同士だ、絶対にその関係性は変わる事ない。

 

 ……ふと、マッカンをくれた時の事を思い出すが、たったそれだけの出来事で何かを精算できるわけではない。俺はあいつが見せた僅かな『優しさ』の様なものを頭から排斥し、また唸り声を再開した。

 

 

 ーーーーーーーーーーー

 

 

『でさー、友達が葉山くんに会いたいって言うから総武の文化祭行くつもりなんだけどー、そっちに知り合いいないから真鶴さ、一緒に回ってくんない?』

 

 中学の頃の知り合いである折本(おりもと)かおりが久しぶりに電話をしてきた。

 

 内容は仲町(なかまち)さんって子がうちの学校のイケメンナンバーワンである葉山隼人(はやと)くんとどうにかして知り合いたいという旨の物だった。それで、文化祭共に回って欲しいのだという。

 

「まだまだ先の話じゃん。気が早すぎじゃない?」

 

『そうなんだけどさー、ぶっちゃけそっちの文化祭がいつから始まるか知んないし早めに話つけとこうと思ってさ』

 

「まだ一ヶ月くらいあるんじゃないかな? まあ文化祭一緒に回るのは別にいいよ、けど私葉山くんと別に知り合いじゃないからね?」

 

『え、マジ!? てっきり知り合いかと思ってた! 葉山くんがよっぽどのイケメンなら自分に釣り合いそうな可愛い子に手当たり次第声掛けるもんでしょ!?』

 

「うーん、そういう人なのかよく分からないけど、この学校何故か異様に美人多いからなあ……私なんか霞んじゃってるし」

 

『真鶴が霞むってやばいなー、相当レベル高いじゃんウケる! そこら中美男美女が闊歩してるとかどんな学園ドラマだよって!!』

 

「いや美男美女が闊歩してるわけじゃないけど、上がずば抜けてるってだけだよ。……あ、そうだ。比企谷なら葉山くんと同じクラスだし知り合いかもよ」

 

『えっ、比企谷?』

 

 特に意識もせずに放った呟きに、折本が反応した。

 

 折本はブハッと一度吹き出し、笑いをかみしめる事なく嬉しそうな声音で話題を転換する。

 

『比企谷とかチョー懐かしいんだけど! あいつ総武高だったんだ、マジウケるんだけど!!』

 

「そ、そっか」

 

 何がウケるのだろう。

 

 あははー、と笑って返すけれど、正直ウケるかどうかはさておかせてもらう。流石に比企谷がどこどこにいるっていう話でウケる要素は皆無だと思うし、最近あった事とこれからを思えばまあ、あいつを笑う気にはならなかった。

 

『てか比企谷と葉山くんが同じクラスだったとしてもタイプ違いそうだし絡まなくない? 葉山くんって爽やかイケメンなんでしょ?』

 

「ん? んー……どうだろね。でも最近の比企谷、可愛い子と対等に話したり守ってもらったりしてるから案外葉山くんと近い立ち位置なのかなーとは思うよ」

 

『え、あの比企谷が女の子と対等に!? なにそれ見てみたいんだけど!!』

 

「文化祭まで我慢しな。それまでは……忙しそうだから」

 

 というか、これから比企谷を利用しようってのに折本なんかに介入されて話をややこしくされるのが嫌だった。

 

 少なくとも問題が解決するまでは誰も比企谷の、ひいては私の邪魔をしてほしくない。なので今は折本が総武に近付かないようしておかなくてはならない。

 

『えー面白そうなのになあ。あの比企谷の変わりっぷりを見てみたいだけなんだよーう』

 

「今は多忙な時期なんだって」

 

『そう? ならしょうがないけどさー……』

 

 折本は物分かりが良く、真剣に頼み込むとあっさり引いてくれた。

 

「まあ文化祭の件は分かったよ、それまでになんとか葉山くんと仲町? さんが話せるよう手を回しとく」

 

『ありがとね! 真鶴、やっぱり良い子だなあ〜』

 

「あはは……じゃ、私もう寝るから」

 

『うん! じゃね〜』

 

 ピッ。電話切ると、スマホの画面の上の方にSNSの通知が出たのでそれを開く。送り主は私を最近ストーカーしてる植木(うえき)先輩だった。……知っていた。

 

 長い時間考えたであろう連投で紡がれる文章。それに対し私はただ淡白に『はい』『そうですね』『そうなんですか?』などと一定の言葉のみで返す。それなのに相手からは必死にメッセージが送られてくる。

 もう面倒くさすぎる。

 

 でも、それももうすぐで終わる。それも私が輝く、最高の形で。

 

 もう少しだけの辛抱だ。駒は揃ったし、準備は万全だし、後は先輩に私と比企谷の姿を見せつけて、爆弾を一個投げるだけで全てが終わる。

 

 私はスマホを置き、電気を消してベッドの上に寝転がり目を閉じる。

 

 ……私が良い子とか、中身を見てなさすぎでしょ。と、折本の言葉に対し今更返す言葉が浮かんできた。自分で自分にうっさい、とツッコミを入れたくなるような自己嫌悪でなんか無性に腹が立った。

 

 これ絶対比企谷のせいだ、そうとしか考えられなかった。

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