チャイムが鳴り四限が終わると、離れた席に座っていた友人の
「ん〜疲れた〜。弓弦ちゃん、ご飯食べよー」
遥の声を号令に他の女子達も集まってくる。このクラスで私が所属する、一番地位の高いグループの女子達だ。
「はーまぢ月曜は憂鬱だわ体いつもより重いもん」
「わかるー。なんかもういっそ月曜も休みにしてほしいわ」
「それなー、まぢそれ」
口々に話しながら周囲の机をくっつけて各々昼食の準備を進める。
そんな中、私の対面に座っている遥が何の用意もしない私に気付き声を掛けてきた。
「? 弓弦ちゃん、ご飯食べないの?」
「んー、食べるよ。食べるんだけど……」
言葉を濁しながら教室の戸の方に目を配らせる。
先輩がもし来てて、私を見てるのなら比企谷の所まで行ってあいつと一緒に食べる。気乗りはしないが、そもそも先輩に勘違いさせてアクションを起こしやすくしておかないとならないから仕方のない事だ。
「弓弦っち、どしたん?」
「あのキモいストーカー先輩が来てないか警戒してる」
「あー、植木って人?」
「まだストーカーしてんのあの人? 警察に注意されたんしょ?」
「でもでも、ストーカーって警察に注意されたりしたら余計逆ギレして危ない事するとか聞くよ?」
「うえーこっわ! てかキモ! ウケる!」
「ウケないってーの。別の友達が頭に浮かぶからやめろし。わら」
「……あっ、弓弦ちゃんあっち! いるよあの人!」
遥が何かを発見し逆側の戸を指差すと、そこには植木先輩が立っていてこちらを見ていた。
その手にはコンビニで買ったと思われるレジ袋がぶら下がっている。先週お菓子でご機嫌を取ったからって今日早速一緒にランチ出来るとでも思ったのだろうか。気持ち悪い。そもそもあのお菓子妹に上げたから私一口も食べてないしご機嫌取れてないから。
「私場所変えるわ。遥、付いてきて」
「え? いいけど、どこ行くの?」
「F組」
「F組? 相模さんがいるクラスだ」
「友達?」
「ううん、友達の友達的な? ゆっこと仲良い子で夏休みに一緒に遊んだ子」
「へー」
F組といえば葉山くんってイメージあったんだけどそっちは出てこないんだ。まあ葉山くんってサッカー部の葉山くんって感じが強いからクラスとかは知らないのかな。
ちなみにゆっこっていうのは私と同じ女子バスケ部の友達だ。友達というか、遥の友達だ。つまり友達の友達、遥から見た相模さんみたいなものだ。
「でも今外出たら植木先輩に声掛けられんじゃないのー?」
「そーだよ、2人とも今出るのは止した方がいいんじゃない?」
「大丈夫だよ。一応牽制も兼ねてるからむしろ来てくれた方が都合良いし」
言いながら、遥を連れて教室を出る。そしたら当然植木先輩がこっちに来るわけだが、私は先輩がすぐ近くまで来るのを嫌って間に遥を立たせ、その後ろから『強く出れない自分』を作り上げる。
「真鶴さん! あの、良ければなんだけど今日一緒に」「ごめんなさい……私、今から比企谷くんと食べるので」
「へっ? ……比企谷くん?」
「あっ、わ、忘れて下さい!」
わざとらしく、焦った風に見せかけて先輩にやらかした、と言ってるかのように主張して見せる。先輩は想定通り、私が他の男子にうつつを抜かしてると誤解してくれたようで拍子抜けな表情のまま固まった。
「あの、とにかくごめんなさい。……あんまり待たせると悪いので失礼します!」
ぺこりと頭を下げ、遥の耳元に小声で「行くよ」と囁く。
最初のインパクトはこれくらいでいいだろう。先輩に私と男の影をチラつかせる。そうすれば、先輩は私が誰とどこで何をしてるのか気になって私に気付かれないようにコソコソと後をつけるはずだ。
「ねえ、比企谷って誰? 彼氏?」
「彼氏じゃない。同中の知り合い」
「へー。ただの知り合いなのに盾役なんかしてくれるんだ」
「色々あったんだよ。……そんな期待に満ちた目をされても困るんだけど」
「その色々が知りたいのですが」
「別に楽しい話なんかないから。あっ、比企谷くんっていますかー?」
F組に着いたが、比企谷が前座っていた席には別の女子が座っていて比企谷本人がいなかったので、前話しかけたロン毛でカチューシャの男子に声を掛けた。
「うおわっ、前の子じゃん! またヒキタニくん探しに来たんだ!」
「? 前来た泣き虫女じゃん。またヒキオにちょっかいかけに来たわけ?」
「わっ、葉山くん!? 葉山くんだ!」
三者三様、カチューシャ男子に話しかけたはずなのに彼の返答に対し二者の声が重なった。
一つは隣に居た遥で、遥は葉山くんに挨拶をしてついでに「相模さーん」って手を振り上げてる。
もう一つは……前回私にヨーグルッペとかいう聞いた事ない乳酸菌飲料を注文して来た金髪ギャル。今回は睨まれてはないものの、高圧的な態度には変わりないのでやはり気圧されてしまう。
「ちょっかいをかけに来たわけじゃないんだけどな。フツーに比企谷とお昼食べようと思って来ただけだよー」
「ヒッキーとお昼?」
私の言葉に、金髪ギャルの隣に居た茶髪ギャルが反応した。……てかこの人奉仕部に居た人じゃん。名前なんて言ったっけ。ゆい、ゆい……ゆいがわら? 覚えてないや。
「そう、ヒッキーとお昼。ぷっ、ヒッキーってあだ名面白いね!」
「どうも……」
「あはは、でさー、比企谷が今どこにいるか知らない?」
「ど、どこかなー、ヒッキーいつも1人で食べてるから分からない」
「ヒキオならさっき特別棟の方n」「あーそういえば優美子喉乾いたって行ってたよねたまには一緒に買いに行かないって思ったけどアタシそろそろゆきのんの所に行かないとだったたまには一緒に行ってみよっかそうしよう!」
金髪ギャルが喋っていた途中でその口を強引にゆい……さんが手で塞ぎ、強引に引っ張ってくのかと思えば金髪ギャルに力負けして1人で教室を出て行った。
教室を出る寸前、ゆいなんたらさんは金髪ギャルに何かメッセージ性の強い視線を送っていた。そして輪の中に戻って来た金髪ギャルさんは、私を疎ましく思ってるような顔で「そろそろ消えたら? 邪魔」と言ってきた。
……どうやら、あのゆいなんたらさんは私から比企谷を隔離してるらしい。むかつく。
だが金髪ギャルは確かに「特別棟」という単語を出した。なら、そっち方向に行けば比企谷に会える事は間違いない。
「はあー、まいっか。探すのめんどくさいし」
「あら、諦めるの?」
「んー。先輩には比企谷の名前出しといたし牽制には十分っしょ。ぶっちゃけそんなにあいつとご飯とか食べたいわけじゃないし」
「わー、ドライだなー」
「ドライとかウェットとか以前に何も無いんだって」
他愛もない話をしながら教室に戻る。その途中、廊下の窓から見える景色、テニスコートが近くにある場所で、なんか比企谷らしき人物が1人で歩いているのが見えた。
探す気力を失くした瞬間に見つけるとかどんな因果だよ。とそう思ったが、もしこの場を先輩に見られたりしてたら、むしろこれって美味しいよなって思ってしまった。
「遥、先に戻ってて」
「え、弓弦ちゃんは?」
「比企谷見つけたからそっち行く」
「え、本当!? どこにいるの、比企谷って人!」
「目を光らせて探さないでよ、遥がイメージしてるような人じゃないから。絶対」
「えー」
ぷんすかぷんすかしている遥を無視し、私は小走りで階段を下る。途中、自販機で飲み物を買っていた雪ノ下さんが目の隅に移った。あちらは私を見て見ぬ振りをしたのでむかついたが、どうせよく分からない言葉責めをされるのがオチなので放っておく。
「真鶴さん、待ちなさい」
見て見ぬ振り、をされたと思ったんだけど。なんか雪ノ下さんに呼び止められた。
「わっ、雪ノ下さんいたんだ! どうしたのー?」
「気付いてたくせに変な芝居打つのやめなさい。それに、貴方そんな喋り方じゃなかったでしょう、いつもの喋り方に戻しなさい」
嫌だわ、周りにはこっちの私しか知らない人とかいるし。
「いつものって、別にいつも通りだけど? てか雪ノ下さんとそんなに話したこと無いのに私のキャラとか分かんなくない?」
「……まあいいわ。真鶴さん、貴方今からどこ行くの?」
「比企谷くんの所だけど?」
私が明確に男子の名前を出した事で私の表の顔しか知らない勢の人らが盗み聞きに意識を集中させ始めたのが分かる。
「貴方、まだ比企谷くんに面倒を掛けさせてるの?」
「人聞き悪い言い方しないでよ。別に私が誰と一緒にお昼食べようが勝手じゃん」
「そうではなくて。貴方は比企谷くんと食事をするのが目的なのではなく、変な脅しやからかいをするのが目的なのでは無いかしら」
「そんな事」「屋外で1人で食事をしてる比企谷とお昼を共にしたいのなら、前もって連絡なり約束なりするはず。それをしなかったという事は比企谷くんから拒絶されていて、それでも一方的に近付きたいからこんな事になってる。そう私は推理したのだけど」
「流石に考えすぎだよ。そんなに深い意味とか無くて、ただ単に今気まぐれで一緒に食べたいなって思っただけ。じゃ、もう行くね」
「待ちなさい、話はまだーー」
うざいから制止の声なんか聞かず雪ノ下を無視して走る。
なんなんだあの人。比企谷が絡むと一々突っかかってきて鬱陶しいな。雪ノ下雪乃、やっぱりあいつの言う言葉には頭が痛くなるし手数でまくし立てて丸めこようとしてくるから嫌いだわ。