やはり俺の○○委員会はまちがっている。 作:フリーダムrepair
ご意見ご感想、好きな告白実行委員会キャラや出して欲しいキャラクター等ありましたら、お気軽にコメント頂ければ幸いです。
帰りのHRは出走前のゲートに似ている。放課後を告げるファンファーレを合図に、教室中の動物たちが動き出すからだ。
だが、ここにいるのは選び抜かれたサラブレッドたちじゃない。馬にロバに子豚にタヌキにキツネに猫、一富士二鷹三茄子、まあ、とにかく。みんな違ってみんな争う異種族格闘技戦の会場を呈しているのが教室という空間だ。
ざわざわとしたさざ波のような小さなおしゃべり声は狼の遠吠えやカエルの鳴き声にも聞こえる。
かくいう俺もさっきからケロケロけぇろーけぇろーと心中で泣いている。
そんなHRを終えて教室を出た俺を待ち構えていたのは明智先生だった。
白衣を翻し、出席簿を片手に立つ姿はさながら死亡解剖のドクターのようである。もうなんか手術着でも着せてメスでも持たせたら似合うんじゃないかと思う。
「はい、比企谷君。部活の時間です」
そう言われて血の気がサーっと引くのがわかった。やべぇ、連行される。
その証拠に、バカ丁寧に君づけして俺を呼んでくるところ辺り俺の危機管理センサーが反応している。
だが、明智先生はそんなことを斟酌するわけもなく、にこりと無機質な笑顔を向けた。
「行くぞ」
ふええ…俺に選択権がないよう…
しかし、ここはガツンと言ってやらなければならない。
「あのですね、思うんですが生徒の自主性を尊重し自立を促す学校教育という観点から考えても、こうやって強制されることに異議を唱えたいのですが」
「残念だが、学校は社会に適応させるための訓練の場だ。社会に出れば君の意見など通らない。今のうちから強制されることに慣れておきなさい」
ぽん、と優しめに出席簿で叩かれた。
…やっぱり社会とかダメだな。これはやはり専業主夫しか道は無いと見た。
はぁ…と一つため息を吐く。
ええ…やっぱり行かないとダメかなぁ…というかあの部活なんなんだよ。
「あの、別に逃げたりしないんで一人で大丈夫ですよ。ほら俺いつも一人だし。一人全然平気。むしろ一人じゃないと落ち着かないレベル」
「ふむ…まあ、そういうな、俺が一緒に行きたいんだよ」
ふっと先生が優しげに微笑んだ。
「お前を逃して後で歯噛みするくらいなら、嫌々でも連行した方が俺の心理的ストレスが少ない」
「理由が最低ですね!」
「何を言う。ぶっちゃけ面倒だが、君を更正させるためにこうして付き合っているんだぞ。美しい師弟愛というやつだ」
「これが愛なら愛などいらないです」
「さっきの言い訳といい、君は本当に捻くれているなぁ…もう少し素直な方が可愛げがあるぞ。世の中を斜めに見ても別に楽しくはないだろう?」
「楽しいだけが世の中じゃないですよ。楽しきゃいいって価値観だけで世界が成立してたら全米が泣くような映画は作られないでしょ。悲劇に快楽を見出すこともあるわけだし」
言うと明智先生は呆れたようにため息を吐く。
「…君くらいの年齢にはありがちな考えだとは思うが…君は典型的だな。捻くれていることがカッコいいと思っていたり、変に悟った雰囲気を出しながら捻くれた理論を持ち出したり…一言で言って嫌な奴だ」
「嫌な奴って…くそっ!だいたい合ってるから反論できねぇ!」
「まあ、君のような生徒は見ていて面白いよ。最近の生徒は実に器用に現実と折り合いをつけてしまうからね。教師としては張り合いがない」
「最近の生徒は、ですか」
俺は思わず苦笑してしまった。出たよ常套句。
とまあ、俺がうんざりして軽く論破の一つでもしてやろうかとすると、明智先生はじっとこちらを見てから肩を竦めた。
「ま、頑張りなさい。若人よ」
……。
明智先生は俺の肩にポンと軽く叩くと並んで歩き始めた。
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部室付近まで来ると流石に逃げる心配はしなくなったのか、先生はようやく解放してくれた。
去り際にちらちらとこちらに視線を送ってくる。勿論別れが名残おしいとかそんな優しげな感情はどこにもなく、「逃げたらわかってるだろうな」という殺意だけがびんびんと伝わってきた。
俺はそれに苦笑しながら廊下を歩く。
部室の付近はしんと静まり返り、ひんやりとした空気が流れていた。
他にも活動している部活はあるはずなのに、その喧騒もここまでは届かないらしい。
この部活のことを先程、明智先生に聞いてみたところわかったことが3つある。
一つは、この部活は俺と入れ替わりに卒業した先輩が校長を脅し…もとい説得して創設したということ。
二つ目は、この部の正式な名前は決まっておらず、本来は平塚先生(現代文教師)が顧問であり、件の先輩が卒業すると同時に明智先生に引き継ぎさせられたということ。
三つ目は、活動内容は、他者の依頼を聞き、困っている人に奉仕活動することが目的である。
所謂ところの俺が以前中学時代に所属していた奉仕部に似た活動内容であるということ。
…いやいやいや。色々とおかしい。
そもそも奉仕活動という言葉はろくなもんじゃない。
奉仕なんて言葉は日常生活で出てきていいものではなく、より限定的な状況下でのみ使用が許されるものだと思う。
例えば、メイドさんがご主人様にご奉仕とか。そういうご奉仕ならウェルカムだし、レッツパーリーなわけだが、現実にそんなことはあるわけがない。いや、一定料金払えばできる。また、この金を払えばなんとかできてしまうあたり、夢も希望もあったもんじゃない。とにかく、こういう奉仕系なんてダメなものだ。
それに加えてこれは部活であると来たもんだ。…また、中学時代のような奉仕活動系に決まっている。
はぁ…とため息をつき、部室の扉を開けようと手を掛ける。
正直気が重いが、かといって逃げるのも癪にさわる。
不可抗力という言葉があるように、世の中にはどうもしようの無い事態や動かさない状況というのもあるのだ。
…ああ、いやでも、そういや、一人だけそんな状況を根本から変えたヤツがいたな。
もう、三年も前の話で、些細は覚えていない。
ただ、1人の少女を狙ってクラスの男女が無視、迫害、チェーンメール…所謂イジメを行なっていたクラスがあった。
中学生のイジメだ、キッカケなんて些細なものだっただろうし、もしかすれば無かったのかもしれない。
そんなクラスのイジメが堂々と行われていた為もあって教室は悪意に満ちた空気が流れていた。
そんなある日、教室の扉が思いっきり開けられると、そこにいた人物が叫んだ。
''このままじゃ、ダメだって!!''
あれは…いや、その言葉や人物はともかく。悪意そのものはその日を境に、とは言い難いが、少なくともイジメの的になっていた少女はその日から目に見えてイジメられはしなくなった。
まあ、あの時の状況と今の状況を比較するのは相当おこがましいと自分自身でもそう思うけどな。
部室の扉を開くと、高見沢は昨日とほぼ同じ位置で雑誌をペラペラめくっていた。
「……よう」
戸を開けたはいいものの、何と声をかけていいのかわからない。
とりあえず、気持ち挨拶して彼女の方へ進む。
高見沢はこちらをちらりと見ると、体をこちらに向けた。
「こんにちは、比企谷君」
機械的ではあったが挨拶を口にすると、高見沢はにっこり微笑んだ。
たぶん、これが高見沢アリサが見せた初めての笑顔。笑うと口元にえくぼができるとか、少し八重歯が覗くとかそんなどうでもいい知識を得てしまった。
…正直、その笑顔は反則だと思う。それはもうマラドーマの神の手クラスの反則。要するに、最終的にはこの部活のことを認めざるを得ないんだけど。
…しかしまあ、こんなワケの分からん部活に顔出すとか、コイツも暇だな。友達とかいないのか?
「…なんだか、とても失礼なことを考えられてる気がするんだけど」
高見沢はジトーと目を細めて睨んでくる。
や、なんなのこの子、エスパー?
「ああ、いや、今日もこんなワケの分からん部活に来てるんだなっと思ってな」
「そりゃ来るでしょ、部員なんだし」
ああうん、まあ、そうなんだけどね?
「いや、ほら、こんな活動してるかしてないか分からんような部活な訳だし、別に毎日来なくちゃいけないような活動もしてなさそうだから、来てないかなと」
「…まあ、他にすることもないから…」
何か悲しいことを言われた気がする。
そう言う高見沢の視線は明後日の方向に向けられている。おかげで顎から首にかけてのなだらかなラインが綺麗だなとか死ぬほど無駄な知識が増えた。
その様子を見て俺は1つの考えに至る。
いや、でもな。一応、聞いておくか…。
「なあ、お前さ、友達いんの?」
俺がそう言うと、高見沢はふいっと視線を逸らした。
「…そうね、まずどこから友達なのか教えてもらっていい?」
「あー、うん、もういい、わかった」
それは友達がいない奴が友達の定義を聞くときに使うセリフなのである。
ソースは俺。
まぁ、でも真面目な話、どこからどこまでが友達かなんて分からないよな。知り合いとどう違うのかそろそろ誰かに説明してもらいたい。
一度会ったら友達で毎日会ったら兄弟なの?ミドファドレッシーソラオ?なんでオだけ音階じゃねーんだよ。そこまでこだわれよ。
そもそも、知人友人の差異を表すときの言い回しがこれまた微妙なんだよな。特に女子の場合だとそれが顕著だ。同じクラスの人間でも、クラスメイト、友人、親友みたいな感じでランク分けされている気がする。じゃあその違いはどこから来てるのかって話だよ。
閑話休題。
「っつーか、お前、見た目もいい方だし人に好かれそうなくせに友達いないとかどういうことだよ」
俺が言うと高見沢はむっとする。それから少し不機嫌そうに視線を外してから口を開いた。
「いないなんて言ってないでしょう?もし仮にいないとしても別に困らないし…」
心なしか頰を膨らませて、そっぽを向く高見沢。
そりゃまあ俺と高見沢は全く違う人間だし、彼女が考えていることなんて微塵も分かりはしない。聞かせてもらったところでそれを理解するのは難しいだろう。
どこまでいっても結局は人と人は理解し合えない。
だか、こと、ぼっちに関してだけはおそらく俺は高見沢を理解できる。
「まあ、お前の言い分はわからなくもないんだ。1人だって楽しい時間を過ごせるし、むしろ、一人でいちゃいけないなんて価値観がもう気持ち悪い」
「………」
高見沢は一瞬俺の方を見たが、すぐに顔を正面に戻して目を瞑った。何かを考えている仕草にも見える。
「好きで一人でいるのに勝手に憐れまれるのもイラッとくるもんだよな。わかるわかる」
「…なんだか勝手に同意されてることが少し腹立たしいんだけど」
そう言って苛立ちをごまかすようにツインテールを振るう高見沢。
「まあ、私と貴方とじゃ程度は違うけど、一人でいるってことは同じなのかもね、ちょっと癪だけど」
最後にそう付け足して高見沢は自嘲気味に微笑んだ。どこか仄暗い、けれども穏やかな笑みだ。
「程度が違うってどういう意味だ…ひとりぼっちにかけては俺も一家言ある。ぼっちマイスターと言われてもいいくらいだ。むしろ、お前程度でぼっち語るとか片腹痛いよ?」
「なに…この悲壮感たっぷりの頼り甲斐…」
高見沢は驚愕と呆れに満ちた顔で俺を見た。その表情を引き出したことに満足感を覚え、俺は勝ち誇ったように言う。
「人に好かれるくせにぼっち語るとかぼっちの風上にも置けねぇな」
高見沢は少し考えるような間を取ると、口を開いた。
「…そうかもね、だけど、私、好きなものは好きって言いたいのよ。だってそうでしょ?嫌ってばかりじゃつまらないもの。」
真っ直ぐに向けられた高見沢の視線に逆に逸らしたくなりつつも彼女は続ける。
「胸を張って、これが『私』って誇れるような自分になりたい。学校なんて狭い世界の中で、縮こまったままどこにも行けないなんてつまらないじゃない。世界はこんなにも広くて、どこにでも行ける。だから、私は自分の気持ちに正直でありたいのよ」
高見沢の目は本気の目で、真夏の太陽みたいな熱に火傷しそうだ。
「…そうかい。俺にはそこまで強い奴のことはわかんねぇけどな…人は、そんなに強くねーだろ」
「そうよ。まあ、私は比企谷君の…そうやって弱さを肯定してあげられる部分、嫌いじゃないけどね」
そう言って、高見沢はふいっと窓の外に目をやった。
俺が言うのもなんだが、高見沢アリサは不器用な生き方をしてると思う。
傍目には整った顔立ちで、コミュ力がないという、わけでもない。
しかし、自分を信じ、自分に正直に生きるというその生き方は嘘を許容しない茨の道のような生き方だ。
きっと彼女だって、協調して騙し騙し、自分と周りをごまかしながらやっていくことは難しくないはずだ。世の中の多くの人間はそうしているのだから。
勉強が得意な人間がテストで良い点をとってもマグレだヤマが当たっただの言うように。
美少女がブスにひがまれたら皮下脂肪が最近どうのと自分の醜さを主張するように。
けれど高見沢はそれをしない。
自らに決して嘘をつかない。
その姿勢は、きっと誰かに共通している。
高見沢は苦笑しながら雑誌のページをめくった。
そこに写っているのは1人の読者モデル。
ファンなのだろうか、ページの先端には折り込みがされていた。
それを見て、俺は不意に妙な気持ちに囚われる。
きっと高見沢と''彼女''は似ている。
もしかすると高見沢は''彼女''の影響を受けたのかもしれない。
少しだけ、自分の鼓動が速くなるのを感じた。心臓の刻む律動が秒針の速度を追い越してもっと先へ進みたいと、そう言ってる気がした。
なら、なら俺は。
「なぁ、高見沢、お前…」
俺が口を開いた瞬間、じーっという下校を知らせるチャイムがなる。
「あ、もう下校時刻?…?比企谷君何か言った?」
「…いいや、別に、何も?」
あっぶねえ!!何か気持ち悪いことを口走りそうになっていた。
そう、例えば…友達になって下さい。とかな?1週間で記憶がリセットされるわけでもなし、そんなことすれば一ヶ月は俺、自分の家で引きこもってしまうこと請け合いである。
俺にそんな青春展開は不要である。ラブコメとか友情・努力・勝利とか爆発しろ。
…もうね、ハートどろか文章自体が壊れてるって主張してる。
ひょっとすれば次に出てくる告白実行委員会(以下実行委員会)キャラは、カンの鋭い人なら予想出来そうだなぁ…
あ、一応言っておくといくら実行委員会でも読モの子じゃないです。