私は驚いた。何に驚いたかって云うと、私とほぼ変わらない服装をして現れた敦さんに。違う点があるとすれば、其れは目の色だけ。他は全部同じ。髪型も服の色も、靴も、全部。まるで、目の前にもう一人の私がいるみたいで。
「敦さん・・・ですよね?」
「そ、そうです。」
如何してこうなったのか、私には分からない。急に太宰さんが敦さんを連行して、十数分後に二人が入った部屋から黒髪のセーラー服を着た、私と同じ位の歳の女の子が出てきて此方にニコッと笑みを浮かべれば、「兄様ぁぁぁぁっ!」と叫び乍ら、橙色の髪で少し大きめのシャツを纏った青年に突進していって・・・・・・。其れを国木田さんは「気にしないでください。何時もの事なんで。」って仰られて・・・・・・。あれが何時もの事・・・・・・。お兄さん、只者ではないな・・・・・・。否、此処の人達は皆そうだろう、なんて考えつつ、又数分後、今度は太宰さんが現れた。其れに次いで敦さんも姿を現せば、是の姿。しかもか、顔が真っ赤になっていて・・・。よし、何があったのかは触れないでおこう。
「えぇっと、取り敢えず、先程の話が途中で切れた・・・・・・と云うよりも、此方が勝手に切ってしまったので、続きから話して頂きますか?」
「あ、はい。えと、先程話した手紙に似た様なモノが其れからほぼ毎日来るようになりました。ある日は、『獣の姿に変化できるようになる』、又ある日は、『武装探偵社で一寸した事故が起こる』とか。」
ガタンと机を叩いて勢いよく敦さんが立ち上がる。そして、こう云った。
「えっ? 其れって前の事なのでは・・・?」
「そうだと思います。だけど、私の考える事故と貴方方の考える事故は恐らく別物です。」
「と、云いますと?」
国木田さんが聞く。私は少し間を開けてから、口を開ける。
「恐らく、『事故』と云うのは、
「えっ・・・?」
戸惑いの表情を見せるのは敦さんと国木田さん。敦さんは声に出たけど、国木田さんは出ていなかった。
「何故そう考えるのですか? 私と貴女がぶつかった事ではなく、何故、私が医務室で貴女に触れた事なんですか?」
そう聞いてきたのは太宰さんだ。全く納得していない、そんな顔だった。
「先ず、私が貴方とぶつかった時、貴方方には見えていた筈です。フードの下から見えた、黒い耳が。でも、消えてなかった。だから、あれは事故ではないです。だけど、医務室で触れられた時は消えた。だから、そうなのでは・・・と。」
「成程、確かにそうだな。確かに太宰はあの時、楓香さんに触れていた。なのに、耳は取れていなかった。ならば、其れは事故ではないと考えられる。」
国木田さんが唸り乍ら呟く。
「そ、そういう事ではないかって予想なので、本当にそうかは分かりませんけど・・・・・・。えと、私からの依頼は其のストーカーの確保と何故私をつけるのか、調べて貰いたいんです。ちゃ、ちゃんと、お金は払いますので・・・お願いしますっ!」
私は立ち上がって三人に向かって深く頭を下げる。三人は目を見合わせた。其れから、
「其の依頼、引き受けます。まぁ、僕がこの恰好の時点で引き受ける事は予想出来てましたけどね。あ、それと頭を上げてください。」
敦さんが苦笑を交え乍らに云う。否、其れよりも本当に如何してそんな恰好なされているのですか、敦さん・・・・・・。
「取り敢えず、我々が行う事は至って簡単だ。先ず、敦君は楓香さんの見替わりとして、出動して貰う。楓香さん、彼の携帯に家までの地図か何かを送って貰えますか?」
「あ、はい。一寸待って下さい・・・・・・。出来ました。」
太宰さんに言われた通り、私は自宅迄の道のりを敦さんの携帯に送る。敦さんは携帯画面でちゃんと来たかを確認して無言で首を縦に振った。その目は決意の色を秘めていた。
「それと、楓香さんには犯人が捕まる迄、探偵社の社員寮に居てもらいます。私と国木田君は敦君と程良い距離を取って、彼をつける奴を見つけ次第、捕獲する。いいね?」
「問題無い。」
太宰さんが国木田さん目配せをする。された国木田さんは其れに答える。
「楓香さんも大丈夫ですか?」
「あ、あの、私は其のストーカーが捕まる迄、一人・・・・・・ですか?」
正直に云えば、其れは迚も不安でしかない。其の意図を汲み取ったのか、太宰さんは「谷崎君、ナオミちゃん。一寸来て貰えるかーい?」と云う。すると、先程の黒髪セーラー服の女の子とその女の子に突進されてたお兄さんが現れた。多分セーラー服の子が「なおみちゃん」で、お兄さんが「たにざきくん」だと思う。
「如何かしたンですか?」
「谷崎君、ナオミちゃん。君達に頼みがある。彼女、今回の依頼者である橘楓香さんを少しの間、守っていてほしい。」
「へ?」
そんな間抜けな声が出たのは私の口。是の人は今何と?
「別に構わないですけど、一体誰から守るンです?」
「彼女を付け狙うストーカーだよ。」
「「ストーカー!?」」
たにざきさんの問いに太宰さんが答えれば、呼ばれた二人は息を合わせて叫んだ。直後、なおみさんは私の方を向いて、ガシッと手を取ってきた。
「ストーカー被害と分かれば、反対なんてしません! 勿論お守り致しますわ! ねぇ!兄様!」
「あ、嗚呼。勿論、守るよ。」
なおみさんの剣幕にやや押され気味だったけど、たにざきさんも同じ意見の様だ。
「あ、有難う御座います。あの、お二人の名前を教えて貰ってもいいですか?」
「嗚呼、ボクは谷崎、此方は妹のナオミ。よろしくお願いします、橘さん。」
「ふ、楓香でいいです。此方こそよろしくお願いします。」
それにしても、ナオミさんは谷崎さんを兄様って呼んでいたけど、そうは見えない・・・。ん? 何か視線が・・・・・・。国木田さんと敦さんが「それ以上其の事について考えるな」って目で見てくる。よくは分からないけど考えない方がいいのだろう。屹度それが最適解なのだと思う。・・・最適解ってまるで『あの人』みたいではないか。まぁ、私と『あの人』の思考回路は全くの別物なのだが・・・・・・。
「よし、挨拶も済んだ様だし、早速作戦を開始しようか。」